説明

油水分離方法、それを用いた水再利用方法、およびそのシステム

【課題】ビチュメン生産の油層内回収法における加温含油水の油水分離に特有の課題に鑑み、従来のような多段にわたる煩雑な工程や特殊な設備によらず、しかも取り扱い性及び運転管理性が良く、加温された含油水の高度な油水分離を可能とし熱ロスを低減することができる油水分離方法及びそのシステム並びにそれらを用いた水再利用方法を提供する。
【解決手段】オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出し、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜で処理する油水分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法における含油水の油水分離方法、それを用いた水再利用方法、並びに油水分離システム及び水再利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の1つであるオイルサンドから回収されるビチュメンは、これまで予備的ないし次世代の代替資源としてしか見られてこなかった。しかし、ビチュメン自体は質的に劣悪であっても、そこから得られる製品は原油から得られるものと十分競争力があり、コストにおいても原油代替の可能性が高まってきた。またカナダオイルサンドは、サウジアラビアの原油に匹敵するほどの圧倒的な埋蔵量を誇っており、例えばカナダ国アルバータ州およびその周辺地域における炭化水素埋蔵量は世界のトップクラスである。そして何よりカナダは中東やアフリカなどの地政学的に不安定な地域と異なり投資リスクが極めて低い。エネルギーの安定した供給源の確保は資源に乏しい我が国を始め各国において極めて重要な課題であり、この観点からも今日の貴重な石油資源の供給地域として位置付けられるようになってきた。
かかるオイルサンドからのビチュメン生産において、近年、露天掘りでは開発が難しい深度に存在するものにも目が向けられ、この採収を可能にするSAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)法、CSS(Cyclic Steam Stimulation)法といった油層内回収法が注目され、精力的にその技術開発がすすめられている(非特許文献1)。
【0003】
油層内回収法では、オイルサンド層内にある常温では流動しない高粘度の油に対し高温スチームを圧入することにより、加熱して油の粘度を下げ、このスチームが凝集した高温水と油とを回収する。そのため大量の高温スチームを造りだすための「水」が必要となる。例えば、後述するSAGD法ではスチーム生成のため油生産量の約3倍の水を使用する。他方、カナダにおいては州の厳しい環境基準により利用可能な取水量が制限されるほか、十分な容量を持つ廃水圧入層が近傍に存在しないため、水のリサイクルは必須となっている(非特許文献2参照)。
【0004】
上記ビチュメンの生産に使用させる水のリサイクルのため、従来下記のような手法が取られてきた。まず従来法のフロー(1)について説明する(図8参照)。油層内回収法で地中(オイルサンド層1)から回収されたビチュメン混合流体20Aは、ノックアウトドラム(Knock Out Drum)やトリーター(Treater)などのセパレータ(Separator)2で処理されビチュメン3が取り出される。その後、これと分離された含油水(生産水(Produced water)と呼ばれることもある。)は冷却器4で所定温度に冷却されたのちスキムタンク(Skim Tank)5、インデュースガスフローテーション(Induced Gas Flotation)6、ウォルナットシェルなどを用いたオイルリムーバルフィルタ(Oil Removal Filter)7、デオイルドタンク(Deoiled Tank)8という流れで、油分を分離除去し、従来の処理水20D’を回収する。この方法における油水分離は、基本的には油と水の比重差を利用した重力分離である。なお図8中の囲みの中に記載された「T」はその部分での流体の温度であり、「Oil」は油の含有量である(これは、図1、図9においても同様である)。
【0005】
その後段で処理水20D’は、ライムソフナー(Lime Softener)9、アフターフィルタ(After Filter)13、ウイーク・アシッド・カチオン・ソフナー(Weak Acid Cation Softener)11という流れで硬度成分を除去し、ボイラ供給水20Cとしてワンススルー式ボイラ(Once Through Type Boiler)(図示せず)に給水する。最近では、上記従来法のフロー(1)における軟化処理に代えて、脱塩プロセスのひとつであるエバポレータ(Evaporator)12を適用して純水をつくり、これをボイラ供給水20Cとして汎用のドラム式ボイラ(Drum type Boiler)(図示せず)に給水するケースも増えている(図9、従来法のフロー(2)参照)。
【0006】
しかし従来法のフロー(1)では、油水分離に必要な機器および工程数が多く煩雑であり、設備費が高くつく。運転管理も難しい。また、熱交換器やボイラ内の配管で有機物系のスケールが析出し、その結果、熱応力起源の腐食割れを起こした例が報告されている(非特許文献2参照)。これは、重力分離法では、比較的粒径の大きな油分は除去できるが、粒径の小さな油分やエマルション化した油分は分離できない(非特許文献3参照)ことが主要な原因と考えられる。他方、従来法のフロー(2)では、後段の軟化・脱塩工程でエバポレータを適用する場合、エバポレータ内での有機物によるスケールトラブルが起きており、本法適用拡大の障壁となっている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】荻野清「カナダオイルサンドの開発〜さらなる挑戦」石油技術協会誌,第69巻,第6号(平成16年11月)612−620頁
