説明

治療食用の低蛋白人工米とその製造方法

【課題】 十分に低蛋白かつ蛋白質含有量が一定した高品質で、食味がより向上した、さらには人体によいものとする。
【解決手段】 粳米粉を酵素、乳酸菌の少なくとも1つで処理して蛋白質が所定の低含有量に調整し、この粳米粉と蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉とを適宜な割合で、セリシンを添加して混合し、この混合したものを米粒状に成形することにより、上記の目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は治療食用の低蛋白人工米とその製造方法に関し、蛋白質制限を必要とする治療を受ける場合に好適な治療食用の低蛋白人工米とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】蛋白質制限を必要とする治療は、糖尿病や腎臓病を始めとして種々な代謝異常が知られている。
【0003】これらの治療食として、低蛋白な食品材料や食品が提供され、これを用いて食事療法をすると治療効果が上がる臨床例が多く出てきている。
【0004】低蛋白な食品材料としては、従来、蛋白質が0.4%と格段に低い低蛋白穀物粉が市販されている。このものは、コーン澱粉と小麦澱粉とを混合したものである。組成は、例えば、水分13.0%、蛋白質0.4%、脂質0.4%、糖質85.9%、繊維0.1%、灰分0.2%であり、エネルギーは351Kcalである。この低蛋白穀物粉は、熱湯と所定の割合で混ぜ合わせて、うどん、そば、のような生地、あるいは餃子の皮の生地に用いて、低蛋白食品を作るのに利用される。
【0005】代謝異常のフェニールケトン尿症は、体内の中にフェニールアラニンと言うアミノ酸がたまり、これが人の健康上で種々に影響する。このアミノ酸は、蛋白質が分解してできるので、食事中の魚や肉、卵を普通よりも減らす必要がある。しかし、フェニールアラニンは、人の成長に欠かせない大切なアミノ酸であるので、血液中のフェニールアラニン量が多すぎても、少なすぎてもいけない。そこで、低蛋白穀物粉を用いて前記のような生地を作るにも含有量が調整される。このような調整値は医師や栄養士によって適正に作成されている。
【0006】また、低蛋白食品としては澱粉米が市販されている。これは、前記のような穀物澱粉を蛋白質の必要な制限度合いに応じて、100%、75%、50%、25%と用い、100%未満のものには搗精米粉を混合し、米粒状に成形したものである。搗精米は粳米の蛋白質の含有量が多い表面層を、酒米のように搗精して全体の50%程度削り取ったものであり、低蛋白質化しているが味は穀物澱粉よりも良く食べやすい。
【0007】ところが、上記のように搗精米を用いるのでは、蛋白質の多い表面層を搗精率50%以上に削り取っていても、残りの部分の蛋白質の含有量は4%以上と比較的多いので、これを考慮すると穀物澱粉との混合比を抑える必要があるので、味の改良になり難い上、搗精米の蛋白質の含有量にバラツキがあるので、穀物澱粉との混合比を設定しても、最終製品である治療食用の低蛋白人工米としては、蛋白質の含有量が特定せず、治療上使い難い。
【0008】そこで、本出願人は、このような問題を解消する治療食用の低蛋白人工米とこれの製造方法を先に提案した。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、先の提案のものでも、自然米に比べればなお食味は落ちる。食味のうち特に旨味と弾力性とが不足する。そこで、これらの問題を解決すべくさらなる研究と実験を重ねたところ、ある添加物によって食味が大きく改善されることを知見した。
【0010】本発明の目的は、そのような新たな知見に基づき、十分に低蛋白かつ蛋白質含有量が一定した高品質で、食味がより向上した、さらには人体によい、治療食用の低蛋白人工米とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の治療食用の低蛋白人工米は、蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉と、蛋白質が所定の低含有量に調整された粳米粉とが適宜な割合でセリシンを添加して混合され、米粒状に成形されていることを特徴とするものである。
