説明

油脂含有成形品の製造方法および油脂含有食品の製造方法

【課題】油脂の分離を招くことなく、裁断加工に適した油脂含有成形品を製造する。
【解決手段】DSC吸熱ピーク面積の分割積分により求めたSFC値(昇温速度2℃/分)が、10℃で45〜100%、20℃で20〜85%、かつ35℃で0〜15%である油脂組成物20〜70質量%と、ゼラチン4〜15質量%と、水15〜75質量%を含む原料組成物を乳化して乳化物を得る乳化工程と、前記乳化物を冷却して固化する成形工程を有し、前記乳化工程において、加熱開始時の前記油脂組成物の温度が前記SFC値が3%以上となる温度であることを特徴とする油脂含有成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断加工を施すのに好適な油脂含有成形品の製造方法、および該成形品の製造方法を用いた油脂含有食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、常温で固体であるバターは、使用温度において固いブロック状であるため、その一部を取ってパンに塗ったり、加熱前の料理にトッピングしたりするのが難しく、使い勝手が良くない。
【0003】
下記特許文献1には、ゲル化剤を用いて、油脂を含む各種形状(円柱、円盤、薄片、キューブ、細い断片状)の複合食品が提案されている。該複合食品は常温で固体であり、昇温下に液状化する(段落[0014])。
具体的に、特許文献1の実施例には、部分水素添加大豆油、バター、ゼラチン等のゲル化剤、ガーリックパウダー等を含むバターガーリックが記載されている([表1])。製造方法については「典型的な生成プロセスでは…ゲル化剤を他の成分と適当な量で混合し、混合物をゲル化剤の融点にまで加熱して活性化する。(段落[0035])」、「すべての成分と組み合わせるため、およびエマルションの安定化のために撹拌を必要とする。段落[0036]」、「処理温度は、複合配合物中のでんぷんおよび/またはタンパク質の官能量を水和するのに十分に高くしなければならない。(段落[0037])」、「加熱された混合物は適当な温度に冷却して三次元生成物の形成を行う。(段落[0038])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−273688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、バターを使い勝手の良い形状に裁断加工する点に着目した。例えば、バターを細片状に裁断することができれば、パンに振り掛けてトーストすることにより、バターを塗ってトーストしたのと同じ状態が容易に得られる。しかし油脂組成物がカッターの刃に付着しやすいため、裁断加工は実現が難しい。
【0006】
そこで、本発明者等が研究を進めた結果、バターは油中水(W/O)型エマルションであるが、これにゼラチンと水を加えて水中油(O/W)型エマルションとすると、裁断加工し易い性状が得られることを見出した。
この場合、固体の油脂組成物とゼラチンと水とを混合するには、油脂組成物を加熱して一旦液状にした状態でゼラチンおよび水と混合した後、冷却して再び固化させることが必要である。
しかしながら、実際に固体の油脂組成物とゼラチンと水とを均一に混合することは容易ではなく、条件によっては冷却する途中で油脂が分離する場合があることも知見した。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、油脂の分離を招くことなく、裁断加工に適した油脂含有成形品を製造できるようにした、油脂含有成形品の製造方法、および該油脂含有成形品の製造方法を用いて油脂含有食品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の油脂含有成形品の製造方法は、DSC吸熱ピーク面積の分割積分により求めたSFC値(昇温速度2℃/分)が、10℃で45〜100%、20℃で20〜85%、かつ35℃で0〜15%である油脂組成物20〜70質量%と、ゼラチン4〜15質量%と、水15〜75質量%を含む原料組成物を加熱下で撹拌して乳化物を得る乳化工程と、前記乳化物を冷却して固化する成形工程を有し、前記乳化工程において、加熱開始時の前記油脂組成物の温度が前記SFC値が3%以上となる温度であることを特徴とする。
【0009】
前記乳化工程の前に、非加熱下で前記原料組成物を撹拌する非加熱撹拌工程を有することが好ましい。
