波長変換装置
【課題】屈折率変化により赤外光を可視光に変換する波長変化装置。
【解決手段】第1のブラッグ光反射層10は、膜厚132.8nm、屈折率1.45のシリカから成る層11を21層、膜厚83.7nm、屈折率2.3のチタニアから成る層12を20層、交互に積層したものであり、波長667〜909nmの光に対してブラッグ反射層として作用する。第2のブラッグ光反射層20は、膜厚137.9nm、屈折率1.45のシリカから成る層21を21層、膜厚87.0nm、屈折率2.3のチタニアから成る層22を20層、交互に積層したものであり、波長694〜943nmの光に対してブラッグ反射層として作用する。中間層30は、初期屈折率が3.64×10-4、これを1ナノ秒で0.92×10-4に変化させることで、波長909nmの赤外光を波長690nmの可視光に変換できる。
【解決手段】第1のブラッグ光反射層10は、膜厚132.8nm、屈折率1.45のシリカから成る層11を21層、膜厚83.7nm、屈折率2.3のチタニアから成る層12を20層、交互に積層したものであり、波長667〜909nmの光に対してブラッグ反射層として作用する。第2のブラッグ光反射層20は、膜厚137.9nm、屈折率1.45のシリカから成る層21を21層、膜厚87.0nm、屈折率2.3のチタニアから成る層22を20層、交互に積層したものであり、波長694〜943nmの光に対してブラッグ反射層として作用する。中間層30は、初期屈折率が3.64×10-4、これを1ナノ秒で0.92×10-4に変化させることで、波長909nmの赤外光を波長690nmの可視光に変換できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は入射光の波長(周波数)を変換して出力する、波長(周波数)変換装置に関する。本発明は、例えば、赤外光を可視光に変換する装置として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、赤外光を可視光に変換する装置の有用性に着目し、様々な可能性を追求ている。本発明者らは先に特許文献1に記載の技術を発表した。また、非特許文献1乃至4は、以下で説明する本発明の中間層に用いることの出来る材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−206439
【特許文献2】特開2006−234965
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Valantine J., et al., Nature 455, 376-380 (2008)
【非特許文献2】Osada M., et al., Adv. Mater. 18, 295-299 (2006)
【非特許文献3】Kinoda G., et al., Jap. J. Appl. Phys. 45, L387-L389 (2006)
【非特許文献4】Toyosaki H., et al., Appl. Phys. Lett. 86, 182503 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術を簡単に説明する。図5は、本発明の実施例に係る図面であるが、特許文献1の図3と同様のバンド図である。波長変換装置100は、第1の層10と、第2の層20と、それらに挟まれた第3の層30とを有する。図5において、第1の層10と第2の層20のフォトニックバンドギャップが大部分重なり、且つ、第1の層10のフォトニックバンドギャップが、第2の層20のフォトニックバンドギャップよりも高周波数側にずれている。まず、第1の層10に、第1の層10のフォトニックバンドギャップの下端(低周波数端)以下で、下端に近い周波数の電磁波を入射させると、第3の層30から第2の層20には透過できず、即ち、第3の層30と第2の層20との界面で反射され、第2の層20から出射されない。しかし、この状態で第3の層30の屈折率を小さくなるように変化させると、入射波は第3の層30付近にトラップされたまま、周波数が上昇し、第2の層20の上端(高周波数端)以上の上端に近い周波数に達した時に、その周波数の光が、第2の層20の側から透過波として出力される。具体的には、第1の層と第2の層を、屈折率1.45のシリカと屈折率2.5のチタニアの多重層で形成する。第1の層のフォトニックバンドギャップの下端に当たる波長915nmの赤外光を第1の層に導入し、第3の層(中間層)の屈折率を2.5から1.0に14.3ナノ秒で変化させると、第2の層のフォトニックバンドギャップの上端に当たる波長700nmの可視光が第2の層から射出されることを、シミュレーションにより示した。
【0006】
しかし、第3の層(中間層)の屈折率を2.5から1.0に14.3ナノ秒で変化させることは困難である。そこで、屈折率を高速度で変化させ得る波長変換装置を検討し、本願発明を完成させた。この際、屈折率が10-4オーダーの材料を第3の層(中間層)として用い、その中間層の厚さと、変化後の屈折率の値や、屈折率の変化速度を適切に決定することで、効率の良い波長変換を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、図5に示すように、第1周波数f1 を下端とし、第1周波数f1 よりも大きい第2周波数f2 を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第1の層と、第1周波数f1 よりも小さい第3周波数f3 を下端とし、第3周波数f3 よりも大きく第2周波数f2 よりも小さい第4周波数f4 を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第2の層と、第1の層と第2の層との間に設けられた中間層と、中間層の屈折率を変化させる屈折率変化手段とを有し、中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有し、第1周波数f1 以下で第3周波数f3 よりも大きい第5周波数f5 の入力光を第1の層に導入し、中間層の屈折率を変化させることで、第2の層から第2周波数f2 よりも小さく第4周波数f4 以上の第6周波数f6 の出力光を出力させ、又は、第2周波数f2 よりも小さく第4周波数f4 以上の第6周波数f6 の入力光を第2の層に導入し、中間層の屈折率を変化させることで、第1の層から第1周波数f1 以下で第3周波数f3 よりも大きい第5周波数f5 の出力光を出力させることを特徴とする波長変換装置である。
【0008】
ここで、フォトニックバンドギャップを有する層とは、フォトニック結晶を用いて作成される。一般的に、所定の周波数帯域の光、電磁波(光も電磁波であるので、以下、「電磁波」という)の伝搬が遮断される(透過率が小さくなる)ことが知られている。フォトニックバンドギャップの上端周波数と下端周波数の間の帯域の電磁波は、伝搬が遮断され、その帯域以外の周波数帯の電磁波は伝搬する。フォトニックバンドギャップを有する層の構成は、公知の構成を採用することができる。また、フォトニックバンドギャップを有する層は、多層膜によるブラッグ光反射層としても形成することができる。
【0009】
中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有する。屈折率が、この範囲に存在する場合に、中間層の屈折率を変化させることで、周波数変化幅を大きくすることができる。なお、屈折率の虚数部は、零と近似する。すなわち、電磁波の進行方向に関する減衰がないものとする。この範囲の屈折率を有する中間層の候補としては、例えば、屈折率をほぼ0としたメタマテリアル(非特許文献1)、非常に回転角の大きなファラデー効果を有する材料(非特許文献2乃至4)を挙げることができる。中間層をメタマテリアルで構成しても良い。屈折率の変化は、中間層をメタマテリアルで構成して、屈折率変化手段は中間層に高出力レーザを照射する手段で構成しても良い。このレーザの照射により、レーザ電力による非線形効果を利用して、メタマテリアルの屈折率を高速度で変化させることができる。屈折率変化手段により、中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内に減少させることができる。また、レーザを照射した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0010】
また、中間層は回転角の大きなファラデー効果を有する材料で構成しても良い。ここで回転角の大きなファラデー効果とは、回転角が105deg/cm以上であるものを言う。回転角は好ましくは106deg/cm以上が好ましい。そして、屈折率変化手段は中間層に高出力レーザを照射する手段とすることができる。レーザの照射により、中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内の値に減少させることができる。この場合も、レーザを照射した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0011】
また、中間層は回転角の大きなファラデー効果を有した層として、屈折率を10-5以上10-3以下の値とするために、中間層に磁場を印加する磁場印加手段を設けることが望ましい。磁場を印加した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザを照射して、その出力を変化させることにより、屈折率を高速度で変化させることができる。レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0012】
本発明は、第5周波数は赤外領域にあり、第6周波数は可視領域にあるようにすることが望ましい。第5周波数を入力光の周波数、第6周波数を出力光の周波数とすれば、赤外線を可視光線に変換する装置を実現できる。逆に、第5周波数を可視光領域、第6周波数を紫外線領域としても良い。この場合に、第6周波数を入力光の周波数、第5周波数を出力光の周波数とすれば、紫外線を可視光線に変換する装置を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
後述するシミュレーションの通り、10-4オーダーの屈折率を有する中間層をフォトニックバンドギャップを有する第1の層と第2の層とで挟んだ構成の装置を用い、この中間層の屈折率を例えば1/4に変化させることで、波長909nmの赤外光を波長690nmの可視光に変換できることが示された。
本発明により、電磁波の周波数変換、波長変換が可能となる。また、赤外光を可視光に変換する波長変換装置が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る波長変化装置100の構成の概略を示す断面図。
【図2】実施例装置のシミュレーション結果を示すスペクトル図。
【図3.A】波長変換装置における固有モードの周波数と中間層の屈折率との関係を示した特性図。
【図3.B】図3.AのA4 、B3 、B2 、C1 付近の拡大図。
