説明

洋風便器の床固定構造

【課題】便器を確実に床面に固定することができる便器の床固定構造を提供する。
【解決手段】台座部2の前部は、固定用部材16によって床面F上に固定されている。固定用部材16は、床面F上に取り付けられた床側メンバ18と、台座部2に取り付けられており、該床側メンバ18に対し上方から重なり合う便器側メンバ20と、重なり合った該床側メンバ18と便器側メンバ20とを結合する結合手段としてのマグネット(永久磁石)22とを備えている。マグネット22は、便器側メンバ20に保持されている。床側メンバ18は、マグネット22がその磁力によって張り付き可能な鉄等の磁性材料により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器を床面に固定した構造に係り、特に洋風便器の前部を床面に固定する場合に好適な構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋風便器を床面に固定するにはビス留めが簡便且つ強固であり、好適である。ただし、この場合、ビスが露見すると見栄えが悪いので、トイレ使用者から視認され易い洋風便器前部についてはビス以外の固定手段が望まれている。
【0003】
実開平5−10587号公報には、床面にビス留めしたハネ上げ片を洋風便器台座部内壁面に設けたスリットに係合させて洋風便器前部を床面に固定する構造が記載されている。
【0004】
実開平7−20377号公報には、床面にゴム製固定具をビス留めしておき、このゴム製固定具を洋風便器台座部の内面の水平突片に係合させて洋風便器前部を床面に固定した構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−10587号公報
【特許文献2】実開平7−20377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のハネ上げ片及びゴム製固定具は、それぞれ洋風便器台座部のスリットや突片に正しく係合するならば、洋風便器前部を固定することができる。しかしながら、洋風便器は陶器(焼き物)製であるため、寸法精度のバラツキが大きい。(因みに、JIS A5207では、洋風便器の寸法誤差を±5%以下と規定している。)この寸法のバラツキにより、ハネ上げ片やゴム製固定具の係止が甘くなり、洋風便器前部の固定が緩くなるおそれがある。
【0007】
本発明は、便器を確実に床面に固定することができる便器の床固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の便器の床固定構造は、台座部を有する便器が床面上に載置され、該床面に対し固定用部材によって固定された便器の床固定構造において、該固定用部材は、該床面に設置された床側メンバと、該台座部に設置された便器側メンバとを備えてなり、該固定用部材は、該便器を床面に上方から載置したときに該便器側メンバが該床側メンバに対し上方から重なり合って両者を結合する結合手段を有することを特徴とするものである。
【0009】
かかる本発明の便器の床固定構造に従って便器を床面に固定するには、床側メンバを床面に取り付け、便器側メンバを便器に取り付けておき、便器を床面上に載置し、床側メンバを便器側メンバに重ね合わせるだけでよい。この床側メンバと便器側メンバとが結合することにより、便器が床面に固定される。
【0010】
本発明では、便器を床面に上方から載置したときに該床側メンバと便器側メンバとがずれて重なった場合でも、該床側メンバと便器側メンバとが前記結合手段によって結合されるよう構成されていることが好ましい。
【0011】
かかる構成とすることにより、例えば便器製品に、床面に沿う方向(前後方向或いは左右方向)に寸法誤差があった場合でも、確実に床側メンバと便器側メンバとが結合されるようになる。このため、便器を確実に床面に固定することができる。
【0012】
この結合のための手段としては、磁気、嵌合、粘着又は接着、あるいは平面ファスナが、低コストであると共に結合力が強く好適である。
【0013】
本発明では、床側メンバは床面に埋設されて設置されてもよい。このようにすれば、床側メンバの固定が堅固となる。
【0014】
本発明の一態様では、床側メンバは、床面に対し相対的に下方移動可能に取付部材を介して該床面に取り付けられている。この態様にあっては、便器を床面に載置する際には、便器の床面への当接に先行して便器側メンバが床側メンバに重なる。そして、便器をさらに降下させて床面に載置するに至る間、床側メンバは取付部材によって下方に移動する。このため、例えば便器製品に上下方向の寸法誤差があった場合でも、該床側メンバの下方移動によってこの誤差が吸収され、便器が床面に載置された状態において便器側メンバと床面側メンバとが確実に重なり合って強固に結合される。
