説明

洗い場付浴槽

【課題】防汚性に優れた浴槽部と乾燥性に優れた洗い場部とが一体的に成形され、且つ、耐久性に優れた洗い場付浴槽を提供する。
【解決手段】浴槽が備えられた浴槽部と、前記浴槽部と一体に成形された洗い場部と、を有し、前記浴槽を構成する材料の水の接触角と前記洗い場部を構成する材料の水の接触角とが、下記式(1)の関係を満たす洗い場付浴槽(式(1):A>B(A:前記浴槽を構成する材料の水の接触角、B:前記洗い場部を構成する材料の水の接触角))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽と洗い場部とが一体的に成形される洗い場付浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;FRP)は、加工成形されることにより多種多様の製品とされ、住宅設備機器等として用いられることが多い。特に、浴室内などの、浴槽、例えば、ユニットバスの床、浴槽、壁や洗面化粧台のパネルなどに使用される。
【0003】
水や湿気に晒される浴槽では、環境状況に応じて、ピンク色や褐色を呈したぬるぬるした付着物が発生し、また浴室の壁、床、天井などでは黒色又は褐色のカビが発生し易い。特に浴室は水垢、皮脂、金属石けんなど様々な要因によって汚れやすく、更に、これらの汚れを栄養素としてカビや細菌も発生する場合がある。
【0004】
従来の繊維強化プラスチック等は、浴室等の使用条件では、水垢、皮脂、石鹸カス等の付着がみられる。この際、浴室等を清潔に保つために付着した汚れを除去しようとすると長時間の清掃が必要であった。また、浴室等には水分が残りやすいため、カビ等も発生しやすい状況となっていた。
これに対し、近年では、台所の壁やタイルなどの汚れを防止するために、樹脂表面をフッ素コーティング加工したり、防汚性を有する機能性部材を積層する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、反応性基を有しないシリコーンオイルと樹脂とを含む樹脂組成物や、反応性基を有するシリコーンオイルと樹脂とを含む樹脂組成物等が開示されている(例えば、特許文献2〜7参照)。
【0005】
一方、浴室の洗い場については、形状効果により、水たまりが生じるのを抑制し、水残りをしにくくして排水性を高めることで乾燥性を向上させる技術が多く用いられている。また、洗い場については、例えば、水はけ性や滑り防止性等を改良した技術が提案されている(例えば、特許文献8〜11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−137149号公報
【特許文献2】特開平10−310760号公報
【特許文献3】特開2001−234079号公報
【特許文献4】特開2001−89651号公報
【特許文献5】特開2002−69378号公報
【特許文献6】特開2002−293969号公報
【特許文献7】特開2008−184487号公報
【特許文献8】特許4230411号公報
【特許文献9】特開2006−68279号公報
【特許文献10】特開2004−208928号公報
【特許文献11】特開2004−162514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、基材となる樹脂表面をコーティング加工したり、機能性部材を樹脂に積層するには、専門の設備を必要とし、樹脂表面の形状が複雑である場合には、均一なコーティングが困難であり、樹脂表面との機能性部材の接着性が弱くなることがある。
また、樹脂組成物に含まれるシリコーンオイルが反応性基を有していない場合、樹脂組成物を成形加工した浴槽の使用と共に、シリコーンオイルが取り除かれ、防汚性能等の効果が、経時と共に弱くなることがある。
これに対し、反応性基を有するシリコーンオイルを含有する樹脂組成物は、経時による性能の低下を抑制し得るものの、優れた防汚性を発現することができなかった。
【0008】
また、同じ浴室内であっても、浴槽部と洗い場部とでは水(水滴)に対して求められる性能が異なる。例えば、浴槽に関しては、浴槽の側面から水滴が転落しやすいように構成することが防汚性の観点から好ましい。一方、洗い場に関しては、排水性の観点から水滴ができないように形状効果によって水たまりを無くし、水残りをしにくくすることが好ましい。例えば、前記特許文献8においては、浴室床の排水部付近の樹脂材料をその他の部分よりも高い親水性を有する材料で構成することで、排水部廻りの水滴の残存を回避している。また特許文献9では、浴槽の水平面に親水性塗膜を形成し、垂直面には撥水塗膜を形成している。このように、浴槽と洗い場とに要求される性能は異なるものであり、例えば、防汚処理して撥水性を付与した繊維強化プラスチックを用いて浴槽と洗い場部とを一体成形すると、材料の撥水性が、形状効果によって高めた洗い場部の排水性を打ち消してしまう場合がある。
【0009】
しかし、従来では洗い場付浴槽を一体成形する場合、通常、単一の材料が用いられ、それぞれの部材にあった表面特性を付与するためには、塗膜を形成する等の手段を用いることが多くなされていた。この場合、専門の設備を必要とし、樹脂表面の形状が複雑である場合には、均一なコーティングが困難であり、塗膜と樹脂表面との機能性部材の接着性が弱くなることがある。
このように、既存の設備によって浴槽部と洗い場部とを一体成形でき、且つ、耐久性に優れるとともに、浴槽部の防汚性と洗い場部の乾燥性とを両立した洗い場付浴槽は未だ開発されていなかった。
【0010】
本発明は前記課題を解決すべく、防汚性に優れた浴槽部と乾燥性に優れた洗い場部とが一体的に成形され、且つ、耐久性に優れた洗い場付浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の洗い場付浴槽は、浴槽が備えられた浴槽部と、前記浴槽部と一体に成形された洗い場部と、を有し、前記浴槽を構成する材料の水の接触角と前記洗い場部を構成する材料の水の接触角とが、下記式(1)の関係を満たす。
