説明

法医学的試料から精子核酸を回収するための方法

少なくとも精子細胞および上皮細胞の細胞、ならびに細胞外不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞から核酸を選択的に回収するための方法を提供する。この方法は、試料を容器に導入することと、残存する試料成分から細胞を隔離することと、隔離の前後いずれかにおいて洗浄溶液で細胞を洗浄することと、細胞を保持しながら容器から不純物含有細胞懸濁媒体を除去することと、第1の細胞型の細胞を選択的に溶解することと、溶解した細胞から核酸を単離することとを必要とする。第2の細胞型から核酸を回収する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本願は、米国特許法§119(e)のもと、2007年7月23日に出願された米国仮特許出願第60/961,734号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、細胞および非細胞不純物を含有する試料から細胞を単離し、さらに特定の細胞型から核酸を単離する分野に関する。
【0003】
より具体的には、本発明は細胞外不純物および少なくとも1種のその他の型の混入細胞(例えば、上皮細胞)を含有する試料から精子細胞を単離し、法医学的な目的を含む様々な目的で精子細胞および非精子細胞からDNAを回収する分野に関する。
【背景技術】
【0004】
性的暴行の証拠の法医学的なDNA分析には、精子細胞のDNAおよび上皮細胞などのその他の細胞のDNAの分析が関与することが多い。精子細胞は通常、粘膜にスワブを擦りつけることによって強姦の被害者から得られる。被害者から得られた試料は、精子および上皮細胞の混合物を含有することが多い。試料中において上皮細胞の数は、精子細胞よりも少なくとも一桁多いので、精子DNAを精製するとき上皮細胞は精子細胞DNAの汚染の原因となり得る。したがって、分析前に、精子細胞および上皮細胞、または精子DNAおよび上皮DNAをできる限りきれいに分離することがしばしば望ましい。精子細胞および上皮細胞からのDNAの分離および単離は、法医学的試料から加害者を同定し、加害者と被害者を関連付けるのに不可欠なステップである。
【0005】
スワブから精子を精製する標準的方法は、分画抽出をベースにしている。被害者のDNAから精子DNAを分離することによって、曖昧さが取り除かれ、DNA分析が容易になり、強姦事件における加害者のDNAプロファイルの容易な分析が可能になる。分画抽出は通常、精子細胞および上皮細胞の分離に使用されるが、標準的プロトコールは時間と労力がかかり、精子細胞が溶解する前に上皮細胞を溶解することを必要とする。
【0006】
一般的に、最初に細胞を法医学的標本から再懸濁し、次いで被害者の上皮細胞をプロテイナーゼKおよびSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する溶液で選択的に消化する。完全な精子は、遠心し、注意深く上清を除去し、精子ペレットを念入りに洗浄することによって、可溶化して混入したDNAおよび上皮細胞残渣から分離される(例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;および非特許文献4)。残念ながら、遠心および上清の注意深い除去のプロセスは自動化が困難で、手作業で試料を扱うステップが多いため精子DNAの損失の原因となり得る。
【0007】
この方法の一例では、Gillら(前述)は性的暴行の被害者から採取した膣スワブから精子DNAを精製する方法を記載している。これらのスワブは精子および大過剰の被害者の上皮細胞も含有する。上皮細胞およびこれらの細胞に含有されるDNAは、選択的溶解によって(すなわち、SDSおよびプロテイナーゼKを含有する緩衝溶液中で細胞混合物をインキュベートすることによって)除去される。精子の核は、ジスルフィド結合で架橋結合したチオールの豊富なタンパク質なのでこの処理で影響を受けないが、その他の細胞型は消化され、対応するDNAは可溶化される。選択的溶解後、試料を遠心して被害者の可溶化したDNAから精子の核を分離する。被害者のDNAを含有する上清を除去し、精子ペレットを繰り返し洗浄する。精子の核はその後、SDS、プロテイナーゼKおよびDTT(ジチオスレイトール)を含有する緩衝溶液で処理することによって溶解し、遠心によって混入した細胞から溶解物を分離する。
【0008】
Wiegandら(非特許文献3)は、穏和な溶解条件を使用し、洗浄ステップを回避することによって、精子数の少ない試料のためにGillらの方法の改善を試みた。
【0009】
上皮細胞から精子細胞を分離するためのいくつかの提案は、濾過をベースにしている。非特許文献5およびGarvin(PCT/US01/01835)は、分画溶解の前に、重力または軽度の真空で濾過することによって、または孔の大きさを拡大せずに強い真空もしくは遠心力に耐えられるフィルター物質を使用することによって、上皮細胞から精子を分離する。その後、DNAは濾液に収集した精子から単離する。
【0010】
特に精子細胞分析のための分画抽出は、精子からDNAを抽出する前に、まず上皮細胞を溶解することによって実施されてきた。法医学的分析の時間を短縮するために、最初に精子細胞からDNAを選択的に抽出することが望ましい。さらに、上皮細胞選択的溶解条件はまた、いくらか精子の溶解を引き起こすので、精子細胞分画の前に上皮細胞を溶解することによって試料中に存在する精子細胞の数が減少する。上皮DNAを除去するために必要な追加的洗浄ステップはまた、精子細胞の損失の一因である。
【0011】
正確な精子の分析は、上皮細胞またはその他の混入する細胞型、例えば、白血球の溶解または存在によって妨害され得る。法医学的試料中に損傷を受けた非精子細胞に存在するDNAは、(おそらく精子細胞表面に結合することによって)細胞を汚染し、特に回収された精子細胞の数が少ないとき、加害者の正確な同定を妨げ得る。
【0012】
本発明者らは、不均一な細胞集団から(個々の細胞型の)核酸の1種を分画抽出するための技術は存在するが、残存して混入する核酸はまだ、より正確な抽出方法を必要とする問題であることを発見した。より特異性の高い分画抽出の存在を必要とする1適用は、法医学、特に性的暴行の分析である。
【0013】
性的暴行の試料中の上皮細胞およびその他の細胞、例えば、白血球は、性質が脆弱であるため、作業中、試料処理中または保存中に分解し、溶解することが多い。この残存DNAは除去しなければ、特に精子細胞の数が少ないとき、選択的精子溶解中に男性DNAを汚染し得る。さらに、上皮細胞および精子細胞の表面は、イオン相互作用ならびにその他の非共有的方法によって核酸に結合する分子(例えば、糖タンパク質)で高度に機能化されている。これらの細胞表面タンパク質は、試料中に存在する細胞外核酸と関連することが見出された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Giustiら、J. Forensic Sci.、31巻:409〜417頁、1986年
【非特許文献2】Gillら、Nature 318巻:577〜579頁、1985年
【非特許文献3】Wiegandら、Int J. Legal Med.、104巻:359〜360頁、1992年
【非特許文献4】Yoshidaら、Forensic Sci. Int.、72巻:25〜33頁、1995年
【非特許文献5】Chenら、J Forensic Science 43巻:114〜118頁、1998年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、精子細胞溶解前に新規洗浄ステップを実施することによって、法医学的試料における残存DNAおよび混入細胞、例えば、白血球の量を減少させるのに役立つ。
【0016】
本発明は、試料から細胞を単離するための粒子もしくはビーズをベースにした方法に加えて、古典的な遠心をベースにした方法、サイズ排除濾過と共に使用することができる。この方法は、Beckman Biomek(登録商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)またはTecan液体自動操作系(例えば、Freedom Evo(登録商標) Services Tecan Systems、San Jose、CA)などの既存の装置による自動化ハイスループットに容易に適合し得る。本発明は、法医学ならびに(選択的に溶解する必要のない最後に残存する細胞型以外は)各細胞型が選択的に溶解できる限り、複数の細胞型の混合物中に見出される1細胞型から核酸を単離しなければならないその他の状況の両方に、より広く適用することができる。
【0017】
一態様では、本発明は、混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞からDNAを選択的に回収する方法に関する。不純物には、混入する残存DNAおよび白血球などの存在し得るその他の混入細胞が含まれる。この態様では、この方法は、第1単離ステップで媒体から混合細胞を単離することと、精子細胞を選択的に溶解することと、精子細胞からDNAを回収することとを必要とする。この方法はまた、2つの追加的ステップの少なくとも1つを含み、第1のステップは、第1洗浄溶液での試料の洗浄であり、第1単離ステップの前に細胞の表面から残存DNAを遊離させるか、または消化する。第2のステップには、溶解ステップの前に第2洗浄溶液で単離された混合細胞を洗浄し、その後第2単離ステップで第2洗浄溶液から洗浄した混合細胞を単離することを含む洗浄/単離手順が含まれる。試料中に白血球が存在するならば、第1または第2洗浄溶液が選択的に白血球を溶解する。第2単離ステップは実施しなくてもよいので(第1単離ステップの後に洗浄ステップがない場合)、方法には1つの単離ステップしかない可能性もあることに注意されたい。
【0018】
本発明者は、この簡単な1回または複数回の洗浄は、残存するDNAの混入の問題を効果的に軽減し、したがって、高価な、または時間のかかる、またはその他の問題を招き得る手作業のステップに頼らず、遺伝子型判定に影響を及ぼさないことを見出した。
【0019】
さらなる態様では、サイズ排除濾過、遠心、または磁性粒子のいずれかによって細胞は単離される。
【0020】