【0015】
この態様において、取付部材は、床側メンバが床面に対し相対的に下方移動することを許容し且つ上昇移動することを阻止するワンウェー機構を有していることが好ましい。このように構成した場合、便器が床面に当接した後は、床側メンバは、床面に対し相対的に上昇移動することがワンウェー機構によって阻止されるため、便器が確実に床面に固定されるようになる。
【0016】
本発明の別の一態様では、便器側メンバは、便器に対し相対的に上昇移動可能に取付部材を介して取り付けられている。この態様にあっても、便器を床面に載置するに至る間に便器側メンバが取付部材によって上方に移動することにより、便器製品の上下方向の寸法誤差が吸収され、便器が床面に載置された状態において便器側メンバと床面側メンバとが確実に重なり合って強固に結合される。
【0017】
この態様でも、取付部材は、便器側メンバが便器に対し相対的に上昇移動することを許容し且つ下方移動することを阻止するワンウェー機構を有していることが好ましく、このように構成することにより、便器が床面に当接した後、確実に便器が床面に固定されるようになる。
【0018】
本発明のさらに別の一態様では、結合手段は、床側メンバと便器側メンバとを接近可能に連結する連結部材を備えている。この態様においては、便器を床面に載置する際には、便器の床面への当接に先行して、床側メンバと便器側メンバとが連結部材を介して連結される。そして、便器をさらに降下させて床面に載置するに至る間、該連結部材が床側メンバと便器側メンバとを互いに接近させる。このため、この態様にあっても、例えば便器製品に上下方向の寸法誤差があった場合でも、該床側メンバと便器側メンバとの接近移動によってこの誤差が吸収され、便器が床面に載置された状態において便器側メンバと床面側メンバとが該連結部材を介して確実に結合される。
【0019】
この連結部材も、該床側メンバと便器側メンバとが互いに接近することを許容し且つ離反することを阻止するワンウェー機構を有していることが好ましく、このように構成することにより、便器が床面に当接した後、確実に便器が床面に固定されるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、便器を確実に床面に固定することができる便器の床固定構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る便器の床固定構造によって床面に固定された洋風便器の側面図である。
【図2】図1の便器の床固定構造の便器固定用部材の分解斜視図である。
【図3】洋風便器を床面に載置する途中時における固定用部材の側面図である。
【図4】洋風便器の床面への載置完了時における固定用部材の側面図である。
【図5】洋風便器を床面に載置する途中時における固定用部材の正面図である。
【図6】洋風便器の床面への載置完了時における固定用部材の正面図である。
【図7】別の実施の形態に係る便器の床固定構造によって洋風便器の台座部が床面に固定される途中時における該台座部の前部付近の縦断面図である。
【図8】図7の便器の床固定構造によって床面に固定された洋風便器の台座部の前部付近の縦断面図である。
【図9】さらに別の実施の形態に係る便器の床固定構造によって床面に固定された洋風便器の台座部の前部付近の縦断面図である。
【図10】異なる実施の形態を示す断面図である。
【図11】異なる実施の形態を示す断面図である。
【図12】さらに異なる実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
第1図は本発明の実施の形態に係る便器の床固定構造によって床面に固定された洋風便器の側面図(ただし、洋風便器台座部の前半側のみ縦断面にて図示。)、第2図はこの便器の床固定構造の便器固定用部材の分解斜視図、第3図及び第4図は、それぞれ洋風便器を床面に載置する途中時及び載置完了時における固定用部材の側面図、第5図及び第6図は、それぞれ洋風便器を床面に載置する途中時及び載置完了時における固定用部材の正面図である。なお、第3図及び第4図において、固定用部材のうち、便器側メンバのソケット部のみが第5図のIII−III線に沿う断面にて図示されており、第5図及び第6図においては、該ソケット部のみが第3図のV−V線に沿う断面にて図示されている。
【0024】
