説明

波長変換材料及び太陽電池

【課題】 波長変換材料及び太陽電池に関し、ランタノイド原子を用いた有機金属サンドイッチ錯体の大気暴露に伴う劣化を防止する。
【解決手段】 ランタノイド原子を、2個のシクロオクタテトラエン或いはシクロオクタテトラエン誘導体のいずれかからなる配位子で挟んだ有機金属サンドイッチ錯体或いは前記ランタノイド原子と前記配位子が交互に複数個積み重なった多層有機金属サンドイッチ錯体を酸素の透過率が1cc/m・day・atm以下且つ水蒸気の透過率が0.2g/m・day以下の特性を持つ樹脂材料に分散または前記樹脂材料で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換材料及び太陽電池に関するものであり、Eu(ユーロピウム)等のランタノイド原子と、シクロオクタテトラエン或いはシクロオクタテトラエン誘導体からなる配位子を交互に積層した有機金属サンドイッチ錯体からなる波長変換材料の酸素或いは水蒸気との反応による劣化を防止するための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、Eu原子をはじめとしたある種のランタノイドからなる有機金属錯体は、紫外及び近紫外の領域の光を照射することで可視領域の蛍光を発生することが知られている。例えば、3価のEu原子からなる金属錯体や酸化ユーロピウムEuを含有した発光材料或いは蛍光材料としては、BaMgAl1017:Eu2+やSrGaS:Eu2+などが知られている。
【0003】
このような光照射によって発光する材料は、さまざまな分野に於いてその応用が期待されている。例えば、近紫外で発光する高効率LED素子の発光源として当該材料を利用することで特定の可視領域の光源として利用できる。或いは、偽造や複写を防止する印刷分野、特に、紙幣の隠し印刷用として透明かつ可視領域で蛍光発光するインク(インビジブルインク)材料としての利用も期待されている。
【0004】
また、紫外及び近紫外の領域の光を可視領域の光に変換する波長変換材料としての利用も期待され、Si太陽電池の変換効率の改善に向けた研究開発も進められている(例えば、非特許文献1参照)。即ち、単結晶Si太陽電池やアモルファスSi太陽電池は、その禁制帯幅により近赤外領域或いは長波長側の可視光領域で最大の感度を有しているのに対して、太陽光スペクトルは短波長側にピークを有しているため、紫外及び近紫外の領域の変換効率が低いという問題がある。
【0005】
そこで、太陽電池の光入射側に紫外及び近紫外の領域の光を可視領域の光に変換する波長変換部材を設けて、紫外及び近紫外の領域の光の利用効率を高めている。しかしながら、これらの波長変換材料の変換効率が低いという問題や、波長変換材料の樹脂に対する分散性が悪く、波長変換材料を分散させた樹脂の透明度が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、変換効率が高く或いは分散性に優れた新規な波長変換材料の開発が急務となる。本発明者は、Eu原子とシクロオクタテトラエンからなる有機金属サンドイッチ錯体に着目して、液相反応による有機金属サンドイッチ錯体の合成を進め、既に、有機金属サンドイッチ錯体を構成する2価のEu原子の発光遷移に由来した発光特性を溶液中に於いて確認している(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http//eetimes.jp/ee/articles/1003/09/news110.html
【非特許文献2】ナノ学会第8回大会;ポスター発表,2010年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、2価のEu原子を用いた有機金属サンドイッチ錯体は、大気暴露による酸素或いは水蒸気との反応によって、2価のEu原子が安定に存在することができなくなり、発光特性が変化し、しかも発光効率が著しく低下するという問題がある。このような問題は、Eu以外のランタノイドを用いた場合にも共通の問題になる。
【0009】
したがって、本発明は、ランタノイド原子を用いた有機金属サンドイッチ錯体の大気暴露に伴う劣化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、上記の課題を解決するために、波長変換材料において、ランタノイド原子を、2個のシクロオクタテトラエン或いはシクロオクタテトラエン誘導体のいずれかからなる配位子で挟んだ有機金属サンドイッチ錯体或いは前記ランタノイド原子と前記配位子が交互に複数個積み重なった多層有機金属サンドイッチ錯体を酸素の透過率が1cc/m・day・atm以下且つ水蒸気の透過率が0.2g/m・day以下の特性を持つ樹脂材料に分散または前記樹脂材料で被覆したことを特徴とする。
【0011】
このように、有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体を酸素と水蒸気の透過率が非常に低い樹脂材料に分散或いはまたは樹脂材料で被覆することにより、大気に暴露した場合にも高い変換効率を維持することができる。また、このような有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体は樹脂材料に対する分散性に優れているので、可視光領域での光吸収がほとんどない。
【0012】