【非特許文献2】清水信寿・中村常太「オイルサンド開発における水のリサイクル」石油技術協会誌,第70巻,第6号(平成17年11月)522−525頁
【非特許文献3】M.J.Plebon “TORR(TM)−The Next Generation of Hydrocarbon Extraction From Water”Journal of Canadian Petroleum Technology,Vol.43,No.9(Sep.2004)pp.1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来、SAGD法あるいはCSS法においては、含油水の油水を分離した後、さらに軟化処理してワンススルー式ボイラに給水するのが一般的である(従来フロー(1))。消費水量の一層の削減、排水量の削減、薬品消費量の削減、エネルギー消費量の削減、CO排出量の削減、また設備コストの低減や運転管理の容易さなどに鑑みるとき、油水分離の後にエバポレータで脱塩水とし汎用のドラム式ボイラに給水する方法の採用が求められ、しかも上記従来法(2)において生じるようなトラブルの懸念のない実際的な処理方法が強く望まれる。そしてまた、ボイラ手前で加温することを考慮すると、その前の油水分離工程で極力水温を下げずに処理することが望まれる。これが実現されれば、水処理システム全体における熱ロスを大幅に抑えることができる。例えば、120℃程度の高温で高度な油水分離が可能となれば、上記熱ロスを抑えてエバポレータとドラム式ボイラを採用することのメリットを大きく引き出すことができ、上述した多岐にわたる課題に対して応えうるプラントの設計が可能となり、処理効率、経済性、環境適合性等が大幅に向上する。
【0009】
最近セラミックス製の精密ろ過膜ないし限外ろ過膜が開発されており、これを適用することも検討される。しかし、セラミックス製の膜は概して膜面積あたりの容積が大きく嵩張り、また重量が大きい。そのため設置面積が大きくなる。しかし、膜モジュールの積み重ね設置等も難しく、結果として広い敷地面積が必要となる。一方、セラミック膜は機械的および熱的な衝撃に弱く、ハンドリングを誤ると割れる恐れがあり、また継続的な使用において歪や急激な温度上昇下降等の負荷がかかるとクラックが生じるなど取り扱い性に劣る。さらにセラミック膜の製造に一般的に用いられるバインダーはアルカリ耐性がない。そのため、本件のような含油水溶液中の非水溶性油分などで膜面が目詰まりした場合に、強アルカリ水溶液(たとえば20%苛性ソーダ水溶液)などで洗浄除去する必要があるが、バインダーのアルカリによる分解が膜破壊をもたらすため、実際には対応出来ないということも考えられる。さらに仮に膜が濡れた状態、すなわち膜内部に水が存在した状態で凍結してしまうと、水の膨張により負荷されるセラミック膜への応力のために膜は割れてしまう危険性があるという問題もあり、カナダのような寒冷地での適用については、保管や運転停止時について、細心の注意が必要である。さらに、セラミック膜はコストが高いことも、実用化の壁となっている。
今回提案するポリテトラフルオロエチレン膜は、こういったセラミック膜の抱えている問題を、回避ないし克服することが可能である。
【0010】
ポリテトラフルオロエチレン製の多孔質複層中空糸を備えたろ過モジュールについて、油水分離することができるとするものがあるが(特開2004−141753号公報、段落[0039]参照)、実施例の記述はなく具体的なことは何ら記載されていない。多孔質素材からなる中空管を用い、その親・疎水性を利用して油水分離する方法が開示されているものがあるが(特開2007−185599号公報参照)、これにしても、酢酸エチルやヘキサン、オリーブ油といったものの分離であり、重質油をも含むビチュメンを取り出した後の加温された含油水の分離に適用できるかは記述されていない。合成高分子製のろ過膜を含油水に用いることは、従来むしろ敬遠されてきた(「膜の劣化とファウリング対策」NTS(2008年)88頁,特許文献2参照)。
【0011】
上述のようなビチュメン生産の油層内回収法における加温含油水の油水分離に特有の課題に鑑み、本発明は、従来のような多段にわたる煩雑な工程や特殊な設備によらず、しかも取り扱い性及び運転管理性が良く、加温された含油水の高度な油水分離を可能とし熱ロスを低減することができる油水分離方法、それを用いた水再利用方法、並びに油水分離システム及び水再利用システムの提供を目的とする。
また、油層内回収法によるビチュメンの生産において加温含油水を再利用する際の工程数及び機器数を低減しシステム全体をコンパクト化することができ、また従来困難であった汎用のドラム式ボイラ設備の実際的な利用を可能とする、環境適合性及び経済性に優れる油水分離方法、それを用いた水再利用方法、並びに油水分離システム及び水再利用システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は下記の手段により達成された。
(1)オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出し、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜で処理することを特徴とする油水分離方法。
(2)前記加温含油水の温度を60〜200℃に維持して前記精密ろ過膜により処理することを特徴とする(1)に記載の油水分離方法
