説明

油水分離方法および油水分離装置

【課題】
疎水性の低い油を含む水を排水基準にまで高速に油水分離ができるようにしたい。
【解決手段】
処理槽11に貯留した被処理液中に気泡を供給することによって被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ水と油分とを分離させるものであり、処理槽11の下部から汲み出した被処理液に空気を混合させ、循環ポンプ31で昇圧して処理槽11の下部に設けたノズル33から噴射して被処理液を処理槽11に戻して被処理液を循環させ、未処理状態の被処理液は被処理液の循環配管系か処理槽11の下部に供給する。この系統に少量の塩化カルシウムと水酸化ナトリウムを添加して油凝集を促進し、油分離性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油水分離方法および油水分離装置に係わり、特に、被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ被処理液を水と油分とを分離させる浮上分離法による油水分離方法および油水分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浮上分離法による分離装置として、下記の特許文献1に記載されるように、渦流ポンプの液体吸込口に気体吸込手段を設けておき、渦流ポンプでの加圧過程で空気を被処理液に溶解(気液混合溶解)させ、処理槽内にノズルから噴射減圧することによって、処理槽内の被処理液中に気泡を発生させるものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2003―236305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、油自体の疎水性が高い場合には処理槽内に発生する微小気泡と油分が結合して、油分は気泡とともに浮上し、油水分離できる。しかし、油自体の疎水性が低い場合には微小気泡と油分の結合が十分に進まず、油水分離することができない。
【0005】
この結果、レシプロ圧縮機潤滑油や特殊なスクリュー圧縮機潤滑油等の鉱物油を含む水(ドレン)では鉱物油の排水基準である5mg/Lにまで油を分離できないことがあった。
【0006】
それゆえ本発明の目的は、疎水性の低い油を含む水を排水基準にまで高速に油水分離ができる油水分離方法および油水分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明油水分離方法の特徴とするところは、被処理液に空気を供給し、ポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液を水と油分とに分離させる油水分離方法において、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムの少なくとも一方と水酸化ナトリウムを混合した被処理液に気泡を供給することにある。
【0008】
また、上記目的を達成する本発明油水分離方法の特徴とするところは、疎水性が低い油分を含む被処理液に塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムの少なくとも一方と水酸化ナトリウムを別々に混合することにある。
【0009】
上記目的を達成する本発明油水分離装置の特徴とするところは、被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液の水と油分とを分離させる油水分離装置において、該ポンプの吸込み側に塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方を供給する配管と水酸化ナトリウム水溶液を供給する配管を設け、さらに該ポンプの吸込み側に圧力調整弁を設けて、該圧力調整弁の開度調整により該ポンプのポンプ吸込圧力を大気圧よりも低くして大気圧と該ポンプ吸込圧力の差圧を駆動力として塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を別々に該被処理液に混合させることにある。
【0010】
また、上記目的を達成する本発明油水分離装置の特徴とするところは、被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液の水と油分とを分離させる油水分離装置において、該処理槽の被処理液に塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を別々に定量供給するポンプを設けたことにある。
