説明

波長が制御されたルシフェラーゼの発光基質および製造方法

【課題】 本発明は、ホタルルシフェリン類似体に関する。より詳細には、本発明は、所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法および該製造方法によって製造されたホタルルシフェリン類似体に関する。
【解決手段】 本発明は、所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法であって、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基もしくは-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)の一方が他方と化合物を製造する工程、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数nが増加もしくは減少された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、前記二重結合部分もしくはベンゼン環の一方が他方と置換された化合物を製造する工程を含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェリンおよびルシフェリン類似体の発光波長を制御する方法に関する。また、本発明は、波長が制御されたルシフェラーゼの発光基質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェリン
近年、生物学的事象および現象の可視化が重要視され、可視化のための材料の拡大が望まれてきている。これに伴い、標識技術にも多様化が求められている。特に分子イメージングのための標識技術は、診断および検査機器の進歩と相まって大きく発展している。たとえば、癌や心疾患などに対する個別化医療などの先端技術に応用するための標識技術が精力的に研究されている。また、計測技術の進歩に伴い、より高感度および高性能な機器や標識材料に対する需要が急速に高まっている。
【0003】
周知のように、ホタル生物発光系は、発光効率が非常に高く、最も効率よくエネルギーを光に変換することができる系といわれている。また、生物発光の分子機構解釈も進んでいる。
【0004】
このホタル生物発光は、発光基質であるルシフェリンが発光酵素ルシフェラーゼの作用で化学反応することによって光を放出することが知られている。この反応では、発光基質が発光酵素内でアデノシン三リン酸(ATP)および2価のマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下で、アデニリル化(AMP化)されて、活性型基質であるアデニリル体へと誘導される。次に、これが酸素化されてペルオキシドアニオンとなり、高エネルギー過酸化物であるジオキセタノンへと変換される。不安定なジオキセタノンは、分解しながらプロトンと二酸化炭素とを放出し、励起1重項状態となる。このジアニオン型励起1重項状態からの発光は、黄緑色であり、これがホタルの発光であるとされている。また、発光後の生成物は、オキシルシフェリンと称される。
【0005】
上記のように、発光効率が非常に高く、また生物発光の分子機構の解明が進んでいる。また、可視化が望まれる対象も拡大しており、多様な材料に対する標識が望まれている。これらの事情から、ホタル生物発光系を利用した多岐にわたる発光材料が多くの企業から販売されている。
【0006】
上記のように、発光効率が非常に高く、また生物発光の分子機構の解明が進んでいる。これらの事情から、ホタル生物発光系を利用した多岐にわたる発光材料が多くの企業から販売されている。しかし、ホタル生物発光関連の発光材料開発は、医学生化学的分野を中心に実用化が進んでいるため、一般にタンパク質(酵素)側からの研究開発は盛んであるが、低分子化合物(基質)側からのアプローチは非常に少ない。特に、発光基質の骨格変換を行ったような構造と活性の相関研究はほとんど存在しない。
【0007】
さらに、発光酵素を組換え技術によって安価に供給できるにもかかわらず、キット製品などのホタル生物発光系を応用した発光標識材料が安価ではない。これは、発光基質がルシフェリンであることに起因する。現在、天然の発光基質であるD体のルシフェリンは、非天然アミノ酸であるD-システインから合成されているが、D-システインは、非常に高価である。
【0008】
生物発光系を利用した多色発光のニーズと状況
多現象を観測するために、標識を利用した検出系においても、多色発光が求められている。このため、検出系に利用できる標識材料の波長域は、幅広い方が望ましい。また、生体内深部標識における用途では、短波長光よりも長波長光のほうが優れた光透過性を有するという観点から、赤色発光標識材料が望まれている。たとえば、多色発光を利用した研究には、標識として450nm以下程度〜650nm以上程度の波長にわたる発光を有する標識材料が準備されることが望ましい。
【0009】
現在、ホタル生物発光系のための発光基質として入手可能なものには、いくつかの発光波長をもつ基質が存在する。これらの基質の最短および最長の両端の波長は、セレンテラジン系の青色(約480nm)とホタル系の赤色(約613nm)である。これらは、プロメガ社から入手可能であり、製品化されている。また、鉄道虫発光酵素を利用したより長波長の赤色発光材料(約630nm)が、東洋紡から最近市販されている。しかし、これらの発光波長だけでなく、発光波長の最短および最長の両端の波長のさらなる拡張には、潜在的需要が見込まれる。
【0010】
生物発光系を利用した赤色と青色発光の既存製品の例を以下に示す:
1.プロメガ社:Chroma-Luc:約613nm(非特許文献1)
この系は、ヒカリコメツキ虫(クリックビートル)の突然変異体および天然型ホタル発光基質を利用した系である。
2.東洋紡績(株):MultiReporter
Assay System-Tripluc: 約630nm(非特許文献2)
この系は、鉄道虫赤色発光酵素および天然型ホタル発光基質を利用した系である。緑色発光ルシフェラーゼ(SLG、最大発光波長550nm)、橙色発光ルシフェラーゼ(SLO、580nm)および赤色発光ルシフェラーゼ(SLR、630nm)の色のルシフェラーゼ遺伝子を使用して発光色を変化させている。これは、異なる発光色を与える発光酵素を利用している。
3.東京大学:アミノルシフェリン:約610nm(特許文献1)
これは、ルシフェリン誘導体を開示している。
4.プロメガ社:Chroma-Luc:約480nm(非特許文献3)
この系は、セレンテラジンおよびウミシイタケルシフェラーゼを利用した系である。
5.ATTO社:ウミホタル生物発光 約460nm(非特許文献4)
セレンテラジン系基質およびウミホタルルシフェラーゼを利用した系である。
【0011】
また、本発明者らも、特許文献2および3において、ルシフェリン類似化合物を開示している。これらの化合物は、ルシフェリンと同様の骨格を有する化合物である。
【0012】
しかし、これまでの発光波長を改変するための手法は、ランダムに構造を変更して試行錯誤を繰り返すだけであった。生物発光系は、酵素内での化学反応であることから、現代のエネルギー計算や理論的な構造解析に基づいた予測によっても、実際の発光波長を予測することができていない。したがって、ホタル生物発光系のための発光基質の発光波長を予測するための体系的な変換指標の開発が望まれている。また、所望の波長を有する発光基質の製造方法の開発も望まれている。
【特許文献1】特開2007-091695号公報
【特許文献2】国際公開公報第2007/116687号パンフレット
【特許文献3】特開2006-219381号公報
【非特許文献1】プロメガ社総合カタログ2008-9 12.6
【非特許文献2】Upload vol. 79, 2005 p 1-10, ToyoboBiochemicals for Lifescience 2006/2007 p4-67.
【非特許文献3】プロメガ社総合カタログ2008-9 12.14
【非特許文献4】アトー総合カタログ2008-2009 p 247
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の状況に鑑み、本発明は、ホタル生物発光系において、天然型ホタル発光基質とは異なる、所望の発光波長を有する基質を製造するための方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ホタル生物発光系の広範な発光波長を有する基質群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、類似する構造を有する発光基質の類似体群を作製し、その発光波長の解析を行った。その結果、ルシフェリン類似体の構造において、二重結合を1つ伸長するごとに、発光波長が長波長側に約100nmシフトすること、上記二重結合部分をベンゼン環に変換することにより、発光波長が長波長側に約20〜30nmシフトすること、およびジアルキルアミノ基を水酸基に変化させることにより、発光波長が短波長側に約20〜30nmシフトすることを見いだした。これにより、実用的な発光波長を変更するための指標を確立することができた。
【0015】
上記のとおり、ホタル生物発光系における発光基質であるルシフェリンの多数の類似体における構造活性相関から、ルシフェリンおよびその類似体における発光のための必須部位および発光に影響を及ぼす部位を明らかにすることができた。これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法であって、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基もしくは-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)の一方が他方と置換された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数が増加もしくは減少された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、二重結合部分もしくはベンゼン環の一方が他方と置換された化合物を製造する工程を含む方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記製造方法であって、発光波長をシフトさせるために、式I:
【化1】

のルシフェリンの-OH基が-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)に置換された化合物もしくは一般式II:
【化2】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、nは、0、1、2または3である)もしくは一般式III:
【化3】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、nは、0、1、2または3である)の-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)が-OH基に置換された化合物を製造する工程、発光波長をシフトさせるために、前記一般式IIもしくはIIIの二重結合の数nが変更された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、前記一般式IIもしくはIIIの二重結合部分とベンゼン環とが置換された化合物を製造する工程を含む方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、一般式IIのルシフェリン類似体を提供する:
【化4】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【0019】
また、本発明は、一般式IIIのルシフェリン類似体を提供する:
【化5】

