説明

泡沫分離法および泡沫分離装置

【課題】分離対象物質の分離選択性に優れるとともにその回収率が高く、連続して安定した分離操作が可能な泡沫分離法、およびその泡沫分離装置の提供。
【解決手段】界面活性剤を含んだ仕込み液中に気体を吹き込むことによって生じた泡沫表面での吸着能を利用して分離対象物質を分離する泡沫分離法において、前記仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を泡沫に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離対象物質の分離選択性に優れるとともにその回収率が高く、連続して安定した分離操作が可能な泡沫分離法、および泡沫分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤などの界面活性を有する物質は、気体-液体界面に濃縮される特徴を持っており、この特徴を利用した分離方法として泡沫分離法が知られている。
【0003】
界面活性剤を含む溶液に気体を吹き込むと、泡沫が発生する。泡沫の表面には界面活性剤が吸着しており、泡沫分離法は、この界面活性剤を介して分離対象物質を泡沫表面に吸着させる方法(例えば、非特許文献1参照)である。またより効率の良い相互作用を誘起させる目的で、泡沫表面や分離対象物質の界面活性を変化させる作用を持つ捕集剤などの添加も行われる。
【0004】
泡沫分離法は、装置の構造やその操作が簡単であり、装置の製造やランニングコストが低く、環境負荷が少ないなどの特長を持ち、特に希薄溶液からの分離対象物質の回収に優れているため、下水中に含まれる合成洗剤のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(ABS)の除去、水溶液中のアルコールやフェノールの除去、放射性廃水からの放射性イオンの除去、または食品製薬業界ではタンパク質の分離など、様々な分野で利用されている。
【0005】
発生する泡沫から形成される泡沫相は泡沫と泡沫間の同伴水から構成され、分離の際、界面活性剤と親和性を示す分離対象物質は、界面活性剤を介して泡沫表面に吸着することにより、泡沫表面と同伴水に分配され、界面活性剤と親和性を示さない非分離対象物質は同伴水の中にのみ存在する。そして、連続発生する泡沫が泡沫相を形成しながら上昇するに伴って、同伴水はその自重により下方排水効果が促進され、分離塔の塔頂から回収される泡沫は同伴水が少なくなり、泡沫表面に選択的に吸着した分離対象物質が回収される。
【0006】
しかし、従来の分離塔を使用した泡沫分離法では、泡沫が泡沫相を形成しながら上昇するに伴って同伴水の量が少なくなるために、その自重による下方排水効果が低減し、回収された泡沫中には非分離対象物質が多量に含まれ、分離選択性も高くはなかった。
【0007】
これに対して、同伴水の自重による下方排水効果を目的に、分離塔を高く設定する方法が試みられてきたが、かえって或る高さで効果が頭打ちになるばかりか、分離対象物質の分離選択性は小さくなるなどの問題もあった。
【0008】
さらに、泡沫相の上層部においては、泡沫表面の界面活性剤の吸着量が少なくなるために泡沫が安定せず、泡沫が回収できなくなるなどの問題もあった。
【0009】
これに対して、回収した泡沫の一部を泡沫相に還流し、泡沫の安定性を図る方法も試みられてきたが、この場合は分離対象物質の分離選択性が予想以上に高くはなく、その回収率も低いなどの問題があった。
【0010】
さらにまた、従来は、分離対象物質と界面活性剤の両方を含む溶液を分離処理液として分離塔に仕込み、この仕込み液に気体を吹き込んで泡沫分離することも行われていたが、この方法では、泡沫表面に界面活性剤が吸着する前後に分離対象物質と界面活性剤とが相互作用する過程が存在するため、この過程における分離対象物質の分配により回収率に影響が現れやすい。つまり、分離対象物質が界面活性剤と相互作用する割合が高い系は回収率が増大し、逆に、相互作用する割合が低い系は回収率が低下する。特に分離対象物質と界面活性剤の相互作用が低い系ではこの分配過程が支配的となり、回収率の向上は難しくなる。
【0011】
同じように泡沫を利用する分離方法としてフローテーション法(例えば、非特許文献2参照)がある。この方法は、泡沫分離法が気体−液体からなる二相泡沫であるのに対して、気体−液体−固体からなる三相泡沫であることが特徴で、懸濁物質の除去やぬれ性の異なる異種粒子の選別等に広く使用されているが、このフローテーション法においても上記と同様の問題を抱えており、従来技術より優れた分離操作技術が求められていた。
【0012】