(3)前記精密ろ過膜として中空糸構造のものを用い、内圧式又は外圧式のろ過により前記加温含油水の処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)に記載の油水分離方法。
(4)前記含油水の処理により、該処理後の処理水中の油分濃度を5mg/L以下とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の油水分離方法。
(5)前記油層内回収法がSAGD法又はCSS法であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の油水分離方法。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の油水分離方法で前記精密ろ過膜により処理された処理水をエバポレータにより蒸留し、該蒸留水をドラム式ボイラにより水蒸気としてビチュメンの地中からの回収のために再度用いることを特徴とするビチュメン生産の油層内回収法における水再利用方法。
(7)オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出すセパレータと、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の精密ろ過膜で処理する油水分離手段とを備えた油水分離システム。
(8)前記油層内回収法がSAGD法又はCSS法であることを特徴とする(7)に記載の油水分離システム。
(9)(7)又は(8)の油水分離システムに、さらに、前記油水分離手段により処理された処理水を蒸留するエバポレータと、該蒸留水をビチュメンの回収に用いる水蒸気にするドラム式ボイラとを組み合わせた油層内回収法の水再利用システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法及びそのシステムによれば、油層内回収法によるビチュメンの生産において加温含油水の油水分離を行うに当たり、従来のような多段にわたる煩雑な工程や特殊な設備によらず、しかも取り扱い性及び運転管理性が良く、加温された含油水の高度な油水分離を可能とし熱ロスを低減することができるという優れた作用効果を奏する。
また、本発明の方法及びそのシステムによれば、油層内回収法によるビチュメンの生産において、加温含油水を再利用する際の工程数及び機器数を低減しシステム全体をコンパクト化することができ、また従来困難であった汎用のドラム式ボイラ設備の実際的な利用を可能として、環境適合性及び経済性に優れた油水分離及び水再生処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の油水分離方法の一実施態様を利用したビチュメンの生産において加温含油水を、エバポレータ、ドラム式ボイラを用いて再利用処理する際の各工程を概略的に示したフロー図である。
【図2】全量ろ過及びクロスフローろ過を説明するための模式図である。
【図3】内圧式クロスフローろ過及び外圧式全量ろ過を説明するための模式図である。
【図4】本発明の油水分離方法に用いられるクロスフロー方式と外圧式のろ過とを組み合わせた循環ろ過による油水分離ユニットの好ましい実施形態を模式的に示した装置説明図である。
【図5】図4の領域Vを拡大して油水分離の状態を模式的に示した説明図である。
【図6】本発明の油水分離方法に好適に用いられる中空糸膜の一例を模式的に示す斜視図である。
【図7】SAGD法において従来法のフロー(1)により含油水を再利用処理するプロセス概要図である。
【図8】従来法のフロー(1)により加温含油水を再利用処理する際の各工程を概略的に示したフロー図である。
【図9】従来法のフロー(2)により加温含油水を再利用処理する際の各工程を概略的に示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明についてその好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
本発明の油水分離方法においては、オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出し、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜で処理する。
【0016】
オイルサンドからビチュメンを生産する方法として、大別すると、露天掘りによる方法と油層内回収法とがあるが、本発明の油水分離方法は後者に適用されるものである。油層内回収法として現在実際的に採用されているものは2種類であり、SAGD法とCSS法である。
【0017】
SAGD法の具体的実施態様においては、水平井を数メートル間隔に2本掘削し、上位水平井(圧入井)から高温蒸気を圧入する。圧入蒸気は周囲に熱を伝達しながら上昇し、油層頂部や介在泥岩などによって上昇が止まるまで水蒸気チャンバーを形成し、熱を失って凝縮水に変化する。伝達熱によって粘性が低下したビチュメンと凝縮水は、高粘性ビチュメンとの境界面に沿って重力で下位水平井(生産井)に向かい、混合流体として生産される。ビチュメンを生産することで油層内に空隙が形成され、蒸気を連続的に圧入することが可能になり、低粘性化したビチュメン回収が継続される。
【0018】
CSS法の一実施態様では、以下の3段階を繰り返して生産を継続していく。(1)ある期間、井戸に水蒸気を圧入する。水蒸気の圧入を止め井戸を閉める。(2)水蒸気の熱がオイルサンド層に伝わり、ビチュメンが流動化するのを、しばらくのあいだ待つ。(3)井戸を開けて、井戸に流れ込んでくるビチュメンをポンプで汲み上げる。一つの井戸ではこの過程を繰り返すが、それだけではビチュメンを生産する期間が飛び飛びになってしまう。そのため、幾つかの井戸のグループごとに水蒸気圧入とビチュメン生産のタイミングを調整することで、全体として安定した生産量を維持することができる。