別の態様では、混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞からDNAを選択的に回収する方法が提供され、この不純物には残存するDNAなどの混入する細胞外物質および白血球などのその他の可能性のある混入細胞が含まれる。この方法は、任意の第1洗浄溶液を含む試料をサイズ排除フィルターに導入することと、細胞をフィルター上に隔離し、細胞懸濁媒体に濾液を形成させることによって、第1単離ステップで細胞懸濁媒体から混合細胞を単離することと、精子細胞を選択的に溶解することと、精子細胞からDNAを回収することとを必要とする。この方法はまた、2つの追加的ステップの少なくとも1つを含み、第1のステップは、試料の洗浄であり、試料をサイズ排除フィルターに導入する前に、試料を第1洗浄溶液と混合することによってそれを洗浄して洗浄試料を形成することを含む。第2のステップには、溶解ステップの前に、第2洗浄溶液で単離した混合細胞を洗浄し、その後第2単離ステップで第2洗浄溶液から洗浄した混合細胞を単離することを含む洗浄/単離手順が含まれる。試料中に白血球が存在するならば、第1または第2の洗浄溶液は白血球選択的溶解緩衝液として役立つ。
【0021】
本発明のさらに別の態様では、混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞から核酸を選択的に回収する方法を提供する。不純物には、混入する残存DNAおよび白血球などのその他の可能性のある混入細胞が含まれる。この方法は、任意の第1洗浄液を含む試料を遠心して細胞ペレットおよび任意の第1洗浄溶液を含む懸濁媒体を含有する上清を形成し、それによって懸濁液から混合細胞を隔離し、その後、第1単離ステップにおいて上清から混合細胞を単離することと、精子細胞を選択的に溶解することと、精子細胞からDNAを回収することを必要とする。この方法はまた、2つの追加的ステップの少なくとも1つを含み、第1のステップは、試料洗浄ステップであり、試料を第1洗浄溶液と混合して洗浄試料を形成することを含む。第2のステップは、洗浄/単離手順であり、単離された混合細胞を第2洗浄溶液で洗浄し、その後、洗浄した混合細胞および第2洗浄溶液を遠心してペレットおよび上清を形成し、それによって、前記溶解ステップの前に、第2単離ステップにおいて、懸濁液から洗浄細胞を隔離し、その後、上清から混合洗浄細胞を単離することを含む。試料中にリンパ球が存在するならば、第1または第2洗浄溶液は選択的にリンパ球を溶解することができる。
【0022】
一態様では、第1洗浄溶液または第2洗浄溶液または両方の洗浄溶液は独立して、いずれもDNA−細胞表面相互作用を妨害することができるMgCl、NaCl、KClなどのカチオン塩、ポリリシンなどのポリカチオン、ヘパリンなどのポリアニオンの1つまたは組合せを含む。MgClなどの塩溶液はまた、浸透圧を与えるか、リンパ球膜およびクロマチン構造を破壊することによってリンパ球を溶解することができる。様々な態様では、外来性DNAを消化できるDNアーゼを洗浄溶液またはその一部として使用する。
【0023】
本発明の特定の態様では、試料は性的暴行の被害者から採取した標本を含むことができる法医学的標本を含む。このような試料中の細胞型には、少なくとも精子および上皮細胞および、時々リンパ球も含まれる。原則として、試料中の核酸はDNAまたはmRNAまたは全RNAであってよい。通常、DNAである。
【0024】
本発明の他の態様では、単離された精子の核酸は、限定はしないが、遺伝子型判定のための精製核酸の定量、核酸の増幅および増幅された短いタンデム反復断片の分離を含むその後のステップのために使用することができる。
【0025】
当業者であれば、以下に説明する図面は、例示の目的のものに過ぎないことを理解するであろう。これらの図面は、いかなる方法によっても本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のいくつかの実施形態にしたがって、精子細胞および上皮細胞の両方を含有する試料中の精子細胞のDNAを単離し、回収するためのステップを示した工程流れ図である。
【図2A】実施例1で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図2A)、538/554nm、VIC(図2B)、546/575nm、NED(図2C)、558/595nm、PET(図2D)であった。
【図2B】実施例1で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図2A)、538/554nm、VIC(図2B)、546/575nm、NED(図2C)、558/595nm、PET(図2D)であった。
【図2C】実施例1で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図2A)、538/554nm、VIC(図2B)、546/575nm、NED(図2C)、558/595nm、PET(図2D)であった。
【図2D】実施例1で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図2A)、538/554nm、VIC(図2B)、546/575nm、NED(図2C)、558/595nm、PET(図2D)であった。
【図3】試料中に存在する残存上皮細胞DNAの量に対するMgCl濃度(洗浄溶液)の効果を示した棒グラフである。
【図4A】実施例3で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図4A)、538/554nm、VIC(図4B)、546/575nm、NED(図4C)、558/595nm、PET(図4D)であった。
【図4B】実施例3で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図4A)、538/554nm、VIC(図4B)、546/575nm、NED(図4C)、558/595nm、PET(図4D)であった。
【図4C】実施例3で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図4A)、538/554nm、VIC(図4B)、546/575nm、NED(図4C)、558/595nm、PET(図4D)であった。
【図4D】実施例3で例示した本発明の方法で単離した精子DNAのSTR型判定プロファイルを示した図である。様々な遺伝子座のためのプライマーは、蛍光色素で標識し、その後、様々な遺伝子座を増幅し、電気泳動によって産物を分離した。蛍光励起/放出波長および使用した色素は、494/522nm、6−FAM(図4A)、538/554nm、VIC(図4B)、546/575nm、NED(図4C)、558/595nm、PET(図4D)であった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
本明細書では、「核酸」という用語は、DNAおよびRNA分子、ならびにDNA/RNAキメラおよび非天然の塩基および/または糖部分を有する核酸分子を包含する。特定の法医学実施形態では、加害者の精子細胞のDNAは、被害者の非精子細胞(通常上皮細胞)のDNAから単離される。
【0028】
本発明で使用した「試料」は、2種類以上の細胞型を含有するいかなる不均一な細胞懸濁物であってもよく、少なくとも1種の細胞型を選択的に溶解することができる。試料はまた、試料の不純物、例えば、外来DNAも含有する再構成緩衝液などの懸濁媒体を含む。いくつかの実施形態では、試料は法医学的標本から再構成され、場合によって法医学的標本を収集したスワブまたはコットンアプリケータを含むことができる。洗浄溶液を試料と一緒にした後、試料はまた洗浄溶液も含むことを理解されたい。したがって、洗浄溶液を別々に列挙する必要はない。
【0029】
本明細書では、「法医学的標本」という用語は、限定はしないが、殺人、強姦、外傷、暴力、暴行、窃盗、強盗、その他の刑事事件、本人識別、実父確定検査および複雑な適用の試料を含む法律問題の解決のために得られた標本である。生物学的物質、例えば、血液、血液染色、唾液、皮膚細片、排泄物、排泄物染色、尿、精子細胞、上皮細胞、筋肉組織、骨もしくは筋肉残留物、またはミイラ化した残留物の標本を含有する基質を広く意味する。いくつかの実施形態では、「法医学的標本」は、生物学的標本を収集したスワブまたはコットンアプリケータ上に含有され、かつそれらを含む。
【0030】
本明細書では、「分画抽出」という用語は、不均一な細胞集団内の個々の細胞型の核酸を分離するために使用される抽出方法、例えば、上皮−精子細胞混合物中の精子細胞の選択的溶解を意味する。
【0031】
本発明の実施形態での使用に適した2種類以上の「細胞型」には、混合物中の少なくとも1種の細胞型が選択的に溶解できる限り、以下の、精子細胞、上皮細胞、赤血球、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、脂肪細胞、軟骨細胞、腫瘍細胞、神経細胞、グリア細胞、星状膠細胞、赤血球、白血球、マクロファージ、毛細胞、膀胱細胞、腎細胞、網膜細胞、桿体細胞、錐体細胞、抗原提示細胞、T細胞、B細胞、血漿細胞、筋肉細胞、卵巣細胞、前立腺細胞、膣上皮細胞、精巣細胞、セルトリ細胞、黄体細胞、子宮細胞、子宮内膜細胞、乳腺細胞、卵胞細胞、粘膜細胞、線毛細胞、非角質化上皮細胞、角質化上皮細胞、肺細胞、杯状細胞、円柱上皮細胞、扁平上皮細胞、骨細胞、骨芽細胞および破骨細胞の任意の2種以上を含めることができる。
【0032】
ある実施形態では、2種類以上の細胞型が試料中に存在する。ある法医学実施形態では、精子細胞および上皮細胞は試料中に存在する本質的に唯一の細胞型である。ある法医学実施形態では、精子細胞、上皮細胞および白血球が試料中に存在する細胞型である。白血球が存在する実施形態では、第1洗浄ステップは白血球を選択的に溶解するように作用し、一方、精子および上皮細胞は完全に維持される。
【0033】
本明細書では、「精子細胞」は、核がまだ完全である限り、完全な精子細胞または本質的に完全な精子細胞(例えば、鞭毛または尾部を喪失した精子細胞)を含むことができる。
【0034】
本明細書では、「細胞混合物」という用語は、少なくとも2種の異なる細胞型の不均一な収集物を意味する。
【0035】
