説明

治療用細胞の体内分布の把握方法。

【課題】細胞療法において、その治療効果の有効性を確認及び検証するための、適切な方法を提供する。
【解決手段】治療前の患者に18フルオロデオキシグルコース(FDG)を含有させることにより標識された医薬品を投与し、当該患部の位置を特定するためにPET−CTを用いて前記医薬品の体内分布を画像化したものを画像情報Aとして保存し、治療用細胞にFDGを含有させることにより標識し、この標識された治療用細胞を前記患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療せしめ、その治療効果を推定するためにPET−CTを用いて治療用細胞の体内分布を画像化したものを画像情報Bとして保存し、前記画像情報Aと前記画像情報Bを同一縮尺及び同一方向に重ね合わせ、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量が多いほど治療効果が大であると判定することにより治療効果を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん等の治療方法において、細胞を体外に取り出し、培養・加工したうえで体内に戻す「細胞療法」が用いられた場合に、その治療効果を推定するための、治療用細胞の体内分布の把握方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、いろいろな種類の細胞を増殖させる因子などが、遺伝子工学で大量に作られるようになったことや、細胞培養の技術が進歩したことなどにより、体から取り出した細胞を体外で培養し、いろいろな性質を与えた上で体に戻すことによって、病気の治療を行うという細胞療法が試みられている。
【0003】
大別して患者自身の細胞を使うものと、他人の細胞を使うものとがあるが、自己細胞を使うものは、他人の細胞を使うものに比べて、ウイルス感染などを持ち込む危険もなく、有害な免疫反応が起こることもなく、格段に安全なため、新たな治療法として期待が大きい。
【0004】
細胞療法の種類としては、患者自身のリンパ球を培養・加工して治療に用いる免疫細胞療法(活性化自己リンパ球療法)の他、皮膚の細胞を培養して火傷の治療などに使うものや、軟骨の細胞を培養して関節の病気の治療などに使うものなどの再生医療と呼ばれる分野のものもある。さらに、胚性幹細胞を培養して、肝臓の細胞や神経細胞など種々の細胞に分化させて用いる試みなども研究されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記治療方法においては、治療効果の有効性を確認及び検証するための、適切な方法に乏しいという理由によって、決して高い評価を得てきたわけではなかった。
【0006】
具体的には、第一に、これまで細胞療法は、医師や患者の治療法の選択肢の中に殆ど入っておらず、従って、他の治療法がすべて効かない状態になって初めて、細胞療法が試みられる場合が多く、これでは、どの治療方法の有効性が高いかの判断が困難であり、問題である。
【0007】
第二に、現在、細胞療法の有効性の評価基準は、化学療法と同じ評価基準によって評価されており、その評価基準では、治療によってがんが縮小し、それが一定期間続けば有効とされる。しかし、がんは、あまり縮小しないが患者は長期間高いCIOL(CIUALITY OF LIFE:患者の生活の質)を保って生存するような場合が、細胞療法では多く認められているが、このような場合には無効と判断されてしまう等の問題が発生することになる。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、細胞療法において、その治療効果の有効性を確認及び検証するための、適切な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による請求項1は、上記の目的を達成するために、患者の体外に摘出された細胞に当該患部治療能力を備えさせる処置を施し治療用細胞とし、前記治療用細胞を前記患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療せしめ、その治療効果を推定するための治療用細胞の体内分布の把握方法において、治療前の患者に18フルオロデオキシグルコース(18FULORO DEOXYGLUCOSE:以下FDGと略す。)を含有させることにより標識された医薬品を投与し、当該患部の位置を特定するためにPET−CT(POSITRON EMISSION TOMOGRAPHY:陽電子放射断層撮影)を用いて前記医薬品の体内分布を画像化したものを画像情報Aとして保存し、前記治療用細胞にFDGを含有させることにより標識し、この標識された治療用細胞を前記患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療せしめ、その治療効果を推定するためにPET−CTを用いて治療用細胞の体内分布を画像化したものを画像情報Bとして保存し、前記画像情報Aと前記画像情報Bを同一縮尺及び同一方向に重ね合わせ、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量が多いほど治療効果が大であると判定することにより治療効果を推定することを特徴としている。
