説明

法面被覆護岸工用遮水シート並びに法面被覆護岸の施工方法及び護岸構造

【課題】遮水シートを通して堤体内の空気(ガス)の排出が可能でありながらも、破損し難い法面被覆護岸工用遮水シートを提供すること、並びにこれを用いた法面被覆護岸の施工方法、及び護岸構造を提供することを目的とする。
【解決手段】止水材Eと被覆材Fが積層された遮水シートIである。止水材Eは、ガス透過性防水層Aとこれを覆う保護層Bからなるガス透過性防水シートCと、この堤土側に滑動防止層Dとを備えたものである。被覆材Fは補強布H入り繊維フェルトGを備えたものである。遮水シートIを、滑動防止層Dが堤土60側となるように敷設し、その上に硬性ブロック体18を敷設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川堤体等における法面被覆護岸工用の遮水シート、並びにこれを用いた法面被覆護岸の施工方法、及び護岸構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川港湾施設等の各種護岸において、堤体の侵食、ひいては崩壊を防止する目的で、その法面をコンクリートやコンクリートブロックで被覆することが一般に行われている。しかし、コンクリートやコンクリートブロックには目地部が存在することから、単にコンクリートやコンクリートブロック等で堤土表面を被覆しただけであると、上記目地部から堤体内に雨水や河川等の水が浸透し、河川等の水位が高くなったときには堤体内部の水位(地下水位)もそれに伴って上昇し、所謂パイピングによる破壊を招く虞がある。そこで従来より、コンクリート下の堤土表面に遮水シートを敷き詰め、堤体内部に水が侵入しない様にすることが行われている。
【0003】
斯様な遮水シートとしては、例えば防水機能を有する基材シートを発泡合成樹脂シート(堤土側)と不織布(コンクリートブロック側)で挟んだ複合防水シートが提案されている(例えば特許文献1参照)。この発泡合成樹脂シートには凹凸が形成されており、堤体側土質構造に対して高い摩擦力を示してズレを防止している。またコンクリートの目地部を通して浸透した雨水等は、上記不織布をドレーン層として法尻方向に流れる様になっている。
【0004】
また他の遮水シートとして、堤土側にシボを形成した止水材を用い、この止水材の表側(コンクリートブロック側)に補強布付き繊維製フェルトを接着したものが知られている(例えば特許文献2の図17参照)。更に遮水シート上に載置するコンクリートブロックを省略するべく、このコンクリートブロックの機能を併せ持つものとして、蛇腹状に屈曲した樹脂ネット層を上記止水材+補強布付き繊維製フェルトの表側に接着した河川堤防遮水マットも提案されている(例えば特許文献2の図1等参照)。
【0005】
他方、地面と遮水シートの間に溜まるガスを放出する為、防水シートの数カ所に開口部を形成し、この開口部に通気性及び遮水性能を有するシートを1枚或いは数枚貼り合わせた積層シートが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】実開昭63−121632号公報
【特許文献2】特許第3836846号公報
【特許文献3】実開平7−17815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、河川等の水位が上昇して堤体内の飽和度が上昇すると、間隙水圧が高まり、これに押されて堤体内土粒子間にある空気(ガス)が堤体内を移動し、法面側に押し出される。このとき、法面表面に防水シートが敷設してあると、堤体内の空気は行き場を失って堤体内圧力が上昇する。なお堤体内の空気は、防水シートが敷設されていない狭い範囲で堤外に排出されることとなるが、これでは円滑に排出されないので、堤体内圧力の上昇は避けられない。このため円滑に排出されて堤体の安定性が向上することが望まれる。
【0007】
一方、上記特許文献3の如く防水シートに設けた開口部に通気・遮水性シートを貼り付けた積層シートであれば、該積層シートを通して堤体内の空気の排出が可能である。しかし、通気している個所は防水シートの開口部であるので、良好な通気性(ガス透過性)を確保するには上記開口部を或る程度大きくする必要があり、この様に或る程度大きくすると、当該開口部の個所においては通気・遮水性シートの単層であることから強度が弱く、破損する懸念がある。殊に遮水シートの上に、コンクリートブロックの様に重く硬いものを載置する工法(石・ブロック積工)の場合には、容易に破損する虞がある。
【0008】
そこで本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、遮水シートを通して堤体内の空気(ガス)の排出が可能でありながらも、破損し難い法面被覆護岸工用遮水シートを提供すること、並びにこれを用いた法面被覆護岸の施工方法、及び護岸構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る法面被覆護岸工用遮水シートは、止水材と被覆材が積層された遮水シートであって、前記止水材は、防水シートと、この防水シートの堤土側に滑動防止層とを備えたものであり、前記防水シートがガス透過性を備えた防水層(以下、ガス透過性防水層と称し、ガス透過性のない従来の防水層と区別する)と、この少なくとも一方面を覆うガス透過性を備えた保護層からなり、前記滑動防止層がガス透過性を有し、前記被覆材は、補強布入り繊維フェルトを備えたものであることを特徴とする。なお以下、ガス透過性防水層と保護層からなる本発明の上記防水シートをガス透過性防水シートと称し、ガス透過性のない従来の防水シートと区別する。
【0010】
ガス透過性防水層は防水性を示すと共にガス透過性を示すものであり、その他の層である保護層や滑動防止層、補強布入り繊維フェルトはいずれもガス透過性を示すが、防水性を示すとは限らないものである。従って法面被覆護岸工用遮水シートにおける防水機能はガス透過性防水層によって担われている。そしてこのガス透過性防水層は、堤体内外に空気等のガスを透過させることができるので、堤体内の間隙水圧の変化に応じて、法面被覆護岸工用遮水シートを施工した法面から堤体内ガスの排出等を行うことができる。また堤体内の過剰な水分を水蒸気として堤外に排出することができるので、堤内水分率を安定化することもできる。
【0011】
斯様なガス透過性防水層としては微多孔膜、無孔透湿シート、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布から選択される1種以上が挙げられる。
【0012】
これらガス透過性及び防水性を示すシートは一般に強度が弱いものであるが、本発明においては上記の様にガス透過性防水層に保護層が積層されており、この保護層には開口部等は形成されておらず、ガス透過性防水層の面積の至る所においても覆っているから、ガス透過性防水層が保護され、破損し難い。
【0013】
上記保護層としては長繊維不織布が好ましく、該長繊維不織布であれば空気や水蒸気といったガスを良好に透過すると共に、強度に優れるからである。尚、ガスを良好に透過するという観点からは短繊維不織布であっても良いが、強度の点を勘案すると長繊維不織布が優れている。
【0014】
また本発明の法面被覆護岸工用遮水シートにおいては、前記ガス透過性防水シートの透湿度が1500g/m2/24時間以上であることが好ましい。透湿度はガス透過性の指標であるが、透湿度が低すぎると、堤体内の間隙水圧が急激に上昇した場合に、法面への移動空気圧によるガス排出が不十分になって堤体不安定化する虞があるからである。上記の如くの透湿度であれば、ガス透過性が良好であり、堤体内のガスを良好に堤外に排出することが可能である。従って堤体内の間隙水圧が上昇したとき、法面への移動空気圧による堤体不安定化の防止が良好になされる。透湿度の上限は特に限定されないが、20000g/m2/24時間以上では、耐水圧が低くなる懸念があるので、これ以下とするのが好ましい。更に好ましい透湿度は2000g/m2/24時間以上、10000g/m2/24時間以下である。
【0015】
また遮水性を保持する観点から、前記ガス透過性防水シートの耐水圧が50kPa以上であることが好ましく、より好ましくは100kPa以上である。耐水圧が低すぎると、堤体内へ水が浸入する虞があるからである。仮に耐水圧が低すぎて透水性を示すと、堤防裏法面への通水により、堤体内や法面が侵食され、堤全体の崩壊につながることがある。耐水圧の上限は特に限定されないが、耐水圧を高くすると透湿度(ガス透過性)が低下することがあるので、耐水圧については、ガス透過性を保持しつつ高くするのが望ましい。