「細胞懸濁媒体」とは、細胞混合物が存在する緩衝液または液体である。細胞懸濁媒体は、細胞混合物が元々固形基質上に存在するならば、再構成用緩衝液であってよく、または、単離された細胞が媒体中で再構成されるならば、洗浄溶液であってよい。再構成用緩衝液は、非限定的例では、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってよい。細胞懸濁媒体は周知であり、当業者が容易に選択することができる。本発明において、細胞懸濁媒体に添加する溶液、例えば、洗浄溶液は、元々存在しない場合でも、細胞懸濁媒体の一部である。
【0036】
本明細書では、「上清」という用語は、細胞および粒子が容器の底もしくは側面に沈降した後、容器に存在する液体または緩衝液を示す。上清は、不純物、例えば、損なわれた細胞のDNA、または細胞混合物が元々固形基質から再構成されたならば、スワブの繊維、または溶解ステップが行われた後の細胞溶解物、または洗浄ステップが行われた後の使用済み洗浄溶液を含み得る。さらに、細胞および粒子が一旦容器の側面または底に沈降したならば、細胞懸濁媒体は上清と考えられ、不純物を含み得る。したがって、細胞懸濁媒体および上清の用途および意味は重複する。
【0037】
本明細書では、「残存DNA」とは、試料媒体中にはあるが、細胞内には存在しない細胞外DNA、例えば、精子−上皮細胞混合物における、損なわれた、もしくは溶解した細胞のDNAを意味する。残存DNAは、細胞表面に結合するか、そうでなければ関連するようになることができ、細胞から抽出されたDNAを汚染する可能性がある。白血球が存在する実施形態では、第1洗浄ステップが白血球を溶解するので、残存白血球DNAは第1洗浄ステップ中に形成される。
【0038】
本発明で使用するための「容器」は、上部が開放し、全側面および底部が閉じている任意の管(例えば、容量が0.2mL、0.5mL、1mL、1.5mL、2mL)、容器、またはウェルであってよい。この定義には、自動化装置用に設計された試薬カートリッジが含まれる。多数のウェルは、プレート、例えば、96ウェルプレートまたは自動化装置で使用するように適合した任意のその他のプレートを形成するために一緒に結合させることができる。
【0039】
本明細書では、「磁場に応答する粒子」という用語は、媒体からの細胞の隔離を実現するために、(異なる緩衝条件下で)細胞または核酸またはその両方を捕捉する、すなわち、相互作用するか、または結合することができ、磁場内に置いたとき移動する粒子全て(例えば、ビーズまたは不規則な形状の粒子)を包含するものとする。いくつかの実施形態では、粒子凝集物を形成するために、複数の粒子は互いに結合することができる。その他の実施形態では、粒子は直径および/または形状が均一であり、例えば、ビーズである。磁石または磁力を容器に近づけるか、または接触させると、反応容器中の粒子が磁力源に向かって移動する。強磁性、常磁性および超常磁性の粒子が含まれる。磁場に応答する市販の粒子の非限定的例は、強磁性コアを有する多孔質シリカ MP−50(6.5μm)、MP−85(>8μm)(W.R.Grace、Columbia、MD)、ストレプトアビジンで固定した酸化鉄 (Sigma、St.Louis、MO)および酸化鉄(III)粉末(5μm)(Sigma、St.Louis、MO)、DNA IQ(商標)シリカ粒子(Promega、Madison、WI)、MagPrep(登録商標)シリカ粒子(Novagen、San Diego、CA)、BcMag(登録商標)シリカで修飾した磁性ビーズ(5μmまたは1μm)(Bioclone Inc.、San Diego、CA)、超磁性シリカ粒子(1μmまたは0.75μm、G.Kisker GbR、Steinfurt、Germany)および異なる型の表面官能基を備えたDynabeads(登録商標)(Invitrogen、Carlsbad、CA)(例えば、Dynabeads(登録商標)MyOne カルボン酸ビーズ、Dynabeads(登録商標)WCX、Dynabeads(登録商標)TALONおよびDynabeads(登録商標)MyOne トシル活性化)からなる粒子である。本明細書では、「粒子」または「磁性粒子」という用語は、「磁場に応答する粒子」と同じ意味を有し、長い用語の略記に過ぎない。
【0040】
本明細書では、「サイズ排除濾過」とは、フィルターを含む容器を遠心する遠心方法を意味する。試料、溶解緩衝液または洗浄溶液をフィルターに適用し、フィルターに隔離された細胞と場合によって混合し、遠心する。フィルターは、フィルター孔の大きさより小さい成分を、フィルター孔の大きさより大きい成分(すなわち、細胞)から(「濾液」中に)単離させる。適切な回転用フィルターの一例は、Sigmaから市販されている孔径220nmのCorning spinX Costar 8160フィルター(部品番号CLS8160)である。類似の孔径のその他の回転用フィルターも使用できる。フィルターの孔径は、上皮細胞が濾液に通過しないようにするために、2μmより大きくすべきではない。
【0041】
本明細書では、「短いタンデム反復」または「STR」という用語は、ヒトゲノムの区域内で直列に反復するヌクレオチドの長さが2個と7個の間の配列全てを意味する。
【0042】
DNA型判定(または「遺伝子型判定」)には、通常、「マーカー」と呼ばれる関心のある特徴を備えたゲノムDNAの対立遺伝子の分析が関与する。現在使用されている型判定方法のほとんどは、集団において少なくとも2種類の異なる形態で出現することが知られているDNAマーカーの、1個または複数の領域の長さおよび/または配列の違いを検出および分析するために具体的に設計されている。このような長さおよび/または配列の変動は、「多形性」と呼ばれる。このような変動が生じるDNAの任意の領域(すなわち、「遺伝子座」)は、「多形遺伝子座」と呼ばれる。
【0043】
長さまたは配列に関して十分に多形性である遺伝子マーカーは、身元確認のための適用、例えば、実父確定検査および法医学分析用に収集した組織試料の同定で使用するために長い間追究されてきた。このようなマーカーおよびこのようなマーカーを分析するための方法の発見および開発は、ここ数年にわたって数段階の開発がなされてきた。
【0044】
近年、遺伝子マーカーとしての多形性の短いタンデム反復(STR)の発見および開発は、DNA型判定において重要な役割を担ってきた。この手法において、選択された各遺伝子座の増幅対立遺伝子は、長さの変動に基づいて区別することができる。STR遺伝子座による増幅方法は、通常、60から500塩基対(bp)の長さの小さな産物を生じるように設計することができ、各遺伝子座の対立遺伝子は、100bp未満の範囲で含有されることが多い。これによって、個々の系の可能性のある増幅産物全てがその他の系の対立遺伝子の範囲と重複しないように、PCRプライマーを注意深く設計することによって、同一ゲルにおけるいくつかの系の同時電気泳動分析またはキャピラリー電気泳動が可能になる。次に、これらの結果を使用して、例えば、ヒトの子供の親子関係を特定し、血液、唾液、精液および犯罪現場で見出されたその他の組織またはヒトの残留物の同定が必要とされるその他の部位の由来を同定することができる。
【0045】
本明細書では、「選択的精子溶解緩衝液」という用語は、精子細胞および(この緩衝液によって溶解を受けない)少なくとも1種のその他の型の非精子細胞を含む混合物において精子細胞を選択的に溶解することができる緩衝液を意味する。本明細書では、「精子細胞の選択的溶解」とは、精子を溶解し、一方、非精子細胞は溶解しないことを意味する。量的に、精子細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%または99%を溶解し、一方、非精子細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%は溶解しない。特定の実施形態では、ごくわずかの非精子細胞が精子細胞と一緒に溶解されるに過ぎない。このような緩衝液の非限定的例は、NaCl 880mMおよびDTT 85mMの組合せであり、以下の、特に実施例1においてさらに説明する。選択的精子溶解緩衝液は、本明細書に全体を参考として組み込んだ米国仮特許出願第60/899,106号に開示されている。いくつかの実施形態では、選択的精子溶解緩衝液には、少なくとも1種のジスルフィド結合還元剤(例えば、ジチオスレイトール(DTT)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンHCl(TCEP)、メルカプトエタノール(ME)、グルタチオン(GSH))および少なくとも1種の塩試薬(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、塩化カルシウム(CaCl)、硫酸カルシウム(CaSO))が含まれる。特定の実施形態では、選択的精子溶解緩衝液には、少なくとも1種のジスルフィド結合還元剤が少なくとも0.01M、0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.7Mまたは0.8Mの濃度で含まれる。特定の実施形態では、選択的精子溶解緩衝液には、少なくとも1種の塩試薬が少なくとも0.1M、0.25M、0.5M、1M、1.5Mまたは2M以上の濃度で含まれる。
【0046】
本明細書では、「洗浄溶液」という用語は、細胞からの上清に含有される残存DNAおよびその他の不純物を除去する機能を備えた試薬を意味する。さらに、試料中に精子細胞および上皮細胞と共に白血球が存在するならば、「洗浄溶液」は、選択的白血球溶解緩衝液として作用する。洗浄溶液は、限定はしないが、水、1×PBS、適切な緩衝液、例えば、水、1×PBS、Tris−HClまたはその他の生理学的に許容される溶液で希釈されたMgCl、NaClおよびKClなどの塩溶液であってよい。いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、1×PBSで希釈されたMgClである。
【0047】
いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、反応緩衝液中に溶かしたDNアーゼであるか、または反応緩衝液中にDNアーゼを含む。いくつかの実施形態では、DNアーゼは洗浄溶液の成分である。DNアーゼが洗浄溶液の成分である実施形態では、DNアーゼはMgClなどのカチオン塩と併せて添加することができる。さらにその他の実施形態では、カチオン塩による洗浄の直後にDNアーゼ洗浄を行ってよい(例えば、以下の実施例3参照)。実施例3で実施した2種類の洗浄は、図1のステップ2および4の使用に対応する。
【0048】
いくつかの実施形態では、法医学的標本は、洗浄溶液で直接再構成する。
