説明

油焼入装置

【課題】ワークのサイズおよび形状にかかわらず、焼入処理されにくい箇所の発生を防止し、焼入歪のバラツキを抑えることが可能な油焼入装置を提供する。
【解決手段】油焼入装置10は、エレベータ124、エレベータ昇降部126、油槽撹拌ユニット22、油中噴射機構、およびCPU50を備える。油槽撹拌ユニット22は、油槽120内の焼入油122を撹拌し循環させるように構成される。油中噴射機構は、先端がワーク100の外周面に対向するように配置された複数の噴射ノズル250を備える。CPU50は、エレベータ昇降部126、油槽撹拌ユニット22、および油中噴射機構の動作を制御するように構成される。そして、CPU50は、油冷期間の一部または全部において、エレベータ昇降部126、油槽撹拌ユニット22、および油中噴射機構を動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱室で加熱したワークを焼入室における油槽内の焼入油に浸漬して油冷する油焼入装置に関する
【背景技術】
【0002】
油焼入装置は、変成ガス雰囲気等の無酸素状態でワークを加熱する加熱室、および加熱室にて加熱されたワークを急冷するための油槽を備えている。近年、焼入処理するワークの大型化に伴い、ワークを急冷するための油槽が大型化する傾向がある。
【0003】
このような大型の油槽を備えた油焼入装置の中には、ワークの冷え方を均質化してワークの良好な焼入品質を確保するために、油槽内の焼入油を撹拌して循環させる油槽撹拌ユニットを設けるものがあった。例えば、従来の油焼入装置の中には、ワークが油槽内にあるときにはエレベータを昇降させて油槽内でワークを揺動させつつ焼入処理を行う一方で、ワークが油槽から引き上げられた後に油槽撹拌ユニットによって油槽内の油を撹拌するように構成されるものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−350756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ワークの形状や設置状態によっては、油槽内にてワークを上下に揺動させても、ワークの冷え方を均質化させることが困難になる場合があった。例えば、大型軸受、大型歯車、およびインペラ等のワークに対して焼入処理を行う際には、ワークにおいて焼入処理されにくい箇所が発生し、焼入歪のバラツキを抑えることが困難になることがあった。
【0006】
本発明の目的は、ワークのサイズおよび形状にかかわらず、焼入処理されにくい箇所の発生を防止し、焼入歪のバラツキを抑えることが可能な油焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る油焼入装置は、焼入油を貯留する油槽を下部に有する焼入室と、焼入室に扉を介して接続された加熱室と、を備えるとともに、加熱室で加熱されたワークを油槽内の焼入油に浸漬して油冷するように構成される。この油焼入装置は、エレベータ、
エレベータ昇降手段、油槽撹拌手段、油中噴射手段、および制御手段を備える。
【0008】
エレベータは、焼入室においてワークを下から支持するように構成され、かつ、加熱室で加熱されたワークを設定された油冷期間にわたって焼入油に浸漬するように構成される。油槽における焼入油の循環効率を考慮すると、エレベータは、その底面が、ワークを下から支持するように構成された複数のローラによって構成されることが好ましいが、レール機構やチェーンコンベア機構等によって底面を構成しても良い。エレベータ昇降手段は、エレベータの昇降を駆動するように構成される。
【0009】
油槽撹拌手段は、油槽内の焼入油を撹拌し循環させるように構成される。油中噴射手段は、先端がワークの外周面に対向するように配置された複数の噴射ノズルを備える。複数の噴射ノズルはそれぞれ、その先端がワークの中心を向くように配置されることが好ましいが、必ずしも各ノズル毎に配置角度を変える必要はない。
【0010】
制御手段は、エレベータ昇降手段、油槽撹拌手段、および油中噴射手段の動作を制御するように構成される。そして、この制御手段は、油冷期間の一部または全部において、エレベータ昇降手段、油槽撹拌手段、および油中噴射手段を動作可能とされている。例えば、制御手段は、油冷期間においてエレベータ昇降手段、油槽撹拌手段、および油中噴射手段を同時に動作させたり、設定されたパターンに従って順次的に動作させたり、これらのうちの2以上の手段を選択して適宜組み合わせて動作させたりすることが可能である。
【0011】
上述の構成においては、油冷期間中にエレベータ昇降手段、油槽撹拌手段、および油中噴射手段が動作するため、油冷期間中にも油槽中の焼入油の循環が行われ、その循環した焼入油が焼入処理中のワークの全域にほぼ均等に行き渡り易くなり、しかも、ワークにおける外周面から窪んだような焼入れされにくい箇所への集中冷却が並行して行われる。
【0012】
このため、ワークのサイズや形状にかかわらず、ワークの全域において油槽内での冷え方を均質化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ワークのサイズおよび形状にかかわらず、焼入処理されにくい箇所の発生を防止し、焼入歪のバラツキを抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】油焼入装置の概略を示す図である。
【図2】焼入室の概略を示す図である。
【図3】油槽の概略平面図である。
【図4】油焼入装置の概略を示すブロック図である。
【図5】ワークの上下揺動処理および油中噴射処理を示す図である。
【図6】焼入油の循環処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る油焼入装置10の概略構成を説明する。油焼入装置10は、加熱室14および焼入室12を備える。