【0011】
また、上記目的を達成する本発明油水分離装置の特徴とするところは、被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液の水と油分とを分離させる油水分離装置において、塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を貯蔵するタンクを該処理槽における被処理液面よりも高い場所にそれぞれ設け、該各タンクから各水溶液を該処理槽に導く配管にバルブを設け、各バルブを開放して重力で各水溶液を被処理液に混合させることにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被処理液中の油分が塩化カルシウム(CaCl2)や塩化マグネシウム(MgCl2)によって凝集し、この凝集を水酸化ナトリウム(NaOH)が促進させ、分散してい
る微小な油分が結合体となって直径が大きくなる結果、浮上しやすくなるだけでなくポンプで加圧溶解された空気で製造される微細気泡と吸着しやすくなって、一層浮上しやすくなり、油水分離が高速に進む。
塩化カルシウムや塩化マグネシウムは豆腐を製造するときに用いるにがりの主成分で、食品に使用されているものであり、それらの水溶液は被処理液で希釈した形で水酸化ナトリウムとともに排水するので、環境を汚染することはない。即ち、疎水性の低い油を含む水であっても、排水基準にまで高速に油水分離をして、油分は回収し、水はそのまま廃棄することができる。
【0013】
また、本発明によれば、金属に対し腐食性を有する塩化カルシウムや塩化マグネシウムの添加量を少なくして水酸化ナトリウム水溶液の濃度を高くし、全体として油分凝集効果を維持するとともに処理済液のpH値を高めることにより、塩化カルシウムや塩化マグネシウムの腐食性を低減せしめて、処理槽や配管などの諸金属部材が腐食しにくくなるようにするとともに、被処理液をアルカリ性状態にすることによって油水分離を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態になる油水分離装置を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態になる油水分離装置を示す図である。
【図3】本発明のもう1つの実施形態になる油水分離装置を示す図である。
【図4】本発明の別の実施形態になる油水分離装置を示す図である。
【図5】本発明の油水分離効果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態になる油水分離装置について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1に示した油水分離装置10は、一例として空気圧縮機から排出されるドレンを処理するものとして使用する。
【0017】
図1において、処理槽11には、槽内に被処理液を貯留し油水分離を行う分離部(請求項では処理槽と記載)81とこの分離部81で浮上分離した油分を回収する浮上油受け部83とがあり、両部81,83を分離する遮蔽板12を設けてある。処理槽11の側壁下部において、分離部81に大気泡分離部13を連接してある。
【0018】
処理槽11における分離部81の底に取り付けた配管30はバルブ36,配管32を介して循環ポンプ31と接続し、循環ポンプ31の出口側配管37は大気泡分離部13内に設置してあるノズル33に接続してある。配管32には、バルブ42を有する空気供給配管41の一端を接続してあり、空気供給配管41の他端は大気に開放してある。
【0019】
配管30,32,37は分離部81における被処理液の外部循環系を構成しており、後述するように、循環ポンプ31の作動で空気供給配管41から空気を吸引するとともに加圧し被処理液中に溶解させ、空気を溶解させた被処理液をノズル33から噴き出す。
【0020】
循環ポンプ31の一例としては渦流ポンプを使用しており、図示していないが、循環ポンプ31の出口には被処理液の圧力(水圧)を測定するゲージを設けてある。
【0021】
ノズル33は大気泡分離部13とともに処理槽11における分離部81の下部の側壁に設けてあり、大気泡分離部13にはノズル33から噴き出すかもしれない大気泡を分離部81に廻さないようにする排出管14を設けてあり、排出管14の排出口は分離部81の上部に位置せしめてある。
【0022】
配管32には、供給ポンプ21とバルブ22を有し未処理な被処理液の供給系統を構成する供給管23を接続してある。供給管23は分離部81の下部に接続して、未処理の被処理液を分離部81に供給してもよい。
【0023】