【0049】
DNアーゼは、塩感受性で、最適なDNアーゼ活性は、低塩溶液(<20mM)で生じる。洗浄溶液が高い塩濃度を含有するときは、低下した酵素効果を補うためにDNアーゼの量を追加して使用してよい。塩洗浄緩衝液、その後DNアーゼで連続的に洗浄することによって、酵素活性は妨げられないだろう。
【0050】
いくつかの実施形態では、第1または第2または両方の洗浄溶液がDNアーゼを含む。特定の法医学実施形態では、DNアーゼ0.01Uから10Uが洗浄溶液中に存在する。DNアーゼが塩溶液の存在下である実施形態では、50U以下のDNアーゼを使用することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、洗浄溶液はポリアニオン、例えば、ヘパリンポリアニオンを含むことができる。ポリアニオンのその他の例には、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(スルホン酸スチレン)、ポリ(2−アクリルアミノ−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸)(PAMPS)またはNAFION(登録商標)(DuPont(商標))が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄溶液はポリカチオン、例えば、ポリ−リシンまたはポリカチオンの組合せを含むことができる。さらに、いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、精子細胞表面で女性DNAと競合するために、非霊長類由来のDNA、例えば、サケ精子DNAを含むことができる。洗浄溶液は、試料媒体と一緒にすることができるか、または媒体を除去し、洗浄溶液を新たに添加することができる。いくつかの実施形態では、法医学的標本は、洗浄溶液中で、混合した精子および上皮細胞が上清(白血球溶解物を含有してよい)から分離するまで24時間までインキュベートする。
【0052】
ポリアニオンまたはポリカチオンを洗浄溶液に含めるとき、ポリアニオンまたはポリカチオンの分子濃度は、細胞表面に結合したDNAをポリアニオンまたはポリカチオンによって確実に置換するため、外来性DNA分子の分子濃度よりも大幅に過剰にするべきである。典型的な法医学試料は、外来性DNAを約10ng含有する(Anal.Chem.2005年、77巻、742〜749頁)。(試料を含む)洗浄溶液の最終量を500μLと仮定すると、DNAは平均して500bpの長さに断片化され(最大のSTRアンプリコンは約500bpである)、DNAの分子濃度は約60pMである。DNA推定濃度に基づいて、特定の洗浄溶液に最適なポリアニオンまたはポリカチオンの濃度を選択し、最適化することができる。さらに、試料中の外来性DNAの量が一旦わかったら、所与の消化時間および温度(例えば、室温、37℃)で外来性DNAを完全に消化するために必要なDNアーゼの量を決定することもできる。例えば、Turbo DNアーゼの1単位は、37℃で10分間でDNA1μgを完全に分解するために必要なTurbo DNアーゼの量と定義される。したがって、Turbo DNアーゼ1単位は、典型的な性的暴行試料に見出される外来性DNA全てを完全に分解することができるだろう。しかし、過剰量のTurbo DNアーゼ(例えば、5単位以上)を、より短いDNA消化時間および/または室温での操作を実現するために使用することができる。別の型のDNアーゼを性的暴行試料中の外来性DNAの消化のために使用するとき、最適な消化条件(DNアーゼの量、消化時間および温度)は、実験的に容易に最適化することができる。
【0053】
「核酸捕捉粒子」は、磁場に応答し、特定の条件下で(例えば、核酸捕捉に適した緩衝液)、試料または上清中に存在する核酸にも結合する任意の粒子である。「核酸捕捉粒子」は、DNAまたはRNAに選択的に結合するか、あるいは核酸全てに結合することができる。例えば、核酸は、カオトロピック緩衝液中でシリカ磁性粒子に結合する(全体を参考として組み込んだ米国特許第5,234,809号)。核酸捕捉のために、核酸捕捉粒子と共に使用することができる緩衝液は、グアニジウムイソチオシアネート(GuSCN)および塩化グアニジウムから調製された溶液であってよい。核酸はまた、高濃度の塩およびアルコールを含有する溶液中で磁性粒子によって捕捉され得る(例えば、いずれも本明細書に全体を参考として組み込んだ、米国特許第5,523,231号および第5,705,628号を参照)。いくつかの実施形態では、酢酸ナトリウム塩(2.5M、pH5.2)を、70%エタノールと併用する。その他の核酸捕捉粒子は、捕捉粒子と共に反応緩衝液として利用することができる7%〜13%ポリエチレングリコールと併用した0.5Mから約5.0Mの塩を含む緩衝液を使用する。塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化バリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化セシウムなどの塩は全て使用できる。
【0054】
本明細書では、「溶出緩衝液」または「溶出溶液」という用語は、核酸と核酸捕捉粒子との相互作用を分断または切断する機能を有する試薬を意味する。例えば、緩衝液は、任意の低塩溶液(例えば、トリス(10mM)−EDTA(0.1mM)(TE)緩衝液)またはDNアーゼを含まない水であってよい。溶出緩衝液は通常使用されており、当業界では公知である。その他の低塩緩衝液(中性から弱塩基性のpH)も使用できる。
【0055】
特定の実施形態
概要および導入として、本発明の方法を図1に挙げる。混合された細胞懸濁液を含む試料、例えば、法医学的標本は、ステップ1で提供される。次に、試料はステップ2で洗浄溶液で洗浄することができる。白血球が試料中に存在する場合、第1洗浄ステップ(ステップ2もしくは4)で白血球は溶解されるが、精子および上皮細胞は完全なままである。試料中の細胞は、ステップ3で、使用者が選択した方法によって、例えば、サイズ排除濾過(3.1)、磁性粒子(3.2)、遠心(3.3)または当業界で公知の任意のその他の方法によって単離する。次に、単離された混合細胞はステップ4で洗浄溶液で洗浄することができる。ステップ2の洗浄を実施する場合、ステップ4の洗浄は必要ない。同様に、ステップ4で洗浄を使用する場合、ステップ2の洗浄は必要ない。しかし、所望するならば、両方とも実施できる(実施例3参照)。ステップ5では、例えば、全体の内容を参考として組み込んだ米国仮特許出願第60/899,106号で開示された精子溶解緩衝液で精子細胞を選択的に溶解する。選択的精子溶解の後、ステップ6で、精子DNAを含有する精子細胞溶解物を回収する。その後、精子DNAは任意選択で、ステップ7で精子細胞溶解物からさらに単離することができる。これらのステップを順番に説明する。
【0056】
試料は、例えば、スワブ上の法医学的標本として提供されたならば、例えば、1×PBSを含む緩衝液で細胞懸濁液を形成するために、ステップ2の前に再構成する。特定の法医学実施形態では、法医学的標本は、DNA単離のために使用した同一容器内で再構成する。別の法医学実施形態では、法医学的標本は異なる容器内で再構成し、細胞懸濁液はDNA単離容器に移す。容器は、磁性粒子またはサイズ排除フィルターを含有してよく、いずれも含有しなくてもよい。
【0057】
スワブ自体は取り出すか、脇へよけるか、またはスワブ(またはスワブを取り出した後に残存するスワブ残渣)は、セルロース消化酵素を使用して消化することができる。セルロース消化酵素の例には、セルラーゼ、ベータ−グルカナーゼならびにAspergillus niger、Trichoderma reeseiおよびTrichoderma virideなどの真菌原料から単離された酵素が含まれる。この型の酵素は細胞表面タンパク質のエピトープ安定性に影響を及ぼし得るが、細胞膜、細胞のDNA含量は一般的に損なわれない。それにも関わらず、このような酵素はまた、不純物と見なされ、除去すべきである。本発明の方法の第1洗浄ステップは、これを実施するために一助となり得る。
【0058】
様々な実施形態では、法医学試料は、再構成緩衝液(例えば、1×PBS)約1mLで再構成し、容器内でゆっくり混合する(細胞隔離および分画抽出のために使用する容器であってもよく、そうでなくてもよい)。次に、基質(例えば、スワブ)を容器および遠心した標本の細胞から取り出す。その後、再構成緩衝液を細胞ペレットから抜き取り、細胞ペレットを再構成緩衝液50μLで再構成する。別の実施形態では、細胞懸濁媒体約50μLを細胞ペレット上に残し、残りの媒体を抜き取り、細胞ペレットを元の媒体で再構成する(すなわち、50μL)。
【0059】
様々な法医学実施形態を含めたいくつかの実施形態では、細胞懸濁液の一部は、試料中に元々存在する細胞数を計数するために使用することができる。存在する細胞数は、使用する特定の反応成分の量および/または濃度を決定する根拠を、この方法の使用者に与えることができる。
【0060】
細胞試料が溶液中に一旦存在すると、細胞懸濁液と洗浄溶液を一緒にすることによって洗浄することができる(ステップ2)。好ましい実施形態では、洗浄緩衝液の細胞懸濁液に対する比は、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1または3:1である。任意選択で、(最初に、溶液中に混合細胞を提供することによって、または試料を再構成することによって)細胞懸濁液を形成した後、遠心して、再構成緩衝液(例えば、1×PBS)中で再懸濁して、より濃縮された懸濁液を形成することができる。好ましい実施形態では、本発明の方法を通して使用される細胞懸濁液は、50μLから2mLの範囲の量である。
【0061】