この実施の形態では、洋風便器1がトイレルームの床面F上に固定設置されている。この洋風便器1は陶器(焼き物)製のものである。第1図に示すように、この洋風便器1は、床面F上に載置された台座部2と、その前部に設けられた鉢部4と、その後部上面に設けられたロータンク(図示略)の載置部6とを有している。符号8は、該鉢部4の上部内周面に設けられたリム通水路を示している。該台座部2は、外周壁10によって外殻が構成された無底中空状体であり、その内部には、鉢部4に連なるトラップ部(図示略)等の排水設備などが配置されている。
【0025】
台座部2の後部には、該外周壁10の下辺部から床面Fに沿うように後方に向って延出した略水平な足片部12が形成されている。この足片部12には、台座部2固定用のビス14を挿通するための孔(図示略)が該足片部12を上下方向に貫通するように設けられている。台座部2の後部にあっては、この孔を通して床面Fにビス14が螺じ込まれることにより、足片部12が床面Fに固定されている。該ビス14の頭部には化粧キャップ14aが装着されている。
【0026】
台座部2の前部は、固定用部材16によって床面F上に固定されている。この固定用部材16は、該床面F上に取り付けられた床側メンバ18と、該台座部2に取り付けられており、該床側メンバ18に対し上方から重なり合う便器側メンバ20と、重なり合った該床側メンバ18と便器側メンバ20とを結合する結合手段としてのマグネット(永久磁石)22とを備えている。該マグネット22は、この実施の形態では便器側メンバ20に保持されている。床側メンバ18は、マグネット22がその磁力によって張り付き可能な鉄等の磁性材料により構成されている。
【0027】
なお、この実施の形態では、台座部2の前部において、外周壁10の裏側(台座部2の内部側)には、該外周壁10との間に間隔をおいて略上下方向に延在する上下方向壁24が形成されている。この上下方向壁24は、第1図に示すように、上端部が鉢部4の底面と連続しており、下端部が外周壁10の下辺部付近と連続している。便器側メンバ20は、台座部2の内部において、取付部材26を介してこの上下方向壁24に取り付けられている。この取付部材26は、該便器側メンバ20が上下方向壁24に対し相対的に上昇移動することを許容し且つ下方移動することを阻止するワンウェー機構を有している。(以下、このようにワンウェー機構を有する取付部材を「ワンウェー取付部材」と称する。)
【0028】
床側メンバ18は平板状の部材であり、台座部2が床面F上に載置されたときに便器側メンバ20の略真下に占位するように、床面F上に配置されている。この床側メンバ18は、板面にビス挿通用の孔18a(第2図)が設けられており、この孔18aを通して床面Fに螺じ込まれたビス28によって該床面F上に固定されている。なお、第2図に示すように、この床側メンバ18の上面側において、該孔18aの周囲は凹所18bとなっており、この凹所18b内にビス28の頭部28aが入り込むことにより、該頭部28aが床側メンバ18の上面から突出しないようになっている。
【0029】
便器側メンバ20は、台座部2が床面F上に載置されたときに上方から該床側メンバ18と重なり合うように略水平に配置された板状の部材であり、その下面側にマグネット22が配置されている。マグネット22は、この実施の形態では円盤状のものであり、一面(上面)に取付金具30が固着されている。この取付金具30からはスタッドボルト30aが突設されており、便器側メンバ20に穿設されたボルト挿通用の孔(図示略)に該スタッドボルト30aが挿通され、該スタッドボルト30aにナット30bが締め込まれることにより、マグネット22が該便器側メンバ20に固着されている。
【0030】
この実施の形態では、2個のマグネット22が左右に位置を異ならせて便器側メンバ20に取り付けられている。床側メンバ18には、便器側メンバ20が該床側メンバ18に重なったときにこれらのマグネット22,22をそれぞれ受承する略円形台座状のマグネット受承部18c,18cが設けられている。該マグネット受承部18c,18cは、床側メンバ18の左右両側部にそれぞれ設けられている。各マグネット受承部18cの板面の大きさは、各マグネット22の板面の大きさよりも大きなものとなっている。なお、床側メンバ18を床面F上に固定するための前述のビス挿通用の孔18aは、第2図に示すように、各マグネット受承部18cの中心付近に設けられている。
【0031】