(2)また、本発明は、上記(1)において、有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体を被覆した樹脂材料の主表面を、透明ガラス或いは透明セラミックス材料のいずれかのカバー部材で被覆するとともに、前記カバー部材の全周囲を封止用接着剤で密閉被覆したことを特徴とする。
【0013】
このように、有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体を樹脂材料で被覆した場合には、その主表面を、透明ガラス或いは透明セラミックス材料のいずれかのカバー部材で被覆するとともに、カバー部材の全周囲を封止用接着剤で密閉被覆することにより、酸素或いは水蒸気の侵入を効果的に防止することができる。
【0014】
(3)また、本発明は、上記(1)または(2)において、ランタノイドが、ユーロピウムであることを特徴とする。
ランタノイドとしては、Tb或いはSm等の他の元素でも良いが、Si太陽電池の感度が高い600nm近傍に発光波長のピークを有するEuが好適である。
【0015】
(4)また、本発明は、上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、前記シクロオクタテトラエン誘導体における置換基が、
(R1)(R2)(R3)Si−
で表わされるシリル基であり、
前記R1、R2及びR3が、炭素数1〜20の第1級、第2級または第3級アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基或いは炭素数7〜20のアラルキル基のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
このように、配位子としてシクロオクタテトラエン誘導体を用いた場合には、溶媒への溶解性を高めるために、上述のシリル基を用いることが望ましい。
【0017】
(5)また、本発明は、上記(4)において、前記シリル基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、或いは、tert−ブチルジフェニルシリル基のいずれかであることを特徴とする。
【0018】
このように、シリル基の中でも、R1=R2=R3に相当するトリメチルシリル基、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル基、或いは、R1≠R2=R3に相当するtert−ブチルジメチルシリル基或いはtert−ブチルジフェニルシリル基が入手容易性等の観点から望ましい。
【0019】
(6)また、本発明は、上記(1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記樹脂材料が、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、或いはポリエチレンビニルアルコールのいずれかであることを特徴とする。
【0020】
このように、樹脂材料としては、酸素及び水蒸気に対する透過率が非常に低いシクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、或いはポリエチレンビニルアルコールのいずれかが好適である。
【0021】
(7)また、本発明は、太陽電池において、上記の波長変換材料を光入射側に設けたことを特徴とする。
このように、太陽電池の光入射側に上記の波長変換材料を設けることにより、感度の低い紫外或いは近紫外の光を感度の高い可視光領域の光に変換することで、光変換効率を高めることができる。また、上記の波長変換材料は可視光領域の光に対して透明であるので、波長変換材料で変換されない波長の光を無駄に吸収することがない。
【発明の効果】
【0022】
開示の波長変換材料及び太陽電池によれば、ランタノイド原子を用いた有機金属サンドイッチ錯体の大気暴露に伴う劣化を防止することが可能になる。また、それによって、太陽電池の光変換効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の波長変換材料の概念的構成図である。
【図2】有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体の構造図である。
【図3】有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体が分散した溶液中の発光特性図である。
【図4】本発明の実施例1の波長変換材料の製造工程の説明図である。
【図5】波長変換材料薄膜の電子線励起による発光特性図である。
【図6】本発明の実施例2の波長変換材料の製造工程の説明図である。
【図7】本発明の実施例3の太陽電池の概念的断面図である。
【図8】本発明の実施例4の太陽電池の概念的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここで、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態の波長変換材料を説明する。図1は、本発明の実施の形態の波長変換材料の概念的構成図である。図1(a)は、ランタノイド原子とシクロオクタテトラエン(C:COT)或いはシクロオクタテトラエン誘導体のいずれかから成る配位子とを交互に複数積層した有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体2を酸素の透過率が1cc/m・day・atm以下且つ水蒸気の透過率が0.2g/m・day以下の特性を持つ樹脂材料3に分散したものである。
