説明

注水電池及び発電方法

【課題】 十分な発電能を有すると共に、自己放電反応による保存性能の低下が少ない新規な構成の注水電池、及びその発電方法を提供すること。また、保存時・使用時・リサイクル時・廃棄時に渡って環境負荷の少ない注水電池、及びその発電方法を提供すること。
【解決手段】 第1の電極18が配置されると共に酸性物質を含む酸性媒体と、酸性媒体に隣接もしくは近設された塩基性媒体であって第2の電極が配置されると共に塩基性物質を含む塩基性媒体と、第1の電極18で酸化反応を起こす第1の反応活物質を含有する第1の反応物質及び第2の電極20で還元反応を起こす第2の反応活物質を含有する第2の反応物質と、で構成される反応場(セル12及び14中)に、注水手段22により水又は水溶液を注水して、酸性物質、塩基性物質、第1の反応活物質及び第2の反応活物質による放電反応を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性に優れた注水電池及びその発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、物質が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。また、その化学エネルギーを使い切るまで電力を放電する一次電池、使い切った後に充電操作によって化学エネルギーを再び蓄えて再使用が可能な二次電池、更に、外部から化学エネルギーを有する物質を継続的に供給することで電気エネルギーを得る燃料電池に分類できる。現在、多種類の電池が開発されているが、各電池はそれぞれ、環境安全性、経済性、供給できる電気エネルギー量、携帯性や貯蔵・保存性、使用環境対応性、リサイクル性等の各項目について長所と短所が異なるので、使用目的に合わせて電池が選択され、実用に供されている。いずれの電池においても共通の重要な技術要素は、どのような化学物質の反応を利用するのか、その反応をどのようにして開始するのか、また、その化学物質をどのような形態で保持するのかという点にある。
【0003】
電池では、還元反応(相手に電子を与えるか、若しくは酸素を引き抜く)を引き起こす還元剤と、酸化反応(相手から電子を引き抜くか、若しくは酸素を与える)を引き起こす酸化剤と、の2種の化学物質を使用する。その化学反応を、相対する2つの電極で別々に引き起こすことによって、発生した電子のエネルギーを外部に取り出す(電子の発生に伴って両極で生成したイオンは電池内部で中和される)。それらの反応効率は、使用する化学物質の種類と反応様式、電極材質や活性度、また、電解質を含めた反応場の環境に依存する。更に、どのような物質を選択して電池を構成するかは、使用時のみならず、保存時や使用後の廃棄時も含めた電池システム全体の良否に関るポイントである。
【0004】
例えば、亜鉛‐マンガン系や水銀系の一次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、鉛蓄電池等の既存電池は、その活物質が金属でできている。これら金属性活物質は、発火性危険物のリチウム、環境有害物質の水銀、カドミウム、鉛や、資源枯渇性の希少物質であるニッケルやコバルト、リサイクルコストの高い亜鉛等である。このため、危険物や環境有害物質が漏洩する危険性、希少資源が枯渇する恐れ、また、リサイクル時の高コスト等、多くの問題を抱えている。
【0005】
さらに、これらの電池は液体の電解質を内部に保持していることが一因となり、外部負荷をかけていない保存状態においても、自己放電反応によって反応活物質が減少する。このため、貯蔵・保存性が十分でない。一方、保存性を高めた電池として海水電池が上市されている。これは、正極に塩化銀または塩化鉛、負極にマグネシウムを使用した一次電池であり、電解質溶液を含まない状態で保存され、海水や真水に浸漬することで放電が開始する。この海水電池は、海上救命灯具用電源、雷管点灯用電源、海洋観測機器用電源、海上使用機器起動用電源、小型玩具用電源、あるいは非常用電源等の用途がある(非特許文献1参照)。しかし、活物質が金属であるために、上記一次電池、二次電池と同様の問題を有しており、解決が望まれている。
【0006】
従って、保存性が高い電池技術が切望されている。これと同時に環境に与える影響の少ない電池技術も切望されている。
【非特許文献1】株式会社ユアサコーポレーション ホームページ: HYPERLINK "http://www.yuasa-jpn.co.jp/seihin/special/kaisui.html" http://www.yuasa−jpn.co.jp/seihin/special/kaisui.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明は上記従来の課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、十分な発電能を有すると共に、自己放電反応による保存性能の低下が少ない新規な構成の注水電池、及びその発電方法を提供することを目的とする。
また、本発明のいくつかの形態においては、従来の電池が抱える問題を解決した電池、例えば、保存時・使用時・リサイクル時・廃棄時に渡って環境負荷の少ない注水電池、及びその発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記の本発明により達成される。すなわち、本発明は、
第1の電極が配置されると共に酸性物質を含む酸性媒体と、
前記酸性媒体に隣接もしくは近設された塩基性媒体であって、第2の電極が配置されると共に塩基性物質を含む塩基性媒体と、
第1の電極で酸化反応を起こす第1の反応活物質を含有する第1の反応物質、及び、第2の電極で還元反応を起こす第2の反応活物質を含有する第2の反応物質と、
前記酸性媒体、前記塩基性媒体、第1の反応物質及び前記第2の反応物質で構成される反応場に、水又は水溶液を注水して、前記酸性物質、前記塩基性物質、前記第1の反応活物質及び前記第2の反応活物質による放電反応を開始させる注水手段と、
を有することを特徴とする注水電池である。
【0009】
本発明の注水電池においては、下記第1〜第16の態様が少なくとも1つ適用されていることが好ましい。
【0010】
(1)第1の態様は、前記第1及び第2の反応物質が、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のいずれか一方にあるいは両方に含有する、又は、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体に隣接あるいは近設されていることを特徴とする態様である。