式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、nは、0、1、2または3である。
【0020】
また、本発明は、上記化合物であって、式中-NR1R2基が-OH基である化合物を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、上記製造方法によって製造された化合物または上記記載の化合物を含む、発光検出キットを提供する。
【0022】
また、本発明は、上記製造方法によって製造された化合物および上記記載の化合物から選択される複数の化合物群を含む、発光検出キットを提供する。
【0023】
さらに、本発明は、上記製造方法によって製造された化合物または上記記載の化合物を利用した発光剤を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、所望の発光波長を有するルシフェリン類似体が提供される。また、可視光域をほぼ網羅する体系的な変換指標が確立される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のルシフェリン類似体群の発光波長を示す図。
【図2】本発明のルシフェリン類似体群の発光波長および発光波長を変換する構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法であって、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基もしくは-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)の一方が他方と置換された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数が増加もしくは減少された化合物を製造する工程、および/または発光波長をシフトさせるために、前記二重結合部分もしくはベンゼン環の一方が他方と置換された化合物を製造する工程を含む方法を提供する。
【0027】
本明細書において、ルシフェリンとは、以下の式I:
【化6】

の構造を有するホタルルシフェリンである。
【0028】
また、本明細書において、ルシフェリン誘導体には、発光酵素ルシフェラーゼの作用を介して化学反応することによって光を放出することができる非天然の化合物を含む。ルシフェリン誘導体には、天然に存在するルシフェリンとは異なる骨格を有する化合物を含む。
【0029】
ルシフェリン誘導体は、たとえば以下の一般式II:
【化7】

の構造を有する。
【0030】
上記一般式IIにおいて、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。置換基としてのこのような低級アルキルは、活性に影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。好ましい態様において、R1およびR2は、メチルである。好ましい態様において、R3は、Hである。また、上記一般式IIにおいて、-NR1R2基は、-OH基であることができる。
【0031】
本明細書において、「C1-4アルキル」という用語は、1〜4炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基、たとえばメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルをいう。同様に、「C1-C3アルキル」という用語は、1〜3炭素原子を含む飽和直鎖状または分枝鎖アルキル基(たとえば、メチル、エチルまたはイソ-プロピル)をいう。
【0032】
上記のように、R3がC1-4アルキルであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2には、本発明の化合物のR3部分に対応する部分がAMPであるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0033】
上記一般式IIにおいて、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。XおよびYのヘテロ原子がC、N、SまたはOであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2に記載された種々のルシフェリン類似化合物には、本発明の化合物と対応する部分が種々のヘテロ原子であるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0034】
上記一般式IIにおいて、「n」として表された二重結合単位(ビニレン単位)は、所望の長さに変更することができる。好ましい態様において、nは、0、1、2または3である。
【0035】
また、ルシフェリン誘導体は、たとえば以下の一般式III:
【化8】

の構造を有する。
【0036】
上記一般式IIIにおいて、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであることができる。置換基としてのこのような低級アルキルは、活性に影響を及ぼす可能性が低いと考えられる。好ましい態様において、R1およびR2は、メチルである。好ましい態様において、R3は、Hである。また、上記一般式IIIにおいて、-NR1R2基は、-OH基であることができる。
【0037】
上記のように、R3がC1-4アルキルであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2には、本発明の化合物のR3部分に対応する部分がAMPであるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0038】
上記一般式IIIにおいて、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであることができる。XおよびYのヘテロ原子がC、N、SまたはOであってもよいことは、当業者であれば容易に想到することができるであろう。たとえば、本発明者らによる上記特許文献2に記載された種々のルシフェリン類似化合物には、本発明の化合物と対応する部分が種々のヘテロ原子であるルシフェリン類似化合物が、ホタル生物発光系の基質となり得る結果が示されている。
【0039】
上記一般式IIIにおいて、「n」として表された二重結合単位(ビニレン単位)は、所望の長さに変更することができる。好ましい態様において、nは、0、1、2または3である。
【0040】
本発明において、ルシフェリンおよびルシフェリン類似体には、その塩が含まれる。「塩」とは、本発明の化合物において、該化合物のいずれかの部分が塩基を形成することができる場合にのみ想定される。
【0041】
「塩」という表現には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、亜燐酸、亜硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、パモ酸、ステアリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸および生きた生物に対して非中毒性であるその他のような無機酸または有機酸とのいずれかの塩、または式Iの化合物の性質が酸性である場合、アルカリまたはアルカリ土類塩基、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムその他のような無機塩基との塩も包含する。
【0042】
本発明の所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法は、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基と-NR1R2基とが置換された化合物を製造する工程を含む。「-OH基もしくは-NR1R2基の一方が他方と置換された」とは、-OH基を有する化合物の場合、-OH基が-NR1R2基に置換されること、および-NR1R2基を有する化合物の場合、-NR1R2基が-OH基に置換されることの両方を意味する。
【0043】
ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基を-NR1R2基に変化させることにより、その発光波長を長波長側に約20〜30nm以上シフトさせることができる。逆に、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-NR1R2基を-OH基に変化させることにより、その発光波長を短波長側に約20〜30nm以上シフトさせることができる。
【0044】
たとえば、式Iのルシフェリンの発光波長を長波長側にシフトさせたいときは、ルシフェリンの-OH基が-NMe2基に置換された誘導体を製造することができる。また、以下の式IV:
【0045】
【化9】

のルシフェリン誘導体の発光波長を短波長側にシフトさせたいときは、ルシフェリン誘導体の-NMe2基が-OH基に置換された式V:
【0046】
【化10】

の誘導体を製造することができる。この場合、発光波長は、式IVのルシフェリン誘導体の約450nmから約430nmにシフトされる。
【0047】
ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基もしくは-NR1R2基の一方が他方と置換された化合物は、当業者に周知の種々の方法を使用して製造することができる。たとえば、以下の実施例に示したような合成経路によって合成することができる。
【0048】
本発明の製造方法は、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数が増加もしくは減少された化合物を製造する工程を含む。「二重結合の数を増加する」とは、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体の炭素結合において、二重結合を付加・挿入すること、すなわちビニレン単位を付加・挿入することをいう。たとえば一般式IIおよびIIIの化合物において、nの数を増加することを意味する。「二重結合の数を減少する」とは、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体の炭素結合において、二重結合を除去すること、すなわちビニレン単位を除去することをいう。たとえば一般式IIおよびIIIの化合物において、nの数を減少することを意味する。ルシフェリン類似体における二重結合の数、すなわちnの数は、望まれる発光波長に応じて、増減することができるが、好ましくは0〜3個の間である。
【0049】
ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体の炭素結合において、二重結合の数を増加することにより、その発光波長を長波長側に約100nm以上シフトさせることができる。逆に、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体の炭素結合において、二重結合の数を減少することにより、その発光波長を短波長側に約100nm以上シフトさせることができる。
【0050】
たとえば、式IVのルシフェリン誘導体の発光波長を長波長側にシフトさせたいときは、該化合物のN,N-ジアルキルアニリン部分の3位にビニレンが付加された式VI:
【0051】
【化11】

の誘導体を製造することができる。この場合、発光波長は、式IVのルシフェリン誘導体の約450nmから約560nmにシフトされる。
【0052】
ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数が増加もしくは減少された化合物は、当業者に周知の種々の方法を使用して製造することができる。たとえば、以下の実施例に示したような合成経路によって合成することができる。
【0053】
本発明の製造方法は、発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合部分とベンゼン環とが置換された化合物を製造する工程を含む。ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合部分をベンゼン環に置換することにより、その発光波長を長波長側に約20〜30nm以上シフトさせることができる。逆に、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体におけるベンゼン環部分を共役二重結合に置換することにより、その発光波長を短波長側に約20〜30nm以上シフトさせることができる。
【0054】
「二重結合部分もしくはベンゼン環の一方が他方と置換された」化合物とは、上記ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体の炭素結合における二重結合が、隣接するベンゼン環と共に縮合環を形成するように、ベンゼン環に置換された化合物またはその逆に、隣接するベンゼン環と共に縮合環を形成しているベンゼン環を二重結合に置換された化合物をいう。たとえば、式VII:
【0055】
【化12】

の誘導体のように、フェノールのベンゼン環にビニレンが1つ結合している誘導体の場合、ビニレン部分がベンゼン環に置換されることにより、式VIII:
【0056】
【化13】

