説明

治療計画装置

【課題】放射線治療計画装置において線量分布計算を高速化する。
【解決手段】第一の演算装置と第二の演算装置を備え、照射対象となる標的のサイズや計算解像度の情報から、どちらの演算装置が計算を行った方が高速に行えるかを判断し、その演算装置が計算を実行する。また、どちらの演算装置が使用されているのかを画面に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線を用いた治療計画装置を対象とする治療計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞を各種放射線を照射することで壊死させることを目的とする放射線治療は、近年広く行われつつある。放射線治療に用いられる放射線としては最も広く利用されているX線だけでなく、陽子線や炭素線に代表される粒子線を使った治療も行われている。
【0003】
放射線治療は、標的となる腫瘍細胞に対して放射線を照射することによって治療を行うが、過度の照射や照射量の不足は、腫瘍以外の正常組織への副作用や腫瘍の再発に結びつく可能性がある。そのため、腫瘍領域に対しできるだけ正確に指定した線量の放射線を集中して照射することが求められ、実際の照射前に治療計画装置を用いて計画を作成する過程が極めて重要となる。
【0004】
治療計画装置はCT画像等から得られる情報を基に、患者体内での線量分布を数値計算によりシミュレートする。操作者は治療計画装置の計算結果を参照しながら、ビームを照射する方向やビームエネルギー,コリメータ形状等の照射条件を決定する。
【0005】
可能な限り腫瘍領域にのみ高線量領域を集中させるために、照射技術の高度化が進んでいる。例えば、IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)と呼ばれるX線を用いた治療では、コリメータ形状を変化させつつ多方向から照射することで、複雑な形状の標的領域に照射した場合でも、周辺の正常組織へ照射される線量を最小限に抑えることができる。粒子線を用いた治療でも、ビーム強度を調整した細いビームを多数照射することで、標的領域に一様な線量分布を形成するスキャニング照射と呼ばれる手法も実現されている。
【0006】
こうした高度な照射方法では複雑な形状の腫瘍にも対応できる反面、細かく制御された放射線による線量分布を正確に再現するために、治療計画装置が必要とする計算量も増大する傾向にある。また、IMRTやスキャニング照射では照射条件選択の自由度が高く、比較のために一つの腫瘍に対しても様々な条件で計画を立案することも多く、ユーザの負担を軽減するためにも計算時間の短縮への要求は高い。
【0007】
治療計画装置の演算処理装置としては、汎用計算機を用いることが多い。処理能力は年々増大しているものの、ユーザにとって未だ十分な速度とは言えない。これを解決するために、例えば非特許文献1のように大規模な並列計算機を用いる方法もある。しかしながら、コストやデータ転送の面などから広く使われるには至っていない。
【0008】
一方で、汎用計算機の範囲内で処理能力を大幅に向上させる方法として、近年はGPU(Graphics Processing Unit)の使用が拡がっている。グラフィックス用途に開発が続けられ、近年大幅に性能が向上しているハードウエアであるが、これをグラフィックス以外の一般的な問題に適用しようとするGPGPU(General Purpose GPU)の研究も盛んになっている。非特許文献2では、GPGPUをX線治療計画装置に用いることが提案されている。この方法は汎用の画像処理向けに開発された演算装置を利用できるため、コストも低く抑えることが可能であり、またハードウエア自体のサイズも小さくこれまで利用してきた汎用計算機に装着することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】斎藤公明 他、「放射線治療の高度化のための超並列シミュレーションシステム」、情報処理 48(10) (2007) 1081-1088
【非特許文献2】Xuejun Gu et al.“GPU-based ultra-fast dose calculation using a finite pencil beammodel”,Phys. Med. Biol. 54 (2009) 6287-6297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、GPUは画像処理向けに開発されたハードウエアであるため、従来の計算機環境と比較すると、GPUで処理するためのデータを保持する記憶容量が少ない。従来のGPUを用いて治療計画装置で扱う容量のCTデータをそのまま処理すると、容量を超過してしまう可能性も大きい。また、従来の計算機の演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)の使用するメモリと、GPUの使用するメモリとの間に生じる転送時間も考慮に入れないと、場合によっては却って処理時間が増大してしまう可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、放射線治療を行うための治療計画を作成する治療計画装置において、入力装置と、前記入力装置の入力結果に基づき演算処理を行い、治療計画情報を作成する第一の演算装置および第二の演算装置と、前記治療計画情報を表示する表示装置とを備え、前記第一の演算装置は、前記入力された結果から、治療計画情報を作成する演算装置を上記二つの演算の中から選択することを特徴とする治療計画装置により解決できる。