前記非加熱撹拌工程が、前記ゼラチンと前記水を含み、かつ前記油脂組成物を含まない混合物を非加熱下で撹拌する工程を有することが好ましい。
前記成形工程の前に、前記乳化物を加熱殺菌する工程を有することが好ましい。
前記ゼラチンと前記水を含み、かつ前記油脂組成物を含まない混合物を予め調製し、該混合物に前記油脂組成物を加えて前記原料組成物とすることが好ましい。
前記原料組成物が、ゼラチン以外のゲル化剤をさらに含有することが好ましい。
【0010】
本発明は、本発明の製造方法で油脂含有成形品を製造する工程と、得られた油脂含有成形品を裁断する工程を有する、油脂含有食品の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、本発明の製造方法により製造される油脂含有食品であって、前記油脂組成物がバターであることを特徴とする油脂含有食品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油脂組成物を含有し、裁断加工に適した油脂含有成形品を良好に製造できる。
本発明によれば、油脂組成物を含有し、裁断加工された油脂含有食品を良好に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】油脂組成物の例についてSFC値を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における、DSC吸熱ピーク面積の分割積分により求めたSFC値(以下、単にSFC値という。)の値は、先ず60℃で融解した油脂組成物30μgをサンプルパンに秤量し、2℃/分の速度で−50℃まで冷却後、5分間保持し、再び2℃/分の速度で50℃まで昇温を行い、得られた融解曲線を分割積分して求めた値である。
【0015】
<油脂組成物>
本発明で用いられる油脂組成物は、SFC値が10℃で45〜100%、20℃で20〜85%、かつ35℃で0〜15%である条件(I)を満たす。本発明における油脂組成物は、1種の油脂、2種以上の油脂の混合物、または1種以上の油脂と水分を含む油中水(W/O)型エマルションのいずれかである。油脂の混合物である場合、混合後に条件(I)を満たせばよい。油脂組成物がW/O型エマルションである場合、油脂組成物のSFC値として、エマルション中の油脂(脂肪分)のSFC値を用いるものとする。
10℃でのSFC値は10℃の冷蔵庫で保存中における性状の目安となり、20℃でのSFC値は室温下における性状の目安となり、35℃でのSFC値は、食したときの口の中での性状の目安となる。SFC値が高いほど、融解していない固形分の油脂を多く含むこと示す。
上記の条件(I)を満たす油脂組成物は、乳脂肪と同等のSFC値、または乳脂肪よりも高いSFC値を有する油脂組成物である。SFC値が条件(I)の範囲内であると、本発明の製造方法により、ゼラチンおよび水とともに乳化した後、冷却して固化したときに、油脂の分離が良好に防止される。
かかる条件(I)を満たす油脂組成物は既存の油脂組成物から適宜選択して用いることができる。具体例としては、バター;バターオイル;パーム油;パーム核油;椰子油;パーム油およびパーム核油を主成分とする油脂混合物;バター、オリーブ油、およびパーム核油からなる成分のいずれかを主成分とする油脂混合物;パーム油、パーム核油、椰子油、菜種油およびひまわり油からなる成分のいずれかを主成分とする油脂混合物;等が挙げられる。
【0016】
条件(I)を満たす油脂組成物の中でも、良好な口溶けが得られ易い点で、SFC値が10℃で45〜85%、20℃で20〜65%、かつ35℃で4〜15%という条件(I’)を満たすものが好ましい。
かかる条件(I’)を満たす油脂組成物として、乳脂肪を含む油脂組成物が好ましく、バターまたはバターを含む混合物がより好ましい。油脂組成物の30〜100質量%がバターであることが好ましい。油脂組成物の100質量%がバターであることが特に好ましい。
【0017】
油脂組成物の使用量は、原料組成物の20〜70質量%である。20質量%以上であると、油脂の風味が得られやすい。70質量%以下であると、良好な水中油(O/W)型エマルションが得られやすい。該油脂組成物の使用量の下限値は、油脂組成物の風味が良好に得られやすい点で30質量%以上が好ましい。
【0018】
<ゼラチン>
