説明

洗浄用布帛及びそれを用いた洗浄具

【課題】一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能は十分に有しながらも、被洗浄物に細かな傷が付くことを抑止する。
【解決手段】カットパイル3a群からなる洗浄用の柔軟な立毛層部3が地組織部4の表裏面の一方面に備えられている洗浄用布帛5であって、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力(mgf/cm2(ただし、1mgf/cm2=1×10-6kgf/cm2))を立毛層部3の単繊維密度(本/cm2)で除して算出される初期圧縮応力指数(mgf/本)が0.1〜15.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭における食器や台所やトイレ・浴槽等の通常の洗浄に使用される洗浄用布帛及びそれを用いた洗浄具に関し、特に、カットパイル群からなる洗浄用の柔軟な立毛層部が地組織部の表裏面の一方面に備えられている洗浄用布帛及びそれを用いた洗浄具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の洗浄用布帛は、洗浄操作時における前記立毛層部のブラシ的な作用による高い汚れ落とし性能と立体的な形状による高い泡立ち性能とを有するため、一般家庭向けの洗浄具に数多く採用されている。
【0003】
そして、従来、この種の洗浄用布帛としては、例えば、前記カットパイルがナイロンモノフィラメント糸から構成されたSK1037CC(品番、株式会社ユニチカテクノス製)等が定番品として市販されている(この従来技術を示す適当な文献がない)。
【0004】
当該従来の洗浄用布帛の仕様や性状等を調べると、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力(mgf/cm2(ただし、1mgf/cm2(ミリグラム重毎平方センチメートル)=1×10-6kgf/cm2(キログラム重毎平方センチメートル)))が4500、前記立毛層部の単繊維密度(本/cm2)が113であり、前記圧縮応力を前記単繊維密度で除して算出される初期圧縮応力指数(mgf/本)が39.8であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の洗浄用布帛では、一般家庭での通常使用において被洗浄物(例えば、食器やキッチンのトッププレート、便器、浴槽、浴室の内壁、洗面化粧台等)に対する洗浄性能は申し分ないものの、被洗浄物に細かな傷が付き易い問題が指摘されていた。
【0006】
本発明は、上述の如き課題に鑑みてなされたものであって、その主たる課題は、一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能は十分に有しながらも、被洗浄物に細かな傷が付くことを抑止し得る洗浄用布帛及びそれを用いた洗浄具を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、カットパイル群からなる洗浄用の柔軟な立毛層部が地組織部の表裏面の一方面に備えられている洗浄用布帛であって、
厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力(mgf/cm2(ただし、1mgf/cm2=1×10-6kgf/cm2))を前記立毛層部の単繊維密度(本/cm2)で除して算出される初期圧縮応力指数(mgf/本)が0.1〜15.0である点にある。
【0008】
つまり、本発明者らは繰り返しのモニター実験とヒアリング調査とによって、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力が使用初期の体感圧力として以後の洗浄作業における操作圧力に関係し、このときの圧縮応力を立毛層部の単繊維密度で除して算出される初期圧縮応力指数が一般家庭での通常使用における被洗浄物の傷付きに大きく影響していることを知見した。
【0009】
更に、前記初期圧縮応力指数が15.0を超えれば、一般家庭での通常使用における被洗浄物の傷付きが使用者の大半が気になるほどに出現する一方、初期圧縮応力指数が15.0以下であれば、その被洗浄物の傷付きが使用者の大半が気にならない程度にまで減少すること、並びに、初期圧縮応力指数が0.1未満であれば、立毛層部によるブラシ的な掻き落し作用が不十分になって、一般家庭レベルの汚れであっても洗浄時間が多大になるなど、使用者の大半が不満を感じるほどに洗浄性能が不十分になる一方、初期圧縮応力指数が0.1以上であれば、一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能が使用者の大半が不満を感じない程度にまで高まることを知見した。
【0010】
