説明

注射用の崩壊性ポリマー

【課題】ペプチド-及びタンパク質ベースの薬剤治療における有益な薬剤の制御デリバリー方法の提供。
【解決手段】ペプチド-及びタンパク質ベースの有益な薬剤を投与するための組成物は、疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;生体内崩壊性ポリマーと;有益な薬剤とを含有する。ポリマーと有益な薬剤は溶解している。組成物は、疎水性溶媒が安息香酸ベンジルであり、親水性溶媒がベンジルアルコールであり、生体内崩壊性ポリマーがポリラクチドでありえる、更に標準的な皮下注射針を通して容易に注射されることを可能にする低粘度を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(背景)
特にペプチド-及びタンパク質ベースの薬剤治療の有益な薬剤の制御デリバリーは、生体内崩壊性ポリマー移植の使用により達成することができる。伝統的には、この技術は懸濁した有益な薬剤を含むポリマー性モノリスの外科移植に関与している。これらのモノリスの例は米国特許第6110503号、同第6051259号及び同第6146662号に記載されている。これらのモノリスのある種の複雑な形状及び/又は製剤は、所定時間にわたって特定の速度で有益な薬剤を放出させるために開発されたものである。この移植アプローチの欠点は、移植片を配するために、患者に切開を施す必要があることである。
外科移植の必要性をなくすために、粘性のある組成物を注射することにより投与可能な移植片が開発されている。注射用の組成物は、移植片がシリンジ及び針を通過可能となるに十分な流動能を持たなければならない。しかし、これらの製剤は、体内で単に消散するべきではなく、むしろ薬剤が放出される別個の貯蔵部(depot)を形成すべきである。典型的には、組成物は、生物体内の水性環境に遭遇すると、ゲル又は固体に転換する。
【0002】
この物理特性バランスを達成するために、生体内崩壊性ポリマー、生体適合性溶媒、有益な薬剤及び他の成分の種々の製剤が使用されている。ついで、移植片のポリマー性マトリックスからの有益な薬剤の放出が、マトリックスからの薬剤の拡散;ポリマーの分解と続く周囲環境への薬剤の放出;又はこれら2つのメカニズムの組合せにより、生じ得る。
注射可能な組成物の製剤化の一アプローチは、水と混和性又は分散性である溶媒(親水性溶媒)の使用である。例えば、米国特許第6143314号には、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)及び親水性溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)又はN-メチルピロリドン(NMP)を含有する注射可能な組成物が記載されている。また米国特許第5278201号及び同4938763号には、注射可能な液状組成物を作製するために、NMPと有益な薬剤と組合せた、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)及びそれらの共重合体が記載されている。これらの同じポリマーのデポー(depots)が、プレポリマーを含有する組成物を注射することにより形成され得、ついで移植プロセス中にポリマーが形成される。米国特許第5340849号及び同5278202号に記載されているように、NMP、有益な薬剤、及びポリマー前駆物質の組成物は、水性環境中への注射の際に、水の存在下でポリマー前駆物質が重合することによりポリマーゲルを形成可能である。
【0003】
有益な薬剤はこれらの製剤に溶解又は分散可能である。ペプチド類及びタンパク質を含む水溶性の有益な薬剤は、典型的には、水性の体液に混和する溶媒により溶解する。これらの組成物に使用される溶媒は、移植片へ水分を急速に流入させる傾向にある。これにより、移植部位におけるポリマーの急速な固化が促進され、移植片からの有益な薬剤の拡散が促進され、多くの場合、有益な薬剤が、初期に急速に放出される結果となる。この「バースト」により、多くの場合、非常に短い時間でかなりの割合の有益な薬剤が放出される結果となる。例えば25−75%の有益な薬剤が投与24時間以内に放出され得る。ある場合には、バーストに続いて、徐々の放出が始まる前に、有益な薬剤の放出が大幅に低減し得る。放出挙動におけるこの中断は、「ラグタイム」と称されている。
バースト効果及び/又はラグタイムは、特に持続性デリバリーが所望されている環境では許容できないものである。例えば、1週間、又は1ヶ月、又はそれ以上の期間、有益な薬剤を送達することが所望されている場合もあり得る。これらの系の放出速度を制御するために、多くの場合、有益な薬剤の放出を抑え、及び/又は移植片の間隙率を制御可能な付加的な成分を含有せしめる必要がある。例えば、米国特許第5599552号及び同5487897号には、ポリマーの「皮」、又は層により囲まれた多孔質又は液状のコア部を有する移植片を提供するためにポリ(D,L-乳酸)を使用する複合組成物が記載されている。この形態により、より均質な放出速度が提供されることが報告されている。米国特許第5780044号に記載されているように、有益な薬剤の放出はまた薬剤を錯化させて水にほとんど溶解しなくすることにより制御され得る;しかしながら、錯化は有益な薬剤の活性、よって効能に影響を与えるおそれがある。
【0004】
放出制御組成物の製剤化に対する別のアプローチは、水と非混和性の溶媒の使用である。例えば、米国特許第6130200号には、ペプチドベースの薬剤が粒子として懸濁している、水非混和性(疎水性)溶媒とPLGAとのゲルが記載されている。投与された場合、ゲルは凝集性デポーを形成するのに十分な次元的安定性を有している。これらの系中の疎水性溶媒は、水分の急速な取り込みを阻害し、如何なるバースト放出も低減又は除去する。この系の欠点の一つは、ゲルの示す粘度が高いことである。よって、注射により組成物を投与するためには、太い直径の針(16ゲージ〜20ゲージ)を使用しなければならず、また投与のためには高い圧力が必要とされる。このことは、特に慢性症状の治療、例えば糖尿病患者へのインシュリンの投与にとっては不具合になるおそれがある。他の欠点は粒子状の有益な薬剤が経時的に組成物から沈殿してしまう傾向である。この不安定性のために、特別な貯蔵条件、短い保管時間、及び/又は投与中における特別な取り扱い条件が必要となる。移植片が生物体内にあるときに、有益な薬剤が沈殿すると、経時間的な薬剤放出速度が予測できなくなるおそれがある。
よって、注射により容易に投与することができる有益な薬剤の徐放のための組成物が必要とされている。これらの組成物は、急速な放出又はゼロ放出の予期せぬ期間がなく、薬剤の理想的に制御された放出を示す。さらに、長時間にわたり、また種々の保管状態での安定性も所望されている。