【0025】
また、図1(b)は、有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体2を酸素の透過率が1cc/m・day・atm以下且つ水蒸気の透過率が0.2g/m・day以下の特性を持つ樹脂材料3で被覆したものであり、通常は、樹脂材料の主表面を透明ガラス或いは透明セラミックス材料のいずれかのカバー部材4で被覆するとともに、前記カバー部材の全周囲を封止用接着剤5で密閉被覆する。このような構造を採用することによって、酸素と水蒸気の遮断を飛躍的に向上することができる。なお、基板1としては、ガラス基板或いはセラミック基板等の絶縁性基板、シリコン基板等の半導体基板、或いは、銅基板等の導電性基板の何れを用いても良く、さらには、太陽電池等の電子デバイス上に形成しても良い。
【0026】
図2は、有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体の構造図であり、ランタノイド原子6とシクロオクタテトラエン(C:COT)或いはシクロオクタテトラエン誘導体のいずれかから成る配位子7とを交互に複数積層したものであり、Eu(COT)の構造を有している。なお、mは、n−1、n,n+1のいずれかであり、図においては、m=n+1の例を示している。また、マトリックス支援レーザー脱離イオン化による飛行時間型質量分析法を用いて、多層有機金属サンドイッチ錯体9が、少なくともn=2〜9まで混在した状態になっていることを確認しているが、n>9の錯体も混在している状態であると考えられる。
【0027】
ランタノイドとしては、Eu、Tb或いはSm等のランタノイド元素を用いることができるが、Si太陽電池の感度が高い600nm近傍に発光波長のピークを有するEuが好適である。
【0028】
また、配位子7としては、シクロオクタテトラエン誘導体の方が、有機溶剤に溶けやすく、置換基としては、
(R1)(R2)(R3)Si−
で表わされるシリル基であり、R1、R2及びR3としては、炭素数1〜20の第1級、第2級または第3級アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基或いは炭素数7〜20のアラルキル基のいずれかを用いる。
【0029】
特に、シリル基の中でも、R1=R2=R3に相当するトリメチルシリル基、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル基、或いは、R1≠R2=R3に相当するtert−ブチルジメチルシリル基或いはtert−ブチルジフェニルシリル基が入手容易性等の観点から望ましい。
【0030】
また、樹脂材料3としては、酸素及び水蒸気に対する透過率が非常に低いシクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、或いはポリエチレンビニルアルコールのいずれかを用いる。
【0031】
なお、有機金属サンドイッチ錯体8或いは多層有機金属サンドイッチ錯体9を製造する場合には、酸素濃度1ppm以下且つ水蒸気濃度1ppm以下の不活性ガス雰囲気中で、無水テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒中で、シクロオクタテトラエン或いはシクロオクタテトラエン誘導体とヨウ化ユーロピウム(II)を加えて反応させれば良い。
【0032】
この場合の不活性ガスとしてはArが好適であるが、N等の他の不活性なガスを用いても良い。また、このような不活性ガス雰囲気は、シュレンクライン内或いはグローブボックス内に形成する。また、有機金属サンドイッチ錯体8或いは多層有機金属サンドイッチ錯体9を樹脂材料に分散或いは樹脂材料で被覆する工程は、全てこの不活性ガス雰囲気中で行う。
【0033】
このように、本発明の実施の形態の波長変換材料は、紫外乃至短波長側可視光を吸収して、より波長の長い可視光に変換するので、Si太陽電池の変換効率の改善に向けた紫外及び近紫外の領域の光を可視領域の光に変換する波長変換材料として有用である。因みに、ランタノイドとしてEuを用いた場合には、250nm乃至550nm波長領域の光を吸収して、600nm近傍にピークを有する可視領域の発光特性を有する。
【実施例1】
【0034】
次に、図3乃至図5を参照して、本発明の実施例1の波長変換材料の製造方法を説明する。まず、酸素濃度1ppm以下および水蒸気濃度1ppm以下のArガス雰囲気にしたグローブボックス10内において、
無水テトラヒドロフラン(THF)溶媒中に、
トリメチルシリル基を導入したシクロオクタテトラエン誘導体:5,8−ビス(トリメチルシリル)シクロオクタ−1,3,6−トリエン 0.25mモル
n−ブチルリチウム 0.50mモル
を投入して2時間反応させる。
【0035】
次いで、この溶液中に、
ヨウ化ユーロピウム(II) 0.13mモル
を加えて3時間反応させることで、有機金属サンドイッチ錯体或いはこの構造が交互に積み重なった多層から成る多層有機金属サンドイッチ錯体を生成させる。
【0036】
図3は、有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体が分散した溶液中の発光特性図であり、590nm近傍に発光ピークを有する。
【0037】