【0016】
加えてガス透過機能及び防水機能を長期に保持する観点から、前記ガス透過性防水シートの引張強さが100N/5cm以上、且つ引裂強さが20N以上であることが好ましい。ガス透過性防水シートの引張強さや引裂強さが低すぎると、外力の負荷でガス透過性防水シートが変形し、ガス透過性防水層が破損する虞があるからである。より好ましくは引張強さ200N/5cm以上、引裂強さ30N以上である。一方、ガス透過性防水シートの引張強さや引裂強さを高くすると、シートの風合いを硬くする傾向にあり、硬くなり過ぎた場合に製造時や保管・運搬用にロール形状に巻き取るにあたって作業が困難となる上、一般的に構成素材の質量を上げることになる為、施工の際に作業者の負担となる。これ故、引張強さ2000N/5cm以下、引裂強さ200N以下が好ましい。
【0017】
前記滑動防止層は、堤土とのなじみを向上させ滑落を防止するためのものであり、上記の如くガス透過性防水シートの堤土側に設けられる。
【0018】
この滑動防止層としては、線状体を交絡部が存在する様に任意な2次元的ループ状に配したものであることが好ましい。この「交絡部が存在する様に任意な2次元的ループ状に配されたもの」としては、2次元的なランダムループ状のものや2次元的な規則的ループ状のものが挙げられる。尚上記ランダムループ状には、線状体が完全にランダムに配置されたものの他、多少規則性のあるランダムループ状も含まれる。
【0019】
つまり滑動防止層としては、前記ガス透過性防水シート上に線状体を2次元的な例えばランダムループ状に配してガス透過性防水シート上に凸凹を形成したものであることが好ましい。
【0020】
上記線状体がガス透過性防水シートから盛り上がった突起(凸部)となり、堤土をグリップして滑り止め効果を発揮する。加えて上記の如くランダムループ形状に配すれば、方向性がランダムであるので、あらゆる方向からの応力に抵抗を示すことができ、良好な滑り止め効果を示し得る。また例えば螺旋状の様に規則的ループ形状に配した場合も、あらゆる方向からの応力に抵抗を示すことができ、良好な滑り止め効果を示し得る。
【0021】
尚3次元的なループ(例えば3次元的ランダムループ)の場合は、より高い突起となるから堤土のグリップ力の点では優れるものの、該3次元ループではループ間の接点が少なくなる為に、外力によって接点が外れ易くなる。これに対して2次元ループ(例えば2次元ランダムループ)では、ループを倒れさせて該ループを重なり合わせるので、接点が多くなり、これにより外れ難く、丈夫な滑動防止層となる。
【0022】
上記滑動防止層を構成する線状体の交絡部の厚さ及びその横方向走査ポイントは、堤土とのなじみ性に影響することから重要である。この滑動防止層における上記交絡部の平均厚さ(後述の測定法による)は1〜10mm(より好ましくは2〜5mm)であることが好ましい。交絡部の平均厚さが薄すぎると、堤土とのなじみが不十分になり、滑落防止機能を十分発現できない懸念があるからである。一方、厚すぎると、施設前のロ−ル径が大きくなる為に取り扱い難く、輸送コスト、保管コストが高くなるからである。なお以下、滑動防止層における上記交絡部の平均厚さを、滑動防止層の厚さと称することがある。
【0023】
滑動防止層における上記線状体の横方向走査ポイントは、本発明の遮水シートを法面に設置したときの、法足方向(重力方向)を横切る線状体の本数に対応し、後述の測定法から分かるように、長さ方向の基準線を長さ200mmあたり横切る線状体の本数(線状体が横切った箇所の数)の平均(幅300mmに幅10mmピッチで設けた30の長さ方向基準線について、各々横切る線状体の本数を測定し、これを平均する)で表す。
【0024】
線状体横方向走査ポイントは6.0箇所/200mm以上が好ましく、より好ましくは7.0箇所/200mm以上である。線状体横方向走査ポイントの値が大きいほど堤土へのグリップ力が向上し、遮水シートのずり落ちを防止することができるからである。一方、線状体横方向走査ポイントが大き過ぎるものでは、隣接する線状体同士が接触して凹凸の差があまり出なくなり、却ってグリップ力に劣る結果になる虞がある。従って線状体横方向走査ポイントを40箇所/200mm以下とするのが好ましい。ところで滑動防止層の製造方法としては、溶融状態ないし半溶融状態の線状体を吐出口から吐出し、これを進行する長尺シート上に落下させて形成する手法が考えられ、この手法の場合に、線状体が製造流れ方向(長さ方向)を横切る回数を多くするには、上記の吐出量を多くし、製造ライン速度を低下させることが考えられる。しかし、あまりに製造ライン速度を遅くすることは製造コストを高騰させて好ましくない。加えてこれ以外の製造方法を採用しても線状体を過度に密にすることは困難である。斯様な製造手法の観点からも線状体横方向走査ポイントの上限を40箇所/200mm以下とするのが好ましい。
【0025】
また該滑動防止層の見掛け密度が30〜200kg/m3であることが好ましい。見掛け密度が低すぎる場合は、繊維本数が少なくなり、堤土への固定機能が不十分となって滑落防止効果が低下する懸念があるからである。より好ましくは50kg/m3以上である。一方、見掛け密度が高すぎる場合は、凸部が多くなり過ぎる為に凹部(線状体と線状体の間)に堤土が入り込まず、滑落防止効果が低下するからである。またシート重量が重くなり、取り扱い性も悪くなる。より好ましくは180kg/m3以下である。
【0026】
本発明の遮水シートにおける止水材は、これらガス透過防水層と保護層,滑動防止層が積層されたものであるが、止水材として機能するためには、各層が接合一体化して剥離しないことが必要である。この為には、前記滑動防止層と前記ガス透過性防水シートとの剥離強力が15N以上(より好ましくは30N以上)であることが好ましい。剥離強力が低すぎると、遮水シートと堤土部との剪断負荷で、滑動防止層がガス透過性防水シートから剥離する可能性があるからである。また前記ガス透過性防水層と前記保護層との剥離強力が10N以上(より好ましくは20N以上)であることが好ましい。剥離強力が低すぎると、ガス透過性防水層と保護層が剥離して、ガス透過性防水層が損傷して透水防湿機能を失う虞があり、加えて遮水シートにおけるガス透過性防水層と保護層間で滑動し、法面全体が変形損傷する虞があるからである。
【0027】
一方、剥離強力を非常に高くするには、例えば接着剤による接合方法では接着剤を大量に必要とする。この為に質量が増して施工の際に作業者の負担となる。これ故、滑動防止層とガス透過性防水シートとの剥離強力、並びにガス透過性防水層と保護層との剥離強力は100N以下にすることが推奨される。
【0028】
本発明に係る法面被覆護岸の施工方法は、前記法面被覆護岸工用遮水シートを、その滑動防止層が堤土側となるように敷設し、その上に硬性ブロック体を敷設することを特徴とする。なお硬性ブロック体としては、コンクリートブロックや石等が挙げられる。
【0029】
また本発明に係る護岸構造は、前記法面被覆護岸工用遮水シートが、その滑動防止層を堤土側にして堤土上に配置され、前記法面被覆護岸工用遮水シートの上に硬性ブロック体が配置されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る法面被覆護岸工用遮水シートであれば、ガス透過が可能でありながらも破損し難い。従ってこの法面被覆護岸工用遮水シートを用いた本発明の護岸構造であれば、堤体内外にガス透過が可能であるので、例えば堤体内の圧力が高まったときに堤体内の空気や水蒸気を円滑に排出でき、堤体の安定性が向上する。また本発明に係る法面被覆護岸の施工方法によれば、上記の如くの護岸構造を施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は本発明の実施形態1に係る法面被覆護岸工用遮水シート10を堤土60上に配置した様子を示す断面図である。この遮水シート10は止水材Eの外側(反堤土側)に被覆材Fを接合したものである。止水材Eは、ガス透過性防水シートCの堤土側に滑動防止層Dを接合したものであり、ガス透過性防水シートCはガス透過性防水層Aの堤土側に保護層Bを接合したものである。被覆材Fは、補強布Hを2枚の繊維フェルトGで挟んで接合したものである。
【0032】
図2は本発明の実施形態2に係る法面被覆護岸工用遮水シート20を堤土60上に配置した様子を示す断面図である。実施形態2の遮水シート20では、ガス透過性防水シートCとしてガス透過性防水層Aの表裏面に保護層Bを接合したものを用いており、これ以外は実施形態1と同様である。
【0033】