【0012】
演算装置の選択には、標的となる領域のサイズ等が判断基準として用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、治療計画装置の線量計算速度を高速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適な一実施形態である治療計画装置を用いて治療計画が立案されるまでの流れを表す図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態である治療計画装置の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の好適な一実施形態により治療計画が立案されるまでの流れを表す図である。
【図4】CTデータのスライス内における標的領域の入力を説明する図である。
【図5】放射線照射時の計算に必要な領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
本発明の一実施形態である治療計画装置を使用して治療計画を立案するまでの流れを、以下に図を用いて説明する。
【0017】
まず、治療計画用の画像が撮像される。治療計画用の画像取得装置として最も一般的に利用されるのはCT装置である。CT装置は、患者の複数の方向から取得した透視画像から、3次元のCTデータを再構成する。CT装置(図示せず)により撮像されたCTデータは、図2のデータサーバ209に保存されている。治療計画装置201は、このCTデータを利用する。
【0018】
撮像されるCTデータの解像度は、通常は断層面内で1mm以下、体軸方向には数mmであるが、近年利用の広まっている検出器を多列化した装置などでは、どの方向にも1mm以下の解像度を持った画像を撮像することも可能である。
【0019】
治療計画装置201の構成を図2、治療計画立案の流れを図3により示す。治療計画装置201は、図2のように入力装置202,表示装置203,メモリ204、主たる第1の演算処理装置(演算処理装置A)205,補助的な第2の演算処理装置(演算処理装置B)206,演算処理装置Bに付随するメモリ207,通信装置208を備える。入力装置202は、操作者(医療従事者など)が情報を入力するための機器(キーボードやマウスなど)である。演算処理装置A205は、入力装置202,表示装置203,メモリ204,通信装置208及び演算処理装置B206に接続される。演算処理装置B206は、メモリ207に接続される。演算処理装置B206とメモリ207は、同一の基盤210上に搭載され、装置としては一体として扱われる。演算処理装置A205は、治療計画装置201に必要なすべての処理を行う必要があるため、汎用的な処理が可能なCPUのような装置とする。なお、演算処理装置A205は、治療計画情報を作成する機能及びビームの線量分布を演算する演算装置として演算処理装置A205又は演算処理装置B206のいずれかを選択する機能を備える。ここで、治療計画情報を作成する機能とは、患者の標的領域に対する照射条件の選択、及び標的領域におけるビームの線量分布を演算する機能を含む。演算処理装置B206は、高速に線量分布の計算が可能な装置である必要がある。本実施例では、演算処理装置B206は、並列処理により高速演算が可能なGPUを想定する。ここで、演算処理装置B206は、線量分布を演算する演算処理装置として演算処理装置A205から選択された場合、該当する患者の標的領域のビームの線量分布を演算する機能を有する。通信装置208が、治療計画装置201の外部に設置されたデータサーバ209とネットワークを介して接続されている。
【0020】
まず、操作者である技師(または医師)が入力装置202から治療計画開始の指令信号を入力すると、治療計画の立案が開始される(ステップ301)。治療計画装置201は、データサーバ209から対象となる患者のCTデータを読み込む。すなわち、治療計画装置201は、通信装置207に接続されたネットワークを通じて、データサーバ209からCTデータをメモリ204上にコピーする。
【0021】
CTデータの読み込みが完了すると、操作者は表示装置203に表示されたCTデータを確認しながら、入力装置202に相当するマウス等の機器を用いて、CTデータのスライスごとに標的として指定すべき領域を入力する。
【0022】