次いで、この溶液を減圧濃縮することによりTHF溶媒を除去したのち、3mlの無水ヘキサンに有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体を抽出する。次いで、遠心分離により副生成物の白色固体(ヨウ化リチウム)を除去することにより、有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体のヘキサン溶液を得る。
【0038】
次いで、図4(a)に示すように、酸素濃度1ppm以下および水蒸気濃度1ppm以下のArガス雰囲気にしたグローブボックス10内において、容器11に
400μlのユーロピウムイオン濃度40mモル/リットルのヘキサン溶液(錯体分散液)12に
400mgのシクロオレフィンポリマーチップ13
を加え、マグネチックスターラー(回転速度100rpm)で2時間半、撹拌して、有機金属サンドイッチ錯体とポリマーとが分散した溶液14を作製する。
【0039】
次いで、図4(b)に示すように、グローブボックス10内において、ガラス板15上に溶液14を滴下して、常温下で6時間乾燥することで厚さが100μmの固体の波長変換材料薄膜16を形成する。
【0040】
このガラス板15上に作製した波長変換材料薄膜16に紫外線ランプの光を照射したところ、オレンジ色の蛍光が観測された。さらに、波長変換材料薄膜16を大気暴露したのちに、再度紫外線ランプで光を照射しても同様にオレンジ色の蛍光が観測されたことから、大気暴露前後で光学特性に変化がないことを確認した。
【0041】
また、電子線励起による発光特性を調べるために、電子線照射によるチャージアップを防止するため、基板としてガラス板の代わりに導電性をもつシリコン基板を用いて同様の工程で波長変換材料薄膜を形成する。
【0042】
図5は、波長変換材料薄膜の電子線励起による発光特性図であり、ここでは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、電子線励起による波長変換材料薄膜の発光特性を調べた。その結果、図3に示す溶液中の発光特性にほぼ等しい、590nm近傍をピークにした発光特性を有していることから、所望の光学特性が得られていることを分かった。
【0043】
このように、本発明の実施例1においては、Eu原子とシクロオクタテトラエン誘導体からなる配位子で挟んだ有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体を酸素と水蒸気の透過率が非常に小さいシクロオレフィンポリマー中に分散しているので、大気暴露に伴う劣化を防止することができる。
【0044】
また、この有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体は樹脂に対する分散性に優れているので、樹脂が白濁することはなく、可視光に対する優れた透明性を示すので、可視光の不所望な吸収損失を低減することができる。
【実施例2】
【0045】
次に、図6を参照して、本発明の実施例2の波長変換材料の製造方法を説明する。まず、上記実施例1と全く同様に、酸素濃度1ppm以下および水蒸気濃度1ppm以下のArガス雰囲気にしたグローブボックス内において、Eu原子とシクロオクタテトラエン誘導体からなる有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体が分散したヘキサン溶液を作成する。
【0046】
次いで、図6(a)に示すように、10mm×10mmのシリコン基板21上に、錯体分散液12を滴下する。次いで、図6(b)に示すように、グローブボックス内において、常温下で錯体分散液12中のヘキサンを蒸発させて波長変換材料22を形成する。
【0047】
次いで、図6(c)に示すように、波長変換材料22が形成されたシリコン基板21の表面を、280℃、10分間の加熱で軟化させた50mgのシクロオレフィンポリマー23被覆する。
【0048】
次いで、図6(d)に示すように、カバーガラス24で上から押し広げて覆うとともに、カバーガラス24の全周囲をガラス接着剤の封止材25で固め、常温下で冷却することで、シリコン基板21に固体の波長変換材料薄膜を形成する。
【0049】
このシリコン基板21に作製した波長変換材料薄膜に対して、実施例1の場合と同様に紫外線ランプの光を照射したところ、オレンジ色の蛍光が観測された。さらに、大気暴露後に再度紫外線ランプで光を照射しても同様にオレンジ色の蛍光が観測されたことから、シリコン基板21上に樹脂材料中に分散させないで作製した波長変換材料薄膜においても大気暴露前後で光学特性に変化がないことを確認した。
【0050】
このように、実施例2においては、有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体を樹脂材料中に分散させていないので、ランタノイドとシクロオクタテトラエン誘導体との組み合わせによって、樹脂に対する分散性の悪い有機金属サンドイッチ錯体及び多層有機金属サンドイッチ錯体が得られた場合にも、不所望な光吸収を生じない波長変換材料とすることができる。
【実施例3】
【0051】
次に、図7を参照して、本発明の実施例3の太陽電池を説明する。図7は、本発明の実施例3の太陽電池の概念的断面図であり、p型単結晶シリコン層31上にp型単結晶シリコン層32及びn型単結晶シリコン層33を積層させ、n型単結晶シリコン層33の表面に周期的凹凸を形成する。
【0052】
次いで、n型単結晶シリコン層33の表面に反射防止膜34を形成したのち、Ti/Pd/Agからなる受光面側電極35を形成するとともに、p単結晶シリコン層の裏面にAl/Ti/Pd/Agからなる裏面電極36を形成して太陽電池とする。