【0005】
(概要)
第1の側面では、本発明は、疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;生体内崩壊性ポリマーと;有益な薬剤とを含有する、有益な薬剤の投与のための組成物にある。ポリマーと有益な薬剤は溶解する。
第2の側面では、本発明は、疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;生体内崩壊性ポリマーと;有益な薬剤を含有する、有益な薬剤の投与のための組成物にある。組成物の粘度は2000センチポアズ未満である。
第3の側面では、本発明は、疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;該溶媒混合物に溶解した生体内崩壊性ポリマーと;該溶媒混合物に溶解した有益な薬剤を含む、有益な薬剤の投与のための組成物にある。組成物の粘度は2000センチポアズ未満であり、溶媒混合物の少なくとも90重量%は疎水性溶媒であり、疎水性溶媒は水に対して0.1重量%未満の溶解度を有し、5%未満の有益な薬剤がインビボでの投与24時間以内に放出される。
第4の側面では、本発明は、針を通して生体中に前記組成物を注射することを含む、有益な薬剤の投与方法にある。
第5の側面では、本発明は、容器;疎水性溶媒;親水性溶媒;生体内崩壊性ポリマー;及び有益な薬剤を含むキットにある。疎水性溶媒と親水性溶媒の量は、ポリマーと有益な薬剤の全てを溶解するのに十分な量である。
本発明の種々の他の目的、特徴及び付随する利点は、同様の符号が幾つかの図を通して同様の又は対応する部品を示している添付図面と組み合わせて考えて、以下の詳細な記載によりより理解されるので、より十分に理解できるであろう。
【0006】
(詳細な説明)
本発明は、少なくとも二の溶媒を含む混合溶媒系に溶解させた生体内崩壊性ポリマーの溶液又はエマルションを含む。該ポリマー溶液又はエマルションは有益な薬剤と混合されて、好ましくは20ゲージ針の直径以下の直径の針を使用して生物体に注射可能な液体又はゲルが形成される。次に、有益な薬剤は組成物から生物体内へとゆっくりと放出される。組成物は、注射時の最小バースト放出度で、所定時間にわたって有益な薬剤を放出し続けるように調製され投与され得る。本発明の組成物は、ペプチド-及びタンパク質ベースの有益な薬剤に特に有用である。溶媒混合物中のポリマー溶液又はエマルションは、好ましくは保管中及び放出期間中の有益な薬剤の安定化をもたらす。
混合溶媒系は、ポリマーと有益な薬剤の双方を溶解する。好ましくは、組成物は溶液であり、これは単一相に均質に分散された複数成分を有する液体であることを意味する。また、組成物は一以上の液状相を有するエマルションであってもよい。溶液及びエマルションの双方とも、懸濁した固体相を含有する液状相を有する懸濁液と対照される。
【0007】
溶媒混合物中の溶媒は、水に対して異なるレベルの溶解度を示すことが好ましい。水にあまり溶解しない溶媒は疎水性溶媒と称され、水によく溶解する溶媒は親水性溶媒と呼ばれる。
水に対する溶解度は、次のようにして実験的に測定できる:5グラムの水を20℃にて透明容器に入れ、計量し、溶媒を滴下して添加する。溶液を攪拌して相分離を観察する。相分離の観察によって決定して、飽和点に到達したと思われたときに、溶液を一晩放置し、次の日に再度調査する。相分離の観察によって決定して、まだ溶液が飽和しているならば、添加した溶媒の重量パーセントを決定する。そうでなければ、より多くの溶媒を添加し、本プロセスを繰り返す。溶解度は添加された溶媒の全重量を溶媒/水の混合物の最終重量で割って決定する。
好ましくは、疎水性溶媒は溶媒混合物の質量の半分より多くを占める。有用な疎水性溶媒は、水に対して1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満の溶解度を示す。水に対して0.05重量%未満の溶解度を有する疎水性溶媒が特に好ましい。
【0008】
疎水性溶媒の例には、安息香酸、フタル酸及びサリチル酸等のアリール酸のアルキル及びアラルキルエステル;クエン酸のアルキルエステル、例えばクエン酸トリエチル及びクエン酸トリブチル(tributyl citratrate);アリール、アラルキル及びアルキルケトン類及びアルデヒド類;及びそれらの混合物が含まれる。好ましい溶媒は、(i)次の構造式:R-C(=O)-O-R又はR-C(=O)-Rを有する化合物で、ここでRはアリール又はアラルキルであり、Rはアルキル又はアラルキルであり、R及びRは同一でも異なっていてもよく、但しR及びRの各々がアルキルである場合、R及びRを組合せた全炭素原子が4又はそれ以上であり、(ii)フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸のアルキル及びアラルキルエステル、及び(iii)クエン酸のアルキル及びアラルキルエステルから選択される、上述した範囲内に入る溶解度を有するものである。アルキルとは、非妨害置換基で置換されていてもよく、好ましくは1〜20の炭素原子を有する直鎖状、分枝状又は環状の炭化水素を意味する。アラルキルとは、(アルキル)フェニル、例えばベンジル、フェネチル、1-フェニルプロピル、及び2-フェニルプロピルを意味する。アリールとは、非妨害置換基で置換されていてもよいフェニルを意味する。本発明において有用な溶媒の多くは、商業的に入手可能であるか(SIGMA/ALDRICH, Milwaukee, WI)、又は例えば米国特許第5556905号に記載されているようにして、酸ハロゲン化物及び場合によってはエステル化触媒を使用し、それぞれのアリールアルカン酸の常套的なエステル化により、ケトン類及びアルデヒド類の場合は、各アルコール前駆物質の酸化により調製されうる。
【0009】
疎水性溶媒が選択され得る安息香酸誘導体には:1,4-シクロヘキサンジメタノールジベンゾアート、ジエチレングリコールジベンゾアート、ジプロピレングリコールジベンゾアート、ポリプロピレングリコールジベンゾアート、プロピレングリコールジベンゾアート、ジエチレングリコールベンゾアート及びジプロピレングリコールベンゾアート混合物、ポリエチレングリコール(200)ジベンゾアート、イソ-デシルベンゾアート、ネオ-ペンチルグリコールジベンゾアート、グリセリルトリベンゾアート、ペンタエリトリトールテトラベンゾアート、クミル(cumyl)フェニルベンゾアート、トリメチルペンタンジオールジベンゾアートが含まれる。