前記ワンウェー取付部材26は、該便器側メンバ20の上面から上方に立設されたスライダ部32と、該スライダ部32を上昇移動可能且つ下方移動不能に保持するソケット部34とからなる。ソケット部34には、該ソケット部34を上下方向に貫通したスライダ受入部(開口)34aが設けられており、このスライダ受入部34a内に該スライダ部32の上端側が挿入されている。ソケット部34の左右両サイドには、それぞれ耳状の取付片34bが設けられており、各取付片34bが反転ボルト36によって前記上下方向壁24に留め付けられている。第2図の符号34c及び第3,4図の符号24aは、それぞれ、該取付片34b及び上下方向壁24に設けられた反転ボルト36挿通用の孔を示している。
【0032】
第5,6図に示すように、スライダ部32の左右両側辺に沿って、それぞれ、上下方向に連続した鋸歯状部38が形成されている。また、スライダ受入部34aの左右両側壁部には、それぞれ、該スライダ受入部34a内に突出するようにして該鋸歯状部38と弾性的に係合する爪部40が設けられている。これらの鋸歯状部38と爪部40とによってワンウェー機構が構成されている。
【0033】
各鋸歯状部38は、スライダ部32の側外方に向って下り勾配となっている傾斜面と、該傾斜面の下端(各鋸歯状部38の頂点)からスライダ部32の中央側に向って略水平に延在した裾面とを有している。スライダ部32がスライダ受入部34a内を上昇移動する際には、各爪部40が該傾斜面によってスライダ受入部34a内から弾性的に側外方に押し出されて該スライダ部32の上昇移動を許容するようになり、スライダ部32がスライダ受入部34a内を下方移動しようとした場合には、各爪部40が該裾面に下方から当接して該スライダ部32の下方移動を阻止する。
【0034】
なお、各爪部40には、該爪部40と鋸歯状部38との係合を任意に解除するためのノブ部40aが設けられている。台座部2を床面Fに固定した後、この台座部2を一旦床面Fから取り外して再度床面Fに固定し直す場合などには、該ノブ部40aに指等を掛けて各爪部40を外側に引き出し、各爪部40と鋸歯状部38との係合を解除してスライダ部32を下方に引き下ろす。
【0035】
スライダ部32の前面には、上下方向に延在する凸条32aが形成されている。スライダ受入部34a内には、この凸条32aが係合した凹条34dが上下方向に延設されており、スライダ部32が上昇するのに伴って該凸条32aが凹条34d内を摺動することにより、スライダ部32の上昇移動が案内される。
【0036】
このように構成された便器の床固定構造によって洋風便器1を床面F上に固定設置するに当っては、まず、ワンウェー取付部材26のソケット部34を反転ボルト36によって台座部2の前部の上下方向壁24に取り付ける。そして、このソケット部34のスライダ受入部34aにスライダ部32の上端側を差し込んで便器側メンバ20をソケット部34に保持させる。この際、第3図及び第5図に示すように、便器側メンバ20の下面側に配置されたマグネット22の下面が台座部2の底面(外周壁10の下辺)から下方に突出した状態となるようにスライダ受入部34aへのスライダ部32の差し込み分量を調整する。また、床面Fのうち、台座部2を該床面Fに載置したときに便器側メンバ20の略真下となるべき位置に、床側メンバ18をビス28によって取り付ける。
【0037】
また、床面Fのうち、台座部2を該床面Fに載置したときに足片部12のビス14挿通用の孔と重なる位置には、該ビス14を螺じ込むための下穴(図示略)を穿設する。
【0038】
このようにした後、足片部12のビス14挿通用の孔とこの下穴とが重なるように台座部2を床面F上に載置する。この際、台座部2の前部においては、台座部2の底面が床面Fに接触するのに先立ってマグネット22が床側メンバ18に接触する。それから、台座部2の底面が床面Fに接触するまで、便器側メンバ20がワンウェー取付部材26によって上昇移動を許容されて上下方向壁24に対し相対的に上昇移動する。
【0039】
台座部2の底面が床面Fに当接した後、足片部12のビス14挿通用の孔を通して床面Fの前記下穴にビス14を螺じ込み、該足片部12を床面Fに固定する。その後、このビス14の頭部に化粧キャップ14aを装着する。
【0040】
この便器の床固定構造にあっては、台座部2の前部を床面Fに固定するに当っては、床側メンバ18を床面Fに取り付けると共に便器側メンバ20をワンウェー取付部材26を介して台座部2の前部の上下方向壁24に取り付け、台座部2を床面Fに載置して該便器側メンバ20を床側メンバ18に重ね合わせるだけでよい。床側メンバ18と便器側メンバ20とはマグネット22の磁力によって強固に結合されるため、台座部2の前部は床面Fにしっかりと固定される。
【0041】
そして、台座部2が床面Fに当接した後は、便器側メンバ20は、便器に対し相対的に下方移動することがワンウェー機構によって阻止されるため、便器が確実に床面に固定される。