【0053】
次いで、この太陽電池を容器37に収容して、その窓部材として上記の実施例1で形成した波長変換部材38を用いる。この波長変換部材38は、上述のように可視光に対しては透明であるので太陽電池における光電変換の妨げにはならない。一方、太陽電池の感度の低い紫外線〜500nm近傍の光は波長変換部材38で吸収されて590nm近傍にピークを有する光を発する。この590nm近傍にピークを有する光は、太陽電池で効率的に電子‐正孔対に変換されるので、光電変換効率が向上する。
【実施例4】
【0054】
次に、図8を参照して、本発明の実施例4の太陽電池を説明する。図8は、本発明の実施例4の太陽電池の概念的断面図であり、ガラス基板41上に、アルミ電極42、n型アモルファスシリコン層43、i型アモルファスシリコン層44、p型アモルファスシリコン層45及びITO電極46を順次積層する。
【0055】
次いで、上記の実施例2と同様に、ITO電極46に、不活性ガス雰囲気下で錯体分散液を滴化して乾燥させることによって、波長変換材料47を形成したのち、軟化したシクロオレフィンポリマー48で被覆する。
【0056】
次いで、カバーガラス49で上から押し広げて覆うとともに、カバーガラス49の全周囲をガラス接着剤の封止材50で固めることによって、本発明の実施例4の太陽電池の基本構成が完成する。この実施例4においても、実施例3と同様に、紫外線〜500nm近傍の光を590nm近傍にピークを有する光に変換するので、光電変換効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 基板
2 有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体
3 樹脂材料
4 カバー部材
5 封止用接着剤
6 ランタノイド
7 配位子
8 有機金属サンドイッチ錯体
9 多層有機金属サンドイッチ錯体
10 グローブボックス
11 容器
12 錯体分散液
13 シクロオレフィンポリマーチップ
14 溶液
15 ガラス板
16 波長変換材料薄膜
21 シリコン基板
22 波長変換材料
23 シクロオレフィンポリマー
24 カバーガラス
25 封止材
31 p型単結晶シリコン層
32 p型単結晶シリコン層
33 n型単結晶シリコン層
34 反射防止膜
35 受光面側電極
36 裏面電極
37 容器
38 波長変換部材
41 ガラス基板
42 アルミ電極
43 n型アモルファスシリコン層
44 i型アモルファスシリコン層
45 p型アモルファスシリコン層
46 ITO電極
47 波長変換材料
48 シクロオレフィンポリマー
49 カバーガラス
50 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタノイド原子を、2個のシクロオクタテトラエン或いはシクロオクタテトラエン誘導体のいずれかからなる配位子で挟んだ有機金属サンドイッチ錯体或いは前記ランタノイド原子と前記配位子が交互に複数個積み重なった多層有機金属サンドイッチ錯体を酸素の透過率が1cc/m・day・atm以下且つ水蒸気の透過率が0.2g/m・day以下の特性を持つ樹脂材料に分散または前記樹脂材料で被覆したことを特徴とする波長変換材料。
【請求項2】
前記有機金属サンドイッチ錯体或いは多層有機金属サンドイッチ錯体を被覆した樹脂材料の主表面を、透明ガラス或いは透明セラミックス材料のいずれかのカバー部材で被覆するとともに、前記カバー部材の全周囲を封止用接着剤で密閉被覆したことを特徴とする請求項1に記載の波長変換材料。
【請求項3】
前記ランタノイドが、ユーロピウムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の波長変換材料。
【請求項4】
前記シクロオクタテトラエン誘導体における置換基が、
(R1)(R2)(R3)Si−
で表わされるシリル基であり、
前記R1、R2及びR3が、炭素数1〜20の第1級、第2級または第3級アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基或いは炭素数7〜20のアラルキル基のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の波長変換材料。
【請求項5】
前記シリル基が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、或いは、tert−ブチルジフェニルシリル基のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の波長変換材料。
【請求項6】
前記樹脂材料が、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、或いはポリエチレンビニルアルコールのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の波長変換材料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の波長変換材料を光入射側に設けたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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