【0012】このような構成では、穀物澱粉に混合している粳米粉が、蛋白質が所定の低含有量に調整されたものであるので、低蛋白な分だけ、混合量を多くして味の良いものとすることができるし、調整された蛋白質の含有量が一定しているので、治療上の蛋白質の制限度合いに正確に一致した食事療法ができる高品質なものとなる。特にセリシンは形成された人工米の弾力性を高めるとともに旨味を与える味付け効果を発揮するので食味がさらに向上し自然米により近づく。
【0013】セリシンは高温、高圧水により抽出またはおよび溶解されたものであると、有機溶媒を用いて抽出あるいは溶解されたものに比し、人体への影響がなく食品衛生上好適である。
【0014】エキスなどの液体、粉体の味付け料によって味付けされていると、低蛋白人工米の旨味に好みの味が負荷したものとなってさらに美味しく、かつ食べやすいものとして提供することができる。
【0015】本発明の治療食用の低蛋白人工米の製造方法は、粳米粉を水などで低蛋白処理して蛋白質が所定の低含有量に調整し、この粳米粉と蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉とを適宜な割合で、セリシンを添加して混合し、この混合したものを米粒状に成形することを特徴とするものである。
【0016】このような構成では、粳米を粉にして水などで低蛋白処理することにより、粳米に含有する蛋白質を効率よく、かつ、処理時間等の操作に比例して低蛋白化できるので、高精度に所定の低含有量に調整することができ、従来からの所定の穀物澱粉と適宜な割合で、セリシンを添加して混合し、上記のような特徴のある治療食用の低蛋白人工米を能率よく安価に製造することができる。
【0017】味付けを行うには、エキスなどの液体、粉体の味付け料を混合し、あるいは塗布し、あるいは含浸させるこによって達成することができる。
【0018】
【実施例】以下、本発明の治療食用の低蛋白人工米と、その製造方法につき、実施例を示しながら説明する。
【0019】蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉と、蛋白質が所定の低含有量に調整された粳米粉と、セリシンとで、治療食用の低蛋白人工米が構成されている。
【0020】穀物澱粉は上記した従来から市販されているものを採用することができる。例えば、有限会社 日本療食 製のものがある。これの組成は、上記した通りのもので、蛋白質が0.4%と格段に低い低蛋白穀物粉が市販されている。このものは、コーン澱粉と小麦澱粉とを混合したものである。組成は、例えば、水分13.0%、蛋白質0.4%、脂質0.4%、糖質85.9%、繊維0.1%、配分0.2%であり、エネルギーは351Kcalである。
【0021】一方、蛋白質が所定の低含有量に調整された粳米粉はまだ提供されていないが、本発明の治療食用の低蛋白人工米の製造方法によって実現し、蛋白質の含有量を0.4%以下に調整することができる。味を良くする上で0.4%程度の含有量のものを採用するのが好適である。しかし、セリシンは低蛋白人工米に旨味と弾力性を与えて食味を格段に向上させることができるので、蛋白質の含有量を0.4%未満であっても、本出願人が先に提案した低蛋白人工米よりも食味が向上する。
【0022】このように蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物粉と粳米粉とが適度な割合で混合され、米粒状に成形されたもので、混合比率によって治療上の蛋白質の制限度合いに合った各種の低蛋白人工米を提供することができる。具体的には、混合比率を各種に設定した治療食用の低蛋白人工米を提供して、必要なものを選択し使用されるようにする。例えば粳米粉の穀物澱粉に対する混合比率を、25%、50%、75%とする。