の誘導体のように、ナフタレン環を含む誘導体を形成させる。また、上記式VIIIの誘導体のように、ナフトールのベンゼン環にビニレンが1つ結合している誘導体の場合、ビニレン部分がベンゼン環に置換されることにより、アントラセン環を含む誘導体を形成させる。
【0057】
上記縮合環におけるベンゼン環の数は、望まれる発光波長に応じて、増減することができるが、好ましくは0〜3個、より好ましくは0〜2個の間である。
【0058】
ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合部分とベンゼン環とが置換された化合物は、当業者に周知の種々の方法を使用して製造することができる。たとえば、以下の実施例に示したような合成経路によって合成することができる。
【0059】
また、本発明は、上記のルシフェラーゼの基質の製造方法によって得られたルシフェラーゼ誘導体を提供する。たとえば、本発明の製造方法により、一般式IIおよびIIIに包含される化合物を製造することができる。また、本発明の製造方法により、一般式IIおよびIIIの-NR1R2基が-OH基である化合物を製造することができる。ルシフェリン誘導体の-NR1R2基が-OH基である化合物は、当業者に周知の種々の方法を使用して製造することができる。たとえば、以下の実施例に示したような合成経路によって合成することができる。
【0060】
本発明の化合物は、たとえば以下の実施例7に記載した手順に従って作製することができる。より詳細な手順は、下記の実施例に記載してある。実施例7には、一般式IIのR1およびR2がそれぞれメチルであり、R3がHであり、nが2であるジメチルアニリン型の化合物の合成手順を記載してある。簡単には、開始物質として市販の4−ジメチルアミノシンナミックアルデヒドなどのアルデヒド体を使用し、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォランと反応させてエチルエステル体を得る。次いで、このエチルエステル体を水酸化ナトリウム水溶液中でカルボキシル体に変換する。一方、D-システイン-S-トリチル化合物を塩化水素、1,4-ジオキサン溶液中で反応させて、メチルエステル体を作製しておく。次いで、このメチルエステル体をカルボキシル体をと反応させて、アミド体を形成する。次いで、このアミド体をトリフェニルホスフィンオキシドおよびトリフルオロメタンスルホン酸無水物によって環化させて複素環を形成させ、チアゾリン体を得る。次いで、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望の置換基に変換して所望の化合物を得る。
【0061】
当業者であれば、R1およびR2を所望の置換基と置き換えた開始物質から開始して、実施例1と同様の手順によって、D-システイン-S-トリチル由来のメチルエステル体との反応により、対応する化合物を合成することができることを理解するであろう。また、最後の工程において、チアゾリン体のメチルエステル部分を所望のエステルに置換することにより、対応するR3を有する化合物を得ることができるであろう。さらに、開始物質と指定使用するエチルエステル体のオレフィン部分の長さを変更することにより、一般式IIにおいて所望の長さのnを有する化合物を得ることができるであろう。
【0062】
また、本発明の化合物は、たとえば以下の実施例3に記載した手順に従って作製することができる。実施例3には、一般式IIIの-NR1R2基が-OH基であり、R3がHであり、nが1である化合物の合成手順を記載してある。より詳細な手順は、下記の実施例に記載してある。当業者であれば、下記の実施例に記載された手順に類似する合成手順を使用して、所望の化合物を合成することができるであろう。
【0063】
本発明の製造方法によって製造された化合物は、発光甲虫ルシフェラーゼ、ATPおよびMg2+の存在する系に添加することによって、発光甲虫ルシフェラーゼにより酸化して発光する。このような化合物は、単独で発光基質として利用可能であるが、必要に応じて、その他の発光基質と組み合わせて使用してもよい。このような化合物は、ATPおよびMg2+と共にキットとして提供することもできる。また、キットには、その他の発光基質や適切なpHに調製した溶液を含めることもできる。さらに、このような化合物は、ATPおよびMg2+と共に本発明の化合物を適切なpHに調製した発光基質組成物をキットとして提供することもできる。その他、本発明の製造方法によって製造された化合物は、種々の発光剤として利用することができる。また、本発明の製造方法によって製造された化合物は、センサーとして利用することができる。たとえば、
【0064】
ホタル生物発光系は、水性系であるので、親水性有機化合物が存在していてもよい。たとえば、テトラフルオロ酢酸、酢酸およびギ酸などが存在していてもよい。本発明の化合物を発光系に応用する場合、好適な発光強度を得るためには、1μM以上の発光基質の濃度で使用されることが好ましく、たとえば5μM以上で使用される。また、発光系のpHは、4〜10、好ましくは6〜8であることが想定されるが、特に限定されない。必要に応じて、pHを安定化させるために、リン酸カリウム、トリス塩酸、グリシンおよびHEPESなどの緩衝剤を使用することができる。
【0065】
また、本発明の化合物は、発光甲虫ルシフェラーゼ発光系において、種々の酸化酵素によって発光させることができる。ルシフェラーゼは、北アメリカ産ホタル(Photinus pyralis)および鉄道虫(Railroad worm)などの種々の生物から単離されており、それらのいずれを使用することもできる。使用可能な酸化酵素には、たとえばヒカリコメツキムシルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼおよびフラビン含有モノオキシゲナーゼなどを含む。
【0066】
本発明の化合物を発光基質とする生物発光は、発光系にコエンザイムA(CoA)、ピロリン酸またはMgイオン(Mg2+)が存在すると、その発光が増強されることが知られている。したがって、これらを発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光増強剤として利用することができる。これらの化合物の発光増強効果は、発光系におけるCoA、ピロリン酸またはMg2+の濃度がそれぞれ5μM以上において顕著であり、濃度の増加にしたがって増強されることが知られている。
【0067】
ホタル生物発光系を測定/検出に使用するためには、酵素の失活を防止してプラトーな発光挙動を示すように、発光を安定化させることが重要である。たとえば、ホタル生物発光系における発光の安定化には、Mgイオンが有効である。発光系にMgイオンが存在すると、立ち上がった後の減衰が抑制されるように発光挙動が変化する。特に、ピロリン酸およびMgイオンが発光系に共存すると、発光挙動が大きく変化する。すなわち、発光安定化がきわめて顕著となり、発光基質に対して大過剰のピロリン酸およびMgイオンが共存する場合の発光挙動は、急速に立ち上がり、これが維持されてプラトーな状態が形成される。Mgイオン単独の場合、発光系のMgイオン濃度が0.5mM以上において、発光安定化効果が顕著であり、Mgイオンの濃度の増加にしたがって増強される。プラトーな発光挙動を達成するために、たとえば10μM以上、好ましくは100μM以上の濃度のピロリン酸マグネシウムを存在させることができる。また、ピロリン酸とMgイオンとの割合は、当量比である必要はない。ピロリン酸マグネシウムは、水溶性が低いものの、これを使用することにより、ピロリン酸およびMgイオンをそれぞれ別個に供給することができる。これらは、遊離形態および塩の形態で発光系に供給することができる。使用可能なMg塩には、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムなどの無機酸塩、並びに酢酸マグネシウムなどの有機酸塩を含む。ピロリン酸塩には、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩、並びにマグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩、鉄などとの塩を含む。これらは、水溶液状態で発光系に含めてもよい。また、酵素に対する影響を考慮して、発光系のpHは、2〜10になるように含めることが好ましい。
【0068】
本発明の化合物は、化学発光における基質として使用してもよい。化学発光は、本発明の化合物を酸化して過酸化物を生成し、この過酸化物の分解物が励起状態の発光種となることによって生じる。酸化は、たとえばDMSO中でt-ブトキシカリウムを使用して空気酸化させることによって進行させることができる。化学発光の場合、ホタル生物発光系における発光よりも短波長の発光が想定される。
【0069】
本発明の化合物は、生物学的測定/検出における発光標識として利用することができる。たとえば、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質および核酸などを標識するために使用することができる。本発明の化合物をこれらの物質に結合させるための手段は、当業者に周知である。たとえば、本発明の化合物は、当業者に周知の方法を使用して、目的の物質のカルボキシル基およびアミノ基に対して結合させることができる。
【0070】
また、本発明の化合物は、発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定/検出に利用することができる。たとえば、本発明の化合物を、上記のような発光甲虫ルシフェラーゼとの反応に適した条件下で反応させる。次いで、該化合物からの発光を検出する。たとえば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞または動物に対して本発明の化合物を投与することにより、インビボにおける標的遺伝子またはタンパク質の発現などを測定/検出することができる。本発明の化合物は、それぞれ異なる発光波長で発光させることができる。したがって、複数の化合物を使用することにより、複数の標的による発光を同時に測定/検出することができる。また、波長が長波長であるほど光透過性を有するため、組織透過性も高い。したがって、本発明の化合物のうち、長波長の発光を有する化合物は、生体内深部標識のために有用である。
【0071】
本発明の製造方法によって製造された化合物により、広範な発光波長での発光が実現される。これら一連の類似体基質により、光の3原色であるRGBの発光をホタルルシフェリン類似体で実現できる。また、この両端にあたる450nmよりも短波長な青色と650nmよりも長波長な赤色は、既存のホタル生物発光系では達し得なかった発光波長領域である。
【0072】
上記のとおり、本発明の製造方法によって製造された化合物による発光は、光の3原色であるRGBに対応させることができる。光の3原色を組み合わせることにより、あらゆる色調を得ることができることが周知である。したがって、3原色に対応する発光波長の化合物を組み合わせることにより、無限の色調の発光を得ることができる。また、3原色に対応する発光波長の化合物を発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定・検出に利用した場合、その結果として、3原色のそれぞれの発光の程度に応じた色調の発光が得られるであろう。したがって、得られた発光の色調から、3原色のそれぞれの発光の程度を同時に判断することができるであろう。また、フィルタなどを用いて、所望の波長を選別して測定し、検出することもできるであろう。
【0073】
ホタルルシフェリンよりも短波長(約500nm以下)で発光する発光基質は、発光オワンクラゲの緑色蛍光タンパク(GFP)にエネルギー移動が可能である。このようなエネルギー移動により、緑色のGFPから蛍光(約520nm)が発光される。この発光基質を使用して、GFP/発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質によるBRET(Bioluminescence Resonance Energy
Transfer)型発光系を構成することができる。BRET型発光系により、種々のタンパク質翻訳後修飾および遺伝子発現のバイオイメージングが可能になる。たとえば、GFPと発光甲虫ルシフェラーゼ融合タンパク質とがタンパク質プロセッシング配列を介している状態で発現される場合、融合タンパク質がプロセッシングを受けないと、GFPの緑色蛍光が検出される。逆に、融合タンパク質がプロセッシングを受けると、発光基質の青色発光が検出される。したがって、発光状態に基づいて、融合タンパク質をプロセッシングする酵素の発現についてのバイオイメージングが可能になる。また、タンパク量の測定およびタンパク質の局在化状態のバイオイメージングも可能になる。さらに、タンパク質の熟成に必要な糖鎖の付加プロセスのバイオイメージに利用することもできる。また、タンパク質/タンパク質間の相互作用等を観測するために利用することができる。
【実施例】
【0074】
以下の実施例において、本発明を具体的に説明してあるが、本発明は、これらの範囲に限定されるわけではない。
【0075】
1)機器分析および測定装置
pH測定:東洋濾紙株式会社製pH試験紙UNIVを使用して測定した。また、pHメータとして、堀場社製pH/ION METER F-23を使用して測定した。
【0076】
融点測定(m.p.):Yamamoto社製model MP-2を使用して測定。測定値は未補正である。
【0077】
赤外吸収スペクトル(IR):堀場製作所社製FT-730フーリエ変換赤外分光光度計を使用して、錠剤法(KBr)、溶液法(CHCl3、CH3OH)により測定を行った。測定値は、波数(cm-1)で記載した。なお、幅広い吸収は、brと記した。
【0078】
1H核磁気共鳴スペクトル(1H NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(270MHz)を使用して測定した。“1H NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(水素の数、多重度、スピン結合定数)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)はテトラメチルシラン(δ=0)を内部基準とし、ppで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線または複雑に重なったシグナル)で表示し、幅広いシグナルは、brと記した。スピン結合定数(J)は、Hzで記載した。
【0079】
13C核磁気共鳴スペクトル(13C NMR):日本電子社製Lambda-270型装置(67.8MHz)を使用して測定した。“ 13C NMR(測定周波数,測定溶媒):δケミカルシフト値(多重度)”と記載した。ケミカルシフト値(δ)は、テトラメチルシラン(δ= 0)を内部基準とし、ppmで表記した。多重度は、s(単一線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)で表示した。
【0080】
質量スペクトル(MS):日本電子社製JMS-600H型質量分析計を用い、電子衝撃法(EI、イオン化エネルギー:70eV)により測定した。日本電子社製JMS-T100LC型TOF質量分析計AccuTOFを用い、エレクトロンスプレーイオン化法(ESI)により測定した。なお、装置の設定は、脱溶媒ガス250℃、オリフィス1温度80℃、ニードル電圧2000V、リングレンズ電圧10V、オリフィス1電圧85V、オリフィス2電圧5Vとした。サンプル送液は、インフュージョン法で行い、流速10μl/minとした。“MS(測定法)m/z質量数(相対強度)”と記載した。
【0081】
比旋光度:日本分光社製DIP-1000型旋光計を使用して測定した。光源は、ナトリウムランプを使用し、セルは、円筒型ガラスセル(Φ10×100mm)を使用した。測定値は未補正であり、データは5回測定の平均値である。それぞれD体、L体について“D or L: [α]温度測定値(濃度, 測定溶媒)”と記載した。
【0082】
2)クロマトグラフィー
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC):E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5715)厚さ0.25mmを使用した。TLC上の化合物の検出はUV照射(254nmまたは365nm)および発色剤に浸した後に加熱して発色させることによって行った。発色剤としてはp-アニスアルデヒド(9.3ml)と酢酸(3.8ml)をエタノール(340ml)に溶解し、濃硫酸(12.5ml)を添加したものを使用した。
【0083】
分取用薄層クロマトグラフィー(PTLC):E. Merck社製のTLCプレート、シリカゲル60F254(Art.5744)厚さ0.5mmを用いるか、またはE. Merck社製の薄層クロマトグラフィー用シリカゲル60GF254(Art.7730)を20cm×20cmのガラスプレート上に、厚さ1.75mmに調整したものを使用して行った。
【0084】
シリカゲルカラムクロマトグラフィー:E. Merck社製のシリカゲル60F254(Art.7734)を使用して行った。
【0085】
3)基本操作
反応溶液の冷却は、冷媒を満たしたジュワー瓶に反応容器を浸して行った。室温〜4℃では、氷水、4〜-90℃では、液体窒素−アセトンを冷媒として用いた。反応後の抽出溶液の乾燥は、飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸マグネシウムを加えることで行った。反応後の中和を樹脂で行ったものについては、オルガノ株式会社製陽イオン交換樹脂アンバーライトIR120B NAまたは陰イオン交換樹脂アンバーライトIRA400 OH AGを使用した。溶液の減圧濃縮は、アスピレーターの減圧下(20〜30mmHg)、ロータリーエバポレーターを使用して行った。痕跡量の溶媒の除去は、液体窒素浴で冷却したトラップを装着させた真空ポンプ(約1mmHg)を使用して行った。溶媒の混合比は全て体積比で表した。
【0086】
4)溶媒
蒸留水は、アドバンテック東洋株式会社製GS-200型蒸留水製造装置を使用して蒸留およびイオン交換処理したものを使用した。
【0087】
トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ブタノンは、関東化学株式会社製の有機合成用脱水溶媒または特級溶媒を、モレキュラーシーブス(4A)を使用して乾燥させて使用した。
【0088】
NMR測定用溶媒は、以下に示すものをそのまま使用した。CDCl3:ISOTEC Inc.製99.7 ATOM%D、0.03% TMS、CD3OD:ISOTEC Inc.製99.8 ATOM%D(〜0.7 ATOM%13C)、0.05% TMS。
【0089】
実施例1:ジメチルアニリン型発光基質の合成
【化14】

