説明

洋風大便器

【課題】 サイホン式洋風大便器において、水位上昇を極力抑制し、効果な汚物排出が可能な洋風大便器を提供することを目的とする。
【解決手段】 使用者が排泄を行うボールと、前記ボール上縁に設けられ洗浄水を吐出するリム吐水口と、前記リム吐水口に供給する洗浄水を貯留する洗浄水貯留手段と、前記洗浄水貯留手段に貯留された洗浄水を加圧して前記リム吐水口に供給するポンプ手段と、前記ボール内の溜水をサイホン作用により汚物を排出する排水トラップ管路とより成る洋風大便器において、前記リム吐水手段に給水を行う前記ポンプ手段の給水量率を制御するポンプ制御手段を有し、前記ポンプ制御手段は、サイホン作用が起動する前まで、洗浄開始により上昇するボール内の溜水面の位置が所定レベル以上に上昇しないよう、上記加圧ポンプを制御して必要な流量の洗浄水を供給することを特徴とする洋風大便器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール部の上縁のリム吐水口からの供給によってのみ便器洗浄を行うサイホン式洋風大便器に関し、特に、ボール部の溜水面の上昇を抑制した洋風大便器に関する。
【0002】
サイホン式洋風大便器は、サイホンゼット式の便器にようにゼットからの吐水がトラップ排水路内に直接吐水されるため、サイホン作用に起動も早く、溜水面の上昇は見られないが、サイホン式洋風大便器では、洗浄開始直後に、投入された洗浄水は、トラップ排水路内へ流入しにくく、一部の洗浄水はボール部に残り、そのためボール部の溜水面が上昇する。また、投入された洗浄水は、ボール面を旋回しながらボール面に付着した汚物等を流水面方向に流下させるが、その際、溜水面にも旋回流が生じる。そのため、溜水面が旋回しながら上昇することになり、浮遊系の汚物を伴う溜水面の旋回流は、ボール面の上方では、大きな広がりを形成することになる、その後のサイホン作用によって急激に降下する溜水面に上の浮遊系汚物は水位降下に追随できずにボール面に残存してしまう具合があり、その不具合を解消するため、溜水面の旋回流の広がりを抑制しようと、ボウル部の底部を壺状に形成した提案がある。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
【特許文献1】特許3052180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
旋回流の広がりによる浮遊系の汚物のボウル面への残存付着の抑制には、効果があるが、水位上昇の増大は、トラップ排水路に入りきれない洗浄水を一時的にボウル部に溜めているだけであるので、前記トラップが満水となってサイホン現象を誘引するのを遅らせ、洗浄水の無駄を引き起こす要因になっていることから、近年の6Lやそれ以下の洗浄水量での汚物を排出搬送する節水便器においては、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、サイホン式洋風大便器において、水位上昇を極力抑制し、効果な汚物排出が可能な洋風大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、使用者が排泄を行うボールと、前記ボール上縁に設けられ洗浄水を吐出するリム吐水口と、前記リム吐水口に供給する洗浄水を貯留する洗浄水貯留手段と、前記洗浄水貯留手段に貯留された洗浄水を加圧して前記リム吐水口に供給するポンプ手段と、前記ボール内の溜水をサイホン作用により汚物を排出する排水トラップ管路とより成り、前記リム吐水口からの洗浄水のみよって便器洗浄を行う洋風大便器において、前記リム吐水手段に給水を行う前記ポンプ手段の給水量率を制御するポンプ制御手段を有し、前記ポンプ制御手段は、サイホン作用が起動する前まで、ボール内の溜水面の位置が所定レベル以上に上昇しないよう、上記加圧ポンプを制御して必要な流量の洗浄水を供給することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、ポンプ制御手段によってボール部に供給する洗浄水を、サイホン作用起動までにボール内の溜水面の水位上昇が極力起きない程度に抑制することで、溜水面の水位上昇ともに上昇する浮遊系の汚物がボール面に残存することを極力防止できる。
尚、所定レベル以上とは、サイホン作用の早期の起動に効果的な少なくとも排水トラップ管路の溢流水位以上であることが望ましいが、初期水位であっても良い。