この様に実施形態1,2の遮水シート10,20は、堤土側に止水材Eが配されるものであって、該止水材Eはガス透過機能及び防水機能を有するガス透過性防水層Aを備えるから、外からの雨水や河川等の水が堤内に侵入するのを防止できると共に、堤土内外にガスを透過できて堤土内の過度な圧力上昇等を防止できる。そしてガス透過性防水層Aの少なくとも一方面が保護層Bで覆われているから、ガス透過性防水層Aは損傷を受け難い。また止水材Eは、堤土側の保護層Bの更に堤土側に滑動防止層Dを有するから、堤土60とのなじみが良好になり、摩擦力が高められ、遮水シート10,20を堤土60に良好に固定できる。
【0034】
以下、法面被覆護岸工用遮水シート10,20における各層について詳細に説明する。
【0035】
<遮水シートにおけるガス透過性防水層について>
ガス透過性防水層Aは防水性及びガス透過性を示すものであり、その材料としては微多孔膜、無孔透湿シート(無多孔膜)、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布等が挙げられる。
【0036】
上記微多孔膜としては、(1)樹脂組成物に無機充填材を分散させて製膜し、延伸により多孔化したものや、(2)樹脂に発泡剤を添加分散させて製膜し、加熱発泡により多孔化したもの、(3)製膜後、添加物を蒸発等で除去し、延伸して多孔化したもの等が挙げられる。
【0037】
上記無孔透湿シートは、ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマーを原料として製造することができる。例えば、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。
【0038】
上記ポリエステル系エラストマーとしては、(1)芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレンジオールをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体、または、(2)脂肪族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレンジオールをソフトセグメントとするポリエステルエステルブロック共重合体が例示できる。上記ポリエステルエーテルブロック共重合体のより具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2・6ジカルボン酸、ナフタレン2・7ジカルボン酸、ジフェニル4・4′ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1・4シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸または、これらのエステル形成性誘導体などから選択されるジカルボン酸の少なくとも1種と、1・4ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1・1シクロヘキサンジメタノール、1・4シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成される三元ブロック共重合体が挙げられる。ポリエステルエステルブロック共重合体としては、上記ジカルボン酸と、ジオール、及び平均分子量が約300〜3000のポリラクトン等のポリエステルジオールのうち少なくとも各1種から構成される三元ブロック共重合体が挙げられる。
【0039】
熱接着性、耐加水分解性、伸縮性、耐熱性等を考慮すると、ジカルボン酸としてはテレフタル酸やナフタレン2・6ジカルボン酸、ジオール成分としては1・4ブタンジオール、ポリアルキレンジオールとしてはポリテトラメチレングリコールの三元ブロック共重合体、またはポリエステルジオールとしてポリラクトンの三元ブロック共重合体が特に好ましい。特殊な例では、ポリシロキサン系のソフトセグメントを導入したものも使うことができる。また上記ポリエステルエラストマーは単独または2種類以上混合して使用できる。更には、ポリエステルエラストマーに非エラストマー成分をブレンドしたものや、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0040】
上記ポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等、またはこれらの共重合ナイロンを骨格として用い、ソフトセグメントに、平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成されるブロック共重合体を単独または2種類以上混合して用いたものが挙げられる。更には非エラストマー成分をブレンドしたものや、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0041】
上記ポリウレタン系エラストマーとしては、通常の溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)の存在または不存在下に、[a]:数平均分子量1000〜6000の末端に水酸基を有するポリエーテル及び/又はポリエステルと、[b]:有機ジイソシアネートを主成分とするポリイソシアネートを反応させた両末端がイソシアネート基であるプレポリマーに、[c]:ジアミンを主成分とするポリアミンにより鎖延長したポリウレタンエラストマーを代表例として挙げることができる。上記[a]のポリエステル、ポリエーテル類としては、平均分子量が約1000〜6000(好ましくは1300〜5000)のポリブチレンアジペート共重合ポリエステルやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールが好ましい。上記[b]のポリイソシアネートとしては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができるが、ジフェニルメタン4・4′ジイソシアネートを主体としたイソシアネートを用い、必要に応じて従来公知のトリイソシアネート等を微量添加使用しても良い。上記[c]のポリアミンとしては、エチレンジアミン、1・2プロピレンジアミン等公知のジアミンを主体とし、必要に応じて微量のトリアミン、テトラアミンを併用しても良い。これらのポリウレタン系エラストマーは単独又は2種類以上混合して用いても良い。
【0042】
ガス透過性防水層Aとして用いる上記メルトブロー不織布としては、繊維径0.1μm〜5μmの繊維から構成されたものが好適である。繊維径が太いと繊維間隙が大きくなって防水性を発現し難くなるので好ましくない。またこのメルトブロー不織布としては、カレンダー加工により繊維充填率を増やして繊維間隙を小さくしたものが好適である。素材は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド系等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。このうちでも、加工性と価格などの観点から、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0043】
ガス透過性防水層Aとして用いる上記フラッシュ紡糸不織布には、その素材として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド系等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。このうちでも、加工性と価格などの観点から、ポリエチレンが特に好ましい。
【0044】
<遮水シートにおける保護層について>
前述の様に、上記の様なガス透過性防水層Aには、損傷を防止してガス透過性防水シートとしての強さを確保する目的で保護層Bが積層される。保護層Bはガス透過性防水層Aの少なくとも一方面に積層すれば良いが、より良好に保護する観点から、ガス透過性防水層Aの両面に配置することがより好ましい(図2参照)。尤も一方の面のみに配置する場合であっても、ガス透過性防水層Aの堤土側に保護層Bを配置する様にすれば、ガス透過性防水層Aの外側(反堤土側)は被覆材Fによって保護される(図1参照)。
【0045】