式(1):A>B(A:前記浴槽を構成する材料の水の接触角、B:前記洗い場部を構成する材料の水の接触角)
【0012】
本発明の洗い場付き浴槽は、浴槽部と洗い場部とが一体に成形されながら、各々の材料として、水の接触角が異なるものを用いる。具体的には、浴槽部の材料として水の接触角が高い材料を用いて撥水性を高めることで防汚性を向上させつつ、洗い場部の材料には水の接触角が小さい材料を用いて排水性を高めることで乾燥性を高めている。即ち、浴槽では撥水性によって汚れが付着しにくくなり、洗い場部では水が水滴となって残りにくい。更に、本発明の洗い場付き浴槽は、浴槽部と洗い場部とに別の材料を用いるため、塗膜等を表面に付与して親水性又は撥水性を付与する場合のように塗膜との密着性や塗膜の欠落等を考慮する必要がないため、耐久性にも優れる。
【0013】
本発明の洗い場付浴槽は、前記洗い場部が、凹凸状のパターンを有するように構成することができる。
【0014】
本発明の洗い場付浴槽によれば、前記洗い場部に凹凸状パターンを設けることで、パターンの形状効果により、水たまりが生じるのを抑制し、水残りをしにくくて洗い場部の排水性を高めることができる。これにより、本発明の洗い場付浴槽における洗い場部の乾燥性を向上させることができる。
【0015】
本発明の洗い場付浴槽は、前記浴槽を構成する材料の水の接触角が90°以上であり、且つ、前記洗い場部を構成する材料の水の接触角が90°よりも小さくなるように構成することができる。
【0016】
本発明の洗い場付浴槽によれば、前記浴槽を構成する材料の水の接触角を90°以上とすることで、浴槽の撥水性を更に高めると共に、前記洗い場部を構成する材料の水の接触角を90°よりも小さくすることで、洗い場部の排水性を更に高めることができる。これにより、本発明の洗い場付浴槽は、更に浴槽の防汚性と洗い場の乾燥性とを向上させることができる。
【0017】
本発明の洗い場付浴槽は、前記浴槽を構成する材料として、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と、前記基体樹脂100質量部に対して、2質量部〜4質量部の、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物と、を含有する繊維強化プラスチック組成物を用いることができる。
【0018】
本発明の洗い場付浴槽によれば、前記浴槽を構成する材料として、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と、前記基体樹脂100質量部に対して、2質量部〜4質量部の、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物と、を含有する繊維強化プラスチック組成物を用いることで、浴槽の水に対する接触角を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防汚性に優れた浴槽部と乾燥性に優れた洗い場部とが一体的に成形され、且つ、耐久性に優れた洗い場付浴槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る洗い場付浴槽を示す斜視図である。
【図2】本発明の洗い場付き浴槽の成形工程に用いられる金型の型開き状態を示す断面図である。
【図3】本発明の洗い場付き浴槽の成形工程に用いられる金型の型締め状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の洗い場付浴槽は、浴槽が備えられた浴槽部と、前記浴槽部と一体に成形された洗い場部と、を有し、前記浴槽を構成する材料の水の接触角と前記洗い場部を構成する材料の水の接触角とが、下記式(1)の関係を満たす。
式(1):A>B(A:前記浴槽を構成する材料の水の接触角、B:前記洗い場部を構成する材料の水の接触角)
【0022】
ここで、「水の接触角」とは、各材料の成形品に対し、蒸留水1.5μLを接触させたときの接触角を意味し、3回の測定結果の平均値を示す。前記接触角は、たとえば、協和界面科学製接触角測定装置によって測定することができる。
【0023】
本発明の洗い場付浴槽は、浴槽を備えた浴槽部と、前記浴槽部と一体に成形された洗い場部とを有している。本発明の洗い場付浴槽は、前記浴槽を構成する材料の水の接触角(A)と前記洗い場を構成する材料の接触角(B)とが、式(1):A>Bの関係を有する。本発明の洗い場付浴槽は、前記浴槽を構成する材料及び前記洗い場部を構成する材料として、それぞれ水の接触角の異なる材料を用いる。即ち、浴槽を構成する材料としては、水の接触角の大きな材料を用い、洗い場部を構成する材料としては水の接触角の小さな材料を用いる。前記浴槽に水の接触角の大きな材料を用いることで、浴槽の撥水性を高めることができる。これにより浴槽の防汚性を向上させることができる。一方、洗い場部には、水の接触角の小さい材料を用いることで、排水性を高めることができるため、水が水滴となって洗い場部に残りにくい。これにより、洗い場部の乾燥性を向上させることができる。
【0024】
前記洗い場を構成する材料の接触角(B)が前記浴槽を構成する材料の水の接触角(A)よりも大きいと、洗い場部の撥水性が大きくなりすぎて、洗い場部の水が水滴となってしまい流れにくくなり、排水性が低下してしまう。
前記浴槽を構成する材料(A)の水の接触角としては90°以上であることが好ましい。浴槽を構成する材料(A)の水の接触角が90°以上であると、更に撥水性を向上させることができる。
【0025】
また、前記浴槽を構成する材料は、水に対する転落角が小さいことが好ましく、例えば、転落角40°以下であることが好ましい。前記浴槽を構成する材料の転落角が40°以下であると、水の転がり性に優れる。ここで、「水の転がり性」とは、水滴を載せた製品の表面を傾けて、水滴が転がり始める角度(転落角)を測定することにより評価される。水の接触角が大きく撥水性が高いと思われがちな製品表面でも、転落角が大きくなることがある。つまり、水の転がり性(転落角)は、一般に撥水性乃至防汚性の評価指標となる接触角評価よりも厳しい防汚性の評価基準であると考えられる。前記浴槽を水の転がり性の高い材料で成形することで、浴槽の長期的な防汚性を実現し得る。