ステップ2では、洗浄溶液と細胞懸濁液を一緒にして、その後2種類の成分を混合することによって試料を洗浄することができる。混合は、ピペッティング、ボルテックスまたは、例えば、オービタルシャイカーまたは手動回転による容器の振盪によって達成することができる。2種類の成分はまた、受動拡散によって混合することができる。細胞懸濁液の洗浄は、精子細胞溶解およびDNA単離に使用したものとは異なる容器または同一容器で実施することができる。洗浄溶液については前述している。洗浄溶液中の試料は、所望するならば、24時間以内でインキュベートすることができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、スワブ、アプリケータまたはそれらの一部の上の法医学的標本は、洗浄溶液で直接再構成する。ある法医学実施形態では、スワブ自体は洗浄溶液でインキュベートした後取り出す。ある法医学実施形態では、スワブ自体は洗浄溶液でインキュベートした後取り出さない。特定の法医学実施形態では、法医学的標本は、DNA単離のために使用した同一容器内で再構成する。別の法医学実施形態では、法医学的標本は異なる容器内で再構成し、細胞懸濁液はDNA単離容器に移す。DNA単離容器は、磁性粒子またはサイズ排除フィルターを含有してよく、いずれも含有しなくてもよい。
【0063】
様々な法医学実施形態を含めたいくつかの実施形態では、細胞懸濁液の一部は、試料中に元々存在する細胞数を計数するために使用することができる。存在する細胞数は、使用する特定の反応成分の量および/または濃度を決定する根拠を、この方法の使用者に与えることができる。
【0064】
ステップ3では、方法の使用者の選択に応じて、様々な細胞単離方法を使用することができる。例えば、細胞懸濁液中の細胞は、複写を付録Aとして添付し、本明細書に全体を参考として組み込んだ米国仮特許出願第60/890,460号に完全に記載されているように、磁場に応答する粒子(3.2)によって単離することができる。簡単に説明すると、細胞懸濁液を含有する容器が磁場の存在下にある間、粒子は細胞を磁場源に向かわせ、細胞懸濁媒体は不純物と共に除去され、一方、粒子および細胞は容器に残存する。細胞懸濁媒体の除去は、自動的な方法で、または手動によって、ピペッティングまたは吸引によって、細胞の損傷を回避する穏和な両技術によって、達成することができる。
【0065】
イオンの相互作用および/または疎水性相互作用は細胞/粒子(複数可)の関係に関与するが、細胞および粒子の関係はまた、粒子が細胞よりも小さい場合、磁力下で粒子を細胞に物理的に捕捉するか、または一時的に結合させることによって、あるいは細胞が粒子もしくは粒子凝集物よりも小さい場合は、磁力下で細胞を粒子もしくは粒子凝集物に物理的に捕捉するか、または一時的に結合させることによって、確立することができる。その他の粒子の実施形態は、その他の非共有結合相互作用に基づいて細胞を隔離する粒子を使用することができる。使用できるいくつかの非共有結合的相互作用は、水素結合、カチオン−π、π−π相互作用、双極子−双極子、双極子−誘導双極子、電荷−双極子およびファンデルワールス相互作用である。
【0066】
精子細胞および上皮細胞を隔離する粒子の直径は通常、0.5〜100μm、好ましくは1〜10μLの範囲内であり、より広い範囲以外の大きさも排除されない。この大きさの範囲の正確な限界は、通常の実験によって、粒子および細胞の所与の状況について確認することができる。
【0067】
様々な実施形態において、細胞は(細胞ペレットを形成するために)最初にステップ3.3で遠心によって不純物を含有する細胞懸濁媒体から隔離する。次に、細胞懸濁媒体(すなわち、上清)は、自動化された方法または手動によって(例えば、ピペッティングによって)除去され、(損傷を受けた上皮細胞の残存DNAを含有する)試料から細胞を単離する。本発明で使用するために適した装置には、Beckman Biomek(登録商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)またはTecan液体自動操作系(例えば、Freedom Evo(登録商標) Services Tecan Systems、San Jose、CA)が含まれるが、それらだけには限らない。
【0068】
その他の実施形態では、試料から精子細胞および上皮細胞を単離するためにサイズ排除濾過を使用する(ステップ3.1)。様々なサイズ排除濾過の実施形態では、細胞懸濁液を最初に洗浄溶液で洗浄し、洗浄は濾紙で直接、または別の容器内で実施することができる。洗浄溶液/細胞懸濁混合物をサイズ排除フィルターに一旦添加したら遠心する。次に、細胞に結合した不純物を含有する濾液を除去する。試料中に元々存在する細胞は、フィルター上に単離される。様々な特定の実施形態では、使用した回転用フィルターは、Sigmaから入手可能な孔径220nmのCorning spinX Costar 8160フィルター(部品番号CLS8160)である。類似の孔径のその他の回転用フィルターも使用できる。フィルターの孔径は、上皮細胞が濾液に通過しないようにするために、2μmより大きくすべきではない。
【0069】
いくつかの実施形態では、洗浄溶液中でスワブを含む試料から精子細胞および上皮細胞を単離するためにサイズ排除濾過を使用する(ステップ3.1)。洗浄溶液/細胞懸濁混合物およびスワブをサイズ排除フィルターに一旦添加したら遠心する。次に、外来性DNAなどの不純物を含有する濾液を除去する。試料中に元々存在する細胞は、フィルター上に単離される。捕捉した細胞を含有するスワブはまた、フィルター上に保持される。様々な特定の実施形態では、使用した回転用フィルターは、Sigmaから入手可能な孔径220nmのCorning spinX Costar 8160フィルター(部品番号CLS8160)である。類似の孔径のその他の回転用フィルターも使用できる。フィルターの孔径は、上皮細胞が濾液に通過しないようにするために、2μmより大きくすべきではない。
【0070】
本明細書では、細胞を単離するために、遠心、(遠心を使用する)サイズ排除濾過および粒子捕捉を説明しているが、本発明はこれらの技術だけに限定はしない。例えば、細胞は、全体を参考として組み込んだ、米国特許出願公開第2005/0032097号(「‘097公報」)に記載された方法によって単離することができる。‘097公報は、精子細胞および非精子細胞の両方を含有する試料から精子DNAを単離する方法を記載している。簡単に説明すると、最初に、非精子細胞の選択的溶解をSDSおよびプロテイナーゼKと共に実施する。次に、精子細胞は、孔径2μmを使用した真空濾過によって非精子細胞溶解物から単離する。その後、濾液を除去し、還元剤、例えば、β−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、還元グルタチオンまたはそれらの組合せを使用してフィルター上で精子細胞を消化する。その後、精子DNAを可溶化した精子から単離する。
【0071】
その他の方法において、抗体をコーティングした粒子は、1種類の細胞を明確に区別できる細胞表面タンパク質に結合させるために使用することができる。さらに、フローサイトメトリーおよび真空濾過は、細胞を選択的に単離するために使用することができる。
【0072】
細胞を細胞懸濁媒体の残部から一旦単離したら、別の細胞洗浄を使用することができる。様々な実施形態では、洗浄溶液は、1×PBSで希釈されたMgClなどの塩溶液ある。これらの実施形態では、MgClの最終濃度は、約20mMから300mMの範囲であってよい。このMgCl濃度の範囲はまた、最初の洗浄ステップ2に使用できる。様々な実施形態では、外来性DNAを消化するための洗浄溶液と同様に、Applied Biosystems and Ambion(登録商標)(Foster City、CA、部品番号AM2238)から入手可能なTURBO(商標)DNアーゼまたはAmbion(登録商標)によって供給されるDNアーゼI(カタログ番号AM222)が使用される。あるいは、その他の市販のDNアーゼ酵素を使用することができる。
【0073】
いくつかの洗浄溶液実施形態では、DNアーゼは同一溶液中で、MgClと併用される。その他の実施形態では、カチオン塩(例えば、MgCl)による洗浄(図1のステップ2または4)の直後にDNアーゼ酵素で(例えば、図1ではステップ2および4の両方で実施することによって、または、ステップ2を省くならば、ステップ3および4で2回反復することによって)洗浄する。さらにその他の実施形態では、DNアーゼ洗浄(例えば、図1のステップ2または4)の後、カチオン塩で洗浄する。
【0074】
いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、生理学的に許容される緩衝液で希釈した、ヘパリンまたはその他のポリアニオン、例えばポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(スルホン酸スチレン)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸)(PAMPS)またはNAFION(登録商標)(DuPont(商標))が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、ポリカチオン、例えば、ポリリシンを含む。さらに、いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、精子細胞表面の女性上皮DNAと競合するために、非霊長類由来のDNAを含むことができる。様々な実施形態では、洗浄は、同一または異なる洗浄溶液で1回または複数回の連続したステップで実施される。
【0075】
遠心を使用する特定の実施形態では、細胞は洗浄ステップの前にペレットにして、この細胞ペレットは洗浄溶液に再懸濁することによって洗浄し(図1、ステップ4参照)、白血球が存在するならば選択的に溶解し、任意の細胞不純物、または存在し得る細胞−核酸相互作用を特異的に破壊する。いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、MgCl、KClまたはNaClを含む。塩濃度は、白血球を分解するための所望する機能を実現するため、ならびに精子細胞および上皮細胞の表面からDNAを遊離させるために十分に高い。一旦洗浄が完了したら、洗浄した細胞ペレットを形成するために細胞を再遠心し、使用された洗浄溶液を含有する上清を除去する。上清の除去は、手動または自動化された方法で実施することができる。細胞洗浄、再遠心および細胞緩衝除去は、所望するならば、反復することができる。これらのステップを反復する場合、洗浄緩衝液は同一または異なっていてよい。本発明の方法では、その他の条件は本発明の範囲内であるが、遠心は通常18k RCFで1分間実施する。
【0076】
サイズ排除濾過を使用した特定の実施形態では、洗浄溶液は細胞を捕捉するフィルターに添加される。洗浄溶液は、捕捉した細胞を取り除き、細胞の全面を確実に洗浄するために、フィルター上で上下にピペッティングする。細胞を洗浄溶液と一旦混合したら、サイズ排除フィルターに(今度は洗浄した)細胞を再捕捉するために遠心ステップを使用する。使用した洗浄液を含有する濾液を廃棄する。これらのステップは図1のステップ4を包含する。