ゼラチンは市販品から適宜のものを用いることができる。なかでも、粉末状のものが、撹拌混合した際に分散均一化しやすく、良好な乳化状態が得られやすい点で好ましい。
本発明において、油脂組成物にゼラチンを加えることにより、裁断加工しやすい性状が得られる。またゼラチンは、乳化工程後の乳化物において油脂の分離抑制に寄与すると考えられる。
ゼラチンの使用量は、原料組成物の4〜15質量%である。4質量%以上であると、油脂含有成形品を裁断する際の良好な加工適性が得られやすい。15質量%以下であると良好な食感が得られやすい。より良好な加工適性が得られやすい点で、該ゼラチンの使用量の下限値は6質量%以上が好ましい。
特に、ゲル化成分としてゼラチンを単独で使用した場合(ゼラチン以外のゲル化剤を使用しない場合)は、6質量%以上であることが好ましく、7質量%以上がより好ましい。
【0019】
<水>
水の使用量は、原料組成物の15〜75質量%である。15量%以上であると、良好な水中油(O/W)型エマルションが得られやすい。75質量%以下であると、食感が水っぽくなりにくい。より好ましい範囲は30〜65質量%である。
【0020】
<ゲル化剤>
原料組成物にゼラチン以外のゲル化剤を含有させることができる。ゼラチンとゲル化剤を併用することにより、油脂含有成形品を裁断する際の加工適性、裁断後の油脂含有食品の保形性、油脂含有食品を加熱したときの溶け方、食したときの食感等を向上させることができる。
ゲル化剤の具体例としては、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギナン、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、カードラン、加工デンプン、セルロース、および油脂を固化する公知の乳化剤等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に寒天が好ましく、加工適性の向上および食感の向上が良好に得られやすい。
ゲル化剤を用いる場合、その使用量は原料組成物の3質量%以下の範囲で、目的の効果が得られる量とすることが好ましい。
寒天を用いる場合、その使用量は原料組成物の0.6質量%以下の範囲で、目的の効果が得られる量とすることが好ましい。0.6質量%を超えると、油脂含有食品を加熱したときの溶け方が不十分となる場合がある。この場合、未溶融物が残って外観上もあまり好ましくない。
【0021】
<その他の成分>
本発明の油脂含有成形品には、上記の成分のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で、調味料、乳化剤、日持向上剤、香料、色素、並びに風味および外観向上を目的とした食品添加物(油脂は除く)等の、食品に含有させることが許容される成分を、その他の成分として適宜添加してもよい。
【0022】
<油脂含有成形品の製造方法>
本発明の油脂含有成形品の製造方法は、原料組成物を加熱下で撹拌して乳化物を得る乳化工程と、前記乳化物を冷却して固化する成形工程を有する。
乳化工程において加熱下で撹拌される原料組成物は、油脂含有成形品の製造に用いる全成分を含有する。すなわち、必須成分である油脂組成物、ゼラチンおよび水のほか、任意に配合されるゲル化剤およびその他の成分を含有する。
乳化工程の前に、非加熱下で原料組成物の一部または全部を撹拌する非加熱撹拌工程を設けてもよい。非加熱とは積極的に加熱を行わないことを意味する。
【0023】
[非加熱撹拌工程]
非加熱撹拌工程を行う場合、(1)原料組成物の全成分を乳化釜に一括的に投入して非加熱で撹拌する方法、(2)原料組成物に含有させる成分のうち、油脂組成物以外の成分を予め非加熱下で撹拌混合し、これに油脂組成物を加えて、さらに非加熱下で撹拌して混合する方法、(3)原料組成物に含有させる成分のうち、油脂組成物以外の成分を予め非加熱下で撹拌混合し、これに油脂組成物を加えると同時に加熱を開始(乳化工程の開始)する方法、のいずれが好ましい。
粉末ゼラチンは、油脂組成物を加える前に、予め水とともに混合して膨潤させておくと、乳化工程において良好な乳化状態が得られやすい。すなわち、ゼラチンと水を含み、油脂組成物を含まない混合物を非加熱で撹拌し、これに前記(2)または(3)の方法で油脂組成物を加えて原料組成物とすることが好ましい。
【0024】
非加熱撹拌工程における撹拌条件は特に限定されない。例えば3000rpm未満、好ましくは300〜2500rpm程度、特に好ましくは300〜1500rpmの回転数で撹拌すればよい。
