説明

治療剤を全身搬送するための中央気道投与

【課題】治療剤を経上皮全身搬送するための方法および産物の提供。
【解決手段】肺の中央気道の上皮に、FcRn結合パートナーを含む治療剤のコンジュゲートを含有するエアロゾルを投与することによる、治療剤を全身搬送するための方法および組成物に関する。方法および産物は、タンパク質およびポリペプチド、核酸、薬剤等を含む、広い範囲の治療剤に適応可能である。さらに、方法および産物は、全身搬送を達成するため、肺深部への投与を必要としない利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療剤を経上皮搬送するための方法および産物に関する。特に、本発明は、肺の中央気道(central airway)に投与することによって、新生児期Fc受容体(FcRn)結合パートナーにコンジュゲート化した治療剤を全身搬送するための方法および組成物に関する。該方法および組成物は、治療剤自体が、被験者の疾患、障害、または他の状態の治療または防止に有用であるようないかなる徴候に対しても有用である。
【0002】
発明の背景
上皮性関門を越える巨大分子の輸送は、受容体非特異的機構または受容体特異的機構によって起こることが可能である。受容体非特異的機構は、傍細胞ふるい事象に代表され、その効率は、輸送される分子の分子量に反比例する。この傍細胞経路を介した免疫グロブリンG(IgG)などの巨大分子の輸送は、IgGの分子量が大きい(およそ150 kDa)ため、非常に非効率的である。受容体非特異的輸送には、液相におけるトランスサイトーシスが含まれることが可能である。この輸送は、受容体が仲介する輸送よりはるかに効率的でなく、これは、液相の大部分の巨大分子が、仕分けられてリソソームに運ばれ、分解されるためである。対照的に、受容体特異的機構は、そうでなければ傍細胞ふるいによって有効に排除される分子の、非常に効率的な輸送を提供することが可能である。受容体が仲介するこうした機構は、アルブミン、トランスフェリン、および免疫グロブリンなどの、同化に手間がかかる(anabolically expensive)巨大分子に対する有効なスカベンジャー機構として、目的論的に理解可能である。これらの巨大分子および他の巨大分子は、そうでなければ、体の内部から外部へ無限の濃度勾配で減少する拡散を通じて、上皮性関門で失われるであろう。上皮を越える巨大分子の輸送のための受容体特異的機構は、いくつかの巨大分子に対してしか存在しない。
【0003】
体の内部および外界の間の境界を規定する表面は、上皮と呼ばれる特殊化した組織によって提供される。最も単純な型では、上皮は、単一種の細胞の単層であり、外部表面または「内部」表面のカバーを形成する。上皮組織は内胚葉および外胚葉から生じ、そしてしたがって、皮膚、角膜上皮(目)とともに、胃腸管、尿生殖管、および呼吸系の「内部」裏打ち表面を含む。これらの「内部」裏打ち表面は外界とコミュニケーションし、そしてしたがって、これらは、体の内部および外界の間の境界を形成する。これらの多様な上皮は、これらを区別する特殊化された構造特徴または付属物を有するが、また、多くを共有する。
【0004】
多様な上皮に共通する2つの特徴は、全体レベルでの広い表面面積、および細胞レベル
での密着結合を伴う近接した並置の組み合わせである。これらの2つの特徴は、治療剤を
全身に非侵襲性に搬送するための部位として上皮を使用するのに、それぞれ、潜在的な利点および不都合な点を提示する。例えば、ヒト成体における肺上皮の表面面積は、140 m2であると考えられる。したがって、この広大な表面は、潜在的に、治療剤を全身搬送するための非常に魅力的な投与部位を提示するが、これはもちろん、治療剤を上皮に搬送可能であり、そしてその後、上皮を越えて輸送可能である場合の話である。
【0005】
多様な上皮に特徴的なさらに第三の特徴であり、そして本発明に特に重要な特徴は、FcRn(新生児期Fc受容体)に提供される、上皮性関門を越える輸送のための受容体特異的機構である。この受容体は、新生児期ラットおよびマウスの腸上皮に最初に同定され、そして乳から乳獣ラットまたは乳獣マウスの血流への母性IgGの輸送を仲介することが示され
た。この機構によって新生児に運ばれるIgGは、新生児の免疫防御に必須である。ラット
およびマウスの腸上皮におけるFcRnの発現は、新生児期後に止むと報告された。ヒトでは、体液性免疫は、新生児期腸IgG輸送に依存しない。むしろ、胎盤組織の受容体がIgG輸送に関与すると考えられた。この輸送に関与する受容体が、長い間探し求められてきた。いくつかのIgG結合タンパク質が胎盤から単離されてきている。FcγRIIが胎盤内皮で検出され、そしてFcγRIIIが合胞体栄養細胞層で検出された。しかし、これらの受容体はどちらも、単量体IgGに対して、比較的低い親和性を示した。1994年、Simisterおよび同僚は、IgGのラットおよびマウスFc受容体のヒト相同体をコードするcDNAをヒト胎盤から単離したことを報告した。Story CMら(1994)J Exp Med 180:2377-81。完全ヌクレオチド配列および推定されるアミノ酸配列が報告され、そしてそれぞれGenBank寄託番号U12255およびAAA58958として入手可能である。
【0006】
げっ歯類腸FcRnと異なり、ヒトFcRnは、予期されぬことに、成体上皮組織で発現されることが発見された。米国特許第6,030,613号および第6,086,875号。具体的には、ヒトFcRnは、肺上皮組織とともに、腸上皮組織(Israel EJら(1997)Immunology 92:69-74)、
腎近位尿細管上皮細胞(Kobayashi Nら(2002)Am J Physiol Renal Physiol 282:F358-65)、並びに鼻上皮、膣表面、および胆道系表面を含む他の粘膜上皮表面に発現されることが見出された。
【0007】
米国特許第6,030,613号は、腸上皮、粘膜上皮、および肺上皮に対するFcRn結合パート
ナーにコンジュゲート化した治療剤搬送のための方法および組成物を開示する。
米国特許第6,086,875号は、肺上皮を含む、FcRnを発現している上皮に対するFcRn結合
パートナーにコンジュゲート化した抗原の搬送によって、抗原に対する免疫反応を刺激するための方法および組成物を開示する。
【0008】
治療剤を全身搬送するための肺上皮への治療剤の投与は、肺深部、すなわち肺の末梢への搬送を必要とすると広く考えられており、これは、この方法が、利用可能な最大表面面積にアクセスする方法であるためである。Yu Jら(1997)Crit Rev Therapeutic Drug Carrier Systems 14:395-453。さらに、肺の最も深い到達部、肺胞を裏打ちする上皮は、
非常に薄い細胞の単層である。対照的に、肺のより近位の気道の上皮は、これよりかなり厚く、そして繊毛を供えており、繊毛がない場合に、より遠位の気道および肺胞に集積し、そしてそれによってガス交換に干渉しうる物質のクリアランスを促進している。エアロゾル搬送系および方法は、したがって、肺深部への薬剤搬送を最大にする目的で発展してきた。これは、典型的には、エアロゾル生成装置、例えば計量式吸入器(MDI)装置、お
よびエアロゾル生成装置を用いる際に患者が使用する特別の吸入技術両方に関与する要因の組み合わせを必要とする。例えば、典型的なMDIは、できる限り最少の小滴または粒子
を生成するように設計可能であり、そしてより大きく速度の遅い粒子を、エアロゾルから捕捉し、そして取り除く、スペーサー装置または付属部品とともに使用するように取り付けることが可能である。使用者は、典型的には、MDIの放出を、吸気の開始、吸気の速度
および深さ、息をこらえること等と同調させなければならない可能性があり、これらはすべて、肺の最も深部の到達点に活性剤を有効に搬送する可能性を増加させるためである。言うまでもなく、患者のコンプライアンスおよび療法有効性は、しばしば、これらの技術的必要性に危うくされる。
【0009】
発明の概要
本発明は、肺上皮上のFcRnの発現が、末梢気道よりも中央気道で、より多いという本発明の発明者による驚くべき発見に、部分的に関連する。肺上皮におけるFcRnのこの密度分布は、実際、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートとして治療剤を投与する際、肺深部よりも、中央気道に治療剤をエアロゾル投与することを支持する。本発明にしたがって、エアロゾル化FcRn結合パートナーコンジュゲートを中央気道に優先的に投与することによって、FcRnが仲介し、呼吸上皮を越えるコンジュゲートの非常に効率的なトラ
ンスサイトーシス、および治療剤の全身搬送が可能になることが発見された。肺投与を介した全身搬送のための他の方法および組成物と異なり、本発明は、好適なことに、最適な全身搬送を達成するのに特別な呼吸技術を必要としない。それによって、肺深部搬送の必要性によって示される技術的な障害は回避され、そして本発明は、FcRn結合パートナーとのコンジュゲートとして、肺の中央気道へのエアロゾル投与を通じて、被験者に治療剤を非侵襲性に全身搬送するのに有用で有効な戦略を提供する。
【0010】
本発明は、特定の治療剤で治療可能な被験者の状態を治療するかまたは防止するため、被験者に該治療剤を投与することが望ましい場合はいつでも有用である。本発明は、治療剤の反復投与または長期に渡る投与が必要とされる場合、特別な呼吸技術のコンプライアンスが達成困難である場合とともに、侵襲性の投与が好ましくは回避される場合はいつでも、特に有用でありうる。
【0011】
本発明の1つの側面にしたがって、治療剤を全身搬送するための方法を提供する。該方
法は、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、中央肺区域/末梢肺区域沈着比(C/P比)が少なくとも0.7であるように、肺に投与することを伴う。以下にさらに説明するように、コンジュゲートが中央気道に優先的に搬送されるように、C/P比を選択する。
【0012】
本発明のこの側面にしたがって好ましい態様において、C/P比は少なくとも1.0である。より好ましい態様において、C/P比は少なくとも1.5である。最も好ましい態様において、C/P比は少なくとも2.0である。
【0013】
本発明の別の側面にしたがって、治療剤を全身搬送するための方法を提供する。該方法は、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、肺に投与することを伴い、ここでエアロゾル中の粒子は、少なくとも3マイクロメートル(μm)の空気動力学的粒径(MMAD)を有する。
【0014】
さらに別の側面にしたがって、本発明は、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルであって、エアロゾル中の粒子が、少なくとも3μmのMMADを有する、前記エアロゾルを提供する。
【0015】
さらに別の側面にしたがって、本発明はエアロゾル搬送系を提供する。この側面にしたがったエアロゾル搬送系は、容器、容器に連結されたエアロゾル生成装置、並びに容器内に配置された、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートを含み、ここでエアロゾル生成装置は、少なくとも3μmのMMADを持つ粒子を有するコンジュゲートのエアロゾルを生成するように構築され、そして配置されている。
【0016】
1つの態様において、この側面は、エアロゾル搬送系を製造する方法を提供する。該方
法は、容器を用意し、容器に連結されたエアロゾル生成装置を用意し、そして有効量のコンジュゲートを容器に入れる工程を伴う。
【0017】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置は、コンジュゲートを含有する溶液と流体連結している(in fluid connection)振動要素を含ん
でなる。
【0018】
いくつかの態様において、振動要素は、(a)前部表面;(b)溶液と流体連結している後部表面;および(c)メンバーが横断する複数の開口部を有するメンバーを含んでなる
。好ましい態様において、前部表面の開口部は、直径少なくとも3μmである。好ましくは、開口部は、後部表面から前部表面に向かって狭くなるように先細になっている。
【0019】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置はネブライザーである。いくつかの態様において、ネブライザーはジェットネブライザーである。
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置は機械的ポンプである。
【0020】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、容器は加圧容器である。
さらに別の側面にしたがって、本発明はエアロゾル搬送系を提供する。この側面にしたがったエアロゾル搬送系は、容器、容器に連結されたエアロゾル生成装置、並びに容器内に配置された、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートを含み、ここでエアロゾル生成装置は、少なくとも3μmのMMADを持つ粒子を有するコンジュゲートのエアロゾルを生成する手段を含む。
【0021】
1つの態様において、この側面は、エアロゾル搬送系を製造する方法を提供する。該方
法は、容器を用意し、容器に連結されたエアロゾル生成装置を用意し、そして有効量のコンジュゲートを容器に入れる工程を伴う。
【0022】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置は、コンジュゲートを含有する溶液と流体連結している振動要素を含んでなる。
いくつかの態様において、振動要素は、(a)前部表面;(b)溶液と流体連結している後部表面;および(c)メンバーが横断する複数の開口部を有するメンバーを含んでなる
。好ましい態様において、前部表面の開口部は、直径少なくとも3μmである。好ましくは、開口部は、後部表面から前部表面に向かって狭くなるように先細になっている。
【0023】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置はネブライザーである。いくつかの態様において、ネブライザーはジェットネブライザーである。
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、エアロゾル生成装置は機械的ポンプである。
【0024】
本発明のこの側面にしたがったいくつかの態様において、容器は加圧容器である。
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、粒子のMMADは、3μm〜約8μmの間である。いくつかの態様において、粒子のMMADは、4μmを越える。好ましい態様において、粒子の大部分は呼吸不適であり、すなわち粒子は少なくとも4.8μmのMMADを有する。呼吸不適粒子は、肺深部の肺胞空間に進入しないと考えられる。
【0025】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、FcRn結合パートナーは、FcRnに結合するIgGのFcドメインの部分を模倣するFcRnのリガンド(すなわちFc、Fcドメ
イン、Fc断片、Fc断片相同体)を含有する。好ましい態様において、FcRn結合パートナーは、非特異的IgGまたはIgGのFcRn結合断片である。最も典型的には、FcRn結合パートナーは、IgGのFc断片に対応する。
【0026】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤およびFcRn結合パートナーは共有結合によってカップリングされる。
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤およびFcRn結合パートナーはリンカーによってカップリングされる。好ましくは、リンカーはペプチドリンカーである。いくつかの態様において、リンカーは、基質を特異的に切断する酵素の基質の少なくとも一部を含んでなる。
【0027】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤はポリペプチドである。こうした態様におけるコンジュゲートは、好ましくは、単離された融合タンパク質
である。特定のこうした態様において、ポリペプチド治療剤およびFcRn結合パートナー各々が、その生物学的活性の少なくともある程度を保持するならば、コンジュゲートのポリペプチド治療剤をリンカーによってFcRn結合パートナーに連結することが可能である。
【0028】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤はサイトカインである。いくつかの態様において、治療剤は、サイトカイン受容体またはそのサイトカイン結合断片である。
【0029】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤は抗原である。抗原は、病原体に特徴的であるか、自己免疫疾患に特徴的であるか、アレルゲンに特徴的であるか、または腫瘍に特徴的であることが可能である。特定の好ましい態様において、抗原は腫瘍抗原である。
【0030】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤はオリゴヌクレオチドである。特定の好ましい態様において、オリゴヌクレオチドはアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0031】
本発明の前述の側面各々において、いくつかの態様において、治療剤は、エリスロポエチン(EPO)、成長ホルモン、インターフェロン・アルファ(IFN-α)、インターフェロ
ン・ベータ(IFN-β)、または卵胞刺激ホルモン(FSH)である。本発明の前述の側面各
々において、いくつかの態様において、治療剤は、因子VIIa、因子VIII、因子IX、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、TNF-α受容体(例えばエタネルセプト、ENBREL(登録商標
);米国特許第5,605,690号、PCT/US93/08666(WO94/06476)、およびPCT/US90/04001(WO91/03553))、リンパ球機能抗原-3(LFA-3)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)である。特定の好ましい態様において、治療剤はEPOである。他の好ましい態様において、治療剤は
成長ホルモンである。他の好ましい態様において、治療剤はIFN-αである。さらに他の好ましい態様において、治療剤はIFN-βである。さらに他の好ましい態様において、治療剤はFSHである。好ましい態様において、治療剤は因子VIIIである。別の好ましい態様にお
いて、治療剤は因子IXである。さらに別の好ましい態様において、治療剤はTNF-αである。好ましい態様において、治療剤はTNF受容体である。さらに別の好ましい態様において
、治療剤はLFA-3である。さらに好ましい態様において、治療剤はCNTFである。これらの
態様および同様の態様の1つ1つにおいて、治療剤は、完全であれ、その一部であれ、生理学的活性ポリペプチドである。例えば、TNF受容体(TNFR)である治療剤には、完全TNFR
とともにTNF結合性TNF受容体ポリペプチド、例えばTNFRの細胞外ドメインが含まれる。
【0032】
本発明の前述の側面各々において、特定の好ましい態様において、コンジュゲートは、実質的に、天然非変性型である。いくつかの態様において、コンジュゲートの少なくとも60%が天然非変性型である。より好ましい態様において、コンジュゲートの少なくとも70%が天然非変性型である。さらにより好ましい態様において、コンジュゲートの少なくとも80%が天然非変性型である。非常に好ましい態様において、コンジュゲートの少なくとも90%が天然非変性型である。さらにより非常に好ましい態様において、コンジュゲートの少なくとも95%が天然非変性型である。最も非常に好ましい態様において、コンジュゲートの少なくとも98%が天然非変性型である。
【0033】
本発明のこれらの側面および他の側面を、以下により詳細に記載する。
発明の詳細な説明
本発明は、肺上皮を越えて治療剤を搬送して、治療剤の全身搬送を達成することが望ましい場合はいつでも有用である。これは、中央気道が、生来、FcRn受容体が仲介するFcRn結合パートナーの細胞内への輸送に特に適している場合、FcRn結合パートナーと治療剤のコンジュゲートを中央気道に投与することによって達成される。好適なことに、本発明は
、非常に大きい分子量を持つものを含めて、ほぼいかなるサイズの治療剤を全身搬送する際にも使用可能である。したがって、本発明は、全身搬送のため、巨大分子、ペプチド、オリゴヌクレオチド、小分子、薬剤、および診断剤の肺投与に使用可能である。
【0034】
本発明は、1つの側面において、治療剤を搬送するための方法であって、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、C/P比が少なくとも0.7で
あるように、肺に投与することを伴う、前記方法を提供する。
【0035】
「治療剤」は、本明細書において、被験者の疾患、障害、または状態を治療するかまたは防止するのに有用な化合物を指す。本明細書において、用語、「治療する」は、被験者の疾患、障害、または状態の徴候または症状を改善するか、あるいはこれらの進行を停止させることを意味する。被験者の特定の疾患、障害、または状態の徴候、症状、および進行は、例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine, 第14版, Fauci ASら監修, McGraw-Hill, New York, 1998に記載されるような、当業者に認識される適用可能な臨
床的測定または実験室測定いずれかを用いて評価可能である。本明細書において、用語「被験者」は哺乳動物、および好ましくはヒトを意味する。特定の疾患、障害、または状態を治療するかまたは防止するため、当業者は、この目的に適した治療剤を認識するであろう。
【0036】
本発明のFcRn結合パートナーコンジュゲートは、限定されるわけではないが、腫瘍抗原を含む抗原;癌治療のための化学治療剤;サイトカイン;増殖因子;DNAおよびRNAを含む核酸分子およびオリゴヌクレオチド;ホルモン;排卵促進剤;カルシトニン、カルシトリオールおよび他の生物活性ステロイド;抗細菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、および抗寄生虫剤を含む抗生物質;細胞増殖刺激剤;脂質;タンパク質およびポリペプチド;糖タンパク質;炭水化物;およびこれらの組み合わせいずれかを含む、非常に多様な治療剤の全身搬送に利用可能である。治療剤の特定の例は、本明細書の別の箇所に提示される。本発明のFcRn結合パートナーはさらに、微小粒子およびリポソームなどの搬送ビヒクルの標的化搬送に利用可能である。
