説明

油水分離装置

【課題】 ビルジ水等に含まれる界面活性剤により乳化した微小径の乳化油を外部からの解乳化のための薬品添加を必要とせずに解乳化することができ、解乳化された油がフロックになることもなく通常の油滴として分離回収できる簡便な油水分離装置を実現する。
【解決手段】 ビルジタンク1内のビルジ水を平行板式分離装置2に導き、平行板2aの間隙を通過させることにより大きな油滴を浮上分離させた後、解乳化槽3に導き、石膏等の充填材3aから溶出するCaイオンとビルジ水中の界面活性剤とを反応させて乳化油を解乳化させる。そして、解乳化された油を凝集分離槽4に導き、流入側に大きい径の繊維の層を有し流出側に径の小さい繊維の層を有するコアレッサー4aを通過させることにより、極小径の油滴であったものを浮上しやすい大きさに集合させて浮上分離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離装置に関し、特に船舶内において発生するビルジ水等に含まれる乳化油の分離回収に好適な油水分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶内において発生するビルジ水の排出時の油分濃度について、新たな規制が2005年より導入されることになった。この規制は、海洋汚染を防止しさらなる環境改善を図ることを目的として実施されるものであり、油水分離により乳化油を含む油分濃度を15PPM以下に抑えることを要求している。そのため、特に、ビルジ排水中に含まれる乳化油(O/Wエマルジョン)を徹底的に除去する技術が求められている。
【0003】
従来、油水分離の方式としては、微細油粒子の水と油の比重差や粘度差を応用した浮上分離方式や、親油性繊維を積層したエレメントを組み合わせ、被処理液を通過させることにより分離する方式が一般的であった。
【0004】
浮上分離方式では、微小油粒子が互いに吸引結合する特性を応用し、多層平行板の間に被処理水を通過させ、平行板に付着した油滴を大きく成長させ、平行板を離れて上部に浮上させる。
【0005】
また、積層エレメントを組み合わせる方式では、ステンレス鋼線と耐熱耐食性を有する特殊繊維を何層にも重ねたエレメントを使用し、親油性素材の特性を応用して、特殊繊維層を通過した被処理水中の微細油粒子を親油性素材である繊維に付着させ、大きく成長させて、繊維を離れ上方に浮上させる。
【0006】
実際に行われている油水分離の処理プロセスは、上記二つの方式を組み合わせたものである。図3に従来の油水分離の処理プロセスの一例を示す。
【0007】
この例では、ビルジタンク1内のビルジ水が、平行板式分離装置2を通って凝縮分離槽4に導かれ、凝縮分離槽4を通過した廃液は外部に排出される。
【0008】
平行板分離装置2は浮上分離方式の分離装置であって、ビルジ水が平行板と称される平行に積層された板2aの間隙を通過し、その際、ビルジ水中の大きな油滴は集合してさらに径が増大し浮上分離する。これにより50〜60ミクロン程度の油滴を捕獲することができる。
【0009】
そして、小さな油滴は、凝縮分離槽4において、金属網やガラス繊維の網などの集積層からなるコアレッサー4aを通過するときに、油滴が集合して径が増大し、5〜10ミクロン程度の油滴となって浮上分離される。
【0010】
しかしながら、ビルジ水中には乳化して微小径になった油滴(乳化油)があって、そのような微小径の乳化油は、上記プロセスだけで完全に分離することは不可能である。乳化油は界面活性剤によって分散されたエマルジョンであり、1ミクロン以下の微小径の油滴として水中に分散しているため、これを浮上分離するには、この微小径の油滴を集合させ、径を増大させる必要がある。乳化油は、油滴の表面に付着した界面活性剤の電離によって表面に電荷を持ち、これによって電気的に油滴同士が反発しあって水中に分散しており、そのためそのような微小径の油滴となっている。一般的には陰イオン界面活性剤が多く用いられるため、油滴の表面は負(マイナス)になっている。
【0011】
そこで、油滴表面の電荷を何らかの方法で中和し解乳化することにより油滴を集合させることが考えられる。
【0012】
中和技術としては、Ca2+、Mg2+,Al3+等の陽イオンを供給し界面活性剤の陰イオンと反応させる方法、または強アルカリまたは強酸雰囲気にすることによって中和する方法が知られている。
【0013】