【0019】
図7は、SAGD法において従来法のフロー(1)により含油水を再利用処理するプロセス概要図である。SAGD法では、上述のように地中のオイルサンド層に高温高圧の水蒸気を圧入して、オイルサンド層内のビチュメンの流動性を高め、地中のビチュメンを温水とともに回収する。まず回収したビチュメンを含む温水には、砂、重金属等が含まれている。これを減圧した後セパレータに入れ、該セパレータによりビチュメン、加温含油水(生産水)、蒸発ガスに分離する。分離された加温含油水は、油を多く含んだ油汚濁水であり、冷却前では約117℃に加温されている(本発明において、「加温」とは外界の温度より高められていることをいい、例えば外界温度が約20℃であればこれより高められていることをいう。)。この加温含油水が熱交換器によって温度を下げられた後、スキムタンク、IGF(lnduced Gas Floatation)、オイルリムーバルフィルタ(ウォルナットシェルなど)により、その中から油を取り除く。油を取り除いた処理水(Deoiled Produced Water)は、水井戸(Water Wel1)から汲み上げた水(Raw Water)を加え、高温石灰軟化処理(Hot or Warm Lime Softening)、WAC(Weak Acid Cation Exchanger)を経てボイラ供給用水(BFW:Boiler Feed Water)として再使用される。
【0020】
従来法のフロー(1)におけるSAGD法の各エリアでの詳細は下記のとおりである。
[坑井元エリア]
高圧スチ−ムはヘッダーから各圧入井ヘフローコントロールバルブを介し分配される。一方、生産井では圧入井からスチームがブレークスルーしないように流量制御して生産が行われている。生産流体はウェルヘッドセパレータからのべ一パー、液はヘッダーに集められ、油水分離エリアに向かう。液ヘッダーにはエマルション生成防止薬品が添加される。
[油水分離エリア]
生産された流体はオイルセパレータ(FWKO)に入り、べ一パー(炭化水素、水分、若干の硫化水素)、ビチュメン、及び、生産水の3相に分離される。ビチュメンはトリーターに移送され0.5%重量程度まで脱水される。その後、オイルクーラーにて冷却され貯油される。
[油分除去エリア]
油分分離エリアからの生産水は、1000ppm以上の油分を含んでいる。当エリアの基本構成は、スキムタンク、インデュースガスフローテーション(IGF)、油水分離フィルタ(ウォルナットシェルなど)の3つであり、各々の機器で油分が除去される。
[軟水処理エリア]
このエリアでは、デオイルドウォーターを主とするプラント内の水をBFWとして再利用する為の処理が行われる。主要構成機器は、ホットorウォームライムソフナー、アフターフィルタ、ウイークアッシドカチオンイオン交換器(WAC)である。ライムソフナーでは硬質分(Hardness)、シリカ(Silica)を減じることになる。ライムソフナー処理水の濁度をアフターフィルタ(アンスラサイトを充填した圧力式フィルタ)で除去し、微量に残ったカルシウムイオン、マグネシウムイオンをWACで完全に除去する。メークアップ水は井戸より供給される。
[スチーム製造エリア]
WACで製造されたBFWはポンプで昇圧され、熱回収をおこなった後スチームジェネレーターへ向かう。スチームジェネレーターは天然ガスを燃料としている。ここで75−80%Quality Steam(重量比で75−80%が気相、20−25%が液相)が製造され、高圧スチームセパレーターで気液分離される。高圧スチームのほぼ全量が坑井元に運ばれ圧入されるが、一部は低圧スチームに減圧され必要箇所へ分配される。ブローダウン水は一部冷却され、ディスポーザル井に廃棄される。
従来のSAGD法ではスチームジェネレーターとして、OTSG(Once Through Steam Generator)が通常使われる。理由として、ボイラ給水中のTDSが高濃度(20,000ppm程度まで許容、設計は8000ppm)でも処理できる為である。ドラム式ボイラーを使用する場合は高品質ボイラ給水が必要であり、エバポレータ等が必要になる。
【0021】
図1は、本発明の油水分離方法の一実施態様を利用したビチュメンの生産において加温含油水を再利用処理する際の各工程を概略的に示したフロー図である。本実施態様の水処理システムにおいては、オイルサンド層1から生産井を介してビチュメン混合流体20Aを採収し、セパレータ2で処理されビチュメン3が取り出される。この後、これと分離された加温含油水20Bが冷却器4で所定温度に冷却されることは従来法のフロー(1)、(2)(図8,9参照)と同様である。本実施態様のフローにおいては90〜120℃に加温状態が維持されている加温含油水20Bを油水分離ユニット100に送る。この油水分離ユニットの好ましい実施形態については、図4,5に基づいて後で詳しく説明する。含油水20Bには一般的に1000〜3000mg/Lの油分が含まれているが、通常これを10mg/L以下にする必要があり、さらに低く5mg/L以下に抑えることが好ましい。しかしながら従来の分離方法によれば、前処理等多段のプロセスを必要とし、かつその処理水の油分濃度は、しばしば10mg/Lを越えているのが実情である(“High efficiency de−oiling for improved produced water quality”, M.K.Bride, IWC−06−15参照)。本実施態様においては耐熱性とろ過精度等の好適な特性を併せ持つPTFE製精密ろ過膜モジュールを用いることによってこれをよりシンプルなプロセスで、一段で5mg/L以下にすることができる。また原水中の油分等のサイズ等の存在形態によっては1mg/L、さらに好適な条件下では0.1mg/L以下にすることも可能である。