【0037】
「エアロゾル」は、本明細書において、ガス中に分散した細かい粒子の形の液体懸濁物または固体懸濁物を指す。本明細書において、用語「粒子」はしたがって、液体、例えば小滴、および固体、例えば粉末を指す。本発明のコンジュゲートを肺に搬送するための薬剤エアロゾルは、好ましくは口を介して吸入され、そして鼻を介して吸入されない。あるいは、本発明のコンジュゲートを肺に搬送するための薬剤エアロゾルは、好ましくは、中央気道への直接搬送を通じて、例えば気管内チューブまたは気管開口術を介して導入される。
【0038】
以下にさらに詳細に記載するように、「コンジュゲート」は、本明細書において、限定されるわけではないが、共有相互作用、疎水性相互作用、水素結合相互作用、またはイオン性相互作用を含む、物理化学的手段いずれかによって、互いに結合した2以上の実体を
指す。FcRn結合パートナーおよび治療剤の間の結合は、FcRn結合パートナーがFcRnに結合する能力を破壊しない性質および位置のものでなければならない点に注目することが重要である。こうした結合は、一般の当業者に周知であり、そしてその例を以下により詳細に提供する。コンジュゲートはさらに、融合タンパク質として形成可能であり、これも以下により詳細に論じる。
【0039】
コンジュゲートは、治療剤およびFcRn結合パートナーが互いに間接的に結合するように、治療剤およびFcRn結合パートナーの間に中間実体またはリンカー実体を含むことが可能である。いくつかの態様において、リンカーは、自発的切断に供される。いくつかの態様において、リンカーは、酵素または化学薬品などの剤に補助される切断に供される。例え
ば、プロテアーゼ切断可能ペプチドリンカーが当該技術分野に周知であり、そしてこれらには、限定なしに、トリプシン感受性配列;プラスミン感受性配列;FLAGペプチド;ウシκ-カゼインAのキモシン感受性配列(Walsh MKら(1996)JBiotechnol 45:235-41);カテプシンB切断可能リンカー(Walker MAら(2002)Bioorg Med Chem Lett 12:217-9);サーモリシン感受性ポリ(エチレングリコール)(PEG)-L-アラニル-L-バリン(Ala-Val)(Suzawa Tら(2000)J Control Release 69:27-41);エンテロキナーゼ切断可能リ
ンカー(McKee Cら(1998)Nat Biotechnol 16:647-51)が含まれる。プロテアーゼ切断可能ペプチドリンカーを、他の主要な種類のプロテアーゼ、例えばマトリックス・メタロプロテイナーゼおよびセクレターゼ(シェダーゼ)と組み合わせて使用するために設計し、そして使用することが可能である。Birkedal-Hansen Hら(1993)Crit Rev Oral Biol Med 4:197-250;Hooper NMら(1997)Biochem J 321(Pt2):265-79。他の態様におい
て、リンカーは、自発的切断、タンパク質分解的切断、または化学的切断に耐性であることが可能である。この種のリンカーの例は、アルギニン-リジン不含リンカー(トリプシ
ン耐性)である。リンカーのさらなる例には、限定なしに、ポリグリシン、(Gly)n;ポリアラニン、(Ala)n;ポリ(Gly-Ala)、(Glym-Ala)n;ポリ(Gly-Ser)、(例えばGlym-Ser)n、およびその組み合わせが含まれ、ここで、mおよびnは、各々、独立に、1〜6の間の整数である。Robinson CRら(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95:5929-34もまた
参照されたい。
【0040】
「FcRn結合パートナー」は、本明細書において、FcRnが特異的に結合可能であり、その結果、FcRnによってFcRn結合パートナーの能動輸送が生じうる実体いずれかを指す。本発明のFcRn結合パートナーは、したがって、例えば全IgG、IgGのFc断片、FcRnに対する完全結合領域を含むIgGの他の断片、およびFcのFcRn結合部分を模倣し、そしてFcRnに結合す
る他の分子を含む。特定の態様において、FcRn結合パートナーは、抗原特異的な抗原-抗
体相互作用を通じて、FcRnに特異的に結合する、FcRn特異的全抗体を除外する。この文脈において、抗原特異的な抗原-抗体相互作用は、抗体の超可変領域内の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、例えばFab、F(ab')、F(ab')2、およびFv断片内のCDRに特定される抗原結合を意味すると理解すべきである。同様に、特定の態様において、FcRn結合パートナーは、抗原特異的な抗原-抗体相互作用を通じて、FcRnに特異的に結合する全抗体
の、FcRn特異的断片、およびFcRn特異的断片の類似体(analog)を除外する。こうした態様のいくつかは、したがって、FcRn特異的Fv断片、一本鎖Fv(scFv)断片等を除外する。他のこうした態様は、FcRn特異的Fab断片、F(ab')断片、F(ab')2断片等を除外する。
【0041】
「C/P比」は、肺の末梢への沈着に比較した、肺の中央気道へのエアロゾル化粒子沈着
の相対分布尺度である。「中央気道」は、喉頭から遠位の誘導気道および移行気道(transitional airways)であり、ガス交換にはほとんどまたはまったく役割を持たない。ヒトにおいて、中央気道には、気管、主気管支、葉気管支、区気管支、小気管支、細気管支、終末細気管支、および呼吸細気管支が含まれる。中央気道は、したがって、肺における気道分枝の最初の16〜19世代を占め、ここで気管はゼロ(0)世代であり、そして肺胞嚢は23世代である。Wiebel ER(1963)Morphometry of the Human Lung, ベルリン:Springer-Verlag, pp.1-151。用語「肺の末梢」および同等に「肺深部」は、中央気道から遠位の
肺の気道を指す。中央気道は、空気の大きな動きに関与し、肺の末梢が、主に、空気と血液の間のガス交換に関与するのとは対照的である。総体で、中央気道は、肺の全呼吸上皮表面面積の約10パーセントしか占めない。Qiu Yら(1997):Inhalation Delivery of Therapeutic Peptides and Proteins中, Adjei ALおよびGupta PK監修, Lung Biology in Health and Disease, Vol. 107, Marcel Dekker:ニューヨーク, pp.89-131。
【0042】
特に、肺の中央領域および末梢領域の間では、上皮細胞種が異なる。中央気道は繊毛円柱上皮細胞および立方上皮細胞に裏打ちされ、一方、呼吸区域は立方上皮細胞に裏打ちされ、そしてより遠位では、肺胞上皮細胞に裏打ちされる。肺胞上皮のさしわたしは非常に
小さい、すなわち0.1〜0.2μmであるが、円柱上皮細胞および立方上皮細胞のさしわたし
は何倍も大きく、例えば円柱上皮細胞では30〜40μmである。
【0043】
当業者は、典型的には、肺深部への剤の有効投与の尺度として、P/C比、または同等に
、浸透指数に言及する。用語が示唆するように、P/C比は、肺の中央気道への沈着に比較
した、肺の末梢へのエアロゾル化粒子沈着の相対分布尺度であり;C/P比の算術的逆数で
ある。P/C比は、吸入した剤の全身搬送を達成するため、これまでに典型的に求められて
きた結果、すなわち肺深部への優先的な投与とともに、直接変化する。慣用的な適用のために求められる典型的なP/C比は、約1.35〜2.2の範囲またはそれ以上である。
【0044】
肺の末梢への投与を最大化することを必要とし、そしてしたがって高いP/C比を必要と
する、これらのより典型的な適用とは異なり、本発明では、肺の中央気道への投与に重点を置くことが望ましい。したがって、本発明では、肺の中央気道への投与が、肺の末梢への投与より好ましいという驚くべき発見にしたがって、相対的に低いP/C比、すなわち高
いC/P比を達成することが望ましい。したがって、C/P比は、本発明に求められる結果、すなわち肺の中央気道への優先的な投与とともに、直接変化する。したがって、好ましい態様は、C/P比が少なくとも0.7〜0.9であるものを含む。これらの態様は、具体的に、少な
くとも0.7、0.8、および0.9のC/P比を有するものを含む。より好ましい態様は、C/P比が
少なくとも1.0〜1.4であるものを含む。これらの態様は、具体的に、少なくとも1.0、1.1、1.2、1.3、および1.4のC/P比を有するものを含む。さらにより好ましい態様は、C/P比
が少なくとも1.5〜1.9であるものを含む。これらの態様は、具体的に、少なくとも1.5、1.6、1.7、1.8、および1.9のC/P比を有するものを含む。最も好ましい態様は、C/P比が少
なくとも2.0〜3.0であるものを含む。これらの態様は、具体的に、少なくとも2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、および3.0のC/P比を有するものを含む。C/P
比には理論的な上限はない。したがって、最も好ましい態様は、3.0より大きいC/P比を有するものを含む。
【0045】
C/P比の決定は、適切な方法いずれによっても達成可能であるが、典型的には、こうし
た決定は、平面画像化ガンマ・シンチグラフィー、三次元単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)、またはポジトロン放出断層撮影(PET)を伴う。Newman SPら(1998)Respiratory Drug Delivery VI:9-15;Fleming JSら(2000)J Aerosol Med 13:187-98。典
型的なP/C比決定において、適切なガンマ線放出放射性核種、例えば99mTc、113mIn、131I、または81mKrを薬剤配合物に添加する。被験者にエアロゾルを投与した後、ガンマカメ
ラでデータを得て、そして生じた肺画像を2つ(中央および末梢)または3つ(中央、中間、および末梢)の画像化領域に分けることによって解析する。Newman SPら、上記;Agnew
JEら(1986)Thorax 41:524-30。選択した画像化法に応じて、中央画像化領域、並びに中央および中間画像化領域はともに、中央気道の代表である。末梢画像化領域は、肺の末梢の代表である。減衰および崩壊を考慮に入れて、末梢画像化領域由来のカウントを中央画像化領域由来のカウント(または適切な場合、中央画像化領域および中間画像化領域由来の合わせたカウント)で割る。C/P比の決定は、今概略した方法にしたがうが、末梢区
域由来のカウントで割った中央画像化領域由来のカウント(または適切な場合、中央画像化領域および中間画像化領域由来の合わせたカウント)として、比を計算する。
【0046】
呼吸の方法を含む、いくつかの要因が、肺内での粒子沈着部位に寄与する。一般的には、吸気がより速く、より浅く、そしてその期間がより短いと、中央気道での沈着により有利である。逆に吸気がより遅く、より深く、そしてその期間がより長いと、肺末梢での沈着により有利である。したがって、例えば、正常(すなわち周期的)呼吸は、中央気道での沈着に有利に働き、一方、深く、正常以上の吸気であること、および息をこらえることは、肺深部での沈着に有利に働く。別の言い方をすると、低流、低圧呼吸は、中央気道での沈着に有利に働き、そして逆に、高流、高圧呼吸は、肺深部での沈着に有利に働く。し
たがって、人工呼吸器上の呼吸の設定では、人工呼吸器が管理する流れおよび圧力のパラメーターを、肺の中央沈着または末梢沈着いずれを有利にするようにも設定可能である。機械的管理呼吸または補助呼吸のこうしたパラメーターは、体重、根底にある肺疾患または他の疾患、吸気酸素分率(FiO2)、液量状態、肺コンプライアンス等を含む、当該技術分野に周知のいくつかの臨床的要因とともに、血液pH、血中酸素分圧、および血中二酸化炭素分圧に反映される有効なガス交換に基づいて選択される。
【0047】
したがって、好ましい投与法の一部として、正常呼吸または周期的呼吸パターンの使用による、少なくとも0.7のC/P比の達成が好ましい。これは、例えば、周期的呼吸中、いくつかの呼吸の経過に渡って、エアロゾルを吸入することによって、達成可能である。人工呼吸器上の呼吸の設定において、好ましい投与法の一部として、低流、低圧補助換気による、少なくとも0.7のC/P比の達成が好ましい。
【0048】
気道内の粒子沈着部位および粒子沈着の度合いに影響を及ぼす別の要因は、粒子の物理化学的特性に関する。粒子の重要な物理化学的特性には、空気力学的粒径、密度、速さ、および電荷が含まれる。これらの要因のいくつかを、本発明の以下の側面で考慮する。
【0049】
本発明の別の側面にしたがって、治療剤を全身搬送するための方法を提供する。この側面にしたがった方法は、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、肺に投与することを伴い、ここでエアロゾル中の粒子は、少なくとも3μmの空気動力学的粒径(MMAD)を有する。さらに別の側面にしたがって、本発明は、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルであって、エアロゾル中の粒子が、少なくとも3μmのMMADを有する、前記エアロゾルを提供する。粒子のサイズおよび分布は、エアロゾル沈着に影響を与える重要なパラメーターであると考えられる。エアロゾル粒子は、一般的に、形状およびサイズが多様である。エアロゾルの個々の粒子サイズは、顕微鏡で性質決定可能であり、そしてその後、全サイズ分布の中心傾向を示す、平均一次粒子サイズ値を概算可能である。同等の球体寸法によって、不規則な形状の粒子の粒子サイズを表すことが好都合である。空気力学的粒径(Dae)は、研究中の粒子と同じ沈降速
度(一般的に空気中)を有する単位密度球体の直径と定義される。この寸法は、粒子の形状、密度および物理的サイズを含む。粒子集団を、各粒子サイズ範囲に含まれる質量(mass)の見地から定義することが可能である。この分布は、空気動力学的粒径(MMAD)で2
つの等しい半分に分割可能である。MMAD周囲の分布を、幾何標準偏差(GSD)の見地から
表すことが可能である。エアロゾル粒子サイズ分布が対数正規分布であると仮定されるならば、これらのパラメーターを使用可能である。
【0050】
粒子サイズは均一でない可能性があるため、多様な態様において、少なくとも3μmのDaeを有する粒子が、エアロゾル中の粒子の少なくとも50パーセント、少なくとも60パーセ
ント、少なくとも70パーセント、好ましくは少なくとも75パーセント、より好ましくは少なくとも80パーセント、さらにより好ましくは少なくとも85パーセント、さらにより好ましくは少なくとも90パーセント、そして最も好ましくは少なくとも95パーセントを構成することが可能である。
【0051】
気道内のエアロゾル粒子の沈着機構には、慣性衝突、妨害、沈降、および拡散が含まれる。慣性衝突は、大きな(高可動性)粒子または小滴が、その最初の運動方向に進み、そして空気の運動方向が、障害物を周って通過するとき、速度流線(velocity streamline
)にしたがわない際に起こる。これらの大きな粒子は、障害物に向かって進み、そして沈着する。慣性衝突は、気管気管支樹全体で生じるが、特に、流速度および粒子サイズがはるかにより大きい、最大の気道で起こる。妨害は、鼻沈着および小気道において、適切である。粒子が気道壁から粒子の直径未満に位置する流れの方向に動く空気流に進入した際に、粒子は妨害されるであろう。沈降は、引力下で起こり、そして比較的大きく、そして
肺胞領域のより小さい気道に位置する粒子に影響を及ぼす。拡散は、小さいマイクロメートル未満の粒子の沈着に関与する。粒子は、気道壁に進むまで、気体分子による衝突の影響下、ランダムに移動する。
【0052】
特殊化エアロゾル生成装置は、「単分散」エアロゾル、すなわち1.2μm未満のGSDを有
する粒子を含むエアロゾルを生成可能であることが知られる。Fuchs NAら(1966):Davies CN監修, Aerosol Science中, ロンドン:Academic Press, pp.1-30。振動オリフィス単分散エアロゾル生成装置(VOAG)は、単分散エアロゾル生成装置の一種の例であり、そして、この装置は、較正標準を調製するのによく使用される。Berglund RNら(1973)Environ Sci Technol 7:147。この生成装置は、濃縮物が5〜50μmのサイズ範囲のオリフィ
ス直径を有するオリフィス・プレートを通過する際に、1.05近いGSDを達成可能である。
さらなる種類の単分散エアロゾル生成装置には、回転ディスクおよび回転上部エアロゾル生成装置が含まれる。これらもまた、しばしば、較正標準を調整するのに使用される。
【0053】
粒子サイズ、すなわち、MMADおよびGSDを、いかなる適切な技術を用いて測定すること
も可能である。広く使用される技術には、単一段階および多段階慣性衝突、バーチャル衝突、レーザー粒子サイジング、光学顕微鏡、および走査型電子顕微鏡が含まれる。概説に関しては、Lalor CBら(1997):Inhalation Delivery of Therapeutic Peptides and Proteins中, Adjei ALおよびGupta PK監修, ニューヨーク:Marcel Dekker, pp.235-276を参照されたい。
【0054】
2μm〜10μmの範囲の粒子サイズが、気管支領域および肺領域に治療剤を搬送するのに
最適と広くみなされている。Heyder Jら(1986)J Aerosol Sci 17:811-25。息をこらえる技術を伴う時、および伴わない時、それぞれ、粒子が1.5μm〜2.5μmの間および2.5μm〜4μmの間の直径を有する際に、最大肺胞沈着が生じることが示されている。Byron PR(1986)J Pharm Sci 75:433-38。粒子サイズが約3μmを越えて増加するにつれ、沈着は肺胞で減少し、そして中央気道で増加する。約10μmを越えると、沈着は、主に喉頭および
上部気道で起こる。
【0055】
先に言及したように、少なくとも4.8μmのMMADを有する粒子は呼吸不適であり、すなわち、これらは肺深部の肺胞空間に進入しないと考えられる。これは、今まで、5μm未満のMMADを有する粒子に特徴付けられるエアロゾルが投与されることが一般的に好ましかったのが何故かを説明する。対照的に、本発明の特定の好ましい態様において、粒子の大部分は呼吸不適である。
【0056】
さらに別の側面において、本発明はエアロゾル搬送系を提供する。この側面にしたがったエアロゾル搬送系は、容器、容器に連結されたエアロゾル生成装置、並びに容器内に配置された、治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートを含み、ここでエアロゾル生成装置は、少なくとも3μmのMMADを持つ粒子を有するコンジュゲートのエアロゾルを生成するように構築され、そして配置されている。
【0057】
特に好ましい態様において、エアロゾル搬送系は、定義される幾何学配置で、複数の開口部を有する開口部プレートを振動させるように構築されそして配置された振動要素を含み、ここで開口部プレートの片側または片方の表面は、コンジュゲート溶液またはコンジュゲート懸濁物と流体連結している。例えば、本明細書にその全内容が援用される、米国特許第5,758,637号、米国特許第5,938,117号、米国特許第6,014,970号、米国特許第6,085,740号、および米国特許第6,205,999号を参照されたい。振動要素を活性化して、開口部
プレートを振動させると、溶液または懸濁物中のコンジュゲートを含有する液体が、複数の開口部から抜き取られ、定義される範囲の小滴(すなわち粒子)サイズの低速エアロゾルを生成する。
【0058】
この種のエアロゾル生成装置の例は、Aerogen, Inc.、カリフォルニア州サニーベールから商業的に入手可能である。
別の態様において、エアロゾル搬送系は、溶液または懸濁物中のコンジュゲートを含有する加圧容器を含む。加圧容器は、典型的には、作動装置の活性化によって、容器内の溶液または懸濁物中のコンジュゲートのあらかじめ決定された量が、容器からエアロゾルの形で分配されるように、計量バルブに連結された作動装置を有する。この種の加圧容器は、噴射剤(propellant)が駆動する計量式吸入器(pMDIまたは単にMDI)として当該技術
分野に周知である。MDIには、典型的には、作動装置、計量バルブ、並びに微粉化薬剤懸
濁物または溶液、液化噴射剤、および界面活性剤(例えばオレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン、レシチン)を保持する加圧容器が含まれる。従来、これらのMDIは、典型的に
は、噴射剤として、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、およびジクロロテトラフルオロメタンを含む、クロロフルオロカーボン(CFC)を用いていた。噴射
剤単独では、比較的劣った溶媒である場合、エタノールなどの共溶媒が存在可能である。より新しい噴射剤には、1,1,1,2-テトラフルオロエタンおよび1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンが含まれることが可能である。MDIの作動によって、典型的には、100〜200 msecに渡って、高速(30 m/秒)で、20〜100μlの体積中、活性剤50μg〜5 mgの用量が
生じる。
【0059】
他の態様において、エアロゾル搬送系には、溶液または懸濁物中のコンジュゲートを含有する容器と流体連結している、空気ジェットネブライザーまたは超音波ネブライザーが含まれる。ネブライザー(空気ジェットまたは超音波)は、主に、歩行不能患者の救急処置に、そして幼児および小児で用いられる。噴霧化用の空気ジェットネブライザーは、小さい加圧空気ポンプが利用可能であるため、持ち運び可能とみなされるが、比較的大きく、そして不都合な系である。超音波ネブライザーは、一般的に、加圧空気の供給源を必要としないため、より持ち運び可能であるという利点を有する。ネブライザーは、非常に小さい小滴および高い質量アウトプットを提供する。噴霧化によって投与される用量は、MDIの用量よりはるかに高く、そして液体容器はサイズが限定されており、その結果、療法
は短く単一の期間のものとなる。
【0060】
空気ジェットネブライザーからエアロゾルを生成するため、圧縮空気が、キャピラリーチューブの開放端のオリフィスを通じて押し出され、低圧領域が生成される。液体配合物をチューブから抜き取り、空気ジェットと混合し、そして小滴を形成する。ネブライザー内のバッフルはより大きい小滴を取り除く。空気流中の小滴サイズは、圧縮空気の圧力に影響される。中央粒径(mass median diameter)は、通常、20〜30 psigの空気圧で2〜5
μmの範囲である。多様な商業的に入手可能な空気ジェットネブライザーは、同等には働
かない。これは、小滴サイズ、ネブライザーからの総アウトプット、および患者決定要因に依存する、噴霧エアロゾルの臨床的有効性に影響を及ぼすであろう。