【0011】
(2)第2の態様は、前記酸性媒体が酸性物質を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該酸性物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする態様である。
【0012】
(3)第3の態様は、前記塩基性媒体が塩基性物質を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該塩基性物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする態様である。
【0013】
(4)第4の態様は、前記酸性媒体中で酸化反応する前記第1の反応活物質を含有する第1の反応物質と、前記塩基性媒体中で還元反応する前記第2の反応活物質を含有する第2の反応物質とが、同一の物質であることを特徴とする態様である。
【0014】
(5)第5の態様は、前記第1及び第2の反応物質が、前記第1及び第2の反応活物質として過酸化水素を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該反応活物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする態様である。
【0015】
(6) 第6の様態は、前記第1及び第2の反応物質が、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化尿素、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする様態である。
【0016】
(7)第7の態様は、前記酸性媒体が、前記酸性物質としてベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、五酸化リン、ヘキサクロロ白金酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、スクエア酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸性物質を1以上含むことを特徴とする態様である。
【0017】
(8)第8の態様は、前記塩基性媒体が、前記塩基性物質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含むことを特徴とする態様である。
【0018】
(9) 第9の態様は、前記酸性媒体が酸性のイオン交換部材を含有し、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン交換部材を含有することを特徴とする態様である。
【0019】
(10)第10の態様は、前記イオン交換部材が、ポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂、ポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の高分子電解質膜、ポリビニルスチレン系のイオン交換膜、及び繊維状ポリスチレン系のイオン交換濾紙からなる群より選択されることを特徴とする態様である。
【0020】
(11) 第11の態様は、前記酸性媒体又は前記塩基性媒体に、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸又はその塩類、乾燥寒天、カルボキシメチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群より選択されるゲル化剤を含有することを特徴とする態様である。
【0021】
(12) 第12の態様は、前記第1の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする態様である。
【0022】
(13) 第13の態様は、前記第2の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする態様である。
【0023】
(14) 第14の態様は、前記第1の電極及び第2の電極が、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状であることを特徴とする態様である。
【0024】
(15) 第15の態様は、前記第1の電極及び前記第2の電極が、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法により、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれ配置されてなることを特徴とする態様である。
【0025】
(15)第16の態様は、前記電池の構成部材が、重金属(特に、中毒の恐れがある鉛、水銀、カドミウム、砒素、クロム、マンガン、ベリリウム、亜鉛等の重金属)を含まない物質で構成されることを特徴とする態様である。
【0026】
また、本発明は、第1の電極が配置されると共に酸性物質を含む酸性媒体と、
前記酸性媒体に隣接もしくは近設された塩基性媒体であって、第2の電極が配置されると共に塩基性物質を含む塩基性媒体と、
第1の電極で酸化反応を起こす第1の反応活物質を含有する第1の反応物質、及び、第2の電極で還元反応を起こす第2の反応活物質を含有する第2の反応物質と、
で構成される反応場に、水又は水溶液を注水して、前記酸性物質、前記塩基性物質、前記第1の反応活物質及び前記第2の反応活物質による放電反応を開始させることを特徴とする発電方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、十分な発電能を有すると共に、自己放電反応による保存性能の低下が少ない新規な構成の注水電池、及びその発電方法を提供することができる。また、保存時・使用時・リサイクル時・廃棄時に渡って環境負荷の少ない注水電池、及びその発電方法も提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の注水電池及びその発電方法について詳細に説明する。
【0029】
<注水電池>