そして、Ca2+、Mg2+,Al3+等の陽イオンを供給し界面活性剤と陰イオンを反応させる方法では、カルシウム、マグネシウムやアルミニウムのイオン源となる水溶性化合物溶液を添加する方法、同様にイオン源となる粉末を添加する方法が一般的である。しかし、これらの方法で中和するプロセスは、薬品添加前の処理水のpH調整、薬品の定量供給装置、そして処理水のPh調整を必要とする。また、このプロセスでは、反応後、油滴がフロックとなりフロックの後処理が極めて煩雑となる。強アルカリや強酸を添加する方法の場合も、これと同様の問題を有している。
【0014】
油圧の作動油等で、撹拌により乳化した微小な乳化油が混入した液中から乳化油を分離除去する装置として、親油性の繊維からなり、繊維径および繊維密度を段階的に変えた複数のコアレッサー(セパレータ)を使用し、被処理液を連続的に流すことにより、乳化状態で混入した油の粒子を次第に肥大化させて分離する乳化油分離装置も提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、それは、攪拌による乳化した乳化油を分離除去するものであって、ビルジ水中の乳化油のように界面活性剤によって乳化したことにより油滴が表面に電荷を持ち、電気的に油滴同士が反発しあった状態の乳化油の分離除去は困難である。
【特許文献1】特開平8−309102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の通り、ビルジ水中の微小径の乳化油の油滴を集合させ径を増大させて浮上分離するには、油滴表面の電荷を中和し解乳化することが必要である。しかし、従来の中和技術による解乳化の方法では、薬品添加前の処理水のpH調整、薬品の定量供給装置、処理水のPh調整、そして発生フロックの煩雑な処理などを実施しなくてはならないという複雑なプロセスとならざるを得なかった。
【0016】
本発明は、ビルジ水等の被処理液中に含まれる界面活性剤により乳化した微小径の乳化油を外部からの解乳化のための薬品添加を必要とせずに解乳化することができ、解乳化された油がフロックになることもなく、通常の油滴として分離回収できる簡便な油水分離装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の油水分離装置は、被処理液中に含まれる界面活性剤により乳化した乳化油を解乳化し集合させて浮上分離させる油水分離装置であって、外部薬品注入装置を必要としない固体の薬品を使用する解乳化装置と、該解乳化装置を通過して解乳化された油滴を付着集合させ浮上分離させる単一のコアレッサーからなる凝集分離装置を設けたことを特徴とする。
【0018】
この油水分離装置は、解乳化装置と凝集分離装置とからなる簡便な構成で、ビルジ水等の被処理液中に含まれる界面活性により乳化した微小径の乳化油を、解乳化装置において外部からの解乳化のための薬品添加を必要とせずに解乳化し、解乳化された油を凝集分離装置にて浮上分離させ、フロックを発生させることなく分離回収することができる。
【0019】
解乳化装置に使用する固体の薬品は、石膏(硫酸カルシウム)、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント、アルミナセメント、水酸化マグネシウム等の2価の陽イオンを溶出する無機物質の1種またはそれらの混合物を、所定の形状およびサイズに成形したものとし、それを使用期間中に解乳化に必要な量の陽イオンが継続して供給されるように充填量を設定して前記解乳化装置内に充填するのがよい。
【0020】
特に石膏は、水に対して徐溶性を示すので、解乳化に必要な量の陽イオンを継続的に供給できる。また、その水溶液は中性であり、石膏を用いることによって処理液の中和処理が不要になり、装置が簡素になる。
【0021】
また、石膏を使用する場合でも、必要に応じて、石膏単独だけではなく、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント、アルミナセメント、水酸化マグネシウムの1種または2種以上との組み合わせとする。それにより、溶出イオン量、溶出速度を制御することができる。
【0022】
組み合わせる場合、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント、アルミナセメント、水酸化マグネシウムは強アルカリであるため、pHが廃水規制の許容範囲に入る割合内でなければならないことはいうまでもない。
【0023】
石膏と、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント、アルミナセメント、水酸化マグネシウムとを組み合わせる場合、石膏以外の材料の割合は、石膏1に対して1.5以下、好ましくは1.0以下とする。1.5以上ではpHが高くなり、処理水を中和して排出しなくてはならならなくなる。