【0061】
超音波ネブライザーは、刺激に際して機械的に振動する、セラミック圧電性結晶によって、液体チャンバーに焦点をあてる、高周波数の超音波(すなわち100 kHz以上)を用い
て、エアロゾルを生成する。Dennis JHら(1992)J Med Eng Tech 16:63-68;O'Doherty
MJら(1992)Am Rev Respir Dis 146:383-88。いくつかの例では、推進装置がネブライザーから粒子を吹き飛ばすか、またはエアロゾルが直接患者に吸入される。超音波ネブライザーは、空気ジェットネブライザーよりもより多いアウトプットを生じることが可能であり、そしてこのため、エアロゾル薬剤療法にしばしば用いられる。超音波ネブライザーを用いて形成される小滴は、周波数に応じて、空気ジェットネブライザーに搬送されるものより粗い(coarser)(すなわちMMADがより高い)。液体に導入されるエネルギーは、
温度の上昇を生じる可能性があり、これによって時間に渡って気化および濃度の変動が生じうる。この時間に渡る濃度変動はまた、ジェットネブライザーでも生じるが、これは蒸
発を通じた水の減少のためである。
【0062】
ネブライザー中、溶液配合物または懸濁配合物の間の選択は、MDIに関するものと同様
である。選択する配合物は、総質量アウトプットおよび粒子サイズに影響を及ぼすであろう。ネブライザー配合物は、典型的には、可溶性および安定性を改善するために添加される共溶媒(エタノール、グリセリン、プロピレングリコール)および界面活性剤とともに、水を含有する。通常、低浸透圧溶液または高浸透圧溶液由来の気管支収縮を防止するため、浸透圧剤もまた添加する。Witeck TJら(1984)Chest 86:592-94;Desager KNら(1990)Agents Actions 31:225-28。
【0063】
さらに他の態様において、エアロゾル搬送系は、粉末型のコンジュゲートを含有する容器と流体連結している乾燥粉末吸入器を含む。乾燥粉末吸入器は、MDI製品中のクロロフ
ルオロカーボンの国際的な法的規制に応じて、いくつかの徴候に関して、ゆくゆくはMDI
に取って代わる可能性がある。特に、この装置は、呼吸可能サイズ範囲で、装填の一部分しか搬送可能でない。粉末吸入器は、通常、含有される薬剤の約10〜20%しか、呼吸可能な粒子中に分散させないであろう。典型的な乾燥粉末吸入器は、2つの要素からなる:吸
われる空気流に、粉末配合物の単位用量を分散させる吸入用器、およびこれらの用量を分配する粉末配合物貯蔵器。貯蔵器は、典型的には、2つの異なる種類であることが可能で
ある。バルク貯蔵器は、およそ200用量まで、個々の用量搬送に際して分配される粉末が
正確な量であることを可能にする。単位用量貯蔵器は、必要に応じて、吸入される個々の用量(例えばブリスターパッケージングで、またはゼラチンカプセル型で提供される)を提供する。手持ち式装置は、カプセル/ブリスターパッケージが壊れて開くか、またはバルク粉末を装填するように操作した後、患者の吸気から分散するように設計されている。空気流は、粉末を脱凝集し、そしてエアロゾル化するであろう。大部分の場合、患者の吸気空気流が装置を活性化し、乾燥粉末を分散させ、そして脱凝集させるエネルギーを提供し、そして肺に到達する医薬品の量を決定する。
【0064】
乾燥粉末生成装置は、粉末の物理的および化学的特性のため、ばらつきを免れない。これらの吸入器は、200μg〜20 mgの範囲の用量を計量するように設計されている。これら
の装置において、薬剤粉末の調製は非常に重要である。これらの吸入器中の粉末は、MDI
中の懸濁物でも必要である、効率的なサイズ減少を要する。微粉化粒子は、粗い粒子よりもより不均一に流れ、そして分散する。したがって、微粉化薬剤粉末を不活性キャリアーと混合することが可能である。このキャリアーは、通常、α-ラクトース一水和物であり
、これはラクトースが多様な粒子サイズ範囲にあり、そしてよく性質決定されているためである。Byron PRら(1990)Pharm Res 7(suppl):S81。キャリアー粒子は、治療剤よ
り大きい粒子サイズを有し、該賦形剤が気道に進入するのを防止する。2つの粒子の分離
は、マウスピースを通じて患者が吸入する際に、乱れた空気流が生成されると生じるであろう。この吸気の乱れは、微粉化粒子が空気に運ばれるようになるため、粒子間凝集力および粒子表面接着力を克服する、ある量のエネルギーを提供するであろう。空気中の高濃度の薬剤粒子は、乾燥粉末生成を用いて、容易に達成されるが、アウトプットの安定性、および凝集されそして荷電した粒子の存在が共通の問題である。非常に小さい粒子では、会合エネルギーを増加させる、静電気力、ファンデルワールス力、毛管力、および機械力のため、分散が困難である。
【0065】
本発明で使用するのに適した乾燥粉末吸入器エアロゾル生成装置の例は、Fisons Corp
、マサチューセッツ州ベッドフォードから入手可能な、Spinhaler粉末吸入器である。
FcRn分子は、現在、よく性質決定されている。上述のように、FcRnは、ヒトを含むいくつかの哺乳動物種で単離されている。FcRnは、FcRnアルファ鎖(FcRn重鎖と同等)およびβ2ミクログロブリンを含むヘテロ二量体として存在する。ヒトFcRn、ラットFcRn、およ
びマウスFcRnアルファ鎖の配列は、本明細書にその全体が援用される、Story CMら(1994
)J Exp Med 180:2377-81に見出すことが可能である。一般的な当業者に認識されるであろうように、FcRnは、例えば非特異的抗体、ポリクローナル抗体、またはモノクローナル抗体を用いて、クローニングによって、またはアフィニティー精製によって、単離可能である。その後、以下に記載するように、こうした単離FcRnを用いて、FcRn結合パートナーを同定し、そして単離することが可能である。
【0066】
FcRnに結合するIgGのFc部分の領域が、X線結晶学に基づいて記載されている(例えば、本明細書にその全体が援用される、Burmeister WPら(1994)Nature 372:379-83、およ
びMartin WLら(2001)Mol Cell 7:867-77を参照されたい)。FcRnとFcの主な接触領域
は、CH2ドメインおよびCH3ドメインの接合部近傍である。潜在的なIgG接点は、CH2中の残基248、250〜257、272、285、288、290〜291、307、308〜311および314、並びにCH3中の
残基385〜387、428および433〜436である。これらの部位は、サブクラス比較または部位
特異的突然変異誘発によって、白血球FcγRIおよびFcγRIIへのFc結合に重要と同定され
たものとは、別個である。先の研究によって、ネズミIgG残基253、272、285、310、311、および433〜436が、FcRnとの潜在的な接点として関連付けられてきている。Shields RLら(2001)J Biol Chem 276:6591-6604。先の研究によって、ヒトIgG1では、残基253〜256、288、307、311、312、380、382、および433-436がFcRnとの潜在的な接点として関連付
けられてきている。前述のFc-FcRn接点はすべて、一本鎖Ig重鎖内である。2つのFcRnが単一のFcホモ二量体に結合可能であることが、先に注目されてきている。結晶学データによって、こうした複合体において、各FcRn分子が、Fcホモ二量体の1つのポリペプチドと主
要な接点を有することが示唆される。Martin WLら(1999)Biochemistry 39:9698-708。
【0067】
ヒトFcRnは、ヒトIgGのすべてのサブクラスに結合するが、マウスおよびラットIgGの大部分のサブクラスに同様に結合するのではない。West APら(2000)Biochemistry 39:9698-9708;Ober RJら(2001)Int Immunol 13:1551-59。したがって、特定の種に関して
、FcRn結合パートナーを得ることが可能なIgGの好ましい種があるであろう。各種の結合
親和性の順番は、IgG1=IgG2>IgG3>IgG4(ヒト);IgG1>IgG2b>IgG2a>IgG3(マウス);およびIgG2a>IgG1>IgG2b=IgG2c(ラット)である。Burmeister WPら(1994)Nature 372:379-83。したがって、サブクラスいずれに属するヒトIgG(およびそのFcRn接点
含有断片)も、ヒトFcRn結合パートナーとして有用であると考えられる。
【0068】
本発明の1つの態様において、全IgG以外のFcRn結合パートナーを用いて、肺上皮性関門を越えて治療剤を輸送することが可能である。こうした態様において、全IgGよりも、高
い親和性でFcRnに結合するFcRn結合パートナーを選択することが好ましい。こうしたFcRn結合パートナーは、FcRnを利用して、上皮性関門を越えるコンジュゲート化治療剤の能動輸送を達成する際に、そして内因性IgGによる輸送機構に対する競合を減少させる際に、
有用性を有する。当業者に知られる標準的アッセイを用いて、これらのより高い親和性のFcRn結合パートナーのFcRn結合活性が測定可能であり、これらのアッセイには:(a)天
然にFcRnを発現するか、あるいはFcRnまたはFcRnのアルファ鎖を発現するように遺伝子操作されている極性化細胞を用いる輸送アッセイ;(b)可溶性FcRnまたはその断片、ある
いは固定FcRnを用いるFcRnリガンド:タンパク質結合アッセイ;(c)天然にFcRnを発現
するか、あるいはFcRnまたはFcRnのアルファ鎖を発現するように遺伝子操作されている極性化細胞または非極性化細胞を利用する結合アッセイが含まれる。
【0069】
FcRn結合パートナーは、組換え遺伝子操作技術によって産生可能である。本発明の範囲内にあるのは、ヒトFcRn結合パートナーをコードするヌクレオチド配列である。FcRn結合パートナーには、全IgG、IgGのFc断片およびFcRnに対する完全結合領域を含む他のIgG断
片が含まれる。主要接触部位には、CH2ドメインのアミノ酸残基248、250〜257、272、285、288、290〜291、308〜311および314、並びにCH3ドメインのアミノ酸残基385〜387、428および433〜436が含まれる。したがって、本発明の好ましい態様において、これらのアミ
ノ酸残基に渡るIgG Fc断片の領域をコードするヌクレオチド配列がある。
【0070】
IgGのFc領域を、部位特異的突然変異誘発などのよく認識された方法にしたがって修飾
して、FcRnが結合するであろう、修飾IgG、あるいは修飾Fc断片またはその一部を得るこ
とが可能である。こうした修飾には、FcRn接触部位から離れた修飾とともに、FcRnへの結合を保持するかまたは増進しさえする、接触部位内の修飾が含まれる。例えば、ヒトIgG1
Fc(Fcγ1)中の以下の単一アミノ酸残基は、FcRnに対するFc結合親和性の有意な損失なしに置換可能である:P238A、S239A、K246A、K248A、D249A、M252A、T256A、E258A、T260A、D265A、S267A、H268A、E269A、D270A、E272A、L274A、N276A、Y278A、D280A、V282A、E283A、H285A、N286A、T289A、K290A、R292A、E293A、E294A、Q295A、Y296F、N297A、S298A、Y300F、R301A、V303A、V305A、T307A、L309A、Q311A、D312A、N315A、K317A、E318A
、K320A、K322A、S324A、K326A、A327Q、P329A、A330Q、P331A、E333A、K334A、T335A、S337A、K338A、K340A、Q342A、R344A、E345A、Q347A、R355A、E356A、M358A、T359A、K360A、K360A、N361A、Q362A、Y373A、S375A、D376A、A378Q、E380A、E382A、S383A、N384A、Q386A、E388A、N389A、N390A、Y391F、K392A、L398A、S400A、D401A、D413A、K414A、R416A、Q418A、Q419A、N421A、V422A、S424A、E430A、N434A、T437A、Q438A、K439A、S440A
、S444A、およびK447A、ここで、例えばP238Aは、アラニンに置換される238位の野生型プロリンを表す。Shields RLら(2001)J Biol Chem 276:6591-6604。すべてではないが上に列挙する変異体の多くはアラニン変異体であり、すなわち野生型残基がアラニンに交換されている。しかし、上記の特定される位で、アラニンに加えて、他のアミノ酸が野生型アミノ酸を置換することも可能である。これらの突然変異をFcに単一に導入して、天然ヒトFcγ1と構造的に異なる、100を越えるFcRn結合パートナーを生じることが可能である。さらに、これらの個々の突然変異の2、3、またはそれより多くの組み合わせをともに導入して、さらなるFcRn結合パートナーを生じることが可能である。
【0071】
特定の上記突然変異は、FcRn結合パートナーに新たな官能性を与えることが可能である。例えば、好ましい態様は、N297Aを取り込み、非常に保存されるN-グリコシル化部位を
取り除く。この突然変異の影響は、免疫原性を減少させ、それによって、FcRn結合パートナーの循環半減期を増進させ、そしてFcRn結合パートナーのFcRnに対する親和性を危うくせずに、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、およびFcγRIIIAに対する結合を本質的に不能に
することである。Routledge EGら(1995)Transplantation 60:847-53;Friend PJら(1999)Transplantation 68:1632-37;Shields RLら(2001)J Biol Chem 276:6591-6604。上述の突然変異から生じる新たな官能性のさらなる例として、いくつかの例では、FcRnに対する親和性を、野生型のものより増加させることが可能である。この増加した親和性は、増加した「オン」速度、減少した「オフ」速度、または増加した「オン」速度および減少した「オフ」速度両方を反映する可能性がある。FcRnに対して増加した親和性を与えうると考えられる突然変異には、特に、T256A、T307A、E380A、およびN434Aが含まれる。Shields RLら(2001)J Biol Chem 276:6591-6604。FcRnに対して増加した親和性を与えうると考えられる組み合わせ変異体には、特に、E380A/N434A、T307A/E380A/N434A、およびK288A/N434Aが含まれる。Shields RLら(2001)J Biol Chem 276:6591-6604。
【0072】
1つの態様において、上に開示するFcRn結合パートナーに加えて、FcRn結合パートナー
は、配列:PKNSSMISNTP(SEQ ID NO: 11)を含み、そして場合によって、HQSLGTQ(SEQ ID NO: 12)、HQNLSDGK(SEQ ID NO: 13)、HQNISDGK(SEQ ID NO: 14)、またはVISSHLGQ(SEQ ID NO: 15)からなる群より選択される配列をさらに含むポリペプチドである。Prestaらに発行された米国特許第5,739,277号。配列PKNSSMISNTP(SEQ ID NO: 11)は、Fc(SEQ ID NO: 2)のCH2ドメインのアミノ酸247〜257に対応する、PKDTLMISRTP(SEQ ID NO:
16)と比較される。
【0073】
本発明が、特定のFcRn結合パートナーいずれかの選択によって限定されるとは意図され
ない。したがって、いま記載したFcRn結合パートナーに加えて、他の結合パートナーが同定され、そして単離される可能性がある。よく確立された技術を用いて、FcRnに特異的であり、そして結合したらFcRnによって輸送可能な抗体またはその部分を同定し、そして単離することが可能である。同様に、慣用技術を用いて、ランダムに生成された分子的に多様なライブラリーをスクリーニングして、そしてFcRnに結合し、そしてFcRnに輸送される分子を単離することが可能である。アミノ酸側鎖基の置換とは区別されるような、ポリペプチド(すなわちポリアミド)主鎖に修飾を取り込んだFcRn結合パートナーもまた、本発明に意図される。例えば、Bartlettらは、ペプシンおよびペニシロペプシンのホスホネート、ホスフィネートおよびホスフィンアミド含有シュードペプチド阻害剤を報告した。Bartlettら(1990)J Org Chem 55:6268-74。米国特許第5,563,121号もまた参照されたい
。これらの阻害剤は、通常、これらの酵素によって切断されるであろう、切れやすいアミド結合の代わりにリン含有結合を含む、シュードペプチドであった。
【0074】
FcRn結合パートナーを同定し、そして性質決定するためのin vitroスクリーニング法は、当業者によく知られた技術に基づきうる。これらは、単離されたFcRnを「捕捉抗原」としての支持体に直接または間接的に結合させ、そして続いて試験FcRn結合パートナーを含有する試料に曝露し;その後、固定FcRnへの試験FcRn結合パートナーの結合を直接または間接的にアッセイする、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)を含むことが可能である。
関連する方法において、競合ELISAまたは直接ラジオイムノアッセイ(RIA)を用いて、標識した標準FcRn結合パートナーのFcRnに対する親和性に比較して、未標識試験FcRn結合パートナーのFcRnに対する親和性を決定することが可能である。これらの技術は、容易に拡張可能であり、そしてしたがって、候補FcRn結合パートナーの大規模および高処理スクリーニングに適している。
【0075】
FcRn結合パートナーを同定し、そして性質決定するのに有用な、さらなるin vitroスクリーニング法は、細胞に基づくことが可能である。これらの方法は、試験FcRn結合パートナーの細胞結合、細胞取り込み、または細胞トランスサイトーシスを測定する。こうした方法は、例えば同位体(131I、35S、32P、13Cなど)、発色団、蛍光体、ビオチン、また
は抗体に認識されるエピトープ(例えばFLAGペプチド)でFcRn結合パートナーを標識することによって、容易にすることが可能である。これらのアッセイで用いた細胞は、天然にFcRnを発現するか、または適切な制御配列に機能可能であるように連結されたFcRnをコードする単離核酸分子を細胞に導入した結果、FcRnを発現することが可能である。典型的には、適切な制御配列に機能可能であるように連結されたFcRnをコードする核酸は、宿主細胞を形質転換するかまたはトランスフェクションするのに用いられるプラスミドである。一過性および安定形質転換およびトランスフェクションの方法は、当該技術分野に周知であり、そしてこれらは、物理的技術、化学的技術、およびウイルス技術、例えばリン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、微粒子銃注入等を含む。
【0076】
FcRn結合パートナーを同定し、そして性質決定するのに適した、さらに他のin vitro法は、フローサイトメトリー(FACS)、電気移動度シフトアッセイ(EMSA)、表面プラズモン共鳴(生体分子相互作用解析;BIAcore)、チップに基づく表面相互作用解析等を含む
ことが可能である。
【0077】
FcRn結合パートナーが、完全に遺伝子にコードされるアミノ酸で構成されるか、またはこうして構成されるものの部分である場合、ペプチドまたは適切な部分はまた、慣用的な組換え遺伝子操作技術を用いて合成可能である。組換え産生のため、FcRn結合パートナーをコードするポリヌクレオチド配列を、適切な発現ビヒクル、すなわち挿入されるコード配列の転写および翻訳に必要な要素、またはRNAウイルスベクターの場合、複製および翻
訳に必要な要素を含有するベクターに挿入する。その後、ペプチドを発現するであろう適切な標的細胞に、発現ビヒクルをトランスフェクションするか、または別の方式で導入す
る。用いる発現系に応じて、その後、発現されたペプチドを、当該技術分野においてよく確立された方法によって単離する。組換えタンパク質およびペプチド産生法は当該技術分野に周知である(例えばManiatisら, 1989, Molecular Cloning:A Laboartory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, ニューヨーク;およびAusubelら, 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience,
ニューヨークを参照されたい)。
【0078】
産生効率を増加させるため、酵素切断部位に分離された多数の単位のFcRn結合パートナーをコードするように、ポリヌクレオチドを設計することが可能である。ペプチド単位を回収するため、生じたポリペプチドを切断することが可能である(例えば適切な酵素での処理によって)。これによって、単一プロモーターに駆動されるペプチドの収率が増加しうる。適切なウイルス発現系で用いた場合、mRNAにコードされる各ペプチドの翻訳は、例えば内部リボソーム進入部位、IRESによって、転写物の内部で導かれる。したがって、ポリシストロン性構築物は、単一の大きいポリシストロン性mRNAの転写を導き、これが続いて、多数の個々のペプチドの翻訳を導く。このアプローチは、ポリタンパク質の産生および酵素プロセシングを除外し、そして単一プロモーターに駆動されるペプチドの収率を有意に増加させることが可能である。
【0079】
多様な宿主発現ベクター系を利用して、本明細書に記載するFcRn結合パートナーを発現させることが可能である。これらには、限定されるわけではないが、適切なコード配列を含有する組換えバクテリオファージDNAまたはプラスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌などの微生物;適切なコード配列を含有する組換え酵母または真菌発現ベクターで形質転換された酵母または糸状菌;適切なコード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;適切なコード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)またはタバコモザイクウイルス(TMV))に感染したかまたは組換え植物発現ベクター(例えばTiプラ
スミド)で形質転換された植物細胞系;あるいは動物細胞系が含まれる。多様な宿主発現系が当業者に周知であり、そして宿主細胞および発現ベクター要素は、商業的供給源から入手可能である。
【0080】