【0010】
また請求項2は、請求項1において、前記治療用細胞にFDGを含有させることにより標識する方法が、被標識治療用細胞を遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収する処置と、前記で得られた治療用細胞にFDGを混入して良く攪拌する処置と、前記で得られた治療用細胞を、空気に対してCO2が5%濃度の雰囲気中で、37℃で所定時間培養する処置と、前記で得られた治療用細胞に4℃に冷却されている生理食塩水を混合し、良く攪拌してから遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収する処置と、前記で得られた治療用細胞に4℃に冷却されている生理食塩水を混合し、4℃で所定時間保つ処置と、前記で得られた治療用細胞を遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収し、これを生理食塩水に浮遊させる処置を有することを特徴としている。
【0011】
また請求項3は、請求項1及び請求項2において、前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻す時の前記治療用細胞に含有するFDGの総放射線量をV(mCiミリキュリー)とし、前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻してからPET−CTを用いて治療用細胞の体内分布の画像化を開始するまでの待機時間をT(分)とし、前記治療用細胞に含有するFDGの総放射線量の観測を開始するために必要な前記PET−CTの前記総放射線量の感知限界量をL(mCi)としたとき、前記V、L、Tの関係を
V≧L/{0.5の(T/110)乗}
であって、且つ
45≦T≦60
とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記構成において、まず、治療前の患者に、FDGで標識された医薬品を投与し、当該患部の位置をPET−CTを用いて画像化した画像情報Aと、患者の治療用細胞をFDGにより標識し、これを患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療し、前記治療用細胞の治療中の体内分布をPET−CTを用いて画像化した画像情報Bとを重ね合わせ、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と、前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量により、治療効果を推定するので、その治療効果を早期に確認及び検証することが可能となり、加えて、画像情報Aには、がん細胞の位置、即ち、病巣の位置を特定する情報が含まれており、患者の現状の容態の把握や、治療方法及び治療方針を決定するためにも供され、また、画像情報Bには、治療中の治療用細胞の体内分布位置を特定する情報が含まれているが、これを解析することにより、患者の治療中の容態の把握や、治療方法及び治療方針の妥当性を検証するためにも供される。
【0013】
さらに、画像情報Aと画像情報Bとはデーター化されているので、数値に置換えることができ、前記一致量も数値で表すことができるので、人の判断による、あいまいさを排除し、判定の正確さを増すことに寄与する治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することができる。
【0014】
さらに加えて、本発明は、患者の体内に戻す時の治療用細胞に含有するFDGの総放射線量Vを、PET−CTがFDGの観測を開始するために必要な感知限界量Lと、FDGが患者の体内に注入されてからPET−CTにより画像化が開始されるまでの待機時間Tを用いた数式により、明確に規定しているので、患者の事情に合わせたVを、容易且つ適切に選定することを可能とし、患者に対する不必要な放射線被爆を防止することのできる、人体に安全な治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することを可能としている。
【0015】