なお、転落角は、接触角同様、各種接触角測定装置(例えば、協和界面科学社製の全自動接触角計など)で測定することができる。
前記転落角の小さい材料については後述する。
【0026】
また、前記洗い場部を構成する材料の水の接触角は90°よりも小さいほうが好ましい。水の接触角が90°よりも小さいと洗い場部の撥水性を小さくすることができ、洗い場部の水の排水効果が高まって乾燥性を高めることができる。
【0027】
また、本発明の洗い場付き浴槽は、更にエプロン部を有し、前記浴槽部と前記洗い場部とが前記エプロン部を介して連なっているように構成することができる。前記エプロン部を構成する材料としては、特に限定はないが、前記浴槽を構成する材料と同様のものを用いることで、エプロン部の防汚性を向上させることができる。
【0028】
更に、本発明の洗い場付き浴槽は、後述するように、例えば、上型と下型とから構成される上下一対の金型であり、且つ、前記金型を型締め状態とした際に少なくとも浴槽部を形成するための第1の成形空間と、洗い場部を形成するための第2の成形空間と、エプロン部を形成するための第3の成形空間とを有する金型を用い、前記下型における、第1の成形空間に対応する部位、及び、第3の成形空間に対応する部位に、前記浴槽及びエプロン部を構成する防汚性材料(例えば、後述する撥水性FRP組成物)を載置し、更に、第2の成形空間に対応する部位に前記防汚性材料よりも水に対する接触角の小さい材料を載置し、次いで、前記金型を型締めすることで製造することが出来る。
【0029】
以下、図を用いて本発明の洗い場付浴槽の構成について説明し、次いで、浴槽を構成する材料及び洗い場部を構成する材料について説明する。
【0030】
まず、本発明の洗い場付き浴槽について図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る洗い場付浴槽12を示す斜視図である。但し、本発明は下記の実施態様に限定されるものではない。
【0031】
図1に示すように、洗い場付浴槽12は、洗い場部14と、浴槽20を有する浴槽部16と、エプロン部18とを備えている。前記エプロン部18は、洗い場部14と浴槽部16と共に一体成形されている。本発明においては、浴槽20を含む浴槽部16を構成する材料は、洗い場部14を構成する材料の水の接触角よりも大きな水の接触角を有する材料が用いられている。また、エプロン部18を構成する材料としては、浴槽部16を構成する材料と同じものを用いることができる。これにより、浴槽部16と同様にエプロン部18の防汚性を向上させることができる。
【0032】
洗い場部14は、浴槽部16を構成する材料の水の接触角よりも小さな水の接触角を有する材料が用いられている。即ち、図1においては、浴槽部16及びエプロン部18が同様の材料で形成されており、浴槽部16及びエプロン部18を構成する材料の水の接触角が洗い場部14を構成する材料の水の接触角よりも大きくなっている。また、図1において洗い場部14は、略平板状に形成されており、入浴者の洗い場となる。図1では省略されているが、洗い場14には凹凸状のパターンが形成されている。
【0033】
上述のように、本発明の洗い場付浴槽においては、水はけをよくするために洗い場14に凹凸状のパターンを設けることができる。このような凹凸状のパターンとしては、例えば、特開2006−336423公報に記載の浴室床パネル表面に形成される断面形状を採用することができる。
【0034】
浴槽部16は、浴槽20と、その上端のフランジ部22とが一体成形されている。更に、洗い場部14と浴槽部16(フランジ部22)との間で、エプロン部18が一体成形されており、これによって、浴槽部16からエプロン部18を経て洗い場部14へと連続する洗い場付浴槽12が構成されている。
【0035】
洗い場部14及び浴槽部16において、エプロン部18と連続する辺以外のそれぞれ3辺(合計で6辺)からは、上方に向けてフランジ辺24が形成されており、洗い場部14及び浴槽部16の剛性が高められている。フランジ辺24は、洗い場付浴槽12が浴室に設置されたときに、図示を省略する浴室内壁よりも外側に位置して、水返しとして作用する。
【0036】
次に浴槽及び洗い場部に用いることのできる材料について説明する。またエプロン部を構成する場合にも前記浴槽と同様の材料を用いるのが好ましい。本発明において、各材料は、上述の水の接触角の関係を満たすものであれば本発明の効果を阻害しない限り適宜選定して用いることができるが、例えば、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と繊維とを含む繊維強化プラスチック組成物を用いることができる。繊維強化プラスチック組成物は例えばシリコーンオイルを付与することで、成形品とした場合に水の接触角を大きくすることができる。即ち、シリコーンオイルの添加によって、繊維強化プラスチック樹脂に撥水性を付与することできる。
【0037】
このため、例えば、浴槽を構成する材料として、少なくともシリコーンオイルと、不飽和樹脂を含む基体樹脂と、繊維と、を含む撥水性の繊維強化プラスチック組成物を用い、洗い場部には、シリコーンオイルを添加せず、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と繊維とを含む繊維強化プラスチック組成物を用いることで、本発明の洗い場付浴槽を形成することができる。尚、繊維強化プラスチックは、FRP(Fiber Reinforced Plastics)とも略称され、繊維強化プラスチック組成物を「FRP組成物」と称することがある。
【0038】
<撥水性繊維強化プラスチック組成物>
前記浴槽やエプロン部を構成する材料に用いることのできる撥水性の繊維強化プラスチックとしては、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と、前記基体樹脂100質量部に対して、2質量部〜4質量部の、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物と、を含有して構成される繊維強化プラスチックを用いることができる(以下、当該繊維強化プラスチック組成物を「撥水性FRP組成物」と称する。)。