【0016】
加熱室14は、ワーク100に対して加熱処理を行うヒータ142を内部に備える。また、加熱室24は、ワーク100の搬入および搬出を行うように構成された複数のローラ144を備える。
【0017】
焼入室12は、中間扉20を介して加熱室14に接続される。また、焼入室12は、前扉160を介して搬送部16に接続される。搬送部16は、油焼入装置10に対するワーク100の搬入および搬出を行うように構成される。
【0018】
さらに、焼入室12は、焼入油122を貯留する油槽120を下部に有する。また、焼入室12は、ワーク100を油槽120内に浸漬させるためのエレベータ124を備える。エレベータ124は、シリンダ機構等を有するエレベータ昇降部126から駆動力を受けることにより、垂直に延びるように構成された複数のガイド128に沿って昇降するように構成される。
【0019】
続いて、図2および図3を用いて油槽120の構成を説明する。油槽120内には、図2および図3に示すように、焼入油122を攪拌するように構成された4つの油槽撹拌ユニット22が設けられる。油槽撹拌ユニット22は、円筒状ダクト222内に配置された撹拌プロペラ224を駆動することによって、ダクト222の上方から焼入油122を吸い込み、ダクト222の下方へ吐き出す。
【0020】
油槽撹拌ユニット22の下方には、円筒状ダクト222に連通するように構成された断面視U字状を呈する油整流ダクト24が2つ配置される。油整流ダクト24は、油槽120の炉長方向(図1での左右方向、図2での紙面垂直方向)の略全域にわたって配置されており、ダクト222から下方向に吐き出される油をUターンさせつつ油槽120中央部に案内し、油槽120中央部に上向きの流れを形成するように構成される。上述した4つの油槽撹拌ユニット22および2つの油整流ダクト24により、油槽120の内部に2つの油循環経路が発生する。なお、油槽撹拌ユニット22および油整流ダクト24の構成はこの実施形態のものに限定されるものではなく、ワーク100や油槽120のサイズに応じて、油槽撹拌ユニット22および油整流ダクト24の数を適宜増減することが可能である。
【0021】
続いて、図3を用いて、ワーク100の周囲からワークに対して油を噴射する油中噴射機構について説明する。図3に示すように、油槽120内には、各ガイド128およびエレベータ124の周囲を取り囲むように4つの噴射油導入ダクト243、244、245、および246が複数段(例えば、2段)に設けられる。各噴射油導入ダクト243、244、245、および246はそれぞれ、複数の噴射ノズル250を備えている。複数の噴射ノズル250はそれぞれ、その先端がワーク100の外周面に対向するように配置される。このとき、各噴射ノズル250がワーク100の中心を向くように配置されることが好ましい。また、ワーク100の形状に合わせて油の噴射角度を変えられるように、噴射ノズル250が手動または自動にて角度調整可能に構成されることが好ましい。特に、ユニバーサルジョイント等により噴射ノズル250が水平方向にも垂直方向にも回転する構成を採用することが好ましいと言える。
【0022】
上述の噴射油導入ダクト243、244、245、および246は、複数の噴射駆動ユニット242のそれぞれを介して油槽120内の所定箇所(例えば、この実施形態では、油整流ダクト24)に連通している。各噴射駆動ユニット242は、ポンプ等を内蔵しており、油槽120内の油を吸い込み、加圧した状態で噴射油導入ダクト243、244、245、または246に送り込むように構成されている。
【0023】
図4は、油焼入装置10のブロック図である。油焼入装置10は、センサユニット58、扉開閉機構56、搬送駆動ユニット60、ROM52、およびCPU50を備える。センサユニット58は、油焼入装置10の環境情報(例えば、加熱室12および焼入油122の温度)やエレベータ124の位置等を検出するように構成される。扉開閉機構56は、前扉160および中間扉20の開閉動作を制御する。搬送駆動ユニット60は、搬送部160、ローラ125、およびローラ144を駆動するように構成される。ROM52は、油焼入装置10の動作に必要な複数のプログラムを格納する。CPU50は、ROM52に格納されたプログラムに基づいて、油焼入装置10の各部の動作を統括的に制御する。
【0024】
続いて、油焼入装置10の動作を説明する。油焼入装置10では、まず、搬送部16および焼入室12を介して加熱室14にワーク100がローラ搬送される。加熱室14で所望の加熱処理がされたワーク100は、油冷を行うために、中間扉20を介して焼入室12にローラ搬送される。焼入室12に導入されたワーク100はエレベータ124に設けられたローラ125によって下から支持された状態で、油槽120内に搬送され、焼入油122に浸漬される。
【0025】
ワーク100が所定の浸漬位置に配置されたことを位置センサ等からの信号により確認すると、CPU50は、ワーク100の上下揺動処理、油中噴射処理、および焼入油122の循環処理を実行する。ここでは、ワーク100の種類に応じて上下揺動処理、油中噴射処理、および焼入油122の循環処理の任意の組み合わせが適宜選択される。例えば、CPU50は、油冷期間において上下揺動処理、油中噴射処理、および焼入油122の循環処理を同時に実行したり、設定されたパターンに従って順次的に実行したり、または、これらのうちの2以上の処理を選択して適宜組み合わせて実行したりすることが可能である。
【0026】