【0023】また、穀物澱粉に混合している粳米粉が、蛋白質が所定の低含有量に調整されたものであるので、低蛋白な分だけ、混合量を多くして、通常の粳米に近い味の良いものとすることができるし、調整された蛋白質の含有量が一定しているので、治療上の蛋白質の制限度合いに正確に一致した食事療法ができる高品質なものとなる。
【0024】セリシンは粉末や溶液で提供されており、それら市販のものを用いてもよいが、その純度は1〜100%のものまである。前記食味を改良するにはセリシンの成分が所定比率に設定されればよい。これを蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物粉と粳米粉とが混合されたものとの間の濃度としてみると、0.01〜3%程度で有効であり、経済性は別として10%程度まで添加して食味が向上する。また、保水性が向上し日持ちがよくなる。
【0025】また、セリシンは高温、高圧水によって抽出またはおよび溶解されたものであると、有機溶媒により抽出またはおよび溶解されたもののように人体への影響を懸念しなくてよく食品衛生上好適である。この意味で無菌飼育された養蚕生産物から抽出またはおよび溶解したものが好適である。
【0026】ところで、高温、高圧水は、繭、生糸、フィブロイン、セリシン、脱皮殻、蛹、冬虫夏草の少なくとも1つを含む養蚕生産物を高温、高圧の水に浴することにより、これら養蚕生産物を溶解させることができる。水は120℃〜の温度範囲として溶解が明らかに起き、温度条件、圧力条件の違いによって溶解時間に差が出る。180〜220℃程度の温度範囲とすると処理装置や処理時間など経済性の面で好適である。180〜220℃のような高温水は例えば22MPa前後の圧力で得られ、いわゆる亜臨界水が好適である。しかし、超臨界水でもよい。これらの高温、高圧の水による溶解では、その温度および圧力、処理時間などの溶解条件の違いによって、養蚕生産物の溶解度を操作することができる。このような操作では、例えば養蚕生産物を糸に分解し、またアミノ酸の鎖をどのような分子、成分単位にも切ることができる。これを段階的に進めると、特定の単位のものを順次に抽出することができ、セリシンも得られる。もっとも、蚕の糞、屑繭、絹製品の生地、端切れ、屑糸なども溶解対象としての養蚕生産物に含めてよい。
【0027】次に、上記のような治療食用の低蛋白人工米の製造方法について説明すると、粳米粉は水、酸、酵素、乳酸菌などにさらして低蛋白処理し蛋白質が所定の低含有量になるように調整する。具体的には、用いる粳米粉は、粳米を製粉し、これを100メッシュの篩を通したものとする。このようにすると、粳米のタンパク細胞がよく破壊され、酵素や乳酸菌で処理することによって蛋白質のほぼ全てを効率よく数時間で抽出して粳米粉から除去することができるし、処理時間等の操作に比例して除去できるので、蛋白質を所定の含有量に調整することができる。
【0028】低蛋白処理を水や酵素や乳酸菌で行うと、従来酸洗いにて行っていた場合のような、万一にも在留した酸が人体に影響するような懸念が解消する。酵素や乳酸菌は水洗いして容易に除去でき、これが食味に影響するようなこともない。水洗い後の低蛋白な粳米粉は脱水し、50℃以下の低温で乾燥させる。乾燥は低温の方がよく、自然乾燥が望ましい。
【0029】以上のように、蛋白質が所定の含有量、例えば4%程度になるように調整した粳米は、これを乾燥後、あるいは所定の水分状態に脱水した状態で、蛋白質が所定の低含有量に調整された前記穀物澱粉と適宜な割合にして、セリシンを添加し、これらを混練することにより混合し、この混合したものを米粒状に成形する。この成形にはエクストクルーザ(株式会社 神戸製鋼所製)を用いる。
【0030】この成形のための成形機は、各種の形状のパスタを成形するものなど既存のものを採用することができる。成形後の人工米は、60℃以下の低温で水分10%程度まで乾燥させるのが好適である。この場合も乾燥は低温の方がよく、自然乾燥が望ましい。