【0024】
石膏または混合物のサイズは、例えば、球状のものでは、径が5〜100mm、好ましくは10〜50mm、矩形、直方体のものでは、対角線の長さが6〜30mm、好ましくは9〜28mm、円柱、円錐台状のものでは、下底半径の2乗と高さの2乗の和の平方根が10〜140mm、好ましくは14〜70mmとする。いずれの形状でも、上記それぞれの下限値以下では、石膏または混合物からなる充填層の通水性が低下して圧損が高くなり、上限値以上では充填物間の空隙が大きくなって水との接触が悪くなり反応効率が低下する。
【0025】
処理量V(重量/時間)に対する、装置に充填する石膏または混合物量G(重量)の比率G/Vは、3/40〜3/4、好ましくは1/10〜5/10とする。G/Vが3/40以下では、反応に必要なイオンの溶出量を達成できない。また、3/4以上では、溶出量が過度になり排水中のイオン量が増加して好ましくない状態となる。
【0026】
また、コアレッサーは、径0.03〜0.45mmのガラス繊維または金属繊維の不織布または紡糸されたものを織物にした布を所定の厚さになるように円筒状に重ねたものとするのがよく、特に、被処理液の流入側に大きい径の繊維でできた層が形成され、流出側に径の小さい繊維でできた層が形成されるよう組み合わせた構成とするのがよい。
【0027】
具体的なコアレッサーの構造は、例えば、内層側に大きい径の親油性の繊維でできた不織布または布を複数回穴のあいたパイプに巻き、さらにその外層側には極小径の親油性の繊維でできた不織布または布を複数回巻いたものとする。
【0028】
この配置により、大きい径の油滴から順番に集合させ、解乳化後の極小径の油滴までを効率的に集合させることができる。
【0029】
この場合、繊維と繊維とでできる空隙は繊維径が小さいほど小さくなり、その空隙が小さいほど小さい径の油滴を効率よく吸着する。解乳化後の油滴は非常に小さく、極小径の繊維で作られた空隙でなければ効率的に吸着されない。したがって、繊維径を極小径とするで、解乳化後の油滴を効率よく吸収できる。そして、吸着された油滴は漸次集合し、浮上の容易な径の油滴に成長していく。そのため、特に、コアレッサー外層に使用するガラス繊維または金属繊維は、径3〜9ミクロンの極小径の繊維を使用した不織布または極小径の繊維を紡糸して織物にした布のいずれか一種、またはそれらの組み合わせたもので構成することが望ましい。
【0030】
そして、コアレッサーは、前記不織布または織物にした布を2〜6層、好ましくは2〜3層となるよう、重ねて(巻いて)構成するのが望ましい。層の数が1層では十分な凝集効果が得られず、7層以上では圧損が高くなり処理水の流動に支障をきたす。
【0031】
また、コアレッサーからの排水を解乳化槽に一部を還流するのがよく、それにより、排水中の余剰の残留イオンを再利用することもできる。
【発明の効果】
【0032】
以上のとおり、本発明によれば、外部薬品注入装置を必要としない固体の薬品を使用する解乳化装置を用いることにより、薬液注入装置による外部からの解乳化のための薬品添加を必要とせずに、ビルジ水等の被処理液中に含まれる界面活性により乳化した微小径の乳化油を解乳化することができ、解乳化された油がフロックになることもなく、通常の油滴として分離回収できる簡便な油水分離装置を実現することができる。
【0033】
特に、解乳化装置に使用する固体の徐溶性の無機質材料として石膏を用いることにより、石膏が中性であるために薬液注入前のpH調整、薬液処理後の中和処理が不要になる。
【0034】
また、解乳化された極小の油滴はコアレッサーで集合させ、浮上分離させて回収できるため、フロックが発生せず、フロック処理が不要となるのみならず回収した油を燃料としてリサイクルができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態の一例の油水分離装置のシステム構成図、図2は、同油水分離装置におけるコアレッサーの概略構造図である。
【0037】
この実施の形態の油水分離装置は、例えば船舶内に発生するビルジ水の油水分離を行うもので、ビルジタンク1内のビルジ水は、まず、平行板式分離装置2に導かれる。そして、ビルジ水は平行板分離装置2内で平行板2aの間隙を通過し、その際、ビルジ水中の大きな油滴は集合してさらに径が増大し、浮上分離する。
【0038】
平行板式分離装置2を通過したビルジ水は、解乳化槽3(解乳化装置)に導かれる。そして、解乳化槽3に充填されている石膏等の充填材3aから溶出するCaイオンとビルジ水中の界面活性剤が反応して界面活性剤の効果が消失し、その結果、乳化油が解乳化される。
【0039】