【0090】
4-ジメチルアミノベンゾニトリル(103mg, 0.706mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(371mg, 2.12mmol)をエタノール(4ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、1M水酸化ナトリウム水溶液(5ml)を加え、80℃で5時間撹拌した。反応混合物に1M塩酸(5ml)を加え酸性にした後、減圧濃縮した。得られた固体を濾過し、蒸留水で洗浄して類似体(50.9mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0091】
ジメチルアニリン型発光基質
1H NMR (270MHz, CDCl3
δ3.01(6H, s), 3.50(1H, dd, J = 9.2, 11Hz), 3.61(1H, dd, J = 9.2, 11Hz), 5.00(1H, t, J=9.2Hz), 6.71(2H, dd, J = 2.4, 7.0Hz), 7.71(2H, dd, J = 2.4, 7.0Hz)。
【0092】
実施例2:OH-ナフタレン型
ナフタレン類似体1の合成
【0093】
【化15】

6-シアノ-2-ナフトール(49.6mg, 0.292mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(140.5mg, 0.797mmol)をアルゴン雰囲気下、脱水エタノール(5.0mL)と1M水酸化ナトリウム水溶液(2.5mL)の混合溶液に溶解させ、80℃で4時間加熱攪拌した。反応混合物を放冷後、1M塩酸(2mL)を加え、蒸留水で洗浄し、類似体1(43.4mg, 54%)を黄色固体として得た。
【0094】
類似体1
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ 3.73(2H, dd, J=3.9, 8.9Hz), 5.33(1H, t, J=8.9Hz), 7.20〜8.20(6H, complex)。
【0095】
実施例3:OH-ナフタレン-モノエン型
TBS保護体2の合成
【化16】

【0096】
6-シアノ-2-ナフトール(50.2mg, 0.297mmol)、t-ブチルジメチルシリルクロライド(143mg, 0.95mmol)、イミダゾール(160.7mg, 2.37mmol)をDMF(0.5mL)に溶解させ、室温で1時間攪拌した。反応混合物に水(40mL)を加え、酢酸エチル(3×60mL)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー{シリカゲル36g;ヘキサン-酢酸エチル(8:1)}にて精製し、TBS保護体2(69.9mg, 83%)を無色油状として得た。
【0097】
類似体2
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ 0.01(6H, s), 0.74(9H, s), 6.80〜7.80(6H, complex)。
【0098】
アルデヒド体3の合成
【化17】