本発明の注水電池は、第1の電極が配置された酸性媒体と、第2の電極が配置された塩基性媒体と、反応活物質(電気エネルギーを取り出すための物質)を含む反応物質とを有すると共に、酸性媒体及び塩基性媒体が互いに隣接もしくは近設してなり、酸性媒体及び塩基性媒体にそれぞれ酸性物質及び塩基性物質が含有されている。そして、これら各部材により構成される反応場に、水又は水溶液を注水し放電反応を生じさせる注水手段を有する。
【0030】
また、本発明の注水電池は、上述の各部材を備える構成を有するバイポーラー型の一次電池である。なお、本発明において、バイポーラー型の電池とは、酸性媒体と塩基性媒体が隣接もしくは近設し、これらの中に電気エネルギーを取り出すための物質(反応活物質)を含有する反応物質と電極が含まれる構成を有するものである。
【0031】
即ち、本発明の注水電池では、反応場を構成する各部材は、水又は水溶液が注水されない保存状態(未注水状態)では未反応状態(例えば、固体状或いはゲル状)であり、水又は水溶液が注水されると、その水分によって、反応場に酸性物質、塩基性物質、及び反応活物質が反応状態(例えば、液状)になって供給され、放電反応が開始される。言い換えれば、本発明の注水電池は、保存状態において液体電解質を反応場(内部)に保持せず、活物質(酸性物質、塩基性物質、及び反応活物質)を未反応状態で保持している。このため、注水されない保存状態では自己放電反応が起き難く、保存性能が低下しない。また、本発明の注水電池は、後述するように、十分な発電能も有する新規な構成でもある。
【0032】
さらに、本発明の注水電池は、上記各部材を重金属(特に、中毒の恐れがある鉛、水銀、カドミウム、砒素、クロム、マンガン、ベリリウム、亜鉛等の重金属)が含まれない物質で構成することもでき、保存時・使用時・リサイクル時・廃棄時に渡って環境負荷の少なくすることも可能である。
【0033】
ここで、注水状態の反応場では、上記反応活物質が下記のような作用により正極側及び負極側での電極反応を生じさせ、効率のよい電気エネルギーの発生を可能とする。すなわち、かかる反応活物質が、酸性物質または塩基性物質と共存しないと、電池としての十分な起電力が得られないことになる。
【0034】
例えば、上記反応活物質が、酸性物質及び塩基性物質のそれぞれと共存されてなる場合、酸性物質中の第1の反応活物質(以下、第1の物質と称す場合がある)は、その酸性物質の水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う反応(酸化反応)を生じさせる。一方、塩基性物質中の第2の反応活物質(以下、第2の物質と称す場合がある)は、その塩基性物質の水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する反応(還元反応)を生じさせる。即ち、上記各部材による放電反応は酸化還元反応を意味する。
【0035】
特に、本発明における注水電池は注水状態において、まず、(1)上記の酸性物質中またはこれに接触する電極近傍で第1の物質及び水素イオンが共存し、共に反応系物質として第1の電極から電子を奪う(酸化する)反応を引き起こす。また、(2)上記塩基性物質中或いはこれに接触する電極近傍で第2の物質及び水酸化物イオンが共存し、共に反応系物質として電極に電子を与える(還元する)反応を引き起こす。このような(1)及び(2)の反応が同時に進行して、外部回路を駆動する電気エネルギーを発生する。
【0036】
なお、本発明の電池は、バイポーラー型反応場において、酸性物質を構成する水素イオンは、第1の物質による第1の電極から電子を奪う反応に加わり、また、その濃度増加は反応を促進する(化学平衡を生成系方向にずらす)作用を有する。一方、塩基性物質を構成する水酸化物イオンは、第2の物質による第2の電極へと電子を供与する反応に加わり、また、その濃度増加は反応を促進する作用を有する。このため、水素イオン濃度或いは水酸化物イオン濃度を高くする、即ち、酸性物質中ではpHを低くし、塩基性物質中ではpHを高くすることで反応を増強させることが可能となり、出力を高めることが可能な構成を有している点でも有効である。
【0037】
以下、本発明の注水電池を構成する各部材について、詳細に説明する。
【0038】
(酸性媒体及び塩基性媒体)
酸性媒体は、酸性物質を含有し、保存状態では酸性物質が未反応状態(例えば、固体状或いはゲル状)であり、注入状態では酸性物質が反応状態(例えば、液状(溶解含む)となる形態のものである。保存状態において自己放電反応を生じさせない点から、酸性媒体は酸性物質を含有する固体であって、注水による溶解反応によって当該酸性物質が反応場に供給され放電反応に寄与する形態をとることがよい。即ち、酸性媒体は、注水により酸性物質を生成或いは放出するものがよい。
【0039】
同様に、塩基性媒体も、塩基性物質を含有し、保存状態では塩基性物質が未反応状態(例えば、固体状或いはゲル状)であり、注入状態では酸性物質が反応状態(例えば、液状(溶解含む))となる形態のものである。保存状態において自己放電反応を生じさせない点から、塩基性媒体は塩基性物質を含有する固体であって、注水による溶解反応によって当該塩基性物質が反応場に供給され放電反応に寄与する形態をとることがよい。即ち、塩基性媒体は、注水により塩基性物質を生成或いは放出するものがよい。
【0040】
本発明において、酸性媒体は注水によって、pH7未満(好ましくは、pHが3以下)の水素イオン(酸性物質)が存在する酸性反応場を形成し得ることが好ましい。また、塩基性媒体は注水によってpH7を超える(好ましくは、pHが11以上)水酸化物イオン(塩基性物質)が存在する塩基性反応場を形成し得ることが好ましい。これらの酸性媒体及び塩基性媒体は、有機化合物、無機化合物の種類に関らず用いることができる。
【0041】
酸性媒体と塩基性媒体との好ましい組み合わせは、例えば、五酸化リン、シュウ酸、スクエア酸、クエン酸等と、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニウム化合物等との例を挙げることができる。また、スルホン酸基やリン酸基を有する酸性のイオン交換部材(イオン交換樹脂を用いた膜、濾紙などの形態を含む)と、4級アンモニウム基を有する塩基性のイオン交換部材との組み合わせを挙げることができる。また、硫酸処理した酸化ジルコニアや貴金属含有酸化ジルコニア等の固体超強酸と、酸化バリウム等の固体超強塩基との組み合わせを挙げることができる。
【0042】