非加熱撹拌工程の時間は特に限定されない。少なくとも全体が均一になるまで撹拌を行うことが好ましい。
【0025】
非加熱撹拌工程において撹拌される混合物の温度は、原料組成物を構成する油脂組成物が該混合物が含まれている場合、または該混合物が該油脂組成物を含まず、次の乳化工程において油脂組成物が添加される場合のいずれであっても、該油脂組成物のSFC値が3%以上となる温度範囲内であることが好ましい。より好ましくは該SFC値が5%以上となる温度範囲内であり、10%以上となる温度範囲がさらに好ましく、20%以上となる温度範囲内が特に好ましい。
非加熱撹拌工程における混合物の温度の下限値は、水分が凍結しない温度以上であり、3℃以上が好ましい。
例えば、常温(20℃)で混合物の撹拌を行うことができる。
【0026】
[乳化工程]
乳化工程では、全成分を含む原料組成物に対して加熱を開始し、かつ加熱しながら撹拌する。
乳化工程における、原料組成物に対する加熱は、蒸気注入による直接加熱法および間接加熱法のいずれか一方で行ってもよく、両方を組み合わせてもよい。
なお、原料組成物に蒸気を注入する場合、蒸気の注入量は原料組成物中の水分量の一部として加味される。
【0027】
加熱開始時は撹拌下にあることが好ましい。したがって加熱開始と同時に撹拌を開始するか、または撹拌しつつ加熱を開始することが好ましい。
前記非加熱撹拌工程を行わない場合、乳化工程において、原料組成物の全成分を乳化釜に一括的に投入すると同時に加熱を開始し、かつ撹拌を開始する方法が好ましい。
前記非加熱撹拌工程を前記(2)の方法で行う場合、乳化工程では、非加熱撹拌工程に引き続いて撹拌しながら加熱を開始する。
前記非加熱撹拌工程を前記(3)の方法で行う場合、乳化工程では、非加熱撹拌工程に引き続いて撹拌しながら、油脂組成物を添加すると同時に加熱を開始する方法が好ましい。
【0028】
乳化工程では、原料組成物に対して加熱が開始される際、該原料組成物中の油脂組成物の温度が、該油脂組成物のSFC値が3%以上となる温度となるようにする。油脂組成物のSFC値が3%以上であるとは、該油脂組成物が完全に液化されておらず、固形分がある程度以上存在していることを意味する。
本発明では、後述の実施例に示されるように、乳化工程において、油脂組成物が完全に液化されていない状態(SFC値が3%以上である状態)で、油脂組成物と、ゼラチンと、水を含む原料組成物が撹拌される状態が存在することにより、乳化物を冷却する際に油脂の分離が生じるのが良好に防止される。かかる効果が得られる理由は明らかではないが、油脂組成物が完全に液化されていない方が、水層部中におけるゼラチンの分散均一性が良好になり、ゼラチンによる油脂の分離抑制効果が充分に発揮されると考えられる。
【0029】
また後述の実施例に示されるように、加熱開始時の油脂組成物の温度が低い方が、撹拌力が弱くても良好な乳化状態が得られやすい。加熱開始時の油脂組成物の温度が高いほど、良好な乳化状態を得るのにより大きな撹拌力(回転数)が必要となる。
乳化工程における撹拌は、撹拌力が弱すぎると良好な乳化状態が得られない。少なくとも300rpm以上の回転数で撹拌を行うことが必要である。該回転数の上限は、乳化装置の構成にもよるが、現実的には3000rpm以下、好ましくは2500rpm以下程度である。
【0030】
より弱い撹拌力で良好な乳化状態が得られやすい点では、加熱開始時における油脂組成物の温度は低い方が好ましい。具体的には油脂組成物のSFC値が5%以上となる温度範囲内がより好ましく、10%以上となる温度範囲がさらに好ましく、20%以上となる温度範囲内が特に好ましい。
【0031】
乳化工程では、撹拌される原料組成物の温度が、該原料組成物中の全固形分が融解する温度以上になるまで昇温させる。例えば、ゼラチンを融解させるためには40℃以上、寒天を融解させるためには80℃以上まで加熱することが必要である。
【0032】
また、乳化後の乳化物を加熱殺菌する必要がある場合は、乳化工程で加熱殺菌温度に達するまで加熱しながら撹拌し、引き続いて該殺菌温度に保時して加熱殺菌工程を行うことが好ましい。この場合、本明細書では、加熱開始から殺菌温度に達するまでを乳化工程とし、殺菌温度に保持する工程を加熱殺菌工程とする。
乳化工程の時間は、良好な水中油(O/W)型エマルション(乳化物)が得られる時間とする。
【0033】