【0099】
TBS保護体2(99.3mg, 0.35mmol)、1M ジイソブチルアルミニウム(トルエン溶液)0.5mLをアルゴン雰囲気下、脱水トルエン(10mL)に溶解させ、1時間攪拌した。反応混合物を氷冷し、アセトン(10mL)、飽和ロッシェル塩水溶液(20mL)、水(30mL)を加え、酢酸エチル(3×50mL)で抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加え乾燥させた後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm×1枚;ヘキサン-酢酸エチル(10:1)}にて精製し、アルデヒド体3(74.4mg, 74%)を黄色油状として得た。
【0100】
アルデヒド体3
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ 0.28(6H, s), 1.03(9H, s), 7.00〜7.80(6H, complex),
10.10(1H, s)。
【0101】
エステル体4の合成
【化18】

【0102】
アルデヒド体3(63.9mg, 0.22mmol)、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォラン(121mg, 0.349mmol)をトルエン(2mL)に溶解させ、室温で5時間攪拌した。反応混合物に水(50mL)を加え、酢酸エチル(3×50mL)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm×1枚;ヘキサン-酢酸エチル(25:1)}で精製し、エステル体4(76.6mg, 97%)を黄色油状として得た。
【0103】
エステル体4
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ 0.25(6H, s), 1.00(9H, s), 1.43(3H, t, J=7.0Hz), 4.23(2H, q, J=7.1Hz), 5.95(1H, d, J=12.5Hz), 6.47(1H, d, J=16.1Hz), 7.01〜7.80(7H, complex)。
【0104】
カルボン酸5の合成
【化19】

【0105】
エステル体4(90.8mg, 0.253mmol)をイソプロピルアルコール(3mL)に溶解させ、1M水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加え、5時間攪拌した。反応混合物に陽イオン交換樹脂IR-120BNaを加え中和した。樹脂を濾別し、濾液を減圧濃縮して、カルボン酸5(54.9mg, quant.)を薄黄色固体として得た。
【0106】
カルボン酸5
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ 6.47(1H, d, J=15.8Hz), 7.00〜7.90(7H, complex)。
【0107】
メチルエステル体6の合成
【化20】

【0108】
D-システイン-S-トリチル化合物(504mg, 1.39mmol)をメタノール(100ml)に溶解させ、4N 塩化水素の1,4-ジオキサン溶液(5.4ml)を加えた。室温で17日間撹拌した後、陰イオン交換樹脂 IRA400 OH AGを用いて中和した。樹脂を濾別し、得られた溶液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル33.6g;ヘキサン-酢酸エチル(1:1)}にて精製し、メチルエステル体6(455mg, 86%)を薄黄色油状として得た。
【0109】
メチルエステル6
IR(neat) 3380, 3320, 1740, 1600cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.47(1H, dd, J=8.1, 13Hz), 2.60(1H, dd, J=5.1, 13Hz), 3.21(1H, dd, J=5.1, 8.1Hz), 3.66(3H, s), 7.18-7.32(9H, complex), 7.40-7.54(6H, complex)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ36.90(t), 52.16(q), 53.78(d), 66.83(s), 126.8(d)×3, 127.9(d)×6, 129.6(d)×6, 144.5(s)×3, 174.2(s)。
【0110】
アミド体7の合成
【化21】

【0111】
メチルエステル6(145mg, 0.381mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(1ml)にアルゴン雰囲気下、カルボン酸5(54.9mg, 0.254mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(145mg, 0.762mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(155mg, 1.27mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm×2枚;ヘキサン-酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アミド体7(58.4mg,
40%)を薄黄色油状として得た。
【0112】
アミド体7
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ 2.75(2H, dd, J=4.6, 7.9Hz), δ3.75(3H, s), 4.77(1H, dd, 2.7, 7.9Hz), 6.35(1H, d, J=16.1Hz), 6.90〜7.80(22H, complex)。
【0113】
チアゾリン8の合成
【化22】

【0114】
アミド7(60.3mg, 0.109mmol)のジクロロメタン溶液(3ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(91mg, 0.327mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(100μL, 0.546mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー(20cm×20cm×0.5mm×2枚;ヘキサン-酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン8(17.4mg, 55%)を黄色固体として得た。
【0115】
チアゾリン8
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ3.63(2H, dd, J=3.1, 8.9Hz), 3.8 1(3H, s), 5.27(1H, t, J=8.9Hz), 7.07〜7.13(2H, complex), 7.33(1H, d, J=16.1Hz), 7.55〜7.83(4H, complex)。
【0116】
類似体9の合成
【化23】

【0117】
チアゾリン8(6.3mg, 0.0201mmol)を、エタノール(2mL)と10mM 炭酸水素アンモニウム水溶液(8mL)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で17時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体9(7.6mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0118】
類似体9
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ 3.61(2H, dd, J=3.1, 8.9Hz), 5.09(1H, t, J=8.9Hz), 7.06〜7.17(2H, complex), 7.30(1H, dd, J=16.1Hz), 7.65〜7.87(4H, complex)。
【0119】
類似体10の合成
【化24】

【0120】
4-シアノフェノール(109mg, 0.916mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(527mg, 3.00mmol)をエタノール(5ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、1 M 水酸化ナトリウム水溶液(5ml)を加え、80℃で19時間撹拌した。反応混合物を放冷後、陽イオン交換樹脂を用いて中和した。樹脂を濾別して得られた溶液に水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、類似体10(190mg, 93%)を黄色固体として得た。
【0121】
類似体10
mp 200-207℃
IR(film) 2680(br.), 1610, 1580, 1510cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ 3.70(1H, d, J=8.6Hz), 3.78(1H, d, J =8.6Hz), 5.23(1H, t, J =8.6Hz), 6.79(2H, d, J =8.9Hz), 7.66(2H, d, J =8.9Hz),
13C NMR(67.8MHz, CDCl3
δ35.95(t), 77.97(d), 116.5(d)×2, 124.5(s), 131.8(d)×2, 163.0(s), 173.9(s), 174.6(s)
MS(EI)m/z 223(M+・, ), 178(100%), 137(13%), 121(19%)。
【0122】
アセチル体11の合成
【化25】

【0123】
p-ヒドロキシ桂皮酸(502.2mg, 3.06mmol)のジクロロメタン溶液(40ml)に、無水酢酸(2.0ml, 21mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(1.13g, 9.93mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(150ml)を加え、クロロホルム(3×150ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル90g;クロロホルム:メタノール50:1)と分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm×3枚;クロロホルム-メタノール(10:1)}にて精製し、アセチル体11(549mg, 87%)を黄色固体として得た。
【0124】
アセチル体11
mp 182-183℃
IR(film) 3050, 1740, 1680, 1630cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.32(3H, s), 6.41(1H, d, J=16Hz), 7.15(2H, d, J=8.6Hz), 7.57(2H, d, J=8.6Hz), 7.76(1H, d, J=16Hz)
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ2.28(3H, s), 6.46(1H, d, J=16Hz), 7.15(2H, d, J=8.6Hz), 7.62-1.65(3H, complex)
1H NMR(270MHz, ACETN)
δ2.28(3H, s), 6.52(1H, d, J=16Hz), 7.21(2H, d, J=8.4Hz), 7.66-7.76(3H, complex)
13C NMR(67.8MHz, CDCl3
δ20.95(q), 121.0(d), 123.4(d)×2, 123.2(d)×2, 133.9(s), 144.2(d), 153.6(s), 170.9(s), 171.2(s)
MS(EI)m/z 206(M+,14), 164(100), 147(20), 119(12), 92(14)。
【0125】
アミド12の合成
【化26】

【0126】
メチルエステル6(184mg, 0.485mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5ml)にアルゴン雰囲気下、アセチル体11(92.1mg, 0.482mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(196mg, 1.02mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(124mg, 1.02mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(100ml)を加え、酢酸エチル(3×100ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル181g;ヘキサン-酢酸エチル(1:1)}にて精製し、アミド12(214mg, 80%)を黄色油状として得た。
【0127】
アミド12
IR(neat) 3280, 1760, 1740, 1660, 1630cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.32(3H, s), 2.70(1H, dd, J=4.6, 12Hz), 2.78(1H, dd, J=5.4, 12Hz), 3.72(3H, s), 4.76(1H, dd, J=4.6, 5.4Hz), 7.10-7.31(9H, complex), 7.36-7.41(6H, complex), 7.52(2H, d, J=8.4Hz), 7.57(1H, d, J=15Hz)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ 21.17(q), 33.93(t), 51.19(d), 52.76(q), 66.99(s), 120.0(d), 122.1(d)×2, 126.9(d)×3, 128.0(d)×6, 129.0(d)×2, 129.5(d)×6, 132.4(s), 140.8(d), 144.3(s), 151.8(s), 165.1(s), 169.3(s), 170.9(s)。
【0128】
チアゾリン13の合成
【化27】