【非特許文献1】John F. Scamehorn, Jeffrey H. Harwell著「surfactant science series volume 33 SURFACTANT-BASED SEPARATION PROCESSES」 Marcel Dekker出版、1989年、p.233-320
【非特許文献2】K. A. Matis著「FLOTATION SCIENCE AND ENGINEERING」 Marcel Dekker出版、1995年、p.89−259
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来技術の課題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、分離対象物質の分離選択性に優れるとともにその回収率が高く、連続して安定した分離操作が可能な泡沫分離法、およびその泡沫分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の泡沫分離方法は、界面活性剤および溶媒を含んだ仕込み液中に気体を吹き込むことによって生じた泡沫表面での吸着能を利用して分離対象物質を分離する泡沫分離法において、分離対象物質を仕込み液または導入液のいずれかに含み、前記仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を泡沫に供給することを特徴とする。
【0015】
導入液には分離対象物質を含ませることもできる。また、仕込み液に溶媒、界面活性剤と分離対象物質とを含有させ、導入液に界面活性剤を含ませておくこともできる。さらには、導入液が分離対象物質を含有する分離対象物質導入液と、界面活性剤を含有する界面活性剤導入液とからなり、該分離対象物質導入液と該界面活性剤導入液とは、泡沫に対して個別に供給することもできる。この場合において、界面活性剤導入液の供給位置は、分離対象物質導入液の供給位置よりも上にあることが好ましい。
【0016】
また、本発明の泡沫分離装置は、内部が中空の分離塔と、該分離塔内に界面活性剤および溶媒を含む仕込み液を供給するための仕込み液供給手段と、該分離塔の下端に接続され気体を供給するための気体導入手段とを備えた泡沫分離装置において、前記分離塔には、仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を供給するための導入液供給手段が設けられていることを特徴とする。
【0017】
この場合において、導入液供給手段は、分離対象物質を含有する分離対象物質導入液と、界面活性剤を含有する界面活性剤導入液とを個別に分離塔内に供給することが可能とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以下に説明するとおり、本発明の泡沫分離法および泡沫分離装置は、仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を泡沫に供給することにより、従来の泡沫分離装置に比べ、分離対象物質の分離選択性に優れるとともにその回収率が高く、連続して安定した分離操作を行うことができる。このため、稀少金属の回収、合成洗剤のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(ABS)の除去、水溶液中のアルコールやフェノールの除去、放射性廃水からの放射性イオンの除去、または食品製薬業界ではタンパク質の分離など、特に希薄溶液からの分離対象物質の回収に利用でき、実用性の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の泡沫分離法および泡沫分離装置について、図に従って説明する。
【0020】
図1は、分離塔内に形成された泡沫相の状態を表した模式図であり、1は泡沫相、1aは泡沫相の上層部、1bは泡沫相の中層部、1cは泡沫相の下層部、2は泡沫をそれぞれ示している。泡沫相は、界面活性剤および溶媒を含む溶液に外部から気体を吹き込むことにより連続発生した泡沫2から形成される。
【0021】
図2は、本発明の泡沫分離法による泡沫2の表面状態を微視的に示した模式図であり、(I)は泡沫相の上層部、(II)は泡沫相の中層部、(III)は泡沫相の下層部を示しており、3は同伴水、4は気液界面、5は界面活性剤、6は分離対象物質、そして7は非分離対象物質をそれぞれ示している。
【0022】
一方、図3は、従来の泡沫分離法による泡沫2の表面状態を微視的に示した模式図であり、同じく(I)は泡沫相の上層部、(II)は泡沫相の中層部、(III)は泡沫相の下層部を示しており、3は同伴水、4は気液界面、5は界面活性剤、6は分離対象物質、そして7は非分離対象物質をそれぞれ示している。