保護層Bは、強度を保持する観点から、長繊維不織布からなるものであることが好ましい。特にスパンボンド不織布が好ましい。素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド系等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。このうちでも不織布の機械的強度、価格の観点から、ポリエステル系スパンボンド不織布(例えばポリエチレンテレフタレートスパンボンド不織布)がより好ましい。接着加工性の観点から、ポリオレフィン系(プロピレンなど)スパンボンド不織布も好ましい。滑動防止層Dと接合する観点から、機械的特性が優れた熱圧着タイプのスパンボンド長繊維不織布が特に好ましい。
【0046】
上記長繊維不織布における繊維形態については、単一成分である必要はなく、芯鞘型、サイドバイサイド型、多葉型等の複合繊維でも良い。繊維断面に関しても丸断面に限定されものではなく、三角、扁平などの異形断面繊維であっても良い。
【0047】
<遮水シートにおける滑動防止層について>
滑動防止層Dは滑り止めの作用を発揮するものであり、ガス透過性防水シートCの堤土側に設けられる。具体的には、滑動防止層Dは、保護層Bの堤土側平面上に線状体をランダムループ状に配した2次元構造のものである(例えば図3:2次元的なランダムループ状に配された線状体(滑動防止層D)の一例を示す図)。この滑動防止層Dの厚さ(線状体の交絡部の平均厚さ)は1〜10mm(より好ましくは2〜5mm)で、見掛け密度が30〜200kg/m3(より好ましくは50〜180kg/m3)、線状体横方向走査ポイントが6.0箇所/200mm以上であることが好ましい。
【0048】
滑動防止層の凸部(ランダムループ)を形成する線状体の直径は特には限定されないが、0.5〜5mmが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mmである。当該線状体の直径が0.5mm未満では、堤土60への喰い込みが不足し、ループの荷重負荷が低くなるので、滑落防止効果が低下する虞があるからである。一方5mmを越えると、凹部(凸部同士の間に形成される窪み)を所定の大きさで確保するには、一定面積に配する構成ループ本数を少なくせざるを得ず、また逆に構成ループ本数を所定量確保すると、凹部が小さくなり過ぎ、いずれにしても滑落防止効果が低下する懸念があるからである。
【0049】
上記線状体の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド系等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。
【0050】
<遮水シートにおける被覆材について>
被覆材Fは外部からの強い衝撃、或いは大きな力や圧力の負荷に耐えるため、補強布入り繊維フェルトで構成する。必要な特性としては、「国土交通省 土木工事共通仕様書第6編河川編 第1章 表1−3」(以下、国土交通省規定と称することがある)を満たせば、特に制限はないが、被覆材Fの厚みが10mmの場合、密度が130kg/m3以上、圧縮率が13%以下(より好ましくは10%以下)、引張強さが750N/5cm以上、伸び率が60%以上、耐薬品性での不溶解分が97%以上であることが好ましい。なお、被覆材Fの厚みは10mm以上であっても良い。
【0051】
被覆材F(補強布入り繊維フェルト)は、繊維フェルトGを補強するため、2枚の繊維フェルトGの間に補強布Hを挟んだものであり、この積層体をニードルパンチにより絡合して補強一体化したものが好ましい。使用する補強布Hとしては織物が挙げられ、具体的には平織物、ターポリン、カンバス、フラットヤーンクロス等が挙げられる。このうちでも比較的安価であるという観点から強力フラットヤーンクロスが好ましい。
【0052】
繊維フェルトGとしては、長繊維不織布、短繊維不織布などが使用可能である。尤も上記国土交通省規定を満足するには、被覆材Fの厚みとして10mm以上必要であるため、厚みを確保する観点から短繊維不織布(短繊維を開繊積層して交絡接合したものや、圧縮熱接着して一体化したもの、反毛フェルトなど)が好ましい。強力を高める目的で、短繊維不織布に長繊維不織布を積層したものも好ましい実施形態である。
【0053】
被覆層Fにおける繊維フェルトGの素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド系等の熱可塑性樹脂が挙げられ、更にセルロースや絹などが含まれても問題ない。
【0054】
<遮水シートにおける各層の接合について>
法面被覆護岸工用遮水シートは、ガス透過・防水機能を保持しつつ外力の負荷に耐える必要があることから、被覆材Fと止水材Eは接合一体化していることを要する。また止水材Eについてその機能を発揮させるため、各層が接合一体化して剥離しないことを要する。
【0055】
止水材Eにおいて、滑動防止層Dと保護層Bとの接合方法は特には限定されないが、熱接着接合や接着剤での接合が好ましい。
【0056】
またガス透過性防水層Aと保護層Bの接合方法としては、接着剤での接合が特に好ましい。熱接着接合では、特にガス透過性防水層Aに熱可塑性樹脂を使用した場合に、熱量を適切に調整しないと、溶融による孔開きを生じて防水特性を損なう懸念があるからである。
【0057】
被覆材Fと止水材Eの接合に関し、止水材Eにおける滑動防止層Dとは反対面に被覆材Fを接合する。なお図2の如くガス透過性防水層Aの両面が保護層Bで接合されている場合は、被覆材Fの繊維フェルトGと保護層Bが接合されることとなり、図1の如くガス透過性防水層Aの堤体側面のみに保護層Bが接合されている場合は、被覆材Fの繊維フェルトGとガス透過性防水層Aが直接接合されることとなる。これらの接合方法としては接着剤での接合が特に好ましい。
【0058】
繊維フェルトGと、保護層B又はガス透過性防水層Aとの剥離強力は、10N以上(より好ましくは20〜100N)が好ましい。剥離強力が低いと、ガス透過性防水層Aと繊維フェルトGが剥離したとき、ガス透過性防水層Aが損傷してしまい、ガス透過性防水機能を失う虞があるからである。また剥離すると、遮水シートの層間が滑動して法面全体が変形損傷する場合があるので、剥離強力は高い方が好ましい。
【0059】
<遮水シートの製造方法の一例>
以下に法面被覆護岸工用遮水シートの製造方法の一例について説明する。
【0060】
まず保護層Bの作成方法の一例を示す。なお保護層Bが長繊維不織布からなる場合について述べる。
【0061】
保護層Bに用いる繊維の紡糸原料として、固有粘度0.5以上、0.80以下のポリエチレンテレフタレートを真空乾燥して、少なくとも水分率を0.003質量%以下としたものが推奨される。保護層Bにおける繊維としては固有粘度0.63以上が望ましいが、水分率が0.03質量%以上の場合は、水分による加水分解を生じる為に上記固有粘度0.63以上の繊維が得られない場合があるので好ましくない。より好ましい水分率は0.002質量%以下である。また乾燥工程を省略して、紡糸段階でベントより水分を除去しても良く、この場合は、押出機で溶融される直前及び直後に高真空で水分を除去する方法が推奨される。なお、保護層Bである不織布に、難燃性、耐光性、着色性等の機能が所望される場合は、改質剤等を共重合させるか、或いは後練り込みによる添加によってポリエチレンテレフタレートを改良して用いても良い。
【0062】
そして上記の如くの紡糸原料を用い、常法により、溶融紡糸を行う。紡糸温度は、ポリエチレンテレフタレートの融点より15℃〜50℃高い温度が推奨される。より好ましくは25℃〜35℃高い温度である。固有粘度が比較的低い場合は低い紡糸温度設定とし、固有粘度が比較的高い場合は高目に設定することが推奨される。斯様な温度でオリフィスから溶融ポリマーを吐出する。オリフィス形状としては丸断面が推奨される。吐出量は引取速度に応じて所望の繊度となる最適量とするのが好ましい。保護層Bでの好ましい繊度は1dtex〜3dtexであり、この繊度の繊維とするには、引取速度が5000m/分の場合、単孔あたりの吐出量を0.5g/分〜1.5g/分とするのが好ましい。吐出するノズルとしては、小さなノズルを多数列設置しても良いし、或いは多列の孔を有する一枚のノズルを用いても良い。吐出された溶融線条は、これを冷却しつつ細化させるべく、アスピレーター機能をもつエジェクターで引取り、搬送ネット上に振落とす。この際、所望の目付量及び所望の繊維配列状態に調整し、開繊積層したウエッブを形成する。
【0063】
