説明

洋風水洗式便器本体

【課題】トイレ空間の拡大、使用のし易さ及び清掃性の向上を実現可能としつつ、清潔性及び製造性の向上も実現可能な洋風水洗式便器本体を提供する。
【解決手段】洋風水洗式便器本体1は、台座2と、この台座2に保持されたボウル3と、このボウル3の上縁に形成されたリム4と、ボウル3の下端に接続されたトラップ5とを有している。リム4は、ボウル3の上端からボウル3の中心に向かって略水平に突出する水平部4aと、この水平部4aの先端から下方に屈曲する折り返し部4bとからなる。台座2、ボウル3、リム4及びトラップ5は一体に成形されている。前方においては、折り返し部4bは水平部4aより短く、折り返し部4bの中心側の面4cは上方に向かうほど外方に広がるように傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洋風水洗式便器本体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、特許文献1に従来の洋風水洗式便器本体90が開示されている。この洋風水洗式便器本体90は、台座91と、この台座91に保持されたボウル92と、このボウル92の上縁に形成されたリム93と、ボウル92の下端に接続され、ボウル92に封水81を形成しつつ汚物を封水81とともに排出するトラップ94とを有している。
【0003】
リム93は、ボウル92の上端からボウル92の中心に向かって略水平に突出する水平部93aと、水平部93aの先端から下方に屈曲する折り返し部93bとからなる。
【0004】
この洋風水洗式便器本体90は、焼成によって台座91、ボウル92、リム93及びトラップ94となる各部分を一体にもつ成形体を排泥鋳込成形法等により成形した後、この成形体を乾燥、焼成することによって製造され得る。
【0005】
かかる洋風水洗式便器本体90の後方には、例えば便器洗浄タンク82a、ディストリビュータ82b、パイプ82c等からなる便器洗浄装置82、便座83及び便蓋84が搭載され、洋風水洗式便器とされる。洋風水洗式便器本体90のリム93は、水平部93aの上面によって便座83の前方を支持し、便座83の上面によって便蓋84の前方が支持される。近年の便座83及び便蓋84は、図示しない温水タンク、ノズル等を有する局部洗浄装置とされている。
【0006】
この洋風水洗式便器はトイレ室内で使用されることによって洋風水洗式便器本体90のボウル92が汚物を受ける。そして、便器洗浄装置82によってリム93内に洗浄水を吐出することにより、ボウル92の鉢面が洗浄され、かつ汚物が封水81とともにトラップ94から排出される。この際、リム93はその形状によって洗浄水を外部に飛散させない。そして、洗浄の後半において、トラップ94がボウル92に新たな封水81を形成する。
【0007】
【特許文献1】特開2000−1347号公報の図2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記洋風水洗式便器本体90は、ボウル92の開口を大きくし、これによって使用し易くしようとすると、トイレ室の空間を狭めたり、清掃性が劣るものとなったりしてしまう。
【0009】
すなわち、ボウル92は当然に鉢面が上方に向かうほど外方に広がるように傾斜していることから、ボウル92自体の外形を水平方向に広げてしまうと、洋風水洗式便器本体90が水平方向に大きくなり、トイレ室の空間が狭くなってしまう。一方、ボウル92自体の外形を水平方向に広げることなく、リム93の水平部93aの幅を可及的に短くしようとすると、この洋風水洗式便器本体90はリム93の折り返し部93bが前方及び後方において前方の水平部93aより長くされていたため、リム93の折り返し部93bがボウル92の鉢面に干渉したり、近づいてしまい、尿等がリム93内に隠れ易く、清掃性が劣ることとなってしまう。
【0010】
この点、特開2001−323541号公報の図9に示すように、リムの折り返し部を水平部より短くすることも考えられる。こうすれば、ボウル自体の外形を水平方向に広げないことによりトイレ室の空間を広くしつつ、ボウルの開口を大きくするために水平部を可及的に短くしても、折り返し部がボウルの鉢面から遠ざかることとなり、使用のし易さと清掃性の向上とを実現できる。
【0011】