【0023】
図2および図3に示すように、界面活性剤5はその親水基を同伴水3側に向けて泡沫2の表面に吸着しており、同伴水3に界面活性剤5、親和性を示す分離対象物質6および親和性を示さない非分離対象物質7が含まれていると、分離対象物質6が界面活性剤5に吸着し、連続発生し上昇する泡沫に伴って泡沫相1の上層部(I)まで運ばれる。
【0024】
しかし、従来の泡沫分離法は、界面活性剤5と分離対象物質6、さらには非分離対象物質7が含まれる水溶液に気体を吹き込み、泡沫2を連続発生させて泡沫相1を形成させ、界面活性剤5を介して分離対象物質6を泡沫2の表面に吸着させて泡沫2とともに回収するものであるが、特に分離対象物質6と界面活性剤5の相互作用が低い系ではこの分配過程が支配的となり、分離対象物質6の回収率に影響が現れやすくなる。
【0025】
また、図3に示すように、泡沫2の上昇に伴い形成された泡沫相1の上層部(I)は、下層部(III)に比べ同伴水3の量が少なくなるために、その自重による下方排水効果が低減するばかりか、非分離対象物質7が泡沫2の回収液中に残り、分離選択性も低下する傾向にある。
【0026】
さらには、泡沫相1の上層部(I)においては、泡沫2表面の界面活性剤5の吸着量が少なくなるために泡沫2が安定せず、泡沫2の回収が不十分となるなどの問題も生じやすくなる。
【0027】
こうした問題に対し、本発明の泡沫分離法では、泡沫に対し、仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液が供給される。導入液としては、例えば下記の(A)〜(C)いずれかの組み合わせによる仕込み液および導入液を使用し、仕込み液に気体を吹き込み、連続発生する泡沫2から形成される泡沫相1中に導入液を供給し、界面活性剤5を介して分離対象物質6を泡沫2表面に吸着させ、分離対象物質6を泡沫2と共に分離回収することができる。これにより、従来の泡沫分離法の問題を解決することができるのである。
(A)仕込み液が界面活性剤5および溶媒を含む溶液で、且つ導入液が分離対象物質6および溶媒を含む溶液、
(B)仕込み液が界面活性剤5および溶媒と分離対象物質6および溶媒を含む溶液で、且つ導入液が界面活性剤5を含む溶液、
(C)仕込み液が界面活性剤5および溶媒を含む溶液で、且つ導入液が上記(A)および(B)に記載の2種類の導入液。なお、溶媒としては、通常、水、アルコールおよびそれらの混合物などを用いる。
【0028】
すなわち、図2に示すように、本発明の泡沫分離法は、泡沫相1の上層部(I)には同伴水3を十分に有するため、下方排水効果が維持され、回収された泡沫2の中の非分離対象物質7の含有量も少なく、泡沫2表面の界面活性剤5の吸着量も十分なために泡沫2が安定化し、泡沫2が十分に回収でき、特に分離対象物質6と界面活性剤5の相互作用が低い系では、上記の(A)または(C)の仕込み液および導入液を使用することにより、界面活性剤5と分離対象物質6との相互作用は、界面活性剤5が溶液中に分散している場合に比べ、界面活性剤5が泡沫2の表面に吸着されている場合の方が効率が良いため、回収率が向上する。
【0029】
また、前記(C)の仕込み液および導入液を使用した泡沫分離法においては、前記(B)の導入液の泡沫相1への供給位置が、前記(A)の導入液の泡沫相1への供給位置よりも上方にあることが好ましく、これにより、同伴水3の下方排水効果をさらに向上させ、泡沫相1の中の非分離対象物質7を洗い流す効果を持ち、泡沫2をより安定化な状態で回収することができる。
【0030】
なお、ここで言う界面活性剤5は、親水基と親油基を有する物質であり、その種類には脂肪族塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミンおよび脂肪族アマイドの硫酸塩類、脂肪アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸などのアニオン性界面活性剤、脂肪アミン塩類、第四アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩などのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられるが、本発明の泡沫分離法においては、その使用する種類に特に限定はなく、分離対象物質6やその処理能力などに応じて適宜使用することができ、さらに、これらの界面活性剤5を少なくとも2種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。そのほか捕集剤などに代表される添加剤についても分離対象物質や使用する界面活性剤などに合わせて適宜組み合わせて使用しても良い。