【図4.A】回転角の大きなファラデー効果を有する材料を中間層として用いた波長変換装置の磁石の配置の一例を示す平面図。
【図4.B】図4.Aにおける波長変換装置の断面図。
【図5】本発明の波長変換装置の波長変換機構を示したバンド図。
【図6】非特許文献1に記載されたメタマテリアルの構造を示す斜視図。
【図7】第1のブラッグ光反射層と第2のブラッグ光反射層のフォトニックバンドギャップを示す透過率周波数特性図。
【図8.A】図3.AのA0 点における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図8.B】図3.AのA3 点近傍における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図8.C】図3.AのA5 点における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図9.A】中間層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図9.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図9.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.A】中間層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.A】中間層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
非特許文献1によれば、図6に示すような、30nm厚の銀膜と50nm厚のフッ化マグネシウム膜の多重層を、エッチングにより周期が860nmの井桁形状に成形した多層フィッシュネット構造により、波長1450〜1480nmの範囲において屈折率がほぼ0となるメタマテリアルが報告されている。メタマテリアルを用いることで、例えば近赤外光乃至可視光の、概略200nmの波長範囲の光に対し、10-4オーダーの屈折率を有する中間層を実現できる。本願発明の中間層とする場合は、積層方向(厚さ方向)が光の導入及び射出方向となる。
【0016】
本発明の中間層にメタマテリアルを用いる場合、高出力レーザー照射による非線形効果により、屈折率を変化させると良い。屈折率変化Δnは、非線形屈折率n2とレーザーの電場強度Iの積で表される。メタマテリアルとして金属と誘電体の多層膜を用いるのならば、非線形屈折率n2は10-9cm2/W程度であるので、10-4オーダーの屈折率の変化量を実現するには強度が0.3MW/cm2程度のレーザーを用いれば良い。
【0017】
非特許文献2には、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子(酸化チタンコバルトと酸化チタン鉄の交互積層構造)におけるファラデー効果が報告されている。10000Oeの外部磁場により、波長800nmの直線偏光が1.8×105deg/cmで回転することが報告されている。本発明の実施のためには、左回り及び右回りの円偏光の、一方の屈折率がほとんど0となることが必要である。これが満たされるための条件について考察する。左回り及び右回りの円偏光の屈折率は、それぞれ、(ε+g)1/2 、(ε−g)1/2 で表される。ここでεは磁場を印加しない状態での直線偏光を透過させる材料の比誘電率、gはこの材料の磁場に比例する比誘電率の変化量である。ファラデー効果の回転角の大きさを、直線偏光を透過させる材料の単位厚さ(単位光路長)当たりの角度θで表すと、次の式(1)となる。但しλは光の波長である。
【数1】
【0018】
磁場を印加しない状態でのチタニアの屈折率を2.3とする。比誘電率εを屈折率2.3の二乗、波長λを800nmとすれば、磁場の印加によりε=gとなって、左回り及び右回りの円偏光のうちの一方の円偏光に対する屈折率が(ε−g)1/2 =0とすることができる。ε=gが実現される場合のファラデー効果による直線偏光の単位長当たりの回転角θは、次の式(2)で与えられる。尚、πを180degとして換算した。
【数2】
【0019】
この単位厚さ当たりの角度θの値は、非特許文献2に記載された磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子の値の40倍である。ここで、非特許文献3に、酸化チタンコバルトにニオブを6%添加することでθを14倍に増大させることができることが記載されており、非特許文献4に、酸化チタンコバルトのコバルト濃度を2倍にすることでθを4.2倍に増大させることができることが記載されている。これらから、ニオブ及び/又はコバルトの添加量を最適にすることで、ε=gを満たすθ=7.3×106deg/cmは、実現できる。このファラデー回転角が実現された状態においては、一方の円偏光に対する屈折率(ε−g)1/2 が10-5以上10-3以下の微小値となる。この場合には、誘電率がこの値の範囲となる回転方向の円偏光が入射光として用いられる。
【0020】
本発明の中間層に磁場を印加して、一方向の円偏光に対する中間層の屈折率(ε−g)1/2 を10-4オーダーに設定したのちに、その中間層の屈折率を変化させる方法としては、レーザを照射させる方法がある。レーザの出力を高速度で変化させることで、円偏光屈折(ε−g)1/2 を、高速度で変化させることができる。チタニアを基本とする中間層の非線形屈折率n2は4×10-14cm2/W程度であるので、10-4オーダーの屈折率の変化量を実現するには強度が7GW/cm2程度のレーザーを用いれば良い。
【実施例1】
【0021】
図1は、波長変換装置100の構成の概略を示した断面図である。本発明の波長変換装置100は、第1のブラッグ光反射層10(第1の層)、中間層30、第2のブラッグ光反射層20(第2の層)を有する。波長変換装置100は中間層30の屈折率を変化させる屈折率変化手段であるレーザ装置200を更に有する。レーザ装置200は、中間層30に対して側面から入射させる。
【0022】
第1のブラッグ光反射層10は、膜厚132.8nm、屈折率1.45のシリカから成る層を21層(図1で層11−1〜11−21)、膜厚83.7nm、屈折率2.3のチタニアから成る層を20層(図1で層12−1〜12−20)、交互に積層したものである。第1のブラッグ光反射層10の総合厚さは、4462.8nmである。図5に示すように、第1のブラッグ光反射層10は、第1周波数f1 (330THz、真空波長909nm)より大きく、その第1周波数f1 よりも大きい第2周波数f2 (450THz、真空波長667nm)より小さい範囲の周波数の光に対して、フォトニックバンドギャップを構成する。第1のブラッグ光反射層10のフォトニックバッドギャップをシミュレーションにより求めた結果を、図7の破線で示す。
【0023】
第2のブラッグ光反射層20は、膜厚137.9nm、屈折率1.45のシリカから成る層を21層(図1で層21−1〜21−21)、膜厚87.0nm、屈折率2.3のチタニアから成る層を20層(図1で層22−1〜22−20)、交互に積層したものである。第2のブラッグ光反射層20の総合厚さは、4635.9nmである。
第2のブラッグ光反射層20は、図5に示すように、第3周波数f3 (318THz、真空波長943nm)より大きく、その第3周波数f3 よりも大きい第4周波数f4 (432THz、真空波長694nm)よりも小さい範囲の周波数の光に対して、フォトニックバンドギャップを構成する。ただし、第3周波数f3 は、第1周波数f1 よりも小さく、第4周波数f4 は第2周波数f2 よりも小さい。第2のブラッグ光反射層20のフォトニックバッドギャップをシミュレーションにより求めた結果を、図7の実線で示す。
【0024】
中間層30の厚さdは3.75mmとした。中間層30の具体的な材料については上述したメタマテリアルを最適設計して用いても良く、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いても良い。
磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いる場合は、円偏光屈折率を、10-5以上10-3以下の範囲にするために、外部磁場を印加する必要が或る。その磁場の方向は、積層構造体である波長変換装置100の積層方向であって、図1で示した導入光及び射出光と平行である。
中間層30の屈折率の変化手段は、中間層30に対し、例えば図1で示した入力光及び出力光と垂直方向に高出力レーザを照射すると良い。
【0025】
上記の装置で、中間層30の初期屈折率を3.64×10-4とし、1ナノ秒で0.92×10-4に変化させることとした。屈折率の変化量Δnは2.72×10-4である。こうして、第1のブラッグ光反射層10に、第1周波数f1 に等しい、真空中の波長909nmの赤外光(第5周波数f5 (330THz)に相当する波長の入力光)を導入し、第2のブラッグ光反射層20から射出される光(第6周波数f6 の出力光)のスペクトルをシミュレーションにより求めた。シミュレーションにおいては、光の伝搬方向にx軸をとる。また、電場の向きをy軸方向、磁場の向きをz軸方向とし、x軸方向に約10nm幅で要素分割を行い、時刻t=0で全領域でE=0とおいて、次の式(3)を差分法により離散化して逐次的に電界Eを計算した。尚、波長変換装置100の外側は屈折率1とした。このようにして、真空中波長909nmの電磁波(第3周波数f3 よりも大きく第1周波数f1 以下の範囲に存在する第5周波数f5 (330THz)に相当する波長の入力光)を第1のブラッグ光反射層10の表面(シリカから成る層11−1の表面)から入射させて、中間層30の屈折率を変化させながら、第1のブラッグ光反射層10、中間層30、第2のブラッグ光反射層20の内部における電磁界分布を求めた。
【数3】
【0026】
図2は、真空中波長909nmの第5周波数の光を第1のブラッグ光反射層10から入射させて、中間層30の屈折率を初期屈折率3.64×10-4から0.92×10-4まで変化させた場合における、中間層30の屈折率が0.92×10-4の時の射出光の電界強度である。図2より、真空中の波長690nmの可視光領域(第4周波数f4 以上で第2周波数f2 より小さい範囲に存在する第6周波数f6 (435THz)に対応する波長の出力光)にピークを有する光が、第2のブラッグ光反射層20から射出されていることがわかる。尚、波長690nmの射出光量は、入力光の0.1%であった。
【0027】
更に、屈折率の変化速度を一定ではなく、次のように変更した場合について、シミュレーションを行った。初期屈折率3.64×10-4から3.635×10-4まで(屈折率の変化量0.005×10-4は屈折率の全変化量Δnである2.72×10-4の0.2%)を0.15ナノ秒で、更に3.635×10-4から0.92×10-4まで(屈折率の変化量2.715×10-4は全変化量Δnである2.72×10-4の99.8%)を0.15ナノ秒で変化させた場合、同様に波長690nmにピークを有する光が射出され、波長690nmの射出光量は、導入光の5%に向上した。すなわち、屈折率の変化速度を一定にする場合に比べて、後半の1/2の期間における屈折率の変化速度を、前半の1/2の期間における屈折率の変化速度の500倍に変更した場合には、出力光の強度は、50倍に向上することが分かった。