【0129】
アミド12(31.3mg, 0.0553mmol)のジクロロメタン溶液(11ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(33.2mg, 0.119mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(50μl, 0.297mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm×2枚;ヘキサン-酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン13(12.6mg, 71%)を黄色固体として得た。
【0130】
チアゾリン13
mp 118-121℃
IR(film) 1760, 1720cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.31(3H, s), 3.56(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.70(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.85(3H, s), 5.22(1H, t, J=9.2Hz), 7.03(1H, d, J=16Hz)7.13(2H, d, J=8.6Hz), 7.15(1H, d, J=16Hz), 7.50(2H, d, J=8.6Hz)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ 21.15(q), 34.64(t), 52.89(q), 77.96(d), 122.2(d)×2, 122.4(d), 128.7(d)×2, 132.8(s), 141.1(d), 151.7(s)×2, 169.2(s), 132.4(s), 170.0(s), 171.2(s)
MS(EI)m/z 305(M+,44), 263(88), 205(100), 177(69), 163(15)。
【0131】
類似体14の合成
【化28】

【0132】
チアゾリン13(14.9mg, 0.0488mmol)をエタノール(2ml)と10mM 炭酸水素アンモニウム水溶液(8ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で17時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体14
14.7mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0133】
類似体14
mp 138-140℃
IR(film) 3150, 1630, 1570cm-1
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ3.54(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.59(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 5.02(1H, t, J=9.2Hz), 6.79(1H, d, J=8.4Hz), 6.92(1H, d, J=16Hz), 7.12(1H, d, J=16Hz), 7.43(2H, d, J=8.4Hz)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ 36.54(t), 81.19(d), 116.9(d)×2, 119.7(d), 128.0(s), 130.5(d)×2, 132.8(s), 143.7(d), 160.7(s), 172.0(s), 177.5(s)。
【0134】
実施例3:OH-ベンゼン-ジエン型
シリル体15の合成
【化29】

【0135】
4-ヒドロキシベンズアルデヒド(409mg, 3.35mmol)のジクロロメタン溶液(4ml)に、t-ブチルジメチルシリルクロリド(834mg, 5.53mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(734mg, 5.99mmol)を加え、2時間撹拌した。反応混合物に水(150ml)を加え、クロロホルム(150ml)、酢酸エチル(2×150ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル33g;ヘキサン-クロロホルム(1:2)}にて精製し、シリル体15(773mg,
98%)黄色油状として得た。
【0136】
シリル体15
IR(neat) 1699cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ0.01(6H, s), 0.76(9H, s), 6.70(2H, dd, J=6.8, 16Hz), 7.55(2H, dd, J=6.8, 16Hz)
MS(EI)m/z 236(M+・, 43), 179(100)。
【0137】
エステル16の合成
【化30】

【0138】
シリル体15(773mg, 3.28mmol)をトルエン(5ml)に溶解させ、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォラン(1.24 g, 3.55mmol)を加え3.5時間加熱還流した。反応混合物を放冷した後、水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル92g;ヘキサン:クロロホルム(1:2)}にて精製し、エステル16(895mg, 89%)を黄色油状として得た。
【0139】
エチルエステル16
IR(KBr錠剤法) 1716cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ0.01(6H, s), 0.77(9H, s), 1.11(3H, t, J=7.3Hz), 4.04(2H, q, J=7.3Hz), 6.08(1H, d, J=16Hz), 6.62(2H, dd, J=1.9, 6.5Hz), 7.20(2H, dd, J=1.9, 6.5Hz), 7.42(1H, q, J=16Hz)
MS(EI)m/z 306(M+・, 53), 261(9), 249(100), 203(22)。
【0140】
アルコール17の合成
【化31】

【0141】
エチルエステル16(197mg, 0.643mmol)をトルエン(2ml)に溶解させ、ジイソブチルアルミニウムヒドリドのトルエン溶液(3.0ml, 3.0mmol)を加え室温で3時間攪拌した。反応混合物に水(100ml)を加え、酢酸エチル(3×10ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×1.75mm 1枚;ヘキサン-酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アルコール17(141mg, 83%)を無色油状として得た。
【0142】
アルコール17
IR(neat) 3388cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ0.01(6H, s), 0.98(9H, s), 4.30(2H, t, J=5.9Hz), 6.25(2H, dt, J=5.9, 16Hz), 6.56(2H, d, J=8.6Hz), 6.80(2H, d, J=8.6Hz), 7.28(2H, d, J=8.6Hz)
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ0.01(6H, s), 0.80(9H, s), 4.01(2H, d, J=5.9Hz), 6.03(2H, dt, J=5.9, 16Hz), 6.35(2H, d, J=16Hz), 6.60(2H, dd, J=1.9, 8.6Hz), 7.11(2H, dd, J=1.9, 8.6Hz)
MS(EI)m/z 264(M+,54), 207(100), 189(20), 115(20), 75(22)。
【0143】
アルデヒド18の合成
【化32】

【0144】
アルコール17(62.8mg, 0.239mmol)をジクロロメタン溶液(1.5ml)に溶解させ、デスーマーチン試薬(205mg, 0.484mmol)を加え室温で1.5時間攪拌した。反応混合物に炭酸水素ナトリウム水溶液(25ml)とチオ硫酸ナトリウム水溶液(25ml)を加えたのち、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm 1枚;ヘキサン-酢酸エチル(2:1)}にて精製し、アルデヒド18(141mg, 76%)を黄色油状として得た。
【0145】
アルデヒド18
IR(KBr錠剤法) 1675cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ0.01(6H, s), 0.77(9H, s), 6.37(1H, dd, J=7.8, 16Hz), 6.56(2H, d, J=8.6Hz), 6.66(2H, d, J=8.6Hz), 7.20(1H, d, J=16Hz), 7.25(2H, d, J=8.6Hz), 9.43(1H, d, J=7.8Hz),
MS(EI)m/z 262(M+,47), 207(25), 206(100)。
【0146】
エステル19の合成
【化33】

【0147】
アルデヒド18(47.6mg, 0.181mmol)をトルエン(1ml)に溶解させ、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォラン(132mg, 0.380mmol)を加え室温で4時間加熱還流した。反応混合物を放冷した後、水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm 1枚;ヘキサン-酢酸エチル(2:1)}にて精製し、エチルエステル19(45.4mg, 76%)を黄色油状として得た。
【0148】
エチルエステル19
IR(neat) 1705cm-1
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ0.01(6H, s), 0.78(9H, s), 1.11(3H, t, J=7.3Hz), 4.04(2H, q, J=7.3Hz), 5.74(1H, d, J=7.8, 15Hz), 6.55-6.68(4H, complex), 7.15(2H, dd, J=2.2Hz), 7.25(1H, d, J=15Hz),
MS(EI)m/z 332(M+・, 41), 275(22), 218(100), 173(28), 145(92)。
【0149】
カルボキシル体20の合成。
【化34】

【0150】
エチルエステル19(9.7mg, 0.0292mmol)をイソプロピルアルコール溶液(1ml)に溶解させ、1M 水酸化ナトリウム水溶液(1ml, 1mmol)を加え50℃で20時間攪拌した。反応混合物を放冷した後、陽イオン交換樹脂IR-120B NAを用いて中和した。樹脂を濾別し、得られた溶液を減圧濃縮するとカルボキシル体 20(10.3mg, quant.)が黄色固体として得られた。
【0151】
カルボキシル体20
IR(KBr錠剤法) 3311, 1670cm-1
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ5.74(1H, d, J=7.8, 15Hz), 6.55-6.68(4H, complex), 7.38(2H, d, J=8.9Hz), 7.45(1H, d, J=15Hz)
MS(EI)m/z 190(M+, 9), 183(100), 149(43), 105(58)。
【0152】
アミド21の合成
【化35】

【0153】
エステル体6(32.3mg, 0.170mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(1ml)にアルゴン雰囲気下、カルボキシル体20(32.3mg, 0.170mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(110mg, 0.573mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(64.9mg, 0.532mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物に水(150ml)を加え、酢酸エチル(3×100ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm 1枚;クロロホルム-メタノール(10:1)}にて精製し、アミド21(44.5mg, 48%)を黄色油状として得た。
【0154】
アミド21
IR(neat) 3290, 1739, 1652cm-1
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ5.91(1H, d, 15Hz), 6.76-6.92(4H, complex), 1.11(3H, t, J=7.3Hz), 4.04(2H, q, J=7.3Hz), 5.74(1H, d, J=7.8, 15Hz), 6.55-6.68(4H, complex), 7.38(2H, d, J=8.9Hz), 7.45(1H, d, J=15Hz)。
【0155】
チアゾリン22の合成
【化36】

【0156】
アミド体21(44.5mg, 0.0811mmol)のジクロロメタン溶液(1ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(45.7mg, 0.164mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.4ml, 2.38mmol)を加え、室温で40分撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(50ml)、酢酸エチル(2×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm 2枚;ヘキサン-酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン22(4.6mg, 20%)を薄黄色固体として得た。
【0157】
チアゾリン22
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.71(2H, d, 8.9Hz), 3.66(3H, s), 4.72(1H, t, J=8.9Hz), 5.85(2H, d, J=15Hz), 6.21-7.46(22H, d, complex)。
【0158】
類似体23の合成
【化37】