より具体的には、酸性媒体が、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、五酸化リン、ヘキサクロロ白金酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、スクエア酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸を1以上含有することが好ましく、中でも、強酸である、五酸化リンを含むことがより好ましい。
【0043】
また、塩基性媒体が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び、水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含有するものを用いることができ、中でも、強塩基である、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを含むことがより好ましい。
【0044】
さらに、上記のような酸性物質を含有する酸性媒体及び、塩基性物質を含有する塩基性媒体に対して、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸又はその塩類、乾燥寒天、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のゲル化剤を添加してもよい。
【0045】
なお、上記の酸性媒体や塩基性媒体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、ゲル化剤の使用方法も同様である。
【0046】
また、前記の酸性のイオン交換部材及び塩基性のイオン交換部材としては、イオン交換樹脂を用いた、イオン交換膜、固体高分子電解質膜、濾紙などの形態を含む。好適なものとしては、スルホン酸基やリン酸基などの強酸性基を有する強酸性イオン交換樹脂や、4級アンモニウム基などの強塩基性基を有する強塩基性イオン交換樹脂を用いた各イオン交換部材である。より具体的には、例えば、製品名ダウエックス(Dow社製)や、製品名ダイヤイオン(三菱化学社製)、製品名アンバーライト(Rohm and Hass社製)に代表されるポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂や、製品名ナフィオン(DuPont社製)、製品名フレミオン(旭ガラス社製)、製品名アシプレックス(旭化成工業社製)に代表されるポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の固体高分子電解質膜、製品名ネオセプタ(トクヤマ社製)、製品名ネオセプタBP−1(トクヤマ社製)に代表されるポリビニルスチレン系のイオン交換膜、ポリスチレン系の繊維状イオネックスイオン交換体で形成されたイオン交換濾紙製品名RX−1(東レ社製)等が挙げられる。
【0047】
更に、固体超強酸として好適なものとしては、硫酸処理した酸化ジルコニアや貴金属含有酸化ジルコニア等が挙げられる。その他、固体酸として、カオリナイトやモンモリナイト等の粘度鉱物、ゼオライト、複合酸化物、水和酸化物、また酸性物質を添着した活性炭を用いることもできる。
固体超強塩基として好適なものとしては、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム等が挙げられる。その他、固体塩基として、酸化マグネシウム等の金属酸化物及びそれらを含む複合酸化物、水酸化カルシウムのように水への溶解度の低い水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属イオン交換ゼオライト、また塩基性物質を添着した活性炭を用いることもできる。
【0048】
本発明の注水電池において、酸性媒体及び塩基性媒体は、互いに隣接もしくは近設することを必須とするが、これは、酸性媒体中で水素イオン(酸性物質)を放出することにより生成した対陰イオンと、塩基性媒体中で水酸化物イオン(塩基性物質)を放出したことにより生成した対陽イオンと、により塩を形成させて電荷のバランスをとることを可能とするためである。そのため、例えば、上述のように、両媒体が注水によって液体の酸性物質と塩基性物質を供給する場合、生成した陽イオン及び/又は陰イオンを透過可能な特性を有している隔膜、あるいは、生成した陽イオン及び/又は陰イオンが移動可能な塩橋を用いれば、酸性媒体と塩基性媒体との間が分離される態様であってもかまわない。また、それぞれの全体が隣接している必要はなく、その一部が隣接していればよい。
【0049】
(反応活物質を含む反応物質)
反応物質は、反応活物質を含み、保存状態では反応活物質が未反応状態(例えば、固体状或いはゲル状)であり、注入状態では反応活物質が反応状態(例えば、液状(溶解含む)となる形態のものである。保存状態において自己放電反応を生じさせない点から、酸性媒体は反応活物質を含有する固体であって、注水による溶解反応によって当該反応活物質が反応場に供給され放電反応に寄与する形態をとることがよい。
【0050】
また、反応物質は、反応活物質そのものであってもよいし、注水により反応活物質を生成す或いは放出るもの(所謂、反応活物質の前駆体)でもよい。
【0051】
反応物質は、酸性媒体及び塩基性媒体のいずれか一方にあるいは両方に含有してもよいし、酸性媒体及び塩基性媒体に隣接あるいは近設されてもよい。このように、反応物質は、注水により反応活物質が放電反応に寄与すればよいので、例えば、酸性媒体及び塩基性媒体中に含まれる形態でもよいし、固体状の酸性媒体及び塩基性媒体と混合された形態でもよい。
【0052】
一方、反応活物質は、酸性物質中で作用させる場合は、当該酸性物質を構成する水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生成させる物質(酸化剤)であれば、如何なるものをも用いることができる。一方、塩基性物質中で作用させる場合は、当該塩基性物質を構成する水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する還元反応を生成させる物質(第2の反応活物質:還元剤)であれば、如何なるものをも用いることができる。
ここでは、好ましい態様として、酸性物質中で作用する第1の反応活物質としての第1の物質、及び、塩基性物質中で作用する第2の反応活物質としての第2の物質を例に、以下詳細に説明する。
【0053】