しかしながら、同公報開示の洋風水洗式便器本体では、折り返し部の中心側の面が垂直になっており、その面を目視し難い。このため、その面に汚物が付着した場合にそれを見逃し易く、不潔になり易い。また、そのような洋風水洗式便器本体は、折り返し部を型から抜き難く、製造もし難い。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、トイレ空間の拡大、使用のし易さ及び清掃性の向上を実現可能としつつ、清潔性及び製造性の向上も実現可能な洋風水洗式便器本体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の洋風水洗式便器本体は、台座と、該台座に保持されたボウルと、該ボウルの上縁に形成されたリムと、該ボウルの下端に接続されたトラップとを有し、該リムは、該ボウルの上端から該ボウルの中心に向かって略水平に突出する水平部と、該水平部の先端から下方に屈曲する折り返し部とからなり、該台座、該ボウル、該リム及び該トラップが一体に成形されてなる洋風水洗式便器本体において、
前方においては前記折り返し部は前記水平部より短く、該折り返し部の中心側の面は上方に向かうほど外方に広がるように傾斜していることを特徴とする。
【0014】
本発明の洋風水洗式便器本体では、前方においてもリムに折り返し部が存在することから、洗浄水が外部に飛散し難い。このため、リムの水平部の幅を短くすることができ、ボウルの開口を大きくして使用のし易さを実現することができる。また、この洋風水洗式便器本体では、前方おいては折り返し部が短いので、折り返し部がボウルの鉢面から遠ざかることとなり、使用のし易さと清掃性の向上とを実現できる。
【0015】
また、この洋風水洗式便器本体では、折り返し部の中心側の面が上方に向かうほど外方に広がるように傾斜している。換言すれば、折り返し部の中心側の面が下方に向かうほど内方に狭まるように傾斜している。このため、その面を上方から目視し易く、仮に尿等がその面に付着したとしても、それを見逃し難く、清潔に保ち易い。さらに、この洋風水洗式便器本体は、折り返し部を型から抜き易く、製造もし易い。
【0016】
したがって、本発明の洋風水洗式便器本体によれば、トイレ空間の拡大、使用のし易さ及び清掃性の向上を実現しつつ、清潔性及び製造性の向上も実現することができる。
【0017】
また、本発明の洋風水洗式便器本体では、水平部を可及的に短くできるため、一体成形がより一層容易になり、コストダウンを実現することも可能である。さらに、この洋風水洗式便器本体は、水平部が短いことにより上面が垂下し難く、便座等を安定して支持することができる。
【0018】
本発明において、前方とは、洋風水洗式便器本体を上方から見た場合、リムの水平部がほぼ等しい幅になっている部分をいう。
【0019】
折り返し部の中心側の面は、垂直に対して、5〜30°の範囲で傾斜していることが好ましい。5°より小さく傾斜しているだけでは、本発明の効果が得られ難く、30°を超えて傾斜していると、ボウルの開口を狭くして使用し難くなってしまうからである。
【0020】
後方においては折り返し部は前方の水平部より長いことが好ましい。洋風水洗式便器本体の後方には便器洗浄タンク、パイプ等からなる便器洗浄装置が設けられ、そのパイプを折り返し部によって隠蔽した方が汚れ難く、かつ優れた外観を呈するからである。
【0021】
本発明において、後方とは、洋風水洗式便器本体を上方から見た場合、リムの水平部がほぼ等しい幅になっている部分より後方をいう。
【0022】
本発明の洋風水洗式便器本体は、ボウルの鉢面で洗浄水が旋回流を生じるものであることが好ましい。この洋風水洗式便器本体は水平部を可及的に短くできるものであり、こうして水平部を短くしても、この場合、洗浄水の旋回流によってリムが洗浄水を外部に飛散させない。
【0023】
ボウルの鉢面で洗浄水が旋回流を生じるようにするためには、リム内に洗浄水が両方向から吐出される場合、便器洗浄タンク等からディストリビュータで両側のパイプに洗浄水を左右で差を有して分配させることができる。ディストリビュータによって左右の分配量に差を設ければ、分配量の多い一方側の洗浄水によってボウルの鉢面に旋回流を生じさせつつ、一方側だけの吐出では十分に洗浄できない部分を分配量の少ない他方側の洗浄水によって洗浄することができる。
【0024】
また、ボウルの鉢面で洗浄水が旋回流を生じるようにするため、リム内に洗浄水が一方向から吐出されるためのものであることもできる。この場合、一方側の洗浄水によってボウルの鉢面に旋回流を生じさせ、リムが洗浄水を外部に飛散させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0026】