疎水性溶媒が選択され得るフタル酸誘導体には:アルキルベンジルフタラート、ビス-クミル-フェニルイソフタラート、ジブトキシエチルフタラート、ジメチルフタラート、ジエチルフタラート、ジブチルフタラート、ジイソブチルフタラート、ジイソヘプチルフタラート、ブチルオクチルフタラート、ジイソノニルフタラート、ノニルウンデシルフタラート、ジオクチルフタラート、ジイソオクチルフタラート、ジカプリルフタラート、混合アルコールフタラート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタラート、直鎖状のヘプチルノニルフタラート、直鎖状のヘプチルノニルウンデシルフタラート、直鎖状のノニルフタラート、直鎖状のノニルウンデシルフタラート、直鎖状のジノニルジデシルフタラート、ジイソデシルフタラート、ジウンデシルフタラート、ジトリデシルフタラート、ウンデシルドデシルフタラート、デシルトリデシルフタラート、ジオクチル及びジデシルフタラートの1:1混合物、ブチルベンジルフタラート、及びジシクロヘキシルフタラートが含まれる。
好ましい疎水性溶媒には、上述したアリール酸のアルキル及びアラルキルエステルが含まれる。酸の例には、安息香酸及びフタル酸類、例えばフタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸がある。最も好ましい溶媒は安息香酸誘導体であり、例えば安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸n-プロピル、安息香酸イソプロピル、安息香酸ブチル、安息香酸イソブチル、安息香酸sec-ブチル、安息香酸tert-ブチル、安息香酸イソアミル及び安息香酸ベンジルが含まれ、安息香酸ベンジルが最も好ましい。さらに、任意の疎水性溶媒の混合物を使用してもよい。
【0010】
溶媒混合物において有用な親水性溶媒は、疎水性溶媒と混和性のある溶媒であり、例えばベンジルアルコール、メタノール、1-ブタノール、t-ブタノール、トリアセチン、ジアセチン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルトリエチルシトラート、アセチルトリブチルシトラート、トリエチルグリセリド類、リン酸トリエチル、フタル酸ジエチル、酒石酸ジエチル、鉱物性油、ポリブテン、シリコーンフルイド、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、オクタノール、乳酸エチル、プロピレングリコール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチロラクトン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、グリセロールホルマル、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、オレイン酸、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、及びそれらの混合物が含まれる。
有用な親水性溶媒は、それが混合される疎水性溶媒よりも、水に対する溶解度が大きく、典型的には1重量%まで、好ましくは50重量%まで、より好ましくは25重量%までの水との混和性を有する。特に、水に対して2重量%〜10重量%の溶解度を有する親水性溶媒が好ましい。
【0011】
溶媒混合物は二以上の溶媒を含有し得る。例えば、溶媒混合物は二又はそれ以上の疎水性溶媒、二又はそれ以上の親水性溶媒、及び/又は水に対する溶解度が特定の親水性溶媒と疎水性溶媒の間にある一又は複数の溶媒を含有していてもよい。水に対する溶解度が1重量%未満の溶媒又は溶媒類の全量が、溶媒混合物の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%を占めることが好ましい。
【0012】
本発明で使用されるポリマーは、生物体内部に配されて分解する物質である。生体内崩壊性ポリマーは、ポリマーが徐々に破壊されて、代謝され又は体外へ排出され得るために、有益な薬剤が放出された後に移植片を除去する必要がない。この分解は、ポリマー分子量の経時的な減少として観察することができる。ポリマー分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を含む種々の方法により測定することができ、一般的に重量平均又は数平均値として表される。ポリマーは、pH7.4で37℃の温度のリン酸バッファー生理食塩水(PBS)中で、その重量平均分子量が、SECで測定して、6ヶ月の期間にわたって少なくとも25%低減する場合、生体内崩壊性である。
【0013】
本発明で有用な生体内崩壊性ポリマーには、ポリエステル、例えばポリ(カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)及びポリ(ヒドロキシブチレート);ポリ無水物、例えばポリ(無水アジピン酸)及びポリ(無水マレイン酸);ポリジオキサノン;ポリアミン類;ポリアミド類;ポリウレタン類;ポリエステルアミド類;ポリオルトエステル類;ポリアセタール類;ポリケタール類;ポリカーボネート類;ポリオルトカーボネート類;ポリホスファゼン類;ポリ(リンゴ酸);ポリ(アミノ酸);ポリビニルピロリドン;ポリ(メチルビニルエーテル);ポリ(アルキレンオキサレート);ポリ(アルキレンスクシネート);ポリヒドロキシセルロース;キチン;キトサン;及び共重合体及びそれらの混合物が含まれる。
【0014】
有益な薬剤は、該有益な薬剤の投与による有利な結果に、実質的に悪影響を与えない、製薬的に許容可能な担体及び付加的な成分、例えば酸化防止剤、安定剤等と、場合によっては組合せられた任意の生理学的又は製薬的に活性な物質又は物質群であってよい。有益な薬剤は、ヒト又は動物の体に送達されることが知られている任意の薬剤であってよい。これらの薬剤には、薬剤(drug agents)、医薬、ビタミン類及び栄養物が含まれる。このディスクリプションを満足させるタイプの薬剤に含まれるものは、低分子量化合物、タンパク質、ペプチド、遺伝子物質、栄養物、ビタミン類、栄養補助食品、性腺滅菌剤、排卵抑制剤、及び排卵促進剤である。
【0015】
本発明において送達され得る薬剤には、末梢神経、アドレナリン受容体、コリン作動性受容体、骨格筋、心臓血管系、平滑筋、血液循環系、シノプティックサイト(synoptic sites)、神経効果器接合部位、エンドクリン及びホルモン系、免疫学系、生殖系、骨格系、自能性系、消化器及び排泄系、ヒスタミン系、及び中枢神経系に作用する薬剤が含まれる。適切な薬剤は、例えばタンパク質、酵素、ホルモン、ポリヌクレオチド、核タンパク質、多糖類、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、ステロイド類、鎮痛剤、局部麻酔剤、抗生物質、抗炎症コルチコステロイド類、眼用薬物、及びこれらの種類の合成類似物から選択され得る。