[加熱殺菌工程]
乳化工程後、必要に応じて加熱殺菌工程を行う。加熱殺菌条件は、例えば85〜90℃の温度で30〜120秒間保持、好ましくは60秒間保持する条件で行うことができる。加熱殺菌温度が90℃以下であると、その後に行う冷却時の乳化が安定するという点で好ましい。
加熱殺菌工程では、乳化工程で得られた乳化物の乳化状態を破壊しない程度に撹拌を行うことが好ましい。例えば300〜3000rpm、好ましくは500〜2500rpm程度の回転数で撹拌するのが好ましい。
【0034】
[成形工程]
乳化工程で得られた乳化物を、必要に応じて加熱殺菌した後、冷却して固化する際に所望の形状に成形して、油脂含有成形品が得られる。
具体的には、乳化物を所望の形状の型内に充填した状態、または乳化物をシート状に展延した状態で、冷却して固化することにより、所望の形状に成形する。
油脂含有成形品の大きさおよび形状は特に限定されないが、例えば裁断機に適用しやすい大きさのブロック状またはシート状などが好ましい。
冷却温度は、乳化物が固化する温度であればよい。原料組成物に含有させたゼラチンおよびゲル化剤が固化する温度よりも低い温度であって、水分が凍結しない温度以上が好ましい。例えば10℃以下が好ましく、2〜5℃程度がより好ましい。
【0035】
こうして得られる油脂含有成形品は、裁断加工に適した性状を有しており、裁断加工用の油脂含有成形品として用いることができる。
特に、油脂含有成形品を裁断加工する場合は、前記冷却温度は、原料組成物中の水層部の成分が凍結しない温度、例えば2〜5℃付近まで冷却することが好ましく、これにより油脂含有成形品の裁断適性をより向上させることが可能である。
【0036】
[裁断工程]
得られた油脂含有成形品を、所望の形状に裁断することにより油脂含有食品が得られる。裁断は公知の裁断機を用いて行うことができる。
裁断工程は特に限定されないが、例えば、ダイス状にカットする工程、短冊状の細片にシュレッドする工程、シート状にスライスする工程を用いることができる。
裁断後の油脂含有食品は、必要に応じて包装を行う。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
[測定例1]
乳脂肪(森永乳業株式会社社製、製品名:バターオイル)および下記の油脂組成物A〜Dについて、SFC値を測定した。その結果を表1および図1に示す。図1において、横軸は温度、縦軸はSFC値(単位:%)を示す。
油脂組成物A:バター類似植脂(パーム油70質量%と椰子油30質量%の混合物)。
油脂組成物B:バター類似植脂(パーム核油40質量%とパーム油30質量%と椰子油19.5質量%、菜種油0.5質量%、およびひまわり油10質量%の混合物)。
油脂組成物C:市販のパーム油(パーム油100質量%)。
油脂組成物D:市販のパーム核油(パーム核油100質量%)。
【0039】
【表1】

【0040】
表1、図1に示されるように、乳脂肪および油脂組成物B〜Dは、本発明における「SFC値が10℃で45〜100%、20℃で20〜85%、かつ35℃で0〜15%である油脂組成物」に該当し、油脂組成物Aは該当しない。
【0041】
[例1]
本例では、油脂組成物A〜Dを用いて、それぞれ下記の手順で油脂含有成形品A〜Dを製造した。ゼラチンは粉末状のゼラチンを使用した。
(非加熱撹拌工程)
まず、ゼラチン(粉末)と水(20℃)を乳化釜(ステファン社製クッカー)に投入し、回転数750rpmで60秒間混合した。
(乳化工程)
続いて、回転数を1500rpmに上げ、所定温度(10℃)の油脂組成物A〜Dをそれぞれ投入すると同時に加熱を開始した。加熱開始から90秒後に乳化釜内の原料組成物の温度が90℃に達し、加熱を止めた。
(加熱殺菌工程)
引き続き、そのままの回転数を維持しながら、さらに撹拌を続け、該温度に1分間保持して加熱殺菌を行った。
(成形工程)
加熱殺菌後の乳化物を所定形状の容器に入れ、庫内温度が5℃の冷蔵庫に移して120分間で10℃にまで冷却して固化させた。こうして約200gのブロック状の油脂含有成形品A〜Dを得た。
【0042】
(乳化性の評価)
製造した油脂含有成型品A〜Dを目視で観察し、油層と水層が分離した状態のもの又は表面から油脂成分が染み出しているものを×、かかる脂肪分の染み出しが無い、油層と水層が均一な性状を有するものを○として、乳化性を評価した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の結果に示されるように、油脂含有成形品Aは油層と水層が分離しており、油脂含有成型品B〜Dに比して乳化性が好ましくなかった。