したがって、初期圧縮応力指数(mgf/本)が0.1〜15.0である上記構成によれば、一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能と被洗浄物の傷付き難さとの双方を高い次元で得ることができる。
【0011】
なお、洗浄用の立毛層部を構成するカットパイルは、種々の素材から構成されたものであってもよく、また、モノフィラメント糸とマルチフィラメント糸のいずれから構成されたものであってもよい。
【0012】
本発明の第2特徴構成は、前記立毛層部の単繊維密度(本/cm2)が200以上である点にある。
【0013】
上記構成によれば、前記立毛層部を構成する緊密な単繊維群によって、前述の被洗浄物の傷付き難さを維持しながらも一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能を効果的に高めることができる。
【0014】
本発明の第3特徴構成は、前記立毛層部の厚み寸法が0.5mm〜10.0mmである点にある。
【0015】
上記構成によれば、一般家庭での洗浄操作時における前記立毛層部を構成するカットパイルの曲げに対する弾性復元力を十分に残しながらもカットパイルの先端部と被洗浄物との接触面積を高めることができ、一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能を一層効果的に高めることができる。
【0016】
本発明の第4特徴構成は、洗浄具に係り、被洗浄部に対する洗浄部と把持操作用の操作部とが備えられているとともに、前記洗浄部が前記第1〜第3特徴構成のいずれかの洗浄用布帛から構成されている点にある。
【0017】
上記構成によれば、操作部の把持操作によって洗浄時の操作性能を確保しながらも、洗浄部については一般家庭レベルの汚れに対する洗浄性能と被洗浄物の傷付き難さとの双方を高い次元で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1実施形態]
図1、図2は、一般家庭向けの樹脂タワシ1(洗浄具の一例)を示し、連続気泡を備えた発泡樹脂の一例であるウレタンフォーム製のスポンジからなる直方体状のタワシ本体2の外面2Aのうちの表裏面の一方面(図中の上面)の全域には、カットパイル3a群からなる洗浄用の柔軟な立毛層部3が地組織部4の表裏面の一方面に備えられている洗浄用布帛5が、立毛層部3が外方に位置する状態で接着剤や熱融着等により貼着されている。なお、タワシ本体1の外面2Aと洗浄用布帛5とからなる樹脂タワシ1の外面は、把持操作用の把持部を構成し、且つ、被洗浄部に対する洗浄部を構成する。
【0019】
前記地組織部4は、合成繊維(例えば、ポリエステル糸)からなる地糸4aを格子模様に編成した網状(換言すれば、メッシュ状)に構成されている。つまり、一般家庭での通常使用に際し、タワシ本体2で泡立った洗剤の泡が地組織部4の網目を通して前記洗浄用布帛5の立毛層部3に直接的に流出可能に構成されている。
【0020】
次に、前記洗浄用布帛5の仕様や性状等について説明する。
厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2(ただし、1mgf/cm2=1×10-6kgf/cm2))を前記立毛層部3の単繊維密度C(本/cm2)で除して算出される洗浄用布帛5の初期圧縮応力指数A(mgf/本)は、0.1〜15.0の範囲(より好適には1.0〜8.0の範囲)である必要がある。初期圧縮応力指数Aが15.0を超えると、一般家庭での通常使用において使用者の大半が気になるほどに被洗浄物に傷が付き易く、また、初期圧縮応力指数Aが0.1未満であると、一般家庭レベルの汚れであっても使用者の大半が不満を感じるほどに洗浄性能が不十分になるので好ましくない。
【0021】
また、前記洗浄用布帛5の立毛層部3の単繊維密度C(本/cm2)は、200以上(より好適には、500〜5000)であることが好ましい。当該洗浄用布帛5は、初期圧縮応力指数Aが0.1〜15.0という極低い範囲であるため、単繊維密度Cが200未満であると、一般家庭での通常使用において洗浄作業に少し手間や時間がかかってしまう。
【0022】
すなわち、単繊維密度Cを200以上とすれば、一般家庭での通常使用における洗浄作業をスムーズに行うことができる。また、きめの細かいクリーミーな泡を立てることができるとともに、泡持ち性能も良好にすることができる。
【0023】
さらに、前記洗浄用布帛5の立毛層部3の厚み寸法Dは、0.5mm〜10.0mm(より好適には、2.0mm〜5.0mm)であることが好ましい。立毛層部3の厚み寸法Dが0.5mm未満では、一般家庭での通常使用において立毛層部3を構成するカットパイル糸3aと被洗浄物との接触面積があまり多くないので洗浄作業に少し時間がかかってしまう。また、立毛層部3の厚み寸法Dが10.0mmを超えても、被洗浄物に作用するカットパイル糸3aの弾性復元力がやや小さいので洗浄作業に少し時間がかかってしまう。