【0008】
また、本発明の好ましい形態として、請求項2記載の発明は、前記排水トラップ管路から排出される排出ピークの瞬間流量に到達するまでの積算流量変化に近似させ給水することを特徴とする。
本発明によれば、便器の仕様によって排水特性がことなるが、仕様が同じである場合には、略同じ排水特性になるため、便器の排水仕様を評価して、サイホン作用が起動して急激な水位降下が起きる前まで、その排水特性に合わせて、洗浄水の供給量と排出量を近似させることによって、ボール面の水位上昇を抑制できる。即ち、排水ピーク直前でサイホン作用が起動することになるので、それまでの積算流量変化に近似させて給水することで水位上昇を抑制できる。
【0009】
また、本発明の好ましい形態として、請求項3記載の発明は、前記ポンプ制御手段は、サイホン作用によるボール部の溜水部の水位が低下するとき、ボール部の溜水面の位置が所定レベル以下にならないように、洗浄水を供給することを特徴とする。
本発明によれば、サイホン作用によって、排水特性の排水ピークは最大になり、そのため急激な排水量の増加によって溜水面は低下することになる。溜水面が低下していき、排水トラップ管路に空気が引き込まれることで、サイホン作用は停止することになるが、サイホン作用は極力長く維持しておきたいため、排水トラップ管路に空気が引き込まれない所定レベル程度に水位を確保しておくことでサイホン作用の停止を遅らせることが可能となり、効果的な汚物の排出ができる。
【0010】
また、本発明の好ましい形態として、請求項4記載の発明は、前記リム吐水口は、ボール上縁から水平方向に吐水する第一のリム吐水口と、ボール部の上縁から排水トラップ管路開口方向に吐水する第二のリム吐水口からなることを特徴とする。
本発明によれば、ボール上縁から水平方向に吐水し、ボール面を旋回しながらボール面に付着している汚物を溜水中に落としこむリム吐水と、洗浄初期では、排水トラップ管路に洗浄水を送りこみ排水トラップ管路を満水化してサイホン作用を早期に起動させるようにし、洗浄中期以降は汚物等を排水トラップ管路内に誘導するよう押し込むリム吐水との両方を有することで、効果的な洗浄ができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、サイホン式洋風大便器において、水位上昇を極力抑制し、効果的な汚物排出が可能なた洋風大便器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、図1乃至図3により、本発明の実施形態による洋風大便器の構造を説明する。図1は、本発明の実施形態による洋風大便器を示す側面図であり、図2は図1に示す洋風大便器の平面図であり、図3は本発明の実施形態による洋風大便器を示す全体構成図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態による洋風大便器1は、便器本体2と、前記便器本体2の上面に配置された便座4と、前記便座4を覆うように配置された便ふた5と、前記便器本体2の後方上部に配置された局部洗浄装置3と、を備えている。さらに、前記便器本体の後方には、機能部10が配置されており、前記機能部10はサイドパネル10aにより覆われている。
【0014】
前記便器本体2は陶器製または樹脂製であり、前記便器本体2には、汚物を受けるボール部12と、前記ボール部12の底部から延びるトラップ排水路14と、ボール部12上縁にリム吐水を行う少なくとも2つ以上のリム吐水口18aと18bが形成されている。
前記第一のリム吐水口18aは、前記ボール部12の上縁左側上部後方に形成されており、前記ボール部12の縁に沿って洗浄水を水平方向に吐出するようになっている。前記第二のリム吐水口18bは、前記ボール部12の上縁右側上部後方に形成されており、前記ボール部12の縁に沿って洗浄水を吐出すると共に、前記トラップ排水路14の入口部14aに向けた洗浄水を吐出するようになっている。
【0015】
前記トラップ排水路14は、前記入口部14aと、前記入口部14aから上昇するトラップ上昇管14bと、前記トラップ上昇管14bから下降する前記トラップ下降管14cとからなり、前記トラップ上昇管14bと前記トラップ下降管14cとの間が頂部14dとなっている。前記トラップ下降管14cは排水ソケット15を介して、建物の排水配管Dに排泄物混じりの溜水を排出するようになっている。
【0016】