第1の物質としては、水素イオン濃度が高い場合に反応が促進される物質であることが好ましい。具体的には、過酸化水素、酸素、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等の次亜ハロゲン酸等をもちいることができる。なお、これらの物質は固体状或いはゲル状の反応物質として保存され、水又は水溶液の注入で開始される溶解反応、あるいは化学反応によって、第1の物質を反応場に供給(放電反応に寄与)するようにしてもよい。
【0054】
また、第2の物質としては、水酸化物イオン濃度が高い場合に反応が促進される物質であることが好ましい。具体的には、過酸化水素、水素、ヒドラジン等を用いることができる。なお、これらの物質は固体の反応物質として保存され、水又は水溶液の注入で開始される溶解反応、あるいは化学反応によって、第2の物質を反応場に供給(放電反応に寄与)するようにしてもよい。
【0055】
上記の中でも、第1の物質及び第2の物質が、同一成分からなることが好ましい。このような物質は、酸性物質中で、水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生成させ、塩基性物質中では、水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する還元反応を生成させる性質を有する。この場合には、電池の構成が容易になり、従来の電池で大きな課題であった正極側と負極側の化学物質の分離膜の選択の自由度が拡がる。酸性物質と塩基性物質が混合されない状態に保てる場合には必ずしも隔膜を必要としない。また、イオンを透過することができる隔膜を使用してもよい。
【0056】
酸化剤及び還元剤のどちらにも使用できる物質としては、特に過酸化水素が好ましい。この理由については後で詳細に説明する。また、第1の物質及び第2の物質が、過酸化水素の場合はそれぞれ、水素イオン、水酸化物イオンに対してそれぞれ、mol比で2(水素イオン、水酸化物イオン):1(過酸化水素)になるように含有されるのが最も好ましい。なぜなら、後述する発電反応から、上記比率で含有された場合が、過酸化水素が過不足無く反応するからである。
【0057】
ここで、注水により反応活物質として過酸化水素を生成する反応物質としては、種々挙げられるが、保存状態の安定性の観点から、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化尿素、及びこれらの混合物からなる群より選択されることが好適である。
【0058】
本発明の注水電池によれば、電極での反応に水素イオンH+と水酸化物イオンOH-が関与する場合、酸性物質と共存する第1の物質が水素イオンH+を伴って第1の電極から電子を奪う酸化反応を生じさせ、塩基性物質と共存する第2の物質が水酸化物イオンOH-を伴って電極へと電子を供与する還元反応を生じさせる。このとき、酸性物質中での酸化反応による起電力は、塩基性物質中で酸化反応させるよりも、原理的に大きくなる。これは、水素イオンH+が反応系の物質であるため、水素イオン濃度の高い反応場では化学平衡が生成系に傾き、結果として酸化電位を高くするためである。また、塩基性物質中での還元反応による起電力は、酸性物質中で還元反応させるよりも、原理的に大きくなる。これは、水酸化物イオンOH-が反応系の物質であるため、水酸化物イオン濃度の高い反応場では化学平衡が生成系に傾き、結果として酸化電位を低くするためである。
このため、本発明のバイポーラー型電池の構成では、電極における酸化・還元反応により生ずる起電力が、電池から得られる電圧の主体的な源であり、電池内部の中和反応の発生箇所が変動する性質を有する領域での起電力が主体的となる別のバイポーラー型の電池と比べて、安定に電力を発生させることができる。
【0059】
(第1の電極及び第2の電極)
本発明において、第1の電極は正極であり、第2の電極は負極として機能する。これら第1の電極及び第2の電極の材質としては、従来の電池における電極と同様のものを用いることができる。より具体的には、第1の電極(正極)として、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金等が挙げられる。また、表面を不動態化したチタン、ステンレス、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。さらに、グラファイトやカーボンナノチューブ等の炭素構造体、アモルファスカーボン、グラッシーカーボン等が挙げられる。ただし、耐久性の点から、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、及び炭素構造体がより好ましい。
【0060】
第2の電極(負極)としては、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金等が挙げられる。また、表面を不動態化したチタン、ステンレス、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。さらに、グラファイトやカーボンナノチューブ等の炭素構造体、アモルファスカーボン、グラッシーカーボン等が挙げられる。ただし、耐久性の点から、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、及び炭素構造体がより好ましい。
【0061】
本発明において、第1の電極及び第2の電極は、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状であることが好ましい。
【0062】
網目状の電極として、具体的には、金属製のメッシュやパンチングメタル板、発泡金属シートに、上記の電極用材料を、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法によって付着させてもよいし、また、セルロースや合成高分子製の紙類に、同様の方法或いはその組合せを用いて上記の電極用材質を付着させてもよい。
【0063】
(水又は水溶液)
水又は水溶液は、水分を含むものであれば特に限定されない。水溶液としては、例えば、塩化ナトリウム水溶液、アルコール水溶液などが挙げられる。また、水又は水溶液は、特に精製や処理を施されたものである必要はなく、水道水や海水なども使用することができる。これらは、入手が容易なため好適に使用することができる。
【0064】
(注水手段)