【0022】
本実施態様では耐熱性に優れるポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜(MF膜)を採用したため、上述の冷却器4による予備冷却幅を更に狭め、必要によっては冷却せずに油水分離ユニットへ送り膜分離を行ってもよい。後段のエバポレータによる加熱蒸留との関係を考慮し、熱ロスを低減する観点からは、例えば油水分離ユニット100における分離を60〜200℃で行うことが好ましく、85〜135℃で行うことがより好ましく、90〜120℃で行うことが特に好ましい。このように熱ロスを低減することは、とりわけカナダのような寒冷地で加熱のためのエネルギー消費量が大きくなる地域では重要であり、本実施態様の大きな利点である。
【0023】
本実施態様のフローにおいては、上記油水分離ユニット100から取り出された処理水20Dがデオイルドタンク8を介してエバポレータに送られる。すなわち、従来フロー(1)(2)のような、スキムタンク5、インデュースガスフローテーション6、オイルリムーバルフィルタ7といった多数の工程を経る迂遠な処理を行う必要がない。そして、本実施態様においてエバポレータに送られた処理水20Dは、従来法の場合に比べて粒径のかなり小さな油分まで除去でき、エバポレータ内でスケーリングを起こす有機物が好適に除去されている。そのため、連続的に処理するときにも、エバポレータの頻繁なクリーニングを行う必要がなく、処理のための運転効率を大幅に高めることができる。なお、本発明において、スケーリングとは、有機物に由来する炭化物、カルシウムなどの硬度成分に拠るものをいう。
【0024】
さらに本実施態様による大きな利点の1つに一般的なドラム式のボイラを使用できることが挙げられる。これは、従来、再生された水(ボイラ供給水)をビチュメンの生産のために圧入井に導入する高圧高温の水蒸気とするために、極めて特殊性の高いワンススルー式のボイラを用いてきたが、これに頼らなくてよいことを意味しビチュメン生産に係るコスト競争力を大幅に高めるものである。換言すれば、本実施態様において上述の特有の油水分離手段を採用したことによりエバポレータの実際的な利用が可能となる。その結果、加温含油水が前記両者(油水分離×蒸留)により相乗的に浄化され、極めてクリーンな蒸留水がボイラ供給水20Cとして利用可能となる。
【0025】
本発明において水再生処理フローは上記に限定されるものではなく、例えば処理水20Dとした後に、従来法のフロー(1)(図8参照)と同様の設備を介した処理を行ってもよい。なお、本発明に適用される各設備ないし機器は通常この種の処理に用いるものを採用すればよく、例えば非特許文献1〜3の記載などを参考に構成することができる。具体的に、セパレータとしてはNATCO社製やKVAERNER社製などが挙げられ、エバポレータとしてはGE社製やAQUATECH社製などが挙げられ、ワンススルー式のボイラとしてはTIW社製やATS社製などが挙げられ、ドラム式ボイラとしてはB&W社製やC.B.NEBRASKA BOILER社製などが挙げられる。
【0026】
本実施態様の油水分離方法において、油水分離する際のろ過方式は、全量ろ過方式であっても、クロスフローろ過方式であってもよいが、好ましくはクロスフローろ過方式である(図2参照)。
【0027】
全量ろ過はデッドエンドろ過とも呼ばれ、膜供給水を循環させることなくその全量をろ過する方式である。クロスフローろ過とは、膜供給水を膜面に沿って流し、膜を透過する水が供給水とは直角方向に流れるようにするろ過方式である。従来、クロスフローろ過は濃度分極現象(溶解性物質の濃度が膜表面で高くなること。)を緩和するために用いられていたが、懸濁物質についても濃度分極現象に類似の現象が生じる。全量ろ過方式では、膜表面にすべて懸濁物質が蓄積されるのに対し、クロスフローろ過方式では膜表面に懸濁物質が蓄積されるものの、循環水そのものの流れにより膜面蓄積物が剥離除去されるため、この膜面への蓄積や中空閉塞などの現象が抑制される傾向にある。一方、クロスフローろ過方式は、循環水を回すためのエネルギーが全量ろ過方式よりも余分に必要になりエネルギー面では全量ろ過方式の方が有利になる。
【0028】
ろ過膜には、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜(限外ろ過膜)、NF膜(ナノフィルタ膜)とRO膜(逆浸透膜)などがあるが、本発明の油水分離においては、MF膜を好適に用いることができる。MF膜は通常、0.01〜10μmの平均孔径を有し、それ以上の大きさをもつ微粒子をろ過でき、一方、溶解している成分は膜を透過するものである。本発明にはMF膜のなかでも特に0.01〜0.45μm程度の小孔径領域のMF膜を好適に用いることができる。通常排水中の非水溶性の油分は微小な油滴もしくは界面活性剤成分等の存在によるエマルジョン状態になっておりこのような小孔径領域のものは、その微細な孔を構成する繊維集合体表面において自己油滴を凝集させ、その油分凝集体が固体粒子同様に膜の微細な孔に捕捉されることで除去できる。一方捕捉された油分の隙間から進入した浮遊固形物を除去しつつろ過された水が膜を透過しクリーンな水が得られる。