【0028】
中間層30は、第1のブラッグ光反射層10と、第2のブラッグ光反射層20における周期性や、屈折率が異なることから、この3つの層からなる波長変換装置100の全体におけるフォトニックバンドギャップ中に、急峻な固有モード(バックグランドの減衰レベルに対して、減衰が小さくなる透過性を有する周波数。ただし、利用できる透過光が得られる程、大きな透過率ではない)が存在する。この固有モードは、中間層30の屈折率を変化させても、周波数が変化しないモードと、中間層30の屈折率を変化させることで、周波数が変化する固有モードとが存在する。これらの固有モードの周波数の光は、中間層30において閉じ込められていると考えられる。これらの固有モードの周波数と、中間層30の屈折率との関係を示したのが、図3の特性である。すなわち、図3は、3層構造の波長変換装置100の中間層30に存在し得る電磁波の周波数と屈折率との関係を示している。
【0029】
中間層30の厚さdを3.75mmとし、中間層30の屈折率nを0〜4.0×10-4の範囲で変化させた場合の波長変換装置100のフォトニックバンドギャップに形成される固有モードの周波数fと屈折率nの関係を解析した。
【0030】
図8は、波長変換装置100における電磁波の透過率の周波数特性を示す。図3.AのA0 点(屈折率3.64×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Aの(a)に示す。なお、周波数330THzの固有モードをより明確に明示するために、屈折率を3.63×10-4と、A0 点の屈折率よりは、0.01×10-4の微小量だけ小さい点の特性を(b)として示す。周波数330THz、375THz、389THzの3箇所に固有モードが生起されていることが理解される。図3.AのA3 点付近(屈折率1.80×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Bに示す。周波数375THz、389THzの2箇所に固有モードが生起されていることが理解される。図3.AのA5 点(屈折率0.92×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Cの(a)に示す。なお、周波数435THzの固有モードをより明確に明示するために、屈折率を0.93×10-4と、A5 点の屈折率よりは、0.01×10-4の微小量だけ大きい点の特性を(b)として示す。周波数375THz、389THz、435THzの3箇所に固有モードが生起されていることが理解される。
【0031】
また、図3.AのA0 点における波長変換装置100の内部における周波数330THzの電磁波の電界エネルギー分布を図9に示す。第1のブラッグ光反射層10、 第2のブラッグ光反射層20の厚さは、4.4628μm、4.6359μmと、中間層30の厚さ3.75mmに比べて、1/800程度に薄いために、第1のブラッグ光反射層10、 第2のブラッグ光反射層20での電界エネルギー分布は、中間層30における電界エネルギー分布に関して、x軸のスケールを拡大している。図9.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図9.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図9.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、3次の共振が発生していることが分かる。これは、330THzの入射光の中間層30における媒質内波長2.5mmの1.5波長に相当する。図9の比較から、第1のブラッグ光反射層10内において、330THzの入射光は、多重反射による電界エネルギー分布を示して透過モードとなり、中間層30では最大エネルギーが、第1のブラッグ光反射層10内における最大エネルギーの100倍程度を示し共振モードとなり、第2のブラッグ反射層20内では、多重反射による遮断モードとなっていることが理解される。なお、周波数375THz、389THzのモードは、励振されていないので、現れていない。
【0032】
この状態を波長変換装置100内に生起させた状態で、中間層30の屈折率を、図3.AのA0 点の屈折率3.64×10-4からA3 点の屈折率1.80×10-4まで低下させる。そして、A3 点における波長変換装置100内における電界エネルギー分布を図10に示す。図10.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図10.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図10.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、周波数375THz、389THzの2本の共振モードが増強されていることが分かる。この時、両モード共に、第1のブラッグ光反射層10及び第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による遮断モード、中間層30においては、共振エネルギーが閉じ込められた状態であることが理解される。
【0033】
この状態から、中間層30の屈折率を、図3.AのA3 点の屈折率1.80×10-4からA5 点の屈折率0.92×10-4まで低下させる。そして、A5 点における波長変換装置100内における電界エネルギー分布を図11に示す。図11.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図11.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図11.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、周波数375THz、389THz、435THzの3本の共振モードが増強されていることが分かる。この時、周波数375THz、389THzのモードは、第1のブラッグ光反射層10及び第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による遮断モードとなり、周波数435THzのモードに関しては、第1のブラッグ光反射層10内においては、遮断モード、第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による透過モードとなっていることが理解される。また、中間層30内においては、435THzの共振モードは、媒体内波長の1/2による共振モードとなっている。そして、435THzの共振モードのエネルギー密度は、389THzのモードと比べて、5×103 倍、375THzのモードと比べて、2×104 倍となっていることが理解される。
【0034】
図3.A及び図3.Bのデータの意味するところは次の通りである。即ち、中間層30の厚さdを3.75mmとし、中間層30の屈折率nを0から4×10-4まで2.5×10-7の間隔で変化させて、中間層30内部に所定の電界エネルギー密度以上で存在し得る光の周波数と、中間層30の屈折率との関係をプロットしたものが図3.Aであり、その一部拡大図が図3.Bである。例えば、図で点A0は中間層30の屈折率が3.64×10-4の時に周波数330THzの光が中間層30内部で所定の強度以上で存在し得ることを示す。
【0035】
図3.Aによると、中間層30の屈折率が0から4×10-4まで、変化しても、周波数375THzと389THzのモードの光は所定の強度以上存在し得ることがわかる。すなわち、中間層30の屈折率が変化しても、フォトニックバンドギャップ中に存在する周波数375THzと389THzの固有モードの周波数は変化しないことが理解される。
【0036】
しかし、詳しく調べると、図3.Bに示す通り、周波数375THzと389THzの光は、全屈折率の範囲で常に存在し得るわけではなく、点A4と点B3付近、点B2と点C1付近では不連続となっていることがわかる。これは例えば、点A3付近の周波数389THzの光は、中間層30の屈折率が減少して1.03×10-4を下回る点A4に至ると、周波数389THzの光は、存在し得なくなり、屈折率が、さらに低下すると、周波数が上昇し、点A5に向うことが予測されるものである。
【0037】
次に、このような、中間層30の屈折率に対する光の周波数特性が得られている場合に、入射光の周波数変換ができる理由について説明する。周波数330THzの連続光を、第1のブラッグ光反射層10から、常時、入射させる。中間層30の屈折率の初期値を4×10-4とする。この状態では、周波数330THzは第1のブラッグ光反射層10のフォトニックバンドギャップの下端周波数であるので、周波数330THzの光は、第1のブラッグ光反射層10と中間層30に存在する。そして、中間層30の屈折率を、初期値から減少させる。屈折率が、3.64×10-4に達した時、図9.Aに示すように、中間層30において、周波数330THzの光の媒質内波長の3/2が中間層30の厚さに等しくなり、3次の強い共振モードが生起される。このモード状態が、図3.AにおけるA0 点で表される。
【0038】
次に、中間層30の屈折率がA0 点の3.64×10-4からA1 点の3.17×10-4に減少する間における、中間層30の電界エネルギー分布は、図9.Aの状態を維持する。すなわち、中間層30における媒質内波長が、中間層30の厚さの2/3に保持された状態が継続する。これは、第1のブラッグ光反射層10と第2のブラッグ光反射層20の周期構造により、中間層30と第1のブラッグ光反射層10との界面、中間層30と第2のブラッグ光反射層20との界面における電磁波の位相が、固定されるためと思われる。この結果、中間層30におけるその共振モードの周波数は、その時の屈折率のA0 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、周波数が上昇し、A1 点の共振モードでは、周波数は375THzとなる。次に、中間層30の屈折率が、A1 点の3.17×10-4から、A2 点の2.13×10-4まで減少する間は、中間層30の電界エネルギー分布は、図9.Aで示された媒質内波長が中間層の厚さの2/3の3次のモードから、媒質内波長が中間層の厚さに等しくなる2次のモードにモード変換が行われる。すなわち、屈折率が変化するこの間は、その時の屈折率のA1 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、媒体内波長が長くなる。したがって、3次の共振モードは、A2 点においては、屈折率2.13×10-4、媒体内波長3.75mm、周波数375THzの2次の共振モードに変化する。
【0039】