また、以下、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物を、「特定シリコーン化合物」とも称する。
【0039】
前記撥水性FRP組成物を成形加工等して浴槽を作製したとき、水まわり製品の撥水性及び水の転がり性を高め、安価で、曲面などの複雑形状品にも適用可能で、長期的な耐久性に優れ、浴室などの紫外線が殆ど入らない屋内においても良好な防汚効果を発揮することができる。この理由は定かではないが、次の理由によるものと推測される。
【0040】
特定シリコーン化合物は、分子の片末端に、反応性基を有することから、不飽和樹脂を含む基体樹脂と共に用いられることで、不飽和樹脂の二重結合部分と、特定シリコーン化合物の反応性基との間で反応が生じ、基体樹脂と特定シリコーン化合物とが結合すると考えられる。さらに、撥水性FRP組成物の成型品である浴槽やエプロン部の撥水性と水の転がり性とを向上させるためには、基体樹脂とシリコーン化合物とが結合して得られるポリシロキサン分子のシロキサン部分が、基体樹脂から離脱することなく表面側に偏在していることが必要と考えられる。
このとき、シリコーン化合物の分子鎖が長過ぎると、基体樹脂に含まれる不飽和樹脂とシリコーン化合物とが相溶しにくいため、シリコーン化合物が不飽和樹脂と結合し難いと考えられる。一方、シリコーン化合物の分子鎖が短すぎると、逆に、シリコーン化合物が、基体樹脂と混ざり合いすぎて、シリコーン化合物と不飽和樹脂とが反応しても、シリコーン化合物由来のシロキサン部分が基体樹脂の表面に偏在し難いと考えられる。
また、基体樹脂に対するシリコーン化合物の割合も、基体樹脂の表面へのシロキサン部分の偏在に大きく関わり、シリコーン化合物の基体樹脂に対するシリコーン化合物の割合が少ないと、撥水性や水の転がり性を発現できないと考えられる。一方、基体樹脂に対するシリコーン化合物の割合が多いと、浴槽やエプロン部を形成したときに、不飽和樹脂と反応せずに残ったシリコーン化合物が浮き出し、表面性状に支障をきたし、撥水性や水の転がり性を損ねると考えられる。
【0041】
一般に高分子化合物の分子鎖の長さは、化合物の分子量と関連し、シリコーン化合物の数平均分子量が、5,000〜20,000であり、基体樹脂100質量部に対するシリコーン化合物の2〜4質量部の割合とすることで、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物と基体樹脂に含まれる不飽和樹脂とが反応して結合したとき、基体樹脂の表面にシロキサン部分が偏在するものと考えられる。
その結果、撥水性のみならず、水の転がり性にも優れた浴槽やエプロン部を製造することができ、長期的な防汚性能を発現することができると考えられる。
このように、撥水性FRP組成物は、未反応状態の不飽和樹脂と、特定シリコーン化合物とを含有する組成物であり、組成物中の不飽和樹脂と、特定シリコーン化合物とを反応し、ポリシロキサン複合樹脂としたものを、浴槽等を構成する材料とすることができる。
【0042】
以下、特定シリコーン化合物、基体樹脂、その他繊維強化プラスチック組成物を構成する成分について説明する。
【0043】
〔シリコーン化合物〕
撥水性FRP組成物は、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物(特定シリコーン化合物)を含有することができる。
シリコーン化合物の化学構造の詳細については、後述するが、片末端とは、例えば、シロキサン部位を繰り返し単位として有する分子鎖(主鎖)を有するシリコーン化合物の一方の末端を意味し、主鎖の途中、すなわち、側鎖に反応性基を有することは含まれない。
【0044】
反応性基を有する特定シリコーン化合物は、不飽和樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチック組成物に配合されて硬化すると、反応性基が、不飽和樹脂の二重結合と反応することにより、非反応性のポリシロキサン部分が残ると推定される。この残ったポリシロキサン部分は不飽和樹脂と非相溶なため、得られる成形品の最表面において選択的に非反応性のポリシロキサン部分の濃度が高くなると考えられる。このポリシロキサン部分が高い撥水性及び水の転がり性を示すため、水まわり製品の表面に汚れや菌が付き難く、また、付着した汚れや菌が取れ易くなると考えられる。
【0045】
前記撥水性FRP組成物は、不飽和樹脂の二重結合と特定シリコーン化合物の反応性基との反応で、成形品表面に非反応性で撥水性の高いポリシロキサン部分を生成させることにより、防汚性を得ることから、反応性基を持たない非反応性のポリシロキサンのみからなるストレートシリコーンオイルでは、これを繊維強化プラスチックに配合しても配合部数を相当量増加しないと撥水性は得られない。
【0046】
前記撥水性FRP組成物は、通常の繊維強化プラスチック組成物に更に特定シリコーン化合物を配合するのみであり、材料コストの高騰の問題はなく、しかも、成形工程や後加工工程の増加の問題もなく、安価に提供される。しかも、成形性に影響を及ぼすような多量配合の必要もなく、複雑形状品にも十分に適用し得る。更に、コーティング被膜のような後加工によるものではないため、防汚性の耐久性にも優れ、また、紫外線等の外部環境に何ら関係を受けることなく、良好な防汚性を得ることができる。
即ち、本発明における浴槽を構成する材料として撥水性FRP組成物を用い、洗い場部を構成する材料として通常のFRP組成物(特定シリコーン化合物を配合していないもの)を用い、これを一体成形することで、容易に水の接触角の異なる浴槽と洗い場部とを有する洗い場付浴槽を形成することができる。
【0047】