上記ウエッブの繊維配列としては、全方向に耐変形特性が発揮できるという観点から、ランダム配列が好ましい。ランダム配列を適用するにあたり、例えば、単孔吐出量が一定の場合は、オリフィス列数を多くして繊維を拡散させれば、搬送ネット速度を高速化しても、縦方向(搬送ネットの進行方向)に繊維が配列するのを抑制して生産性を良くすることができる。このとき、繊維は弾性回復限界内で遅延回復して力学特性が低下することがある。この為、本発明においては、開繊積層したウエッブの遅延回復を直ちに抑制してウエッブ形態を固定する方法が推奨される。具体的には、引取りネットで挟み込み固定化する方法や、押さえローラーによる固定化方法が例示できる。予備エンボス加工等によりウエッブの取り扱い性を向上させる場合は、ドットエンボスが望ましい。
【0064】
次いで、得られた積層ウエッブについて連続または非連続でエンボス加工を施す。エンボス形状は所望する不織布表面の必要機能に応じてドット形状やプレーン形状等最適なものを選択する。更にドット形状の場合にその密度等についても最適なものを選択して処理する。本発明における保護層Bでの遮水シート補強層用途としては、細かい文様のドットエンボスが推奨される。強度が向上するからである。ドットエンボスの好ましい潰し密度は5%〜30%、より好ましくは10%〜25%である。加工温度は220℃〜260℃、線圧は20kN/m〜150kN/mの範囲で所望のエンボス形態に設定し、且つ、不織布中の繊維の断面形状を大きく潰すことなく、必要な引張強度と厚みになるように設定するのが望ましい。
【0065】
その後、所望の幅にスリットし、所望の長さと巻き径に巻き取る。斯様にして、保護層Bとしてのスパンボンド不織布が得られる。
【0066】
次にガス透過性防水層Aの作成方法例について説明する。
【0067】
ガス透過性防水層Aが微多孔膜である場合について述べる。この微多孔膜は、例えば、特許第3138079号公報等に記載の公知の方法にて、熱可塑性樹脂に微粒子等を混合混練し、常法により、融点より10〜80℃高い温度に加熱して溶融状態でダイより押し出し、延伸して微多孔を形成し、これを巻き取る。斯様にして微多孔膜を得ることができる。本発明に用いるガス透過性防水層Aは、保護層Bで保護されるとは言え、ガス透過・防水機能と共に引張強さと引裂き強さが或る程度必要なため、微多孔膜の厚みは30μm以上が好ましく、より好ましくは80μm以上である。
【0068】
ガス透過性防水層Aが無多孔膜である場合について述べる。この無多孔膜は、ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマーを原料として得ることができる。例えば、バードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを用い、ソフトセグメントにポリエーテルを用いたブロック共重合ポリエステルを原料として用いることができ、このブロック共重合ポリエステルは特開昭55−120626号公報等に記載の公知の方法で得ることのできる熱可塑性弾性樹脂である。このブロック共重合ポリエステルを、常法により、融点より10〜80℃高い温度に加熱し、一般的な溶融押出機を用いて溶融状態でダイより押し出す。これを引取りローラー上で離型ラミフィルムと共巻きしてエラストマーフィルムを得る。なお離型ラミフィルムと共巻きにするのは、取扱性を良好にするためである。このエラストマーフィルムの無多孔膜の場合も、力学特性を満足させるために、物性に応じた厚み調整を行う必要がある。
【0069】
上記の如く得られたガス透過性防水層A(微多孔膜、無多孔膜)は空気や水蒸気の発散が可能で、水を通さないものである。
【0070】
ガス透過性防水層Aと保護層Bの接合にあたっては、ガス透過性防水層Aにスプレー等で接着剤を付与しながら、上記保護層Bであるスパンボンド不織布を積層し、カレンダー等を用いて熱圧着する。この様にしてガス透過性防水層Aに保護層Bが積層接着されたガス透過性防水シートCが得られる。
【0071】
次いで、このガス透過性防水シートCに滑動防止層Dを接合する。
【0072】
滑動防止層Dの素材として熱可塑性樹脂を用い、これを溶融状態で線状にガス透過性防水シートC上に落下させ、ランダムループ状を形成させて滑動防止層Dを形作ると同時に、ガス透過性防水シートCに接合させる。滑動防止層Dの素材には、ガス透過性防水層Aに損傷を与えない温度で接合できる熱可塑性樹脂を選択するのが好ましい。例えば、ガス透過性防水層Aがポリエチレンからなる場合は、滑動防止層Dとしてポリエチレンが好ましい。例えばポリエチレンの場合、特開昭47−44839号公報等に記載の常法により、融点より10〜80℃高い温度に加熱して溶融状態とし、間隔を広くとった多孔オリフィスダイより太い繊度の溶融繊条を吐出させる。このとき立体網状構造化させるのではなく、溶融状態のまま直接保護層Bに落下させ、上記の如くランダムループを形成させる(例えば様々な螺旋状を形作る)と同時に、このループを保護層Bと接合させる。この際、吐出繊条量と引取速度を調整することにより、所望の見掛け密度に調整する。繊度(太さ)はオリフィス孔径と吐出量および引取位置で調整できる。太い繊度にするには、孔径を太くして、吐出量を多くし、引取位置を短く(ダイと引取位置距離を短く)する。
【0073】
上記の様に滑動防止層Dは、立体形状ではなく平面形状となるようにループを形成するのが好ましい。平面化するには、冷却時間を延ばして緩和時間を長くとる方法(通常、溶融紡糸においては直ちに水冷して立体網状化させるが、本発明の滑動防止層Dの形成にあたっては、水冷しないで徐冷させてループを平面化させる)と、2〜10mmのクリアランスを持つローラー間で連続して溶融状態のループを所望厚みまで圧着して平面化する方法がある。圧着する場合、接着接合面積が増加して、剥離強さが向上するのでより好ましい。形成ループと保護層Bの溶融接合が不十分な場合は、オンライン又はオフラインで部分熱圧着を施し、必要な剥離強さを有するようにしても良い。
【0074】
次いで、これを巻き取る。こうして、ガス透過性防水シートCに滑動防止層Dを接合した止水材Eを得る。
【0075】
次にこの止水材Eを被覆材Fと接合する。
【0076】
被覆材Fは、外部からの強い衝撃、大きな力や圧力の負荷に耐えるため、補強布入り繊維フェルトで構成する。必要な特性としては、上記国土交通省規定を満たす必要がある。
【0077】
被覆材Fにおける繊維フェルトGとしては、例えば短繊維で構成したものが挙げられる。短繊維で構成した繊維フェルトGの製造法について説明すると、まず常法により、紡糸、延伸、捲縮付与した後、切断して短繊維を得る。短繊維は、フェルト層の保持力を良好に保つ観点から、繊度が4〜15dtexであることが好ましく、繊維長が42〜128mmであることが好ましい。上記の様にして得られた短繊維又は汎用の短繊維を用い、開繊してカードウエッブとし、目付量300〜1000g/m2、厚み20〜70mmになるように積層してニードルパンチで不織布化する。ニードルパンチは、60〜80ペネが好ましい。
【0078】
上記補強布Hとしては、例えば価格の安価なフラットヤーンクロスが挙げられる。
【0079】
この補強布Hの上下に前記繊維フェルトGを目付量500〜1500g/m2となるように積層し、ニードルパンチで接合一体化して被覆材Fとする。被覆材Fの厚みは10mmに設定するのが好ましい。このときのニードルパンチは、一体化に必要なパンチ数、例えばペネ60前後が好ましい。比較的厚みがあるので、フェルト層を貫通できる長い針でパンチするのが好ましい。
【0080】
かくして得られた被覆材Fを上記止水材Eと接合する。このとき被覆材Fは、止水材Eの滑動防止層Dとは反対側に接合する。実施形態1(図1)の如くガス透過性防水層Aに直接被覆材Fを接合する場合は、ガス透過性防水層Aを損傷させない様にする為、接着剤で接合するのが好ましい。また有効ガス透過面積を広くするため、ガス透過性(透湿性)を有する接着剤で接合するのが、最も好ましい。またドット状に接着しても良く、この場合は剥離強さを保持できる様にドットの大きさや数等を調節する。
【0081】
以上のようにして本発明の法面被覆護岸工用遮水シートIが得られる。
【0082】
<遮水シートの施工例>
上記の如く得られた法面被覆護岸工用遮水シートIは、法面被覆護岸工用コンクリートブロック工(石・ブロック積工)等の施工において、堤土側の裏込め材として用いることができる。
【0083】
図4は、法面被覆護岸工用コンクリートブロック工の施工において、法面被覆護岸工用遮水シートIを用いた様子の一例を表した図である。法面被覆護岸工用遮水シート10をその滑動防止層Dが堤土60側となるように堤土60上に敷設し、この遮水シート10の上にコンクリートブロック(硬性ブロック体)18を施工する。なおコンクリートブロック18の施工において、隣接するコンクリートブロック18同士の間(目地部19)をモルタル等の目地止め材で目地止めしても良いし、或いは目地止め材を用いずに単にコンクリートブロック18を載積するように施工しても良い(この場合、目地部19は隙間となる)。