標的の各スライスで入力が終わると、操作者は入力した領域を装置に登録する(ステップ302)。登録することで、操作者が入力した領域は3次元の位置情報としてメモリ204内に保存される。照射線量を極力抑えるべき重要臓器が標的領域の近傍に存在するなど、他に評価,制御を必要とする領域がある場合、操作者はそれら重要臓器等の位置も同様に入力装置202から入力する。入力された重要臓器の位置情報などはメモリ204に記憶される。図4は操作者が表示装置203において、CTデータのあるスライス401上で標的領域402を入力した状態を例として示している。
【0023】
次に、操作者は照射条件を入力装置202から入力する(ステップ303)。標的領域402に照射すべき線量値や、照射方向等の必要な情報を入力する。これらに加え、計算上の様々なパラメータも入力装置202から設定できる。例えば、計算解像度は規定値が定められているが、操作者はこれを変更し任意の値を指定することができる。計算時間の関係から、通常の規定値はCT画像自体の解像度(断層面内で1mm以下)よりも粗く設定されている。
【0024】
照射条件の中の多くの情報は、操作者が入力しなくても、予め規定値が設定されているか、治療計画装置201により自動で決定されることもできる。治療計画の立案に必要なすべての情報の設定が完了すると、ステップ303が終了する。
【0025】
ステップ303で入力したデータを基に、治療計画装置201による自動計算が開始される(ステップ304)。このステップの中で、治療計画装置201の特長である演算処理装置の判定を行う。その流れを図1に示す。初めに演算処理装置A205は、ステップ303における操作者による入力や、自動算出によって得られた照射方向,計算解像度などの照射条件を設定する(ステップ101)。
【0026】
続いて、演算処理装置A205は、あらかじめ指定されたパラメータの値を算出し、その値に基づいて本ステップの演算を演算処理装置Aと演算処理装置Bのどちらが行うのかを判定する(ステップ102,103)。判定に用いられる具体的なパラメータは、本実施例では記憶容量と、並列処理数とする。それぞれの算出方法と、判定基準に関して以下に説明する。
【0027】
まず、記憶容量に関して説明する。前述した通り、演算処理装置B206(GPUを想定)のための記憶容量、すなわち基盤210上に演算処理装置B206と共に搭載されているメモリ207の容量は、演算処理装置A205(CPUを想定)の記憶領域、メモリ204の容量と比べて小さい。CTデータは3次元の画像データのために必要とする容量も大きく、メモリ207の容量を超過する可能性があるが、実際に計算に必要とされる記憶容量は条件により異なるため、これを演算処理装置A205が以下の様に算出する。
【0028】
計算に必要な容量は、計算に必要な領域サイズに関連する。線量分布の計算には、CTデータすべてを用いる必要はなく、計算の対象とする標的周辺部の領域に限定して行う。例えば、図5は計算に用いるCTデータの状態を示す図である。標的領域402の中心501が放射線照射装置の照射中心(アイソセンタ)に設置されている。点501を中心として、計算上の線源502から放射線が照射される。
【0029】
治療計画装置201は決められた方向から照射された放射線が体内に入射してから標的に到達するまでの領域においてエネルギーの減衰や散乱量を計算しなければならない。ここで計算に必要な領域は、標的領域402を十分に覆うように設定された四角錐形状の領域(以下、計算領域)503である。領域内すべての点での線量値を計算することはできないので、実際は計算領域503を離散的な計算点に分割する。隣り合う計算点504と計算点505の間の距離が先に指定した計算解像度である。
【0030】
続いて、並列処理数に関して説明する。GPUが高速に処理を行える理由は、CPUでは逐次的に行っていた処理を単純なプロセスに分解し、それらを並列にまとめて処理する点にある。この時に並列に処理を行うことのできるプロセスの数が、計算速度に影響を及ぼす。GPUの種類にもよるが、通常は数千以上のプロセスを同時に走らせることで効率的に処理を行うことが可能である。
【0031】
並列化させるプロセスは計算内容により様々だが、ここでは放射線による線量分布計算に関して説明する。線量分布の計算において、最も広く使われている方法にペンシルビームアルゴリズムがある。この方法では、実際に照射されるビームを細かく分割し、個々のビームの形成する分布を別々に算出する。この方法により、標的内部の不均一な構造を考慮に入れた線量分布が計算可能となる。
【0032】
並列化の一例として、このペンシルビームアルゴリズムが採用されている場合、個々のペンシルビームごとの演算を並列して実行すればよい。この方法であれば、並列処理可能なプロセス数は標的領域内に確保できるペンシルビームの本数となる。図4の例では、線源502からの各計算点(例えば点504や点505)に向かってペンシルビームを用意する。結果、ペンシルビームの本数は、線源サイズと計算解像度に依存する。本実施例の演算処理装置A205は、これらの値を基に並列処理数を算出する。
【0033】