【0016】
本発明の組成物により送達され得る薬剤の例には、プロクロルペルジン(prochlorperzine)エディシレート、硫酸鉄、アミノカプロン酸、塩酸メカミラミン、塩酸プロカインアミド、硫酸アンフェタミン、塩酸メタンフェタミン、塩酸ベンズアンフェタミン、硫酸イソプロテレノール、塩酸フェンメトラジン、塩化ベタネコール、塩化メタコリン、塩酸ピロカルピン、硫酸アトロピン、臭化スコポラミン、ヨウ化イソプロパミド、塩化トリジヘキセチル、塩酸フェンホルミン、塩酸メチルフェニデート、テオフィリンコリネート(cholinate)、塩酸セファレキシン、ジフェニドール、塩酸メクリジン、マレイン酸プロクロルペラジン、フェノキシベンザミン、マレイン酸チエチルペルジン(thiethylperzine maleate)、アニシンドン(anisindone)、ジフェナジオンエリトリチルテトラニトレート、ジゴキシン、イソフルロフェート(isoflurophate)、アセタゾールアミド、メタゾラミド、ベンドロフルメサイアザイド、クロロプロマイド(chloropromaide)、トラザミド、酢酸クロルマジノン、フェナグリコドール、アロプリノール、アスピリンアルミニウム、メトトレキセート、アセチルスルフィソキサゾール、エリスロマイシン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチコステロンアセテート(hydrocorticosterone acetate)、酢酸コルチゾン、デキサメタゾン及びその誘導体、例えばベタメタゾン、トリアムシノロン、メチルテストステロン、17-S-エストラジオール、エチニルエストラジオール、エチニルエストラジオール-3-メチルエーテル、プレドニゾロン、17-α-ヒドロキシプロゲステロンアセタート、19-ノルプロゲステロン、ノルゲストレル、ノルエチンドロン、ノルエチステロン、ノルエチエデロン(norethiederone)、プロゲステロン、ノルゲステロン、ノルエチノドレル、アスピリン、インドメタシン、ナプロキセン、フェノプロフェン、スリンダク、インドプロフェン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビト、プロプラノロール、チモロール、アテノロール、アルプレノロール、シメチジン、クロニジン、イミプラミン、レボドパ、クロルプロマジン、メチルドーパ、ジヒドロキシフェニルアラニン、テオフィリン、グルコン酸カルシウム、ケトプロフェン、イブプロフェン、セファレキシン、エリスロマイシン、ハロペリドール、ゾメピラック、乳酸鉄、ビンカミン、ジアゼパム、フェノキシベンザミン、ジルチアゼム、ミルリノン、マンドール、クアンベンズ(quanbenz)、ヒドロクロロチアジド、ラニチジン、フルルビプロフェン、フェヌフェン(fenufen)、フルプロフェン(fluprofen)、トルメチン、アルクロフェナック、メフェナム酸、フルフェナム酸、ジフイナール(difuinal)、ニモジピン、ニトレンジピン(nitrendipine)、ニソルジピン(nisoldipine)、ニカルジピン、フェロジピン、リドフラジン、チアパミル(tiapamil)、ガロパミル(gallopamil)、アムロジピン、ミオフラジン(mioflazine)、リシノールプリル(lisinolpril)、エナラプリル、エナラプリラットカプトプリル(enalaprilat captopril)、ラミプリル(ramipril)、ファモチジン、ニザチジン、スクラルファート、エチンチジン、テトラトロール(tetratolol)、ミノキシジル、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、アミトリプチリン、及びイミプラミンが含まれる。
【0017】
好ましくは、有益な薬剤は、タンパク質又はペプチド、より好ましくは異種糖タンパク質である。異種糖タンパク質の例には、分子、例えばサイトカイン類及びそれらのレセプター、並びにサイトカイン類又はそれらのレセプターを含むキメラタンパク質で、例えば腫瘍壊死因子アルファ及びベータ、それらのレセプター(TNFR-1;Grayら,(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:7380-7384;及びTNFR-2;Kohnoら,(1990)Proc. Natl. Acad. Sci.USA 87:8331-8335)及びそれらの誘導体;レニン;ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン、メチオニン-ヒト成長ホルモン、des-フェニルアラニンヒト成長ホルモン、及びブタ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子(GRF);副甲状腺及び下垂体ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;ヒト膵臓ホルモン放出因子;リポタンパク質;コルヒチン;プロラクチン;コルチコトロフィン(corticotrophin);甲状腺ホルモン;オキシトシン;バソプレシン;ソマトスタチン;リプレシン;パンクレオザイミン;ロイプロリド;アルファ-1-アンチトリプシン;インシュリンA鎖;インシュリンB鎖;プロインシュリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH);LHRHアゴニスト及びアンタゴニスト;グルカゴン;凝固因子、例えば因子VIIIC、因子IX、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えばプロテインC;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;組織型プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)以外のプラスミノーゲンアクチベータ、例えばウロキナーゼ;ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-1-アルファ);血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン;ミュラー阻害物質;レラキシンA鎖;レラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン結合ペプチド;絨毛性ゴナドトロピン;ゴナドトロピン放出ホルモン;ウシソマトトロピン;ブタソマトトロピン;微生物タンパク質、例えばベータ-ラクタマーゼ;DNアーゼ;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモン又は成長因子のレセプター;インテグリン;プロテインA又はD;リウマトイド因子;神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、-4、-5又は-6(NT-3、NT-4、NT-5又はNT-6)、又は神経成長因子、例えばNGF-β;血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞増殖因子、例えばaFGF及びbFGF;表皮増殖因子(EGF);形質転換成長因子、(TGF)、例えばTGF-アルファ及びTGF-ベータで、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4又はTGF-β5を含むもの;インシュリン様成長因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(大脳IGF-1)、インシュリン様成長因子結合タンパク質;CDタンパク質、例えばCD-3、CD-4、CD-8及びCD-19;エリスロポエチン;骨誘導性因子;抗毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えばインターフェロン-アルファ、-ベータ、-ガンマ及びコンセンサスインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、例えばM-CSF、GM-CSF及びG-CSF;インターロイキン類(IL)、例えばIL-1ないしIL-10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;解離促進因子;ウイルス抗原、例えばHIV-1エンベロープ糖タンパク質の一部、gp120、gp160又はそれらの断片;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;排卵抑制剤、例えばプロスタグランジン類;排卵促進剤;調節タンパク質;抗体及びキメラタンパク質、例えばイムノアドヘシン類;これらの化合物の類似体及び誘導体、及びこれらの化合物の製薬的に許容可能な塩、又はそれらの類似体又は誘導体が含まれる。
【0018】
また有益な薬剤には、化学治療剤が含まれ、特に全身性副作用を回避する又は最小にするために、このような薬剤は局所的に投与される。化学治療剤を含有する組成物は、経時的に化学治療剤が持続的に送達されるように、腫瘍組織内に直接注射され得る。ある場合には、特に腫瘍の切除後に、組成物を、結果として形成された空洞中に直接移植するか、又はコーティングとして残存する組織に適用され得る。送達され得る代表的な化学治療剤には、例えばカルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、BCNU、ビンクリスチン、カンプトセシン、エトプシド(etopside)、サイトカイン類、リボザイム類、インターフェロン類、腫瘍遺伝子の翻訳及び転写を阻害するオリゴヌクレオチド類及びオリゴヌクレオチド配列、上述したものの機能的誘導体、及び典型的な既知の化学治療剤、例えば米国特許第5651986号に記載されているものが含まれる。
【0019】
有益な薬剤のさらなる例には、抗菌剤、例えばヨウ素、スルホンアミド類、水銀剤、ビスビグアニド類、又は石炭酸;抗生物質、例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、カナマイシン、メトロニダゾール、又はクリンダマイシン;抗炎症剤、例えばアスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ユージノール、又はヒドロコルチゾン;免疫-抑制又は刺激剤、例えばメトトレキセート、又はレバマゾール(levamasole);免疫試薬、例えば免疫グロブリン又は抗原;麻酔剤、例えばリドカイン又はベンゾカイン;栄養剤、例えばアミノ酸、必須脂肪及びビタミンC;及び酸化防止剤、例えばアルファトコフェロール及びブチル化ヒドロキシトルエンが含まれる。また組成物は、製薬的に許容可能な担体及び付加的な成分を含有していてもよく、これらの物質は溶解していてもよく、又は懸濁していてもよい。
【0020】
有益な薬剤、ポリマー、及び溶媒成分は一工程で一度に混合されてもよく、別々の工程で、任意の順序で混合されてもよい。ポリマーは混合溶媒に溶解され、ついで有益な薬剤を溶解させることが好ましい。混合溶媒又は溶媒成分のいくつか又は全ては、組成物を互いに混合する前に、パウダーを安定化するために、ポリマー及び/又は有益な薬剤に添加されてもよい。種々の混合工程には、均質な溶液を形成するための加熱及び/又は機械的混合が含まれ得る。
【0021】
混合物中の有益な薬剤の量は、好ましくは単位用量に等しい。単位用量とは、生物体に投与されて所望の有益な効果を生じるのに必要な有益な薬剤の量のことである。単位用量の絶対量は、例えば薬剤の種類、薬剤の効能、生物体の健康度合い、及び生物体の大きさを含む多くの要因に依存し得る。
有益な薬剤の濃度は、例えば必要とされる用量、放出速度、又は有益な薬剤の溶解度に応じて変えることができる。前記濃度は、溶液1ミリリットル当たり0.1ミリグラム(mg/ml)〜500mg/ml、好ましくは5mg/ml〜250mg/ml、より好ましくは10mg/ml〜100mg/mlとすることができる。有益な薬剤の濃度は、有益な薬剤の一部が、溶液から別の相中に分離するほど高くないようにされることが好ましい。
【0022】
記載された組成物は、種々の方法で投与されうる。好ましい投与方法には注射が含まれる。注射は、皮下、非経口、筋肉内、又は当業者に公知の他の種類の注射であってよい。注射による投与で考慮されるものは混合物の粘度である。例えば、液体の粘度は、混合物が20ゲージの針を通して注射可能なように十分低い。好ましくは、溶液は25ゲージの針、より好ましくは28ゲージの針、さらに好ましくは30ゲージの針を通して注射可能である。組成物は、取り付けられたシリンジのプランジャーに加えられた20psigの圧力が少なくとも1.0ミリリットル/分の組成物の流れを針から生じさせる場合に針を通して注射可能である。
【0023】
液体の粘度は、CANON-FENSKE粘度計を使用し、25℃の温度で測定することができる。液体の運動学的粘度は、2000−50センチポアズを含む、好ましくは最大で2000センチポアズである。例には、1600センチポアズ未満、1400センチポアズ未満、1200センチポアズ未満、1000センチポアズ未満、900センチポアズ未満、800センチポアズ未満、700センチポアズ未満、600センチポアズ未満、500センチポアズ未満、400センチポアズ未満、300センチポアズ未満、200センチポアズ未満、100センチポアズ未満、50センチポアズ未満、及びそれらの間の全ての範囲が含まれる。