よって本発明は、従来の問題点を解消し、細胞療法において、その治療効果の有効性を確認及び検証するための適切な、治療用細胞の体内分布の把握方法であり、医療的価値はきわめて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は図1のフローチャートに示すように、まず、治療前の患者に、FDGを含有させることにより標識された医薬品を、注射等の医療方法を用いて投与する(S1)。ここで、FDGは、我が国において体内への投与が認可されている放射性同位元素である18Fを含むグルコース(ブドウ糖)であるが、このFDGを、例えば、生理食塩水に混合することにより医薬品としたものが既に製品化されている。
【0017】
ところで、がん細胞は、正常な細胞よりも増殖が盛んに行われるため、細胞のエネルギー源であるグルコース(前記FDGを含む)を多量に必要とし、その必要量は正常細胞のそれに比較して約10倍にも達する。従って、前記患者に投与された医薬品に含まれるFDGは、がん細胞に集中することが、既に医学的に知られており、前記FDGの体内分布を観測することにより、がん細胞の位置、即ち、病巣の位置を特定することができ、これにより治療方法や治療方針の決定に大きく貢献することは明白である。
【0018】
FDGは、ごく微量の放射線を放出するが、前記FDGの体内分布を観測することは、前記放射線を観測することと等価である。前記FDGが放出する放射線を観測する装置としてPET−CTが開発及び実用化されている。PET−CTは、がん細胞そのものの活動を、体外から撮影する医療機器であり、腫瘍の活動性や脳などの働きを断層画像としてとらえ、病気の原因や病状を的確に診断する装置である。また、PET−CTは、短時間で全身を検査し、数ミリ程度の小さながんを見つけだすことも可能であり、がんの発見率は旧検査方法に比べ、格段に高くなっている。
【0019】
次に、このPET−CTを用いて、前記投与されたFDGの体内分布を観測し、画像化したものを画像情報Aとして保存する(S2及びS6)。既述の如く、前記画像情報Aは、がん細胞の位置、即ち、病巣の位置を特定する情報が含まれており、患者の現状の容態の把握や、治療方法及び治療方針を決定するためにも供される。
【0020】
もちろん、画像情報Aは、診断の正確性を増すため、複数枚生成するのが好ましく、後に述べる画像情報Bとの対応が取れるよう配慮されていれば良い。また、画像情報Aという呼称はこれに拘らず、画像情報Bとの区別がつくよう配慮し任意に選定すると良い。また、画像情報Aの保存方法は、例えば、印刷物や電子化データー等の従来技術による各種保存方法を用いれば良く、画像情報Bとの正確な比較検討が可能なよう配慮し、任意に選定すると良い。
【0021】
さらに、患者の体外に摘出された細胞に当該患部治療能力を備えさせる処置を施し治療用細胞とする(S3)。ここで、前記細胞に当該患部治療能力を備えさせる処置としては、得られる細胞の形態や病気の種類によってそれぞれ異なるが、具体的には例えば、患者の血液のみが入手可能な場合は、「CD3−LAK法」が用いられることが多く、この方法は、リンパ球画分を抗CD3抗体、インターロイキン−2(IL−2)などによる刺激を与えつつ培養して活性化させると同時に増殖させる方法である。
【0022】
また例えば他の方法として、手術時に患者から、がん細胞や所属リンパ節細胞が得られる場合は、「CTL法」が用いられることが多く、この方法は、培養初期の刺激として、自分のがん細胞だけで刺激を与えて培養した後、IL−2と抗CD3抗体を同様に用いて培養を行う方法であるが、このようにして得られた培養リンパ球は、患者自身のがん細胞に対する特異性を持った細胞障害性T細胞(CYTOTOXIC T LYMPHOCYTE:CTL)を多く含む。特に、手術時に患者から摘出したがん組織の所属リンパ節が得られる場合には、血液リンパ球の代りにリンパ節細胞を用いた方が、生体内でがんによって刺激を受けたリンパ球が多いため、より有効な活性化リンパ球を得ることが出来る。
【0023】
またさらに、例えば他の方法として、樹状細胞を用いる方法「DC療法,DC−LAK法,DC−CTL法」があり、この方法は、T細胞に対する抗原提示を専門に行う樹状細胞(DENDRITIC CELL:DC)に、がん細胞から抽出した蛋白質を貪食させると、取り込まれたがん抗原蛋白質が、細胞内で分断されて異常ペプチドを生じ、これが抗原として樹状細胞表面に提示される性質を使用したものである。
【0024】
さて、以上のようにして得られた各治療用細胞に、FDGを含有させることにより標識し、この標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻すことにより当該患部の治療を開始する(S4)。ここで、前記治療用細胞にFDGを含有させる方法として、本発明による具体的な一例としては、次のようにすると良い。即ち、
▲1▼、標識したい治療用細胞を遠心分離して、上清を吸引して1mlのみ残し、沈殿した治療用細胞を回収する。
▲2▼、▲1▼で得られた治療用細胞に18mCiのFDGを、混入して良く攪拌する。