【0031】
また、界面活性剤5の溶液濃度についても、処理する分離対象物質6の濃度、必要とする泡沫2の大きさや発生量、および必要とする分離処理能力などに応じて適宜調整するこができ、特に限定はされない。
【0032】
次に、本発明の泡沫分離装置について説明する。
【0033】
図4は、後述する実施例1及び実施例2で用いた泡沫分離装置を示す模式図であり、11は分離塔、1は泡沫相、12は仕込み液、13は仕込み液タンク、14aは導入液タンク、15は気体ボンベ、16は分散器、17はポンプ、18は仕込み液供給口、19aは導入液供給口、20は気体供給口、21は水位調整装置、22は泡沫回収口、23は残液回収口をそれぞれ示している。
【0034】
また、図5は、後述する実施例3及び実施例4で用いた泡沫分離装置を示す模式図であり、11は分離塔、1は泡沫相、12は仕込み液、13は仕込み液タンク、14a、14bは導入液タンク、15は気体ボンベ、16は分散器、17はポンプ、18は仕込み液供給口、19a、19bは導入液供給口、20は気体供給口、21は水位調整装置、22は泡沫回収口、23は残液回収口をそれぞれ示している。
【0035】
一方、図6は、比較例1及び比較例2で用いた従来の泡沫分離装置を示す模式図であり、11は分離塔、1は泡沫相、12は仕込み液、13は仕込み液タンク、15は気体ボンベ、16は分散器、17はポンプ、18は仕込み液供給口、20は気体供給口、21は水位調整装置、22は泡沫回収口、23は残液回収口をそれぞれ示している。
【0036】
図6に示すとおり、比較例で示される従来の泡沫分離装置は、分離塔11内に界面活性剤5、分離対象物質6および非分離対象物質7を含む溶液を仕込み、この仕込み液12にガラスフィルターなどからなる分散器16を使用して気体を分散させて吹き込み、泡沫2を連続発生させて泡沫相1を形成させ、界面活性剤5を介して泡沫2表面に分離対象物質6を吸着させ、分離塔11の塔頂に達した泡沫2を分離対象物質6とともに泡沫回収口22から回収する構造になっている。
【0037】
これに対して、実施例1および実施例2で示される本発明の泡沫分離装置は、図4に示すとおり、まず分離塔11内に上記(A)または(B)の仕込み液12を仕込み液供給口18から供給し、その仕込み液12にガラスフィルターなどからなる分散器16を使用して気体を分散させて吹き込み、泡沫2を連続発生させて泡沫相1を形成させ、泡沫相1に上記(A)または(B)の導入液を導入液供給口19aから供給し、界面活性剤5を介して泡沫2表面に分離対象物質6を吸着させ、分離塔11の塔頂に達した泡沫2を分離対象物質6とともに泡沫回収口22から回収する構造となっている。
【0038】
また、実施例3および実施例4で示される本発明の泡沫分離装置は、図5に示すとおり、まず分離塔11内に上記(C)の仕込み液12を仕込み液供給口18から供給し、その仕込み液12にガラスフィルターなどからなる分散器16を使用して気体を分散させて吹き込み、泡沫2を連続発生させて泡沫相1を形成させ、泡沫相1に上記(A)の導入液を導入液供給口19aから、さらに上記(B)の導入液を導入液供給口19bから供給し、界面活性剤5を介して泡沫2表面に分離対象物質6を吸着させ、分離塔11の塔頂に達した泡沫2を分離対象物質6とともに泡沫回収口22から回収する構造となっている。
【0039】
上記の本発明の泡沫分離装置を使用することにより、泡沫相1の上層部(I)には同伴水3を十分に有することができるために下方排水効果が維持され、回収された泡沫2の中には非分離対象物質7の含有量も少なく、泡沫2表面の界面活性剤5の吸着量も十分なために泡沫2が安定し、泡沫2が十分に回収でき、特に分離対象物質6と界面活性剤5の相互作用が低い系では、図4の泡沫分離装置に上記(A)の仕込み液12および導入液を使用することにより、または図5の泡沫分離装置に上記(C)の仕込み液12、上記(A)の導入液および上記(B)の導入液を使用することにより、界面活性剤5と分離対象物質6との相互作用は、界面活性剤5が溶液中に分散している場合に比べ、界面活性剤5が泡沫2の表面に吸着されている場合の方が効率が良いため、回収率が向上する。
【0040】
なお、導入液供給口19aと19bの高さは、導入液供給口19aが仕込み液12の液面より上方にあり、さらに導入液供給口19bが導入液供給口19aよりも上方にあれば良く、目的とする分離操作、泡沫2の大きさや発生量、導入液の供給量、界面活性剤5の濃度や分離対象物質6の濃度、および分離処理能力に応じて適宜調整することができ、特に限定はされない。
【0041】
