説明

泡沫分離装置

【課題】水位の変化に応じて自動的に昇降移動する泡沫分離装置を提供する。
【解決手段】気泡発生器2と、気泡発生器を所定の位置で囲む泡沫集排器3と、泡沫集排器の泡沫排出口3aに設けられた泡沫収集器5とを備えて構成される泡沫分離装置1を、その泡沫集排器の外側に浮き部材4を備えて構成し、泡沫分離装置を水に浮かせる。また、浮き部材に水槽と係止するための係止部材6を、ガイドレール部6aと、ガイドレール部とスライド可能に嵌合するガイド溝6bとを有して構成し、泡沫分離装置を水槽側面に対して昇降自在に係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鑑賞魚や活魚などの海水魚用の水槽に用いられる濾過装置の一種である泡沫分離装置(「プロテインスキマー」ともいう)に関し、特に泡沫分離装置を水槽の中に設置する形式の、いわゆる内部式泡沫分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鑑賞魚や活魚などの海水魚用の水槽では、水質悪化の原因となるタンパク質などの有機物を水中から取り除くために泡沫分離装置が用いられている。この泡沫分離装置では、微小な気泡が水中を漂う間に、気泡の界面に有機物が吸着することを利用して、有機物が吸着した泡沫を水槽から取り除くことによって水槽の水を濾過している。
【0003】
そこで、市販の泡沫分離装置、特に比較的大型なものとしては、泡沫分離装置の濾過性能を十分に発揮させる目的として、気泡が水中を漂う時間を確保するため、気泡発生器から水面までの距離と、泡沫を安定して排出するため、水面から泡沫排出口までの距離を最適な距離に保てるように、装置内部の水位を調整できるようにしたものが提供されている。
【0004】
また、市販の泡沫分離装置、特に水槽に設置する内部式泡沫分離装置の中でも小型のものとしては、使用者が水槽の水位の変化に応じて、気泡発生器から水面までの距離と、水面から泡沫排出口までの距離が最適な距離になるように、泡沫分離装置を移動させるものが提供されている。
【0005】
さらに、内部式泡沫分離装置としては、泡沫集排器の内部に、水や泡沫の浮力によって上下に浮動する浮き部材を有する泡沫排出レベル自動昇降制御装置を備えたものが提案されている。この泡沫分離装置では、泡沫排出レベル自動昇降制御装置が水位の変化によって、泡沫集排器の内部を自動的に昇降することで、水面から泡沫排出口までの距離を一定に保ち、泡沫を安定して排出できるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−319852号公報(段落0006,0031、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記市販の比較的大型な泡沫分離装置では、装置内部の水位を調整するための仕組み、例えばオーバーフローやバルブ開閉のための構造が複雑であるために装置を小型化しづらく、複雑な構造や部品点数の多さから水漏れなどの故障もしやすい。
【0007】
また、前記市販の小型内部式泡沫分離装置では、使用者が水槽の水位の変化に応じて最適な距離になるように泡沫分離装置を移動させなければならないために、泡沫分離装置を移動させる手間が煩雑である。
【0008】
さらに、前記特許文献1に係る泡沫分離装置では、水位の変化にかかわらず水面から泡沫排出口までの距離を一定に保つことができるものの、気泡発生器から水面までの距離が変化するために、例えば水位が下がると気泡発生器から水面までの距離が短くなることから、気泡が水中を漂う時間が短くなり、気泡と有機物が触れる時間も短くなるために、気泡界面に有機物が吸着される割合である吸着効率が悪化して、装置本来の濾過能力が発揮できなくなる。そのために、前記特許文献1に係る泡沫分離装置では、依然として水位の低下に応じて泡沫分離装置を上下に移動、具体的には水槽内壁に吸盤によって固定されている泡沫分離装置を水位が下がった分ほど下げなければならず、泡沫分離装置を上下に動かす手間が煩雑である。
【0009】