【0084】
施工にあたって、法面被覆護岸工用遮水シートI(10)は、大きな衝撃に耐えることができて損傷し難く、また堤土との滑動が防止されているので、施工時の取扱性に優れる。従って施工性が良く、施工期間の計画性も良い。
【0085】
施工後も、本発明の法面被覆護岸工用遮水シートIは圧力による変形が少なく、遮水性能を保持する上、ガス透過性を有するから(矢印Y)、堤体内の間隙水圧が上昇したときでも、法面への移動空気圧による堤体不安定化を防止できる。なお堤土60から止水材Eを透過して被覆材Fに至った空気は、コンクリートブロック18間の目地部19を通して外部に排出される。また、法面での湧水の排出に関し、遮水シート表側において被覆材Fがドレーン機能を発揮する(矢印Q)だけでなく、堤土側においては保護層Bがドレーン機能を発揮し(矢印W)、湧水を良好に排出でき、よって堤土の流出による堤体の崩壊を防止できるなど、優れた堤体メンテナンス機能を発揮する。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
なお後述の実施例,比較例における各種特性値は下記の方法により測定した。
【0088】
[目付量]
JIS−L−1906「一般長繊維不織布試験方法」に従って単位面積当たりの質量(目付量)を測定した。
【0089】
[滑動防止層の目付量]
単独層として測定可能な場合は、上記と同様にJIS−L−1906に従って測定した。滑動防止層のみ剥離が困難な場合は、予め当該滑動防止層を積層する前の基材層の目付量をJIS−L−1906に従って測定しておき、滑動防止層積層後の目付量から除した値を用いた。
【0090】
[厚さ]
JIS−L−1906「一般長繊維不織布試験方法」に従って厚さを測定した。
【0091】
[滑動防止層の厚さ(線状体の交絡部の平均厚さ)]
滑動防止層を構成する線状体の交絡部の厚みを、JIS−L−1906に従い荷重10kPaで測定した。尚、幅方向1mあたり10箇所の平均値をもって滑動防止層の厚さとした。また、目付量測定時に滑動防止層のみ剥離が困難な場合は、予め当該滑動防止層を積層する前の基材層の厚さをJIS−L−1906に従って測定しておき、滑動防止層積層後の厚さから除した値を用いた。
【0092】
[線状体の直径]
得られた滑動防止層について、その線状体の非交絡部分における線状体の幅を、MITUTOYO製精密ノギス(CD-20C)にて測定した。この測定を滑動防止層の幅方向1mあたり10箇所、合計20点行い、これら測定した値の平均値を線状体の直径とした。
【0093】
[見掛け密度]
上記の如く測定して得られた目付量(単位:g/m2)及び厚さ(単位:mm)より、見掛け密度(単位:kg/m3)を下記式(1)にて求めた。
ρ=(mS/1000)/(t/1000) …(1)
ρ:見掛け密度
S:目付量
t:厚さ
[線状体の横方向走査ポイント]
滑動防止層を、幅方向300mm×長さ方向200mmのサイズで、幅方向1mあたり2箇所において採取する(試料)。なお幅方向とは、遮水シートを法面に敷設したときの水平方向を言い、長さ方向とは法足(法長)方向を言う。他方、上記と同サイズの白紙に、予め幅方向に10mmピッチの間隔で30本200mm長さの基準線を引いておく(なお両端はそれぞれ5mmの余白とする)。この白紙上に上記滑動防止層の試料を載せ、長さ方向に配した基準線と交わる線状体の本数をカウントし、その平均値を線状体の横方向走査ポイント(箇所/200mm)とした。
【0094】
なお滑動防止層のみを剥離することが困難な場合は、上記基準線を引く白紙を透明フィルム(例えば、ポリプロピレン製二軸延伸フィルム、厚さ40μm)に替えて行う。また滑動防止層が線状体とは異なる形状の場合は、摩擦に寄与する凹凸構造体が上記基準線と交わる箇所の数をカウントする。
【0095】
因みに、遮水シートはロール巻き状態で提供され、この長尺方向を法面の法足方向に沿って配置するのが一般的である。従って、滑動防止層の製造流れ方向(長さ方向)を横切る線状体の本数を測定することで、法足方向(重力方向)を横切る線状体の本数を測定することとなる。
【0096】
[透湿度]
JIS−L−1099「繊維製品の透湿度試験方法」の塩化カルシウム法(A−1法)に従い、試験片の大きさ直径70mmで透湿度を測定した。
【0097】
[耐水圧]
JIS−L−1902「繊維製品の防水性試験方法」の耐水度試験(静水圧法)高水圧法に従って耐水圧を測定した。
【0098】
[不織布の引張強度(引張強さ)と伸度(伸び率)]
JIS−L−1906「一般長繊維不織布試験方法」に従って引張強さ及び伸び率を測定した。
【0099】
[引裂強さ]
JIS−L−1906「一般長繊維不織布試験方法」のシングルタング法に従って引裂強さを測定した。
【0100】
[剥離強力(剥離強さ)]
JIS−L−1085「不織布しん地試験方法」のはく離強さの試験方法に従い、前処理なしの幅50mmの試料について、引張試験機を用いて剥離強さを測定した。
【0101】
[堤土とのなじみ]
JIS−P−8147(紙及び板紙の摩擦係数試験方法)に規定の傾斜方法に準拠して測定した。但し、試験片に換えて、下記の如くの締め固め土砂と遮水シートを用いた。つまり締め固め土砂は、造成用土砂(株式会社山富製)を型枠に入れてハンマーにより締め固めを行い、充填密度が約1.8g/cm3となるようにしたものである。この締め固め土砂を滑り傾斜角測定装置の傾斜板に取り付けた。おもり(金属製ブロック)として、底面が7.5cm×14.0cmで、5.25kgの荷重となるものを用いた。遮水シート試料を幅7.5cmで長さを14.0cmより長くして切り出し(なお、敷設したときの法足方向が長手方向となるようにして切り出す)、この遮水シート試料を上記おもりに取り付けた(以下、これをおもり付き遮水シート試料と言う)。この取り付けにあたり、遮水シート試料の滑動防止層が表側(外側)になるようにした。なお遮水シート試料の長手方向の端部分を折り上げておもりの試験片固定掴みに挟んで固定することから、遮水シート試料における上記締め固め土砂との接触範囲は7.5cm×14.0cmとなる。また遮水シート試料にかかる荷重は50g/cm2となる。
【0102】
滑り傾斜角測定装置の傾斜板上の上記締め固め土砂の上に、上記おもり付き遮水シート試料を置き(締め固め土砂に対して遮水シート試料の滑動防止層の側が接する)、その長手方向に徐々に傾斜角が大きくなるように傾斜板の片方を持ち上げ、おもり付き遮水シート試料が動き出すときの水平面からの角度を測定した。この測定は5回行い、最大値と最小値を除いた3つの測定値における中間値(メジアン)により評価した。なお評価の判断基準は、「×:32°未満で動く」、「△:32°以上,39°未満で動く」、「○:39°で動かず、これ以上傾けることが可能」である。
【0103】
《実施例1》
<ガス透過性防水層A−1の作成>
メルトインデクス1.0の線状低密度ポリエチレン樹脂を100部と、メルトインデックス5.0の高密度ポリエチレン樹脂を15部、エステル系可塑剤を10部、およびステアリン酸で表面処理した平均粒径1.0μmの炭酸カルシウムを250部、ドライ混合して二軸混練機で180℃にて混練造粒した。この造粒したレジンを、フィルム形成自動クリアランス調整機能付ダイをもつ押出機により、180℃で溶融してフィルム状に押出した。次いで、延伸温度70℃で二軸延伸機により延伸し、95μmの微多孔膜(微多孔フィルム)を得た。
【0104】
得られたポリエチレン微多孔膜からなるガス透過性防水層A−1は、透湿度が6800g/m2/24時間、縦引張強さが80N/5cm、横引張強さが50N/5cm、縦引裂き強さが1.5Nであった。
【0105】
<保護層B−1の作成>
固有粘度0.68のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言う)を水分率0.002質量%に乾燥した。これを、オリフィス径φ0.2mmのノズルより、紡糸温度290℃、単孔吐出量1.7g/分で紡糸した。これを、ノズル下50mmにおいて25℃の空気を風速0.4m/秒で吹き付けて冷却しながら、ノズル下1.6mの位置に設置したエジェクターで糸速5000m/分の速度で吸引させつつ引取り、下方1.5mの20m/分の速度で移動している引取ネット面へ、繊維束を開繊させつつ振り落とし積層した。次いで、ネット面に積層したウエッブを、圧着面積率15%のドットエンボスローラーを用いて、240℃で線圧50kN/mにてドットエンボス加工した。これを巻き取って、スパンボンド不織布からなる保護層B−1を得た。