【0042】
この便器の床固定構造にあっては、床側メンバ18と便器側メンバ20とが多少ずれてもマグネット22が床側メンバ18に重なりさえすれば該床側メンバと便器側メンバ20とが該マグネット22の磁力によって結合されるので、台座部2に前後方向或いは左右方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品において便器側メンバ20を上下方向壁24に取り付けるための反転ボルト36挿通用の孔24aの配置位置が設計位置から前後方向或いは左右方向に多少ずれている場合でも、確実に台座部2を床面Fに固定することができる。
【0043】
また、この実施の形態では、台座部2を床面Fに載置するに際し、該台座部2の底面が床面Fに接触するのに先立ってマグネット22が床側メンバ18に接触し、それから台座部2の底面が床面Fに接触するまで便器側メンバ20が上下方向壁24に対し相対的に上昇移動するので、台座部2に上下方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品において前記反転ボルト36挿通用の孔24aの配置位置が設計位置から上下方向に多少ずれている場合でも、該便器側メンバ20の上昇移動によってこの誤差が吸収され、台座部2が床面F上に載置された状態において確実にマグネット22によって床側メンバ18と便器側メンバ20とが結合される。
【0044】
なお、この実施の形態では台座部2の後部はビス14によって床面Fに固定されているが、台座部2の後部も、台座部2の前部と同様に、固定用部材16によって床面Fに固定するよう構成してもよい。
【0045】
この実施の形態では便器側メンバ20がワンウェー取付部材26を介して台座部2に取り付けられているが、本発明においては、便器側メンバ20の代りに、床側メンバ18がワンウェー取付部材を介して床面Fに取り付けられてもよい。この場合、図示はしないが、該ワンウェー取付部材は、床側メンバ18が床面Fに対し下方移動することを許容し且つ上昇移動することを阻止するように、この実施の形態におけるワンウェー取付部材26を上下逆にした如き構成とされる。
【0046】
このように構成されたワンウェー取付部材により床側メンバ18を床面Fに取り付けた場合にも、台座部2を床面に載置するに際し、台座部2の床面Fへの当接に先行して便器側メンバ20が床側メンバ18に重なり、それから、台座部2をさらに降下させて床面Fに載置するに至る間、床側メンバ18が該ワンウェー取付部材によって下方に移動するため、例えば洋風便器1製品に上下方向の寸法誤差があった場合でも、該床側メンバ18の下方移動によってこの誤差が吸収され、台座部2が床面Fに載置された状態において便器側メンバ20と床面側メンバ18とが確実に重なり合って強固に結合される。
【0047】
また、本発明では、図示はしないが、例えばマグネット22と便器側メンバ20との間に、該マグネット22が便器側メンバ20に対し接近することを許容し且つ離反することを阻止するワンウェー機構を有する連結部材(以下、このようにワンウェー機構を有する連結部材を「ワンウェー連結部材」と称する。)を介在させた構成としてもよい。
【0048】
このように構成した場合、台座部2を床面Fに載置する際に、台座部2の床面Fへの当接に先行して、床側メンバ18と便器側メンバ20がワンウェー連結部材を介してマグネット22によって連結される。そして、台座部2をさらに降下させて床面Fに載置するに至る間、該ワンウェー連結部材が床側メンバ18と便器側メンバ20とを互いに接近させる。このため、例えば洋風便器1製品に上下方向の寸法誤差があった場合でも、該床側メンバ18と便器側メンバ20とが互いに接近移動することによってこの誤差が吸収され、台座部2が床面Fに載置された状態において床側メンバ18と便器側メンバ20とが確実に結合される。
【0049】
第7図及び第8図は、それぞれ、本発明の別の実施の形態に係る便器の床固定構造によって洋風便器の台座部が床面に固定される途中時及び固定完了時における台座部の前部付近の縦断面図である。
【0050】
この実施の形態では、便器の台座部2の前部底面に凹所50が形成されており、この凹所50内に、該台座部2の前部を床面Fに固定するための固定用部材16Aの便器側メンバ20Aが設置されている。なお、台座部2の外周壁10の下辺部は、図示の通り、この凹所50の天井面50aよりも下方にまで延在している。
【0051】