配管32には水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液タンク71からの配管72がバルブ77を介して接続している。また、配管32には塩化カルシウム(CaCl2)水溶液タンク91からの配管92がバルブ97を介して接続している。
【0024】
分離部81の上部には処理済の被処理液を排出する排出管51を設けてあり、排出管51は分離部81との接続部(管座)から持上げ、その下流を分離部81との接続部よりも低い位置まで配管してあり、その途中にバルブ52を有している。排出管51の最高位は、処理槽11の遮蔽板12の最高位より低くして位置差D1を持たせてある。
【0025】
従って、分離部81内に被処理液を供給し貯留させる場合、バルブ52を開放してあれば、被処理液は排出管51から流出して、分離部81における被処理液面61は排出管51の最高位で規制される。バルブ52を閉止し分離槽81内に被処理液を供給していけば、被処理液面61は排出管51の最高位よりも上昇していくので、排出管51はバルブ52の開閉で被処理液を排出し水位を調整する機能を備えていることになる。
【0026】
排出管51に設けた配管53は、サイホン効果で排出管51の最高位水平面以下まで排水されないように大気に開放している。なお、被処理液面61の上部には油水分離で上昇した浮上油の浮上油液面62が形成される。
【0027】
分離部81内を上昇中の微細気泡および油粒子が分離部81から排出管51を介して流出する処理済の被処理液に混入することを防止する仕切板15を設け、ポケット状吸入部82を形成してある。即ち、排出管51における被処理液の流出量と吸入部82の入口面積で決まる吸入部82での被処理液の下降速度が気泡の上昇速度より遅くなるようにしてあることにより、分離部81を上昇中の微細気泡および油粒子が吸入部82に流入して排出管51から流出することはない。
【0028】
仕切板15の最高位は、排出管51の最高位、即ち、バルブ52を開放している時の被処理液面61より低くして、位置差D2を持たせている。また、仕切板15の最高位は排出管51の分離部81との接続部(管座)より高くして、位置差D3を持たせている。
【0029】
浮上油受け部83の底部には、分離部81から遮蔽板12を乗り越えて流入(溢流)する廃油63を排出する油分排出管55を設けてある。また、図示しないが、処理槽11の底部から外部に配管を設け、その途中にバルブを設けてあり、分離部81内部の液体を排出する必要がある場合にこれらを用いる。
【0030】
分離部81には温度測定器84を設けてあり、分離部81における被処理液の温度を測定できるようにしている。温度測定器84に代えて、配管30から循環ポンプ31を経由しノズル33までの配管37中に温度測定器を設置して、被処理液の温度を測定してもよい。
【0031】
次に、図1に示す油水分離装置の動作を説明する。
空気圧縮機から排出されるドレンは、絶対湿度が高い時期(夏季)にはドレン流量が多く、ドレン中の油分濃度は低い。一方、絶対湿度が低い時期(冬期や春秋)にはドレン流量が少なく、ドレン中の油分濃度は高い。絶対湿度が高い時期(夏季)には連続運転処理、絶対湿度が低い時期(冬季や春秋)には間歇運転処理が好適である。
【0032】
先ず、絶対湿度が高い時期に行う連続処理運転について説明する。
準備として、バルブ52は開放状態として処理槽11の分離部81に清水または処理済の被処理液を充填し、被処理液面61が排出管51の最高位に一致したら、循環ポンプ31を運転させる。この時、バルブ22は閉止し、供給ポンプ21は停止している。バルブ36,42は開放状態としてある。
【0033】
次にバルブ36の開度を調節して図示しない循環ポンプ31の入口圧力を大気圧よりも低くする。循環ポンプ31の運転で分離部81の清水または処理済の被処理液が配管30,32を通して吸引され、昇圧されて配管37からノズル33に流れることによって、空気供給配管41側がさらに負圧となり、溶解用空気が空気供給配管41から流入して配管32に到る。
【0034】
循環ポンプ31では空気を分断し加圧して清水または処理済の被処理液に溶解させているが、溶解しきれない空気は大きな気泡のままで配管37を通ってノズル33に流れる。循環ポンプ31で加圧された被処理液と溶解した空気はノズル33から分離部81の被処理液中に吐出することで減圧され、水に溶解していた空気は微細な気泡となる。循環ポンプ31による加圧で被処理液に溶解する空気量は加圧下ではヘンリー(Henry)の法則に従ったものとなり、配管37を流れる清水または処理済の被処理液にかかる圧力及び配管37を流れる流量に比例して、溶解する空気量は多くなる。また、配管37を流れる清水または処理済の被処理液の温度が低い程、溶解する空気量は多くなる。実際の運転では圧力、流量を設定値一定となるように運転する。