▲3▼、▲2▼で得られた治療用細胞を、空気に対してCO2が5%濃度の雰囲気中で、37℃で約2時間培養する。
▲4▼、▲3▼で得られた治療用細胞に、4℃に冷却されている5mlの生理食塩水を混合し、良く攪拌してから遠心分離し、上清を吸引して、沈殿した治療用細胞を回収する。
▲5▼、▲4▼で得られた治療用細胞に、4℃に冷却されている生理食塩水を5ml混合し、4℃で約15分間保つ。
▲6▼、▲5▼で得られた治療用細胞を再び遠心分離し、上清を吸引して、沈殿した治療用細胞を回収し、これを生理食塩水に浮遊させ、標識された治療用細胞とする。
以上の方法を用いると、治療用細胞にFDGを効果的に含有させることが可能となる。
【0025】
またここで、前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻す方法として、例えば、一般的には前記標識された治療用細胞を100mlの点滴用生理食塩水に浮遊させ、点滴により静脈から投与するが、いかにして、がんの部位に治療用細胞を集中させるかが、重要な問題であり、がんが体表面から容易に接近できる部位にある場合には、がんに直接注入する場合もある。また症例によっては、がんに血液を供給している動脈からの投与や、胸腔内や腹腔内投与を行う場合もあり、それぞれの場合に応じて適切に選択すると良い。
【0026】
ところで、FDGは既述の如く、微量の放射線を放射するが、放射線は人体にとって有害なことは周知の事実であり、それ故、前記治療用細胞に含有するFDGの放射線の総量は、極力少なくするのが好ましいことは言うまでもない。しかし、後述する、PET−CTを用いて体内に戻された後の治療用細胞の体内分布を画像化する際に、前記PET−CTが前記FDGの放射する放射線を観測するに十分な量の放射線量、即ち、使用されるPET−CTの放射線の感知限界量以上の放射線量を、前記FDGが有している必要があるのも、また、当然のことである。
【0027】
加えて、前記FDGが患者の体内に注入されてから、体内を血液等を媒介として患部付近にまで移動し、治療が開始されたと判断され、従って、PET−CTにより、前記治療用細胞の体内分布の画像化が開始されるまでに、所定の時間、待機する必要があることも、また、容易に理解される。
【0028】
さらに、前記FDGの放射線発生源であるF18(フッ素の同位元素)の半減期は110分であることが既に知られており、このことは、前述の所定の待機時間{以下、T(分)と称する}の間に、前記FDGの放射線量が減少することを意味している。
【0029】
従って、前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻す時の前記治療用細胞に含有するFDGの総放射線量{以下、V(mCi)と称する}を、前記PET−CTが前記治療用細胞に含有するFDGの総放射線量の観測を開始するために必要な前記総放射線量の感知限界量{以下、L(mCi)と称する}と前記Tとを考慮して決定することが、非常に重要であり、本発明の根幹に関わるものである。
【0030】
これらを、一言で簡略に述べると、Aは、人体の安全のため、できるだけ小さくしなければならないが、しかし、良質な画像Bを得るためには、Tを考慮して、Lを下回らないよう、Aを十分に大きくしておかなければならないという困難な関係を、成立及び満足させる必要があるということである。
【0031】
従来、前記V、L、Tの関係は明確にされていなかったが、本発明では、これらを数式により明確に規定することを可能とした。即ち、
V≧L/{0.5の(T/110)乗}・・・・・(1)式
であって、且つ
45≦T≦60・・・・・(2)式
とすることにより、前記困難な関係を満たし、人体に安全な治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することを可能としている。
【0032】
以下、前記(1)式、(2)式について説明する。まず、(1)式について説明する。(1)式右辺の{0.5の(T/110)乗}の項は、F18の半減期が110分であることから、FDGが体内に注入されてからTを経た後の放射線量の、初期値に対する減少割合を示しているが、この値はまた、PET−CTが観測を開始するために必要な放射線の最低量の割合でもある。故に、この値の逆数に感知限界値Lを乗ずることにより、患者の体内に戻す時の治療用細胞に含有するFDGの総放射線量の最低量、即ちVの最低量を逆算出することが可能となり、これが、(1)式の右辺である。従って(1)式が意味するところは、前記(1)式の右辺によって算出された値以上のVを選択せよということである。
【0033】
もちろん、前記Vの値は、(1)式を満たしさえすれば、自由に選択することは可能であるが、既述の如く、人体の安全のため、Vを必要以上に大きくすることは好ましいことではない。感知限界値Lが正確でありさえすれば、(1)式の右辺により得られた値を、そのままVとして使用することが推奨される。