【0159】
チアゾリン体22(4.6mg, 0.0159mmol)を、エタノール(2ml)と10mM炭酸水素アンモニウム水溶液(8ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で18時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体 23(9.5mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0160】
類似体23
IR(KBr錠剤法) 3396, 1596cm-1
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ4.25(2H, d, 7.3Hz), 5.21(1H, t, J=7.3Hz), 6.52(2H, d, J=15Hz), 6.75-7.56(7H, complex), 6.76(2H, d, J=8.9Hz), 7.37(2H, d, J=8.9Hz)
MS(ESI) [M+H]+ ;m/z 276.0694。
【0161】
実施例5:ジメチルアミノ-ベンゼン型
類似体24の合成
【化38】

【0162】
4-ジメチルアミノベンゾニトリル(103mg, 0.706mmol)、D-システイン塩酸塩一水和物(371mg, 2.12mmol)をエタノール(4ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、1M 水酸化ナトリウム水溶液(5ml)を加え、80℃で5時間撹拌した。反応混合物に1M 塩酸(5ml)を加え酸性にした後、減圧濃縮した。得られた固体を濾過し、蒸留水で洗浄して類似体24(50.9mg, quant.)を黄色固体として得た。
【0163】
類似体24
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ3.01(6H, s), 3.(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 3.(1H, dd, J=9.2, 11Hz), 5.00(1H, t, J=9.2Hz), 6.71(2H, dd, J=2.4, 7.0Hz), 7.71(2H, dd, J=2.4, 7.0Hz)。
【0164】
実施例6:ジメチルアミノ-ベンゼン-モノエン型
アミド25の合成
【化39】

【0165】
メチルエステル体6(184mg, 0.485mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5ml)にアルゴン雰囲気下、p-ジメチルアミノ桂皮酸(92.1mg, 0.482mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(196mg, 1.02mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(124mg, 1.02mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(100ml)を加え、酢酸エチル(3×100ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル181g;ヘキサン-酢酸エチル(1:1)}にて精製し、アミド25(214mg, 80%)を黄色油状として得た。
【0166】
アミド25
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ2.72(2H, t, J=5.1Hz), 2.99(6H, s), 3,71(3H, s), 4.78(1H, dd, J=5.1, 7.8Hz), 6.05(1H, d, J=7.8Hz), 6.15(1H, d, J=15Hz), 6.68(1H, d, J=8.6Hz), 7.10-7.31(9H, complex), 7.35-7.41(6H, complex), 7.53(1H, d, J=15Hz)。
【0167】
チアゾリン26の合成
【化40】

【0168】
アミド25(118mg, 0.214mmol)のジクロロメタン溶液(10ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(124mg, 0.446mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(360μl, 2.14mmol)を加え、室温で40分撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(50ml)、酢酸エチル(2×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー{シリカゲル42g;ヘキサン-酢酸エチル(1:2)}にて精製し、チアゾリン26(44.2mg, 71%)を黄色固体として得た。
【0169】
チアゾリン26
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ3.02(6H, s), 3.57(1H, d, J=8.6Hz), 3.59(1H, d, J=8.6Hz), 3,84(3H, s), 5.19(1H, t, J=8.6Hz), 6.67(1H, d, J=8.9Hz), 6.92(1H, d, J=16Hz), 7.08(1H, d, J=16Hz), 7.39(2H, d, J=8.9Hz)。
【0170】
類似体27の合成
【化41】

【0171】
チアゾリン26(16.3mg, 0.0591mmol)を、エタノール(2ml)と10mM 炭酸水素アンモニウム水溶液(8ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で19時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体27(15.2mg, quant.)を橙色固体として得た。
【0172】
類似体27
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ3.02(6H, s), 3.57(1H, d, J=8.6Hz), 3.59(1H, d, J=8.6Hz), 3,80(3H, s), 5.19(1H, t, J=8.6Hz), 6.73(1H, d, J=8.9Hz), 6.87(1H, d, J=16Hz), 7.23(1H, d, J=16Hz), 7.45(2H, d, J=8.9Hz)
MS(ESI) [M+H]+ ;m/z 277.1011。
【0173】
実施例7:ジメチルアミノ-ベンゼン-ジエン型
エチルエステル28の合成
【化42】

【0174】
4-ジメチルアミノシンナミックアルデヒド(104mg, 0.592mmol)をトルエン(9ml)に溶解させ、カルベトキシメチレントリフェニルホスフォラン(621.6mg, 1.78mmol)を加え4.5時間加熱還流した。反応混合物を放冷した後、水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル192g;ヘキサン-酢酸エチル(3:2)}にて精製し、エチルエステル28(144mg, 99%)を黄色固体として得た。
【0175】
エチルエステル28
1H NMR(270MHz, CD3Cl3
δ1.57(3H, s), 3.00(6H, s), 4.21(2H, q), 5.87(1H, d, J=15Hz), 6.67(2H, d, J=8.9Hz), 6.83(1H, d, J=15Hz), 7.37(2H, d, J=8.9Hz), 7.42(1H, d, J=15Hz), 7.46(1H, d, J=15Hz)
MS(EI)m/z 245(M+・, 100%)。
【0176】
カルボキシル体29の合成
【化43】

【0177】
エチルエステル28(235mg, 1.08mmol)をイソプロピルアルコール(7ml)に溶解させ、1M水酸化ナトリウム水溶液(4ml, 4mmol)を加えた。室温で3日撹拌した後、1M塩酸を用いて中和した。それに水(50ml)を加え、酢酸エチル(3×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮するとカルボキシル体29(137.1mg, 58%)が黄色固体として得られた。
【0178】
カルボキシル体29
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ2.98(6H, s), 5.86(1H, d, J=15Hz), 6.70-6.90(3H, complex), 6.72(2H, d, J=8.9Hz), 7.37-7.45(4H, complex), 7.38(2H, d, J=8.9Hz),
MS(EI)m/z 217(M+・, 100%)。
【0179】
アミド30の合成
【化44】

【0180】
メチルエステル6(131mg, 0.347mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(6ml)にアルゴン雰囲気下、カルボキシル体29(88.6mg, 0.430mmol)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(209mg, 1.09mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(138mg, 1.12mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。反応混合物に水(150ml)を加え、酢酸エチル(3×150ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル166g;ヘキサン-酢酸エチル(1:1)}にて精製し、アミド30(96.3mg, 40%)を黄色油状として得た。
【0181】
アミド30
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ2.69(1H, dd, J=4.8, 13.1Hz), 2.85(1H, dd, J=8.8, 13.1Hz), 3.66(3H, s), 4.43(1H, dd, J=4.8, 8.8Hz), 6.84(1H, dd, J=2.0, 8.6Hz), 6.97(1H, br.s), 7.20-7.31(9H, complex), 7.38-7.41(7H, complex), 7.51(1H, d, J=8.6Hz)
13C NMR(67.8MHz, CD3OD)
δ34.32(t), 53.03(q), 53.18(d), 68.31(s), 98.70(d), 112.49(d), 114.95(d), 121.05(s), 124.13(d), 127.95(d), 129.01(d), 130.72(d), 145.87(s), 148.01(s), 158.03(s), 159.63(s), 161.04(s), 172.02(s)。
【0182】
チアゾリン31の合成
【化45】

【0183】
アミド30(43.3mg, 0.0751mmol)のジクロロメタン溶液(5ml)にアルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィンオキシド(44.9mg, 0.161mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(17μl, 0.101mmol)を加え、室温で80分撹拌した。反応混合物に水(50ml)を加え、クロロホルム(50ml)、酢酸エチル(2×50ml)で抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー{20cm×20cm×0.5mm 3枚;ヘキサン-酢酸エチル(1:1)}にて精製し、チアゾリン31(17.6mg, 74%)を薄黄色固体として得た。
【0184】
チアゾリン31
1H NMR(270MHz, CDCl3
δ3.00(6H, s), 3.54(1H, dd, J=8.9,11Hz), 3.57(1H, dd, J=8.9,11Hz), 5.17(1H, t, J=8.9Hz), 6.54(1H, d, J=15Hz), 6.65-6.80(4H, complex), 6.94(1H, dd, J=8.9,15Hz) 7.36(2H, d, J=8.9Hz)。
【0185】
類似体32の合成
【化46】

【0186】
チアゾリン31(12.7mg, 0.0402mmol)をエタノール(2ml)と10mM 炭酸水素アンモニウム水溶液(6ml)の混合溶媒に溶解させ、アルゴン雰囲気下、少量のブタ肝臓エステラーゼを加えた。36℃で25時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、その濾液を減圧濃縮して、類似体32(10.2mg, quant.)を薄黄色固体として得た。
【0187】
類似体32
1H NMR(270MHz, CD3OD)
δ2.98(6H, s), 3.54(1H, d, J=8.9Hz), 3.57(1H, d, J=8.9Hz), 5.19(1H, t, J=8.9Hz), 6.47(1H, d, J=15Hz), 6.70-7.06(5H, complex), 7.38(2H, d, J=8.9Hz)
【0188】
実施例8-1:メチルの脱保護(フェノール体13の合成)
【化47】