実施例1の洋風水洗式便器本体1は、図1及び図2に示すように、台座2と、この台座2に保持されたボウル3と、このボウル3の上縁に形成されたリム4と、ボウル3の下端に接続され、ボウル3に封水81を形成しつつ汚物を封水81とともに排出するトラップ5とを有している。
【0027】
リム4は、図4に示すように、ボウル3の上端からボウル3の中心に向かって略水平に突出する水平部4aと、水平部4aの先端から下方に屈曲する折り返し部4bとからなる。
【0028】
図2及び図4に示すように、洋風水洗式便器本体1を上方から見た場合、リム4の前方の水平部4aは等しい幅w1(30mm)になっている。図4に示すように、水平部4aの上面は略水平になっている。この前方において、折り返し部4bは、水平部4aの上面からL1(14mm)、水平部4aの下面からL2(5mm)の位置まで突出している。このように、折り返し部4bは水平部4aの幅の半分以下であることが好ましい。こうして、前方において、折り返し部4bは水平部4aより短くされている。一方、図1に示すように、後方において、折り返し部4bは前方の水平部4aより長くされている。
【0029】
また、図4に示すように、折り返し部4bの中心側の面4cは、垂直に対し、上方に向かうほど外方に広がるようにθ1(8°)傾斜している。
【0030】
この洋風水洗式便器本体1は以下のように製造した。まず、図3に示すように、吸水性のある上型51及び下型52を用意し、排泥鋳込成形法を行う。そして、上型51及び下型52を型開きし、成形体1aを得る。この型開きの際、成形体1aは、折り返し部4bになる部分が傾斜していることから、上型51を容易に抜くことができる。この後、折り返し部4bになる部分を残した残余Yを図中のC面で切断する。C面は、成形体1aを焼成することにより、折り返し部4bが上記の関係になるように設定する。こうして得られた成形体1aは、焼成によって台座2、ボウル3、リム4及びトラップ5となる各部分を一体に有している。また、この成形体1aでは、水平部4aになる部分を可及的に短くしているため、一体成形が容易であり、コストダウンを実現している。そして、この成形体1aを乾燥、焼成し、洋風水洗式便器本体1を製造した。この際、水平部4aが短いため、水平部4aの上面が垂下し難い。
【0031】
かかる洋風水洗式便器本体1の後方には、図1及び図2に示すように、ディストリビュータ82bが搭載され、ディストリビュータ82bにはリム4内に洗浄水を両方向から吐出するパイプ82c、82dが接続される。ディストリビュータ82bは、パイプ82dに大量の洗浄水を吐出させ、パイプ82cに少量の洗浄水を吐出させるように、分配量に差を有している。また、図示しない便器洗浄タンク等が搭載され、洋風水洗式便器とされる。他の構成は従来のものと同様である。
【0032】
この洋風水洗式便器はトイレ室内で使用されることによって洋風水洗式便器本体1のボウル3が汚物を受ける。そして、便器洗浄タンク等からディストリビュータ82bでパイプ82c、82dに洗浄水を分配する。ここで、ディストリビュータ82bによってパイプ82c、82dの分配量に差を設けているため、パイプ82dから吐出される洗浄水によってボウル3の鉢面に旋回流を生じさせつつ、パイプ82dだけの吐出では十分に洗浄できない部分をパイプ82cから吐出する洗浄水によって洗浄することができる。この洋風水洗式便器本体1は水平部4aを可及的に短くできるものであり、こうして水平部4aを短くしても、パイプ82d側の洗浄水によって生じる旋回流によってリム4が洗浄水を外部に飛散させない。こうして、ボウル3の鉢面が洗浄され、かつ汚物が封水81とともにトラップ5から排出される。そして、洗浄の後半において、トラップ5がボウル3に新たな封水81を形成する。
【0033】
また、この洋風水洗式便器における洋風水洗式便器本体1では、前方においてもリム4に折り返し部4bが存在することから、洗浄水が外部に飛散し難い。このため、リム4の水平部4aの幅を短くすることができ、ボウル3の開口を大きくして使用のし易さを実現することができる。また、この洋風水洗式便器本体では、前方おいては折り返し部4bが短いので、折り返し部4bがボウル3の鉢面から遠ざかることとなり、使用のし易さと清掃性の向上とを実現できる。
【0034】