次に、屈折率がA2 点の2.13×10-4から、A3 点の2.05×10-4まで低下する間は、2次の共振モードが保持され、媒体内波長が3.75mmに維持される。その時の屈折率のA2 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、共振モードの周波数が上昇する。屈折率がA3 点の2.05×10-4となると、2次の共振モードの周波数は、389THzとなる。周波数375THzのモードは、B0 点より生じた光のモードである。
【0040】
屈折率がA3 点の2.05×10-4からA4 点の1.03×10-4まで低下する間では、中間層30の電界エネルギー分布は、媒質内波長が中間層の厚さに等しい2次のモードから、媒質内波長が中間層の厚さの2倍に等しくなる1次のモードにモード変換が行われる。すなわち、この間では、その時の屈折率のA3 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、中間層30における媒体内波長が長くなる。したがって、2次の共振モードは、A4 点においては、屈折率1.03×10-4、媒体内波長7.5mm、周波数389THzの1次の共振モードに変換される。屈折率がA3 点からA4 点に変化する間は、図10.Aに示されるようなモードとなっている。図10.Aは、周波数389THzの共振モードの媒体内波長が、徐々に増大する途中の状態を示している。
【0041】
次に、屈折率がA4 点の1.03×10-4からA5 点の0.92×10-4まで、減少する間は、1次の共振モードが保持され、媒体内波長7.5mmが維持される。この結果、その時の屈折率のA4 点における屈折率に対する比の逆数に比例して、共振モードの周波数が上昇する。屈折率がA5 点の0.92×10-4となると、共振モードの周波数は435THzとなる。中間層30の電界エネルギー分布は、図11.Aに示すものとなり、周波数389THz、及び375THzのモードは、このモードに比べて、非常に小さい。
【0042】
周波数435THzの1次の共振モードは、第2のブラッグ光反射層20においては、パスバンドに当たり、透過モードであるので、第2のブラッグ光反射層20から周波数435THzの光が出力されることになる。
【0043】
このシミュレーションにおいて、中間層30が屈折率0.92×10-4の時に存在しうる光の周波数435THz、389THz、375THzでの電界エネルギー密度の最大値は9×1012、1.8×109、4.0×108となり、周波数435THzのモードが支配的となることが理解される。
このようにして、中間層30の屈折率を、周期的に、大きい値から小さい値に変化させる毎に、その周期に同期した周期のパルス光が第2のブラッグ光反射層20から出力されることになる。また、屈折率をA0 点からA5 点に低下させる時間は、中間層30において、閉じ込めれた光の減衰定数より、短い時間とする必要がある。
【実施例2】
【0044】
図4は、中間層30に回転角の大きなファラデー効果を有する材料を用いる場合の永久磁石の配置方法の一例である。y軸方向に伸びた長方形の複数個のネオジム磁石50とy軸方向に伸びた長方形の複数個の単位波長変換装置100uをz軸方向に交互に周期的に配置する。単位波長変換装置100uは実施例1における波長変換装置100と、中間層30の構成を除き、同一構成である。この実施例では、中間層30はファラデー効果の大きい材料、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いることができる。この中間層に磁場を印加して、 屈折率(ε−g)1/2 を10-5以上10-3以下とする。屈折率のこの範囲の値を初期値として、実施例1と同様な範囲で、屈折率を変化させるために、レーザ光は、単位波長変換装置100uの側面から、y軸に平行に単位波長変換装置100uの中間層30を通過するように導入される。各ネオジム磁石50の磁極の向きは、波長変換される光の導入方向及び変換後の射出方向(x軸方向)に平行とし、全て同じ向きである。各ネオジム磁石50の占有面積の分だけ、全体として透過光量は1/2に低下するが、単位波長変換装置100uの全数により、全体として、波長変換が行われるので、十分な出力光を得ることができる。
【0045】
図4において、中間層に磁場を印加するには、永久磁石に替えて電磁石を用いることも可能である。この場合には、中間層30には、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子から成る一枚の長方形状の板を用いる。そして、実施例1の図1に示す構成と同様に、中間層30の光入射側に、第1のブラッグ光反射層10が設けられ、中間層30の光出射側に、第2のブラッグ光反射層20が設けられている。この中間層30に磁場を印加するには、光の入射面、出射面から見て、図4.Aのy軸方向に伸びた長方形の複数個の領域に磁界がx軸方向に形成されるように、第1のブラッグ光反射層10の光入射面と、第2のブラッグ光反射層20の光出射面に、第1の電磁石と第2の電磁石が配置される。第1の電磁石及び第2の電磁石は、入射光の進行方向(x軸正方向)に向かって、同一極である、例えば、N極が配置される。その結果、中間層30では、第1の電磁石のN極から第2の電磁石のS極へ向かう磁束がx軸に平行に形成される。電磁石は、図4.Aに示すようなy軸方向に長辺、z軸方向に短辺を有した短冊状の鉄心を有した電磁石に形成している。しかし、図4.Aに示すような短冊領域を、y軸方向に沿って正方形の領域に等分割して、それぞれの正方形領域に、個別的に円柱鉄心や正方角柱鉄心を有した電磁石を配置するようにしてもよい。
【0046】
[変形例]
上記の実施例1、2では、図5に示すように、第1のブラッグ光反射層10から第5周波数f5 の入力光を入力させて、第2のブラッグ光反射層20から、第5周波数f5 よりも高い第6周波数f6 の出力光を出力するようにしたものである。すなわち、長波長の光を短波長の光に変換する装置である。これとは逆に、図5において、第2のブラッグ光反射層20から第6周波数f6 の入力光を入力させて、第1のブラッグ光反射層10から、第6周波数f6 よりも低い第5周波数f5 の出力光を出力させることも可能である。すなわち、入力光を長波長の光に変換することができる。この場合には、中間層30の屈折率nは、図3の特性図から明らかなように、屈折率を0.92×10-4から3.6×10-4に増大させることが必要である。周波数を低くする周波数変換は、屈折率を増加させることで、上記した図3.AのA5 点の状態から、A4 、A3 、A2 、A1 、A0 に至る経路で、中間層30におけるモードの変換が実行されることからも、明らかである。
【0047】
屈折率は、正弦関数や、鋸歯状波などの周期関数により、繰り返して変化させる。光の周波数を向上させる装置では、中間層の屈折率が減少する過程において、高周波数への変換が実行される。光の周波数を低下させる装置では、屈折率が増加する過程において、低周波数への変換が実行される。このようにして、連続光を入射させることで、その連続光よりも周波数の高い、又は、低いパルス光を、中間層30の屈折率の変動周期で出力することができる。
【0048】
入力光と出力光の周波数の関係は、第1のブラッグ光反射層と第2のブラッグ光反射層とによって形成されるフォトニックバンドギャップ、中間層の屈折率、屈折率の変動幅、中間層の厚さを最適に設計することにより、任意に実現することができる。周波数変換に関しては、図3に示すように、波長変換装置100において、中間層の屈折率と、固有モードの周波数との関係を求めることで、容易に、設計することができる。
したがって、本発明の入力光と出力光の周波数範囲は任意であり、赤外領域の光を可視光領域の光に変換したり、紫外光領域の光を可視光領域の光に変換することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の波長変換装置は暗視装置に適用可能である。この他、光信号の変調器に適用することもできる。
【符号の説明】
【0050】
100:波長変換装置
100u:単位波長変換膜
10:第1のブラッグ光反射層
20:第2のブラッグ光反射層
30:中間層
50:ネオジム磁石
【技術分野】
【0001】
本発明は入射光の波長(周波数)を変換して出力する、波長(周波数)変換装置に関する。本発明は、例えば、赤外光を可視光に変換する装置として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、赤外光を可視光に変換する装置の有用性に着目し、様々な可能性を追求ている。本発明者らは先に特許文献1に記載の技術を発表した。また、非特許文献1乃至4は、以下で説明する本発明の中間層に用いることの出来る材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−206439
【特許文献2】特開2006−234965
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Valantine J., et al., Nature 455, 376-380 (2008)
【非特許文献2】Osada M., et al., Adv. Mater. 18, 295-299 (2006)
【非特許文献3】Kinoda G., et al., Jap. J. Appl. Phys. 45, L387-L389 (2006)
【非特許文献4】Toyosaki H., et al., Appl. Phys. Lett. 86, 182503 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術を簡単に説明する。図5は、本発明の実施例に係る図面であるが、特許文献1の図3と同様のバンド図である。波長変換装置100は、第1の層10と、第2の層20と、それらに挟まれた第3の層30とを有する。図5において、第1の層10と第2の層20のフォトニックバンドギャップが大部分重なり、且つ、第1の層10のフォトニックバンドギャップが、第2の層20のフォトニックバンドギャップよりも高周波数側にずれている。まず、第1の層10に、第1の層10のフォトニックバンドギャップの下端(低周波数端)以下で、下端に近い周波数の電磁波を入射させると、第3の層30から第2の層20には透過できず、即ち、第3の層30と第2の層20との界面で反射され、第2の層20から出射されない。しかし、この状態で第3の層30の屈折率を小さくなるように変化させると、入射波は第3の層30付近にトラップされたまま、周波数が上昇し、第2の層20の上端(高周波数端)以上の上端に近い周波数に達した時に、その周波数の光が、第2の層20の側から透過波として出力される。具体的には、第1の層と第2の層を、屈折率1.45のシリカと屈折率2.5のチタニアの多重層で形成する。第1の層のフォトニックバンドギャップの下端に当たる波長915nmの赤外光を第1の層に導入し、第3の層(中間層)の屈折率を2.5から1.0に14.3ナノ秒で変化させると、第2の層のフォトニックバンドギャップの上端に当たる波長700nmの可視光が第2の層から射出されることを、シミュレーションにより示した。
【0006】
