説明

注射練習用模型

【課題】模擬血管とその外側に模擬人体組織層を配置した注射練習用模型において、模擬血管に液体を循環させながら内圧が与えられるようにすること。
【解決手段】頂部に凹溝8を刻設した支持台5、凹溝8に装入し先端部を液体貯留部21に臨ませた模擬血管9、液体貯留部21から模擬血管9に液体20を供給するポンプ10、模擬血管9の外側から支持台5に着装する模擬人体組織カバー11、支持台5の下部に設けた漏液回収部7とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬血管とその外側に模擬人体組織層を配置した注射練習用模型に関するもので、動脈や静脈へ穿刺する際の手技を練習する場合に使用される。
【背景技術】
【0002】
この種の模型としては、特許文献1において開示されたものが知られている。
この模型においては、血管を模擬した細管状部材を埋設した軟質の肉厚部材上に軟質の薄皮部材を設ける構成を採用していて、これを取り付け部によって人体の所要部位に取り付けて注射や採血の手技を練習するようにしている。
【0003】
この模型では、人体の皮下組織もしくは筋肉組織に見立てた肉厚部材内に模擬血管を単に埋設したものを人体や人体模型に装着できるようにしたものであるから、採血や静脈注射時に必要な「内圧の掛かった弾力のある血管」を再現することはできない。そのため、ゴムや合成樹脂からなるチューブの位置を探ることだけに終始した練習となる不都合がある。
また、この練習用模型では、模擬血液としての液体を圧力を付与して模擬血管内に送り込むことができないし、その液体に脈流を生じさせることもできないから、動脈からの穿刺や採血の手技は全く練習することができない。
【0004】
同じチューブに何度も注射の練習を行うと、チューブ自体に孔が開いてしまうことになる。穿刺をくり返すことによってチューブ内の液体が漏れて練習模型が濡れてしまう結果を招くし、新たに液体をチューブ内に注射しても直ちに液体が外側へ噴出してしまう不都合もある。
【特許文献1】実開平5-27776 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、模擬血管とその外側に模擬人体組織層を配置した注射練習用模型において、模擬血管に液体を循環させながらこれに内圧を与えるようにすることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決するための技術的手段は、(イ)頂部に凹溝を刻設した支持台、(ロ)凹溝に装入し先端部を液体貯留部に臨ませた模擬血管、(ハ)液体貯留部から模擬血管に液体を供給するポンプ、(ニ)模擬血管の外側から支持台に着装する模擬人体組織カバー、(ホ)支持台の下部に設けた漏液回収部とで構成する。
【0007】
この技術的手段においては、模擬血管は支持台の頂部に刻設した凹溝に装入した状態で支持されている。模擬血管には液体貯留部からポンプによって血液に相当する液体が圧力を付与されて供給されるが、その先端部は液体貯留部に臨ませられているから液体は循環することになる。
【0008】
模擬血管を支持している支持台には、外側から模擬人体組織カバーが着装させられているから、圧力が付与された液体が供給されている模擬血管をカバーの外側から探り、穿刺する位置を確認することができる。
模擬血管に刺した注射針を抜くと、模擬血管に孔が開いて液体が噴出するものの、漏液はその外側に着装された模擬人体組織カバーによって遮られ、支持台とカバーの間を通って支持台の下部に設けられている漏液回収部へ流下させて回収することができる。
【0009】
支持台の外側に着装されている模擬人体組織カバーを取り外すと、支持台及び模擬血管が露出させられるから、模擬血管の取り替えや支持台、漏液回収部及び模擬人体組織カバーの清掃を容易に行える。
【0010】
ポンプによって模擬血管に液体を単純に供給すると静脈注射や静脈採血の練習となり、ポンプによって液体を脈動させて供給すると動脈採血の練習が行える。ポンプの液体供給方式を選択することによって、静脈、動脈の双方について穿刺の練習をすることができる。液体を脈動させられるポンプとしては、ダイヤフラム式ポンプ、ピストン式ポンプ、プランジャ式ポンプなどを好適に使用することができる。
模擬血管に圧力調整バルブを取り付けておくと、人体の注射部位に対応して模擬血管内の圧力を自在に調整することができる。穿刺する部位に応じた血圧を再現することができるから、より実践に近い練習を行うことができる。このバルブとしては、例えば模擬血管の外側に把持部を配置させ、ネジなどを用いて把持部の間隔を調節できるようにしたものを使用することができるが、コックやローラー式の調整弁を使用してもよい。
【0011】
漏液回収部と液体貯留部との間に導水路を設けておくと、漏液回収部に到達した液体を自動的に液体貯留部へ戻すことができるから、液体の補充を頻繁に行う必要がなくなる利点がある。
なお、支持台に着装する模擬人体組織カバーは注射部位に対応して適宜その厚みや枚数を調整することができる。複数のカバーを着装させると、注射針を抜いた際に発生する漏液が注射部位へ滲出してくるのを完全に阻止することができる。
【0012】
模擬血管としては、シリコン、塩化ビニル、天然ゴムなどからなる軟らかいチューブを好適に使用することができる。その太さは、注射部位によって適宜設計することになる。例えば、手首の橈骨動脈の模擬血管では、外径4mm、肉厚0.5mm 程度のチューブを使用し、鼠径部動脈の模擬血管では、外径14mm、肉厚2mm程度のチュー ブを使用するのが適当である。その他、肘高中央の上腕動脈への採血も行われるが、それぞれの部位に対応させて設計することになる。同様に、静脈への穿刺を練習する場合には、想定注射部位に合わせて設計することになる。