注水手段としては、反応場に水又は水溶液を注水できれば特に限定はなく、各公知の手段で構成することができる。具体的に、例えば、ポンプにより反応場に水又は水溶液を注水する構成としてもよいし、水又は水溶液が充填されたガラスキャピラリーを潰すことで反応場に水又は水溶液を注水する構成としてもよいし、反応場に吸湿剤を混ぜ、空気を流入させて当該吸湿剤により空気中の水分を吸収させて、反応場に水又は水溶液を注水する構成としてもよい。
【0065】
(本発明の電池の好ましい実施形態)
以下、本発明の注水電池の好ましい実施形態の一例を挙げて説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。図2は、本発明の注水電池の好ましい実施形態の一例を示す概略構成図である。
【0066】
図2に示すように、本実施形態に係わる注水電池は、筐体10に、酸性物質を含む酸性媒体、及び第1の反応活物質を含む第1の反応物質が固体状で充填された第1のセル12と、塩基性物質を含む塩基性媒体、及び第2の反応活物質を含む第2の反応物質が固体状で充填された第2のセル14と、を有している。この第1のセル12と第2のセル14とは、イオンを透過することができる隔膜16で隔離されている。
【0067】
また、第1のセル12には第1の電極18が配置されており、第2のセル14には第2の電極20が配置されている。このように第1のセル12及び第2のセル14中に、反応場を構成する。
【0068】
そして、第1のセル12及び第2のセル14には、水又は水溶液が第1のセル12及び第2のセル14内部に注水されるように注水手段22がそれぞれ連結されている。
【0069】
本実施形態に係わる注水電池では、注水手段22により、第1のセル12及び第2のセル14に、水又は水溶液を注水すると、例えば、溶解反応により、酸性物質、塩基性物質、第1の反応活物質、及び第2の反応活物質が、水又は水溶液に溶解し、反応状態となり、それそれの電極で酸化還元反応が生じ、放電反応が開始される。
【0070】
<発電方法>
【0071】
本発明の注水電池を用い、既述の第1の反応活物質及び第2の反応活物質を使用した場合、本発明の発電方法における発電機構は、以下に説明する通りになると考えられる。
すなわち、酸性媒体に含有される第1の反応活物質が水素イオンを伴って第1の電極から電子を奪う反応を生じさせ、かつ、塩基性媒体に含有される第2の反応活物質が水酸化物イオンを伴って第2の電極へと電子を供与する反応を生じさせて発電が起こると考えられる。
この反応により、第1の反応活物質及び第2の反応活物質が内部エネルギーの低い複数の物質に化学変化することによって、その分のエネルギーを外部に電気エネルギーとして放出して電力を得ることができる。
【0072】
特に、注水によって酸性媒体が酸性物質を含む水溶液、塩基性媒体が塩基性物質を含む水溶液を供給し、第1の反応活物質及び第2の反応活物質が、いずれも過酸化水素である場合、過酸化水素は、分解反応によって水と酸素を生成する。この化学反応を、本発明の注水電池のように、別々の電極で酸化反応と還元反応に分離して行うと、起電力が生じる。即ち、過酸化水素は、酸性反応場では酸化作用を有し、一方で、塩基性反応場では還元作用を有するため、起電力が発生する。このような、酸−塩基バイポーラー反応場を利用することで、本発明の発電方法が実現される。
【0073】
より具体的に、本発明の発電方法について、図1を参照して説明する。図1に示されるように、正極(第1の電極)が配置されている酸性反応場(酸性媒体)では、過酸化水素が酸化剤として働き、下記(式1)に示されるように、過酸化水素の酸素原子が電極から電子を受け取り、水を生成する。また、負極(第2の電極)が配置されている塩基性反応場(塩基性媒体)では、過酸化水素が還元剤として働き、下記(式2)に示されるように、過酸化水素の酸素原子が電極に電子を供与して、酸素と水を生成する。これら反応により、起電力が発生し、発電が行われる。
【0074】
(酸性媒体中(酸性反応場))
22(aq)+2H++2e- → 2H2O ・・・(式1)
(塩基性媒体中(塩基性反応場))
22(aq)+2OH- → HO2-(aq)+OH-+H2O ・・・(式2)
HO2-(aq)+OH-+H2O → O2+2H2O+2e- ・・・(式3)
また上記式中、「(aq)」とは水和状態を示す(下記(式4)も同様)。
【0075】
なお、反応場内においては、酸性媒体中に存在する水素イオンの対アニオン(図1中では、硫酸イオンSO42-に相当する)と、塩基性媒体中に存在する水酸化物イオンの対カチオン(図1中では、ナトリウムイオンNa+)と、が両媒体の界面で塩を形成することで、電荷のバランスを取ることができる。このとき、形成される塩は、水溶液中では通常イオン化する方が安定であるため、塩の形成による起電力への効果は、電極における酸化或いは還元反応における起電力と比べるとはるかに小さい。この結果、電極反応が主体的となる本発明のバイポーラー型電池は、酸性・塩基性媒体界面における中和反応を主体とした別のバイポーラー型電池と比べ、安定した発電を行える性質を有することとなる。
【0076】
電荷のバランスが、酸性・塩基性媒体界面での対アニオンおよび対カチオンの塩形成によって取られる場合、上記(式1)と(式2)と(式3)の半反応式をまとめたイオン反応式は下記(式4)となる。
22(aq)+H++OH- → 2H2O+1/2O2 ・・・(式4)
熱力学計算によると、この反応のエンタルピー変化(ΔH)、エントロピー変化(ΔS)、ギブスの自由エネルギー変化(ΔG、温度T:単位はケルビン(K))は、それぞれ、ΔH=−150.6kJ/mol、ΔS=108.5J/Kmol、ΔG=ΔH−TΔS= −183.1kJ/molとなる。また、理論起電力(nは反応に関る電子数、Fはファラデー定数)と理論最大効率(η)は、それぞれ、E=−ΔG/nF=1.90V、η=ΔG/ΔH×100=122%と計算される。 この反応の理論的特徴は、過酸化水素分解反応でエントロピーが増加してΔSの符号が正になることである。そのため、ΔGの絶対値がΔHより大きくなり、理論最大効率が100%を超える。
【0077】
これらのことから、本発明の発電方法において、第1の物質及び第2の物質に過酸化水素を用いた場合の理論的特徴を以下に挙げる。
従来より知られている他の燃料電池では、原理的に、エントロピー変化量TΔSを発電に利用できず熱として放出する。一方、本機構では、外界から熱を吸収して得たエントロピーの増加分を発電に利用することができる。そして、反応温度Tが高い場合の方が、ΔGの絶対値が大きくなり起電力が高くなる。
【0078】