しかし、第3の層(中間層)の屈折率を2.5から1.0に14.3ナノ秒で変化させることは困難である。そこで、屈折率を高速度で変化させ得る波長変換装置を検討し、本願発明を完成させた。この際、屈折率が10-4オーダーの材料を第3の層(中間層)として用い、その中間層の厚さと、変化後の屈折率の値や、屈折率の変化速度を適切に決定することで、効率の良い波長変換を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、図5に示すように、第1周波数f1 を下端とし、第1周波数f1 よりも大きい第2周波数f2 を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第1の層と、第1周波数f1 よりも小さい第3周波数f3 を下端とし、第3周波数f3 よりも大きく第2周波数f2 よりも小さい第4周波数f4 を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第2の層と、第1の層と第2の層との間に設けられた中間層と、中間層の屈折率を変化させる屈折率変化手段とを有し、中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有し、第1周波数f1 以下で第3周波数f3 よりも大きい第5周波数f5 の入力光を第1の層に導入し、中間層の屈折率を変化させることで、第2の層から第2周波数f2 よりも小さく第4周波数f4 以上の第6周波数f6 の出力光を出力させ、又は、第2周波数f2 よりも小さく第4周波数f4 以上の第6周波数f6 の入力光を第2の層に導入し、中間層の屈折率を変化させることで、第1の層から第1周波数f1 以下で第3周波数f3 よりも大きい第5周波数f5 の出力光を出力させることを特徴とする波長変換装置である。
【0008】
ここで、フォトニックバンドギャップを有する層とは、フォトニック結晶を用いて作成される。一般的に、所定の周波数帯域の光、電磁波(光も電磁波であるので、以下、「電磁波」という)の伝搬が遮断される(透過率が小さくなる)ことが知られている。フォトニックバンドギャップの上端周波数と下端周波数の間の帯域の電磁波は、伝搬が遮断され、その帯域以外の周波数帯の電磁波は伝搬する。フォトニックバンドギャップを有する層の構成は、公知の構成を採用することができる。また、フォトニックバンドギャップを有する層は、多層膜によるブラッグ光反射層としても形成することができる。
【0009】
中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有する。屈折率が、この範囲に存在する場合に、中間層の屈折率を変化させることで、周波数変化幅を大きくすることができる。なお、屈折率の虚数部は、零と近似する。すなわち、電磁波の進行方向に関する減衰がないものとする。この範囲の屈折率を有する中間層の候補としては、例えば、屈折率をほぼ0としたメタマテリアル(非特許文献1)、非常に回転角の大きなファラデー効果を有する材料(非特許文献2乃至4)を挙げることができる。中間層をメタマテリアルで構成しても良い。屈折率の変化は、中間層をメタマテリアルで構成して、屈折率変化手段は中間層に高出力レーザを照射する手段で構成しても良い。このレーザの照射により、レーザ電力による非線形効果を利用して、メタマテリアルの屈折率を高速度で変化させることができる。屈折率変化手段により、中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内に減少させることができる。また、レーザを照射した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0010】
また、中間層は回転角の大きなファラデー効果を有する材料で構成しても良い。ここで回転角の大きなファラデー効果とは、回転角が105deg/cm以上であるものを言う。回転角は好ましくは106deg/cm以上が好ましい。そして、屈折率変化手段は中間層に高出力レーザを照射する手段とすることができる。レーザの照射により、中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内の値に減少させることができる。この場合も、レーザを照射した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0011】
また、中間層は回転角の大きなファラデー効果を有した層として、屈折率を10-5以上10-3以下の値とするために、中間層に磁場を印加する磁場印加手段を設けることが望ましい。磁場を印加した状態で、中間層の屈折率を10-5以上10-3以下の値となるように、中間層を設計し、レーザを照射して、その出力を変化させることにより、屈折率を高速度で変化させることができる。レーザの出力を減少させることで、中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させることができる。レーザの出力に対して、屈折率の変化率が正の特性を有した中間層とすれば、レーザの出力の増加により屈折率を増加させ、出力の減少により、屈折率を減少させることができる。
【0012】
本発明は、第5周波数は赤外領域にあり、第6周波数は可視領域にあるようにすることが望ましい。第5周波数を入力光の周波数、第6周波数を出力光の周波数とすれば、赤外線を可視光線に変換する装置を実現できる。逆に、第5周波数を可視光領域、第6周波数を紫外線領域としても良い。この場合に、第6周波数を入力光の周波数、第5周波数を出力光の周波数とすれば、紫外線を可視光線に変換する装置を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
後述するシミュレーションの通り、10-4オーダーの屈折率を有する中間層をフォトニックバンドギャップを有する第1の層と第2の層とで挟んだ構成の装置を用い、この中間層の屈折率を例えば1/4に変化させることで、波長909nmの赤外光を波長690nmの可視光に変換できることが示された。
本発明により、電磁波の周波数変換、波長変換が可能となる。また、赤外光を可視光に変換する波長変換装置が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る波長変化装置100の構成の概略を示す断面図。
【図2】実施例装置のシミュレーション結果を示すスペクトル図。
【図3.A】波長変換装置における固有モードの周波数と中間層の屈折率との関係を示した特性図。
【図3.B】図3.AのA4 、B3 、B2 、C1 付近の拡大図。
【図4.A】回転角の大きなファラデー効果を有する材料を中間層として用いた波長変換装置の磁石の配置の一例を示す平面図。
【図4.B】図4.Aにおける波長変換装置の断面図。
【図5】本発明の波長変換装置の波長変換機構を示したバンド図。
【図6】非特許文献1に記載されたメタマテリアルの構造を示す斜視図。
【図7】第1のブラッグ光反射層と第2のブラッグ光反射層のフォトニックバンドギャップを示す透過率周波数特性図。
【図8.A】図3.AのA0 点における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図8.B】図3.AのA3 点近傍における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図8.C】図3.AのA5 点における固有モードを示す透過率周波数特性図。
【図9.A】中間層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図9.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図9.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA0 点での周波数330THzの固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.A】中間層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図10.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA3 点近傍での周波数375THz、389THzの2本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.A】中間層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.B】第1のブラッグ光反射層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【図11.C】第2のブラッグ光反射層における図3.AのA5 点での周波数375THz、389THz、435THzの3本の固有モードの電界エネルギー密度のxに関する分布を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
非特許文献1によれば、図6に示すような、30nm厚の銀膜と50nm厚のフッ化マグネシウム膜の多重層を、エッチングにより周期が860nmの井桁形状に成形した多層フィッシュネット構造により、波長1450〜1480nmの範囲において屈折率がほぼ0となるメタマテリアルが報告されている。メタマテリアルを用いることで、例えば近赤外光乃至可視光の、概略200nmの波長範囲の光に対し、10-4オーダーの屈折率を有する中間層を実現できる。本願発明の中間層とする場合は、積層方向(厚さ方向)が光の導入及び射出方向となる。
【0016】
本発明の中間層にメタマテリアルを用いる場合、高出力レーザー照射による非線形効果により、屈折率を変化させると良い。屈折率変化Δnは、非線形屈折率n2とレーザーの電場強度Iの積で表される。メタマテリアルとして金属と誘電体の多層膜を用いるのならば、非線形屈折率n2は10-9cm2/W程度であるので、10-4オーダーの屈折率の変化量を実現するには強度が0.3MW/cm2程度のレーザーを用いれば良い。
【0017】
非特許文献2には、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子(酸化チタンコバルトと酸化チタン鉄の交互積層構造)におけるファラデー効果が報告されている。10000Oeの外部磁場により、波長800nmの直線偏光が1.8×105deg/cmで回転することが報告されている。本発明の実施のためには、左回り及び右回りの円偏光の、一方の屈折率がほとんど0となることが必要である。これが満たされるための条件について考察する。左回り及び右回りの円偏光の屈折率は、それぞれ、(ε+g)1/2 、(ε−g)1/2 で表される。ここでεは磁場を印加しない状態での直線偏光を透過させる材料の比誘電率、gはこの材料の磁場に比例する比誘電率の変化量である。ファラデー効果の回転角の大きさを、直線偏光を透過させる材料の単位厚さ(単位光路長)当たりの角度θで表すと、次の式(1)となる。但しλは光の波長である。