【0035】
このように運転すると循環ポンプ31の動力が熱となり被処理液に伝わり、液温が上昇し、溶解する空気量は減少する。このため、予め配管37における被処理液の流量,被処理液の液温度,循環ポンプ31による加圧量と溶解空気量の関係を求めておき、温度測定器84で求めた液温度により空気供給配管41から流入させる溶解用空気量が処理槽11内を気泡がほぼ揃って浮上する量になるようにバルブ42で調節し、運転する。
【0036】
上記したように被処理液に溶解していた空気はノズル33から吐出することで減圧され気泡となって分離部81内を浮上するが、分離部81内をほぼ揃って順次浮上するような微細気泡がノズル33から吐出するように溶解する空気量をバルブ42で調節しておく。径の大きな気泡の大気泡は浮力が大きく働くから微細気泡よりも早く浮上する。早い浮上は、油水分離に寄与しないし、分離部81内での流れを乱して微細気泡と油分の接触を阻害し、分離性能を低下させかねない。
【0037】
大気泡の発生原因は循環ポンプ31の加圧によっても被処理液に溶解しなかった空気が存在することにあるとみることができるので、空気供給配管41から取り込む溶解用空気量をバルブ42で調節して、余分な空気が入らないようにして、連続して大気泡が浮上しないようにしておく。発生した大気泡は、大気泡分離部13の排出管14に抜き出し、ノズル33から噴き出すかもしれない大気泡を分離部81に廻さないようにしている。
【0038】
この運転状態を保ちながら、バルブ22を開放し供給ポンプ21を駆動して被処理液(ドレン)の供給系統を運転し、分離部11の外部循環系統を循環している清水または処理済の被処理液に未処理状態の被処理液(ドレン)を混合させる。
【0039】
次にバルブ97を開いて、先に塩化カルシウム水溶液をタンク91から配管92を通して所望量を連続供給する。同様に続けてバルブ77を開いて、水酸化ナトリウム水溶液をタンク71から配管72を通して連続供給する。
【0040】
すると、ノズル33から微細気泡と共にドレンが噴射され、ドレン中の塩化カルシウム水溶液によって凝集した油分は微細気泡に付着して浮上し、油分が被処理液(水)から分離する。
【0041】
この際に供給ポンプ21の動力が熱となり、混合された被処理液に伝わり温度が上がり、溶解可能な空気の量は減少する。減少することで溶解できない余剰気泡(大気泡)が発生しようとする。前述したように、余剰気泡は気泡径が大きく上昇速度は早く、槽内に流れの乱れを起こし、油に付着した微細気泡を引き離したりして、油水分離を妨げる。
【0042】
そこで、前述したように、予め液温度と溶解空気量の関係を求めておき、温度測定器84で求めた液温度により空気供給配管41から流入させる溶解用空気量を処理槽11内を気泡がほぼ揃って浮上する量になるようにバルブ42で再調節し余剰空気が発生しないようにして、油水分離性能が低下しないようにする。
【0043】
また、未処理状態の被処理液を混合することによる液温度の下降を予測して、予め溶解用空気量を下降分だけ減少させた温度での流量に固定して運転するようにしてもよいし、循環流量を少なくしてもよい。
【0044】
循環ポンプ31出口での圧力は、所要動力を少なくすることと微細気泡の直径を小さくすることを考慮すると0.3〜0.8MPa程度が好ましい。溶解空気量が圧力に比例することを考慮すると、循環水流量は被処理液供給系統から供給された未処理状態の被処理液量の30〜100倍で、未処理状態の被処理液は循環水によって30〜100倍に希釈されるので、分離部81に供給される被処理液の油分は低濃度である。
【0045】
分離部81の上部にある吸入部82では、配管23から供給された未処理状態の被処理液に相当する処理済の被処理液を微細気泡の上昇速度よりも遅い速度で吸込んで排出管51から排出する。微細気泡で油水分離処理する油水分離処理では、被処理液中の大きな径の油粒子が小さな径の油粒子よりも先に浮上分離するので、連続処理においては、径の小さな油粒子径が処理液中に残っていても処理済の被処理液における油分濃度が目標値(例えば、鉱物油の排水基準である油分濃度5mg/L)となった状態で、連続的に排出することができ、処理能力が高い。
【0046】
また、処理中の被処理液や処理済の被処理液は、後述するように水酸化ナトリウム水溶液によりpH値が中性から弱アルカリ性に維持されるので、金属部材の腐食性が低減し、そのまま廃棄しても、問題はない。
【0047】