【0031】このような製造方法によれば、粳米を粉にして水などで低蛋白処理することにより、食品衛生上の問題が全くなしに粳米に含有する蛋白質を効率よく、かつ、処理時間等の操作に比例して低蛋白化できるので、高精度に所定の低含有量に調整することができ、従来からの所定の穀物澱粉と混合して、前記本発明の高品質で食味のよい治療食用の低蛋白人工米を能率よく安価に製造することができる。
【0032】また、水によると食品衛生上全く問題がないし、酸、酵素、乳酸菌による場合のような食品衛生上や食味の上での害を無くすための除去操作が不要になる利点がある。
【0033】なお、人工米はスープ、エキスなどの液体、粉体の味付け料によってカレー味、ビーフ味、ポーク味など種々に味付けしたものとすると、さらに美味しく食べやすいものとすることができ、それらを混合、塗布または含浸させて簡単に行える。エキスなどは蛋白質も濃縮していると考えられるが、人工米が低蛋白になっている分余裕があるのでそのまま利用したものを食せる対象者も多い。エキス類の蛋白質を抑えるには液体の状態で固形物や蛋白質をろ過して所定割合除去するようにしてもよい。場合によっては所定の味成分のエッセンスを利用したり、味付けに代えて香料による香りつけを行って食べやすくすることもできる。
【0034】
【発明の効果】本発明の低蛋白人工米によれば、穀物澱粉に混合している粳米粉が、蛋白質が所定の低含有量に調整されたものであるので、低蛋白な分だけ、混合量を多くして味の良いものとすることができるし、調整された蛋白質の含有量が一定しているので、治療上の蛋白質の制限度合いに正確に一致した食事療法ができる高品質なものとなる。特にセリシンは形成された人工米の弾力性を高めるとともに旨味を与える味付け効果を発揮するので食味がさらに向上し自然米により近づく。
【0035】セリシンは高温、高圧水により抽出またはおよび溶解されたものであると、有機溶媒を用いて抽出あるいは溶解されたものに比し、人体への影響がなく食品衛生上好適である。
【0036】また、本発明の低蛋白人工米の製造方法によれば、粳米を粉にして低蛋白処理することにより、粳米に含有する蛋白質を効率よく、かつ、処理時間等の操作に比例して低蛋白化できるので、高精度に所定の低含有量に調整することができ、従来からの所定の穀物澱粉と適宜な割合で、セリシンを添加して混合し、上記のような特徴のある治療食用の低蛋白人工米を能率よく安価に製造することができる。
【0037】さらに、低蛋白になった分だけ蛋白知るの量に余裕を持って味付けをしさらに美味しく食べやすいものとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉と、蛋白質が所定の低含有量に調整された粳米粉とが適宜な割合でセリシンを添加して混合され、米粒状に成形されていることを特徴とする治療食用の低蛋白人工米。
【請求項2】 セリシンは高温、高圧水により抽出またはおよび溶解されたものである請求項1に記載の治療食用の低蛋白人工米。
【請求項3】 エキスなどの液体、粉体の味付け料によって味付けされている請求項1、2のいずれか1項に記載の治療食用の低蛋白人工米。
【請求項4】 粳米粉を水などで低蛋白処理して蛋白質が所定の低含有量に調整し、この粳米粉と蛋白質が所定の低含有量に調整された穀物澱粉とを適宜な割合で、セリシンを添加して混合し、この混合したものを米粒状に成形することを特徴とする治療食用の低蛋白人工米の製造方法。
【請求項5】 セリシンは高温、高圧水により抽出またはおよび溶解されたものを用いる請求項4に記載の治療食用の低蛋白人工米の製造方法。
【請求項6】 エキスなどの液体、粉体の味付け料を混合、塗布または含浸させて味付けを行う請求項4、5のいずれか1項に記載の治療食用の低蛋白人工米の製造方法。

【公開番号】特開2002−262792(P2002−262792A)
【公開日】平成14年9月17日(2002.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−66165(P2001−66165)
【出願日】平成13年3月9日(2001.3.9)
【出願人】(591130537)株式会社両双 (9)
【Fターム(参考)】