模擬血管は、注射の練習をくり返して複数の孔が開くと、液体の漏出量が増大するから模擬血管としての機能を喪失してしまう。液体の圧力が低下して注射針挿入時に十分なバックフローが得られなくなるか否かを目安にしてチューブを交換することが望ましい。
【0013】
模擬人体組織カバーについても、注射部位によって適宜その材質や厚みを設計する。その素材は、弾性を備えていることが必要である。例えば軟質のウレタン、塩化ビニル、シリコンなどの樹脂やこれらの独立発泡体を好適に使用することができる。動脈採血では血管の拍動の感知が必要不可欠となるから穿刺位置に応じた弾性を選択する必要がある。必要に応じて表面の皮膚層を積層するようにしてもよい。皮膚、皮下組織、血管などへ針を刺す際の感覚を会得できるようにしておくことが重要である。
なお、支持台は血管を支持するためのものであり、注射部位によってその固さを設計することになる。手首などの橈骨上の動脈への穿刺を練習する場合には、硬質樹脂や木などで形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
模擬血管に液体を循環させながら内圧が与えられる結果、実践に近い穿刺感を感得する練習を行える利点がある。
また、液体を脈動させて供給する場合には、動脈からの採血の実践的な練習を行うことができる。
模擬人体組織の表面に液体が付着したり、練習模型の周りに液体を飛散させることもないからきれいな環境で練習することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施形態においては、手首の橈骨動脈への注射を練習する模型例を示している(図1〜3参照)。
義手1は掌側の手首に穴2が開けてあって、硬質ウレタン樹脂製の載置台3上に載置している。図2はこの義手1を外した状態を示している。
載置台の中央には支持台5が突出させてあり、その外側を側壁6で囲繞させてあって、両者の間を後述する漏液回収部7としている。
【0016】
支持台5の頂部には、長手方向に凹溝8が刻設してあって、その中に模擬血管としてのシリコン樹脂製のチューブ9を装入させている。このチューブ9は外径4mm、肉厚0.5mm
のものを使用している。 なお、このチューブ9は、支持台5の前後に取り付けた継手15、16に着脱容易に固定してあって、その取り替えを容易に行えるようにしている。
支持台5の上には、人体組織を模した肉厚約1mmの二枚の軟質ウレタン樹脂製のカバー11、12を重ねて着装させてあって、外側のカバー12の頂面13は、義手1の皮膚面と面一になるようにしている。
【0017】
次に、図5を参酌しながら模擬血液としての液体20の循環について説明する。
液体20は、載置台の底部に載置した液体貯留としてのタンク21に貯留されている。ピストン式ポンプ10を作動させることによって、液体20はチューブ17から吸引されて供給チューブ18へ脈動状態で吐出される。このチューブ18は継手15を介してチューブ9に連通しているから、液体は支持台5上の手首側の注射部位を通過し、継手16を介して排出チューブ19へ臨むことになる。
このチューブ19の外側には、圧力調整バルブが取り付けてあって、図示しない二つの部材がチューブを圧迫してチューブ18、9、19内の液体20の圧力を高めるようにしている。
【0018】
注射の練習を行ってチューブ9に孔が開くと液体20がその孔から漏出するが、カバー11を構成している軟質ウレタン樹脂はその弾力によって針孔を閉塞してしまうため、液体は漏液回収部7へ流下する。この漏液回収部は、支持台5の下方に設けた導水路としての受皿5からパイプ26へと連通していて、漏液はタンク21へ排出されて液体20と合流して循環するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】注射練習装置の全体斜視図
【図2】義手を外した注射練習装置の斜視図
【図3】カバーを 外した注射練習装置の斜視図
【図4】図2の中央縦断面図
【図5】液体の循環状態を説明するための概略図
【符号の説明】
【0020】
1義手、 2義手の穴、 3載置台、 5支持台、 6側壁、 7漏液回収部、 8チューブを装入する凹溝、 9、17、18、19、26チューブ、 10ポンプ、 11、12模擬人体組織カバー、 15、16チューブの継手、 20液体、 21タンク、 22圧力調整バルブ、 25受皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬血管とその外側に模擬人体組織層を配置した注射練習用模型において、頂部に凹溝を刻設した支持台、凹溝に装入し先端部を液体貯留部に臨ませた模擬血管、液体貯留部から模擬血管に液体を供給するポンプ、模擬血管の外側から支持台に着装する模擬人体組織カバー、支持台の下部に設けた漏液回収部とからなる注射練習用模型。
【請求項2】
ポンプが脈動する液体を模擬血管に供給するポンプである請求項1に記載の注射練習用模型。
【請求項3】
模擬血管に圧力調整バルブを取り付けた請求項1または2に記載の注射練習用模型。
【請求項4】
漏液回収部と液体貯留部との間に導水路を設けた請求項1、2又は3に記載の注射練習用模型。
【請求項5】
支持台に複数の模擬人体組織カバーを着装させた請求項1、2、3又は4に記載の注射練習用模型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−317570(P2006−317570A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138174(P2005−138174)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)
【Fターム(参考)】