分離部81上部に、浮上油が溜まってくる。そこで、連続運転中に排出管51の途中に設けたバルブ52を一時的に閉じると、分離部81内部の被処理液面61および浮上油液面62が上昇し、浮上油液面62が遮蔽板12の高さを超えると浮上油がオーバフロー(溢流)し、浮上油受け部83へ流下する。分離部81での浮上油が減ったら、バルブ52をゆっくり開けて、排出管51から被処理液を排出して被処理液面61を下げて、連続処理を継続する。
【0048】
次に、間歇処理運転について説明する。
準備として、バルブ52は閉じた状態にして、分離部81に清水または処理済の被処理液を充満させた状態で循環ポンプ31を運転する。バルブ22は閉じてあるが、バルブ36,42は開放してあり、溶解用空気が空気供給配管41から流入する。循環ポンプ31の動力が熱となり被処理液に伝わり、分離部81における被処理液の温度を上昇させるため、被処理液の密度は小さくなる。尚、被処理液の密度を小さくするためには分離部81において被処理液の温度を上昇させるための加熱手段を配置してもよい。
【0049】
被処理液が予定した温度まで上昇したら、循環系統における循環ポンプ31の運転を停止し、バルブ42を閉じ、被処理液供給系統のバルブ22を開放状態にして供給ポンプ21を運転して、未処理状態の被処理液を供給する。被処理液は、配管30の経路及び配管32,37を経由しノズル33から分離部81に流入する。
【0050】
被処理液は分離部81内の清水または処理済の被処理液よりも温度が低く密度が大きいために分離部81の底部に溜って行き、密度が小さい処理済の油分濃度の低い被処理液は分離部81の上部に押し上げられた形となって、吸入部82から排出管51とバルブ52を経由して排出される。例えば、仕切板15上端から分離部81の底部までにおける容積が40L,清水または処理済の被処理液温度が320K,未処理状態の被処理液温度が283K,未処理状態の被処理液の供給を20L/hで行うと、処理済の被処理液のみを30L以上排出可能である。
【0051】
処理済の被処理液のみの排出が済んだら、バルブ22とバルブ52を閉状態にして未処理状態の被処理液の供給を止めて、循環ポンプ31による槽外循環を実施する。つぎにバルブ36を調節して図示しない圧力計で循環ポンプ入口圧力が大気圧よりも低いことを確認して、バルブ97を開放してこの圧力と塩化カルシウム水溶液91の圧力との差を駆動力としてタンク91から所望量の塩化カルシウム水溶液を供給し、バルブ97を閉止する。同様にバルブ77を開放してタンク71から所望量の水酸化ナトリウム水溶液を供給し、その後、バルブ77を閉止する。
【0052】
つぎにバルブ42を開放状態とすると、溶解用空気が空気供給配管41から流入する。
【0053】
循環ポンプ31による加圧で被処理液に溶解する空気量は加圧下ではヘンリー(Henry)の法則に従ったものとなり、配管37を流れる清水または処理済の被処理液にかかる圧力及び配管37を流れる流量に比例して、溶解する空気量は多くなる。また配管37を流れる清水または処理済の被処理液の温度が低い程、溶解する空気量は多くなる。実際の運転では圧力、流量を設定値一定となるように運転する。
【0054】
この場合も循環ポンプ31の動力が熱となり被処理液に伝わり、液温が上昇し、溶解する空気量は減少する。そこで、予め液温度と溶解空気量の関係を求めておき、温度測定器84で求めた液温度により空気供給管41から流入させる溶解用空気量は処理槽11内を気泡がほぼ揃って浮上する量になるようにバルブ42で調節する。このため、余剰空気による大気泡は連続して発生せず、油水分離性能を低下させることはない。
【0055】
バルブ52は閉止してあり、分離部81の被処理液中に微細気泡が存在することになり、被処理液面61は排出管51の最高位置よりも高くなる。この状態で分離部81内部の被処理液面61上側に浮上油が溜まるが、浮上油液面62よりも遮蔽板12の上端位置を高くしてあり、被処理液の循環中に浮上油が浮上油受け部83へ遮蔽板12からオーバフローすることはない。
【0056】
槽外循環中に分離部81下方の油分は微細気泡によって上昇し、油水分離する。浮上油分離法では油分が高濃度であるほど分離性能は良いので、中間濃度以下までは高速に分離できる。低濃度域は連続処理に近い分離性能を有する。
【0057】
本発明者らの観察によれば、槽外循環の前半50%の時間で未処理状態の被処理液の油分濃度は中間濃度以下の1/5程度に低下し、後半50%の時間で中間濃度以下の油分濃度からさらにその1/5程度の低濃度(連続処理での目標濃度)に低下することを確認している。前後半で低減する比率は同程度であるが、絶対値でみれば前半に大半の油分が分離されていることになる。