さらに、分離塔11内に供給する気体の量や泡沫相1に供給する導入液の量は、目的とする分離操作、泡沫2の大きさや発生量、界面活性剤5の濃度や分離対象物質6の濃度、および分離処理能力に応じて適宜調整することができ、特に限定はされない。
【0042】
なお、気体の供給方法および仕込み液12や導入液の供給方法としては、公知の気送ポンプや液送ポンプの使用が挙げられるが、特に泡沫相1に供給する導入液については、公知の水位調整装置21を使用することが好ましい。
【0043】
また、本発明に使用される気体には、空気、水素、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスなどが挙げられるが、本発明の効果を阻害しない限り、目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。
【0044】
さらに、本発明の泡沫分離装置の大きさについては、分離処理能力に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。
【0045】
さらにまた、本発明の泡沫分離装置を構成する素材についても、仕込み液12および導入液の性質(酸性、アルカリ性など)のほか、耐久性、分離処理能力などに応じて適宜選択することができ、特に限定はされない。
【実施例】
【0046】
以下の実施例において、本発明の泡沫分離法および泡沫分離装置をさらに詳細に説明するが、本発明はその主旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0047】
下記の実施例および比較例においては、ポリオキシエチレン系ノニオン性界面活性剤であるPolyoxyethylene Nonyl Phenyl Ether(以下、PONPEと言う)を使用した塩酸水溶液中の金の分離・回収例を挙げ、本発明の泡沫分離法および泡沫分離装置の効果を紹介する。
【0048】
なお、PONPEは、塩酸水溶液中の金のテトラクロロ錯体と高い親和性を示し、泡沫を作るための気泡剤と金の捕集剤として働くなどの性質を持つ。
【0049】
また、本発明における各評価結果の値は以下の方法により測定した値である。
【0050】
〔分離塔〕
実施例および比較例に使用した分離塔は、塔高50cm、内径3cmのガラス製のものを使用し、分散器はガラスフィルターを使用した。
【0051】
〔金属濃度〕
各溶液中の各金属濃度は、ICP発光分光分析装置を使用して求めた。
【0052】
〔回収率〕
分離塔の泡沫回収口から回収された泡沫液中の金属濃度と仕込み液または導入液中の金属濃度をそれぞれ測定し、測定した濃度から各溶液中の分離対象物質の質量を算出し、さらに式(泡沫液中の金属の質量/仕込み液または導入液中の金属の質量)×100から回収率(%)を求めた。
【0053】
〔濃縮比〕
分離塔の泡沫回収口から回収された泡沫液中の金属濃度と仕込み液または導入液中の金属濃度をそれぞれ測定し、式(泡沫液中の金属濃度/仕込み液または導入液中の金属濃度)から濃縮比を(−)を求めた。
【0054】
〔分離度〕
分離塔の泡沫回収口から回収された泡沫液中の各金属濃度を測定し、式(金の濃縮比/金以外の他の濃縮比)から分離度(−)を求めた。
【0055】
[実施例1]
図4に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液、導入液に金と銅をそれぞれ20ppm含む2Nの塩酸水溶液を使用した。
【0056】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分2.5mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させた。
【0057】
その後、形成された泡沫相に、導入液を導入液供給口から表1に示す流量で供給し、金と銅の分離を行った。金の分離・回収結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、回収率は流量が上がるにつれて低下する傾向が見られ、濃縮比および分離度は上昇する傾向が見られた。そして、泡沫相へ金の溶液を供給することにより、効率良く金が泡沫相に吸着したのが分かる。またPONPEと金を別々に供給することで、液流量などの操作パラメーターを最適化することにより、高い回収率と濃縮比を両立させることが可能である。
【0060】
[実施例2]
図4に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%と、金と銅をそれぞれ20ppm含む2Nの塩酸水溶液、導入液にPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液を使用した。