前記特定シリコーン化合物が有する反応性基としては、例えば、二重結合を含む官能基(エチレン性不飽和結合基)、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、カルボキシ基等が挙げられる。中でも、二重結合を含む官能基が好ましく、より具体的には、下記一般式(1)に示されるアクリロイル基を含む基、及び、下記一般式(2)に示されるメタクリロイル基を含む基の少なくとも一方が挙げられる。
【0048】
【化1】

【0049】
一般式(1)のRa、及び一般式(2)中のRbは、各々独立に、単結合、又は、2価の連結基を表す。Ra又はRbで表される2価の連結基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
中でも、アルキレン基が好ましく、炭素数は1〜6が好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、中でもプロピレン基が好ましい。2価の連結基がさらに置換可能な場合は、2価の連結基は、炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基などの1価の置換基を有していてもよい。
【0050】
特定シリコーン化合物は、前記のような反応性基を、シロキサン部位を繰り返し単位として有する分子鎖(主鎖)の片末端に有する。
分子鎖の片末端に反応性基を有するシリコーン化合物としては、例えば、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0051】
【化2】

【0052】
一般式(3)中、R〜Rは、各々独立に、1価の非反応性の置換基を表し、nは繰り返し単位の量を表し〔ただし、一般式(3)で表される化合物の数平均分子量が5,000〜20,000のとなる範囲で選択される量を表す〕、Qは反応性基を表す。
【0053】
一般式(3)中のR〜Rで表される1価の非反応性の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。R〜Rは全て同じであっていても、異なっていてもよい。また、繰り返し単位中の複数のR同士、及びR同士は、同じであっても異なっていてもよい。
中でも、水素原子又はアルキル基が好ましい。
アルキル基としては、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、より好ましくは1〜4である。
【0054】
一般式(3)中のQは、反応性基を表し、例えば、一般式(1)に示されるアクリロイル基を含む基、一般式(2)に示されるメタクリロイル基を含む基等が挙げられる。
本発明において、特定シリコーン化合物が有する反応性基は、分子鎖の片末端に位置し、分子鎖の側鎖や、分子鎖の両末端に反応性基を有するシリコーン化合物は、特定シリコーン化合物に含まれない。なお、分子鎖の側鎖に反応性基を有するものとしては、例えばシリコーン化合物が一般式(3)で表される場合、R及びRの少なくとも一方が反応性基である場合をいう。また、分子鎖の両末端に反応性基を有するものとしては、シリコーン化合物が一般式(3)で表される場合、Qのほかに、R〜Rの少なくとも1つが反応性基である場合をいう。
【0055】
特定シリコーン化合物としては、前記の中でも、一般式(3)で表され、R〜Rが全てメチル基であり、Qが一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0056】
特定シリコーン化合物の数平均分子量(Mnとも称する)は、基体樹脂に含まれる不飽和樹脂との反応性、及び、基体樹脂表面に特定シリコーン化合物が偏在する観点から、5,000〜20,000であり、6,000〜15,000であることが好ましい。既述のように、特定シリコーン化合物の数平均分子量(Mn)が20,000を超えると、基体樹脂に含まれる不飽和樹脂とシリコーン化合物とが相溶せずに分離し、表面へ選択的に集まらなくなり、分子量が5,000未満であると、シリコーン化合物が相溶しすぎて、基体樹脂表面にシリコーン化合物が偏在しないため、優れた撥水性と水の転がり性を発現することができない。
【0057】
前記の数平均分子量を有する特定シリコーン化合物の性状は、特に制限されず、室温で固体状態であっても、オイル状態であってもよいが、基体樹脂との反応で生成するポリシロキサン分子の成形品の最表面への移行のし易さの観点からは、室温(例えば、25℃)でオイル状であることが好ましい。
【0058】
また、撥水性FRP組成物中の特定シリコーン化合物の含有量は、基体樹脂100質量部に対して、2質量部〜4質量部であることが好ましい。特定シリコーン化合物の含有量が2質量部以上であると、撥水性の付与効果が十分であり、防汚性を十分に発揮することができる。また、特定シリコーン化合物の含有量が4質量部以下であると、繊維強化プラスチック組成物を浴槽やエプロン部としたときに、シリコーン化合物が浴槽壁等の表面に浮き出したり、浴槽の表面性状を損ねることがない。
【0059】
〔基体樹脂〕
撥水性FRP組成物は、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂を含有する。
基体樹脂は、マトリックス樹脂として少なくとも不飽和樹脂を含み、撥水性FRP組成物を後述するSMC、TMC、BMCにより成形加工する場合には、さらに、低収縮剤等を含んで構成されていてもよい。従って、基体樹脂が不飽和樹脂のみを含む場合は、撥水性FRP組成物中の特定シリコーン化合物の含有量は、不飽和樹脂100質量部に対しての割合となり、基体樹脂が不飽和樹脂と低収縮剤とを含む樹脂組成物である場合には、撥水性FRP組成物中の特定シリコーン化合物の含有量は、不飽和樹脂と低収縮剤との合計100質量部に対しての割合となる。
【0060】
−不飽和樹脂−
基体樹脂に含まれる不飽和樹脂としては、分子内に二重結合を含む樹脂であれば特に制限されず、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂などの単独あるいは混合物よりなる不飽和樹脂が挙げられる。