【0058】
分離部81における被処理液が目標とする油分濃度に低下したら、循環ポンプ31を停止し、バルブ42を閉じて、バルブ22とバルブ52を開放させ、供給ポンプ21を運転して未処理状態の被処理液を分離部81の底部から供給する。この期間中に分離部81上部の処理済の被処理液は、新たに供給した未処理状態の被処理液と同量だけ排出管51から流出する。
【0059】
以上説明した被処理液の供給と循環のために供給ポンプ21,循環ポンプ31の運転と停止を交互に繰り返し、浮上油液面62と被処理液面61との差が大きくなったら、即ち、分離部81上部に浮上油が溜まったら、供給ポンプ21の運転中に排出管51のバルブ52を閉止状態にし、被処理液面61が遮蔽板12と同一高さになることによって浮上油を遮蔽板12の上端からオーバフローさせ、浮上油受け部83へ排出する。
【0060】
通常のスクリュー型空気圧縮機では一週間の連続運転により浮上油が約1mm溜まるので、浮上油の排出は一週間に1回程度の頻度で行えば良い。この排出時期は運転時間で決定するだけでなく、浮上油量,浮上油厚さを測定することによっても決定できる。
【0061】
この間歇処理では、分離部81内に清水または処理済の被処理液液と約50%の未処理状態にある被処理液を混合して油水分離処理し、油分は高濃度から低濃度まで短時間で下げることになる。
【0062】
前述したように、夏季に相当する大気中の水分量が多い時期にはドレン流量が多く、油分濃度は低い。冬季に相当する大気中の水分量が少ない時にはドレン流量が少なく、油分濃度は高い。そこで前記2つの運転方法の特徴を生かして、ドレン流量が多く油分濃度が低い場合には連続処理を行い、ドレン流量が少なく油分濃度が高い場合には間歇運転を行うことにより、小型で高速処理可能な油水分離装置を構成できる。
【0063】
間歇処理運転は、槽外循環期間と被処理液供給期間の長さを異ならせた複数のパターンを用意して、中間濃度域の余裕を広くすることが可能である。また、間歇処理運転のみで装置を構成することもできる。
【0064】
本発明によれば疎水性の低い油を含むために、約半年放置しておいても油水が分離することがない被処理液を高速に分離できる。
塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムと水酸化ナトリウムとを添加して油水分離を促進する方法では、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムと被処理液が十分混合した後に水酸化ナトリウムを添加すると油水分離効果が大きくなるので、連続処理運転に較べて間歇処理運転のほうが油水分離性能は高くなる。
【0065】
これらの運転パターン選択にはドレン流量または油分濃度の情報が必要である。油分濃度は短時間で計測する方法が無いので、運転パターン選択にはドレン流量の情報を用いる。ドレン流量は大気中の水分量,空気圧縮機の吐出空気圧力,空気冷却器の出口温度,凝縮水補集効率などから計算できる。従って、大気温度と大気湿度を計測すれば良い。一方、通常は空気圧縮機からのドレンを溜めるタンクを設けてあり、この中に液面計を取付け、液面の変化からドレン流量を算出しても良い。また、大気温度のみを測定して、大気湿度100%としたドレン最大流量を計算し、この値を制御に用いることも可能である。
【0066】
実際にはこれらの手法を単独もしくは組み合わせて、制御に用いる。これらのパターンや運転モードの切り替えは図示していない制御装置にシーケンスプログラムとして用意しておき、油分濃度を確認するための大気中における湿度などの上述した各項目の計測結果やカレンダーなどに基づいて適宜に切り替えるようにしておくこともできる。
【0067】
次に、図2に示した本発明の他の実施形態について説明する。
【0068】
図1に示した実施形態では、水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の供給は、循環ポンプ31の入口圧力と大気圧との差圧を駆動力としていたが、図2の実施形態は注射器のような往復運動をする空気作動式のシリンジ73,93によって水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を所望量供給するものであり、空気配管74,94と空気供給制御バルブ75,95が付属している。循環ポンプ31などを含む外部循環系の運転条件に左右されることなく、処理槽11の分離部81内へ水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を供給することができ、供給量を任意に調節できる。