該便器側メンバ20Aは、該凹所50の天井面50aに沿って配置された基片部52と、該基片部52から下方に向って突設されたスナップピン54とを有している。該スナップピン54の先端側には、略球形の拡大部54aが形成されている。該基片部52は、厚み方向に柔軟に収縮可能な軟質合成樹脂等よりなる取付部材としてのシート56を介して該天井面50aに取り付けられている。
【0052】
なお、該シート56の厚さは、台座部2が床面F上に載置されるに際し、該台座部2の底面(外周壁10の下辺)が床面Fに接触するのに先立ってスナップピン54が後述の床側メンバ18Aのスナップピン嵌合穴58aに上方から嵌合することができ、且つ、その後台座部2がさらに降下して該台座部2の底面が床面Fに接触するまで、厚み方向に収縮して便器側メンバ20Aが前記天井面50aに対し相対的に上昇移動することを許容する大きさとなっている。
【0053】
固定用部材16Aの床側メンバ18Aは、該スナップピン54が上方から弾性的に嵌合可能な略球形のスナップピン嵌合穴58aを有したスナップピン嵌合部58と、該嵌合部58を保持した台座部60とを備えている。該台座部60はビス62によって床面Fに固着されている。
【0054】
この実施の形態では、該台座部60は、床面Fに沿う方向に移動可能なスライドプレート60aと、該スライドプレート60aを床面Fに沿う方向に移動可能に保持したスライドプレート保持部60bとを有している。スナップピン嵌合部58は、このスライドプレート60aと一体に設けられている。
【0055】
この台座部2を備えた洋風便器のその他の構成及びこの台座部2の後部の床面Fへの固定構造は、前述の第1〜6図の洋風便器1と同様となっている。
【0056】
このように構成された便器の床固定構造によって台座部2の前部を床面Fに固定するに当っては、まず、床側メンバ18Aの台座部60をビス62によって床面Fに固定すると共に、便器側メンバ20Aをシート56を介して凹所50の天井面50aに取り付ける。そして、台座部2を床面Fに載置して該便器側メンバ20Aを床側メンバ18Aに重ね合わせ、スナップピン54をスナップピン嵌合穴58aに押し込むだけでよい。
【0057】
この便器の床固定構造にあっては、床側メンバ18Aと便器側メンバ20Aとが多少ずれていても、スライドプレート60aが床面Fに沿う方向に移動してこのずれを吸収する。このため、台座部2に前後方向或いは左右方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品における便器側メンバ20Aの配置位置が設計位置から前後方向或いは左右方向に多少ずれている場合でも、確実にスナップピン54が嵌合穴58aに嵌合し、台座部2が床面Fに固定される。
【0058】
しかも、この実施の形態では、台座部2を床面Fに載置するに際し、該台座部2の底面が床面Fに接触するのに先立ってスナップピン54が嵌合穴58aに嵌合し、それから、台座部2の底面が床面Fに接触するまで、シート56が厚み方向に収縮して便器側メンバ20Aが凹所50の天井面50aに対し相対的に上昇移動する。このため、台座部2に上下方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品において天井面50aの配置位置が設計位置から上下方向に多少ずれている場合でも、該便器側メンバ20Aの上昇移動によってこの誤差が吸収され、台座部2が床面F上に載置された状態において確実にスナップピン54が嵌合穴58aに嵌合し、床側メンバ18Aと便器側メンバ20Aとが強固に結合される。
【0059】
この実施の形態では、便器側メンバ20Aの天井面50aへの取付部材として、厚み方向に収縮して該便器側メンバ20Aが天井面50aに対し相対的に上昇移動することを許容するシート56を用いているが、このシート56の代りに、前述の実施の形態において採用されたワンウェー取付部材26の如き、便器側メンバ20Aが該天井面50aに対し相対的に上昇移動することを許容し且つ下方移動することを阻止するワンウェー機構を有する取付部材を用いてもよい。
【0060】
第9図はさらに別の実施の形態に係る便器の床固定構造によって固定された洋風便器の台座部の前部付近の縦断面図である。
【0061】
この実施の形態でも、便器の台座部2の前部底面に凹所50Aが形成されており、この凹所50Aの天井面50aに、前述の第7,8図の実施の形態におけるシート56と同様の、厚み方向に柔軟に収縮可能な軟質合成樹脂等よりなる取付部材としてのシート70が取り付けられている。この実施の形態では、該シート70の下面に、該台座部2の前部を床面Fに固定する固定用部材18Bの便器側メンバとして、両面(粘着)テープ20Bが貼り付けられている。
【0062】