【0045】
[例2]
本例では、油脂組成物としてバター(乳脂肪分約81質量%)を用い、下記の手順で油脂含有成形品を製造した。ゼラチンは粉末のゼラチンを用いた。
原料組成物の組成は、バター50質量%、ゼラチン7質量%、水43質量%である。
加熱開始時のバターの温度および乳化工程における回転数を、表3に示すとおりに変更して30通りの油脂含有成形品を製造した。
【0046】
まず、ゼラチン(粉末)と水(20℃)を乳化釜(ステファン社製クッカー)に投入し、回転数750rpmで60秒間混合した。
続いて、回転数を所定の回転数に変更し、所定温度のバターを投入すると同時に加熱を開始した。加熱開始から90秒後に乳化釜内の原料組成物の温度が90℃に達し、加熱を止めた。
引き続き、そのままの回転数を維持しながら、さらに撹拌を続け、該温度に1分間保持して加熱殺菌を行った。
加熱殺菌後の乳化物を所定形状の容器に入れ、庫内温度が5℃の冷蔵庫に移して120分間で10℃にまで冷却して固化させた。こうして約200gのブロック状の油脂含有成形品を得た。
(乳化性の評価)
得られた油脂含有成形品を目視で観察し、油層と水層が分離した状態のもの又は表面から油脂成分が染み出しているものを×、かかる脂肪分の染み出しが無い、油層と水層が均一な性状を有するものを○として、乳化性を評価した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3の結果に示されるように、加熱開始時の油脂組成物の温度(投入直前のバターの温度)が、35℃以下のときに、油脂の分離が発生せず良好な乳化状態が得られた。表1に示されるように、35℃以下の温度における乳脂肪のSFC値は4%以上である。
また、加熱開始時の油脂組成物の温度が低いほど、撹拌時の回転数を低くしても良好な乳化状態が得られた。
一方、投入直前のバターの温度が40℃、すなわちバター中の乳脂肪のSFC値が1%である温度であると、回転数を2100rpmまで上げても良好な乳化状態は得られなかった。
なお、回転数を2100〜3000rpmに設定しても、35℃以下の温度であれば、乳化の良好の状態は維持された。
【0049】
[例3]
本例では、油脂組成物としてバターを用い、原料組成物におけるバターの含有量を表3に示すとおりに変更して、7通りの油脂含有成形品を製造した。
原料組成物の組成は、所定量のバターと、ゼラチン7質量%と、残部は水である。
製造の手順は例2と同様であり、加熱開始時のバターの温度は10℃、乳化時の回転数は1500rpmに設定した。
(乳化性と風味の総合評価)
乳化性の評価は、冷却後の油脂含有成形品を目視で観察し、油層と水層が分離した状態のもの又は表面から油脂成分が染み出しているものを×、かかる脂肪分の染み出しが無い、油層と水層が均一な性状を有するものを○として評価した。また、風味の評価は、バター感を有するものを○、バター感に劣るものを△、バター感が少なく水っぽく感じるものを×として評価した。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4の結果に示されるように、バターの含有量が30〜70質量%の範囲で乳化性と風味がいずれも優れた油脂含有成形品が得られた。
これに対してバターの含有量が80質量%になると乳化性が良くなかった。また、バターの含量が20質量%では、バター感がやや劣っていた。
【0052】
[例4]
本例では、油脂組成物としてバターを用い、ゼラチン以外のゲル化剤として寒天を使用した。
原料組成物におけるゼラチンの含有量および寒天の含有量を表5に示すとおりに変更して、39通りの油脂含有成形品を製造した。
原料組成物の組成は、バター50質量%と、所定量のゼラチンと、所定量の寒天と、残部は水である。
製造の手順は例2と同様であり、加熱開始時のバターの温度は10℃、乳化時の回転数は1500rpmとした。
【0053】
(加工適性の評価)
得られた油脂含有成形品を裁断機(高橋製作所社製、350型高速裁断機)を用いて、縦20mm、横4mm、厚さ2mm程度の短冊状にシュレッドして油脂含有食品を製造した。
下記の基準で加工適性を評価した。結果を表5に示す。
○: 均一の形状で裁断できる。
△: 不均一性はあるもののほぼ同様の形状で裁断できる。