発現系の発現要素は、強度および特異性が多様である。利用する宿主/ベクター系に応じて、恒常性プロモーターおよび誘導性プロモーターを含む、いくつかの適切な転写要素および翻訳要素のいずれを発現ベクター中で用いることも可能である。例えば、細菌系にクローニングする場合、バクテリオファージλのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)等の誘導性プロモーターが使用可能であり;昆虫細胞系にクローニングする場合、バキュロウイルス多角体プロモーターなどのプロモーターが使用可能であり;植物細胞系にクローニングする場合、植物細胞ゲノム由来(例えば熱ショックプロモーター;RUBISCOの小サブユニットのプロモーター;クロロフィルa/b結合タンパク質のプロモーター)または植物ウイルス由来(例えばCaMVの35S RNAプロモーター;TMVのコートタンパク質プロモーター)のプロモーターが使用可能であり;哺乳動物細胞系にクローニングする場合、哺乳動物細胞ゲノム由来(例えばメタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来(例えばアデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター;サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター)のプロモーターが使用可
能であり;多コピーの発現産物を含有する細胞株を生成する場合、適切な選択可能マーカーとともにSV40、BPVおよびEBVに基づくベクターが使用可能である。
【0081】
植物発現ベクターを用いる場合、本発明のポリペプチドをコードする配列の発現は、いくつかのプロモーターのいずれに駆動されることも可能である。例えば、CaMVの35S RNA
および19S RNAプロモーター(Koziel MGら(1984)J Mol Appl Genet 2:549-62)、またはTMVのコートタンパク質プロモーターなどのウイルスプロモーターが使用可能であり;
あるいは、RUBISCOの小サブユニット(Coruzzi Gら(1984)EMBO J 3:1671-79;Broglie
Rら(1984)Science 224:838-43)あるいは熱ショックプロモーター、例えばダイズ(soybean)hsp17.5-Eまたはhsp17.3-B(Gurley WBら(1986)Mol Cell Biol 6:559-65)などの植物プロモーターが使用可能である。Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウイルスベクター、直接DNA形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどを
用いて、これらの構築物を植物細胞に導入することが可能である。こうした技術の概説には、例えば、WeissbachおよびWeissbach, 1988, Methods for Plant Molecular Biology,
Academic Press, ニューヨーク, セクションVIII, pp.421-463;およびGriersonおよびCorey, 1988, Plant Molecular Biology, 第2版, Blackie, ロンドン, Ch.7-9を参照さ
れたい。
【0082】
FcRn結合パートナーを発現させるのに使用可能な1つの昆虫発現系において、オートグ
ラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcNPV)をベ
クターとして用いて、外来遺伝子を発現させる。該ウイルスは、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞で増殖する。コード配列をウイルスの非必須領域(
例えば多角体遺伝子)内にクローニングし、そしてAcNPVプロモーター(例えば多角体プ
ロモーター)の調節下に置くことが可能である。コード配列挿入に成功すると、その結果、多角遺伝子が不活性化され、そして非閉塞組換えウイルス(すなわち多角体遺伝子にコードされるタンパク質性コートを欠くウイルス)が産生されるであろう。その後、これらの組換えウイルスを用いて、スポドプテラ・フルギペルダ細胞を感染させると、挿入された遺伝子が発現される(例えば米国特許第4,745,051号を参照されたい)。この発現系の
さらなる例を、Current Protocols in Molecular Biology, Vol.2, Ausubelら監修, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, ニューヨークに見出すことが可能である。
【0083】
哺乳動物宿主細胞において、ウイルスに基づくいくつかの発現系が利用可能である。アデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合、コード配列をアデノウイルス転写/翻訳調節複合体、例えば後期プロモーターおよび三分割(tripartite)リーダー配列に連結することが可能である。その後、in vitro組換えまたはin vivo組換えによって、このキ
メラ遺伝子をアデノウイルスゲノムに挿入することが可能である。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば領域E1またはE3)に挿入すると、感染宿主において、生存可能であり、そしてペプチドを発現可能である組換えウイルスが生じるであろう(例えばLogan Jら(1984)Proc Natl Acad Sci USA 81:3655-59を参照されたい)。あるいは、ワクシニア7.5K
プロモーターが使用可能である(例えばMackett Mら(1982)Proc Natl Acad Sci USA 79:7415-19;Mackett Mら(1984)J Virol 49:857-64;Panicali Sら(1982)Proc Natl Acad Sci USA 79:4927-31を参照されたい)。
【0084】
やはり哺乳動物宿主細胞で使用するのは、いくつかの真核発現プラスミドである。これらのプラスミドは、典型的には、挿入された目的の遺伝子または核酸に、機能可能であるように連結されたプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー要素、挿入された遺伝子の下流に位置するポリアデニル化シグナル、選択マーカー、および複製起点を含む。これらのプラスミドのいくつかは、特定する位置で、PCR産物として、または制限酵素消化
産物として、核酸挿入物を受け入れるよう設計されている。真核発現プラスミドの例には、pRc/CMV、pcDNA3.1、pcDNA4、pcDNA6、pGene/V5(Invitrogen)、およびpED.dC(Genetics Institute)が含まれる。
【0085】
FcRn結合パートナーは、いくつかの態様において、抗原にコンジュゲート化される。抗原は、本明細書において、4つの種類に属する:(1)病原体に特徴的な抗原;(2)自己
免疫疾患に特徴的な抗原;(3)アレルゲンに特徴的な抗原;および(4)癌または腫瘍に特徴的な抗原。一般的に、抗原には、細胞表面、細胞質、核、ミトコンドリア等由来の多
糖、糖脂質、糖タンパク質、ペプチド、タンパク質、炭水化物、および脂質が含まれる。
【0086】
病原体に特徴的な抗原には、ウイルス、細菌、寄生虫または真菌由来の抗原が含まれる。重要な病原体の例には、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)、ロタウイルス、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、赤痢菌属(Shigella)種、チフス菌(Salmonella typhi)、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ボレリア・ブルグドフェリ(Borrelia burgdorferi)、HIV、ストレプトコッカス・ミュータンス
(Streptococcus mutans)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、黄色ブド
ウ球菌(Staphylococcus aureus)、狂犬病ウイルスおよびエプスタイン-バーウイルスが含まれる。
【0087】
一般的に、ウイルスには、限定されるわけではないが、以下の科のものが含まれる:ピコルナウイルス科;カルシウイルス科;トガウイルス科;フラビウイルス科;コロナウイルス科;ラブドウイルス科; フィロウイルス科;パラミクソウイルス科;オルトミクソ
ウイルス科;ブンヤウイルス科;アレナウイルス科;レオウイルス科;レトロウイルス科;ヘパドナウイルス科;パルボウイルス科;パポバウイルス科;アデノウイルス科;ヘルペスウイルス科;およびポックスウイルス科。
【0088】
一般的に、細菌には、限定されるわけではないが:緑膿菌(P. aeruginosa)およびP.セパシア(P. cepacia)を含むシュードモナス属(Pseudomonas)種;大腸菌、E.フェカリス(E. faecalis)を含むエシェリキア属(Escherichia)種;クレブシエラ属(Klebsiella)種;セラチア属(Serratia)種;アシネトバクター属(Acinetobacter)種;肺炎
連鎖球菌、化膿連鎖球菌(S. pyogenes)、S.ボビス(S. bovis)、S.アガラクティエ
(S. agalactie)を含むストレプトコッカス属(Streptococcus)種;黄色ブドウ球菌、
表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)を含む、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)種;ヘモフィルス属(Haemophilus)種;髄膜炎菌(N. meningitidis)を含むナイセリア属(Neisseria)種;バクテロイデス属(Bacteroides)種;シトロバクター属(Citrobacter)種;ブランハメラ亜属(Branhamella)種;サルモネラ属(Salmonella)種;赤痢菌属種;奇怪変形菌(P. mirabilis)を含むプロテウス属(Proteus)種;クロストリジウム
属(Clostridium)種;エリシペロトリックス属(Erysipelothrix)種;リステリア属(Listeria)種;パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida);ストレプトバチルス属(Streptobacillus)種;スピリルム属(Spirillum)種;紡錘菌スピロヘータ属(Fusospirocheta)種;梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum);ボレリア属(Borrelia)種;放線菌綱(Actinomycetes);マイコプラズマ属(Mycoplasma)種;クラミジア属(Chlamydia)種;リケッチア属(Rickettsia)種;スピロヘータ属(Spirochaeta);レジオ
ネラ属(Legionella)種;ヒト型結核菌(M. tuberculosis)、M.カンサシ(M. kansasii)、M.イントラセルラレ(M.intracellulare)、M.マリヌム(M. marinum)を含むミコバクテリウム属(Mycobacteria)種;ウレアプラズマ属(Ureaplasma)種;ストレプトミセス属(Streptomyces)種;およびトリコモナス属(Trichomonas)種が含まれる。
【0089】
寄生虫には、限定されるわけではないが:熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵型マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malaria);トキソプラズマ(Toxoplasma gondii);メキシコ・リーシュマニア(Leishmania mexicana)、熱帯リーシュマニア(L. tropica)、森林型熱帯リーシュマニア(L. major)、エチオピア・リーシュマニア(L. aethiopica)、ドノバン・リーシュマニア(L. donovani)、クルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、ブルース・トリパノソーマ(T. brucei)、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)、ビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)、日本住血吸虫(S. japonium);旋毛虫(Trichinella spiralis);バンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti);マレー糸状虫(Brugia malayi);赤痢アメーバ(Entam
oeba histolytica);蟯虫(Enterobius vermicularis);有鉤条虫(Taenia solium)、無鉤条虫(T. saginata)、膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)、腸トリコモナス(T. hominis)、口腔トリコモナス(T.tenax);ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)
;クリプトスポリジウム・パルブム(Cryptosporidium parvum);ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)、バベシア・ボビス(Babesia bovis)、B.ダイバージェンス(B. divergens)、B.ミクロッティ(B. microti)、戦争イソスポーラ(Isospora belli)、L.ホミニス(L. hominis);二核アメーバ(Dientamoeba fragilis);回旋糸状虫(Onchocerca volvulus);回虫(Ascaris lumbricoides);アメリカ鉤虫(Necator americanis);十二指腸虫(Ancylostoma duodenale);糞線虫(Strongyloides stercoralis);フィリピン毛頭虫(Capillaria philippinensis);広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis);小型条虫(Hymenolepis nana);広節裂頭条虫(Diphyllobothrium latum);単包条虫(Echinococcus granulosus)、多包条虫(E.multilocularis)
;ウェステルマン肺吸虫(Paragonimus westermani)、P.カリエンシス(P. caliensis
);クロノルチス・シネンシス(Chlonorchis sinensis);ネコ肝吸虫(Opisthorchis felineas)、G.ビベリニ(G. viverini)、肝蛭(Fasciola hepatica)、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)、ヒトジラミ(Pediculus humanus);ケジラミ(Phthirlus pubis)
;およびヒト皮膚バエ(Dermatobia hominis)が含まれる。
【0090】
一般的に、真菌には、限定されるわけではないが:クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans);皮膚ブラストミセス(Blastomyces dermatitidis);
皮膚アイエロミセス(Aiellomyces dermatitidis);ヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum);コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis);鵞口瘡カンジダ(C. albicans)、C.トロピカリス(C. tropicalis)、C.パラプシロシス(C. parapsilosis)、C.ギリエルモンディ(C. guilliermondii)およびC.クルセイ(C. krusei)を含むカンジダ属(Candida)種;煙色コウジ菌(A. fumigatus)、黄色コウジ菌(A. flavus)および黒色コウジ菌(A. niger)を含むアスペルギルス属(Aspergillus)種;クモノスカビ属(Rhizopus)種;リゾムコール属(Rhizomucor)種;カニングハメラ属(Cunninghammella)種;A.サクセナエ(A. saksenaea)、A.ムコール(A. mucor)およびA.アブシディア(A. absidia)を含むアポフィソミセス属(Apophysomyces)
種;スポロトリックス・シェンキー(Sporothrix schenckii);パラコクシジオイデス・ブラシリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis);シュードアレシェリア・ボイデ
ィー(Pseudallescheria boydii);トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata);および皮膚糸状菌属(Dermatophytes)種が含まれる。
【0091】
自己免疫疾患に特徴的な抗原は、典型的には、哺乳動物組織の細胞表面、細胞質、核、ミトコンドリア等に由来するであろう。例には、ぶどう膜炎(例えばS抗原)、糖尿病、
多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、原発性粘液水腫、中毒性甲状腺腫、関節リウマチ、悪性貧血、アジソン病、強皮症、自己免疫性萎縮性胃炎、未成熟閉経(まれ)、男性不妊(まれ)、若年性糖尿病、グッドパスチャー症候群、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、交感性眼炎、水晶体原性ブドウ膜炎、自己免疫溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑症、特発性白血球減少症、原発性胆汁性肝硬変(まれ)、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、ヴェゲナー肉芽腫症、ポリ/皮膚筋炎、および慢性円板状エリテマトーデスが含まれる。自己免疫疾患に特徴的な抗原は、被験者自身の免疫系が、抗体または特異的T細胞を作成する抗原を指し、そしてこうした抗体またはT細胞が自己免疫疾患に特徴的であることを理解すべきである。多くの場合、自己免疫疾患に特徴的な抗原の特定の同一性は、知られておらず、そして本発明の目的には、実際、知られることが必要ではない。
【0092】
アレルゲンである抗原は、一般的に、タンパク質または糖タンパク質であるが、アレルゲンはまた、タンパク質キャリアーと共有結合した後、アレルギーを誘導する、低分子量
アレルゲン性ハプテンであることも可能である(Remington's Pharmaceutical Sciences
)。アレルゲンには、花粉、ほこり、カビ、胞子、ふけ、昆虫および食物に由来する抗原が含まれる。特定の例には、ツタウルシ(poison ivy)、ウルシ(poison oak)および毒ウルシ(poison sumac)などのトキシコデンドロン属(Toxicodendron)種のウルシオー
ル(ペンタデシルカテコールまたはヘプタデシルカテコール)、並びにブタクサ(ragweed)および関連植物のセスキテルペノイドラクトンが含まれる。
【0093】
腫瘍抗原に特徴的な抗原は、典型的には、腫瘍組織の細胞表面、細胞質、核、細胞小器官等に由来するであろう。例には、突然変異発癌遺伝子にコードされるタンパク質を含む腫瘍タンパク質;腫瘍と関連するウイルスタンパク質;並びに腫瘍ムチンおよび糖脂質に特徴的な抗原が含まれる。腫瘍には、限定されるわけではないが、以下の癌部位および癌種由来のものが含まれる:唇、鼻咽頭、咽頭および口腔、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肝臓、胆嚢、胆道系、膵臓、喉頭、肺および気管支、黒色腫、乳房、頚管、子宮、卵巣、膀胱、腎臓、脳および神経系の他の部分、甲状腺、前立腺、精巣、骨、筋肉、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫および白血病。腫瘍に関連するウイルスタンパク質は、上記のウイルスの種類由来のものであろう。腫瘍に特徴的な抗原は、腫瘍前駆細胞には通常発現されないタンパク質であることが可能であるし、または腫瘍前駆細胞で通常発現されるが、腫瘍に特徴的な突然変異を有するタンパク質であることが可能である。腫瘍に特徴的な抗原は、改変された活性または改変された細胞内分布を有する正常タンパク質の突然変異体であることが可能である。腫瘍抗原を生じさせる遺伝子の突然変異は、上に明記するものに加えて、遺伝子のコード領域、5'または3'非コード領域、またはイントロン内であることが可能であり、そして点突然変異、フレームシフト、逆位、欠失、付加、重複、染色体再配置等の結果であることが可能である。一般の当業者は、腫瘍抗原を生じさせる、正常遺伝子構造および発現に対する非常に多様な改変をよく知っている。
【0094】
腫瘍抗原の特定の例には:B細胞リンパ腫のIg-イディオタイプなどのタンパク質;黒色腫の突然変異体サイクリン依存性キナーゼ4;黒色腫のPme1-17(gp100);黒色腫のMART-1(Melan-A)(PCT公報WO94/21126);黒色腫のp15タンパク質;黒色腫のチロシナーゼ(PCT公報WO94/14459);黒色腫、甲状腺髄様癌、小細胞肺癌、結腸および/または気管支
扁平上皮癌のMAGE1、2および3(PCT/US92/04354);MAGE-Xp(米国特許第5,587,289号)
;膀胱癌、黒色腫、乳癌、および扁平上皮癌のBAGE(米国特許第5,571,711およびPCT公報WO95/00159);GAGE(米国特許第5,610,013号およびPCT公報WO95/03422);RAGEファミリー(米国特許第5,939,526号);PRAME(先のDAGE;PCT公報WO96/10577);MUM-1/LB-33B
(米国特許第5,589,334号);NAG(米国特許第5,821,122号);FB5(エンドシアリン)(米国特許第6,217,868号);PSMA(前立腺特異的膜抗原;米国特許第5,935,818号);黒色腫のgp75;黒色腫の腫瘍胎児抗原;乳癌、膵臓癌、および卵巣癌のムチンなどの炭水化物/脂質;黒色腫のGM2およびGD2ガングリオシド;癌の突然変異体p53などの発癌遺伝子;
結腸癌の突然変異体ras;乳癌のHER2/neuプロトオンコジーン;並びに頚部および食道の
扁平上皮癌のヒトパピローマウイルスタンパク質などのウイルス産物が含まれる。前述のリストは、代表的であることを意図するのみであり、そして限定するものと理解されるものではない。タンパク質性腫瘍抗原が、全タンパク質に由来する特異的ペプチドとしてHLA分子によって提示可能であることもまた、意図される。抗原性ペプチドを生じさせるタ