なお、該シート70の厚さは、台座部2が床面F上に載置されるに際し、該台座部2の底面(外周壁10の下辺)が床面Fに接触するのに先立って両面テープ20Bが後述の床側メンバ18Bに上方から重なり合うことができ、且つその後台座部2がさらに降下して該台座部2の底面が床面Fに接触するまで、厚み方向に収縮して両面テープ20Bが前記天井面50aに対し相対的に上昇移動することを許容する大きさとなっている。
【0063】
固定用部材16Bの床側メンバ18Bは、両面テープ20Bとの粘着親和性の高い金属又は合成樹脂等よりなる板状部材であり、床面F上に台座部2が載置されたときに両面テープ20Bの略真下に占位するように床面F上に配置され、ビス(図示略)等によって該床面Fに固着されている。
【0064】
この台座部2を備えた洋風便器のその他の構成及びこの台座部2の後部の床面Fへの固定構造は、前述の第1〜6図の洋風便器1と同様となっている。
【0065】
このように構成された便器の床固定構造によって台座部2の前部を床面Fに固定するに当っては、まず、床側メンバ18Bをビス等により床面Fに取り付けると共に、シート70を介して両面テープ20Bを凹所50の天井面50aに取り付け、台座部2を床面Fに載置して該両面テープ20Bを床側メンバ18Bに重ね合わせるだけでよい。
【0066】
この便器の床固定構造にあっては、床側メンバ18Bと両面テープ20Bとが多少ずれても、両面テープ20Bが床側メンバ18Bに重なりさえすれば両者は結合されるので、台座部2に前後方向或いは左右方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品における両面テープ20Bの配置位置が設計位置から前後方向或いは左右方向に多少ずれている場合でも、確実に台座部2を床面Fに固定することができる。
【0067】
しかも、この実施の形態では、台座部2を床面Fに載置するに際し、該台座部2の底面が床面Fに接触するのに先立って両面テープ20Bが床側メンバ18Bに接触し、それから、台座部2の底面が床面Fに接触するまで、シート70が厚み方向に収縮して両面テープ20Bが凹所50の天井面50aに対し相対的に上昇移動する。このため、台座部2に上下方向の寸法誤差があった場合、即ち洋風便器1製品において天井面50aの配置位置が設計位置から上下方向に多少ずれている場合でも、該両面テープ20Bの上昇移動によってこの誤差が吸収され、台座部2が床面F上に載置された状態において確実に両面テープ20Bが床側メンバ18Bに強固に貼り付くようになる。
【0068】
この実施の形態では便器側メンバとして両面(粘着)テープ20Bを採用しているが、この両面テープ20Bの代りに、シート70の裏側に接着剤層を設けてもよい。また、図示はしないが、本発明では、台座部2と床面Fとの間に両面テープ20Bや接着剤層を設けて両者を結合する代りに、マジックテープ(商標)などと通称される平面ファスナを該台座部2と床面Fとの間に設けて両者を結合してもよい。
【0069】
第10〜12図は、それぞれ、床側メンバを床面Fに埋設設置した実施の形態を示している。
【0070】
第10図では、台座部2の裏側の凹所天井面50aにボルト挿通孔76が設けられている。該天井面50aにパッキン78を介してスナップピン80が反転ボルト82及びナット82aによって固定されている。この反転ボルト82は該ボルト挿通孔76に下側から挿通されて締め込まれている。
【0071】
スナップピン80は、該パッキン78を介して天井面50aに重なるベース部80aと、該ベース部80aから垂下する垂下部80bと、該垂下部80bの下側に連なる拡大部80cとを有している。
【0072】
床面Fには、アンカーボックス84が埋設設置され、このアンカーボックス84内にスライドアンカ86が水平方向へスライド自在に収容されている。アンカーボックス84の上縁には、内向きに張出部84aが設けられており、この張出部84aがスライドアンカ86の上面に摺動可能に接している。
【0073】
スライドアンカ86には、前記拡大部84cが嵌合する嵌合穴86aが設けられている。この嵌合穴86aは、入口側(上部)が比較的狭く、奥側(下部)が拡大した形状である。
【0074】
スナップピン80を洋風便器1に反転ボルト82によって取り付けておき、該スナップピン80の拡大部80cをスライドアンカ86の嵌合穴86aに上方から押し込むようにして洋風便器1を床面F上に載置することにより、洋風便器1の前部側が床面Fに固定される。
【0075】
なお、スライドアンカ86がアンカーボックス84内でスライド自在であるため、スナップピン80とアンカーボックス84との位置誤差を吸収することができる。
【0076】