実施形態による洋風大便器1は、洗浄水を供給する水道に直結されている。前記リム吐水口18aおよび18bからの吐水は、前記機能部10に内蔵された貯水タンクに貯水された洗浄水を図示しない加圧ポンプによって加圧して、大流量でリム吐水口18aおよび18bから吐出させるようになっている。
【0017】
次に、図3により、実施形態による洋風大便器の機能部を詳細に説明する。
図3に示すように、機能部10には、定流量弁20と、電磁弁22と、リム吐水用バキュームブレーカ24と、リム吐水用フラッパー弁26が設けられている。さらに、給水路19には、第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bの吐水分配率を切り替える切替弁28と、貯水タンク32と、水抜栓39が内蔵されている。また、前記機能部10には、前記電磁弁22の開閉操作、前記切替弁28の切替操作、及び、前記加圧ポンプ34の回転数や作動時間等を制御するコントローラ40が内蔵されている。
【0018】
前記定流量弁20は、止水栓42a、ストレーナ42b、及び分岐金具42cを介して入水口から流入した洗浄水を、所定の流量以下に絞るためのものである。本実施形態においては、この前記定流量弁20は、洗浄水の流量を16リットル/分以下に制限するようになっている。また、前記定流量弁20を通過した洗浄水は、前記電磁弁22に流入し、前記電磁弁22を通過した洗浄水は、前記貯水タンク32に供給されるようになっている。
【0019】
前記電磁弁22は、前記コントローラ40の制御信号により開閉され、供給された洗浄水を前記貯水タンク32に流入させ、又は停止するようになっている。
【0020】
前記リム吐水用バキュームブレーカ24は、洗浄水を前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bへ導く前記給水路19の途中に配置され、洗浄水の前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bからの逆流を防止している。また、前記リム吐水用バキュームブレーカ24は、前記ボール部12の上端面よりも上方に配置され、これにより、逆流を確実に防止している。さらに、前記リム吐水用バキュームブレーカ24の大気開放部からあふれた洗浄水は、戻り管路24aを通って前記貯水タンク32に流入するようになっている。
【0021】
前記リム吐水用フラッパー弁26は、前記リム吐水用バキュームブレーカ24の下流側の前記給水路19に配置され、洗浄水の前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bからの逆流を防止している。本実施形態においては、前記給水路19に前記リム吐水用バキュームブレーカ24と前記リム吐水用フラッパー弁26を直列に配置することによって、より確実に洗浄水の逆流を防止している。
【0022】
前記貯水タンク32は、前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bから吐水すべき洗浄水を貯水するように構成されている。なお、本実施形態において、貯水タンクは、6Lから10Lの内容積を有する。
【0023】
さらに、本実施形態においては、前記タンク給水路32aの先端(下端)は貯水タンク32より上方の位置に開口されており、前記貯水タンク32から前記タンク給水路32aへの逆流を防止している。また、前記貯水タンク32の内部には、上端フロートスイッチ32b及び下端フロートスイッチ32cが配置されており、前記貯水タンク32の水位を検出できるようになっている。前記上端フロートスイッチ32bは、前記貯水タンク32内の水位が所定の貯水水位に達するとオンに切り替わり、前記コントローラ40はこれを検知して、前記電磁弁22を閉鎖させる。一方、前記下端フロートスイッチ32cは、前記貯水タンク32内の水位が所定の水位まで低下するとオンに切り替わり、前記コントローラ40はこれを検知して、前記加圧ポンプ34を停止させる。
【0024】
また、前記貯水タンク32の上部には、その上端の開口部を覆うように蓋体32dが取り付けられており、前記蓋体32dの外周と前記貯水タンク32上部の内壁面の間は水密的に接合されている。さらに、蓋体には、円形の穴が設けられこの穴を取り囲むように、筒体32eが上方に向けて延びるように取り付けられている。
【0025】