【0077】
磁性粒子を使用した特定の実施形態では、洗浄は、洗浄溶液と単離した細胞および磁性粒子を混合することによって実施する。混合を完了するために、磁場は反応を行う容器の近傍から取り除かなければならない。一旦混合が達成されたら、磁場を容器に再度適用して、使用した洗浄溶液から細胞および粒子を隔離する。その後、使用した洗浄溶液は廃棄する。
【0078】
いくつかの実施形態では、細胞単離に使用した方法にかかわらず、複数の成分での洗浄を使用する(図1のステップ2または4)。例えば、第1の成分はMgCl洗浄またはポリアニオン洗浄またはポリカチオン洗浄またはそれらの組合せであってよく、第2の成分はDNアーゼ酵素によるDNA分解ステップであってよい。これらの成分は混合して、次に試料に添加することができる。
【0079】
精子細胞を部分的にも全体的にも溶解しない任意のDNアーゼを使用することができる。DNアーゼ反応緩衝液中に存在するDNアーゼ(例えば、Applied BiosystemsのTurbo(商標)DNアーゼおよびAmbion(登録商標))を添加し、その他の洗浄実施形態で前述したように隔離した細胞と混合することができる。緩衝液中のDNアーゼは、隔離した細胞に添加し、混合する。粒子の実施形態では、混合時、磁場は容器から取り除く。その後、特定の実施形態に応じて、磁場を再度適用するか、遠心ステップを使用し、今度は汚染された(すなわち、使用した)洗浄溶液から細胞を隔離する。その後、いかなる残存DNアーゼも、(分解したDNAが存在する)DNアーゼ反応緩衝液と共に、自動化された方法で、または手動でピペッティングもしくは吸引によって除去する。その後、所望するならば、1種または複数の他の洗浄溶液を連続した方法で隔離した細胞に添加する。
【0080】
その他の実施形態では、洗浄ステップは試料のDNアーゼ処理の前後に実施する。これらの実施形態では、第1の洗浄ステップは最初の細胞隔離(すなわち、ステップ2または4)の前および/または後に実施することができる。これらの実施形態では、最低3回の連続洗浄を実施する。
【0081】
一旦細胞を洗浄し、(方法にかかわらず)使用した洗浄溶液(すなわち、細胞懸濁媒体)から単離したら、精子細胞を溶解する(図1、ステップ5)。
【0082】
特定の実施形態で使用できる選択的精子溶解緩衝液は、全体を参考として組み込んだ同時係属中の所有者共通の米国仮特許出願第60/899,106号に開示されている。
【0083】
いくつかの実施形態では、精子細胞選択的溶解緩衝液には、少なくとも1種のジスルフィド結合還元試薬(例えば、ジチオスレイトール(DTT)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンHCl(TCEP)、メルカプトエタノール(ME)、グルタチオン(GSH))および少なくとも1種の塩試薬(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、塩化カルシウム(CaCl)、硫酸カルシウム(CaSO))が含まれる。その他の選択的精子溶解緩衝液、例えば、DTT 2Mと一緒にした10%β−メルカプトエタノールを使用することができる。
【0084】
選択的精子溶解緩衝液中の塩試薬の濃度は、少なくとも0.1M、0.5M、1M、2Mまたはそれ以上であってよい。ジスルフィド結合還元試薬の濃度は、少なくとも0.01M、0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.7Mまたは0.8Mであってよい。
【0085】
特定の実施形態では、本発明で使用するための選択的精子溶解緩衝液には、限定はしないが、(1)1×PBSで調製したNaCl 880mMおよびDTT 85mM、(2)1×PBSおよびMgCl 260mMで調製したKCl 700mMおよびDTT 85mMならびに(3)1×PBSで調製したDTT 85mMが含まれる。
【0086】
選択的精子溶解緩衝液のために教示された成分に基づいて、当業者であれば、非精子細胞は本質的に完全に維持しながら、精子細胞を溶解するための塩およびジスルフィド結合還元試薬の最終濃度を最適化することができよう。選択的精子溶解緩衝液の非限定的な一例は、DTT 200mMおよびKCl 1Mを含む緩衝液である。前述したようなジスルフィド結合還元試薬および塩のその他の組合せは、これらそれぞれの濃度で使用することができる。いくつかの実施形態では、複数の塩を1種のジスルフィド結合還元剤と共に使用することができる。様々な実施形態では、複数のジスルフィド結合還元剤を1種の塩と共に使用する。
【0087】
本発明の様々な実施形態では、選択的精子溶解緩衝液と隔離された細胞との混合は、容器内への上下のピペッティングによって達成することができる。いくつかの実施形態では、細胞と溶解緩衝液の間の相互作用を完全にするために、選択的溶解緩衝液および細胞集団を一緒にして、低速でボルテックスをかける。いくつかの実施形態では、細胞は拡散によって溶解する。溶解緩衝液条件および使用した混合の型は、溶解ステップの期間に影響を及ぼす。これらの条件は、通常の技術を使用するだけで最適化することができ、最適化は本発明の特定の適用(例えば、法医学であるかないか、関与する細胞の型など)に左右される。いくつかの実施形態では、このステップおよび本発明のその他のステップは、自動化された方法で実施する。
【0088】
様々な特定の実施形態では、選択的精子溶解緩衝液は、磁場を中断する前に添加する。いくつかの実施形態では、選択的溶解緩衝液は、磁場を中断した後に添加する。
【0089】
特定の実施形態では、選択的精子溶解緩衝液の成分は単離した細胞に順次添加し、1つずつ細胞と混合する。あるいは、混合は、両方の成分(すなわち、塩およびジスルフィド結合還元剤)を添加するまで行わない。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合還元剤を最初に添加する。いくつかの実施形態では、溶解は受動拡散によって行い、したがって、混合は使用者によって実施されない。様々な実施形態では、混合は受動的混合および能動的混合(例えば、ボルテックスまたはピペッティングによる)の組合せによって行う。
【0090】
様々な実施形態では、選択的精子溶解緩衝液とのインキュベーションは、適切な結果を実現するために十分な長さの時間で任意の温度で実施する。特定の実施形態では、インキュベーションは室温で実施する。あるいは、インキュベーションは約20〜50℃で実施することができる。インキュベーションの間隔は、約1分から4時間以上の範囲であり、より具体的な一般的な間隔は5分または10分である。
【0091】
粒子の実施形態では、精子細胞溶解物は、ステップ6で磁場を反応容器に再度適用し、それによって溶解しなかった細胞(および粒子)を隔離することによって反応容器から回収することができる。選択的溶解後の上清には、精子細胞溶解物が含まれ、その後容器から取り除くことができる。これは、自動化された方法または手動でピペッティングによって実施することができる。任意選択の洗浄は、上皮細胞分析が所望される場合、上皮細胞の完全な細胞を汚染するであろう第1の溶解物から任意の核酸をさらに減少させるために、このステップで実施することができる。
【0092】
遠心の実施形態では、選択的精子溶解緩衝液は、ステップ6で洗浄した細胞ペレットに添加し、混合する。同様に、サイズ排除濾過実施形態では、選択的精子溶解緩衝液をフィルターに添加し、(手動または自動化された方法によって)上下にピペッティングし、フィルターから細胞を除去し、全細胞が確実に溶解緩衝液と相互作用するようにする。一旦溶解が完了したら、遠心ステップを実施し、精子溶解物を含有し、精子核酸を含む上清(遠心を使用する実施形態において)または精子溶解物を含有し、精子核酸を含む濾液(サイズ排除を使用した実施形態において)を回収する。単独で、またはサイズ排除技術の一部として使用した遠心は、例えば、9K RCFで1分間実施することができる(すなわち、Beckman Coulter Microfuge 18遠心器で10000RPM)。本発明において、本明細書で定義した容器に適したいかなる遠心も様々な方法ステップで使用することができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、DNA、mRNAまたは全RNAは、その後の適用、例えば、いずれも公知の分析方法である増幅、配列決定またはSTR分析のための調製において、ステップ7で精子溶解物から精製する。精製は、任意の容器、または予備分配した試薬カートリッジにおいて使用することができる。精製方法は、当業界では周知で、例えば、本明細書に全体を組み込んだ米国特許第5,234,809号および第5,705,628号を参照のこと。グアニジウムイソシアネート−フェノール−クロロホルム、エタノールによる抽出、および固相結合法は全て、本発明の範囲内である。DNA単離用の基質として利用できるいくつかの固相は、磁石、スチレンおよび/またはシリカ粒子である。さらに、ニトロセルロースはDNAを単離するために使用することができる。精製は、溶解物と核酸捕捉粒子および核酸に適した緩衝液との混合、または様々な実施形態において、DNA捕捉を必要とし得る。
【0094】
様々な粒子の実施形態では、細胞捕捉用の粒子はまた、適切な条件下でDNA精製用に(ステップ7)使用することができた。例えば、細胞を捕捉するために磁性シリカ粒子を使用するとき、捕捉した細胞を溶解することができ、放出されたDNAは、標準的シリカ/カオトロピック化学をベースにして同一捕捉粒子によって捕捉し、精製することができる(例えば、全体を参考として組み込んだ米国特許第5,234,809号を参照のこと)。別の実施例では、Dynabeads(登録商標)MyOneカルボン酸ビーズまたは磁性酸化鉄粒子を細胞捕捉用に使用するならば、細胞溶解後、DNA沈降化学を使用してDNAを精製することができる(例えば、いずれも全体を参考として組み込んだ米国特許第5,523,231号、米国特許第5,705,628号参照)。
【0095】