この実施の形態では、アンカーボックス84とスライドアンカ86とによって床側メンバが構成され、スナップピン80が便器側メンバを構成している。
【0077】
第11図の実施の形態では、床面Fに床側メンバとして磁石92が埋設設置され、洋風便器1には便器側メンバとして鉄片90が反転ボルト82を介して取り付けられている。この反転ボルト82は凹所天井面50aのボルト挿通孔76に挿通されている。鉄片90と天井面50aとの間にはパッキン78が介在されている。
【0078】
洋風便器1を床面F上に裁置すると、鉄片90が磁石92と吸着し、洋風便器1の前部が床面Fに強力に固定される。
【0079】
なお、磁石92の上面が床面Fよりも若干突出しているので、鉄片90が磁石92からはみ出した場合でも、鉄片90が床面Fに干渉することがない。
【0080】
上記実施の形態では、反転ボルト82を用いているが、これは天井面50aの上方のスペース94が閉空間となっているためである。
【0081】
第12図の洋風便器100のように、このスペースが開空間であるときには、通常のボルトを採用することができる。
【0082】
第12図の洋風便器100では、台座部102の裏面から略水平に板状の張出片104が突設されている。この張出片104に上下方向にボルト挿通孔が貫設されている。このボルト挿通孔に挿通された通常のボルト106とナット108を介して張出片104の下側に鉄片114が取り付けられている。なお、この実施の形態では、パッキン110と鉄片114との間に合成樹脂や軽量金属製のスペーサ112が介在されている。これは、鉄片114として体積が小さいものを採用できるようにするためである。
【0083】
床面Fには磁石116が埋設設置されている。洋風便器100を床面F上に載置すると、鉄片114が磁石116に吸着し、洋風便器100の前部が強力に固定される。
【0084】
第12図中の符号120は便鉢を示している。この便鉢120は、トラップ部122を介して排水口124に連通している。この排水口124は排水ソケット126に嵌合接続されている。排水ソケット126は、洋風便器100の据付け前に床面Fに固定されている。
【0085】
上記実施の形態では、磁石を床面Fに埋設しているが、鉄片を床面Fに埋設してもよい。鉄片の代りに磁石を用いてもよい。
【0086】
上記の各実施の形態はいずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0087】
例えば、第1図〜第6図の実施の形態において床側メンバ18を床面Fに埋設設置してもよい。上記の各実施の形態では便器として洋風便器を採用しているが、他の形式の便器であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1,100 洋風便器
2,102 台座部
10 外周壁
12 足片部
14 ビス
16,16A,16B 固定部材
18,18A,18B 床側メンバ
20,20A 便器側メンバ
20B 両面テープ(便器側メンバ)
22 マグネット
24 上下方向壁
26 ワンウェー取付部材
32 スライダ部
34 ソケット部
34a ソケット受入部
38 鋸歯状部
40 爪部
50,50A 凹所
54,80 スナップピン
56,70 シート(取付部材)
58 スナップピン嵌合部
60 台座部
60a スライドプレート
84 アンカーボックス
86 スライドアンカ
90,114 鉄片
92,116 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座部を有する便器が床面上に載置され、該床面に対し固定用部材によって固定された便器の床固定構造において、
該固定用部材は、該床面に設置された床側メンバと、該台座部に設置された便器側メンバとを備えてなり、
該固定用部材は、該便器を床面に上方から載置したときに該便器側メンバが該床側メンバに対し上方から重なり合って両者を結合する結合手段を有することを特徴とする便器の床固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−121235(P2009−121235A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59441(P2009−59441)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【分割の表示】特願2004−208756(P2004−208756)の分割
【原出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】