×:短冊状に裁断できない。
【0054】
(食感の評価)
加工適性の評価においてシュレッドした油脂含有食品15gを、食パンにのせてオーブントースター(KOIZUMI社製、品番:KOS0908)で90秒間加熱(出力900W)し、その後60秒間放冷して食したときの食感を、下記の基準で評価した。結果を表5に示す。なお加工適性の評価が「×」であったものは食感の評価は行わず、表には「−」で表示する。
○:バター感を有し、口溶けが良好。
△:バター感を有し、口溶けがやや良好であるものの、やや糊感を有する。
×:糊感が強く、口溶けが不良。
【0055】
【表5】

【0056】
表5の結果に示されるように、ゼラチンの含有量が6〜15質量%の範囲で、良好な加工適性および食感が得られた。また寒天を0.3質量%以上併用した場合、ゼラチンの含有量が4〜15質量%の範囲で、良好な加工適性および食感が得られた。
なお、ゼラチンの含有量が15質量%超〜20質量%の範囲でも、良好な加工適性が得られたが、食感では糊感が強く、口溶け感も低下する傾向が見られた。
また寒天の含有量が0.6質量%を超えて多くなると、油脂含有食品を加熱溶融したときに未溶融物が確認され、外観(溶け方)が劣る傾向が見られた。
【0057】
<実施例1>
10℃の無塩バター50kg、ゼラチン(粉末)7.0kg、寒天0.6kg、食塩1.6kg、及び水(20℃)32.8kgを、乳化釜(WOLFF社製:CH−400)に一括投入し、回転数750rpmで60秒間、非加熱下で撹拌した。乳化釜内の原料組成物の温度は30℃であった。
その後、回転数を1500rpmに変更し、乳化釜内に蒸気を注入して加熱を開始し、この状態で180秒間撹拌を続けて、90℃まで昇温させ、蒸気の注入を停止し、その状態を維持させながら、さらに60秒間保持して殺菌した。本操作により注入された蒸気の量は、製造する油脂成形品(原料組成物)の8質量%の水分に相当する量であった。
殺菌後、直ちにタテピロー充填機(オリヒロ社製:ONPACK−2040)にて5kgずつに分割充填し、庫内温度5℃の冷蔵庫にて冷却固化させた。
固化した油脂成形品を20℃の室温下で、裁断機(高橋製作所:350型高速裁断機II)を使用して、縦20mm×横4mm×厚さ2mmにサイズにシュレッドして、短冊状油脂含有食品を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DSC吸熱ピーク面積の分割積分により求めたSFC値(昇温速度2℃/分)が、10℃で45〜100%、20℃で20〜85%、かつ35℃で0〜15%である油脂組成物20〜70質量%と、ゼラチン4〜15質量%と、水15〜75質量%を含む原料組成物を加熱下で撹拌して乳化物を得る乳化工程と、前記乳化物を冷却して固化する成形工程を有し、
前記乳化工程において、加熱開始時の前記油脂組成物の温度が前記SFC値が3%以上となる温度であることを特徴とする油脂含有成形品の製造方法。
【請求項2】
前記乳化工程の前に、非加熱下で前記原料組成物の一部または全部を撹拌する非加熱撹拌工程を有する、請求項1に記載の油脂含有成形品の製造方法。
【請求項3】
前記非加熱撹拌工程が、前記ゼラチンと前記水を含み、かつ前記油脂組成物を含まない混合物を非加熱下で撹拌する工程を有する、請求項2に記載の油脂含有成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程の前に、前記乳化物を加熱殺菌する工程を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の油脂含有成形品の製造方法。
【請求項5】
前記原料組成物が、ゼラチン以外のゲル化剤をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の油脂含有成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法で油脂含有成形品を製造する工程と、得られた油脂含有成形品を裁断する工程を有する、油脂含有食品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により製造される油脂含有食品であって、前記油脂組成物がバターであることを特徴とする油脂含有食品。

【図1】
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