【数1】
【0018】
磁場を印加しない状態でのチタニアの屈折率を2.3とする。比誘電率εを屈折率2.3の二乗、波長λを800nmとすれば、磁場の印加によりε=gとなって、左回り及び右回りの円偏光のうちの一方の円偏光に対する屈折率が(ε−g)1/2 =0とすることができる。ε=gが実現される場合のファラデー効果による直線偏光の単位長当たりの回転角θは、次の式(2)で与えられる。尚、πを180degとして換算した。
【数2】
【0019】
この単位厚さ当たりの角度θの値は、非特許文献2に記載された磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子の値の40倍である。ここで、非特許文献3に、酸化チタンコバルトにニオブを6%添加することでθを14倍に増大させることができることが記載されており、非特許文献4に、酸化チタンコバルトのコバルト濃度を2倍にすることでθを4.2倍に増大させることができることが記載されている。これらから、ニオブ及び/又はコバルトの添加量を最適にすることで、ε=gを満たすθ=7.3×106deg/cmは、実現できる。このファラデー回転角が実現された状態においては、一方の円偏光に対する屈折率(ε−g)1/2 が10-5以上10-3以下の微小値となる。この場合には、誘電率がこの値の範囲となる回転方向の円偏光が入射光として用いられる。
【0020】
本発明の中間層に磁場を印加して、一方向の円偏光に対する中間層の屈折率(ε−g)1/2 を10-4オーダーに設定したのちに、その中間層の屈折率を変化させる方法としては、レーザを照射させる方法がある。レーザの出力を高速度で変化させることで、円偏光屈折(ε−g)1/2 を、高速度で変化させることができる。チタニアを基本とする中間層の非線形屈折率n2は4×10-14cm2/W程度であるので、10-4オーダーの屈折率の変化量を実現するには強度が7GW/cm2程度のレーザーを用いれば良い。
【実施例1】
【0021】
図1は、波長変換装置100の構成の概略を示した断面図である。本発明の波長変換装置100は、第1のブラッグ光反射層10(第1の層)、中間層30、第2のブラッグ光反射層20(第2の層)を有する。波長変換装置100は中間層30の屈折率を変化させる屈折率変化手段であるレーザ装置200を更に有する。レーザ装置200は、中間層30に対して側面から入射させる。
【0022】
第1のブラッグ光反射層10は、膜厚132.8nm、屈折率1.45のシリカから成る層を21層(図1で層11−1〜11−21)、膜厚83.7nm、屈折率2.3のチタニアから成る層を20層(図1で層12−1〜12−20)、交互に積層したものである。第1のブラッグ光反射層10の総合厚さは、4462.8nmである。図5に示すように、第1のブラッグ光反射層10は、第1周波数f1 (330THz、真空波長909nm)より大きく、その第1周波数f1 よりも大きい第2周波数f2 (450THz、真空波長667nm)より小さい範囲の周波数の光に対して、フォトニックバンドギャップを構成する。第1のブラッグ光反射層10のフォトニックバッドギャップをシミュレーションにより求めた結果を、図7の破線で示す。
【0023】
第2のブラッグ光反射層20は、膜厚137.9nm、屈折率1.45のシリカから成る層を21層(図1で層21−1〜21−21)、膜厚87.0nm、屈折率2.3のチタニアから成る層を20層(図1で層22−1〜22−20)、交互に積層したものである。第2のブラッグ光反射層20の総合厚さは、4635.9nmである。
第2のブラッグ光反射層20は、図5に示すように、第3周波数f3 (318THz、真空波長943nm)より大きく、その第3周波数f3 よりも大きい第4周波数f4 (432THz、真空波長694nm)よりも小さい範囲の周波数の光に対して、フォトニックバンドギャップを構成する。ただし、第3周波数f3 は、第1周波数f1 よりも小さく、第4周波数f4 は第2周波数f2 よりも小さい。第2のブラッグ光反射層20のフォトニックバッドギャップをシミュレーションにより求めた結果を、図7の実線で示す。
【0024】
中間層30の厚さdは3.75mmとした。中間層30の具体的な材料については上述したメタマテリアルを最適設計して用いても良く、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いても良い。
磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いる場合は、円偏光屈折率を、10-5以上10-3以下の範囲にするために、外部磁場を印加する必要が或る。その磁場の方向は、積層構造体である波長変換装置100の積層方向であって、図1で示した導入光及び射出光と平行である。
中間層30の屈折率の変化手段は、中間層30に対し、例えば図1で示した入力光及び出力光と垂直方向に高出力レーザを照射すると良い。
【0025】
上記の装置で、中間層30の初期屈折率を3.64×10-4とし、1ナノ秒で0.92×10-4に変化させることとした。屈折率の変化量Δnは2.72×10-4である。こうして、第1のブラッグ光反射層10に、第1周波数f1 に等しい、真空中の波長909nmの赤外光(第5周波数f5 (330THz)に相当する波長の入力光)を導入し、第2のブラッグ光反射層20から射出される光(第6周波数f6 の出力光)のスペクトルをシミュレーションにより求めた。シミュレーションにおいては、光の伝搬方向にx軸をとる。また、電場の向きをy軸方向、磁場の向きをz軸方向とし、x軸方向に約10nm幅で要素分割を行い、時刻t=0で全領域でE=0とおいて、次の式(3)を差分法により離散化して逐次的に電界Eを計算した。尚、波長変換装置100の外側は屈折率1とした。このようにして、真空中波長909nmの電磁波(第3周波数f3 よりも大きく第1周波数f1 以下の範囲に存在する第5周波数f5 (330THz)に相当する波長の入力光)を第1のブラッグ光反射層10の表面(シリカから成る層11−1の表面)から入射させて、中間層30の屈折率を変化させながら、第1のブラッグ光反射層10、中間層30、第2のブラッグ光反射層20の内部における電磁界分布を求めた。
【数3】
【0026】
図2は、真空中波長909nmの第5周波数の光を第1のブラッグ光反射層10から入射させて、中間層30の屈折率を初期屈折率3.64×10-4から0.92×10-4まで変化させた場合における、中間層30の屈折率が0.92×10-4の時の射出光の電界強度である。図2より、真空中の波長690nmの可視光領域(第4周波数f4 以上で第2周波数f2 より小さい範囲に存在する第6周波数f6 (435THz)に対応する波長の出力光)にピークを有する光が、第2のブラッグ光反射層20から射出されていることがわかる。尚、波長690nmの射出光量は、入力光の0.1%であった。
【0027】
更に、屈折率の変化速度を一定ではなく、次のように変更した場合について、シミュレーションを行った。初期屈折率3.64×10-4から3.635×10-4まで(屈折率の変化量0.005×10-4は屈折率の全変化量Δnである2.72×10-4の0.2%)を0.15ナノ秒で、更に3.635×10-4から0.92×10-4まで(屈折率の変化量2.715×10-4は全変化量Δnである2.72×10-4の99.8%)を0.15ナノ秒で変化させた場合、同様に波長690nmにピークを有する光が射出され、波長690nmの射出光量は、導入光の5%に向上した。すなわち、屈折率の変化速度を一定にする場合に比べて、後半の1/2の期間における屈折率の変化速度を、前半の1/2の期間における屈折率の変化速度の500倍に変更した場合には、出力光の強度は、50倍に向上することが分かった。
【0028】
中間層30は、第1のブラッグ光反射層10と、第2のブラッグ光反射層20における周期性や、屈折率が異なることから、この3つの層からなる波長変換装置100の全体におけるフォトニックバンドギャップ中に、急峻な固有モード(バックグランドの減衰レベルに対して、減衰が小さくなる透過性を有する周波数。ただし、利用できる透過光が得られる程、大きな透過率ではない)が存在する。この固有モードは、中間層30の屈折率を変化させても、周波数が変化しないモードと、中間層30の屈折率を変化させることで、周波数が変化する固有モードとが存在する。これらの固有モードの周波数の光は、中間層30において閉じ込められていると考えられる。これらの固有モードの周波数と、中間層30の屈折率との関係を示したのが、図3の特性である。すなわち、図3は、3層構造の波長変換装置100の中間層30に存在し得る電磁波の周波数と屈折率との関係を示している。
【0029】
中間層30の厚さdを3.75mmとし、中間層30の屈折率nを0〜4.0×10-4の範囲で変化させた場合の波長変換装置100のフォトニックバンドギャップに形成される固有モードの周波数fと屈折率nの関係を解析した。
【0030】
図8は、波長変換装置100における電磁波の透過率の周波数特性を示す。図3.AのA0 点(屈折率3.64×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Aの(a)に示す。なお、周波数330THzの固有モードをより明確に明示するために、屈折率を3.63×10-4と、A0 点の屈折率よりは、0.01×10-4の微小量だけ小さい点の特性を(b)として示す。周波数330THz、375THz、389THzの3箇所に固有モードが生起されていることが理解される。図3.AのA3 点付近(屈折率1.80×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Bに示す。周波数375THz、389THzの2箇所に固有モードが生起されていることが理解される。図3.AのA5 点(屈折率0.92×10-4)における波長変換装置100のフォトニックバンドギャップ中の固有モードを、図8.Cの(a)に示す。なお、周波数435THzの固有モードをより明確に明示するために、屈折率を0.93×10-4と、A5 点の屈折率よりは、0.01×10-4の微小量だけ大きい点の特性を(b)として示す。周波数375THz、389THz、435THzの3箇所に固有モードが生起されていることが理解される。
【0031】
また、図3.AのA0 点における波長変換装置100の内部における周波数330THzの電磁波の電界エネルギー分布を図9に示す。第1のブラッグ光反射層10、 第2のブラッグ光反射層20の厚さは、4.4628μm、4.6359μmと、中間層30の厚さ3.75mmに比べて、1/800程度に薄いために、第1のブラッグ光反射層10、 第2のブラッグ光反射層20での電界エネルギー分布は、中間層30における電界エネルギー分布に関して、x軸のスケールを拡大している。図9.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図9.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図9.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、3次の共振が発生していることが分かる。これは、330THzの入射光の中間層30における媒質内波長2.5mmの1.5波長に相当する。図9の比較から、第1のブラッグ光反射層10内において、330THzの入射光は、多重反射による電界エネルギー分布を示して透過モードとなり、中間層30では最大エネルギーが、第1のブラッグ光反射層10内における最大エネルギーの100倍程度を示し共振モードとなり、第2のブラッグ反射層20内では、多重反射による遮断モードとなっていることが理解される。なお、周波数375THz、389THzのモードは、励振されていないので、現れていない。