以上の計算から、演算処理装置A205は必要な記憶容量Vと並列処理数Nを求める。演算処理装置A205は、メモリ204に記憶されているテーブルを参照して、これらの値から線量分布計算を担当させる演算処理装置(演算処理装置A205又は演算処理装置B206)を判定する(ステップ103)。例えば、記憶容量Vに関しては、メモリ207の容量等、治療計画装置に搭載されているハードウエア構成に従って上限VUの値がテーブルに保持されている。同様に、並列処理数Nに関しては十分に効率的に並列処理が行える数の下限値NLの値がテーブルに保持されている。照射条件に従って算出したVとNの値をこれらとを演算処理装置A205が比較することになる。
【0034】
比較した結果、V<VUの条件とNL<Nの条件を同時に満たした時にのみ、線量分布計算の処理は演算処理装置B206が分担すると判定される。計算に必要なCTデータ等の情報は、演算処理装置B206に転送され、計算が実行される(ステップ106)。どちらか、あるいは両方の条件を満たさなかった場合は、そのまま演算処理装置A205により、線量分布計算が実行される(ステップ104)。計算が終了すると、結果はメモリ204に保存される。演算処理装置B206で計算が実行された場合には、メモリ207に格納されている結果が演算処理装置A205側のメモリ204へ転送される(ステップ105)。
【0035】
ステップ103で示した判定が行われることで、データサイズの大きな計算対象においても、メモリ207の容量を超過するようなデータが転送され、計算が停止することを防止することができる。また、並列処理数が少ない対象の場合に演算処理装置B206を用いると、演算処理装置A205と演算処理装置B206との間の転送に時間を要することもあり、従来通り演算処理装置B206を用いて計算を行うよりも却って遅くなることを防止できる。
【0036】
なお、本実施例においては、ステップ103における判定のためのパラメータとして記憶容量と、並列処理数を選択したが、これらのパラメータは変更してもよい。例えば、記憶容量が大きい場合には、計算領域が大きいため、並列処理数も増える傾向にあるので、記憶容量のみを判定パラメータとしても十分に機能する。この場合は、算出された記憶容量Vに上限VUと下限VLの値がテーブルに保存されており、VL<V<VUの条件を満たす時に線量分布計算の処理は演算処理装置B206が分担すると判定される。
【0037】
また、ステップ103による判定結果は、表示装置203上に表示され、操作者はどちらの演算処理装置が選択されたのかを容易に認識することができる。判定は上記のように自動で行われるが、予め定められたパラメータだけでは判断が難しかった場合には、操作者により直接指定することも可能である。治療計画装置201は、そのための入力画面(図示せず)を表示装置203上に表示する。
【0038】
最終的に、いずれかの演算処理装置により線量分布が計算されると、治療計画装置201はその結果を表示装置203に表示する。操作者は、その表示により意図した結果が得られているのかを確認する(ステップ105)。結果に問題がなければ、そこで治療計画の立案作業は終了する(ステップ107)。修正した点がある場合は、ステップ103に戻り、照射条件を変更することで再計算を行う。これを操作者が妥当であると判断できる結果が得られるまで繰り返す(ステップ106)。
【符号の説明】
【0039】
101〜105 演算処理装置Aによる処理内容
106 演算処理装置Bによる処理内容
201 治療計画装置
202 入力装置
203 表示装置
204,207 メモリ
205 演算処理装置A
206 演算処理装置B
208 通信装置
209 データサーバ
210 演算処理装置B206とメモリ207を搭載する基盤
301〜307 治療計画装置を用いた計画立案の流れ
401 CTデータのスライス
402 標的領域
501 アイソセンタ
502 線源
503 計算領域
504,505 計算点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療を行うための治療計画を作成する治療計画装置において、
入力装置と、
前記入力装置の入力結果に基づき演算処理を行い、治療計画情報を作成する第一の演算装置と、
前記入力装置の入力結果に基づき演算処理を行い、標的領域における線量分布を演算する第二の演算装置と、
前記治療計画情報を表示する表示装置とを備え、
前記第一の演算装置は、前記入力装置から入力された結果に基づいて、標的領域の線量分布を算出する演算装置を前記第一の演算装置又は第二の演算装置のいずれかを選択して治療計画情報を作成することを特徴とする治療計画装置。
【請求項2】
前記第一の演算装置がCPUであり、第二の演算処理装置がGPUであることを特徴とする治療計画装置。
【請求項3】
前記演算装置は、前記演算装置の選択の結果を前記表示装置に表示することを特徴とする請求項1または2に記載の治療計画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−80983(P2012−80983A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228067(P2010−228067)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】