UF膜はMF膜よりもさらに篩(ふる)いの目を小さくしたもので孔径で言えば0.01μm未満であり除去対象物が溶存している有機物、たとえば分子量が1000〜300000程度のものを含む微小な孔径をもつ膜である。さらにRO膜、NF膜は孔はあいておらず素材そのものを構成する高分子間の隙間を適切な大きさに分子構造を決定し、その隙間により溶解しているより小さな低分子もしくはイオンを捕捉できるように設計されており浸透圧による水の移動を逆側から利用する分離方法である。両者の区別については、NF膜(ナノフィルタ膜)とは、硬度成分などの二価金属イオンから広範囲の低分子量物質を除去対象とする。UF膜とRO膜の中間に位置づけられているが、NF膜の定義として共通の明確に定まったものはない。またRO膜(逆浸透膜)とは、カルシウムやナトリウムなどの金属イオン、塩素イオンや硫酸イオンなどの陰イオン、あるいは農薬などの低分子の有機化合物を除去対象としている膜をいう。
しかしこれらUF膜、RO膜でも油分の捕捉は可能であるが、いずれも膜の隙間が小さすぎて自己凝集した油分が透水経路を全面的にふさぎ込み瞬間的に膜の透水能力を減少させる。また、一般的にUF膜、RO膜などは溶解、溶融しやすい高分子素材をベースに製造するため耐熱性、耐油性等に劣り、また強度も弱いため、ビチュメンを含有する含油水の高温での処理といった過酷な条件下での使用はMF膜が最適である。これらのろ過膜については、膜分離技術振興協会・膜浄水委員会監修「浄水膜(第2版)」技報堂出版発行2008年(P78−P79)を参照することができる。
【0029】
本実施態様においては油水分離に中空糸膜を用いることが好ましく、内圧方式にはクロスフローろ過方式、外圧方式には全量ろ過方式・クロスフローろ過方式の両方式が用いられる傾向があるが、いずれの方式を選定するかは、膜供給水中の懸濁物質(濁度)の大小や性状等によって判断することが好ましい。
【0030】
本実施態様においては、内圧クロスフローろ過によることが好ましい(図3(b)参照)。中空糸膜、管状膜などの円筒状の形状をした膜を用いてろ過する場合、円筒形状の内側(筒状)に原液を通し、外側にろ過液を出す方式を内圧ろ過方式といい、そのなかでも原水を一部ろ過せずに膜面を通過させる、すなわち排水をポンプで循環することで線速を与えることで、排水それ自身による堆積物の剥離効果によりろ過面への蓄積物の堆積、膜閉塞を防ぐ方法を内圧クロスフローろ過という。一方、原水全量をろ過面に投入してろ過する場合は全量ろ過という。本件の場合、原水中に油分や浮遊固形物が多く存在するためこれが膜閉塞を防止するためにこのクロスフロー方式が好ましい。一方、その逆に膜の外側に原液を通し、内側にろ過液を出す方式を外圧ろ過方式という(図3(a)参照)。外圧式の場合、同様にろ過面への堆積物が付着した場合は、同じく外圧クロスフロー方式としてもよいが、膜の内側を流す場合に比べ膜を循環する際の流路断面積が大きいことから膜面の線速が小さくなるため蓄積物の剥離効果が小さくなる。よって、外圧式は低濃度の油分や浮遊固形物の場合に、その程度によりクロスフローか全量ろ過かを選択し使用するのが好ましい。上述の各全ろ過方式については、膜分離技術振興協会・膜浄水委員会監修 「浄水膜」(第2版)技報堂出版発行(2008年)214−215頁を参照することができる(添付の図2,3は同文献より引用した。)。
【0031】
図4は本発明の油水分離方法に用いられるクロスフロー方式と外圧ろ過とを組み合わせた循環ろ過による油水分離ユニットの好ましい実施形態を模式的に示した装置説明図であり、図5は図4の領域Vを拡大して油水分離の状態を模式的に示した説明図である。本実施形態においては、透過流速30〜200L/m・hrの含油水20Bを供給流路107から逆止弁104を解して、循環流路102に導入する。循環流路102内の循環流速は上記供給流速の4〜5倍に設定し、循環方向23に向け循環させることが好ましい。その循環流路102には逆止弁104と分離膜モジュール110が配設されており全体として油水分離ユニット100を構成している。
【0032】
この分離モジュール内の分離膜(MF膜)101によりクロスフローろ過方式によってろ過し、ろ過方向22(図5参照)から移行した処理水20Dを取出流路103から回収することができる。本実施形態においては、膜101で油21を十分に堰き止めることができるので、処理水20Dを油分の極めて少ない水とすることができる。処理水20Dは、例えば上記供給流速と同じ流速で回収することができる。一方、油分を多く含んだ排水20Eは別途、循環流路102から弁105を介して排出流路106から排出される。この排出量は例えば供給流量の100分の1程度に抑えることができる。なお、上記の流量(流速)は一例であり含油水の性状によって適宜調節すればよい。
【0033】
本発明の油水分離方法にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の精密ろ過膜(MF膜)が好適に用いられる。このろ過膜の形態は特に限定されず、例えば中空糸膜構造のもので構成されたモジュールとしてもよい。具体的に例えば、外径1〜5mm、内径0.5〜4mmで気孔率が40〜90%で設計された連続的な微細構造をもつ孔径0.01〜0.45μmの膜が好ましい。さらにろ過速度をあげるために設計された以下の複合中空糸膜が好ましい。例えば内圧クロスフローろ過で使用する場合は、内面に0.01〜0.45μmの孔径をもつろ過層を、外面に0.45〜2μm孔径をもつ支持層を有する2つのPTFE製の複合膜で構成される膜が好ましい(図6参照)。一方外圧全量ろ過もしくは外圧クロスフローろ過で使用する場合は逆に外面に0.01〜0.45μmの孔径をもつろ過層を、内面に0.45〜2μm孔径をもつ支持層を有する2つのPTFE製の複合膜で構成される膜が好ましい。これらはろ過に必要なろ過面のみ孔径を小さくし、それ以外は支持体として強度を付与する一方ろ過抵抗を小さくするために孔径の大きな膜を用い、機能分化した膜である。これらは 特開2004−141753号公報、特開平4−354521号公報、特開平3−109927号公報などを参考にすることができる。
【0034】
