説明

注入材を用いた排水体による斜面安定化工法

【課題】 少ない資材でもって容易に施工することができ、地山の斜面からの排水を円滑にすることができる注入材を用いた排水体による斜面安定化工法を提供する。
【解決手段】 注入材を用いた排水体による斜面安定化工法において、地山1の斜面2にボーリングマシンで削孔3を形成し、この削孔3内に注入管4を設置し、この注入管4を介して前記削孔3内に溶解性繊維を混入した注入材6を充填し、前記溶解性繊維を混入した注入材6による排水体8により前記地山1からの排水を円滑に行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入材を用いた排水体による斜面安定化工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は従来の地下水を低下させつつ斜面を力学的に補強する斜面安定化工法の模式図、図5は図4における中空管体とそれに形成された集水孔を示す斜視図である(下記特許文献1参照)。
この図に示すように、まず、中空管体103を削孔106内に設置し、グラウト材105を注入して、中空管体103の先端側を地山101中に定着させる。次に、中空管体103の頭部に定着プレート107を装着して、中空管体103に定着ナット108を螺着することで、斜面102の表面に固定する。地山101中に打設された中空管体103は、先端側が頭部側よりも上方になるように傾斜状態で設置されるとともに、外周に設置された透水性の排水材104と集水孔103Aとを有している。そのため、地山101中の地下水は、排水材104と集水孔103Aとを介して、中空管体103内に取り込まれ、その後、取り込まれた地下水は、中空管体103内を流下して外部に排出される。つまり、アンカー109が、地山102の抑止補強工と地下水排水工とを兼ね合わせた機能を備えている。
【0003】
また、建築物または構造物等に用いられる透水性を備えた多孔質構造体として、工場生産はもとより現場施工においても品質管理が容易で、しかも必要な強度を良好に得ることができる、多孔質構造体およびその施工方法が提案されている(下記特許文献2参照)。
さらに、シールドトンネル内で、裏込基材に膨潤された空隙形成材を混入した透水性裏込材を設けるようにしたものが提案されている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−152459号公報
【特許文献2】特開2003−277164号公報
【特許文献3】特開2008−025112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した斜面安定化工法は、多くの資材を要することになり、その施工が複雑になるといった問題があった。特に、中空管体103には集水孔103Aを形成し、透水性の排水材104からの通水を集水孔103Aから中空管体103に導入して、その導入された通水を斜面102から排出する必要があった。
また、地盤内の地下水位低下を目的として従来用いられてきた排水パイプを用いた地下水位低下工法では、工場等で必要長さに予め切断・加工されたパイプが打設されてきた。ここで、パイプの必要長さは、施工対象地盤の数カ所で実施した調査結果から想定した地下水位分布等の地盤性状の三次元的な広がりを基にして決定されている。このような調査結果が実地盤の状態を完全に捉えることは不可能であることから、実際の施工時には排水パイプを長めに打設する必要があった。
【0006】
さらに、のり尻付近の排水を容易にする方法として、のり尻に排水ブランケットを設ける方法やふとんかごを設置する方法があるが、既設の斜面に設置する場合には斜面を一時撤去の上敷設する必要があり、費用がかかる上、施工に際し、のり尻を緩めることから、斜面安定上の問題があった。
本発明は、上記状況に鑑みて、少ない資材でもって容易に施工することができるとともに、溶解性繊維を混入した注入材の固化によって得られる排水体により、地山の斜面からの排水を容易に行うことができる注入材を用いた排水体による斜面安定化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕注入材を用いた排水体による斜面安定化工法において、地山の斜面にボーリングマシンで削孔を形成し、この削孔内に注入管を挿入し、この注入管を介して前記削孔内に溶解性繊維を混入した注入材を注入して充填し、前記溶解性繊維を混入した注入材を用いた排水体により前記地山からの排水を円滑に行うようにしたことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の注入材を用いた排水体による斜面安定化工法において、前記溶解性繊維を混入した注入材は、固化材、安定材及び助材からなる裏込めA液と、水ガラス系の急硬材B液とを配合調整し粘性を持たせたものに、5℃以下の冷却水により膨潤状態にした、確実なアルカリ分解性及び熱溶解性を有する溶解性繊維を均等に混入したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボーリングマシン等により地盤に削孔を形成し、その後、この削孔内に溶解繊維を混入したグラウト材を注入し、地盤内に棒状の排水体を形成する。したがって、実際に必要な排水体の長さおよび直径を施工時に確認することでき、これに応じて削孔長及び削孔径を調整し、最適な長さの排水体を地盤内に形成することができる。これにより、排水体の過不足を低減し、効果的な地下水位低下が可能となる。
【0010】
また、のり尻付近に連続的に設置することで斜面を緩めることなく、排水ブランケット等と同様の効果を付加することが期待でき、斜面内部の水位を低下させることが可能となる。