【0106】
この保護層B−1は、目付量が150g/m2、厚みが0.45mmで、縦方向の引張強度が600N/5cm、引裂強さが45N、横方向の引張強度が200N/5cm、引裂強さが45Nであった。
【0107】
<ガス透過性防水シートC−1の作成>
上記の様にして得られた保護層B−1にウレタン系接着剤をカーテンスプレー法で塗布し、これに上記ガス透過性防水層A−1を重ね、積層加熱圧着してガス透過性防水層A−1と保護層B−1が接合一体化したガス透過性防水シートC−1を得た(なお接着剤をスプレーにより全面塗布する場合であっても、接着剤の粒子が充分に粗いので、ガス透過特性(透湿特性)に殆ど影響がない)。
【0108】
得られたガス透過性防水シートC−1は、縦方向の引張強さが600N/5cm、引裂強さが45N、横方向の引張強さが210N/5cm、引裂強さが45N、透湿度が6500g/m2/24時間、耐水圧が130kPa、ガス透過性防水層A−1と保護層B−1の層間剥離強力が20Nであった。
【0109】
<滑動防止層D−1の形成>
メルトインデックス20のポリエチレンを、紡糸温度180℃で、孔間ピッチ30mm、φ3mmオリフィスのノズルより、単孔吐出量9.0g/分で吐出させ、ノズル下40cmの位置で上記ガス透過性防水シートC−1の保護層B−1面側に落下させ、該保護層B−1面にループを形成させた。この際、立体形状を緩和させて平面化すると同時に融着させ、速度3m/分で連続引取りして巻き取った。この様にして滑動防止層D−1を形成接合した止水材E−1を得た。
【0110】
該止水材E−1における滑動防止層D−1はそのループ形態が2次元的ランダムループで、ループ状線状体の直径が1.1mm、厚さが2.2mm、見掛け密度が69kg/m3、線状体横方向走査ポイントが16.0箇所/200mmであり、保護層B−1と滑動防止層D−1との剥離強力が25Nであった。
【0111】
<被覆材F−1の形成>
常法により、公知の紡糸機を用い、固有粘度0.62のPETを285℃に溶融し、φ0.3mmのオリフィスをもつノズルより単孔吐出量2.8g/分孔で紡糸することとし、紡糸速度1350m/分にて振り落とした。この振り落とした未延伸糸を200万dtexのトウにして、1段目80℃温浴において2.6倍で延伸し、2段目160℃加熱ローラーで1.8倍に延伸した。次いで3段目180℃加熱ゾーンで熱セットした後、クリンパーで機械捲縮を付与し、次に64mmに切断した。斯様にして繊度が4.4dtex、乾熱160℃での収縮率6%の短繊維を得た。該短繊維を、オープナーを用いて予備開繊した後、カードで開繊してウエッブを得た。このウエッブを目付量600g/m2になるように積層し、ペネ80でニードルパンチし、短繊維不織布からなる繊維フェルトG−1を得た。
【0112】
一方、ポリプロピレン製の5g/g目付量あたり引張強度を持つフラットヤーンクロスを補強布H−1として用意した。尚このフラットヤーンクロスは市販の包材に使用されているものである。
【0113】
次に、繊維フェルトG−1の上に補強布H−1を積層し、更にその上に繊維フェルトG−1を積層して、ペネ60でニードルパンチにより接合した。斯様にして補強布入り繊維フェルトからなる被覆材F−1を得た。
【0114】
この被覆材F−1は厚みが10mm、目付量が1300g/m2、圧縮率が10%、引張り強さが1150N/5cm、伸び率が78%、不溶解分が99%であった。
【0115】
<遮水シートI−1の形成>
上記被覆材F−1の一方面にウレタン系接着剤をカーテンスプレー法で塗布し、これに上記止水材E−1のガス透過性防水層A−1面を重ね、乾熱80℃×1分にて加熱接着し、本発明の法面被覆護岸工用遮水シートI−1を得た。
【0116】
<遮水シートI−1>
この得られた遮水シートI−1について堤土とのなじみ試験を行ったところ、良好な滑落防止効果を示した。従って法面への敷設がし易く、敷設後も遮水シートI−1を堤土に良好に固定し得る。また遮水シートI−1の透湿性が良好であった。従って遮水シートI−1を通してガス透過でき、堤土内の過度な圧力上昇等を防止できる。加えて遮水シートI−1のガス透過性防水シートC−1は上記の様に十分な引張強さや引裂強さを備えているので、破損し難く、防水性が保たれる。
【0117】
《実施例2》
<ガス透過性防水層A−2の形成>
ジメチルテレフタレート(以下、DMTと言う)と1・4ブタンジオール(以下、1・4BDと言う)を少量の触媒と共に仕込み、常法によりエステル交換した。その後、質量平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール(以下、PTMGと言う)を58%となるように添加し、昇温減圧しつつ重縮合せしめてポリエーテルエステルブロック共重合エラストマーを生成させた。次いで抗酸化剤1%を添加して混合練込み後、これをペレット化し、50℃で48時間真空乾燥して融点179℃の熱可塑性ポリエステルエーテル弾性樹脂(ポリエステル系エラストマーa)を得た。
【0118】
得られたポリエステル系エラストマーaを、常法によって、融点より10〜80℃高い温度に加熱して溶融状態とし、スリットダイより押し出した。これを引取りローラー上で離型ラミフィルムと共巻きしてエラストマーフィルムA−2(ガス透過性防水層A−2)を得た。なお離型ラミフィルムと共巻きするのは、エラストマーフィルムA−2のみでは取扱性に乏しいからである。
【0119】
得られたエラストマーフィルムA−2は、厚みが100μm、透湿度が1600g/m2/24時間であった。
【0120】
<遮水シートI−2の作成>
上記離型ラミフィルムを剥離したエラストマーフィルムA−2に、実施例1と同様に、カーテンスプレー法でウレタン系接着剤を塗布した保護層B−1を重ねて、エラストマーフィルムA−2と保護層B−1を接合一体化したガス透過性防水シートC−2を得た。該透水防水シートC−2は、縦方向の引張強さが650N/5cm、引裂強さが50N、横方向の引張強さが220N/5cm、引裂強さが50N、透湿度が1500g/m2/24hr、耐水圧が100kPa、エラストマーフィルムA−2と保護層B−1の層間剥離強力が25Nであった。
【0121】
次に、実施例1と同様にして滑動防止層D−1を形成して止水材E−2を得、これに、実施例1と同じく被覆材F−1を積層して、遮水シートI−2を得た。
【0122】
<遮水シートI−2>
この遮水シートI−2について堤土とのなじみ試験を行ったところ、良好な滑落防止効果を示した。従って法面への敷設がし易く、敷設後も遮水シートI−2を堤土に良好に固定し得る。また遮水シートI−2の透湿性が良好であった。よって遮水シートI−2を通してガス透過でき、堤土内の過度な圧力上昇等を防止できる。加えて遮水シートI−2のガス透過性防水シートC−2は上記の様に十分な引張強さや引裂強さを備えているので、破損し難く、防水性が保たれる。
【0123】
《実施例3》
<ガス透過性防水シートC−3の作成>
実施例1と同様にして得たガス透過性防水層A−1と保護層B−1を用い、保護層B−1にカーテンスプレー法でウレタン系接着剤を塗布し、この塗布面側をガス透過性防水層A−1の両面に重ねて積層加熱圧着し、接合一体化したガス透過性防水シートC−3を得た。
【0124】
このガス透過性防水シートC−3は縦方向の引張強さが1150N/5cm、引裂強さが85N、横方向の引張強さが440N/5cm、引裂強さが90N、透湿度が5000g/m2/24時間、耐水圧が160kPaで、ガス透過性防水層A−1と保護層B−1の層間剥離強力が20Nであった。
【0125】
<遮水シートI−3の作成>
ガス透過性防水シートC−3の片面に、実施例1と同様にして滑動防止層D−1を形成し、次いで実施例1と同様の被覆材F−1を積層して、遮水シートI−3を得た。
【0126】
<遮水シートI−3>
この遮水シートI−3について堤土とのなじみ試験を行ったところ、良好な滑落防止効果を示した。従って法面への敷設がし易く、敷設後も遮水シートI−3を堤土に良好に固定し得る。また遮水シートI−3の透湿性は良好であった。従って遮水シートI−3を通してガス透過でき、堤土内の過度な圧力上昇等を防止できる。加えて遮水シートI−3のガス透過性防水シートC−3は上記の様に十分な引張強さや引裂強さを備えているので、破損し難く、防水性が保たれる。
【0127】
《実施例4》
<滑動防止層D−4の形成>