ンパク質の代謝プロセシングが当該技術分野に周知である(例えば、本明細書にその全体が援用される、Boonらに発行された米国特許第5,342,774号を参照されたい)。したがっ
て、本方法は、抗原性ペプチド、および抗原性ペプチドを生じる、より大きいポリペプチドまたは全タンパク質中のこうしたペプチドの搬送を含む。抗原性ペプチドまたはタンパク質の搬送は、体液性免疫または細胞性免疫を生じさせうる。
【0095】
一般的に、被験者には、腫瘍抗原、および/またはそれに由来するペプチドを含む抗原の有効量を、以下に詳述する1以上の方法によって、投与可能である。当該技術分野で標
準的な免疫プロトコルにしたがって、最初の用量に続いて追加用量があることが可能である。したがって、腫瘍抗原を含む抗原の搬送は、細胞溶解性Tリンパ球の増殖を刺激しう
る。
【0096】
タンパク質およびペプチド治療剤の場合、FcRn結合パートナーへの共有結合は、単一ポリペプチド鎖におけるペプチド結合による連結も含むよう意図される。確立された方法(本明細書にその全体が援用される、Sambrookら, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー 1989)を
用いて、タンパク質またはペプチド治療剤およびFcRn結合パートナーで構成される融合タンパク質をコードするDNAを操作するであろう。このDNAを、発現ベクター中に置き、そして確立された方法によって、細菌宿主、真核宿主、または他の適切な宿主細胞に導入するであろう。確立された方法によって、細胞から、または培地から融合タンパク質を精製するであろう。精製スキームは、好適に、単離または組換えプロテインAまたはプロテインGを用いて、FcRn結合パートナーを含有する融合タンパク質を宿主細胞産物から精製することが可能である。こうして生じたコンジュゲートには、限定されるわけではないが、抗原、アレルゲン、病原体を含む、本明細書に列挙するものなどのタンパク質、ペプチドまたはタンパク質誘導体に、あるいは上皮性関門を越えて搬送された際に役立つであろう、増殖因子、コロニー刺激因子、増殖阻害因子、シグナル伝達分子、ホルモン、ステロイド、神経伝達物質、またはモルフォゲンなどの潜在的な療法的目的の他のタンパク質またはタンパク質誘導体に対するFcRn結合パートナーの融合体が含まれる。
【0097】
例えば、しかし限定なしに、コンジュゲートを合成するため、融合タンパク質で用いるタンパク質には、EPO(米国特許第4,703,008号;第5,457,089号;第5,614,184号;第5,688,679号;第5,773,569号;第5,856,298号;第5,888,774号;第5,986,047号;第6,048,971号;第6,153,407号)、IFN-α(米国特許第4,678,751号;第4,801,685号;第4,820,638号;第4,921,699号;第4,973,479号;第4,975,276号;第5,098,703号;第5,310,729号;第5,869,293号;第6,300,474号)、IFN-β(米国特許第4,820,638号;第5,460,811号)、FSH(米国特許第4,923,805号;第5,338,835号;第5,639,639号;第5,639,640号;第5,767,251号;第5,856,137号)、血小板由来増殖因子(PDGF;米国特許第4,766,073号)、血小板
由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF;米国特許第5,227,302号)、ヒト下垂体成長ホルモン(hGH;米国特許第3,853,833号)、TGF-β(米国特許第5,168,051号)、TGF-α(米国特許
第5,633,147号)、角化細胞増殖因子(KGF;米国特許第5,731,170号)、インスリン様増
殖因子I(IGF-I;米国特許第4,963,665号)、上皮増殖因子(EGF;米国特許第5,096,825
号)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF;米国特許第5,200,327号)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF;米国特許第5,171,675号)、コロニー刺激因子-1(CSF-1;米国特許第4,847,201号)、Steel因子、カルシトニン、AP-1タンパク質(米国
特許第5,238,839号)、因子VIIa、因子VIII、因子IX、TNF-α、TNF-α受容体、LFA-3、CNTF、CTLA-4、レプチン(PCT/US95/10479、WO96/05309)、および脳由来神経栄養因子(BDNF;米国特許第5,229,500号)が含まれることが可能である。上記に引用した参考文献は
すべて、その全体が本明細書に援用される。
【0098】
例えば、しかし限定なしに、コンジュゲートを合成するため、融合タンパク質で用いるペプチドには、エリスロポエチン模倣ペプチド(EPO受容体アゴニストペプチド;PCT/US01/14310;WO01/83525;Wrighton NCら(1996)Science 273:458-64;PCT/US99/05842、WO99/47151)、EPO受容体アンタゴニストペプチド(PCT/US99/05842、WO99/47151;McConnell SJら(1998)Biol Chem 379:1279-86)、およびT20(PCT/US00/35724;WO01/37896
)が含まれることが可能である。
【0099】
好ましい態様において、コンジュゲートのFcRn結合パートナー部分が、治療剤部分の下流に存在する、すなわちFcRn結合パートナー部分が治療剤部分に対してC末端であるよう
に、本発明の融合タンパク質を構築し、そして配置する。この配置を、簡略化した方式で、X-Fcと表し、ここで「X」は、治療剤部分を示し、そしてFcはFcRn結合パートナー部分
を示す。この簡略化した表記では、「Fc」は、限定されるわけではないが、IgGのFc断片
であることが可能である。表記「X-Fc」は、XおよびFcRn結合パートナー構成要素を連結
するリンカーが存在する融合タンパク質を含むと理解される。
【0100】
1つの態様において、コンジュゲートが、本明細書に列挙するポリペプチド治療剤の1つに融合したヒトIgG1のFc断片(ヒンジのN末端のアミノ酸D-K-T-H(SEQ ID NO: 2、図1を
参照されたい)で始まり、ヒンジおよびCH2ドメインを含み、そしてCH3ドメインのS-P-G-K配列まで続く)からなる、本発明の融合タンパク質を構築する。1つの好ましい態様において、機能するEPOをコードするヌクレオチド配列を、適切な翻訳リーディングフレーム
で、ヒトIgG1の定常部重(CH)鎖のヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列の5'に融合させる。この好ましい態様を、実施例3に、より詳細に記
載する。
【0101】
公開欧州特許出願EP 0 464 533 Aは、EPO-Fc融合タンパク質を開示する。
公開PCT出願PCT/US00/19336(WO01/03737)は、ヒトEPO-Fc融合タンパク質を開示する

【0102】
公開PCT出願PCT/US98/13930(WO99/02709)は、EPO-FcおよびFc-EPO融合タンパク質を
開示する。
公開PCT出願PCT/EP00/10843(WO01/36489)は、いくつかのFc-EPO融合タンパク質を開
示する。
【0103】
公開PCT出願PCT/US00/19336(WO01/03737)は、ヒトIFN-α-Fc融合タンパク質を開示する。
Changらに発行された米国特許第5,723,125号は、ヒトIFN-α-Fc融合タンパク質であっ
て、IFN-αおよびFcドメインが、特定のGly-Serリンカー(Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser;SEQ ID NO: 17)を通じて連結される、前記融
合タンパク質を開示する。
【0104】
公開PCT出願PCT/US00/13827(WO00/69913)は、Fc-IFN-α融合タンパク質を開示する。
公開PCT出願PCT/US00/19336(WO01/03737)は、ヒトIFN-β-Fc融合タンパク質を開示する。
【0105】
公開PCT出願PCT/US99/24200(WO00/23472)は、ヒトIFN-β-Fc融合タンパク質を開示する。
Changらに発行された米国特許第5,908,626号は、ヒトIFN-β-Fc融合タンパク質であっ
て、IFN-βおよびFcドメインが、特定のGly-Serリンカー(Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser;SEQ ID NO: 17)を通じて連結される、前記融
合タンパク質を開示する。
【0106】
Loらに発行された米国特許第5,726,044号および公開PCT出願PCT/US00/19816(WO01/07081)は、Fc-PSMA融合構築物を開示する。
標的化全身搬送のため、FcRn結合パートナーを多様な治療剤にコンジュゲート化することが可能である。本発明は、生物学的活性物質の標的化全身搬送を含む。
【0107】
本明細書において、用語「生物学的活性物質」は、真核細胞および原核細胞、ウイルス、ベクター、タンパク質、ペプチド、核酸、多糖および炭水化物、脂質、糖タンパク質、およびその組み合わせ、並びに動物に投与した際に、生物学的効果を発揮する、天然存在
、合成、および半合成の有機および無機薬剤を指す。参考にしやすくするため、該用語はまた、バリウムを含む放射線不透過化合物とともに磁気化合物などの検出可能化合物を含むように用いられる。生物学的活性物質は、水中で可溶性であることも、また不溶性であることも可能である。生物学的活性物質の例には、抗血管形成因子、抗体、増殖因子、ホルモン、酵素、並びにステロイド、抗癌剤および抗生物質などの薬剤が含まれる。
【0108】
診断態様において、FcRn結合パートナーはまた、限定されるわけではないが、インジウムおよびテクネチウム、磁気粒子、バリウムなどの放射線不透過物質、および蛍光化合物を含む、薬学的に許容しうるガンマ放出部分にコンジュゲート化可能である。
【0109】
例えば、そして限定なしに、肺上皮性関門を越える全身搬送の目的で、以下の種類の薬剤をFcRn結合パートナーにコンジュゲート化可能である:
抗悪性腫瘍化合物。ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプゾトシン;メチルヒドラジン、例えば、プロカルバジン、ダカルバジン;ステロイドホルモン、例えば、グルココルチコイド類、エストロゲン類、プロゲスチン類、アンドロゲン類、テトラヒドロデスオキシカリコステロン、サイトカインおよび増殖因子;アスパラギナーゼ。
【0110】
免疫活性化合物。免疫抑制剤、例えば、ピリメタミン、トリメトプテリン、ペニシラミン、シクロスポリン、アザチオプリン;免疫刺激剤、例えば、レバミゾール、ジエチルジチオカルバメート、エンケファリン類、エンドルフィン類。
【0111】
抗微生物化合物。抗生物質、例えば、ペニシリン類、セファロスポリン類、カルバペニム類およびモノバクタム類、β-ラクタマーゼ阻害剤、アミノグリコシド類、マクロライ
ド類、テトラサイクリン類、スペクチノマイシン;抗マラリア剤、アメーバ駆除剤、抗原生動物剤、抗真菌剤、例えば、アンホテリシンB、抗ウイルス剤、例えば、アシクロビル
、イドクスウリジン、リバビリン、トリフルリジン、ビダラビン、ガンシクロビル。
【0112】
胃腸薬。ヒスタミンH2受容体アンタゴニスト、プロトンポンプ阻害剤、機能調整剤。
血液学的化合物。免疫グロブリン;血液凝固タンパク質;例えば、抗血友病因子、因子IX複合体;抗凝血物質、例えば、ジクマロール、ヘパリンNa;フィブロリシン阻害剤、トラネキサム酸。
【0113】
心臓血管薬剤。末梢抗アドレナリン作用性薬剤、中枢作用抗高血圧薬剤、例えば、メチルドパ、メチルドパHCl;抗高血圧性直接血管拡張薬、例えば、ジアゾキシド、ヒドララ
ジンHCl;レニン-アンギオテンシン系に影響を及ぼす薬剤;末梢血管拡張剤、フェントラミン;抗狭心症剤;強心配糖体類;強心性血管拡張剤(inodilators);例えば、アムリ
ノン、ミルリノン、エノキシモン、フェノキシモン、イマゾダン、スルマゾール;抗律動異常剤;カルシウム流入遮断剤;血液脂質に影響を及ぼす薬剤。
【0114】
神経筋肉遮断薬剤。脱分極剤、例えば、ベシル酸アトラクリウム、ヘキサフルオレニウムBr、ヨウ化メトクリン、スクシニルコリンCl、ツボクラリンCl、ベクロニウムBr;中枢作用筋弛緩剤、例えばバクロフェン。
【0115】
神経伝達物質および神経伝達物質剤。アセチルコリン、アデノシン、アデノシン三リン酸、アミノ酸神経伝達物質、例えば興奮性アミノ酸、GABA、グリシン;生体アミン神経伝達物質、例えば、ドーパミン、エピネフリン、ヒスタミン、ノルエピネフリン、オクトパミン、セロトニン、チラミン;神経ペプチド、硝酸、K+チャンネル毒素。
【0116】
抗パーキンソン薬剤。アマンチジン(Amantidine)HCl、メシル酸ベンズトロピン、例
えば、カルビドパ。
利尿剤。ジクロルフェンアミド、メタゾラミド、ベンドロフルメチアジド、ポリチアジド。
【0117】
抗偏頭痛薬剤。スマトリプタン。
ホルモン。下垂体ホルモン、例えば、絨毛膜ゴナドトロピン、コシントロピン、メノトロピン類、ソマトトロピン、イオルチコトロピン(iorticotropin)、プロチレリン、甲
状腺刺激ホルモン、バソプレッシン、リプレシン;副腎ホルモン、例えば、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン;膵臓ホルモン、例えば、グルカゴン、インスリン;副甲状腺ホルモン、例えば、ジヒドロチステロール(dihydrochysterol);甲状腺ホルモン、例えば、カルシトニン、エチドロン酸二ナトリウム、レボチロキシンNa、リオチロニンNa、リオトリックス、チログロブリン、酢酸テリパラチド;抗甲状腺薬剤;エストロゲン性ホルモン;プロゲスチン類およびアンタゴニスト類、ホルモン性避妊剤、精巣ホルモン;胃腸ホルモン:コレシストキニン、エンテログリカン、ガラニン、胃阻害性ポリペプチド、上皮増殖因子-ウロガストロン、胃阻害性ポリ
ペプチド、ガストリン放出ペプチド、ガストリン類、ペンタガストリン、テトラガストリン、モチリン、ペプチドYY、セクレチン、血管作用性腸ペプチド、シンカライド(sincalide);レプチン。
【0118】
酵素。ヒアルロニダーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼ、PGEアデノシンデアミナーゼ。
静脈内麻酔剤。ドロペリドール、エトミデート、クエン酸フェンタニール/ドロペリドール、ヘキソバルビタール、ケタミンHCl、メトヘキシタールNa、チアミラールNa、チオ
ペンタールNa。
【0119】
抗癲癇剤。カルバマゼピン、クロナゼパム、ジバルプロエックスNa、エトスクシミド、メフェニトイン、パラメタジオン、フェニトイン、プリミドン。
ペプチドおよびタンパク質。FcRn結合パートナーは、ペプチドまたはポリペプチド、例えば、アンキリン類、アレスチン類、細菌膜タンパク質、クラスリン、コネキシン類、ジストロフィン、エンドセリン受容体、スペクトリン、セレクチン、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、インスリン、エリスロポエチン(EPO)、腫瘍壊死因子(TNF)、CNTF、神経ペプチド類、神経ペプチドY、ニューロテンシン、TGF-α、TGF-β、インターフェロ
ン(IFN)、およびホルモン、増殖阻害剤、例えば、ゲニステイン、ステロイドなど;糖
タンパク質、例えば、ABC輸送体、血小板糖タンパク質、GPIb-IX複合体、GPIIb-IIIa複合体、因子VIIa、因子VIII、因子IX、ビトロネクチン、トロンボモジュリン、CD4、CD55、CD58、CD59、CD44、CD152(CTLA-4)、リンパ球機能関連抗原(LFA)、細胞間接着分子(ICAM)、血管細胞接着分子(VCAM)、Thy-1、対向輸送体類、CA-15-3抗原、フィブロネク
チン類、ラミニン、ミエリン関連糖タンパク質、GAP、GAP-43、並びに、上述の受容体お
よび対受容体(counter-receptor)の結合部分にコンジュゲート化可能である。本発明の本態様において、ポリペプチド治療剤は、FcRn結合パートナーに共有結合していることが可能であるし、または標準的組換え遺伝子技術を用いて、FcRn結合パートナーおよび治療剤を、融合タンパク質として発現させることが可能である。
【0120】
サイトカインおよびサイトカイン受容体。本発明にしたがい、FcRn結合パートナーを介して搬送可能な、またはFcRn結合パートナーにコンジュゲート化可能なサイトカインおよびそれらの受容体の例には、限定されるわけではないが:インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-1受容体、IL-2受容体、IL-3受容体、IL-4受容体、IL-5受容体、IL-6受容体、IL-7受容体、IL-8受容体、IL-9受容体、IL-10受容体、IL-11受
容体、IL-12受容体、IL-13受容体、IL-14受容体、IL-15受容体、IL-16受容体、IL-17受容
体、IL-18受容体、リンホカイン阻害因子(LIF)、M-CSF、PDGF、幹細胞因子、トランス
フォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、TNF、TNFR、リンホトキシン、Fas、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、GM-CSF、IFN-α、IFN-β、IFN-γが含まれる。
【0121】
増殖因子およびタンパク質ホルモン。本発明にしたがって、FcRn結合パートナーを介して搬送可能な、またはFcRn結合パートナーにコンジュゲート化可能な増殖因子およびそれらの受容体、並びにタンパク質ホルモンおよびそれらの受容体の例には、限定されるわけではないが:EPO、アンジオゲニン、肝細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、角化細胞増
殖因子、神経成長因子、腫瘍増殖因子α、トロンボポエチン(TPO)、甲状腺刺激因子、
甲状腺放出ホルモン、ニューロトロフィン、上皮増殖因子、VEGF、毛様体神経栄養因子、LDL、ソマトメジン、インスリン増殖因子、インスリン様増殖因子IおよびIIが含まれる。
【0122】
ケモカイン。本発明にしたがって、FcRn結合パートナーを介して搬送可能な、またはFcRn結合パートナーにコンジュゲート化可能なケモカインおよびその受容体の例には、限定されるわけではないが:ENA-78、ELC、GRO-α、GRO-β、GRO-γ、HRG、LIF、IP-10、MCP-1、MCP-2、MCP-3、MCP-4、MIP-1α、MIP-1β、MIG、MDC、NT-3、NT-4、SCF、LIF、レプチン、RANTES、リンホタクチン、エオタキシン-1、エオタキシン-2、TARC、TECK、WAP-1、WAP-2、GCP-1、GCP-2、α-ケモカイン受容体:CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR7、β-ケモカイン受容体:CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7が含まれ
る。
【0123】
化学治療剤。FcRn結合パートナーを、白血病、リンパ腫、癌腫、肉腫、骨髄腫などを含む、多様な種類のヒト癌および他の癌に対して有効な、化学療法または抗腫瘍剤、例えば、ドキソルビシン、マイトマイシン、シスプラチン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、ネオカルジノスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タキソ
ールにコンジュゲート化可能である。
【0124】
抗ウイルス剤。FcRn結合パートナーを、逆転写酵素阻害剤およびヌクレオシド類似体(analog)、例えば、ddI、ddC、3TC、ddA、AZT;プロテアーゼ阻害剤、例えば、インビラ
ーゼ、ABT-538;RNAプロセシングにおける阻害剤、例えば、リバビリン;および細胞融合阻害剤、例えばT-20(Kilby JMら(1998)Nat Med. 4:1302-7)などの抗ウイルス剤にコンジュゲート化可能である。
【0125】
核酸。FcRn結合パートナーを、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび遺伝子交換核酸などの核酸分子にコンジュゲート化可能である。核酸を含むコンジュゲートを伴う態様において、核酸が細胞内で利用可能であるように、核酸およびFcRn結合パートナー間の切断可能リンカーを含むことが好ましいと考えられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドには、例えば、そして限定なしに、抗PKC-α、抗ICAM-1、抗H-ras、抗Raf、抗TNF-α、抗VLA-4、抗クラスタリン(すべてIsis Pharmaceuticals, Inc.)および抗Bcl-2(GENASENSETM;Genta, Inc.)が含まれる。
【0126】
FcRn結合パートナーを介して搬送可能な既知の治療剤の特定の例には、限定されるわけではないが:
(a)カポテン、モノプリル、プラバコール、アバプロ、プラビックス、セフジル、デ
ュリセフ/ウルトラセフ、アザクタム、ビデックス、ゼリット、マキシピーム、ベペシッド、パラプラチン、プラチノール、タキソール、UFT、バスパー、セルゾン、スタドールNS、エストレース、グルコファージ(Bristol-Myers Squibb);
(b)セクロール、ロラビッド、ダイナバック、プロザック、ダーボン、パーマックス
、ジプレキサ、ヒューマログ、アクシド、ゲンザー、エビスタ(Eli Lily);
(c)バソテック/バセレティック、メバコール、ゾコール、プリニビル/プリニジド
、プレンディル、コザール/ハイザール、ペプシド、プリロセック、プリマキシン、ノロキシン、レコンビバックスHB、バリバックス、チモプティック/XE、トルソプト、プロスカー、フォサマックス、シネメット、クリキシバン、プロペシア、ビオックス、シンギュレア、マキサルト、イベルメクチン(Merck & Co.);
(d)ダイフルカン、ウナシン、スルペラゾン、ジスロマックス、トロバン、プロカル
ディアXL、カルデュラ、ノルバスク、ドフェチリド、フェルデン、ゾロフト、ゼルドックス、グルコトロールXL、ジルテック、エレトリプタン、バイアグラ、ドロロキシフェン、アリセプト、リピトール(Pfizer);
(e)バンチン、レスクリプトール、ビスチド、ゲノトロピン、ミクロナーゼ/Glyn.