【0061】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分2.5mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させた。
【0062】
その後、形成された泡沫相に、導入液を導入液供給口から表2に示す流量で供給し、金と銅の分離を行った。金の分離・回収結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表1から明らかなように、回収率、濃縮比の値は、実施例1の結果よりも低くなったが、分離度は比較的高い値を得ることができた。
【0065】
[実施例3]
図5に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液、導入液に金と銅をそれぞれ20ppm含む2Nの塩酸水溶液(a)とPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液(b)を使用した。
【0066】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分7.0mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させた。
【0067】
その後、形成された泡沫相に、導入液(a)を毎分1.0mlで供給し、さらに導入液(b)を、導入液(a)の導入液供給口より上方にある導入液供給口から表3に示す流量で供給し、金と銅の分離を行った。金の分離・回収結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3から明らかなように、金の溶液とPONPEの溶液を供給することで回収率、濃縮比、分離度とも非常に高い値を示し、良好な結果が得られた。
【0070】
[実施例4]
図5に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液、導入液に金、ガリウム、鉄、および銅をそれぞれ20ppm含む5Nの塩酸水溶液(a)とPONPEを0.10重量%含む2Nの塩酸水溶液(b)を使用した。
【0071】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分7.0mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させた。
【0072】
その後、形成された泡沫相に、導入液(a)を毎分0.5mlで供給し、さらに導入液(b)を、導入液(a)の導入液供給口より上方にある導入液供給口から毎分0.10mlで供給し、各金属の分離を行った。その分離・回収結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
PONPEに対する各金属の親和性の強さは、溶媒抽出法などのデータから、金>ガリウム>鉄>>銅の順となっていることが知られているが、本実施例においてもこの傾向が現れており、特に金が高い回収率で選択的に分離されたことが分かる。
【0075】
本実施例では各金属を含む溶液を泡沫相に連続的に導入したが、これを間欠的に導入するとクロマトグラフィーと同様の挙動を示すと考えられ、操作条件の最適化を図ることでさらに界面活性剤との親和性の異なる物質間で相互分離が可能となる。
【0076】
[比較例1]
図6に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%と、金と銅をそれぞれ20ppm含む2Nの塩酸水溶液を使用した。
【0077】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分2.5mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させながら、金の分離を行った。金の分離・回収結果を表5に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
表5から明らかなように、従来の泡沫分離法を使用した場合は、金の回収率と分離度が低く、また、泡沫相上層部の泡沫が不安定で、泡沫を十分に回収することができなかった。
【0080】
[比較例2]
図6に示す泡沫分離装置を使用し、仕込み液にPONPEを0.10重量%と、金、ガリウム、鉄、および銅をそれぞれ20ppm含む5Nの塩酸水溶液を使用した。
【0081】