【0034】
次に、(2)式について説明する。(2)式の意味するところは、前記待機時間Tを45分以上で且つ60分以下に選択することを規定したものである。即ち、本発明者の研究結果によると、Tを45分未満に選択すると、患者の個人差や治療細胞の形態や病気の種類等の影響により、本発明による治療用細胞の体内分布の把握方法の信頼性に問題が発生することが、明らかとなった。従って、これを解消するために本発明では、前記Tを45分以上に選択することを既定しているのである。
【0035】
また、前記Tの値に上限が生じるのは明らかである。なぜならば、(1)式において、Tの値を大きくすることは、Vの値も大きくすることであり、これは、決して好ましいことではない。また、臨床的には、前記治療用細胞が患者の体内に戻された後、患者は、前記Tと、PET−CTによって画像情報Bが得られるまでの間の加算時間の間、床上で安静にしている必要があるが、これは、患者にとって苦痛を伴うものであり、極力、短時間であることが要求される。これについて、本発明者は、患者に対する聞き取り調査の結果や、PET−CTの稼動効率等の調査結果を総合的に判断して、Tを60分以下に選択する必要があるとの結論を得た。よって(2)式が得られ、これにより、患者の身体及び精神的負担を極力軽減することができ、また、PET−CTの稼動効率を向上させることができるので、結局、医療コスト低減にも効果のある、治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することが可能となった。
【0036】
ここで前記(1)式、(2)式に具体的な数値を用いて、〈表1〉を参照しながらVの計算例を示す。なお〈表1〉の左列は、待機時間Tを1分間隔で表示してあり、説明に必要な45分から60分の間のみを表示し、その他の時間は省略してある。また右列は、左列の待機時間Tに対応する、(1)式右辺の{0.5の(T/110)乗}の項の逆数値を表示してある。
【0037】


【0038】
まず、患者K1の例について説明する。患者K1は、細胞治療を受けるのは今回が初めてであり、また、これまで他の放射線治療を受けたことがないことも判明している。従って、今回は初回診断であり、治療方法及び治療方針の妥当性を、より確実に検証する必要があることを考慮して、Tを58分と長めに選定し、また、Lを誤差範囲内の大きいほうの値に選定することにした。
【0039】
即ち、今回使用する、PET−CTは、GE IMAGINATION AT WORK社製のDISCOVERY STであるが、この装置の感知限界値Lは、2mCi〜3mCiであることが判っている。このように、Lに誤差範囲が存在する理由は、装置内外の環境の日常的な変化や使用頻度、製造部品性能のばらつき等、多くの要因が挙げられるが、このような誤差を皆無にすることは、技術的に困難な場合が多く、極力小さくする努力が、日夜なされている。重要なことは、これらの誤差の存在を十分に理解して、各装置を使用することである。
【0040】
よって、患者K1の例は、Lの値として、誤差範囲内の大きいほうの値である3mCiを選択する。さて、前述のように、T=58、L=3が選択されたが、〈表1〉において、左列のT=58に対応する右列の値は、1.442であるので、これに前記Lである、3を乗じると、4.326mCiとなり、これが、患者K1に注入されるVの推奨値である。
【0041】
ところで、治療用細胞にFDGを含有させる方法として、本発明による具体的な一例を既に説明してあるが、例えば、本発明によって得られた治療用細胞100ml中に、仮に7mCiのFDGが含有していたとすると、これを患者K1に注入するための必要量は、100x(4.326/7)=61.8mlと算出される。
【0042】
次に、患者K2の例について説明する。患者K2は、既に細胞治療を5回受けており、今回が6回目である。当然のことながら、本治療の初回診断でFDGを体内に注入しており、また、これまで他の放射線治療を2回受けたことが判明している。患者K2の容体は、本治療を開始してから安定しており、今回は治療の経過を確認することが目的であり、診断の正確性はそれほど重要ではなく、むしろ患者の放射線被爆に対する安全性を優先すべきと判断される。従って、Tを46分と短めに選定し、また、Lを誤差範囲内の小さいほうの値である、2mCiに選定することにした。
【0043】
よって、患者K2の例は、前述のように、T=46、L=2が選択されたが、〈表1〉において、左列のT=46に対応する右列の値は、1.337であるので、これに前記Lである、2を乗じると、2.647mCiとなり、これが、患者K2に注入されるVの推奨値である。
【0044】
ところで、例えば、本発明によって得られた治療用細胞100ml中に、仮に7mCiのFDGが含有していたとすると、これを患者K2に注入するための必要量は、100x(2.647/7)=37.8mlと算出される。