【0069】
この実施形態は、水酸化ナトリウム水溶液や塩化カルシウム水溶液を連続供給できないので、間歇処理運転に好適である。
【0070】
次に、図3に示した本発明の他の実施形態について説明する。
【0071】
図3に示す実施形態では、水酸化ナトリウム水溶液や塩化カルシウム水溶液の各タンク71,91にそれぞれに専用の定量供給ポンプ76、96を設け、循環ポンプ31などを含む外部循環系の運転条件に左右されることなく、水酸化ナトリウム水溶液や塩化カルシウム水溶液を処理槽11の分離部81内へ供給し、またその供給量を任意に調節できるので連続処理運転および間歇処理運転に対応できる。なお、配管72,92の出口を配管30または32に接続して運転することもできる。
【0072】
次に、図4に示した本発明の他の実施形態について説明する。
【0073】
この実施形態も図3の実施形態と同様、それぞれに専用の供給ポンプ76,96を設けているが、水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を配管72、92を通して添加液上部タンク78a,98aに供給し、これらの内部にある添加液一時タンク78b,98bを満たしたのちの余剰液は配管80,100を通してタンク71,91に回収する。
【0074】
水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液は、添加液一時タンク78b,98bからバルブ77,97を開放して配管79,99を通して分離部81の被処理液に定量混合する。
【0075】
この実施形態は、図2の実施形態と同様に水酸化ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の連続供給ができないので、間歇処理運転に好適である。
【0076】
図示しないが、このほかに図2乃至図4の各実施形態で水酸化ナトリウム水溶液を図示しない被処理タンクを介して処理槽11の分離部81へ供給し、塩化カルシウム水溶液を図1乃至図4の方法で処理槽11の分離部81へ供給するようにしても良い。
【0077】
図5に、本発明による油分離効果の一例を示す。
【0078】
スクリュー圧縮機潤滑油の特殊油であるスーパールブ(コベルコ・コンプレッサ株式会社の商品名)は圧縮機からのドレンを6ヶ月以上静置しておいても、油分はコロイド状を保持し、油分が浮上分離することはない。この油と純水を混合して模擬ドレンを製造した場合も、長期間静置しても油分が浮上分離することはない。
【0079】
この模擬ドレンの油分濃度を通常のスクリュー圧縮機ドレンと同等の300mg/Lにした場合、ドレン1Lに対して塩化カルシウムだけを1g以上添加して図1の処理装置を運転すると排水基準の5mg/Lまで油分離可能である。油分濃度を変化させても同様の結果であり、その特性を図5のOBCで囲まれた領域で示す。
【0080】
塩化カルシウムは食品凝固剤として使用されており、正の2価金属イオンであるカルシウムは負に帯電した油粒子を電気的に中和して凝集する効果を有する。しかし、塩化カルシウムは融雪剤としても使用されており、高濃度の場合には金属を腐食させることが知られている。したがって、油分離に塩化カルシウムを使用する場合には塩化カルシウムの添加量を少なくする必要がある。圧縮機ドレンの水分は大気中の水分が凝縮したものであり、潤滑油が混合した状態でもpH値が4から6の酸性である。このドレンに無機塩の塩化カルシウムを添加してもpH値は変化せず、4から6の酸性である。
【0081】
この塩化カルシウムの添加量を低減しても油分離が可能な方法を種々検討した結果、塩化カルシウムを予め添加し、水酸化ナトリウム添加後のpH値を7以上のアルカリ性にすると油分離しやすくなり、pH値を8以上にして図1の処理装置を運転すると、塩化カルシウム単独添加の50%でも排水基準の5mg/L以下まで油分離が可能であることが判った。その特性を図5のOCDで囲まれた領域で示す。この領域で運転すると、排水は弱アルカリ性であり、金属材料は酸化腐食されにくい。
【0082】
塩化カルシウム添加量をさらに減少すると、水酸化ナトリウムを添加しても排水基準の5mg/Lまで油水分離できない。その特性を図5のOADで囲まれた領域で示す。従って、線分OC,ODは、それぞれドレンの油分濃度に対する塩化カルシウムや水酸化ナトリウム添加による油水分離効果の下限を示している。
【0083】