また、前記貯水タンク32の壁面は、前記蓋体32dよりも上方まで延びており、前記貯水タンク32の筒体から溢れた洗浄水は、前記蓋体32dの上に溜まるになっている。さらに、前記貯水タンク32の前記蓋体32dよりも上方の壁面には、排水通路32fが接続されており、蓋体の上に溜まった洗浄水を前記ボール部12に排出できるようになっている。
【0026】
前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32に貯水された洗浄水を加圧して、前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bから排出させるためのものである。前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32の下部から延びる洗浄水管路34aにより接続され、前記貯水タンク32内に貯水された洗浄水を加圧する。なお、本実施形態においては、前記加圧ポンプ34は、前記貯水タンク32内の洗浄水を加圧して、洗浄水を最大約120L/分の流量で前記2つのリム吐水口18a,18bから吐出させるようになっている。最大と水量としては120L/分程度が推奨される。この値を大幅に超える場合、ボールに向けて吐水されたリム吐水が旋回を続けてトラップ排水路14になかなか侵入せず、サイホンの起動が遅れることがあるためである。
【0027】
また、前記洗浄水管路34aの途中には、逆止弁であるフラッパー弁38及び水抜栓39が設けられている。これらの前記フラッパー弁38及び前記水抜栓39は、前記加圧ポンプ34よりも下方の、前記貯水タンク32の下端部付近の高さに配置されている。このため、前記水抜栓39を開放することにより、メンテナンス時等に前記貯水タンク前記内及び前記加圧ポンプ34内の洗浄水を排出することができる。また、前記貯水タンク32と前記加圧ポンプ34の間に前記フラッパー弁38を配置することにより、前記貯水タンク32内の水位が前記加圧ポンプ34の高さよりも低くなった場合に、洗浄水が前記加圧ポンプ34から前記貯水タンク前記に逆流し、前記加圧ポンプ34内の洗浄水が抜けて次回ポンプ駆動時に空転状態になるのを防止している。
【0028】
一方、前記加圧ポンプ34の流出口は、洗浄水管路34bを介して、前記給水路19に接続されている。この前記給水路19の途中の洗浄水管路頂部44は、前記貯水タンク32から前記前記第一のリム吐水口18aおよび第二のリム吐水口18bに至る洗浄水管路の中で最も高い部分になっている。
【0029】
なお前記第一のリム吐水口18aは前記ボール12を旋回しながら洗浄すること、および第二のリム吐水口18bは前記トラップ排水路14への給水を目指したものであり、各々の吐水方向と開口面積は異なっている。好ましくは、洗浄工程の開始時に第二のリム吐水口18bから吐出される給水を大容量にして、トラップ排水路14を直ちに満水化してサイホンを起動しながら、前記第一のリム吐水口18aからの給水で前記ボール12の内面を洗浄する。前記切替弁28はサイホン起動タイミングの調整を目指して分配率を変更するものであるが、前述のように前記第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bの吐水方向と開口面積は異なっているため、前記切替弁28を必要とせずに、所定の排水性能を得ることも可能であり、前記切替弁28の採否は便器形状と洗浄性能仕様によって決定される。なお、リム吐水口からの効果的な給水率は後述に従って給水される。
【0030】
前記コントローラ40は、使用者による図示しない便器洗浄スイッチの操作により、前記切替弁28、前記加圧ポンプ34を順次作動させ、前記第一のリム吐水口18aおよび第二のリム吐水口18bの吐水を順次開始させて、前記ボール部12を洗浄する。さらに、前記コントローラ40は、洗浄開始後後、前記電磁弁22を開放し、洗浄水を前記貯水タンク32に補給する。前記貯水タンク32内の水位が上昇し、前記上端フロートスイッチ32bが規定の貯水量を検知すると、前記コントローラ40は、前記電磁弁22を閉鎖して給水を停止する。
【0031】
図4は、本発明を実施した実施形態における洋風大便器のシステムブロック図である。図4を使用して、各部の連係動作を詳説する。