【0024】
次に、前記洗浄用布帛5の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
本実施例では、前記地組織部4を構成する地糸4aとしてポリエステルマルチフィラメント糸(280デシテックス/48フィラメント)を用い、且つ、前記カットパイル3aを構成するパイル糸としてポリエステルマルチフィラメント糸(330デシテックス/15フィラメント)を用い、市販の編み機により、16ゲージ・23コース/インチ、2本針の設定で一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を編成し、この立体布帛を半裁することによって、立毛層部3の厚み寸法Dが2.7mmの前記構造の洗浄用布帛5を構成した。
【0026】
当該洗浄用布帛5の性状等は、図3に示すように、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2)が3600(測定値(測定環境:温度20℃、相対湿度65%)からの換算値)、単繊維密度C(本/cm2)が1711(計算値)、前記圧縮応力Bと前記単繊維密度Cから算出した初期圧縮応力指数A(mgf/本)が2.1であった。
【0027】
本実施形態の洗浄用布帛5は、モニター実験及びヒアリング調査の大半で「汚れが落とし易くて傷付きも気にならない(評価:○)」との評価を得た。
【0028】
(実施例2)
本実施例では、前記地組織部4を構成する地糸4aとしてポリエステルマルチフィラメント糸(280デシテックス/48フィラメント)を用い、且つ、前記カットパイル3aを構成するパイル糸としてナイロンマルチフィラメント糸(330デシテックス/7フィラメント)を用い、市販の編み機により、14ゲージ・25コース/インチ、2本針の設定で一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を編成し、その立体布帛を半裁することによって、立毛層部3の厚み寸法Dが2.6mmの前記構造の洗浄用布帛5を構成した。
【0029】
当該洗浄用布帛5の性状等は、図3に示すように、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2)が4500(測定値からの換算値)、単繊維密度C(本/cm2)が760(計算値)、前記圧縮応力Bと前記単繊維密度Cから算出した初期圧縮応力指数A(mgf/本)が5.9であった。
【0030】
本実施形態の洗浄用布帛5は、モニター実験及びヒアリング調査の大半で「汚れが落とし易くて傷付きも気にならない(評価:○)」との評価を得た。
【0031】
(実施例3)
本実施例では、前記地糸4a及び前記パイル糸として実施例2と同じものを使用し、パイル糸の編み密度を実施例2の半分とする以外は実施例2と同じ設定で一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を編成し、その立体布帛を半裁することによって、立毛層部3の厚み寸法Dが3.3mmの前記構造の洗浄用布帛5を構成した。
【0032】
当該洗浄用布帛5の性状等は、図3に示すように、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2)が3400(測定値からの換算値)、単繊維密度C(本/cm2)が273(計算値)、前記圧縮応力Bと前記単繊維密度Cから算出した初期圧縮応力指数A(mgf/本)が12.5であった。
【0033】
本実施形態の洗浄用布帛5は、モニター実験及びヒアリング調査の大半で「汚れが落とし易くて傷付きも気にならない(評価:○)」との評価を得た。
【0034】
(比較例1(従来例))
本比較例では、前記地組織部4を構成する地糸4aとしてポリエステルマルチフィラメント糸(280デシテックス/48フィラメント)を用い、且つ、前記カットパイル3aを構成するパイル糸としてナイロンモノフィラメント糸(240デシテックス)を用い、市販の編み機により、14ゲージ・26コース/インチ、2本針の設定で一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を編成し、その立体布帛を半裁することによって、立毛層部3の厚み寸法Dが2.2mmの前記構造の洗浄用布帛5を構成した。
【0035】
当該洗浄用布帛5の性状等は、図3に示すように、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2)が4500(測定値からの換算値)、単繊維密度C(本/cm2)が113(計算値)、前記圧縮応力Bと前記単繊維密度Cから算出した初期圧縮応力指数A(mgf/本)が39.8であった。
【0036】