まず、仕込み液の液面の高さが所定の位置になるように、残液回収口から残液を抜きながら、分離塔内に仕込み液を毎分2.5mlで供給し、さらに空気を毎分40mlで分離塔に供給し、分散器を通して仕込み液中に空気を吹き込み、泡沫を連続発生させながら、各金属の分離を行った。その分離・回収結果を表6に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
表6から明らかなように、従来の泡沫分離法を使用した場合は、分離選択性に欠け、回収液には、分離対象物質の金のほか、他の金属も多量に含まれていた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したとおり、本発明の泡沫分離法および泡沫分離装置は、従来の泡沫分離法および泡沫分離装置に比べ、分離対象物質の分離選択性に優れるとともにその回収率が高く、連続して安定した分離操作を行うことができ、稀少金属の回収、合成洗剤のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(ABS)の除去、水溶液中のアルコールやフェノールの除去、放射性廃水からの放射性イオンの除去、または食品製薬業界ではタンパク質の分離など、特に希薄溶液からの分離対象物質の濃縮回収に利用でき、実用性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】泡沫相の状態を表す模式図
【図2】本発明の泡沫分離法による泡沫の表面状態を微視的に示した模式図
【図3】従来の泡沫分離法による泡沫の表面状態を微視的に示した模式図
【図4】本発明の泡沫分離装置の第1および第2実施例を示す模式図
【図5】本発明の泡沫分離装置の第3および第4実施例を示す模式図
【図6】従来の泡沫分離装置の比較例を示す模式図
【符号の説明】
【0086】
1 泡沫相
1a 泡沫相の上層部
1b 泡沫相の中層部
1c 泡沫相の下層部
2 泡沫
3 同伴水
4 気液界面
5 界面活性剤
6 分離対象物質
7 非分離対象物質
11 分離塔
12 仕込み液
13 仕込み液タンク
14a、14b 導入液タンク
15 気体ボンベ
16 分散器
17 ポンプ
18 仕込み液供給口
19a、19b 導入液供給口
20 気体供給口
21 水位調整装置
22 泡沫回収口
23 残液回収口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤および溶媒を含む仕込み液中に気体を吹き込むことによって生じた泡沫表面での吸着能を利用して分離対象物質を分離する泡沫分離法において、
分離対象物質を仕込み液または導入液のいずれかに含み、前記仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を泡沫に供給することを特徴とする泡沫分離法。
【請求項2】
導入液には分離対象物質が含まれていることを特徴とする請求項1記載の泡沫分離法。
【請求項3】
仕込み液には界面活性剤と分離対象物質とが含まれており、導入液には界面活性剤が含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の泡沫分離法。
【請求項4】
導入液は分離対象物質を含有する分離対象物質導入液と、界面活性剤を含有する界面活性剤導入液とからなり、該分離対象物質導入液と該界面活性剤導入液とは泡沫に対して個別に供給されることを特徴とする請求項1記載の泡沫分離法。
【請求項5】
界面活性剤導入液の供給位置は、分離対象物質導入液の供給位置よりも上にあることを特徴とする請求項4記載の泡沫分離法。
【請求項6】
内部が中空の分離塔と、該分離塔内に界面活性剤および溶媒を含む仕込み液を供給するための仕込み液供給手段と、該分離塔の下端に接続され気体を供給するための気体導入手段とを備えた泡沫分離装置において、
前記分離塔には、仕込み液の溶媒と同じ溶媒を用いた導入液を供給するための導入液供給手段が設けられていることを特徴とする泡沫分離装置。
【請求項7】
導入液供給手段は、分離対象物質を含有する分離対象物質導入液と、界面活性剤を含有する界面活性剤導入液とを個別に分離塔内に供給することが可能とされていることを特徴とする請求項6記載の泡沫分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−272113(P2006−272113A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93665(P2005−93665)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月24日 化学工学会主催の「化学工学会 第70年会」において文書をもって発表
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】