また、溶解性繊維を混入した注入材の固化によって得られる排水体により地山の斜面からの排水を容易に行うことができる。
【0011】
さらに、排水体の直径を任意に変えることが可能であり、地山の斜面の滑動力に応じた周面摩擦力を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を示す注入材の固化による排水体を用いた斜面安定化工法を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す注入材を用いた排水体による斜面安定化工法により構築された斜面安定化構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す注入材を用いた排水体の一例を示す図である。
【図4】従来の地下水の排水機能を備えた斜面安定化工法の模式図である。
【図5】図3における中空管体とそれに形成された集水孔を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の注入材を用いた排水体による斜面安定化工法は、地山の斜面にボーリングマシンで削孔を形成し、この削孔内に注入管を挿入し、この注入管を介して前記削孔内に溶解性繊維を混入した注入材を注入して充填し、前記溶解性繊維を混入した注入材を用いた排水体により前記地山からの排水を円滑に行うようにした。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す注入材の固化による排水体を用いた斜面安定化工法を示す模式図、図2はその排水体を用いた斜面安定化工法により構築された斜面安定化構造を示す図である。
まず、図1(a)に示すように、地山1の斜面2からボーリングマシン(図示なし)で削孔3を形成する(ステップS1)。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、形成された削孔3内に注入管4を挿入し、口元5を閉じる(ステップS2)。
次に、図1(c)に示すように、溶解性繊維を混入した注入材6を注入管4を介して削孔3内に充填機7で注入し、充填する(ステップS3)。この溶解性繊維を混入した注入材6は、固化材、安定材及び助材からなる裏込めA液と、水ガラス系の急硬材B液とを配合調整して粘性を持たせたものに、5℃以下の冷却水により膨潤状態にした、溶解性繊維を均等に混入したものである。この溶解性繊維は、確実なアルカリ分解性及び熱溶解性を有する材料である。そのため、固化した注入材6の中で繊維が溶解することにより、透水性多孔質体からなる排水体8が形成される。ここで、注入管4は残してもよいし、注入材6が固化する前に、引き抜いて除去するようにしてもよい。
【0016】
このように施工することにより、図2に示すような、透水性多孔質体からなる排水体を用いた斜面安定化工法による斜面安定化構造を構築することができる。 図3は本発明の実施例を示す注入材を用いた排水体の一例を示す図である。
この図に示すように、透水性多孔質体からなる排水体8が削孔3内に充填されることになる。
【0017】
本発明によれば、溶解性繊維が混入された注入材15からなる排水体8を削孔3内に充填するようにした。よって、地山1から集水された水は、透水性多孔質体からなる排水体8を通じて斜面2から排出することができる。つまり、通水機能をもつ透水性多孔質体からなる排水体8によって地山1の地下水を集水し、斜面2から円滑に排出することができるので、斜面安定化工法として有効である。
【0018】
本発明では、溶解性繊維の量を調整することにより、所定の通水性を確保でき、透水性多孔質体からなる排水体8の直径は任意に変えることが可能であり、地山の斜面の滑動力に応じた周面摩擦力を得ることが可能である。
よって、排水機能を備えた補強土工の施工が可能となり、地山の斜面の効果的な補強を安価に行うことができる。
【0019】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の注入材を用いた斜面安定化工法は、地山の地下水の排水を簡便に、しかも良好に行うことができる斜面安定化工法として利用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 地山
2 斜面
3 削孔
4 注入管
5 口元
6 溶解性繊維を混入した注入材
7 充填機
8 透水性多孔質体からなる排水体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)地山の斜面にボーリングマシンで削孔を形成し、
(b)該削孔内に注入管を設置し、
(c)該注入管を介して前記削孔内に溶解性繊維を混入した注入材を充填し、
(d)前記溶解性繊維を混入した注入材による排水体を用いて前記地山からの排水を円滑に行うようにしたことを特徴とする注入材を用いた排水体による斜面安定化工法。
【請求項2】
請求項1記載の注入材を用いた排水体による斜面安定化工法において、前記溶解性繊維を混入した注入材は、固化材、安定材及び助材からなる裏込めA液と、水ガラス系の急硬材B液とを配合調整し粘性を持たせたものに、5℃以下の冷却水により膨潤状態にした、確実なアルカリ分解性及び熱溶解性を有する溶解性繊維を均等に混入したものであることを特徴とする通水性注入材を用いた斜面安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179272(P2011−179272A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46338(P2010−46338)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】