本実施形態の洗浄用布帛5は、モニター実験の大半で「汚れは落とし易いが傷付きが気になる(評価:×)」との評価であった。
【0037】
(比較例2)
本比較例では、前記地組織部4を構成する地糸4aとしてポリエステルマルチフィラメント糸(280デシテックス/48フィラメント)を用い、且つ、前記カットパイル3aを構成するパイル糸としてナイロンモノフィラメント糸(370デシテックス)を用い、市販の編み機により、14ゲージ・26コース/インチ、2本針の設定で一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を編成し、その立体布帛を半裁することによって、立毛層部3の厚み寸法Dが3.2mmの前記構造の洗浄用布帛5を構成した。
【0038】
当該洗浄用布帛5の性状等は、図3に示すように、厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力B(mgf/cm2)が5300(測定値からの換算値)、単繊維密度C(本/cm2)が104(計算値)、前記圧縮応力Bと前記単繊維密度Cから算出した初期圧縮応力指数A(mgf/本)が51.0であった。
【0039】
本実施形態の洗浄用布帛5は、モニター実験の大半で「汚れは落とし易いが傷付きが気になる(評価:×)」との評価であった。
【0040】
[その他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、洗浄用布帛5として、一対の地組織部4をパイル糸で連結した立体布帛を半裁して構成されたものを例に示したが、例えば、単一の地組織部4の表裏面の一方面にループ状のパイル糸を突出させた構造の立体布帛を編成したあと、その立体布帛のパイル糸の頂部を切断して構成されたものなどであってもよい。
【0041】
(2)地組織部4は、前述の実施形態で示した編地に限らず、織地、不織布、シート状物等の種々のものから構成されていてもよい。
【0042】
(3)立毛層部4の単繊維密度や厚み寸法等は、初期圧縮応力指数A(mgf/本)が0.1〜15.0の範囲にあれば、前述の実施形態で示した範囲に限らず、使用対象者や使用対象物等に応じ適宜に変更してもよい。
【0043】
(4)前述の実施形態では、洗浄具の一例として樹脂タワシ1を例に示したが、例えば、把持操作棒(把持操作部の一例)の先端にスポンジ等の洗浄体が配設されたものなどであってもよい。その場合、洗浄体の外面(洗浄部の一例)の一部又は全部に前記洗浄用布帛5を貼着したり、或いは、洗浄用布帛5からなる袋体で洗浄体の外面を被覆したりすればよい。
【0044】
(5)前述の実施形態では、タワシ本体2の外面2Aの一部に前記洗浄用布帛5が貼着されている場合を例に示したが、前記洗浄用布帛5からなる袋体の内部にタワシ本体2が挿設されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】洗浄具の説明図(斜視図)
【図2】洗浄具の説明図(部分側面図)
【図3】実施例と比較例の各種の性状等の一覧を示す表
【符号の説明】
【0046】
1 洗浄具(樹脂タワシ)
3 立毛層部
3a カットパイル
4 地組織部
5 洗浄用布帛
A 初期圧縮応力指数
B 圧縮応力
C 単繊維密度
D 厚み寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットパイル群からなる洗浄用の柔軟な立毛層部が地組織部の表裏面の一方面に備えられている洗浄用布帛であって、
厚み方向の圧縮力で厚み寸法が0.3mm減少したときの圧縮応力(mgf/cm2(ただし、1mgf/cm2=1×10-6kgf/cm2))を前記立毛層部の単繊維密度(本/cm2)で除して算出される初期圧縮応力指数(mgf/本)が0.1〜15.0である洗浄用布帛。
【請求項2】
前記立毛層部の単繊維密度(本/cm2)が200以上である請求項1記載の洗浄用布帛。
【請求項3】
前記立毛層部の厚み寸法が0.5mm〜10.0mmである請求項1又は2記載の洗浄用布帛。
【請求項4】
被洗浄部に対する洗浄部と把持操作用の操作部とが備えられているとともに、
前記洗浄部が請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄用布帛から構成されている洗浄具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−99134(P2010−99134A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271196(P2008−271196)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000100850)アイセン工業株式会社 (33)
【出願人】(594054520)株式会社ユニチカテクノス (4)
【Fターム(参考)】