これらPTFE膜は通常疎水性をもつ、すなわち水をはじく性質があるため、通常では排水を透過させる前に,イソプロピルアルコールなどの親水性有機溶剤、もしくは界面活性剤により膜をあらかじめ濡らせておき、その後これらの溶液が乾燥するまえに水を通すことにより、優れた通水性を確保できる。一方、PTFE膜を構成する微細な繊維に対して必要に応じて耐薬品性に優れた親水性高分子を固定化し、膜繊維表面の親水性を高めることが可能であり、本発明への適用にはより好ましい。前記PTFE多孔質膜の親水性を高める方法としては、たとえば耐薬品性に比較的優れたポリビニルアルコールの水溶液を膜の微細孔内部に含浸させ、酸触媒を用いてジアルデヒドと架橋させることや、適当な架橋剤とともにUV処理などにより架橋させることにより不溶化させる方法を用いることができる。これらの方法は化学的に安定な親水性付与を行うことができる。また、これら架橋親水性ポリマーは本発明でのろ過温度などに対する耐性も保持し、さらにいったん乾燥しても直接排水等に速やかに濡れるためスムーズなろ過が可能であるなど多くの利便性を持つ。本発明ではこれらいずれの方法でも適用できる。
【0035】
水処理分野で膜法を適用する場合、透過流速を長期間にわたって安定的に維持するため、定期的な逆洗と薬品洗浄が行われるのが一般的であるが、本発明に用いられる上記PTFE製のろ過膜の場合、まず、ろ過における逆洗については、10〜60分に一度の頻度で10秒程度、清澄水による逆洗浄が実施される。この時の逆洗水の供給圧力は100〜300KPa程度である。また、薬品洗浄については、1〜20%の苛性ソーダ水溶液によって2〜6時間程度の循環運転が実施される。頻度は、膜面の汚染状態により、1〜6ヶ月に一度である。こういった操作により、透過流速を長期間にわたって安定的に維持できる。また、場合によっては、次亜塩素酸ナトリウムや有機溶剤を用いた薬品洗浄も可能である。
このように、本発明に用いられるPTFE製のろ過膜は、耐熱性が高く、芳香族系を含めた油分にも強く、耐薬品性が高く、膜が汚れた時でも高濃度の薬品で洗浄が可能であり油水分離への適用に好ましい特性を有している。また、上記PTFE製のMF膜により処理される含油水の油分が2000mg/Lという高濃度でも安定した連続運転が可能である。
【0036】
先に[0010]で述べたように一般的に油水分離に対して分離膜を用いることはむしろ敬遠されてきた。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の分離膜の場合、流入水に含まれる鉱物油の最大許容値は3mg/L以下が基準とされている(「膜の劣化とファウリング対策」NTS(2008年)232頁参照)。また、PVDF製・PE製・PP製・アクリロニトリル製・酢酸セルローズ製のものはいずれも耐熱性が低く加温含油水の処理に通常耐えられない。さらに、これらの分離膜は膜表面に油分が付着し、それ自体が膜素材に有害な化学作用を及ぼしたり、膜透過を阻害しファウリングやスケーリングを引き起こす要因となったりする(「膜の劣化とファウリング対策」NTS(2008年)88頁)。
【0037】
これらの観点から住友電工ファインポリマー社製のPTFE製中空糸膜、商品名「ポアフロン」が特に好適に採用される。上記中空糸膜としては、浸漬型、外圧全量ろ過型、内圧クロスフロー型のものが挙げられ、なかでも内圧クロスフロー型のものが好ましい。上記中空糸膜の寸法は処理される含油水の量や含油量などにより適宜選定すればよいが、例えば孔径0.01〜0.45μm、内径0.5〜4mm、外径1mm〜5mm、膜面積2〜25m、全長1000mm〜2500mm、底面直径100〜300mmのものが上げられる。ろ過圧は適宜調節すればよいが例えば内圧クロスフローの場合は、孔径にもよるが膜間差圧(すなわち、原水側圧力−透過水圧力)の最大値で30〜200KPa以下が好ましい。差圧を30KPa以下にすると、十分な線速を得られない。また200KPa以上にすると油分の膜面への押しつけが強くなり、膜内部への油の侵入のために汚れが進行し透過流量低下をきたすからである。一方、一定の剥離効果を得るため線速を0.2〜3m/秒に設定してろ過を行うことが好ましい。線速を0.2m/秒以下にすると剥離効果は小さくなる。3m/秒以上にすると、ポンプが大きくなり消費電力が大きくなるので処理コストがあがる。
【0038】
外圧もしくは外圧クロスフロー型の場合は同じく上記中空糸膜の寸法は処理される含油水の量や含油量などにより適宜選定すればよいが、例えば孔径0.01〜0.45μm、外径1.0mm〜3.0mm、内径0.5〜1.5mm、膜面積25〜100m、全長1000mm〜2500mm、底面直径100〜300mmのものが上げられる。ろ過圧は適宜調節すればよいが例えば外圧ろ過の場合は、孔径にもよるが同様の理由で膜間差圧(すなわち、原水側圧力−透過水圧力)の最大値で20〜200KPa以下が好ましい。またこの圧力範囲での線速が大きいほどよいが、消費電力を考慮し線速を0.1〜0.2m/秒に設定してろ過を行うことが好ましい。一方、浸漬型の場合も同じく上記中空糸膜の寸法は処理される含油水の量や含油量などにより適宜選定すればよいが、例えば孔径0.01〜0.45μm、内径0.5〜1.5mm、膜面積5〜50m、全長1000mm〜2500mm、底面直径100〜300mmのものが上げられる。ろ過圧は適宜調節すればよいが例えば膜間差圧(すなわち、原水側圧力−透過水圧力)の最大値で5〜95KPa以下が好ましい。また浸漬型の場合は、通常膜の下部からの曝気により膜表面近傍に旋回流を作らせ、この圧力範囲で旋回流による線速を外圧と同じく0.1〜0.2m/秒となるように設定してろ過を行うことが好ましい。
【0039】
既に詳しく述べた部分もあるが、本発明の上記好ましい実施態様によりもたらされる利点を下記に挙げる。