【0024】
注射により投与される移植片においては、液体混合物は、好ましくは、体内の体液と接触した際にデポーに変形する。このデポーは、生理学的液体からの相分離と、当初の液体組成物に対するその粘度増加により特徴付けられる。有益な薬剤を制御して放出させるためのポリマー性移植片となるのはこのデポーである。
これらの組成物の放出挙動を可能にするメカニズムの一つは、投与の際の移植片内の有益な薬剤の相分離に関連している。親水性溶媒が水性環境中に拡散すると、有益な薬剤の少なくとも一部がデポー組成物の残りから分離相に分離する。ついで、この相分離により、デポー内に有益な薬剤が微細に懸濁する。次に、有益な薬剤の放出が、最初のバースト放出及びラグタイムなしに、ゆっくりと徐々に生じる。
【0025】
組成物がインビボで投与される場合、好ましくは5%未満の有益な薬剤が24時間以内にデポーから放出され、より好ましくは2%未満の有益な薬剤が24時間以内にデポーから放出され、さらに好ましくは1%未満の有益な薬剤が24時間以内にデポーから放出され、よりさらに好ましくは0.05%未満の有益な薬剤が24時間以内にデポーから放出され、さらに好ましくは0.01%未満の有益な薬剤が24時間以内にデポーから放出される。組成物が投与される生物体は、例えばラット又はヒトである。
【0026】
有益な薬剤の放出は、好ましくは所定の日、週又は月の間にわたって生じる。好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも25%が投与1年以内に放出され、より好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも25%が投与1ヶ月以内に放出され、さらに好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも25%が投与1週間以内に放出される。また、好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも20%が投与1年以内に放出され、より好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも20%が投与1ヶ月以内に放出され、最も好ましくは有益な薬剤の全量の少なくとも20%が投与1週間以内に放出される。所望する放出期間の長さは、所望する生理学的処置に応じて変わりうる。
【0027】
組成物は、図1に示したバイアル10のような滅菌容器に簡便に包装され得る。この容器は、滅菌シリンジ及び針を具備していてもよいキットの一部であり得る。バイアル10はセプタム(隔膜)12でシールされていてもよい。このセプタムにより液体14がシールされ、針及びシリンジが貫通されると、混合物を取り出せるようになっている。バイアルは有益な薬剤の制御された放出に必要な全ての成分を収容し得る。バイアル中の液状組成物は、好ましくは単位用量の有益な薬剤を収容している。混合物の末端使用者が、さらなる成分を添加したり、又は投与前に用量を測定したりする必要のないことが好ましい。液状組成物は、注射により直接投与することができるように、シリンジ内に収容され得る。
【0028】
あるいは、組成物は一以上の容器に包装されていてもよい。例えば、溶媒又は溶媒混合物にポリマーが溶解した溶液が一つのバイアル内にあり、溶媒又は溶媒混合物に有益な薬剤が溶解した溶液が他のバイアル内にあってもよい。溶媒及び/又は溶媒混合物は同一でも異なっていてもよい。バイアルの内容物は組合せて混合され得、最終組成物は注射により投与され得る。他の例は、有益な薬剤とポリマーが一つの容器内にあってもよく、溶媒混合物が他の容器内にあってもよい。有益な薬剤とポリマーは共にパウダーとして提供されてもよく、また有益な薬剤とポリマーは共に錠剤又はカプセルとして提供されてもよい。有益な薬剤とポリマーは、ポリマーと有益な薬剤とが溶解し、最終組成物が注射により投与されるように溶媒混合物と組合せられ得る。他の例では、ポリマーは溶媒混合物の溶液としてバイアルに提供され、有益な薬剤は別の容器内に提供され得る。あるいは、有益な薬剤は溶媒混合物の溶液としてバイアルに提供され、ポリマーは別の容器内に提供され得る。容器内の内容物は、液状調製物が形成され、最終組成物が注射により投与されるように組合せられ得る。
組成物又はその成分のパッケージは、好ましくは使い捨てで、さらに好ましくはリサイクル可能なものである。組成物及びそのパッケージは滅菌されていることが好ましい。
【実施例】
【0029】
実施例1−5
これらの実施例では、タンパク質を含有する組成物を、それらが注射により容易に投与できるが、タンパク質が徐々に制御されて放出されるように調製した。組成物からのrhGH(GENENTECH, S. San Francisco, CA)の放出挙動(放出特性)を、時間の関数としてタンパク質の放出量を測定することにより、インビボ及びインビトロの双方において調査した。タンパク質の安定性を、凝集していない放出タンパク質のパーセントを測定することにより決定した。凝集していないタンパク質のパーセントが高ければ高いほど、安定性が良好であることを示す。
報告された分子量が12000ダルトンのポリ(L-乳酸)(PLA)は、BOEHRINGER INGELHEIM, Ridgefield, CTから、RESOMER202Hとして得られた。ポリマー溶液をベンジルアルコールと安息香酸ベンジルを混合し、均質な混合物を形成することにより調製した。ついで、PLAをこの混合物に添加し、ボルテックスミキサーを用いて穏やかに混合することにより溶解させた。rhGHを亜鉛(タンパク質1モル当たり10モルの亜鉛)で錯化させ、錯化タンパク質、スクロース及び界面活性剤のパウダーを、ベンチトップスプレードライヤーを使用して調製した。
【0030】
タンパク質パウダー及びポリマー溶液を作製するために使用される成分の相対量を、それぞれ表1及び2にまとめる。実施例1−4については、適切なタンパク質パウダーをポリマー溶液に溶解し、50mg/mlの総タンパク質濃度にした。実施例5については、適切なタンパク質パウダーをポリマー溶液に溶解し、100mg/mlの総タンパク質濃度にした。溶解はボルテックスミキサーを用いて穏やかに混合することにより達成され、ついで、5mmの微細スクリーンシヤーホモジナイザー(fine screen shear homogenizer)を使用して、8000rpmで2分間ホモジナイズし、均質な溶液にした。得られた溶液は25ゲージの針を通して注射することができる。
【表1】

【表2】

【0031】