中でも、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分とグリコール成分とをエステル化反応することによって得られる。不飽和ポリエステル樹脂は、数平均分子量500〜5000程度のポリマーであることが好ましい。
【0061】
マトリックス樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂を含有する液状体を用いてもよい。
不飽和ポリエステル樹脂を含有する液状体は、不飽和ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分とグリコール成分とをエステル化反応することによって得られた不飽和ポリエステル樹脂を液状のビニルモノマーに溶解したものとして得られる。
不飽和ジカルボン酸としては、通常無水マレイン酸又はフマル酸が用いられる。また、液状のビニルモノマーは、不飽和ポリエステル樹脂の溶媒として働くと共に、架橋剤として機能する。この液状のビニルモノマーとしては、一般にスチレンモノマーが用いられるが、その他メタクリル酸メチル、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのモノマーや、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの多官能性モノマーなどを、目的に応じて用いることができる。
この液状のビニルモノマーは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよく、またその配合量は特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、一般に樹脂成分の合計量、すなわち前記不飽和ポリエステル樹脂と、後述の低収縮剤との合計100質量部に対して、10〜150質量部、好ましくは15〜80質量部の範囲で選定される。
【0062】
−低収縮剤−
低収縮剤としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂や、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、粉末ポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブタジエン等の熱可塑性樹脂などが挙げられ、中でも、ポリスチレン樹脂が好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、低収縮剤の配合量は、得られる繊維強化プラスチックの収縮率や表面平滑性、表面光沢などを考慮して選定してもよく、前記マトリックス樹脂と該低収縮剤との質量比が、通常90:10乃至50:50、好ましくは80:20乃至60:40の範囲で選ばれる。
【0063】
〔他の添加成分〕
撥水性FRP組成物は、基体樹脂に対して特定シリコーン化合物を配合すること以外は、従来の一般的な繊維強化プラスチック組成物と同様の配合とすることができる。なお、繊維強化プラスチック組成物が含有する各添加成分は、いずれも一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
繊維強化プラスチックは、基体樹脂に補強材として繊維(好ましくはガラス繊維)が配合されたものである。繊維としては、ガラス繊維のほかに、炭素繊維、さらにはポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維などの有機繊維などが挙げられる。
一般に、補強材としてのガラス繊維は、E−ガラス(無アルカリガラス)、S−ガラス(High Strengthガラス)などに分類され、その形状としてはガラスロービング、チョップトストランドマット、ロービングクロスなどが使用される。
【0064】
ガラス繊維としてロービング形状の繊維を用いる場合は、通常、ロービングを切断した長繊維及び短繊維が用いられる。長繊維は、長さが、通常15〜100mm、好ましくは20〜50mmの範囲のものであり、短繊維は、長さが、通常3mm以上15mm未満、好ましくは6〜13mmの範囲のものである。
前記ロービングは、通常、繊維径5〜25μmの単繊維50〜4000本程度をポリ酢酸ビニル系、ポリエステル系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系などの集束剤で集束することにより得られたものである。
その他の添加成分としては、例えば、硬化触媒、内部離型剤、充填材等、次に示す各種成分が挙げられる。
【0065】
−硬化触媒−
硬化触媒としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエート、メチルエチルケトンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドなどの有機過酸化物が用いられる。硬化触媒は、いわゆる重合開始剤として慣用されているものである。
【0066】
−内部離型剤−
内部離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛等が用いられる。
【0067】
−充填材−
充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、タルク、硫酸バリウム、レー、マイカ、中空バルーン(ガラス、シラス、セメント)、フェライト、亜鉛華などの無機化合物などが挙げられるが、これらの中で、炭酸カルシウムが好ましい。前記充填材は、分散性をよくするために、表面処理を施すことができる。
【0068】
−増粘剤−
増粘剤として、例えば、不飽和ポリエステル樹脂中のカルボキシル基と反応し得るMgO、Mg(OH)といったアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、KO、KOHといったアルカリ金属の酸化物や水酸化物などが挙げられるが、一般的には酸化マグネシウムが用いられる。
【0069】