単孔吐出量を15.0g/分とする以外は、実施例1での滑動防止層D−1の形成と同様にして、上記ガス透過性防水シートC−1の保護層B−1面にループを形成させた。この際、実施例1と同様に、立体形状を緩和させて平面化すると同時に融着させ、速度3m/分で連続引取りして巻き取った。この様にして滑動防止層D−4を形成接合した止水材E−4を得た。
【0128】
該止水材E−4における滑動防止層D−4はそのループ形態が2次元的ランダムループで、ループ状線状体の直径が1.9mm、厚さが2.6mm、見掛け密度が114kg/m3、線状体横方向走査ポイントが12.3箇所/200mmであり、保護層B−1と滑動防止層D−4との剥離強力が25Nであった。
【0129】
《比較例1》
<止水材E−5の作成>
メルトインデックス8、融点172℃のエチレンビニルアルコール(以下、EVAと言う)を用い、常法により、220℃に加熱して溶融状態としてスリットダイより押し出した。これを、50mm角の凸部格子(この凸部の幅は2mm、高さは2mm)を作成できるエンボスカレンダーを用いて、170℃で加熱圧縮しつつ引取り、EVAフィルムを得た。該EVAフィルムは、フラット部分の厚みが1mmで、高さが2mmの50mm角の格子状凸部を有する止水材E−5である。なお上記フラット部分が防水の役割を果たし、上記格子状の凸部が滑動防止の役割を果たす。
【0130】
得られた止水材層E−5は透湿度が10g/m2/24時間以下、耐水圧が1000kPa以上、線状体横方向走査ポイントが7.2箇所/200mmであった。
【0131】
<遮水シートI−5の作成>
EVA系熱接着樹脂を上記止水材E−5の片面に付与し、この上に実施例1と同じ被覆材F−1を積層した後、180℃熱風で加熱しつつ熱圧着して遮水シートI−5を得た。
【0132】
比較例1の法面被覆護岸工用遮水シートI−5は、堤土とのなじみ性があり、遮水シートの損傷は無かった。しかし透湿性を有しないため、降雨による河川増水によって堤防内圧力が上昇したとき、遮水シート敷設面の反対側法面(裏法面)に水漏れを生じ、これによる堤防の損傷が懸念される。
【0133】
《比較例2》
滑動防止層D−1を形成しないこと以外は実施例1と同様にして、遮水シートI−6を得た。
【0134】
この得られた遮水シートI−6について堤土とのなじみ試験を行ったところ、傾斜板の傾斜角度31.5°で動き出し、滑動し易いものであった。また遮水シートI−6を堤防法面に敷設する試験を行ったところ、該遮水シートI−6は滑動防止層を有しないために法面への敷設が困難であり、この為に堤防上で遮水シートI−6を固定してブロックを敷設する必要があった。敷設後も、遮水シートI−6は法面に対して摩擦抵抗が低いため、滑落を生じて遮水シートI−6に損傷を生じていた。
【0135】
《比較例3》
<滑動防止層D−7の形成>
実施例1での滑動防止層D−1の形成と同様にして、上記ガス透過性防水シートC−1の保護層B−1面にループを形成させ、立体形状を緩和させて平面化すると同時に融着させた。但しこのときの巻き取り速度を12m/分として連続引取りして巻き取った。この様にして滑動防止層D−7を形成接合した止水材E−7を得た。
【0136】
該止水材E−7における滑動防止層D−7はそのループ形態が2次元的ランダムループで、ループ状線状体の直径が1.1mm、厚さが1.2mm、見掛け密度が142kg/m3、線状体横方向走査ポイントが2.9箇所/200mmであり、保護層B−1と滑動防止層D−7との剥離強力が25Nであった。
【0137】
《比較例4》
<滑動防止層D−8の形成>
実施例1での滑動防止層D−1の形成と同様にして、上記ガス透過性防水シートC−1の保護層B−1面にループを形成させた。この際、上記と同じく立体形状を緩和させて平面化すると同時に融着させた。但しこのときの巻き取り速度を8m/分として連続引取りして巻き取った。この様にして滑動防止層D−8を形成接合した止水材E−8を得た。
【0138】
該止水材E−8における滑動防止層D−8はそのループ形態が2次元的ランダムループで、ループ状線状体の直径が1.1mm、厚さが2.0mm、見掛け密度が85kg/m3、線状体横方向走査ポイントが5.6箇所/200mmであり、保護層B−1と滑動防止層D−7との剥離強力が25Nであった。
【0139】
《試験結果》
上記実施例及び比較例の遮水シート、並びにこれらにおける各層についての試験結果を下記表1に示す。なお表1,2中の堤土とのなじみ試験における括弧内は、おもり付き遮水シート試料が動き出した(滑落を始めた)角度である。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の実施形態1に係る法面被覆護岸工用遮水シートを堤土上に配置した様子を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る法面被覆護岸工用遮水シートを堤土上に配置した様子を示す断面図である。
【図3】2次元的なランダムループ状に配された線状体(滑動防止層)の一例を示す正面図である。
【図4】法面被覆護岸工用遮水シートIを用いた法面被覆護岸の施工の一例を表した断面図である。
【符号の説明】
【0143】
10,20 法面被覆護岸工用遮水シート
18 コンクリートブロック
60 堤土
A ガス透過性防水層
B 保護層
C ガス透過性防水シート
D 滑動防止層
E 止水材
F 被覆材
G 繊維フェルト
H 補強布
I 遮水シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
止水材と被覆材が積層された遮水シートにおいて、
前記止水材は、ガス透過性を備えた防水層と、この少なくとも一方面を覆うガス透過性を備えた保護層からなる防水シートと、
この防水シートの堤土側に、ガス透過性を有する滑動防止層とを備えたものであり、
前記被覆材は、補強布入り繊維フェルトを備えたものであることを特徴とする法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項2】
前記保護層が長繊維不織布からなる請求項1に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項3】
前記ガス透過性を備えた防水層が、微多孔膜、無孔透湿シート、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布から選択される1種以上である請求項1または2に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項4】
前記防水シートは、透湿度が1500g/m2/24時間以上、耐水圧が50kPa以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項5】
前記防水シートは、引張強さが100N/5cm以上、引裂強さが20N以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項6】
前記滑動防止層は、前記防水シート上に線状体を交絡部が存在する様に任意な2次元的ループ状に配して上記防水シート上に凸凹を形成したものであり、
該滑動防止層の前記交絡部の平均厚さが1〜10mmで、見掛け密度が30〜200kg/m3であり、堤土の法面に設置したときにおける前記線状体の横方向走査ポイント(注:発明の詳細な説明で規定する測定法による)が6.0箇所/200mm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項7】
前記滑動防止層と前記防水シートとの剥離強力が15N以上であり、
前記防水層と前記保護層との剥離強力が10N以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の法面被覆護岸工用遮水シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の法面被覆護岸工用遮水シートを、その滑動防止層が堤土側となるように敷設し、その上に硬性ブロック体を敷設することを特徴とする法面被覆護岸の施工方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の法面被覆護岸工用遮水シートが、その滑動防止層を堤土側にして堤土上に配置され、
前記法面被覆護岸工用遮水シートの上に硬性ブロック体が配置されたものであることを特徴とする護岸構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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