インビトロにおける放出実験では、得られた液体のサンプル100マイクロリットル(μL)を1.5mLの放出用バッファーに入れ、24時間、37℃に保持した。放出用バッファーはpH8.0で、50mMのHEPES、5mMのEDTA、0.1mMのNaNであった。ついで、全放出用媒体をサイズ排除クロマトグラフィー-高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)で分析し、Maaら, J. Pharm Sci.2(87)152-159, 1998に記載されたものと同様の方法を使用し、全タンパク質量、及び存在する非凝集タンパク質のパーセントを測定した。7.8x300mm TSK 2000-SWXLカラムを使用し、移動相として50mMのNaHPO、150mMのNaCl、pH7.2を用い、室温でSEC-HPLCを実施した。流速は1.0ml/分であり、実行時間は20分とした。タンパク質(10μg)を注射し、溶離液を214nmの吸光度でモニターした。24時間後のインビトロにおける放出結果を表2に示す。
【0032】
インビボにおける組成物からのタンパク質の放出特性を、薬物動態学研究によって調べた。これらの研究において、SDラットに5ミリグラムのタンパク質/キログラム体重(mg/kg)と15mg/kgの液状組成物を注射した。注射では25ゲージの針を通した。血清サンプルを注射時(時間=0時間)、ついで、2、4、6、8、24、96及び168時間の時間間隔で収集した。1ミリリットル当たり0.1ナノグラム(ng/mL)のアッセイ検出限界を有する特異的rhGH ELISA(GENENTECH ASSAY SERVICES)により、血清サンプルをrhGHについて分析し、各サンプル中のrhGHの濃度を測定した。このタンパク質濃度は移植片からのタンパク質の放出によるものである。経時的なタンパク質放出の得られたグラフを、実施例1、3及び4について図2−4に示す。
【0033】
実施例1及び5の比較グラフを図6に示す。実施例1には、血清rhGHレベルの急激な上昇が観察され、続いて4日後、9ng/mLの停滞期になるまで徐々に減少した。実施例5では、血清rhGHレベルは急激に上昇し、続いて24時間後には20ng/mLの停滞期まで急激に減少した。これらの実施例の薬物動態学的データを表3にまとめる。
【表3】

【0034】
実施例6
この実施例では、タンパク質の放出制御のための注射可能な組成物を調製した。組成物からのタンパク質の放出特性を、時間の関数としてタンパク質の放出量を測定することにより、インビボ及びインビトロの双方において調査した。
タンパク質水溶液を、VEGF(10mg/ml)、スクロース(10mg/ml)、0.03%のポリソルベート(POLYSORBATE)80、及びヒスチジン(10mM)を混合することにより調製した。溶液はpH6.0であった。米国特許第5019400号に記載されているように、このタンパク質溶液を超音波ネブライザーを使用して、液体窒素中に噴霧した。ついで、得られた凍結タンパク質の小滴を凍結乾燥し、直径2-10μmの粒子を生成させた。タンパク質パウダーを、30重量%のPLA、69重量%の安息香酸ベンジル、及び1重量%のベンジルアルコールからなるポリマー溶液中に混合した。8000rpmで2分間ホモジナイズすることにより、混合物をエマルションにした。得られた混合物は、液体1ミリリットル当たり12mgのタンパク質を含有していた。
【0035】
エクスビボでの放出の研究に対して、100マイクロリットル(μl)のサンプルを1.5mlの放出用バッファーに注射し、37℃に保持した。放出用バッファーは、10mMのヒスチジン、140mMのNaCl、0.02%のポリソルベート20、及び0.02%のアジ化ナトリウムを含有する、pH7.0の水性混合物であった。与えられた時間間隔で、全放出用媒体を新鮮な媒体と交換し、ついで媒体をSEC-HPLCにより分析し、全タンパク質含有量を測定した。5μm粒子を有する7.8x300mm TSK 300-SWカラムを使用し、室温でSEC-HPLCを行った。移動相は25mMのNaHPO、1.0MのNaClで、pH7.4のものであった。流速は1.0mL/分であり、実行時間は20分とした。タンパク質(25μg)を注射し、溶離液を214nmの吸光度でモニターした。
24時間後、37℃で、約0.2%のVEGFが放出されていた。さらに168時間後、約0.1%のVEGFがさらに放出された。
【0036】
インビボにおける組成物からのタンパク質の放出特性を、薬物動態学研究によって調べた。これらの研究では、265g〜302gの重量のSDラットに3.6mg/kg(0.3ml/kgの用量)の液状組成物を注射した。注射では25ゲージの針を通した。EDTA処理されたマイクロテイナー(microtainers)にラットからの全血を収集し、血漿を得た。分析まで血漿サンプルを凍結し、ついでVEGF ELISAを使用してアッセイし、各サンプル中のVEGFの濃度を測定した。このタンパク質濃度は移植片からのタンパク質の放出によるものである。経時的なタンパク質放出の得られたグラフを図5に示す。rhVEGFの当初の血漿レベルは、24時間まで、1ミリリットル当たり100ナノグラム(ng/ml)を超え、その後、そのレベルは、168時間まで1ミリリットル当たり約100ピコグラム(pg/ml)に保持された。
本発明の多くの修正及び変形が、上述した教唆に鑑みて可能であることは明らかである。よって、特許請求の範囲の範囲内において、本発明はここで特に記載されたもの以外でも実施され得るものと理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】注射可能な組成物を収容するバイアルの図である。
【図2】経時的なrhGHの放出を示すグラフである。
【図3】経時的なrhGHの放出を示すグラフである。
【図4】経時的なrhGHの放出を示すグラフである。
【図5】経時的なVEGHの放出を示すグラフである。
【図6】経時的なrhGHの放出を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;
生体内崩壊性ポリマーと;
有益な薬剤と;
を含有する、生物体へ有益な薬剤を投与するための組成物であって、
前記ポリマーと前記有益な薬剤が溶解している組成物。
【請求項2】
溶媒混合物の少なくとも55重量%が疎水性溶媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
溶媒混合物の少なくとも90重量%が疎水性溶媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
疎水性溶媒が水に対して0.1重量%未満の溶解度を有している、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