【0032】
この状態を波長変換装置100内に生起させた状態で、中間層30の屈折率を、図3.AのA0 点の屈折率3.64×10-4からA3 点の屈折率1.80×10-4まで低下させる。そして、A3 点における波長変換装置100内における電界エネルギー分布を図10に示す。図10.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図10.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図10.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、周波数375THz、389THzの2本の共振モードが増強されていることが分かる。この時、両モード共に、第1のブラッグ光反射層10及び第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による遮断モード、中間層30においては、共振エネルギーが閉じ込められた状態であることが理解される。
【0033】
この状態から、中間層30の屈折率を、図3.AのA3 点の屈折率1.80×10-4からA5 点の屈折率0.92×10-4まで低下させる。そして、A5 点における波長変換装置100内における電界エネルギー分布を図11に示す。図11.Aが中間層30内における電界エネルギー分布、図11.Bが第1のブラッグ光反射層10内における電界エネルギー分布、図11.Cが第2のブラッグ光反射層20内における電界エネルギー分布である。中間層30において、周波数375THz、389THz、435THzの3本の共振モードが増強されていることが分かる。この時、周波数375THz、389THzのモードは、第1のブラッグ光反射層10及び第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による遮断モードとなり、周波数435THzのモードに関しては、第1のブラッグ光反射層10内においては、遮断モード、第2のブラッグ光反射層20内においては、多重反射による透過モードとなっていることが理解される。また、中間層30内においては、435THzの共振モードは、媒体内波長の1/2による共振モードとなっている。そして、435THzの共振モードのエネルギー密度は、389THzのモードと比べて、5×103 倍、375THzのモードと比べて、2×104 倍となっていることが理解される。
【0034】
図3.A及び図3.Bのデータの意味するところは次の通りである。即ち、中間層30の厚さdを3.75mmとし、中間層30の屈折率nを0から4×10-4まで2.5×10-7の間隔で変化させて、中間層30内部に所定の電界エネルギー密度以上で存在し得る光の周波数と、中間層30の屈折率との関係をプロットしたものが図3.Aであり、その一部拡大図が図3.Bである。例えば、図で点A0は中間層30の屈折率が3.64×10-4の時に周波数330THzの光が中間層30内部で所定の強度以上で存在し得ることを示す。
【0035】
図3.Aによると、中間層30の屈折率が0から4×10-4まで、変化しても、周波数375THzと389THzのモードの光は所定の強度以上存在し得ることがわかる。すなわち、中間層30の屈折率が変化しても、フォトニックバンドギャップ中に存在する周波数375THzと389THzの固有モードの周波数は変化しないことが理解される。
【0036】
しかし、詳しく調べると、図3.Bに示す通り、周波数375THzと389THzの光は、全屈折率の範囲で常に存在し得るわけではなく、点A4と点B3付近、点B2と点C1付近では不連続となっていることがわかる。これは例えば、点A3付近の周波数389THzの光は、中間層30の屈折率が減少して1.03×10-4を下回る点A4に至ると、周波数389THzの光は、存在し得なくなり、屈折率が、さらに低下すると、周波数が上昇し、点A5に向うことが予測されるものである。
【0037】
次に、このような、中間層30の屈折率に対する光の周波数特性が得られている場合に、入射光の周波数変換ができる理由について説明する。周波数330THzの連続光を、第1のブラッグ光反射層10から、常時、入射させる。中間層30の屈折率の初期値を4×10-4とする。この状態では、周波数330THzは第1のブラッグ光反射層10のフォトニックバンドギャップの下端周波数であるので、周波数330THzの光は、第1のブラッグ光反射層10と中間層30に存在する。そして、中間層30の屈折率を、初期値から減少させる。屈折率が、3.64×10-4に達した時、図9.Aに示すように、中間層30において、周波数330THzの光の媒質内波長の3/2が中間層30の厚さに等しくなり、3次の強い共振モードが生起される。このモード状態が、図3.AにおけるA0 点で表される。
【0038】
次に、中間層30の屈折率がA0 点の3.64×10-4からA1 点の3.17×10-4に減少する間における、中間層30の電界エネルギー分布は、図9.Aの状態を維持する。すなわち、中間層30における媒質内波長が、中間層30の厚さの2/3に保持された状態が継続する。これは、第1のブラッグ光反射層10と第2のブラッグ光反射層20の周期構造により、中間層30と第1のブラッグ光反射層10との界面、中間層30と第2のブラッグ光反射層20との界面における電磁波の位相が、固定されるためと思われる。この結果、中間層30におけるその共振モードの周波数は、その時の屈折率のA0 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、周波数が上昇し、A1 点の共振モードでは、周波数は375THzとなる。次に、中間層30の屈折率が、A1 点の3.17×10-4から、A2 点の2.13×10-4まで減少する間は、中間層30の電界エネルギー分布は、図9.Aで示された媒質内波長が中間層の厚さの2/3の3次のモードから、媒質内波長が中間層の厚さに等しくなる2次のモードにモード変換が行われる。すなわち、屈折率が変化するこの間は、その時の屈折率のA1 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、媒体内波長が長くなる。したがって、3次の共振モードは、A2 点においては、屈折率2.13×10-4、媒体内波長3.75mm、周波数375THzの2次の共振モードに変化する。
【0039】
次に、屈折率がA2 点の2.13×10-4から、A3 点の2.05×10-4まで低下する間は、2次の共振モードが保持され、媒体内波長が3.75mmに維持される。その時の屈折率のA2 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、共振モードの周波数が上昇する。屈折率がA3 点の2.05×10-4となると、2次の共振モードの周波数は、389THzとなる。周波数375THzのモードは、B0 点より生じた光のモードである。
【0040】
屈折率がA3 点の2.05×10-4からA4 点の1.03×10-4まで低下する間では、中間層30の電界エネルギー分布は、媒質内波長が中間層の厚さに等しい2次のモードから、媒質内波長が中間層の厚さの2倍に等しくなる1次のモードにモード変換が行われる。すなわち、この間では、その時の屈折率のA3 点での屈折率に対する比の逆数に比例して、中間層30における媒体内波長が長くなる。したがって、2次の共振モードは、A4 点においては、屈折率1.03×10-4、媒体内波長7.5mm、周波数389THzの1次の共振モードに変換される。屈折率がA3 点からA4 点に変化する間は、図10.Aに示されるようなモードとなっている。図10.Aは、周波数389THzの共振モードの媒体内波長が、徐々に増大する途中の状態を示している。
【0041】
次に、屈折率がA4 点の1.03×10-4からA5 点の0.92×10-4まで、減少する間は、1次の共振モードが保持され、媒体内波長7.5mmが維持される。この結果、その時の屈折率のA4 点における屈折率に対する比の逆数に比例して、共振モードの周波数が上昇する。屈折率がA5 点の0.92×10-4となると、共振モードの周波数は435THzとなる。中間層30の電界エネルギー分布は、図11.Aに示すものとなり、周波数389THz、及び375THzのモードは、このモードに比べて、非常に小さい。
【0042】
周波数435THzの1次の共振モードは、第2のブラッグ光反射層20においては、パスバンドに当たり、透過モードであるので、第2のブラッグ光反射層20から周波数435THzの光が出力されることになる。
【0043】
このシミュレーションにおいて、中間層30が屈折率0.92×10-4の時に存在しうる光の周波数435THz、389THz、375THzでの電界エネルギー密度の最大値は9×1012、1.8×109、4.0×108となり、周波数435THzのモードが支配的となることが理解される。
このようにして、中間層30の屈折率を、周期的に、大きい値から小さい値に変化させる毎に、その周期に同期した周期のパルス光が第2のブラッグ光反射層20から出力されることになる。また、屈折率をA0 点からA5 点に低下させる時間は、中間層30において、閉じ込めれた光の減衰定数より、短い時間とする必要がある。
【実施例2】
【0044】
図4は、中間層30に回転角の大きなファラデー効果を有する材料を用いる場合の永久磁石の配置方法の一例である。y軸方向に伸びた長方形の複数個のネオジム磁石50とy軸方向に伸びた長方形の複数個の単位波長変換装置100uをz軸方向に交互に周期的に配置する。単位波長変換装置100uは実施例1における波長変換装置100と、中間層30の構成を除き、同一構成である。この実施例では、中間層30はファラデー効果の大きい材料、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子を用いることができる。この中間層に磁場を印加して、 屈折率(ε−g)1/2 を10-5以上10-3以下とする。屈折率のこの範囲の値を初期値として、実施例1と同様な範囲で、屈折率を変化させるために、レーザ光は、単位波長変換装置100uの側面から、y軸に平行に単位波長変換装置100uの中間層30を通過するように導入される。各ネオジム磁石50の磁極の向きは、波長変換される光の導入方向及び変換後の射出方向(x軸方向)に平行とし、全て同じ向きである。各ネオジム磁石50の占有面積の分だけ、全体として透過光量は1/2に低下するが、単位波長変換装置100uの全数により、全体として、波長変換が行われるので、十分な出力光を得ることができる。