そして、解乳化された油は凝集分離槽4に導かれ、コアレッサー4aを通過することによって、極小径の油滴であったものが浮上しやすい大きさに集合して浮上分離し、浮上油13として外部に排出される。
【0040】
コアレッサー4aの構造は図2に示すとおりで、穴のあいたパイプ11の外側に内層9として径の大きなガラスまたは金属繊維の不織布または布が巻かれ、さらにその外側に外層8として極小径のガラスまたは金属繊維の不織布または繊維が巻かれている。解乳化された油を含む処理水12は、パイプ11内に導入され、内層9を通過し、さらに外層8を通過する際に、集合し、径が大きくなって浮上分離し、浮上油13として排出される。図2おいて、符号10は処理水の流れを示している。
【0041】
そして、凝集分離槽4を通過した処理水は、フィルター5で最終処理が行われ、還流パイプ7を通って解乳化槽3に一部が還流され、残りは廃液6として外部に排出される。
【0042】
なお、この油水分離装置は、ビルジ水の処理以外に、一般の工場の廃水処理等にも適用でき、様々な実施の形態が可能である。
【実施例】
【0043】
図1及び図2に示す上記実施の形態の油水分離装置により、3000ppmの乳化油を含む廃液(ビルジ水)を処理した。廃液に含まれる界面活性剤はドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(DBS)で、含有量は30ppmであり、処理量は1000kg/時間である。
【0044】
解乳化槽3には、15×15×15mmの立方体に成型された石膏を200kg充填した。また、コアレッサーは、径0.3mmの繊維でできたガラスクロスが2層巻かれ、径3〜9ミクロンの極小径ガラス繊維でできた不織布が外側に3層巻かれたものを使用した。
【0045】
処理の結果、3000ppmの濃度の乳化油が、フィルター5通過後の廃液6の段階で、3ppmの濃度に低下した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態の一例の油水分離装置のシステム構成図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例の油水分離装置におけるコアレッサーの概略構造図である。
【図3】従来の油水分離装置のシステム構成図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ビルジタンク
2 平行板式分離装置
2a 平行板
3 解乳化槽
3a:充填材(石膏等)
4 凝集分離槽
4a コアレッサー
5 フィルター
6 廃液
7 還流パイプ
8 外層(極小径繊維製の不織布または布)
9 内層(大きい径の繊維製の不織布または布)
10 液の流れ
11 パイプ
12 処理水
13 浮上油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液中に含まれる界面活性剤により乳化した乳化油を解乳化し集合させて浮上分離させる油水分離装置であって、外部薬品注入装置を必要としない固体の薬品を使用する解乳化装置と、該解乳化装置を通過して解乳化された油滴を付着集合させ浮上分離させる単一のコアレッサーからなる凝集分離装置を設けたことを特徴とする油水分離装置。
【請求項2】
前記解乳化装置に使用する固体の薬品は、石膏、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント、アルミナセメント、水酸化マグネシウム等の2価の陽イオンを溶出する無機物質の1種またはそれらの混合物を、所定の形状およびサイズに成形したものとし、それを使用期間中に解乳化に必要な量の陽イオンが継続して供給されるように充填量を設定して前記解乳化装置内に充填することを特徴とする請求項1に記載の油水分離装置。
【請求項3】
前記コアレッサーは、0.03〜0.45mm径のガラス繊維または金属繊維の不織布または紡糸されたものを織物にした布を所定の厚さになるように円筒状に重ねてなることを特徴とする請求項1または2に記載の油水分離装置。
【請求項4】
前記コアレッサーは、前記0.03〜0.45mm径のガラス繊維または金属繊維の不織布または紡糸されたものを織物にした布を、被処理液の流入側に大きい径の繊維でできた層が形成され、流出側に径の小さい繊維でできた層が形成されるよう組み合わせた構成となっていることを特徴とする請求項3に記載の油水分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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