上記特性は、以下のように説明することもできる。即ち、塩化カルシウム(CaCl2)添加量をB1としてドレン中油分濃度が増加すると、油分濃度がA1以上では排水基準の5mg/Lまで油を分離できない。そこで、塩化カルシウム(CaCl2)をB1の分量で添加した後に水酸化ナトリウム(NaOH)を添加してドレンをアルカリ性にする方法を用いると、油分濃度A2までは排水基準の5mg/Lまで油を分離できるようになる。油分濃度がA2以上になると塩化カルシウム(CaCl2)の添加量がB1では油水分離できない。
【0084】
油の凝集を促進する他の物質として、食品凝固剤としての使用が認められている塩化マグネシウム(MgCl2)があり、塩化カルシウムと同様に水酸化ナトリウムと組合せて使用すると、図5と同様の効果が得られる。塩化カルシウムと塩化マグネシウムは、水酸化ナトリウムとの組合わせにおいて併用しても良い。
【0085】
油の凝集を促進する他の物質として、正の3価金属であるアルミニウムの化合物である塩化アルミニウムを用いると、塩化カルシウムよりも凝集効果が高い。しかし、アルミニウムは金属腐食性が特に強いために金属を使用できないので装置構成が困難になる。また、人体への影響が懸念され、水処理での使用が制限される方向にある。
【0086】
以上の説明では鉱物油の油水分離について説明したが、食用油の分離に適用しても良い。植物油は排水基準が30mg/Lとやや緩やかであるので、その分塩化カルシウム,塩化マグネシウム,水酸化ナトリウムなどの添加量を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0087】
11…処理槽
12…遮蔽板
15…仕切板
21…供給ポンプ
22,36,42,52…バルブ
23,30,32,37,41,51…配管
31…循環ポンプ
33…ノズル
61…被処理液面
62…浮上油液面
71…水酸化ナトリウム液タンク
81…分離部
82…ポケット状吸入部
83…浮上油受け部
91…塩化カルシウム水溶液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液を水と油分とを分離させる油水分離装置において、
該ポンプの吸込み側に塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方を供給する配管と水酸化ナトリウム水溶液を供給する配管を設け、さらに該ポンプの吸込み側に圧力調整弁を設けて、該圧力調整弁の開度調整により該ポンプのポンプ吸込圧力を大気圧よりも低くして大気圧と該ポンプ吸込圧力の差圧を駆動力として塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を別々に該被処理液に混合させることを特徴とする油水分離装置。
【請求項2】
被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液を水と油分とを分離させる油水分離装置において、
該処理槽の被処理液に塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を別々に定量供給するポンプを設けたことを特徴とする油水分離装置。
【請求項3】
被処理液に空気を供給しポンプで加圧して被処理液に空気を溶解させ、処理槽の下部から溶解させた空気を気泡として被処理液とともに吹き出させることによって、該処理槽において被処理液に含まれる油分を気泡とともに浮上させ該被処理液を水と油分とを分離させる油水分離装置において、
塩化カルシウム水溶液および塩化マグネシウム水溶液の少なくとも一方と水酸化ナトリウム水溶液を貯蔵するタンクを該処理槽における被処理液面よりも高い場所にそれぞれ設け、該各タンクから各水溶液を該処理槽に導く配管にバルブを設け、各バルブを開放して重力で各水溶液を被処理液に混合させることを特徴とする油水分離装置。
【請求項4】
疎水性が低い油分を含む被処理液に塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムの少なくとも一方と水酸化ナトリウムを別々に混合し、被処理液をアルカリ性状態にすることによって油水分離を促進することを特徴とする油水分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−240339(P2011−240339A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146945(P2011−146945)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【分割の表示】特願2005−181427(P2005−181427)の分割
【原出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】