/Glyb.、フラグミン、トータルメドロール、キサナックス/アルプラゾラム、セルミオン、ハルシオン/トリアゾラム、フリードックス、ドスチネックス、エドロナックス、ミラペックス、ファルモルビシン、アドリアマイシン、カンプトサール、レミサール、デポ-プロベラ、カベルジェクト、デトルシトール、エストリング、ヘアロン、キサラタン、
ロゲイン(Pharmacia & Upjohn);
(f)ロピッド、アクルピル、ディランチン、コグネックス、ニューロンチン、ロエス
トリン、ディルゼム、フェムパッチ、エストロステップ、レズリン、リピトール、オムニセフ、フェムHRT、スラミン、クリナフロキサシン(Warner Lambart)
が含まれる。
【0127】
本発明のFcRn結合パートナーによって搬送可能な治療剤のさらなる例は、本明細書にその全体が援用されるGoodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第9版, McGraw-Hill 1996に見出すことが可能である。
【0128】
投与する際、本発明のコンジュゲートは、薬学的に許容しうる調製中で投与される。こうした調製は、慣例的に、薬学的に許容しうる濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合したキャリアー、アジュバントおよびサイトカインなどの補充免疫増強剤、並びに場合によって他の治療剤を含有することが可能である。したがってコンジュゲートおよび剤を含む「カクテル」が意図される。肺上皮性関門を越える治療剤の搬送を増進するため、治療剤自体をFcRn結合パートナーにコンジュゲート化する。
【0129】
本発明のコンジュゲートは、精製型でまたは薬学的に許容しうる塩の型で投与可能である。医薬品に使用する際、塩は薬学的に許容しうるものでなければならないが、薬学的に許容し得ない塩は、それらの薬学的に許容しうる塩を調製するために、好適に使用可能であり、そして薬学的に許容し得ない塩は本発明の範囲から排除されない。こうした薬学的に許容しうる塩には、限定されるわけではないが、以下の酸から調製されるものが含まれる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸。また、薬学的に許容しうる塩は、ア
ルカリ金属またはアルカリ土類塩、例えばカルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩として調製可能である。
【0130】
適切な緩衝剤には:酢酸および塩(1〜2%w/v);クエン酸および塩(1〜3%w/v);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%w/v);炭酸水素ナトリウム(0.5〜1.0%w/v);およびリン酸および塩(0.8〜2%w/v)が含まれる。適切な保存剤には、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%w/v);クロロブタノール(chlorbutanol)(0.3〜0.9%w/v);パラベン類(0.01〜0.25%w/v)およびチメロサール(0.004〜0.02%w/v)が含まれる。
【0131】
本明細書で用い、そしてさらに十分に以下に説明する用語「キャリアー」は、ヒトまたは他の哺乳動物への投与に適切な、1以上の固体または液体充填剤、希釈剤または被包(encapsulating)物質を意味する。「キャリアー」は、活性成分が組み合わされて投与を容
易にする、天然または合成の有機または無機成分であることが可能である。
【0132】
薬剤組成物の構成要素は、本発明のコンジュゲートと、および互いに、望ましい薬剤効能を実質的に損なうであろう相互作用がないような方式で、混ぜ合わせることが可能である。特定の態様において、エアロゾル配合物の構成要素には、溶液配合物に関しては、可溶化活性成分、並びに場合によって酸化防止剤、溶媒ブレンドおよび噴射剤;懸濁配合物に関しては、微粉化および懸濁化活性成分、並びに場合によって分散剤および噴射剤が含まれる。
【0133】
用語「アジュバント」は、本発明のコンジュゲートに取り込まれるか、または該コンジュゲートと同時に投与され、そして被験者における免疫反応を非特異的に増強する、いかなる物質も含むよう意図される。アジュバントには、アルミニウム化合物、例えば、ゲル、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、並びにフロイント完全または不完全アジュバント(ここでコンジュゲートは、パラフィン油エマルジョン中の安定化した水の水性相に取り込まれている)が含まれる。パラフィン油は、異なる種類の油、例えば、スクアレンまたはピーナツ油と交換可能である。アジュバント特性を持つ他の成分には、BCG
(弱毒化ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis))、リン酸カルシウム、レバミゾール、
イソプリノシン、ポリアニオン(例えばポリA:U)、レンチナン(leutinan)、百日咳毒素、コレラ毒素、脂質A、サポニン類およびペプチド類、例えば、ムラミルジペプチドが
含まれる。希土類塩、例えば、ランタンおよびセリウムもまた、アジュバントとして使用可能である。アジュバントの量は、被験者および用いる特定のコンジュゲートに依存し、そして当業者によって、過度の実験なしに容易に決定可能である。
【0134】
サイトカインなどの他の補充免疫増強剤を、本発明のコンジュゲートと組み合わせて、搬送可能である。1つの態様において、治療を補足するため、本発明のコンジュゲートと
別個にサイトカインを投与する。別の態様において、FcRn結合パートナーにコンジュゲート化したサイトカインを投与する。意図されるサイトカインは、本発明にしたがってFcRn結合パートナーコンジュゲートを投与することから生じる有益な効果を増進するであろうものである。特に好ましいサイトカインは、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、およびTNF-αである。他の有用なサイトカインおよび関連分子は、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-18、白血病阻害因子、オンコスタ
チン-M、毛様体神経栄養因子、成長ホルモン、プロラクチン、CD40リガンド、CD27リガンド、CD30リガンド、およびTNF-βであると考えられる。本発明にしたがって有用である可能性がある方式で、T細胞活性を調節することが知られる他のサイトカインは、コロニー
刺激因子、並びに顆粒球コロニー刺激因子および/または顆粒球-マクロファージコロニ
ー刺激因子(CSF-1、G-CSF、およびGM-CSF)および血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、インスリン様増殖因子、トランスフォーミング増殖因子および線維芽細胞増殖因子を含む増殖因子である。特定のサイトカインの選択は、免疫系の望ましい特定の調節に依存するであろう。特定の細胞種に対するサイトカインの活性は、一般の当業者に知られている。
【0135】
本発明に用いる前述のサイトカインの正確な量は、選択するコンジュゲート、選択する用量および投薬のタイミング、投与の方式、および被験者の特性を含む、多様な要因に依存するであろう。特に閾値量は望ましい免疫反応を増進するであろういかなる量でもよいであろうため、選択する正確な量は、過度な実験なしに決定することが可能である。したがって、搬送の方式に応じて、ナノグラム〜ミリグラム量のサイトカインが有用であると考えられるが、サイトカインの生理学的レベルが対応して低いため、ナノグラム〜マイクログラム量が最も有用である可能性がある。
【0136】
有効量の本発明の調製を投与する。「有効量」は、コンジュゲートが単独で、またはさらなる用量と共に、望ましいように反応を刺激するであろう量である。「療法的有効量」
は、本明細書において、コンジュゲートが単独で、またはさらなる用量と共に、望ましいように療法反応を刺激するであろう量である。多様な態様において、これは、被験者の疾患、障害または状態の徴候または症状を防止するか、軽減するか、または安定化することを伴いうる。
【0137】
本発明にしたがって作成されるすべての薬剤調製におけるFcRn結合パートナーコンジュゲートの好ましい量は、それらの療法的に有効な量であるべきであり、これはまた、それらの医学的に許容されうる量である。本発明の薬剤組成物中のFcRn結合パートナーコンジュゲートの実際の投薬レベルは、患者に有毒であることなしに、特定の患者、FcRn結合パートナーコンジュゲートの薬剤組成物、および投与方式に関して、望ましい療法反応を達成するために有効なFcRn結合パートナーコンジュゲートの量を得るため、変化する可能性がある。
【0138】
本発明のコンジュゲートの選択される投薬レベルおよび投与頻度は、投与手段、投与の時期、FcRn結合パートナーコンジュゲートを含む治療剤(単数または複数)の排出速度および代謝速度、治療期間、FcRn結合パートナーコンジュゲートと組み合わせて用いられる他の薬剤、化合物および/または物質、治療されている患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態、および以前の病歴、並びに医学業に周知の同様の要因を含む、多様な要因に依存するであろう。例えば、投薬措置は、健康な成人に比べ、妊娠女性、母乳を与えている母および子供では異なる可能性がある。特に閾値量は望ましい免疫反応を達成するであろういかなる量でもよいであろうため、選択する正確な量は、過度な実験なしに決定することが可能である。したがって、特定の治療剤および被験者の状態に応じて、ナノグラム〜ミリグラム量が有用であると考えられるが、治療剤の生理学的レベルおよび薬理学的レベルが対応して低いため、ナノグラム〜マイクログラム量が最も有用である可能性がある。
【0139】
一般的に、本発明のコンジュゲートの中央気道肺投与の用量は、10 ng/kg〜500μg/kg
の範囲に属するであろうと考えられる。例えば、IFN-α-Fcでは0.1〜10μg/kgの用量が有用であると考えられ、そしてEPO-Fcでは1〜100μg/kgの用量が有用である。いくつかの場合、25 mgを越える用量は、分割用量で投与されることが最適である可能性がある。
【0140】
当該技術分野の一般的な技術を有する医師は、必要とされる薬剤組成物の療法的に有効な量を容易に決定し、そして処方することが可能である。例えば、医師は、本発明の薬剤組成物に使用されるFcRn結合パートナーコンジュゲートの用量を、望ましい療法効果を達成するのに必要とされるより低いレベルで開始し、そして望ましい効果が達成されるまで次第に投薬量を増加させることが可能である。
【0141】
組成物は、好適に単位投薬型で提供可能であり、そして薬学業に周知のいかなる方法によっても調製可能である。すべての方法は、1以上の付属成分を構成するキャリアーと、
コンジュゲートを会合させる工程を含む。一般的に、組成物は、液体キャリアー、細分割された固体キャリアー、またはその両方と、コンジュゲートを、一様に、そして緊密に会合させ、そしてその後、必要であれば産物を成形することによって調製される。
【0142】
搬送系には、時間放出、遅延放出または持続放出搬送系が含まれることが可能である。こうした系は、本発明のコンジュゲートの反復投与を回避し、さらに被験者および医師の利便を増加させることが可能である。多くの種類の放出搬送系が利用可能であり、そして一般の当業者に知られている。これらにはポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリ無水物およびポリカプロラクトンなどのポリマーに基づく系、ワックス被覆等が含まれる。
【0143】
吸入による投与のため、本発明のコンジュゲートは、好適に、エアロゾルの型で搬送可
能である。上述のように、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンを含むクロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、および炭化水素、または他の適切な噴射剤を使用して、加圧パックまたは吸入器から、エアロゾルを生成可能である。好ましい態様において、適切なエネルギー源に連結した圧電性結晶などの振動装置とコンジュゲートを含有する溶液または懸濁物を接触させることによって、エアロゾルを生成する。好ましくは、エアロゾルは、実質的にその天然非変性型で、コンジュゲートを含有し、そして搬送する。加圧エアロゾルの場合、計測した量を搬送するバルブを提供することによって、投薬量単位を測定可能である。吸入器または通気器(insufflator)で使用するため、化合物およ
びラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤の粉末混合物を含有する、例えばゼラチンなどのカプセルおよびカートリッジを配合することが可能である。
【0144】
本発明はさらに、限定しない以下の実施例を参照して理解することが可能である。
実施例
材料。SATA、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート;スルホ-LC-SPDP、スル
ホスクシンイミジル6-[3'-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサノエート;およびスルホ-SMCC、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレートを、Pierce(イリノイ州ロックフォード)から購入した。BALB/cマウスを、Charles River Laboratories(マサチューセッツ州ウィルミントン)から購入した。
【0145】
酵素および細胞。すべての制限酵素および修飾酵素をNew England Biolabs(マサチュ
ーセッツ州ビバリー)またはInVitrogen(GIBCO、メリーランド州ゲイザーズバーグ)か
ら購入し、そして製造者のプロトコルにしたがって用いた。VentポリメラーゼをNew England Biolabs(マサチューセッツ州ビバリー)から得て、そしてExpandポリメラーゼをRoche Molecular Biochemicals(インディアナ州インディアナポリス)から得て、そしてど
ちらも製造者が供給する、マグネシウムを含む緩衝液中で用いた。エビ・アルカリホスファターゼ(SAP)をRoche Molecular Biochemicals(インディアナ州インディアナポリス
)から購入した。すべてのオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technolgies, Inc.