有益な薬剤が0.1mg/ml〜500mg/mlの濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
有益な薬剤が10mg/ml〜100mg/mlの濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
組成物が25ゲージの針を通して注射可能である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
組成物の粘度が2000センチポアズ未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
5%未満の有益な薬剤がインビボでの投与24時間以内に放出される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
疎水性溶媒が安息香酸ベンジルであり、親水性溶媒がベンジルアルコールであり、生体内崩壊性ポリマーがポリラクチドであり、有益な薬剤がペプチド又はタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
親水性溶媒、疎水性溶媒、生体内崩壊性ポリマー、及び有益な薬剤が均質な溶液を形成している、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
親水性溶媒、疎水性溶媒、生体内崩壊性ポリマー、及び有益な薬剤がエマルションを形成している、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;
生体内崩壊性ポリマーと;
有益な薬剤と;
を含有する有益な薬剤を投与するための組成物であって、
粘度が2000センチポアズ未満である組成物。
【請求項14】
溶媒混合物の少なくとも55重量%が疎水性溶媒である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
溶媒混合物の少なくとも90重量%が疎水性溶媒である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
疎水性溶媒が水に対して0.1重量%未満の溶解度を有している、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
組成物が28ゲージの針を通して注射可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
組成物が30ゲージの針を通して注射可能である、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
組成物の粘度が500センチポアズ未満である、請求項13に記載の組成物。
【請求項20】
疎水性溶媒が安息香酸ベンジルであり、親水性溶媒がベンジルアルコールであり、生体内崩壊性ポリマーがポリラクチドであり、有益な薬剤がペプチド又はタンパク質である、請求項13に記載の組成物。
【請求項21】
親水性溶媒、疎水性溶媒、生体内崩壊性ポリマー、及び有益な薬剤が均質な溶液を形成している、請求項13に記載の組成物。
【請求項22】
親水性溶媒、疎水性溶媒、生体内崩壊性ポリマー、及び有益な薬剤がエマルションを形成している、請求項13に記載の組成物。
【請求項23】
疎水性溶媒と親水性溶媒を含む溶媒混合物と;
該溶媒混合物に溶解された生体内崩壊性ポリマーと;
該溶媒混合物に溶解された有益な薬剤と;
を含有する、生物体へ有益な薬剤を投与するための組成物であって、
組成物の粘度が2000センチポアズ未満であり、溶媒混合物の少なくとも90重量%が疎水性溶媒であり、疎水性溶媒が水に対して0.1重量%未満の溶解度を有し、5%未満の有益な薬剤がインビボでの投与24時間以内に放出される組成物。
【請求項24】
疎水性溶媒が安息香酸ベンジルであり、親水性溶媒がベンジルアルコールであり、生体内崩壊性ポリマーがポリラクチドであり、有益な薬剤がペプチド又はタンパク質である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
針を通して生物体に請求項1に記載の組成物を注射することを含む、有益な薬剤の投与方法。
【請求項26】
針が25ゲージの針である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
針が28ゲージの針である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
針が30ゲージの針である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
針を通して生物体に請求項13に記載の組成物を注射することを含む、有益な薬剤の投与方法。
【請求項30】
針が25ゲージの針である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
針が28ゲージの針である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
針が30ゲージの針である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
針を通して生物体に請求項23に記載の組成物を注射することを含む、有益な薬剤の投与方法。
【請求項34】
容器と;
疎水性溶媒と;
親水性溶媒と;
生体内崩壊性ポリマーと;
有益な薬剤と;
を含むキットであって、
前記疎水性溶媒と前記親水性溶媒の量が、前記ポリマーと前記有益な薬剤の全てを溶解するのに十分な量であるキット。
【請求項35】
単位用量の有益な薬剤を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
疎水性溶媒、親水性溶媒、及び生体内崩壊性ポリマーが滅菌されている、請求項34に記載のキット。
【請求項37】
シリンジをさらに具備している、請求項34に記載のキット。
【請求項38】
容器がセプタムを具備している、請求項34に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265286(P2010−265286A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−151869(P2010−151869)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【分割の表示】特願2002−567356(P2002−567356)の分割
【原出願日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】