そこで、この発明では、前記した課題を解決し、水位の変化に応じて自動的に昇降移動する泡沫分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、泡沫分離装置を、気泡発生器と、気泡発生器を所定の位置で囲む泡沫集排器と、泡沫集排器の泡沫排出口に設けられた泡沫収集器とを備えて構成し、泡沫集排器の外側に浮き部材を備えるようにした。
【0011】
請求項2に係る発明では、浮き部材に水槽と係止するための係止部材を有するようにした。
【0012】
請求項3に係る発明では、係止部材をガイドレール部と、ガイドレール部とスライド可能に嵌合するガイド溝とを有して成るようにした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、気泡発生器と、気泡発生器を所定の位置で囲む泡沫集排器と、泡沫集排器の泡沫排出口に設けられた泡沫収集器とを備えて構成される泡沫分離装置を、その泡沫集排器の外側に浮き部材を備えるようにしたので、泡沫分離装置を水に浮かせることができる。そして、泡沫分離装置が水位の変化に応じて水槽側面に対して昇降自在に移動できるために、水位の変化にかかわらず、水面から泡沫排出口までの距離と、気泡発生器から水面までの距離を一定に保つこと、換言すると装置内部の水位を調整することができる。ここで、水面から泡沫排出口までの距離を、泡沫の排出に最適な距離に定めるとともに、気泡発生器から水面までの距離を、気泡界面への吸着に最適な距離に定めると、水位の変化にかかわらず装置本来の濾過能力を維持することができる。
【0014】
さらに、請求項1に係る発明によれば、泡沫集排器の外側に浮き部材を備えるといった単純な構造によって装置内部の水位を調整できるようにしたので、市販の比較的大型な泡沫分離装置に適用すると、装置の小型化を図れるとともに、単純な構造と部品点数の少なさから水漏れなどの故障を少なくできる。
【0015】
さらにまた、請求項1に係る発明によれば、泡沫集排器の外側に備えた浮き部材のよって泡沫分離装置を水に浮かせることで、水位の変化にかかわらず、水面から泡沫排出口までの距離と、気泡発生器から水面までの距離を一定に保てるようにしたので、市販の小型内部式泡沫分離装置や特許文献1に係る泡沫分離装置のように水位の変化に応じて泡沫分離装置を上下に動かす手間を省くこともできる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、浮き部材に水槽と係止するための係止部材を有するようにしたので、泡沫分離装置を所定の位置、例えば鑑賞魚用水槽の場合には、目立たないように水槽の片隅に係止することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、係止部材をガイドレール部と、ガイドレール部とスライド可能に嵌合するガイド溝とを有して成るようにしたので、泡沫分離装置がガイドレール部とガイド溝に誘導され、泡沫分離装置が直立して浮くことができない場合でも、水位の変化に応じて水槽側面に対して昇降自在に移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、この発明の創作の基礎となる事項について簡単に説明する。発明者は、泡沫分離装置が装置本来の濾過能力を発揮するためには、水面から泡沫排出口までの距離と、気泡発生器から水面までの距離を一定に保つことが重要であるのもかかわらず、特に小型水槽に適した小型内部式泡沫分離装置では、この距離を手動で調整しなければならないために、使用者が水位の変化に応じて泡沫分離装置を最適な位置に動かすことができないことによって装置本来の濾過能力が発揮されていないことに注目していた。そして、小型水槽は水量が少ないことからわずかな蒸発量であっても水位の低下が著しく、発明者が使用者の使用環境を想定して行った実験によると冬には1日か2日で、夏には3日から7日で1cmほど水位が下がるために、小型水槽に適した小型内部式泡沫分離装置にこそ水位の変化に応じて、最適な位置に装置を自動的に動かせる仕組みが望まれていると考えた。
【0019】