本発明の洋風大便器1は、大きく便器本体2とコントローラ40分かれている。コントローラ40には、操作・表示手段41が組み込まれている。操作・表示手段41は便器洗浄操作信号を受付け、各部に所定のシーケンス情報を伝達する。使用者が操作・表示手段41より便器洗浄操作を実施すると、コントローラ40は給水手段6、流路切替手段7、洗浄水貯留手段8、給水手段9、および吐水口切替手段9aを順次作動させ、ボール部12を洗浄する。第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bから所定のタイミング・給水量率・給水時間で給水は実施され、トラップ排水路14、排水ソケット15を経て、排泄物混じりの溜水は排水配管Dに排出されることになる。
【0032】
次に、リム吐水口からの給水率Qの変化量について、図5により更に詳細に説明する。図5は、排水特性を示した図である。排水特性は、トラップ排水路の出口から流出する洗浄水量の経時変化を計測したものであり、瞬間流量と積算流量を示している。
図で最も大きな瞬間流量を排水ピークと称し、サイホン作用によってボール内の溜水が急激に引き込まれるために起こるもので、サイホン作用が起動した時点と推定している。従来のサイホン式洋風大便器では、トラップ排水路の出口から排水量(Qout)より多くの洗浄水をボウル部に給水(Qin)しているため、ボウル部からトラップ排水路に流入できない洗浄水が一時的にボウル部に滞溜し、水位上昇を引き起こすことになる。このようにQin>Qoutの状態であると水位上昇が起き、効果的な排出が期待できない。本発明では、まず、サイホン式洋風大便器の排水特性を評価した後、その排水ピークに到達するまでの積算流量に近似させながら、即ち、Qin≒Qoutとなるように給水していくようにポンプ制御手段によって給水率(ポンプの回転数と時間)制御している。なお、給水率については、図5の破線でしめすように、積算流量変化よりも若干早めの立ち上がりでの給水とすることで、ボール面を流下するタイミングの遅れ等を抑制している。
【0033】
水位の上昇を抑制する程度については、まず、サイホン作用起動には、洗浄水がトラップ上昇管からトラップ下降管にスムーズに降下する必要があるので、排水トラップ管路の溢流水位(頂部を越える水位)より高い水位上昇は少なくとも必要であるが、ボールは上方に行くほど拡がりため、水位上昇は溜水面の面積の拡大を伴うため、溜水面は溢流水位より高くならないことが望ましい。
また、ボール面の面積が初期溜水面に比べて1.25倍程度に抑制することで、サイホン作用が起動した際の急激な水位低下にも対応できるととに、溜水面上に浮遊していた汚物がボール面に残存した場合でもその後に給水される洗浄水によって確実に流水中に落としこみサイホン作用によって排出できるものとなる。
【0034】
また、排水ピークに到達すると溜水が一気にトラップ排水路に引かれることになるので、急激な水位降下によってトラップ排水路の入口部から空気を引き込むことがない様に水位を調整するための給水率をポンプ制御手段によって制御する。その際は、トラップ排水路へ直接給水しやすい第二のリム吐水口からの給水率を多くして対応するのが望ましい。第一のリム吐水口からは、ボール面に付着した汚物をサイホン作用によって排出できるように溜水に降下させる程度の給水で良い。
【0035】
なお溜水表面に発生する飛沫が便座に達することがある。溜水の水位上昇が抑制されることの副次的な効果として、溜水表面と便座の距離を遠ざけることが、便座の汚れを防止するという効果も期待できる。
【0036】
図6は、本発明を実施した実施形態における洋風大便器のタイミングチャートである。図6を使用して、各洗浄工程における望ましい給水量の関係を詳説する。
【0037】
使用者が便器洗浄操作を実施すると、先ずスプラッシュ防止のために低流量率の第1給水率Q1で、第一のリム吐水口18aと第二のリム吐水口18bへの給水が所定時間実施される。これはリム通水路の管路を満水にして内在するエアーを排出し、吐水口からの水流を安定させることで、水の飛び散りや異音の発生を防止するものである。次いで直ちにトラップを溢流させるために、第2の給水率Q2に切り替える。トラップ排水路に対向する第二のリム吐水口18bに大分配率で給水を実施し、トラップ溢流段階が近づくと、分配比をボール洗浄に主体をおいた第一のリム吐水口18aの吐水量を増やし、サイホンを起動する。ここでの給水率については、上記した排水特性に合わせた給水率に設定する。サイホンが起動すると、サイホンが継続するための第3の給水量率Q3に減少させ、排泄物混じりの溜水を排出するための所定時間経過を待つ。