【0045】
図4において、中間層に磁場を印加するには、永久磁石に替えて電磁石を用いることも可能である。この場合には、中間層30には、磁性半導体チタニアナノシートの人工超格子から成る一枚の長方形状の板を用いる。そして、実施例1の図1に示す構成と同様に、中間層30の光入射側に、第1のブラッグ光反射層10が設けられ、中間層30の光出射側に、第2のブラッグ光反射層20が設けられている。この中間層30に磁場を印加するには、光の入射面、出射面から見て、図4.Aのy軸方向に伸びた長方形の複数個の領域に磁界がx軸方向に形成されるように、第1のブラッグ光反射層10の光入射面と、第2のブラッグ光反射層20の光出射面に、第1の電磁石と第2の電磁石が配置される。第1の電磁石及び第2の電磁石は、入射光の進行方向(x軸正方向)に向かって、同一極である、例えば、N極が配置される。その結果、中間層30では、第1の電磁石のN極から第2の電磁石のS極へ向かう磁束がx軸に平行に形成される。電磁石は、図4.Aに示すようなy軸方向に長辺、z軸方向に短辺を有した短冊状の鉄心を有した電磁石に形成している。しかし、図4.Aに示すような短冊領域を、y軸方向に沿って正方形の領域に等分割して、それぞれの正方形領域に、個別的に円柱鉄心や正方角柱鉄心を有した電磁石を配置するようにしてもよい。
【0046】
[変形例]
上記の実施例1、2では、図5に示すように、第1のブラッグ光反射層10から第5周波数f5 の入力光を入力させて、第2のブラッグ光反射層20から、第5周波数f5 よりも高い第6周波数f6 の出力光を出力するようにしたものである。すなわち、長波長の光を短波長の光に変換する装置である。これとは逆に、図5において、第2のブラッグ光反射層20から第6周波数f6 の入力光を入力させて、第1のブラッグ光反射層10から、第6周波数f6 よりも低い第5周波数f5 の出力光を出力させることも可能である。すなわち、入力光を長波長の光に変換することができる。この場合には、中間層30の屈折率nは、図3の特性図から明らかなように、屈折率を0.92×10-4から3.6×10-4に増大させることが必要である。周波数を低くする周波数変換は、屈折率を増加させることで、上記した図3.AのA5 点の状態から、A4 、A3 、A2 、A1 、A0 に至る経路で、中間層30におけるモードの変換が実行されることからも、明らかである。
【0047】
屈折率は、正弦関数や、鋸歯状波などの周期関数により、繰り返して変化させる。光の周波数を向上させる装置では、中間層の屈折率が減少する過程において、高周波数への変換が実行される。光の周波数を低下させる装置では、屈折率が増加する過程において、低周波数への変換が実行される。このようにして、連続光を入射させることで、その連続光よりも周波数の高い、又は、低いパルス光を、中間層30の屈折率の変動周期で出力することができる。
【0048】
入力光と出力光の周波数の関係は、第1のブラッグ光反射層と第2のブラッグ光反射層とによって形成されるフォトニックバンドギャップ、中間層の屈折率、屈折率の変動幅、中間層の厚さを最適に設計することにより、任意に実現することができる。周波数変換に関しては、図3に示すように、波長変換装置100において、中間層の屈折率と、固有モードの周波数との関係を求めることで、容易に、設計することができる。
したがって、本発明の入力光と出力光の周波数範囲は任意であり、赤外領域の光を可視光領域の光に変換したり、紫外光領域の光を可視光領域の光に変換することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の波長変換装置は暗視装置に適用可能である。この他、光信号の変調器に適用することもできる。
【符号の説明】
【0050】
100:波長変換装置
100u:単位波長変換膜
10:第1のブラッグ光反射層
20:第2のブラッグ光反射層
30:中間層
50:ネオジム磁石
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数を下端とし、第1周波数よりも大きい第2周波数を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第1の層と、
前記第1周波数よりも小さい第3周波数を下端とし、第3周波数よりも大きく前記第2周波数よりも小さい第4周波数を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第2の層と、
前記第1の層と前記第2の層との間に設けられた中間層と、
前記中間層の屈折率を変化させる屈折率変化手段とを有し、
前記中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有し、
前記第1周波数以下で前記3周波数よりも大きい第5周波数の入力光を前記第1の層に導入し、前記中間層の屈折率を変化させることで、前記第2の層から前記第2周波数よりも小さく前記第4周波数以上の第6周波数の出力光を出力させ、又は、前記第2周波数よりも小さく前記第4周波数以上の第6周波数の入力光を前記第2の層に導入し、前記中間層の屈折率を変化させることで、前記第1の層から前記第1周波数以下で前記第3周波数よりも大きい第5周波数の出力光を出力させる
ことを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記屈折率変化手段は、前記出力光の周波数を前記入力光の周波数よりも高くする場合には、前記中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内の値に減少させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記屈折率変化手段は、前記出力光の周波数を前記入力光の周波数よりも低くする場合には、前記中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記中間層は、メタマテリアルから成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記中間層は回転角の大きなファラデー効果を有する材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記中間層の屈折率を10-5以上10-3以下とするように、前記中間層に磁場を印加する磁場印加手段を有することを特徴とする請求項5に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記屈折率変化手段は前記中間層に高出力レーザを照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記第5周波数は赤外領域にあり、前記第6周波数は可視領域にあることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【請求項1】
第1周波数を下端とし、第1周波数よりも大きい第2周波数を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第1の層と、
前記第1周波数よりも小さい第3周波数を下端とし、第3周波数よりも大きく前記第2周波数よりも小さい第4周波数を上端とするフォトニックバンドギャップを有する第2の層と、
前記第1の層と前記第2の層との間に設けられた中間層と、
前記中間層の屈折率を変化させる屈折率変化手段とを有し、
前記中間層は10-5以上10-3以下の屈折率を有し、
前記第1周波数以下で前記3周波数よりも大きい第5周波数の入力光を前記第1の層に導入し、前記中間層の屈折率を変化させることで、前記第2の層から前記第2周波数よりも小さく前記第4周波数以上の第6周波数の出力光を出力させ、又は、前記第2周波数よりも小さく前記第4周波数以上の第6周波数の入力光を前記第2の層に導入し、前記中間層の屈折率を変化させることで、前記第1の層から前記第1周波数以下で前記第3周波数よりも大きい第5周波数の出力光を出力させる
ことを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記屈折率変化手段は、前記出力光の周波数を前記入力光の周波数よりも高くする場合には、前記中間層の屈折率を元の値の1/10倍以上1/2倍以下の範囲内の値に減少させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記屈折率変化手段は、前記出力光の周波数を前記入力光の周波数よりも低くする場合には、前記中間層の屈折率を元の値の2倍以上10倍以下の範囲内の値に増加させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記中間層は、メタマテリアルから成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記中間層は回転角の大きなファラデー効果を有する材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記中間層の屈折率を10-5以上10-3以下とするように、前記中間層に磁場を印加する磁場印加手段を有することを特徴とする請求項5に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記屈折率変化手段は前記中間層に高出力レーザを照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記第5周波数は赤外領域にあり、前記第6周波数は可視領域にあることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【図1】
【図2】
【図4.A】
【図4.B】
【図5】
【図7】
【図8.A】
【図8.B】
【図8.C】
【図9.A】
【図9.B】
【図9.C】
【図10.A】
【図10.B】
【図10.C】
【図11.A】
【図11.B】
【図11.C】
【図3.A】
【図3.B】
【図6】
【図2】
【図4.A】
【図4.B】
【図5】
【図7】
【図8.A】
【図8.B】
【図8.C】
【図9.A】
【図9.B】
【図9.C】
【図10.A】
【図10.B】
【図10.C】
【図11.A】
【図11.B】
【図11.C】
【図3.A】
【図3.B】
【図6】
【公開番号】特開2011−128472(P2011−128472A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288531(P2009−288531)
【出願日】平成21年12月19日(2009.12.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月19日(2009.12.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]