さらに発明者は、特許文献1に係る泡沫分離装置のように、水面から泡沫排出口までの距離を一定に保つことで、泡沫を安定して排出させることに一定の成果があるものの、装置本来の濾過能力を維持させるためには、吸着効率の悪化を防止することも不可欠であると考えた。
【0020】
そこで発明者は、泡沫分離装置が設置の際に水面から泡沫排出口までの距離が泡沫の排出に最適な距離となるように、また気泡発生器から水面までの距離が気泡界面への吸着に最適な距離となるように設計されていることから、水位の変化にかかわらずこれらの距離を一定に保つことができれば、装置本来の濾過能力を維持することができることに着目し、この発明を創作するに至ったものである。
【0021】
次に、この発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、この発明に係る泡沫分離装置の一部破断斜視図であり、図2は、この発明に係る泡沫分離装置を水槽に設置した状態を示すイメージ図である。図1に示すように、この発明に係る泡沫分離装置1は、気泡発生器2と、泡沫集排器3と、浮き部材4と、泡沫収集器5と、係止部材6を備えて構成されている。
【0022】
気泡発生器2は、外部から供給される空気を水中で気泡に変える器具であり、実施形態においてはウッドストーン2と呼ばれる木片である。ウッドストーン2は、無数の連続する微小空隙を有しており、ウッドストーン2にエアーポンプP(図2参照)からエアーチューブTを通じて空気が供給されると、この空気が微小空隙を通過することによって微小な気泡となり、ウッドストーン2の表面から気泡が発生するようになっている。なお、気泡発生器2は、実施形態のようなエアーポンプPから空気を水中に送って発泡させる方式の器具のほかに、強い水流を水面に叩き付けて発泡させる方式の器具や、ポンプの陰圧を利用して空気を取り込み発泡させる方式の器具でも、どのような方式の器具でも構わない。
【0023】
泡沫集排器3は、筒状の管であり、実施形態においては管の内部に入れられたウッドストーン2から発生した気泡を管の内部に集め、気泡界面にタンパク質などの有機物が吸着して泡となったもの(以下、泡沫という)を管の内部から後記する泡沫収集器5に押し出す器具である。この泡沫集排器3は、泡沫を管の内部から泡沫収集器5に押し出す側の開口である泡沫排出口3aの近傍部分が他の部分よりも直径が小さくなっており、泡沫が泡沫排出口3aから泡沫収集器5に排出されやすくなっている。そして、泡沫集排器3は、その外側に浮き部材4を備えている。
【0024】
浮き部材4は、泡沫分離装置1を水に浮かせるための浮きであり、ここでは泡沫集排器3の外周を囲むように設けられている。実施形態における浮き部材4を概説すると、直径の異なる2つの管を嵌め入れ、一方の内側の管と外側の管との隙間を密封したようなものであり、内側の管と外側の管との隙間に溜まった空気の浮力によって泡沫分離装置1を水に浮かせるようになっている。
【0025】
泡沫収集器5は、泡沫排出口3aに設けられた泡沫を溜める蓋付き容器であり、ここでは泡沫排出口3aから溢れ出てくる泡沫を受け止められるように、泡沫排出口3aよりも低い位置から、具体的には泡沫排出口3aよりも水面に近い位置から泡沫排出口3aを取り囲んでいる。
【0026】
係止部材6は、浮き部材4を水槽A(図2参照)に係止する、換言すると浮き部材4を介して泡沫分離装置1を水槽Aに係止するための部材であり、実施形態においてはガイドレール部6aと、ガイドレール部6aとスライド可能に嵌合するガイド溝6bとを有して構成されている。
【0027】
ガイドレール部6aは、浮き部材4の外周面に形成された断面T字頭型の棒状突起物であり、浮き部材4が浮き沈みする方向と平行に設けられている。
【0028】
ガイド溝6bは、鉤状の細長い板部材に形成された断面T字型の溝であり、この溝にガイドレール部6aがスライド可能に嵌合するように構成されている。
【0029】
以上のように構成された泡沫分離装置1では、浮き部材4によって泡沫分離装置1が水に浮くように構成されており、また係止部材6によって水槽Aに浮沈可能に係止されている。図3は、この発明に係る泡沫分離装置1の昇降状態を示す断面図であり、(a)が通常の水位の状態を示し、(b)が水が蒸発して水位が下がった状態を示す。ここでは説明の都合上、水面から泡沫排出口3aまでの空間を泡沫分離層Xとし、気泡発生器2から水面までの空間を汚濁吸着層Yとする。