さらに、この洋風水洗式便器本体1では、折り返し部4bの面4cが上方に向かうほど外方に広がるように傾斜しているため、その面4cを上方から目視し易く、仮に尿等がその面4cに付着したとしても、それを見逃し難く、清潔に保ち易い。
【0035】
したがって、この洋風水洗式便器本体1によれば、トイレ空間の拡大、使用のし易さ及び清掃性の向上を実現しつつ、清潔性及び製造性の向上も実現することができる。
【0036】
また、この洋風水洗式便器本体1は、リム4の水平部4aの上面が水平に形成され易いため、便座等を安定して支持することができる。
【0037】
さらに、この洋風水洗式便器本体1においては、後方において、折り返し部4bが前方の水平部4aより長いため、便器洗浄装置82のパイプ82b等を折り返し部4bによって隠蔽でき、パイプ82b等を汚し難く、かつ優れた外観を呈することができる。
【実施例2】
【0038】
実施例2の洋風水洗式便器本体11は、図5に示すように、リム14の折り返し部14bの中心側の面14cが垂直に対して上方に向かうほど外方に広がるようにθ2(26°)傾斜している。他の構成は実施例1と同一であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0039】
この洋風水洗式便器本体11においても、実施例1のものと同様の作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0040】
実施例3の洋風水洗式便器本体21は、図6に示すように、リム4内に洗浄水を一方向から吐出するパイプ82cだけがディストリビュータ82bに接続されている。他の構成は実施例1又は実施例2と同一であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
この洋風水洗式便器本体21においては、パイプ82cによる一方側の洗浄水によってボウル3の鉢面に旋回流を生じさせ、リム4が洗浄水を外部に飛散させない。他の作用効果は実施例1のものと同様である。
【0042】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は洋風水洗式便器に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1の洋風水洗式便器本体の縦断面図である。
【図2】実施例1の洋風水洗式便器本体の平面図である。
【図3】実施例1の洋風水洗式便器本体の成形体等を示す拡大断面図である。
【図4】実施例1の洋風水洗式便器本体に係り、その要部拡大断面図である。
【図5】実施例2の洋風水洗式便器本体に係り、その要部拡大断面図である。
【図6】実施例3の洋風水洗式便器本体の平面図である。
【図7】従来の洋風水洗式便器本体の縦断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1、11、21…洋風水洗式便器本体
2…台座
3…ボウル
4…リム
5…トラップ
4a…水平部
4b…折り返し部
4c…中心側の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座と、該台座に保持されたボウルと、該ボウルの上縁に形成されたリムと、該ボウルの下端に接続されたトラップとを有し、該リムは、該ボウルの上端から該ボウルの中心に向かって略水平に突出する水平部と、該水平部の先端から下方に屈曲する折り返し部とからなり、該台座、該ボウル、該リム及び該トラップが一体に成形されてなる洋風水洗式便器本体において、
前方においては前記折り返し部は前記水平部より短く、該折り返し部の中心側の面は上方に向かうほど外方に広がるように傾斜していることを特徴とする洋風水洗式便器本体。
【請求項2】
後方においては前記折り返し部は前方の前記水平部より長いことを特徴とする請求項1記載の洋風水洗式便器本体。
【請求項3】
前記ボウルの鉢面で洗浄水が旋回流を生じるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の洋風水洗式便器本体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−233555(P2006−233555A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48886(P2005−48886)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】