精子核酸を磁性粒子で精製する実施形態では、溶出緩衝液は、固形状態から溶液中に核酸を濃縮するために使用する。溶出緩衝液の非限定的例には、脱イオン水、TE緩衝液および任意のその他の低塩緩衝液が含まれる。さらに、このステップでは、溶出反応に熱を加えてよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、精子溶解物は、その後の反応(例えば、核酸増幅または配列決定)のためにさらに精製することなく使用することができる。
【0097】
特定の実施形態では、本発明の方法はさらに、精子細胞溶解物を除去した後、上皮細胞の核酸を単離して回収することを含む。いくつかの実施形態では、元の試料は、精子細胞および上皮細胞を含み、上皮細胞の溶解物は選択する必要はない。非選択的溶解は、当業界で周知の方法を使用して、例えば、カオトロピック緩衝液、高塩緩衝液または界面活性剤をベースにした溶解緩衝液で実施することができる。様々な実施形態では、溶解は、細胞を分解するために細胞に熱を与えることによって実施することができる。精子細胞に加えて上皮細胞を単離し、分析することは、加害者および被害者両方の同定および関連付けを可能にする。
【0098】
本発明の様々な実施形態では、第2の特定の細胞型を溶解するために、(元の試料の内容物および核酸回収の具体的な目的に応じて)選択的溶解緩衝液または一般的な溶解緩衝液は、容器内で上下にピペッティングすることによって隔離細胞と混合する。上皮細胞は、精子細胞溶解物を回収するとき、ステップ6で隔離し、単離する。
【0099】
いくつかの実施形態では、細胞と溶解緩衝液の間の完全な相互作用を可能にするために、第2の溶解緩衝液および細胞集団にボルテックスをかける。いくつかの実施形態では、細胞はボルテックスをかけたり、積極的に混合したりすることなく、拡散によって受動的に溶解させる。溶解緩衝液条件および使用した混合の型は、どのくらいの長さで溶解ステップを実施するかを決定する。これらの条件は最適化することができ、特定の適用に左右される。
【0100】
その他の実施形態では、上皮細胞は容器内のサイズ排除フィルター上に存在し、溶解緩衝液はフィルターの上部に導入される。次に、フィルターから細胞を除去し、細胞を分解し数分間フィルター上でインキュベートするために、溶解緩衝液を上下にピペッティングすることができる。次に、容器を遠心すると、上皮細胞溶解物は濾液中に存在する。
【0101】
いくつかの実施形態では、上皮細胞溶解物は、磁性粒子および(核酸を粒子に結合させるために適した)適切な緩衝液で、別の容器内または特に予備配分された試薬カートリッジの画分内で精製する。このステップは、第1の細胞型の核酸の単離を説明した実施形態と類似の様式で実施する。
【0102】
粒子を使用した実施形態では、核酸(DNAまたはRNA、好ましくはDNA)は、元々細胞集団を隔離するために使用したのと同じ粒子を使用して、上皮または精子溶解物からさらに単離することができる。DNAは、容器内に隔離するために使用した磁性粒子の型に応じて緩衝液条件を変更することによって(例えば、熱、塩を加えるか、pHを上昇または低下させることなどによって)、元の容器内の粒子によって精製する。例えば、隔離する粒子が磁性シリカ粒子の場合、DNAは、容器に5MのGuSCN(グアニジウムチオシアネート)溶液を添加することによって元の容器内で粒子によって捕捉することができる。その後、粒子上のDNAはエタノールで洗浄する。次に、核酸の溶出は、上記に説明した様に実施することができる。あるいは、細胞溶解物からのDNA単離は、その他の商用の実用的な方法、例えば、Promega(Madison、WI)によってDNA IQ(商標)の商標名で供給されるものによって、実施することができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、第2の細胞溶解物はまた、前述のように、自動化された方法または手動によって、容器から除去する。次に、溶解物は、当業界で周知のその後のアッセイ、例えば、核酸精製、増幅、配列決定またはSTR型判定に導入することができる。
【0104】
様々な実施形態では、複数の細胞型を含有する試料中における選択的精子溶解およびその核酸の回収を実施するための成分は、キットとして供給される。粒子の実施形態では、特定のキットは、少なくとも1種の反応容器、特定の量の細胞を含有する試料中の細胞を隔離するために十分であるように予め決定された、磁場に応答するある量の粒子、少なくとも1種の細胞型の細胞を洗浄するために十分なある量の洗浄溶液、第1の種類の細胞を溶解するために十分なある量の選択的溶解緩衝液、第2の細胞型の細胞を溶解するために十分なある量の一般的もしくは選択的溶解緩衝液、および使用するための指示書を含む。いくつかの実施形態では、洗浄溶液はMgCl最終濃度が260mMである1×PBSで希釈されたMgClである。その他の実施形態では、洗浄溶液は、順次使用する成分、例えば、反応緩衝液および/または1×PBS中に供給されたDNアーゼ、1×MgClまたはポリアニオンまたはポリカチオンから構成される。本発明の方法は、磁場源を供給する既存の装置で実施することができる。細胞の隔離は、視覚的に認識することができる。
【0105】
いくつかの非粒子の実施形態では、特定のキットは、少なくとも1種の反応容器、任意選択で、反応容器に適応するサイズ排除フィルター、少なくとも1種の細胞型を洗浄するために十分なある量の洗浄溶液、精子細胞を溶解するために十分なある量の選択的溶解緩衝液、上皮細胞を溶解するために十分なある量の一般的もしくは選択的溶解緩衝液、および使用するための指示書を含む。いくつかの実施形態では、洗浄溶液は、1×PBSで希釈されたMgClである。その他の実施形態では、洗浄溶液は、一連の方法で使用した成分から構成され、反応緩衝液に供給されたDNアーゼ、1×PBS、1×MgCl、ポリアニオンおよびポリカチオンから選択することができる。しかし、本発明は、これらの洗浄成分だけには限られない。
【0106】
本発明はさらに、以下の実施例を参照にして例示する。しかし、実施例は、前述した実施形態のように、例示するものであって、本発明の使用可能な範囲をけっして制限するものではないことに留意されたい。
【実施例】
【0107】
(実施例1)
分画抽出方法の比較:従来技術の洗浄溶液(1×PBS)対MgCl洗浄溶液。
【0108】
MgCl洗浄溶液(最終濃度260mM、1×PBS中)または1×PBS 500μLを、上皮細胞約10000個、精子細胞1000個および残存DNAを含む不純物を含有する不均一な細胞懸濁液50μLを含有する細胞懸濁試料に添加した。その後、洗浄溶液を含む試料を回転フィルター管(Corning spinX Costar 8160、孔径220nm)に移した。この管をBeckman Coulter Microfuge 18遠心器で14000RPMで遠心し、その後、濾液を廃棄した。
【0109】
1×PBSで希釈したNaCl 875mMおよびdTT 85mMを含む選択的精子溶解緩衝液200μLを回転フィルター管に添加した。次に、精子細胞を約5分間混合することによって溶解した。この管をBeckman Coulter Microfuge 18遠心器で14000RPMで遠心し、完全な上皮細胞から精子溶解物を分離した。
【0110】
次に、精子DNA精製は、Applied Biosystems独自のDNA精製方法を使用して実施した。DNAはまた、Promega製のDNA IQ(商標)などの市販のキットを使用して精製することができる。DNA精製後、精子DNAはQuantifiler(登録商標)Y ヒト男性DNA定量キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して定量し、上皮DNAは、Quantifiler(登録商標)ヒトDNA定量キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して定量する。
【0111】
精子または上皮DNAの約1ngは、各増幅反応のために使用した。STR増幅は、GeneAmp(登録商標)PCT System9700(Applied Biosystems、Foster City、CA)で、AmpFISTR(登録商標)Indenfiler(登録商標)PCR増幅キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して、製造元の方法にしたがって実施した。
【0112】
STR型判定は、ABI PRISM 3100遺伝子分析器を使用して実施し、データはGenMapID3.2を使用して分析した。
【0113】
精子細胞分析の結果は、精子DNAおよび上皮DNAの対照試料のSTR型判定と共に図2A〜2Dに挙げる。それぞれの遺伝子座の名称は、対応するピークの下に挙げている。ピークは、特定の上皮細胞および精子細胞ピークそれぞれについてEまたはSで標識する。これらの図に示すように、MgCl洗浄は上皮細胞DNAの混入を排除するために役立ち、1×PBS洗浄よりも上回っている。上皮画分のSTRピークは、MGCl洗浄よりも1×PBS洗浄の方が高い。
【0114】
(実施例2)
MgCl洗浄溶液は、上皮細胞試料から外来性上皮DNAを減少させる。
【0115】
0から260mMの濃度範囲のMgClで、古典的な洗浄溶液、1×PBSを使用したときよりもDNAを結合した表面の除去に効果的であることが見出された(図3)。上皮細胞試料はまずMgClで洗浄し、1×PBSで希釈し、その後混合した。洗浄緩衝液を除去し、細胞は選択的精子溶解緩衝液でインキュベートした。溶解は5分間実施し、その後試料を濾過し、濾液中のDNAを精製して定量した。溶解緩衝液は選択的なので、濾液中に残存するものは、試料中に元々存在する残存上皮DNAである。図3に示すように、残存DNAの量は、1×PBS対照と比較して30mMの低さのMgCl濃度で減少する。最適なMgCl濃度は、図3で明らかなように、160mMと260mMの間である。
【0116】
(実施例3)
分画抽出方法の比較:無DNアーゼ洗浄対DNアーゼ洗浄。
【0117】
MgCl洗浄溶液(最終濃度260mM、1×PBS中)500μLを、性交後試料50μLを含有する細胞懸濁試料に添加した。混合し、室温で5分間インキュベートした後、洗浄溶液を含む試料を回転フィルター管(Corning spinX Costar 8160、孔径220nm)に移した。この管をBeckman Coulter Microfuge 18遠心器で14000RPMで遠心し、その後、濾液を廃棄した。
【0118】