【0030】
図3の(a)に示すように、通常の水位においては、最適な泡沫分離層Xと汚濁吸着層Yの比率になるように設置されている。一般に泡沫分離装置1には、最適な比率に設置できるように目印が定められており、使用者が容易に設置できるようになっている。
【0031】
図3の(b)に示すように、通常の水位から水位が下がった場合には、水位の低下に伴って泡沫分離装置1が下がる。この場合にも、泡沫分離装置1が水に浮いているために、泡沫分離層Xと汚濁吸着層Yの比率が変わることがなく、最適な比率を保っている。
【0032】
このように、泡沫分離装置1では、市販の小型内部式泡沫分離装置や特許文献1に係る泡沫分離装置のように水位の低下によって泡沫分離層Xと汚濁吸着層Yの比率が変わる、具体的には市販の小型内部式泡沫分離装置のように水位の低下によって泡沫分離層Xが広がるとともに汚濁吸着層Yが狭くなることや、特許文献1に係る泡沫分離装置のように水位の低下によって汚濁吸着層Yが狭くなることがないために、装置本来の濾過能力を維持することができる。
【0033】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は前記実施形態には限定されない。例えば、この発明に係る泡沫分離装置1としては、単純な構造であり装置を小型化できるために小型水槽に適しているが、中型水槽や大型水槽に用いることもできる。また、この発明に係る泡沫分離装置1は、飼育用水槽の中に設置する以外にも、濾過用水槽の中に設置してもよい。
【0034】
この発明において、気泡発生器2とは、前記実施形態のようなエアーポンプから空気を水中に送って発泡させる方式の器具のほかに、強い水流を水面に叩き付けて発泡させる方式の器具やポンプの陰圧を利用して空気を取り込み発泡させる方式の器具でも、どのような方式の器具でも構わない。
【0035】
この発明において、気泡発生器2を所定の位置で囲むとは、泡沫集排器3内の所定の位置に気泡発生器2が保持されることを意味しており、この場合の気泡発生器2とは、気泡が発生している部品や部分を示している。
【0036】
この発明において、浮き部材4とは、浮力を生じさせる部材であればよく、発泡スチロールのような浮力材でも構わない。
【0037】
この発明において、係止部材6とは、浮き部材4を水槽に係止できる部材であればよく、例えば紐でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明に係る泡沫分離装置の一部破断斜視図である。
【図2】この発明に係る泡沫分離装置を水槽に設置した状態を示すイメージ図である。
【図3】(a)はこの発明に係る泡沫分離装置の昇降状態を示す断面図のうち、通常の水位の状態を示す図であり、(b)は水が蒸発して水位が下がった状態を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 泡沫分離装置
2 気泡発生器(ウッドストーン)
3 泡沫集排器
3a 泡沫排出口
4 浮き部材
5 泡沫収集器
6 係止部材
6a ガイドレール部
6b ガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡発生器と、前記気泡発生器を所定の位置で囲む泡沫集排器と、前記泡沫集排器の泡沫排出口に設けられた泡沫収集器とを備えた泡沫分離装置であって、
前記泡沫集排器がその外側に浮き部材を備えることを特徴とする泡沫分離装置。
【請求項2】
前記浮き部材が、浮き部材を水槽に係止するための係止部材を有することを特徴とする請求項1に記載の泡沫分離装置。
【請求項3】
前記係止部材が、ガイドレール部と、前記ガイドレール部とスライド可能に嵌合するガイド溝とを有して成ることを特徴とする請求項2に記載の泡沫分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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