(1)含油水の処理に用いられる機器数が減るので機器費が削減できる。設備もコンパクトになり、それらを囲う建屋も小さくでき、設備費が節減できる。また、運転管理も容易である。
(2)ノックアウトドラム(Knock Out Drum)の前で注入する薬品のエマルションブレーカーが、セパレータに影響を与えない範囲で、省ける、あるいは減らせる。
(3)高度な油水分離が可能である。油分を5mg/L以下に落とすことができる。
(4)油分を高度に除去することで、熱交換器やボイラ内の配管における有機物系のスケールトラブルが低減される。
(5)後段にエバポレータを設置する場合、そこで発生するスケールトラブルを大幅に低減しうる。
(6)エバポレータのような脱塩装置を適用する場合、従来の方法ではワンススルー式のボイラしか適用できなかったのが、汎用のドラム式のボイラが適用できるようになり、大幅な設備コストの低減が可能となる。
(7)ドラム式ボイラを採用する場合、ブローダウンの量を従来の20〜30重量%から1〜5重量%に減らすことができ、熱効率が向上しエネルギー消費量が削減できるとともに、水の消費量、排水の排出量も削減できる。
(8)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜モジュールとして運転温度が例えば200℃まで可能なものを選択しうるため、エバポレータを設置する場合など、現状では不可欠なスキムタンク入り口の熱交換器を削除して、熱ロスを大幅に抑えることも可能となる。
(9)セラミック製の膜における急激な温度上昇下降による耐クラック性、薬品洗浄に関わるアルカリ耐性、重量・大きさ・柔軟性のなさ・凍結忌避からくるハンドリング性、経済性といった問題を克服することができる。
(10)オイルサンドからのビチュメン生産における、とりわけ将来重要性が益々高まる油層内回収法(SAGD法、CSS法)において、生産上の経済的負荷及び環境負荷を大幅に低減し、通常の原油生産に対する競争力を高めその代替化の実現性をより一層高める。
【符号の説明】
【0040】
1 オイルサンド層
2 セパレータ
3 ビチュメン
4 冷却器
5 スキムタンク
6 インデュースガスフローテーション
7 オイルリムーバルフィルタ
8 デオイルドタンク
9 ライムソフナー
11 ウイーク・アシッド・カチオン・ソフナー
12 エバポレータ
13 アフターフィルタ
20A ビチュメン混合流体
20B 含油水
20C ボイラ供給水
20D 処理水
20E ろ過排水
21 油
22 ろ過方向
23 循環方向
30 複層からなるチューブ
31 支持層
32 濾過層
100 油水分離ユニット
101 分離膜(PTFE製のMF膜)
102 循環流路
103 取出流路
104 逆止弁
105 弁
106 排出流路
107 供給流路
110 分離膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出し、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜で処理することを特徴とする油水分離方法。
【請求項2】
前記加温含油水の温度を60〜200℃に維持して前記精密ろ過膜により処理することを特徴とする請求項1に記載の油水分離方法
【請求項3】
前記精密ろ過膜として中空糸構造のものを用い、内圧式又は外圧式のろ過により前記加温含油水の処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の油水分離方法。
【請求項4】
前記含油水の処理により、該処理後の処理水中の油分濃度を5mg/L以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油水分離方法。
【請求項5】
前記油層内回収法がSAGD法又はCSS法であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の油水分離方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の油水分離方法で前記精密ろ過膜により処理された処理水をエバポレータにより蒸留し、該蒸留水をドラム式ボイラにより水蒸気としてビチュメンの地中からの回収のために再度用いることを特徴とするビチュメン生産の油層内回収法における水再利用方法。
【請求項7】
オイルサンドからビチュメンを生産する油層内回収法において、地中から回収した加温ビチュメン混合流体からビチュメンを取り出すセパレータと、前記混合流体から分離された加温含油水をポリテトラフルオロエチレン製の精密ろ過膜で処理する油水分離手段とを備えた油水分離システム。
【請求項8】
前記油層内回収法がSAGD法又はCSS法であることを特徴とする請求項7に記載の油水分離システム。
【請求項9】
請求項7又は8の油水分離システムに、さらに、前記油水分離手段により処理された処理水を蒸留するエバポレータと、該蒸留水をビチュメンの回収に用いる水蒸気にするドラム式ボイラとを組み合わせた油層内回収法の水再利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−248431(P2010−248431A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101765(P2009−101765)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000222174)東洋エンジニアリング株式会社 (69)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】