Turbo DNアーゼ(AM2238、Applied Biosystems、Foster City、CA)10単位を含有するDNアーゼ洗浄溶液100μLを回転フィルター管内の2種類の試料の1つに添加した。DNアーゼ洗浄は、37℃で5分間実施した。この管をBeckman Coulter Microfuge 18遠心器で14000RPMで遠心し、その後、濾液を廃棄した。2種類の洗浄溶液(MgClおよびDNアーゼ)の適用は、図1のステップ2に対応する。
【0119】
次に、1×PBSで希釈したNaCl 875mMおよびdTT 85mMを含む選択的精子溶解緩衝液200μLを回転フィルター管に添加した。次に、約5分間混合することによって精子細胞を溶解した。この管をBeckman Coulter Microfuge 18遠心器で14000RPMで遠心し、完全な上皮細胞から精子溶解物を分離した。
【0120】
次に、精子DNA精製は、Applied Biosystems独自のDNA精製方法を使用して実施した。DNAはまた、Promega製のDNA IQ(商標)などの市販のキットを使用して精製することができる。DNA精製後、精子DNAはQuantifiler(登録商標)Y ヒト男性DNA定量キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して定量し、上皮DNAは、Quantifiler(登録商標)ヒトDNA定量キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して定量する。
【0121】
精子または上皮DNAの約1ngは、各増幅反応のために使用した。STR増幅は、GeneAmp(登録商標)PCT System9700(Applied Biosystems、Foster City、CA)で、AmpFISTR(登録商標)Indenfiler(登録商標)PCR増幅キット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して、製造元の方法にしたがって実施した。
【0122】
STR型判定は、ABI PRISM 3100遺伝子分析器を使用して実施し、データはGenMapID3.2を使用して分析した。
【0123】
精子細胞分析の結果は図4A〜4Dに挙げる。それぞれの遺伝子座の名称は、対応するピークの下に挙げる。ピークは、特定の上皮細胞および精子細胞ピークそれぞれについてEまたはSで標識する。これらの図に示すように、MgCl洗浄後のDNアーゼ洗浄は上皮細胞DNAの混入を排除するために役立ち、DNアーゼ洗浄を伴わないMgCl洗浄よりも上回っている。上皮画分のSTRピークは、DNアーゼ洗浄よりも無DNアーゼ洗浄の方が高い。
【0124】
本発明をさらに、以下の特許請求の範囲を参照することによって以下に説明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに混入している残存DNAを含む不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞からDNAを選択的に回収する方法であって、
第1単離ステップで前記媒体から前記混合細胞を単離するステップと、
前記精子細胞を選択的に溶解するステップと、
前記溶解精子細胞からDNAを回収するステップと
を含み、以下の
(a)前記試料を第1洗浄溶液と混合することにより洗浄し、それによって前記第1単離ステップの前に前記細胞の表面から残存DNAを遊離させるステップ、および
(b)前記溶解ステップの前に第1の単離された前記混合細胞を第2洗浄溶液で洗浄し、その後第2単離ステップで前記第2洗浄溶液から洗浄した前記混合細胞を単離するステップ
のうち少なくとも1つを含む方法。
【請求項2】
前記第1洗浄溶液または前記第2洗浄溶液または両方の洗浄溶液が独立して、カチオン塩、MgCl、KCl、NaCl、ポリアニオン、ポリカチオンおよびDNアーゼからなる群から選択される洗浄溶液の1つまたは組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
DNアーゼの濃度が0.01Uから50Uである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、前記第1もしくは第2の単離ステップまたは両方の単離ステップにおいて、磁性粒子、サイズ排除濾過、または遠心によって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子型判定に適した精子STRプロファイルを得るために十分な純度まで前記回収された核酸を精製するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、前記第1単離ステップでは磁性粒子によって、前記第2単離ステップでは遠心によって単離される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第1単離ステップおよび第2単離ステップの少なくとも1つが、
容器内で磁性粒子を前記試料と一緒にするステップと、
前記容器に磁場をかけ、前記粒子を前記磁場の方向に移動させ、それによって前記試料から前記細胞を隔離するステップと、
前記細胞懸濁媒体から前記細胞を単離するステップと
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解ステップが、
前記容器にかけた前記磁場を中断するステップと、
選択的精子溶解緩衝液と前記細胞および磁性粒子とを混合し、それによって精子DNAを含有する溶解物を形成するステップと
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記回収ステップが、
前記容器に磁場をかけ、それによって前記溶解物から前記粒子および残存する細胞を隔離するステップと、
精子DNAを含有する前記溶解物を回収するステップと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2洗浄ステップ(b)が、
前記試料にかけた前記磁場を中断するステップと、
第2洗浄溶液と前記混合細胞とを一緒にするステップと、
前記試料に前記磁場を再度かけ、それによって前記細胞を隔離するステップと、
前記試料から前記細胞を単離するステップと
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに混入している残存DNAを含む不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞からDNAを選択的に回収する方法であって、
任意選択で第1洗浄溶液を含む前記試料をサイズ排除フィルターに導入するステップと、
前記混合細胞を前記フィルター上に隔離し、前記細胞懸濁媒体に濾液を形成させることによって第1単離ステップで前記細胞懸濁媒体から前記細胞を単離するステップと、
前記精子細胞を選択的に溶解するステップと、
前記精子細胞からDNAを回収するステップと
を含み、以下の
前記試料を第1洗浄溶液と混合することによりそれを洗浄して洗浄試料を形成し、それによって前記試料を前記サイズ排除フィルターに導入する前に前記細胞の表面から残存DNAを遊離させるか、または消化するステップ、および
前記単離した混合細胞を第2洗浄溶液で洗浄し、その後前記溶解ステップの前に第2単離ステップにおいて前記第2洗浄溶液から洗浄した混合細胞を単離するステップ
のうち少なくとも1つを含む方法。
【請求項12】
前記第1洗浄溶液または前記第2洗浄溶液または両方の洗浄溶液が独立して、カチオン塩、MgCl、KCl、NaCl、ポリアニオン、ポリカチオンおよびDNアーゼからなる群から選択される洗浄溶液の1つまたは組合せを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
DNアーゼの濃度が0.01Uから50Uである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
遺伝子型判定に適した精子STRプロファイルを得るために十分な純度まで回収された核酸を精製するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
混合された精子細胞および上皮細胞、ならびに混入している残存DNAを含む不純物を含む細胞懸濁媒体を含有する試料中の精子細胞から核酸を選択的に回収する方法であって、
任意選択で第1洗浄溶液を含む前記試料を遠心して細胞ペレットおよび任意の第1洗浄溶液を含む前記懸濁媒体を含有する上清を形成し、それによって前記懸濁液から前記混合細胞を隔離するステップと、
第1単離ステップで前記上清から前記混合細胞を単離するステップと、
前記精子細胞を選択的に溶解するステップと、
前記精子細胞からDNAを回収するステップと
を含み、以下の
前記試料を第1洗浄溶液と混合することによりそれを洗浄して洗浄試料を形成し、それによって前記試料を遠心する前に前記細胞の表面から残存DNAを遊離させるか、または消化するステップ、ならびに
前記単離された混合細胞を第2洗浄溶液で洗浄し、その後洗浄した前記混合細胞と第2洗浄溶液を遠心してペレットおよび上清を形成し、それによって、前記溶解ステップの前に、第2単離ステップにおいて、前記懸濁液から前記洗浄細胞を隔離し、前記上清から前記混合洗浄細胞を単離するステップ
のうち少なくとも1つを含む方法。
【請求項16】
前記第1洗浄溶液または前記第2洗浄溶液または両方の洗浄溶液が独立して、カチオン塩、MgCl、KCl、NaCl、ポリアニオン、ポリカチオンおよびDNアーゼからなる群から選択される洗浄溶液の1つまたは組合せを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子型判定に適した精子STRプロファイルを得るために十分な純度まで前記回収された核酸を精製するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公表番号】特表2010−534476(P2010−534476A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518337(P2010−518337)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/070792
【国際公開番号】WO2009/015159
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】