(アイオワ州コーラルビル)によって合成され、そして精製された。DH5αコンピテント
細胞をInVitrogen(GIBCO、メリーランド州ゲイザーズバーグ)から購入し、そして製造
者のプロトコルにしたがって用いた。
【0146】
発現ベクター。哺乳動物発現ベクターpED.dCをGenetics Institute(マサチューセッ
ツ州ケンブリッジ)から得た。このベクターは、Kaufman RJら(1991)Nucleic Acids Res 19:4485-90に記載されるpED4に由来し、効率的な転写のために発現ベクターで一般的
に用いられるアデノウイルス主要後期プロモーター、並びにRNA安定性増加および搬出増
加のためのIgGイントロンを含有する。該ベクターはまた、RNAレベルを増加させ、そしてしたがって、標的タンパク質の発現をより多く導くため、アデノウイルスmRNAリーダー配列、EMCウイルス5'UTR(リボソーム進入配列)、SV40ポリAシグナル、およびアデノウイ
ルス安定性要素も含有する。該ベクターはまた、細菌における増殖のため、colE1複製起
点とともに、細菌におけるアンピシリン選択のため、β-ラクタマーゼ遺伝子も含有する
。最後に、該ベクターは二シストロン性メッセージもコードする。第一のシストロンは標的タンパク質であり、一方、第二のシストロンはマウス・ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)遺伝子である。dhfr遺伝子は、dhfr欠損細胞株において、二シストロン性メッセージの選択および増幅を可能にする。Schimke RT(1984)Cell 37:705-13;Urlaub Gら(1986)Somat Cell Mol Genet 12:555-566。
【0147】
DNAテンプレート。ベクターA2E/Xは、H. Ploegh(マサチューセッツ工科大学、マサチ
ューセッツ州ケンブリッジ)の好意で提供され、wt EPO-FcはWayne Lencer(ハーバード
大学医学部、マサチューセッツ州ボストン)の好意で提供された。成人腎臓cDNAをClontech(カリフォルニア州パロアルト)から購入した。pGEM-T EasyベクターをPromega(ウィスコンシン州マディソン)から購入した。
【0148】
オリゴヌクレオチドプライマー。EPO-Fc発現ベクターの構築に、以下のオリゴヌクレオチド(左から右に5'から3'に示す)を用いた。対応するcDNA分子またはテンプレートにアニーリングするように設計した各プライマー部分を下線で示す。
【0149】
【化1】

【0150】
PCR増幅。Idaho Technology RapidCyclerまたはMJ Research PTC-200 Peltier Thermal
Cyclerいずれかにおいて、ポリメラーゼ連鎖反応を行った。
DNA単離および精製。PCR産物およびすべての制限酵素消化物を電気泳動し、そして正しいサイズに対応するDNAバンドをアガロースゲルから切り出した;製造者のプロトコルに
したがい、Qiagen DNA精製キット(カリフォルニア州バレンシア)を用いて、こうして切り出したDNAを精製した。DNA断片のサイズを決定するのに、Life Technologies(メリー
ランド州ロックビル)の1 Kb DNAラダーまたは1 Kb Plus DNAラダーを用いた。アガロー
スゲル上での視覚化またはOD260の測定によって、溶出されたDNAの濃度を概算した。
【0151】
連結および形質転換。確立されたプロトコル(Sambrookら(1989)Molecular Cloning
:A Laboratory Manual, 第2版, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー:Cold Spring Harbor Laboratory Press)にしたがい、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs、マサチューセッツ州ビバリー)を用いて、または製造者のプロトコルにしたがい、Rapid DNA連結キット(Roche、インディアナ州インディアナポリス)を用いて、連結反応を行った。確立されたプロトコルにしたがって、連結産物を、大腸菌株DH5の形質転換に用いた。Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第2版, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー:Cold Spring Harbor Laboratory Press。
【0152】
DNA配列決定。Dana Farber Molecular Biology Core Facilities(マサチューセッツ州ボストン)またはVeritas, Inc.(メリーランド州ロックビル)で行われたジデオキシ配列決定によって、二本鎖プラスミドDNAの配列が決定された。SeqMan(DNAStar、ウィスコンシン州マディソン)を用いて配列を編集し、そしてプログラムのLaserGene Suite(DNAStar、ウィスコンシン州マディソン)またはVector NTI(Informax、メリーランド州ゲイザーズバーグ)を用いて、さらなるDNA解析を行った。
【0153】
発現。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)dhfr欠損(dhfr-)細胞株に発現構築物をト
ランスフェクションした。安定なトランスフェクション細胞株を生成した。EPO-Fc発現レベルを増加させるため、増殖培地においてメトトレキセート濃度を増加させることによって、EPO-Fc遺伝子を増幅した。
【0154】
(実施例1)
ヒト免疫グロブリンGの調製
本発明の化合物、例えば抗原または治療剤と組み合わせて使用する、ヒトIgGまたはヒ
トIgG断片を調製するため、以下の方法が使用可能である。非特異的精製ヒトIgGは、Sigma Chemicals Co.、Pierce Chemical、HyClone Laboratories、ICN Biomedicals、およびOrganon Teknika-Cappelなどの商業的ベンダーから購入可能である。
【0155】
免疫グロブリンGはまた、血清の硫酸アンモニウム沈殿によっても単離可能である。イ
オン交換クロマトグラフィーまたはゲルろ過クロマトグラフィーによって、タンパク質沈殿物をさらに分画して、実質的に精製された非特異的IgGを単離する。非特異的IgGによって、抗体集団内またはプール内で、単一の抗原特異性が優位でないことを意味する。
【0156】
免疫グロブリンGはまた、プロテインA-Sepharose(Pharmacia)、AvidChrom-プロテイ
ンA(Sigma)、またはプロテインG-Sepharose(Sigma)などの、固体支持体に付着させたプロテインAへの吸着によって、血清から精製可能である。IgGの他の精製法は当業者に周知であり、そして非特異的IgGを単離する目的に使用可能である。
【0157】
ヒトIgGのFc断片を調製するため、製造者が推奨するプロトコルにしたがって、単離IgGまたは精製IgGを固定パパイン(Pierce)での消化に供する。IgGを消化して、Fc受容体に結合可能で損なわれていない(intact)Fc断片を産生する他のプロテアーゼ、例えばプラスミン(Sigma)または固定フィシン(Pierce)が当業者に知られ、そしてFc断片を調製
するのに使用可能である。その後、消化した免疫グロブリンを、プロテインA-Sepharose
またはプロテインG-Sepharoseなどのアフィニティーマトリックスとインキュベーション
する。バッチまたはカラム形式で徹底的に洗浄することによって、IgGの非結合部分をア
フィニティーマトリックスから溶出させる。その後、Fc-吸着剤結合と適合しない緩衝液
を添加することによって、IgGのFc断片を溶出させる。Fc断片の精製に有効な他の方法論
もまた、使用可能である。
【0158】
(実施例2)
ヒト免疫グロブリンFc断片への化合物のコンジュゲート化
FcRn輸送機構を介して化合物を搬送するため、こうした化合物を全IgGまたはFc断片に
カップリングすることが可能である。こうした目的のための架橋の化学反応および有効な試薬が当該技術分野に周知である。全IgGまたはFc断片をコンジュゲート化するのに用い
られる架橋試薬の性質および搬送しようとする化合物は、本発明によって制限されない。化合物の活性を保持し、そしてコンジュゲートのFc部分のFcRnによる結合に不都合に影響を及ぼさない限り、いかなる架橋剤も使用可能である。
【0159】
Fcおよび化合物を有効に一工程で架橋する例は、室温で30分間、リン酸ナトリウム緩衝液中、過ヨウ素酸ナトリウムでFcを酸化し、その後、コンジュゲート化しようとする化合物と、4℃で一晩インキュベーションすることである。室温で18時間、スルホ-LC-SPDPで
、化合物およびFc断片両方を誘導体化することによってもまた、コンジュゲート化を実行可能である。Fc断片および搬送することが望ましい化合物を、異なる架橋試薬で誘導体化し、続いて共有結合を形成することによってもまた、コンジュゲートを調製可能である。この反応の例は、スルホ-SMCCでFc断片を誘導体化し、そしてFcにコンジュゲート化しよ
うとする化合物をSATAでチオール化することである。誘導体化した構成要素を、架橋剤を含まずに精製し、そして架橋を可能にするため、室温で1時間混合する。アルデヒド、イ
ミド、シアノ、ハロゲン、カルボキシル、活性化カルボキシル、無水物およびマレイミド官能基を含んでなる他の架橋試薬が一般の当業者に知られ、そしてまた、Fc断片への化合物のコンジュゲート化にも使用可能である。架橋試薬の選択は、もちろん、Fcにコンジュゲート化することが望ましい化合物の性質に応じるであろう。上述の架橋試薬は、タンパク質-タンパク質コンジュゲート化に有効である。コンジュゲート化しようとする化合物
が炭水化物であるか、または炭水化物部分を有するならば、ABH、M2C2H、MPBHおよびPDPHなどのヘテロ二官能性架橋試薬が、タンパク質性FcRn結合分子とのコンジュゲート化に有用である(Pierce)。タンパク質および炭水化物をコンジュゲート化する別の方法がBrumeanuら(Genetic Engineering News, October 1, 1995, p.16)に開示される。コンジュゲート化しようとする化合物が、FcRn結合分子へのコンジュゲート化部位として好適な脂質であるか、またはこうした脂質部分を有するならば、SPDP、SMPBおよびその誘導体などの架橋剤が使用可能である(Pierce)。搬送しようとする分子いずれかを、非共有手段によってコンジュゲート化することもまた、可能である。非共有コンジュゲート化を達成するのに好適な1つの方法は、当該技術分野に周知の方法によって、モノクローナル抗体な
ど、搬送しようとする化合物に対する抗体を作成し、そして正しいFc領域および望ましい抗原結合特性を有するモノクローナル抗体を選択することである。その後、搬送しようとする抗原または治療剤を、モノクローナル抗体キャリアーにあらかじめ結合させる。上述の架橋反応のすべてにおいて、架橋試薬を含まないように誘導体化化合物を精製することが重要である。また、最終コンジュゲートが、実質的に未コンジュゲート化反応物質を含まないように精製することも重要である。コンジュゲートのどちらかの構成要素の特性に基づいて、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過またはイオン交換クロマトグラフィーによって、精製を達成可能である。特に好ましい方法は、プロテインA-Sepharose
を用いて、FcおよびFc-化合物コンジュゲートを保持する最初のアフィニティー精製工程
を行い、その後、Fcコンジュゲートの質量、サイズまたは電荷に基づいて、ゲルろ過またはイオン交換クロマトグラフィーを行う方法である。この精製スキームの最初の工程は、コンジュゲートがFcRnに結合することを確実にし、こうした結合は本発明の必須必要条件である。
【0160】
(実施例3)
一般用途X-Fc発現ベクターの構築
Kbシグナルペプチドは、Fcγ1に融合させた、多くの異なる、ありうるタンパク質の効
率的な産生および分泌を可能にする。したがって、pED.dCの第一のシストロン位に、13
アミノ酸ペプチドリンカー(GSRPGEFAGAAAV;SEQ ID NO: 26)によって、Fcγ1のヒンジ
領域において、アスパラギン酸221(D221、EU番号付け)に融合させたKbシグナルペプチ
ドからなる発現カセットを挿入することによって、一般用途X-Fc発現ベクターを構築した。
【0161】
A2E/Xテンプレートから、プライマーPKFおよびKXRを用いて、RapidCycler中、Ventポリメラーゼを用い、95℃で15秒間変性させ、その後、95℃0秒間、55℃0秒間、および72℃1
分20秒間の6.0のスロープで28周期反応を行い、その後、72℃で3分間伸長させて、Kbシグナル配列を得た。プライマーPKFはPstI部位を含有し、一方、プライマーKXRはXbaI部位を含有する。制限部位が2つあることで、増幅産物の定方向クローニングが容易になった。
およそ90塩基対(bp)のPCR産物をゲル精製し、PstIおよびXbaIで消化し、再びゲル精製
し、そしてPstI/XbaI消化してゲル精製したpED.dCベクターにサブクローニングした。代表クローンとして1つの構築物を選択し、そしてpED.dC.Kbと名付けた。
【0162】
wt EPO-Fcテンプレートから、プライマーFCGFおよびFCGMRを用いて、RapidCycler中、Expandポリメラーゼを用い、95℃で15秒間変性させ、その後、95℃0秒間、55℃0秒間、お
よび72℃1分20秒間の6.0のスロープで30周期反応を行い、その後、72℃で10分間伸長させて、Fcγ1配列を得た。およそ720 bpの産物をゲル単離し、そしてpGEM-T Easyベクターに
クローニングし、そしてその後、配列決定した。その後、EcoRI-MfeI消化によって、正しいコード領域を切除し、ゲル精製し、そしてEcoRI消化してゲル精製したpED.dC.Kb構築物にサブクローニングした。SmaI消化によって、正しい方向のFcγコード領域を含むプラスミドを決定し、そしてこの構築物の配列を決定した。この構築物をpED.dC.XFcと名付けた。pED.dC.XFcのプラスミドマップおよび部分配列を図3に示す。
【0163】
(実施例4)
Kbシグナルペプチドを含む、EPO-Fc発現ベクターの構築
この実施例において、成熟ヒトEPO配列をカセットに挿入し、Kbシグナルペプチド、3アミノ酸リンカー(GSR)、成熟EPO配列、および8アミノ酸リンカー(EFAGAAAV、SEQ ID NO: 27)に続いてFcγ1配列をコードするcDNAを生成した。テンプレートとしての成人腎臓QUICKクローンcDNA調製から、プライマーEPO-FおよびEPO-Rを用いて、RapidCycler中、Ventポリメラーゼを用い、95℃で15秒間変性させ、その後、95℃0秒間、55℃0秒間、および72℃1分20秒間の6.0のスロープで28周期反応を行い、その後、72℃で3分間伸長させて、EPO配列を得た。プライマーEPO-FはXbaI部位を含有し、一方、プライマーEPO-RはEcoRI部位を含有する。およそ514 bpの産物をゲル精製し、XbaIおよびEcoRIで消化し、再びゲル精
製し、そしてXbaI/EcoRI消化してゲル精製したpED.dC.XFcベクターに定方向サブクローニングした。形質転換後、調べた20のクローンのうち4つが、正しい挿入物を所持した。1つのこうしたクローンは、直接配列決定によって決定されるように、突然変異を含まないことが見出された。この構築物をpED.dC.EpoFcと名付けた。野生型ヒトEPOの核酸配列
およびアミノ酸配列に関しては、図2を参照されたい。pED.dC.EpoFcのプラスミドマッ
プおよび部分配列を図4に示す。
【0164】
(実施例5)
EPOシグナルペプチドを含む、EPO-Fc発現ベクターの構築
Kbシグナルでなく、内因性EPOシグナルペプチドを用いた場合のEPO-Fcの産生および分
泌を評価するため、第二のEPO-Fc発現プラスミドを生成した。このプラスミド中の分泌カセットは、8アミノ酸リンカー(EFAGAAAV、SEQ ID NO: 27)に融合させた内因性シグナルペプチドを含むヒトEPO配列に続いてFcγ1配列をコードした。テンプレートとしての成人腎臓QUICKクローンcDNA調製から、EPS-FおよびEPS-Rプライマーを用いて、PTC-200中、Expandポリメラーゼを用い、94℃で2分間変性させ、その後、94℃30秒間、57℃30秒間、お
よび72℃45秒間の32周期反応を行い、その後、72℃で10分間伸長させて、内因性シグナルペプチドおよび成熟配列両方を含有する天然EPO配列を得た。プライマーEPS-Fは開始コドン上流にSbfI部位を含有し、一方、プライマーEPS-RはEPO配列の内因性SbfI部位の下流にアニーリングする。およそ603 bpの産物をゲル単離し、そしてpGEM-T Easyベクターにサ
ブクローニングした。4つの独立の構築物を完全に配列決定し、そして突然変異を含まな
い2つのうち1つをさらなるサブクローニングに用いた。正しいコード配列をSbfI消化によって切除し、ゲル精製し、そしてPstI消化、SAP処理してゲル精製したpED.dC.EpoFcプ
ラスミドにクローニングした。まず、KpnI消化によって、正しい方向で挿入物を含むプラスミドを決定した。この構築物のXmnIおよびPvuII消化物をpED.dC.EpoFcと比較し、そ
して正しい方向であることを確認した。配列決定し、そして構築物をpED.dC.natEpoFc
と名付けた。pED.dC.natEpoFcのプラスミドマップおよび部分配列を図5に示す。
【0165】
(実施例6)
in vivoでのEPO-Fcの生物学的活性の保持
FcRn結合パートナーおよび目的のタンパク質の融合によって作成したコンジュゲートが、生物学的活性を保持可能であることを立証するため、以下の方式で、上述の例のタンパク質を発現させ、そしてエリスロポエチンの生物学的活性をアッセイした。EPO-Fc融合体を含有する哺乳動物発現ベクターをチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランス
フェクションし、そして当該技術分野の標準的プロトコルによって発現させた。トランス
フェクションCHO細胞または非トランスフェクションCHO細胞の上清を収集し、そしてBALB/cマウスに皮下注射した。当該技術分野に知られる技術により、Coulter FACS解析によって、マウスの網状赤血球カウントを得た。結果によって、トランスフェクション細胞の上清を注射されたマウスは、対照(非トランスフェクション細胞)上清を注射されたマウスより、数倍高い網状赤血球カウントを有した。EPOは、赤血球産生を刺激することが立証
されているため、本明細書に開示する結果は、本発明が、生物学的に活性であるFcRn結合パートナーコンジュゲートを合成する能力を持つことを支持する。
【0166】
同様に、上述のベクターの代替FcRn結合パートナードメインの代わりにFc断片を用いた融合タンパク質は、生物学的活性を保持すると期待されるであろう。
(実施例7)
中央気道への搬送後のEPO-Fcの経上皮吸収
免疫組織化学研究によって、カニクイザル(cynomolgus monkey)およびヒト両方にお
いて、FcRnが肺胞上皮より中央気道で比較的より高いレベルで発現されることが示された。したがって、FcRnに結合するEPO-Fc融合タンパク質(MW=112 kDa)が肺上皮を通じて
輸送可能であるかどうか、そして肺のどの部位でこの吸収が起こるのかを決定することに興味が持たれた。カルボキシ末端で、ヒトIgG1のFcドメインのアミノ末端に融合した天然ヒトEPOで構成される、ヒトEPO-Fc融合タンパク質をCHO細胞で発現させ、そしてプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて、細胞培地から精製した。精製ヒトEPO-Fc融合タンパク質は、in vitroで生物学的に活性であった。EPO-Fcは、EPO受容体(EpoR)に高親和性(天然huEPOのKd=0.2 nMに対して、Kd=0.25 nM)で結合し、そしてTF-1ヒト赤白血病細胞の増殖を刺激した(天然huEPOのED50=0.03 nMに対して、ED50=0.07 nM)
。EPO-Fcはまた、Biacoreアッセイにおいて、精製した可溶性huFcRnにも結合した(IgG1
のKd=8 nMに対して、Kd=14 nM)。
【0167】
EPO-Fc(PBS、pH7.4中)のエアロゾルを多様なジェットネブライザーで生成し、そして気管内チューブを通じて、麻酔したカニクイザルに投与した。いくつかの実験では、サルが自発的に呼吸し、一方、他の実験では、呼吸の深さおよび率をBird Mark 7A呼吸器またはSpanglerボックス装置いずれかで制御した。EPO-Fcに対する生物学的反応の指標として、循環赤血球の増加を用いた。特異的ELISAを用いて、血清中のEPO-Fcを定量化した。
【0168】
麻酔した自発呼吸カニクイザルでの最初の実験は、エアロゾル化EPO-Fcに対する生物学的反応を調べた(図6A)。この研究のすべての動物は、EPO-Fc投与5〜7日後、循環赤血球が増加するよう反応した。続く実験によって、同様の方式で投与した単回用量後、血清において、高濃度のEPO-Fcが得られることが示された(図6B)。FcRn結合が>90%減少した突然変異EPO-Fc(Fcドメイン中3つの必須アミノ酸残基:I253A、H310A、およびH435Aで修飾したFc)は、よく吸収されなかった。平均血清半減期は、(EPOGEN(登録商標)(Amgen)での5〜6時間に比較して)EPO-Fcではおよそ22時間であった。浅い(自発的)呼吸ま
たは深い(強制換気)呼吸いずれかを用いて、Epo-FcおよびmutEPO-Fcの吸収を比較した
。強制される深い呼吸操作は、浅い自発的呼吸よりはるかに低いEPO-Fc吸収を生じ、一方、突然変異EPO-Fcの吸収には相異はなかった。
【0169】
20%または75%肺活量いずれかで、強制換気して、EPO-Fcの沈着および吸収を比較する、ガンマ・シンチグラフィー(放射線トレーサーとして99mTc-DTPAを同時投与する)を用いた実験において、これらの結果を確認し、そして強化した(図7)。シンチグラフィー
画像によって、放射性トレーサーの沈着は、75%肺活量で中央気道/肺深部であるのに対して、20%肺活量で気道/中央気道であることが立証された。20%肺活量を用いた投与後、EPO-Fcの吸収はより強固であった。さらに、異なる沈着用量レベルでEPO-Fcの吸収を調べ(すべて20%肺活量操作で行った)、臨床的に適切であるEPO-Fcの用量範囲を見出した。0.01〜0.03 mg/kgの沈着用量は、臨床的有用性と一致する薬物動態を生じた(図8)。
【0170】
(実施例8)
非ヒト霊長類の中央気道に対するヒトIFN-α-Fcのエアロゾル投与による、IFN-αの全
身搬送
実施例3のpED.dC.Kb発現ベクターおよびヒトIFN-αのコード領域を用いて、ヒトIFN-α-Fc発現構築物を生成した。ヒトIFN-αのヌクレオチド配列は、寄託番号J00207号とし
て、GenBankから公的に入手可能である。上述のようなEPO-Fcに関するものと類似の方式
で、ヒトIFN-α-FcをCHO細胞で発現させ、そして単離した。この実験のため、6頭のカニ