−着色剤−
着色剤としては、例えば、トナー、顔料等が挙げられる。
【0070】
−硬化促進剤−
硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト;オクトエ酸コバルト;N,N−ジメチルアニリン;N,N−ジエチルアニリン;N,N−ジメチル−p−トルイジン;アセチルアセトン;アセト酢酸エチルなどが挙げられる。
【0071】
−重合禁止剤−
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン;p−ベンゾキノン;メチルハイドロキノン;トリメチルハイドロキノン;t−ブチルハイドロキノン;カテコール;t−ブチルカテコール;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどが挙げられる。
【0072】
(添加成分の配合量)
撥水性FRP組成物において、特定シリコーン化合物以外の添加成分の好適配合は、成形方法や用途等によっても異なるが、一般的に次のような配合割合とされ、繊維(好ましくはガラス繊維)は、これらを含む繊維強化プラスチック組成物中に20〜50質量%程度の割合で配合される。
撥水性FRP組成物に含み得る他の添加成分の含有量は、基体樹脂(マトリックス樹脂及び低収縮剤)100質量部に対して、次の範囲であることが好ましい。
硬化触媒 :0.2〜 2質量部
内部離型剤:1.0〜10質量部
充填材 :10〜200質量部
増粘剤 :0.5〜10質量部
【0073】
以上例示したもののほか、従来から繊維強化プラスチック組成物に使用されているその他添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、揺変性付与剤などを、所望により配合することができる。
【0074】
上述のように、本発明の洗い場付浴槽は、撥水性FRP組成物を用いて成形することができる。特に、浴槽やエプロン部としては上述の撥水性FRP組成物を用い、洗い場部として通常のFRP組成物(シリコーンオイル等撥水付与成分の入っていないもの)を用いることで、本発明の洗い場付浴槽を形成することができる。
【0075】
ここで、繊維強化プラスチックの成形法には多くの成形法があり、成形材料によってSMC(Sheet Molding Compound)、BMC(Bulk Molding Compound)、TMC(Thick Molding Compound)などに分類される。
【0076】
SMCは、基体樹脂に充填材、離型剤、硬化触媒などを混練した混合物に、増粘剤を混合した組成物をポリエチレンフィルム上に塗布し、この上に繊維(例えば、ガラス繊維)を敷き、両者を圧縮含浸させてシート状としてロール巻きし、タックフリーとしたものである。
BMCは上述のベース樹脂に離型剤、硬化触媒などを混合した混合物に、充填材をニーダーで混練し、次いで増粘剤を混合した後、ガラス繊維を均一に分散混合し、ニーダー取り出して所定の大きさや形状となして熟成したものである。
TMCは、基体樹脂に充填材、離型剤、硬化触媒などを混練した混合物に、増粘剤を混合した組成物と、繊維(例えば、ガラス繊維)とを、相対する少なくとも一対のローラーの間を通過させた後、当該ローラーに近接し、かつ間隙を設けて配置された回転体の高速回転により、生成混合物をかき落とし、棒状、塊状、シート状等の所望の形状にする方法である。
【0077】
なお、SMC成形やTMC成形において、シート状のSMC乃至TMCを得る場合は、当該シートの厚みは、基体樹脂を含む混合物のガラス繊維への浸透性などの面から、通常、1〜10mm、好ましくは1〜5mmとすることができる。
【0078】
本発明の洗い場付浴槽は、常法に従って、各FRP組成物を用いて、SMC、BMC、TMC成形等により製造することができる。この際、浴槽と洗い場部とは、水の接触角の異なる材料を用いる。上述の撥水性FRP組成物は、硬化成形することで、不飽和樹脂と反応性基を有する特定シリコーン化合物とが反応する。得られた撥水性FRP組成物は、基体樹脂の表面にシロキサン部分が偏在し、固定化されているため、成形品(浴槽)は高い撥水性と高い水の転がり性とを有し、優れた防汚性を長期に亘り維持することができる。
【0079】
また、本発明の洗い場付き浴槽を一体成形する場合の一態様について図2及び図3を用いて説明する。図2は、本発明の洗い場付き浴槽の成形工程に用いられる金型の型開き状態を示す断面図である。図3は、本発明の洗い場付き浴槽の成形工程に用いられる金型の型締め状態を示す断面図である。尚、図2及び3において共通する部位には同様の符号を付し説明を省略する。
【0080】
図2には、上型30と、下型32とから構成される上下一対の金型28が示されている。上型30及び下型32は、例えば、どちらか一方を固定型とし他方を移動型とすることで移動型の型が上下に移動して、型開き及び型締めするように構成することができる。
【0081】
図2及び3に示すように、上型30及び下型32は、金型28を型締め状態とした際に本発明の洗い場付き浴槽における浴槽部を形成するための第1の成形空間34と、洗い場部を形成するための第2の成形空間36と、エプロン部を形成するための第3の成形空間38とを有するように対になって構成されている。金型28を用いて本発明の洗い場付き浴槽を形成するには、例えば、まず、図2に示すように、下型32における第1の成形空間34に対応する部位、及び、第3の成形空間38に対応する部位に、上述の撥水性FRP組成物からなる防汚性SMC40を載置し、更に、第2の成形空間36に対応する部位に前記防汚性SMCよりも水に対する接触角の小さいSMC42を載置する。次いで、金型28を型締めし、圧力を加えその後冷却することで、前記浴槽(及びエプロン部)を構成する材料の水の接触角と前記洗い場部を構成する材料の水の接触角とが、本願発明で規定する関係を有し、前記浴槽部と前記洗い場部とが前記エプロン部を介して一体成形された本発明の洗い場付き浴槽を製造することができる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、以下において、特に記載しない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0083】