ここで、ワーク100の上下揺動処理は、図5(A)に示すように、所望期間にわたって、間欠的に、または連続的にCPU50がエレベータ昇降部126を介してエレベータ124を昇降させることによって繰り返される。また、油中噴射処理は、図5(B)に示すように、CPU50が、所望期間にわたって、噴射駆動ユニット242を動作させることによって行われる。さらに、焼入油122の循環処理は、図6に示すように、所望期間にわたって、CPU50が油撹拌装置22を動作させることによって行われる。
【0027】
このように、ワーク100の種類に応じて、上下揺動処理、油中噴射処理、および焼入油122の循環処理の任意の組み合わせが適宜選択されることにより、ワークの種類に応じて最適な油冷操作を行うことができる。
【0028】
なお、CPU50が、エレベータ昇降部126、噴射駆動ユニット242、および油撹拌装置22の任意の組み合わせを適宜選択して実行するのは、油冷期間の全部であることが好ましいが、必ずしも全油冷期間にわたって実行する必要はない。例えば、油冷期間の一部において上述の処理を実行することでも、本発明の所望の作用効果を得ることは可能である。
【0029】
そして、所望の時間だけ油冷された後、ワーク100は、エレベータ124によって油槽22から引き上げられ、所定の油切り時間の経過後、ローラ125によって前扉16から搬送部16に送り出される。
【0030】
上述の構成によれば、ワーク100が焼入油122に浸漬した状態で揺すられるため、焼入処理中においてワーク100の全域にほぼ均等に焼入油122が行き渡り易くなる。また、油撹拌装置22による焼入油122の循環処理が、所望の油冷期間にわたって並行的に行われるため、焼入処理中においても油槽120内の焼入油122の温度のバラツキが小さくなり、ワーク100周囲の焼入油122のみの温度が上昇することが防止される。特に、エレベータ124の底に互いに間隙を設けて配列される複数のローラ125を配置しているため、エレベータ124の底にレール機構や、チェーンコンベア機構を配置する構成に比較して、焼入油122の循環を妨げにくくなるため、油撹拌装置22による焼入油122の循環処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0031】
さらには、インペラのような構造物に挟まれた内面に焼入品質を要求される場合であっても、噴射ノズル250によって、そのような部位への焼入油122の集中噴射を併せて行うことが可能になるため、ワーク100の形状にかかわらずワーク100の冷え方を均質化させることが可能となる。
【0032】
なお、本実施形態では、最適な実施形態として、エレベータ124の底に複数のローラ125を配置した構成を説明したが、エレベータ124の底にレール機構やチェーンコンベア機構を配置する場合であっても本発明の技術思想を適用することは可能である。
【0033】
また、上述の実施形態では、噴射油導入ダクト243、244、245、および246、ならびに複数の噴射ノズル250が2段設けられる構成を説明したが、これらの段数は適宜増減させることが可能である。例えば、エレベータ124の昇降によってワーク100の高さ方向の全域に噴射ノズル250による焼入油122の集中噴射が可能な場合には、噴射油導入ダクト243、244、245、および246は一段であっても良い。一方で、高さのある大型のワーク100の頻繁に焼入処理する場合には、噴射油導入ダクト243、244、245、および246を高さ方向に3段以上設けることが好ましいと言える。
【0034】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
10−油焼入炉
12−焼入室
14−加熱室
16−搬送部
22−油槽撹拌ユニット
120−油槽
124−エレベータ
126−エレベータ昇降部
243、244、245、246−噴射油導入ダクト
250−噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入油を貯留する油槽を下部に有する焼入室と、
前記焼入室に扉を介して接続された加熱室と、を備えるとともに、前記加熱室で加熱されたワークを前記油槽内の前記焼入油に浸漬して油冷する油焼入装置であって、
前記焼入室において前記ワークを下から支持するように構成され、かつ、前記加熱室で加熱されたワークを設定された油冷期間にわたって前記焼入油に浸漬するように構成されたエレベータと、
前記エレベータの昇降を駆動するように構成されたエレベータ昇降手段と、
前記油槽内の前記焼入油を撹拌し循環させるように構成された油槽撹拌手段と、
先端が前記ワークの外周面に対向するように配置された複数の噴射ノズルを備えた油中噴射手段と、
前記エレベータ昇降手段、前記油槽撹拌手段、および前記油中噴射手段の動作を制御するように構成される制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記油冷期間の一部または全部において、前記エレベータ昇降手段、前記油槽撹拌手段、および前記油中噴射手段を動作可能とされた
油焼入装置。
【請求項2】
前記エレベータは、その底面が、前記ワークを下から支持するように構成された複数のローラによって構成される請求項1に記載の油焼入装置。
【請求項3】
前記複数の噴射ノズルはそれぞれ、その先端が前記ワークの中心を向くように配置された請求項1または2に記載の油焼入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−208235(P2011−208235A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77793(P2010−77793)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)