【0045】
ここで注目されるのは、患者K1と、患者K2に注入されるVの値が、ほぼ4割も異なるということである。これは本発明が、患者の事情に合わせたVを、容易且つ適切に選定することを可能とし、患者に対する不必要な放射線被爆を防止することのできる、安全な、治療用細胞の体内分布の把握方法であることを証明するものである。
【0046】
以上のようにして前記Vが選定され、体内に戻された治療用細胞により、治療が開始されるが、その治療効果を早期に確認及び検証することが好ましいのは言うまでもない。従来は、治療効果を早期に確認及び検証することは困難であったが、本発明を用いることにより、これを可能とすることができる。
【0047】
即ち、PET−CTを用いて前記体内に戻された後の治療用細胞の体内分布を画像化したものを画像情報Bとして保存する(S5及びS8)。ここで、前記治療用細胞は、本発明によって、既にFDGにより標識されているので、PET−CTを用いることにより、治療用細胞の体内分布位置を特定することが可能となる。既述の如く、前記画像情報Bは、治療中の治療用細胞の体内分布位置を特定する情報が含まれているが、これを解析することにより、患者の治療中の容態の把握や、治療方法及び治療方針の妥当性を検証するためにも供される。
【0048】
もちろん、画像情報Bは、診断の正確性を増すため、複数枚生成するのが好ましく、既に述べた画像情報Aとの対応が取れるよう配慮されていれば良い。また、画像情報Bという呼称はこれに拘らず、画像情報Aとの区別がつくよう配慮し、任意に選定すると良い。また、画像情報Bの保存方法は、例えば、印刷物や電子化データー等の従来技術による各種保存方法を用いれば良く、画像情報Aとの正確な比較検討が可能なよう配慮し、任意に選定すると良い。
【0049】
次に、治療作用が進行していると判断される適当な時期に、前記画像情報Aと前記画像情報Bを同一縮尺及び同一方向に重ね合わせ(S7)、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量が多いほど治療効果が大であると判定することにより治療効果を推定する(S9、S10、S11、S12)。
【0050】
ここで、前記画像情報Bには、治療中の治療用細胞の体内分布位置を特定する情報が含まれているが、もし、治療用細胞が有効に治療効果を発揮しているならば、前記治療用細胞は当該患部の位置、即ち、病巣の位置そのもの、あるいはその付近に集中していると考えるのが妥当であり、故に、画像情報Aと画像情報Bとが、一致、あるいは近似していると考えるのは、さらに妥当である。従って、画像情報Aと画像情報Bを重ね合わせ、その一致量を、治療効果を推定するための判定基準として使用することが可能なことは明白である。
【0051】
もちろん、画像情報Aと画像情報Bを重ね合わせる際に、双方を、同一縮尺及び同一方向に重ね合わせることが、判定の正確さを期すために不可欠なことは言うまでもない。また、画像情報Aと画像情報Bとはデーター化されているので、数値に置換えることができ、前記一致量も数値で表すことができる。このことは、人の判断による、あいまいさを排除し、判定の正確さを増すことに寄与する。
【0052】
以上の説明により明らかなように、本発明の治療用細胞の体内分布の把握方法は、治療前の患者に、FDGで標識された医薬品を投与し、当該患部の位置をPET−CTを用いて画像化した画像情報Aと、患者の治療用細胞をFDGにより標識し、これを患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療し、前記治療用細胞の治療中の体内分布をPET−CTを用いて画像化した画像情報Bとを重ね合わせ、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と、前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量により、治療効果を推定するので、その治療効果を早期に確認及び検証することが可能となり、加えて、画像情報Aには、がん細胞の位置、即ち、病巣の位置を特定する情報が含まれており、患者の現状の容態の把握や、治療方法及び治療方針を決定するためにも供され、また、画像情報Bには、治療中の治療用細胞の体内分布位置を特定する情報が含まれているが、これを解析することにより、患者の治療中の容態の把握や、治療方法及び治療方針の妥当性を検証するためにも供される。
【0053】
さらに、画像情報Aと画像情報Bとはデーター化されているので、数値に置換えることができ、前記一致量も数値で表すことができるので、人の判断による、あいまいさを排除し、判定の正確さを増すことに寄与する治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することができる。