<FRP組成物(FRP1)の調製>
表1に示す成分を混合し、FRP組成物(FRP1)を調製した。
具体的には、基体樹脂100部に対し、後述するシリコーン化合物1を、表2に示す割合(2部)で配合した。これに、表1に示す成分のうち、基体樹脂、シリコーン化合物、及びガラス繊維以外の他の成分を添加して混練したものを、ガラス繊維のチョップドストランドマットに含浸させて、FRP1(ガラス繊維強化プラスチック組成物)を得た。
【0084】
【表1】

【0085】
<水まわり製品の作製>
得られたFRP1を、シート状に成形してSMC1とした。
次いで、得られたSMC1を、硬化温度140℃で硬化させて、FRP1のガラス繊維強化プラスチックの板状試料を作製した。
【0086】
1.撥水性評価(板状試料に対する水の接触角)
得られた板状試料の表面に蒸留水1.5μLを接触させたときの接触角を測定し、結果を表2に示した。水の接触角は、協和界面科学製接触角測定装置によって測定し、3回の測定結果の平均値を記した。
【0087】
2.水の転がり性評価(板状試料表面に対する水の転落角)
得られた板状試料の表面に蒸留水30μLを付着させたときの転落角を測定し、結果を表2に示した。水の転落角は、協和界面科学製接触角測定装置によって測定し、3回の測定結果の平均値を記した。
【0088】
〔FSP2の調製〕
前記FRP1の調製において、シリコーン化合物のFRP組成物中の含有量を、表2の「含有量」欄に示す量としたほかは同様にして、FRP組成物2を調製した。
【0089】
次いで、得られたFRP2を用いて板状試料を製造し、前記と同様の方法にて、接触角と、水の転落角とを測定し、測定結果を表2に示した。
【0090】
−シリコーン化合物−
表1に示す組成物中のシリコーン化合物としては、下記製品(シリコーン化合物1)を用いた。当該シリコーン化合物は室温でオイル状である。
・シリコーン化合物1 ;チッソ社製、FM0725(Mn=14,972)
シリコーン化合物1の数平均分子量(Mn)は、下記条件によるGPC測定により測定した値である。Mn測定と同時に得られたMw(重量平均分子量)は16,089であり、Mp(ピークトップ分子量)は16,176であり、及びMw/Mは1.07であった。尚、これら数値は、いずれもポリスチレン換算の値である。
(条件)
・測定器;Waters社製、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)
・カラム;東ソー社製、TSKgelSuperH2000+TSKgelSuperH3000
・溶剤 ;テトラヒドロフラン(THF)
・カラム温度;40℃
・流量 ;0.5ml/min
【0091】
【表2】

【0092】
(実施例及び比較例)
前記から得られたFRP1〜2を用いて、下記表3に従って実施例及び比較例の洗い場付浴槽を一体成形した。また、各洗い場付浴槽の洗い場表面には凹凸状のパターンを形成して排水性を向上させた。
【0093】
<評価>
1.浴槽の汚れ度
得られた洗い場付浴槽について一ヶ月使用後の汚れ度を下記の基準に従って目視によって観察した。結果を下記表3に示す。
○:汚れの付着は認められなかった。
×:汚れの付着が認められた。
【0094】
2.洗い場の乾燥性
得られた洗い場付浴槽について、使用後5時間後の洗い場の乾燥具合を下記の基準に従って目視によって観察した。結果を下記表3に示す。
○:洗い場床面にほとんど水滴が残っておらず乾燥性に優れていた。
×:洗い場床面に水滴が多く観察された。
【0095】
【表3】

【0096】
表3からわかるように、実施例の洗い場付浴槽は浴槽の汚れがなく防汚性に優れ、更に、洗い場の乾燥性も良好であった。また、表3にあるように、洗い場部材料に水の接触角が90°よりも小さいFRP2を用いた場合には、洗い場部の乾燥性に優れることがわかった。これに対し、浴槽及び洗い場で同じ材料(FRP1)を用いた比較例1は、浴槽の防汚性には優れるものの洗い場の乾燥性では劣っていた。更に、浴槽及び洗い場で同じ材料(FRP2)を用いた比較例2は、洗い場の乾燥性には優れるものの浴槽の防汚性では劣っていた。
【符号の説明】
【0097】
12 洗い場付浴槽
14 洗い場部
16 浴槽部
18 エプロン部
20 浴槽
22 フランジ部
24 フランジ辺
28 金型
30 上型
32 下型
34 第1の成形空間
36 第2の成形空間
38 第3の成形空間
40 防汚防汚SMC
42 SMC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽が備えられた浴槽部と、
前記浴槽部と一体に成形された洗い場部と、を有し、
前記浴槽を構成する材料の水の接触角と前記洗い場部を構成する材料の水の接触角とが、下記式(1)の関係を満たす洗い場付浴槽。
式(1):A>B(A:前記浴槽を構成する材料の水の接触角、B:前記洗い場部を構成する材料の水の接触角)
【請求項2】
前記洗い場部が、凹凸状のパターンを有する請求項1に記載の洗い場付浴槽。
【請求項3】
前記浴槽を構成する材料の水の接触角が90°以上であり、且つ、前記洗い場部を構成する材料の水の接触角が90°よりも小さい請求項1又は2に記載の洗い場付浴槽。
【請求項4】
前記浴槽を構成する材料が、少なくとも不飽和樹脂を含む基体樹脂と、前記基体樹脂100質量部に対して、2質量部〜4質量部の、数平均分子量が5,000〜20,000であり、片末端に反応性基を有するシリコーン化合物と、を含有する繊維強化プラスチック組成物を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗い場付浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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