次いでサイホンを停止するために、第4の給水量率Q4に低下させて排泄物の排出終了させて、トラップ排水路の復水を待つ。第4の給水量率Q4は第3の給水量率Q3に極力近くすることで、トラップ排水路が破封している時間を短くして、排水配管内の臭気がトイレ内に拡散するのを防止するべきである。好ましくは破封状態が終了して封水が復帰した後は、第5の給水量率Q5に切り替え、溢流復帰後にオーバーランした洗浄水が排水配管内に無駄に排出されるのを防止することが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態による洋風大便器を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態による洋風大便器の平面図である。
【図3】本発明の実施形態による洋風大便器を示す全体構成図である。
【図4】本発明を実施した実施形態における洋風大便器のシステムブロック図である。
【図5】本発明のサイホン式便器の排水特性を示す図である。
【図6】本発明を実施した実施形態における洋風大便器のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1…洋風大便器
2…便器本体
3…局部洗浄装置
4…便座
5…便ふた
6…給水手段
7…流路切替手段
8…洗浄水貯留手段
9…吐水手段
9a…吐水口切替手段
10…機能部
10a…サイドパネル
12…ボール部
14…トラップ排水路
14a…入口部
14b…トラップ上昇管
14c…トラップ下降管
14d…頂部
14e…サイホンブレーカー管路
15…排水ソケット
18a…第一のリム吐水口
18b…第二のリム吐水口
19…給水路
20…定流量弁
22…電磁弁
24…リム吐水用バキュームブレーカ
24a…戻り管路
26…リム吐水用フラッパー弁
28…切替弁
32…貯水タンク
32a…タンク側給水路
32b…上端フロートスイッチ
32c…下端フロートスイッチ
32d…蓋体
32e…筒体
32f…排水通路
34…加圧ポンプ
34a…洗浄水管路
39…水抜栓
40…コントローラ
41…操作・表示手段
42a…止水栓
42b…ストレーナ
42c…分岐金具
44…洗浄水管路頂部
D…排水配管
Q1…第1の給水量率
Q2…第2の給水量率
Q3…第3の給水量率
Q4…第4の給水量率
Q5…第5の給水量率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が排泄を行うボールと、
前記ボール上縁に設けられ洗浄水を吐出するリム吐水口と、
前記リム吐水口に供給する洗浄水を貯留する洗浄水貯留手段と、
前記洗浄水貯留手段に貯留された洗浄水を加圧して前記リム吐水口に供給するポンプ手段と、
前記ボール内の溜水をサイホン作用により汚物を排出する排水トラップ管路と
より成り、前記リム吐水口からの洗浄水のみよって便器洗浄を行う洋風大便器において、
前記リム吐水手段に給水を行う前記ポンプ手段の給水量率を制御するポンプ制御手段を有し、
前記ポンプ制御手段は、サイホン作用が起動する前まで、洗浄開始により上昇するボール内の溜水面の位置が所定レベル以上に上昇しないよう、上記加圧ポンプを制御して必要な流量の洗浄水を供給する
ことを特徴とする洋風大便器。
【請求項2】
前記排水トラップ管路から排出される排出ピークの瞬間流量に到達するまでの積算流量に近似させ給水することを特徴とする請求項1に記載の洋風大便器。
【請求項3】
前記ポンプ制御手段は、サイホン作用によるボール部の溜水部の水位が低下するとき、ボール部の溜水面の位置が所定レベル以下にならないように、洗浄水を供給することを特徴とする請求項1又は2記載の洋風大便器。
【請求項4】
前記リム吐水口は、ボール上縁から水平方向に吐水する第一のリム吐水口と、ボール部の上縁から排水トラップ管路の入口部方向に吐水する第二のリム吐水口からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の洋風大便器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77686(P2010−77686A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247191(P2008−247191)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】