実用電池では、イオン反応式の理論起電力だけで出力電圧が決まるのではなく、過電圧等によって電圧が低下し同時に熱を発生する。例えば、単位電池をスタックして集積化する場合、或いは、電池を製品内部に組み込む場合に、この熱が大きな問題になる。しかし、上述のように、本発明の発電方法によれば、理論的にはその熱を発電に再利用することができ、全体的な熱発生が少なくなる可能性がある。
【0079】
上記においては、第1の反応活物質及び第2の反応活物質として過酸化水素を用いた発電方法について述べたが、両物質に他の物質(化合物)を用いた場合にも、電極側で酸化・還元反応を生じさせる点では実質的に同じである。
そのため、本発明の注水電池及び本発明の発電方法によれば、その発電機構により、安定した発電が可能となる。
【0080】
以上、本発明の注水電池について説明したが、本発明の構成は、既述のような構成に限定されるものではない。例えば、上記構成の電池と、従来の水素燃料やメタノール燃料による電池、あるいは既存の一次電池や二次電池を組み合せて複合電池として使用することも可能である。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の効果を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
図2に示される注水電池を、下記材料を使用して作製した。注水手段22については実験のため、手動で注水することとし省略して作製した。
すなわち、酸性物質を含む酸性媒体(注水により酸性物質として水素イオンを生成するもの)として2.62gのクエン酸一水和物及び、第1の反応活物質を含む第1の反応物質(注水により第1の反応活物質として過酸化水素を生成するもの)として0.98gの過炭酸ナトリウム(Na2CO3・1.5H22)を混合した固体粉末を第1のセル12に入れた。また、塩基性物質を含む塩基性媒体(注水により酸性物質として水酸化物イオンを生成するもの)として1.32gの炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び、第2の反応活物質を含む第2の反応物質(注水により第2の反応活物質として過酸化水素を生成するもの)として0.98gの過炭酸ナトリウム(Na2CO3・1.5H22)を混合した固体粉末を第2のセル14に入れた。第1の電極18及び第2の電極20としては、1.0cm2(表面及び裏面:0.5×1.0cm)の白金板を使用し、また、隔膜16として透析用セルロース膜を使用した。
【0083】
このようにして作製した注水電池について、下記条件にて発電実験を行った。すなわち、この注水電池を1KΩの外部抵抗に接続し、そのとき流れる電流及び印加される電圧をデジタルマルチメーター(KEITHLEY製2000)を用いて測定した。
【0084】
上記の実験条件の電池を用いて得られた電圧の経過時間依存性を図3に示す。図中、実験開始時間(経過時間=0秒)の時点で電池は注水されておらず、活物質は固体状態を保ち、電池の出力電圧は0mVのままである。経過時間=220秒の時点で、電池E穴及びF穴から、それぞれ6mlの純水を注入した。この際、クエン酸一水和物と炭酸ナトリウムの濃度は0.0125モル/l、また、反応物質の過炭酸ナトリウムの濃度は0.00625モル/lである。注水に伴って、電圧が上昇し、経過時間=500秒の時点で、出力電圧=350mVが得られた。さらに時間が経過すると、出力電圧=360mVの電圧を維持した。一時間以上の放電を確認した時点で放電実験を止めた。かかる結果より、本実施例の注水電池は、十分に実用可能であることが確認できた。
【0085】
(実施例2)
上記の実施例1と同じ注水電池を用いて、注水状態において測定した電圧・電流特性を図4に示す。開放電圧=400mV、無負荷時の最大電流=6mA/cm2であった。本実験の注水電池における最大出力密度は、600μW/cm2(電流密度=3mA/cm2、出力電圧=200mV)であった。
【0086】
(実施例3)
上記の実施例2と同じ電池を用いて、注水しない状態において、電圧・電流特性を測定した。電圧=0mV、電流=0mAであった。
【0087】
(実施例4)
実施例1と同じ構成の注水電池を作製し、注水しない状態で保管した(デシケーター中で1ヶ月間)。保管後、実施例1と同様な操作により注水したところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0088】
以上、実施例の注水電池では、図3及び図4に示すように、注水状態では良好な電圧及び電流が得られている。一方で、実施例3のように注水しない状態では電圧及び電流の出力はゼロである。従って、本発明の新規な構成の電池、及び注水による発電方法により、保存時の自己放電反応が生じず保存性能の低下が少なく、発電時には十分な電気エネルギーを供給できることが判明した。また、作製した電池は、重金属(中毒の恐れがある鉛、水銀、カドミウム、砒素、クロム、マンガン、ベリリウム、亜鉛等の重金属)を含まない物質で構成しているため、保存時・使用時・リサイクル時・廃棄時に渡って環境負荷の少ないことも判明した。特に、反応活物質として金属でなく過酸化水素を用いるため、そのライフサイクル全体において環境負荷の少ないことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の注水電池における発電方法を示す説明図である。
【図2】本発明の注水電池の好ましい実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図3】実施例で作製した注水電池における出力電圧の経過時間依存性の図である。
【図4】実施例で作製した注水電池における注水状態の電流−電圧特性の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
筐体 10
第1のセル 12
第2のセル 14
隔膜 16
第1の電極 18
第2の電極 20
注水手段 22

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極が配置されると共に酸性物質を含む酸性媒体と、
前記酸性媒体に隣接もしくは近設された塩基性媒体であって、第2の電極が配置されると共に塩基性物質を含む塩基性媒体と、
第1の電極で酸化反応を起こす第1の反応活物質を含有する第1の反応物質、及び、第2の電極で還元反応を起こす第2の反応活物質を含有する第2の反応物質と、