クイザルを3つの群に分けた。実施例7においてEPO-Fc投与に関して記載した方法に類似の中央気道エアロゾル投与によって、群Iのサルに20μg/kgのIFN-α-Fcを投与した。群IIのサルには、同じ方式で、中央気道に、20μg/kgのINTRON(登録商標)A(Schering Corporation、ニュージャージー州ケニルワース)、組換えヒトIFN-αを投与した。群IIIのサルには、中央気道エアロゾル投与によって、群Iの10分の1、すなわち2μg/kgのIFN-α-Fcを投与した。14日間に渡って、血液試料を定期的に抜き取って、そして適切な特異的ELISA
を用いて、各時点で、IFN-αの血清レベルを測定した。やはり同じELISAによって測定す
る、処理前IFN-αレベルを、続くすべてのIFN-αレベル測定から減じた。さらに、投与したIFN-α-Fcの生物活性を評価するため、群Iの動物から得た連続試料を用いて、IFN-αの生物活性に関する標準的アッセイを行った。これらのアッセイには、オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)活性およびネオプテリン濃度の測定が含まれた。結果を図9〜11に示す。
【0171】
図9は、群Iのサル(DD030およびDD039)が、半減期(T1/2)83.7〜109時間、160〜185 ng/mlの範囲でIFN-αピーク血清濃度を達成したことを示す。対照的に、同じ投与方式に
おいて、INTRON(登録商標)Aとして20μg/kgのIFN-αを投与された群IIのサル(DD029およびDD045)は、半減期(T1/2)わずか4.8〜5.9時間で、わずか約13.6 ng/mlのIFN-αピ
ーク血清濃度を達成した。これらの結果は、中央気道に投与したエアロゾル化IFN-α-Fc
が、IFN-αの全身搬送に非常に有効であることを示す。さらに、IFN-α-Fcとしてこうし
て投与されたIFN-αの半減期が延長されていることから、IFN-αをFcRn結合パートナーコンジュゲートとして投与すると、同様に投与した単独のIFN-αに比較して、薬物動態を劇的に改善可能であることが立証される。
【0172】
図10は、群Iのサルのわずか10分の1のIFN-α-Fcを投与された群IIIのサル(DD055およ
びDD057)が、同様の薬物動態プロフィールで、比例して低い血清濃度を達成したことを
示す。
【0173】
図11は、IFN-α-Fcを投与された群Iのサルに関するIFN-α生物活性アッセイの結果を示す。図11Aは、図9および図10の薬物動態データと平行する時間の関数として、増加し、そして維持されるOAS活性を示す。図11Bは、図9および図10の薬物動態データとやはり平行
する、増加し、そして維持されるネオプテリン濃度を示す。これらのデータは、IFN-α-Fc中のIFN-αが、本発明の方法にしたがった中央気道へのエアロゾル投与後、生物学的活
性を保持することを示す。
【0174】
(実施例9)
非ヒト霊長類の中央気道へのヒトTNFR-Fcのエアロゾル投与による、TNFR-Fcの全身搬送
本発明の方法にしたがって、中央気道を介し、3頭のカニクイザル各々に、エアロゾル
化ENBREL(登録商標)(エタネルセプト、Immunex Corporation、ワシントン州シアトル
)、組換えヒト腫瘍壊死因子受容体(TNFR)-Fcγ1を投与した。ENBREL(登録商標)は、ヒトIgG1のヒンジ、CH2ドメイン、CH3ドメインにインフレームで融合させたヒトTNFRの細胞外リガンド結合部分を含む、二量体融合タンパク質である。ENBREL(登録商標)はCHO
細胞で発現され、そしておよそ150 kDaの分子量を有する。この実験において、各サルに
対する概算沈着用量は0.3〜0.5 mg/kgであった。10日間に渡って、血液試料を定期的に抜
き取り、そして適切な特異的ELISAを用いて、各時点で、TNFR-Fcの血清レベルを測定した。血清ENBREL(登録商標)濃度を測定するため、捕捉剤としてプレートに結合したTNF-α;それぞれ試料または標準として血清またはENBREL(登録商標);およびレポーター剤として抗TNFR抗体を用いて、サンドイッチELISAを行った。結果を図12に示す。
【0175】
図12は、3頭のカニクイザル(101、102、および103)が、TNFR-Fc約200 ng/mlの、同様のピーク血清濃度を達成したことを示す。TNFR-Fcの半減期は延長された。この実験によ
って、本発明の方法にしたがった中央気道へのエアロゾル投与を介して、ヒトTNFR-Fcを
非ヒト霊長類に有効に投与可能であることが立証される。
【0176】
(実施例10)
非ヒト霊長類の中央気道へのヒトIFN-β-Fcのエアロゾル投与による、IFN-βの全身搬

実施例3のpED.dC.Kb発現ベクターおよびヒトIFN-βのコード領域を用いて、ヒトIFN-β-Fc発現構築物を生成した。ヒトIFN-βのヌクレオチド配列は、寄託番号V00535号とし
て、GenBankから公的に入手可能である。上述のようなEPO-Fcに関するものと類似の方式
で、ヒトIFN-β-FcをCHO細胞で発現させ、そして単離した。実施例7においてEPO-Fc投与
に関して記載した方法に類似の中央気道エアロゾル投与によって、2頭のカニクイザルお
よび2頭のアカゲザル(rhesus monkey)各々に、40μg/kgのIFN-β-Fcを投与した。2日間に渡って、血液試料を定期的に抜き取って、そして適切な特異的ELISAを用いて、各時点
で、IFN-βの血清レベルを測定した。やはり同じELISAによって測定する、処理前IFN-β
レベルを、続くすべてのIFN-βレベル測定から減じた。
【0177】
結果は、中央気道を介し、エアロゾル化ヒトIFN-β-Fcを投与されたカニクイザルおよ
びアカゲザルはどちらも、有意でそして持続する血清IFN-β濃度を達成することを示した。この実験において、カニクイザルは、アカゲザルより高いピークレベルを達成した(アカゲザルでは5.4〜8.4 ng/mlであるのに対して、カニクイザルでは11.0〜24.7 ng/mlであった)。どちらの群でもIFN-β-Fcの半減期はほぼ同一であり、すなわち12.8〜14.2時間
であった。これらのデータによって、2種の非ヒト霊長類の中央気道に投与したエアロゾ
ル化IFN-β-Fcが、IFN-βの全身搬送に有効であることが立証される。
【0178】
(実施例11)
非ヒト霊長類の中央気道へのヒトFSH-Fcのエアロゾル投与による、FSHの全身搬送
実施例3のpED.dC.Kb発現ベクターおよび一本鎖ヒトFSHのコード領域を用いて、ヒトFSH-Fc発現構築物を生成した。分子の一本鎖FSH部分は、SmaI制限エンドヌクレアーゼ部位(CCCGGG)によって、適切な翻訳リーディングフレームでともに連結された、ヘテロ二量体ホルモンFSHのα鎖およびβ鎖両方を含む。したがって、該FSH-Fc構築物はまた、hFSH
βα-Fcとも称される。ヒトFSHのαサブユニットおよびβサブユニットのヌクレオチド配列は、それぞれ寄託番号NM_000735号およびNM_000510号として、GenBankから公的に入
手可能である。上述のようなEPO-Fcに関するものと類似の方式で、ヒトFSH-FcをCHO細胞
で発現させ、そして単離した。
【0179】
実施例7においてEPO-Fc投与に関して記載した方法に類似の中央気道エアロゾル投与に
よって、2頭のカニクイザル各々に、100μg/kgのFSH-Fcを投与した。2週間に渡って、血
液試料を定期的に抜き取って、そして適切な特異的ELISAを用いて、各時点で、FSHの血清レベルを測定した。やはり同じELISAによって測定する、処理前FSHレベルを、続くすべてのFSHレベル測定から減じた。結果は、どちらのサルも有意なレベルのFSHを達成することを示し、ピーク血清濃度は21.6 ng/mlおよび42.8 ng/mlであり、半減期は145〜153時間であった。
【0180】
本発明は、本発明の個々の側面の単一の例示と意図される、記載した特定の態様による範囲に限定されず、そして機能的に同等な方法および構成要素が本発明の範囲内にある。実際、当業者には、本明細書に示し、そして記載するものに加えて、本発明の多様な修飾が前述の説明および付随する図から明らかになるであろう。こうした修飾は、付随する請求項の範囲内に属すると意図される。
【0181】
本明細書に引用するすべての参考文献は、すべての目的のため、本明細書に完全に援用される。
【0182】
本発明の態様
(1) 治療剤を全身搬送するための方法であって:
治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、中央肺区域/末梢肺区域沈着比(C/P比)が少なくとも0.7であるように、肺に投与する
ことを含んでなる、前記方法。
(2) C/P比が少なくとも1.0である、(1)の方法。
(3) C/P比が少なくとも1.5である、(1)の方法。
(4) C/P比が少なくとも2.0である、(1)の方法。
(5) 治療剤がポリペプチドである、(1)の方法。
(6) 治療剤が抗原である、(1)の方法。
(7) 抗原が腫瘍抗原である、(6)の方法。
(8) 治療剤がオリゴヌクレオチドである、(1)の方法。
(9) オリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチドである、(8)の方法。
(10) 治療剤が、エリスロポエチン(EPO)、成長ホルモン、インターフェロン・アルファ(IFN-α)、インターフェロン・ベータ(IFN-β)、または卵胞刺激ホルモン(FSH)である、(1)の方法。
(11) 治療剤がEPOである、(1)の方法。
(12) 治療剤を全身搬送するための方法であって:
治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、肺に投与する
ことを含んでなり、エアロゾル中の粒子が、少なくとも3マイクロメートル(μm)の空気動力学的粒径(MMAD)を有する、前記方法。
(13) 粒子のMMADが3μm〜約8μmの間である、(12)の方法。
(14) 粒子のMMADが4μmを越える、(12)の方法。
(15) 粒子の大部分が呼吸不適である、(12)の方法。
(16) 治療剤がポリペプチドである、(12)の方法。
(17) 治療剤が抗原である、(12)の方法。
(18) 抗原が腫瘍抗原である、(17)の方法。
(19) 治療剤がオリゴヌクレオチドである、(12)の方法。
(20) オリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチドである、(19)の方法。
(21) 治療剤が、EPO、成長ホルモン、IFN-α、IFN-β、またはFSHである、(12)の方法。
(22) 治療剤がEPOである、(12)の方法。
(23) 治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルであって、エアロゾル中の粒子が、少なくとも3μmのMMADを有する、前記エアロゾル。
(24) 粒子のMMADが3μm〜約8μmの間である、(23)のエアロゾル。
(25) 粒子のMMADが4μmを越える、(23)のエアロゾル。
(26) 粒子の大部分が呼吸不適である、(23)のエアロゾル。
(27) 治療剤がポリペプチドである、(23)のエアロゾル。
(28) 治療剤が抗原である、(23)のエアロゾル。
(29) 抗原が腫瘍抗原である、(28)のエアロゾル。
(30) 治療剤がオリゴヌクレオチドである、(23)のエアロゾル。
(31) オリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチドである、(30)のエアロゾル。
(32) 治療剤が、EPO、成長ホルモン、IFN-α、IFN-β、またはFSHである、(23)のエアロゾル。
(33) 治療剤がEPOである、(23)のエアロゾル。
(34) 容器、容器に連結されたエアロゾル生成装置、並びに容器内に配置された治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲート、を含んでなる、エアロゾル搬送系であって、エアロゾル生成装置が、少なくとも3μmのMMADを持つ粒子を有するコンジュゲートのエアロゾルを生成するように構築され、そして配置されている、前記エアロゾル搬送系。
(35) 粒子のMMADが4μmを越える、(34)のエアロゾル搬送系。
(36) 粒子の大部分が呼吸不適である、(34)のエアロゾル搬送系。
(37) エアロゾル生成装置が、コンジュゲートを含有する溶液と流体連結している(in fluid connection)振動要素を含んでなる、(34)のエアロゾル搬送系。
(38) エアロゾル生成装置がネブライザーである、(34)のエアロゾル搬送系。
(39) エアロゾル生成装置が機械的ポンプである、(34)のエアロゾル搬送系。
(40) 容器が加圧容器である、(34)のエアロゾル搬送系。
(41) (34)のエアロゾル搬送系を製造する方法であって:
容器を用意し;
容器に連結されたエアロゾル生成装置を用意し;そして
有効量のコンジュゲートを容器に入れる
ことを含んでなる、前記方法。
(42) エアロゾル生成装置が、コンジュゲートを含有する溶液と流体連結している振動要素を含んでなる、(41)の方法。
(43) エアロゾル生成装置がネブライザーである、(41)の方法。
(44) エアロゾル生成装置が機械的ポンプである、(41)の方法。
(45) 容器が加圧容器である、(41))の方法。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、ヒトIgG1 Fc断片のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 1)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 2)を示す。アミノ酸配列の下の数字は、EU番号付け慣例を用いたアミノ酸指定に対応する。
【図2】図2は、野生型ヒトEPOのcDNAオープンリーディングフレームヌクレオチド配列(パネルA;SEQ ID NO: 3)および推定されるアミノ酸配列(パネルB;SEQ ID NO: 4)を示す。SEQ ID NO: 4中のシグナルペプチドを下線で示す。
【図3−1】図3は、発現プラスミドpED.dC.XFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びにKbシグナルペプチド/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 5)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)(パネルB)を示す。KbシグナルペプチドおよびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、PstIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図3−2】図3は、発現プラスミドpED.dC.XFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びにKbシグナルペプチド/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 5)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)(パネルB)を示す。KbシグナルペプチドおよびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、PstIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図4−1】図4は、発現プラスミドpED.dC.EpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びにKbシグナルペプチド/EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 7)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 8)(パネルB)を示す。Kbシグナルペプチド、成熟EPO、およびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、SbfIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図4−2】図4は、発現プラスミドpED.dC.EpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びにKbシグナルペプチド/EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 7)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 8)(パネルB)を示す。Kbシグナルペプチド、成熟EPO、およびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、SbfIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図4−3】図4は、発現プラスミドpED.dC.EpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びにKbシグナルペプチド/EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 7)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 8)(パネルB)を示す。Kbシグナルペプチド、成熟EPO、およびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、SbfIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図5−1】図5は、発現プラスミドpED.dC.natEpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びに天然EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 9)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 10)(パネルB)を示す。天然EPOシグナルペプチドを含む成熟EPOおよびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、PstIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図5−2】図5は、発現プラスミドpED.dC.natEpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びに天然EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 9)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 10)(パネルB)を示す。天然EPOシグナルペプチドを含む成熟EPOおよびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、PstIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図5−3】図5は、発現プラスミドpED.dC.natEpoFcのプラスミドマップ(パネルA)、並びに天然EPO/Fcγ1挿入物のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 9)およびアミノ酸配列(SEQ ID NO: 10)(パネルB)を示す。天然EPOシグナルペプチドを含む成熟EPOおよびFcγ1領域を配列上の波型記号(〜)で示す。EcoRI、PstIおよびXbaI制限酵素部位を下線で示す。
【図6】図6は、カニクイザルの中央気道にエアロゾルとして投与したEPO-Fcに対するin vivo反応を示す一対のグラフである。パネルAは、9頭の動物各々の最大網状赤血球反応を示す。ネブライザーを用いて、エアロゾル化したEPO-Fcを自発呼吸動物に投与した。パネルBは、浅い呼吸または深い呼吸による吸入後、EPO-Fc(天然Fc断片)および突然変異体EPO-Fc(FcRn結合に必須の3つのアミノ酸の突然変異を有するFc断片)の最大血清濃度を示す。
【図7】図7は、20%肺活量(20%VC、浅い呼吸)および75%肺活量(75%VC、深い呼吸)でのエアロゾル投与後の、カニクイザルにおける、EPO-Fcの最大血清濃度を示すグラフである。
【図8】図8は、30μg/kg(円)および10μg/kg(三角形)の用量、20%肺活量でのエアロゾル投与後の、カニクイザルにおける、時間に渡る血清EPO-Fc濃度を示すグラフである。各曲線は、単一の動物由来のデータに相当する。
【図9】図9は、20μg/kgの用量で、浅い呼吸を用いた、IFN-α-FcまたはINTRON(登録商標)Aのエアロゾル投与後の、カニクイザルにおける、時間に渡るIFN-α-Fc血清濃度またはIFN-α単独の血清濃度を示すグラフである。各曲線は、単一の動物由来のデータに相当する。
【図10】図10は、2μg/kgの用量で、浅い呼吸を用いた、IFN-α-Fcのエアロゾル投与後の、カニクイザルにおける、時間に渡る血清IFN-α-Fc濃度を示すグラフである。各曲線は、単一の動物由来のデータに相当する。
【図11】図11は、20μg/kgの用量で、浅い呼吸を用いた、IFN-α-Fcのエアロゾル投与後の、IFN-α生物活性の2つの一般的な測定値である、オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)活性(パネルA)およびネオプテリン濃度(パネルB)を示す一対のグラフである。各曲線は、単一の動物由来のデータに相当する。
【図12】図12は、0.3〜0.5 mg/kgの概算される沈着用量で、浅い呼吸を用いた、IFN-α-Fcのエアロゾル投与後の、カニクイザルにおける、時間に渡る血清ENBREL(登録商標)(ヒトTNFR-Fc)濃度を示すグラフである。各曲線は、単一の動物由来のデータに相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤を全身搬送するための方法であって:
治療剤およびFcRn結合パートナーのコンジュゲートのエアロゾルの有効量を、中央肺区域/末梢肺区域沈着比(C/P比)が少なくとも0.7であるように、肺に投与する
ことを含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−159275(P2010−159275A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45407(P2010−45407)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【分割の表示】特願2003−575888(P2003−575888)の分割
【原出願日】平成14年7月3日(2002.7.3)
【出願人】(501368643)ザ・ブリガーム・アンド・ウーメンズ・ホスピタル・インコーポレーテッド (10)
【出願人】(502327207)ザ・チルドレンズ・メディカル・センター・コーポレーション (3)
【出願人】(501442345)ブランディーズ・ユニバーシティ (4)
【出願人】(505007364)シントニックス・ファーマシューティカルズ・インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】