【0189】
市販の2‐シアノ‐6‐メトキシベンゾチアゾール(651.7mg、3.43mmol)に、ピリジニウムクロライド(30.6g、265mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で20℃に加熱し、塩化ピリジニウムを融解させ30分間撹拌した。反応混合物を放冷した後、1 M塩酸(80ml)を加え、酢酸エチル(4×60ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{シリカゲル85g;クロロホルム‐メタノール(10:1)}にて精製し、フェノール体13(448.8mg、74%)を黄色固体として得た。また原料(213.4g、1.12mmol)を回収した。
【0190】
フェノール体13
mp 155-170℃ decomp.
IR(film)3178, 2225 cm-1
1H NMR(270 MHz, CD3OD):δ 7.17(1H, dd, J = 2.6, 8.9Hz), 7.40(1H, d, J = 2.6Hz), 7.99(1H, d, J = 8.9Hz)
13C NMR(67.8 MHz, CD3OD):δ 107.00(d), 114.29(s), 119.61(d), 126.58(d), 133.91(s), 139.01(s), 147.29(s), 160.32(s)
MS(EI)m/z 176(M+・, 100), 124(5)。
【0191】
実施例8-2:ホタルルシフェリンの合成
【化48】

【0192】
フェノール体13(20.0mg、0.114mmol)、D‐システイン塩酸塩一水和物(19.7mg、0.125mmol)をメタノール:蒸留水(2:1)(3.0ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、炭酸カリウム(17.0mg、0.123mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。反応混合物に1 M塩酸0.2mlを加え、酸性にした後、減圧濃縮した。得られた固体を濾過し、蒸留水で洗浄してホタルルシフェリン(1)(23.5mg、74%)を黄色固体として得た。
【0193】
ホタルルシフェリン(1)
1H NMR(270 MHz, DMSO-d6):δ 3.66(1H, dd, J = 8.2, 11.2Hz), 3.67(1H, dd, J = 9.9, 11.2Hz), 5.40(1H, dd, J = 8.2, 9.9Hz), 7.06(1H, dd, J = 2.6, 8.9Hz), 7.51(1H, d, J = 2.6Hz), 7.96(1H, d, J = 8.9Hz), 10.24(1H, br.s, OH)
13C NMR(67.8 MHz, DMSO-d6):δ 34.5(t), 78.0(d), 106.7(d), 117.0(d), 124.8(d), 137.1(s), 146.1(s), 157.3(s), 159.8(s), 164.3(s), 171.1(s)。
【0194】
実施例9:生物発光スペクトルの測定
1)測定装置
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
アジレント・テクノロジー株式会社製のAgilent 1100 seriesHPLC を使用した。装置の内訳は、デガッサー、クォータナリポンプ、マニュアルインジェクター、カラムコンパートメント、ダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、ケミステーション(PC用ソフトウェア)である。用いたカラムはダイセル化学工業株式会社製CHIRALCEL
OD-RH(内径0.46cm、長さ15cm)である。
【0195】
pH測定
堀場製作所製F-23型ガラス電極式水素イオン濃度指示計を使用して行った。
【0196】
発光光子量測定
ATTO株式会社製Luminescencer-PSN
AB-2200を使用して測定した。
【0197】
発光スペクトル測定
ATTO株式会社製微弱発光蛍光スペクトル装置AB-1850を使用して測定した。測定したスペクトルは全て検出器の特性を補正したスペクトルである。
【0198】
2)試薬
超純水は、MILLIPORE製Milli-RX12αから採水したものを使用した。メタノール、t-ブタノールは、関東化学株式会社製の特級溶媒を使用した。
【0199】
ルシフェラーゼ(北米産ホタルPhotinus pyralis由来)は、Sigma社製またはPromega社製の組換え型を使用した。
【0200】
ATP-Mgは、Sigma社製のものを使用した。
【0201】
リン酸緩衝液は、和光純薬工業株式会社製のリン酸水素二カリウム・12水和物(特級)とリン酸二水素カリウム・2水和物(特級)を超純水に溶かし、pHを調節して用いた。
【0202】
カリウムt‐ブトキシドは、東京化成工業株式会社製のものを使用した。
【0203】
蒸留水、アセトニトリルは、関東化学株式会社製の高速液体クロマトグラフィー用溶媒を使用した。
【0204】
トリフルオロ酢酸は、和光純薬工業株式会社製のもの(特級)を使用した。
【0205】
3)試料調製
基質溶液
基質を電子天秤で秤量し希釈した。溶媒として、生物発光の測定の場合はリン酸緩衝液(50mM, pH 6.0)を、化学発光測定の場合はt-ブタノールを使用した。
【0206】
酵素溶液
ルシフェラーゼを1μg/μlになるようにTris-HCl緩衝液(50mM, pH8.0)で希釈し小分けにした。これをストック溶液とし、必要量をその都度希釈して用いた。なお、ストック溶液は-80℃の冷凍庫に保存した。
【0207】
ATP‐Mg溶液
ATP-Mgを超純水で希釈した。
【0208】
生物発光スペクトル
200μLポリスチレンチューブ内で、リン酸カリウム緩衝液(0.5 M, pH8.0, 20μl)基質溶液(2.5mM, 20μl)、酵素溶液(20μl)、次いでATP-Mg溶液(10mM, 40μl)を混合して発光スペクトル測定を行った。酵素溶液の濃度は、17μMのものを使用した。ただし、ホタルルシフェリン(1)は、1.7μM、フェノール型ルシフェリンは、170μMの酵素をそれぞれ使用した。また、発光スペクトル測定の露光時間は、60秒とした。ただし、ホタルルシフェリンは、5秒で行った。
【0209】
実験結果
上記手順を使用して、図1に示した化合物の発光波長を測定した。図1に示した化合物は、それぞれの化合物の下に記載された発光波長を有していた。
【0210】
図1のルシフェリン類似体の構造とその発光波長から、ルシフェリン類似体の構造において、二重結合を1つ伸長するごとに発光波長が長波長側に約100nmシフトすることが分かった。また、ルシフェリン類似体の構造において、上記二重結合部分をベンゼン環に変換することにより、発光波長が長波長側に約20〜30nmシフトすることが分かった。また、ルシフェリン類似体の構造において、ジアルキルアミノ基を水酸基に変化させることにより、発光波長が短波長側に約20〜30nmシフトすることが分かった。これにより、実用的な発光波長を変更するための指標を確立することができた。この指標に基づいてルシフェリン誘導体を設計することにより、所望の発光波長を有する化合物を製造することができる。
【0211】
また、図2に示した発光波長のシフト法則に基づいて、図1に示したルシフェリン類似体のように、可視領域の全体にわたる発光波長を有する化合物群を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の発光波長を有するルシフェラーゼの基質の製造方法であって、
発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における-OH基もしくは-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)の一方が他方と化合物を製造する工程、
発光波長をシフトさせるために、ルシフェリンもしくはルシフェリン類似体における二重結合の数nが増加もしくは減少された化合物を製造する工程、および/または
発光波長をシフトさせるために、前記二重結合部分もしくはベンゼン環の一方が他方と置換された化合物を製造する工程、
を含む方法。
【請求項2】
基本構造を特定した製造方法のクレーム
請求項1に記載の製造方法であって、
発光波長をシフトさせるために、式I:
【化1】

のルシフェリンの-OH基が-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)に置換された化合物もしくは一般式II:
【化2】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、nは、0、1、2または3である)もしくは一般式III:
【化3】

のジアルキルベンゼン部分の-NR1R2基(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルである)が-OH基に置換された化合物を製造する工程、
発光波長をシフトさせるために、前記一般式IIの二重結合の数nが増加もしくは減少された化合物を製造する工程、および/または
発光波長をシフトさせるために、前記一般式IIの二重結合部分とベンゼン環とが置換された化合物を製造する工程、
を含む方法。
【請求項3】
一般式IIのルシフェリン類似体:
【化4】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【請求項4】
一般式IIIのルシフェリン類似体:
【化5】

式中、
R1、R2およびR3は、それぞれ独立してHまたはC1-4アルキルであり、
XおよびYは、それぞれ独立してC、N、SまたはOであり、
nは、0、1、2または3である。
【請求項5】
請求項3または4に記載の化合物であって、
式中、-NR1R2基が-OH基である化合物。
【請求項6】
請求項1および2に記載の方法によって製造された化合物、並びに請求項3および4に記載の化合物から選択される複数の化合物を含む、発光検出キット。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載の方法によって製造された化合物または請求項3もしくは4に記載の化合物を利用した発光剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215795(P2010−215795A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64595(P2009−64595)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度、科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業、重点地域研究開発推進プログラム「シーズ発掘試験」、研究課題「ホタル生物発光系の発光波長改変指標の確立と制御技術の開発」、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】