前記酸性媒体、前記塩基性媒体、第1の反応物質及び前記第2の反応物質で構成される反応場に、水又は水溶液を注水して、前記酸性物質、前記塩基性物質、前記第1の反応活物質及び前記第2の反応活物質による放電反応を開始させる注水手段と、
を有することを特徴とする注水電池。
【請求項2】
前記第1及び第2の反応物質が、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のいずれか一方にあるいは両方に含有する、又は、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体に隣接あるいは近設されていることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項3】
前記酸性媒体が前記酸性物質を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該酸性物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする請求項2に記載の注水電池。
【請求項4】
前記塩基性媒体が前記塩基性物質を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該塩基性物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする請求項2に記載の注水電池。
【請求項5】
前記酸性媒体中で酸化反応する前記第1の反応活物質を含有する第1の反応物質と、前記塩基性媒体中で還元反応する前記第2の反応活物質を含有する第2の反応物質とが、同一の物質であることを特徴とする請求項1記載の注水電池。
【請求項6】
前記第1及び第2の反応物質が、前記第1及び第2の反応活物質として過酸化水素を含有する固体であって、水又は水溶液の注水による溶解反応によって当該反応活物質が前記放電反応に寄与されることを特徴とする請求項5に記載の注水電池。
【請求項7】
前記第1及び第2の反応物質が、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化尿素、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項6に記載の注水電池。
【請求項8】
前記酸性媒体が、前記酸性物質としてベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、五酸化リン、ヘキサクロロ白金酸、クエン酸、蓚酸、サリチル酸、酒石酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、スクエア酸、及びピクリン酸からなる群より選択される酸性物質を1以上含むことを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項9】
前記塩基性媒体が、前記塩基性物質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムを含む群から選択される塩基を1以上含む、又は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、及びアルミン酸カリウムを含む群から選択されるアルカリ金属塩を1以上含むことを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項10】
前記酸性媒体が酸性のイオン交換部材を含有し、かつ、前記塩基性媒体が塩基性のイオン交換部材を含有することを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項11】
前記イオン交換部材が、ポリビニルスチレン系のイオン交換樹脂、ポリフルオロヒドロカーボンポリマー系の高分子電解質膜、ポリビニルスチレン系のイオン交換膜、及び繊維状ポリスチレン系のイオン交換濾紙からなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の注水電池。
【請求項12】
前記酸性媒体又は前記塩基性媒体に、無水二酸化ケイ素、架橋ポリアクリル酸又はその塩類、乾燥寒天、カルボキシメチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群より選択されるゲル化剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項13】
前記第1の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項14】
前記第2の電極が、白金、白金黒、酸化白金被覆白金、銀、金、表面を不動態化したチタン、表面を不動態化したステンレス、表面を不動態化したニッケル、表面を不動態化したアルミニウム、炭素構造体、アモルファスカーボン、及びグラッシーカーボンからなる群より選択される1以上の材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項15】
前記第1の電極及び第2の電極が、板状、薄膜状、網目状、又は繊維状であることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項16】
前記第1の電極及び前記第2の電極が、無電解メッキ法、蒸着法、又はスパッタ法により、前記酸性媒体及び前記塩基性媒体のそれぞれ配置されてなることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項17】
前記注水電池の構成部材が、重金属を含まない物質で構成されることを特徴とする請求項1に記載の注水電池。
【請求項18】
第1の電極が配置されると共に酸性物質を含む酸性媒体と、
前記酸性媒体に隣接もしくは近設された塩基性媒体であって、第2の電極が配置されると共に塩基性物質を含む塩基性媒体と、
第1の電極で酸化反応を起こす第1の反応活物質を含有する第1の反応物質、及び、第2の電極で還元反応を起こす第2の反応活物質を含有する第2の反応物質と、
で構成される反応場に、水又は水溶液を注水して、前記酸性物質、前記塩基性物質、前記第1の反応活物質及び前記第2の反応活物質による放電反応を開始させることを特徴とする発電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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