【0054】
さらに加えて、本発明は、患者の体内に戻す時の治療用細胞に含有するFDGの総放射線量Vを、PET−CTがFDGの観測を開始するために必要な感知限界量Lと、FDGが患者の体内に注入されてから、PET−CTにより、画像化が開始されるまでの待機時間Tを用いた数式により、明確に規定しているので、患者の事情に合わせたVを、容易且つ適切に選定することを可能とし、患者に対する不必要な放射線被爆を防止することのできる、人体に安全な治療用細胞の体内分布の把握方法を提供することを可能としている。
【0055】
よって本発明は、従来の問題点を解消し、細胞療法において、その治療効果の有効性を確認及び検証するための適切な、治療用細胞の体内分布の把握方法であり、医療的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】 本発明の一実施例における治療用細胞の体内分布の把握方法を示すフローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体外に摘出された細胞に当該患部治療能力を備えさせる処置を施し治療用細胞とし、前記治療用細胞を前記患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療せしめ、その治療効果を推定するための治療用細胞の体内分布の把握方法において、治療前の患者に18フルオロデオキシグルコース(FDG)を含有させることにより標識された医薬品を投与し、当該患部の位置を特定するためにPET−CTを用いて前記医薬品の体内分布を画像化したものを画像情報Aとして保存し、前記治療用細胞に18フルオロデオキシグルコース(FDG)を含有させることにより標識し、この標識された治療用細胞を前記患者本人の体内に戻すことにより当該患部を治療せしめ、その治療効果を推定するためにPET−CTを用いて治療用細胞の体内分布を画像化したものを画像情報Bとして保存し、前記画像情報Aと前記画像情報Bを同一縮尺及び同一方向に重ね合わせ、前記画像情報Aに表示されている当該患部の位置と前記画像情報Bに表示されている治療用細胞の体内分布位置との一致量が多いほど治療効果が大であると判定することにより治療効果を推定することを特徴とする治療用細胞の体内分布の把握方法。
【請求項2】
前記治療用細胞に18フルオロデオキシグルコース(FDG)を含有させることにより標識する方法が、被標識治療用細胞を遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収する処置と、前記で得られた治療用細胞に18フルオロデオキシグルコース(FDG)を混入して良く攪拌する処置と、前記で得られた治療用細胞を、空気に対してCO2が5%濃度の雰囲気中で、37℃で所定時間培養する処置と、前記で得られた治療用細胞に4℃に冷却されている生理食塩水を混合し、良く攪拌してから遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収する処置と、前記で得られた治療用細胞に4℃に冷却されている生理食塩水を混合し、4℃で所定時間保つ処置と、前記で得られた治療用細胞を遠心分離して上清を除去し、沈殿した治療用細胞を回収し、これを生理食塩水に浮遊させる処置とを有することを特徴とする請求項1に記載の治療用細胞の体内分布の把握方法。
【請求項3】
前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻す時の前記治療用細胞に含有する18フルオロデオキシグルコース(FDG)の総放射線量をV(mCi)とし、前記標識された治療用細胞を患者本人の体内に戻してからPET−CTを用いて治療用細胞の体内分布の画像化を開始するまでの待機時間をT(分)とし、前記治療用細胞に含有する18フルオロデオキシグルコース(FDG)の総放射線量の観測を開始するために必要な前記PET−CTの前記総放射線量の感知限界量をL(mCi)としたとき、前記V、L、Tの関係を
V≧L/{0.5の(T/110)乗}
であって、旦つ
45≦T≦60
とすることを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の治療用細胞の体内分布の把握方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−133205(P2006−133205A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351979(P2004−351979)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(504445943)セルジェン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】