説明

津波予測システム及び装置、並びにプログラム

【課題】海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを、より簡易且つ正確に予測する。
【解決手段】海溝型地震の発生により海底が隆起し、津波を発生させる海面の上昇が起こると、その海面の上昇に合わせて大気圧の変化が生じ、津波よりも先に到達する周囲に伝播した大気圧の変化が陸上の高台にある観測地点201〜20nに設置された気圧計211〜21nで捉えられる。コンピュータ装置100は、気圧計211〜21nで捉えられた気圧変化を解析して津波の発生地点及び発生した津波の規模を特定し、海底地形データベースを参照して警報装置301〜30mが設置された海岸への津波の到達時刻及び津波の高さを予測する。そして、予測した津波の到達時刻及び津波の高さに関する警報を、警報装置301〜30mから発令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大規模な海溝型地震が発生した場合、当該海域で発生した津波が海岸付近の陸地を襲うことで、地震そのものの揺れによる被害よりも甚大な被害をもたらすことが知られている。ここで、例えば、海底断層のずれ幅は大きいもののずれの速度が小さい場合には、地震での揺れは小さくても大きな津波が生じ得るなど、地震での体感と津波の規模は必ずしも一致しない。このため、特に津波による人的な被害を抑制するためには、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを可能な限り正確に予測し、警報を発する必要がある。
【0003】
海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さは、地震そのものの震源及び規模から推定することが一般的である。また、津波の発生から海岸への到達までの間において実際の津波を観測し、これに基づいて海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予想する手法もあり、このようなものとして、航空機で撮影した画像を用いるもの(例えば、特許文献1参照)や、海上に設置したブイの変位を用いるもの(例えば、特許文献2参照)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−229424号公報
【特許文献2】特開2009−229432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地震そのものの震源及び規模に基づく海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さの予測は、津波の発生状況によっては十分な精度が得られないことが経験的に知られている。また、特許文献1、2のように実際の津波を観測して海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測するものでは、津波の発生が荒天時に重なった場合には、航空機が飛べなかったり津波に関係なくブイが変位したりすることによって使い物にならなくなってしまうという問題がある。さらに、システムが大規模になりすぎてコスト面などからの実用性が低いという問題もある。
【0006】
本発明は、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを、より簡易且つ正確に予測することができる津波予測システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる津波予測システムは、
各々が異なる観測地点に設置され、当該観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置と、該複数の各々の気圧観測装置に通信回線を介して接続された津波予測装置とを備え、
前記津波予測装置は、
津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段と、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段と、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段と、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段とを備える
ことを特徴とする。
【0008】
津波は、地震による海底の隆起によって海面が上昇し、上昇した海面が元に戻ろうとすることで発生するものであるが、海面の上昇とほぼ一致する形で当該地点の大気圧が変化し、この大気圧の変化が周囲に伝播されるものとなる。上記津波予測システムでは、異なる観測地点に設置された気圧観測装置が観測した気圧データを時系列で収集し、当該時系列の気圧データを解析することで、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定することができ、これと予め記憶された海底地形データに基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測するものとなる。
【0009】
ここで、気圧観測装置が観測した気圧データの変化は、津波の発生地点における海面の上昇とほぼ一致するため、各気圧観測装置で観測された気圧データの変化の時差に従って津波が発生した地点を正確に特定することができ、気圧データの変化の程度に従って発生した津波の規模を正確に特定することができる。津波の速度や高さは海底地形の影響を受けることが知られているため、特定した津波の発生地点や規模と海底地形データとに基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを正確に予測することが可能となる。
【0010】
また、複数の観測地点に気圧観測装置を設置し、各々において気圧データを観測すればよいだけであるので、比較的安価で簡易にシステムを構築することができ、実用性が高いものとなる。さらに、荒天時には、それを原因として気圧データに変化が生じるが、津波の発生により生じる気圧データの変化の周波数は、荒天を原因として生じる気圧データの変化の周波数とは一般に異なるため、荒天時においても使用可能な実用性の高いシステムとすることができる。
【0011】
上記津波予測システムにおいて、
前記複数の気圧観測装置は、3以上あってもよい。この場合において、
前記津波予測装置は、前記気圧データ収集手段が収集した気圧観測装置毎の気圧データの各々に、他の気圧観測装置での気圧データが有する特徴とは異なる特徴を有する異常な気圧データを識別する異常気圧データ識別手段をさらに備え、
前記気圧データ解析手段は、前記異常気圧データ識別手段により異常な気圧データと識別された気圧データ以外の気圧データを解析するものとすることができる。
【0012】
複数の気圧観測装置の各々は、当該観測地点における気圧データを観測するものであるが、津波の発生によって広域に気圧データの変化が生じる以外に、局地的に生じた原因により気圧データの変化が生じる場合がある。局地的な気圧データの変化は、津波の発生とは関係ないものであるので、これを観測した気圧観測装置の気圧データを異常な気圧データとして気圧データ解析手段の解析対象から除くことにより、津波が発生した地点及び発生した津波の規模が誤って特定されるのを防ぐことができる。
【0013】
上記津波予測システムにおいて、
前記気圧データ解析手段は、前記気圧データ収集手段が気圧観測装置毎に収集した時系列の気圧データのうちのピークを特定する気圧ピーク特定手段を含み、
前記発生津波特定手段は、前記気圧ピーク特定手段が特定した気圧データのピークが2以上ある場合には、該ピーク毎に津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定するものとすることができる。
【0014】
この場合、1の震源の地震に誘発されて、ほとんど時間差がなく他の震源で別の地震が発生した場合に、地震波の観測だけでは両者を即座に分離して津波を正確に予測することが困難であるが、気圧データの観測結果では1の震源で発生した津波と他の震源で発生した津波とを別々に特定することができる。これにより、正確な津波予測ができるようになる。
【0015】
上記津波予測システムにおいて、
前記津波予測装置は、津波の発生が予測される規模の地震が発生したことを契機として起動されるものであってもよい。
【0016】
津波は、大規模な海溝型地震の発生により生じるものであるが、地震波(P波、S波)が伝わる速度は、気圧の変化が伝わる速度(音速)よりも早いため、津波の発生に伴う気圧データの変化は地震波が観測されてから観測される。地震の発生が予測される規模の地震が発生したことを契機として津波予測装置を起動することで、津波の発生を監視する必要がないときに無駄な資源を消費しないで済むものとなる。
【0017】
上記津波予測システムにおいて、
前記複数の気圧観測装置が設置された観測地点の少なくとも1つは、陸上にあることが好ましい。さらには、該陸上にある観測地点の海抜高度は、所定以上のものであることがより好ましい。
【0018】
このように気圧観測装置を陸上に設置する場合には、海上に設置する場合に比べて、その設置費用を抑えることが可能となる。また、所定以上の海抜高度を有する観測地点に気圧観測装置を設置することで、気圧観測装置が津波によって破壊され、その後の余震により生じた津波が観測できなくなるという事態を防ぐことができる。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかる津波予測装置は、
各々が異なる観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置に通信回線を介して接続された津波予測装置であって、
津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段と、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段と、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段と、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段と
を備えることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点にかかるプログラムは、
各々が異なる観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置に通信回線を介して接続されるとともに、津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段を備えるコンピュータ装置において実行されるプログラムであって、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段、及び、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段
として前記コンピュータ装置を機能させることを特徴とする。
【0021】
上記第3の観点にかかるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。このコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記コンピュータ装置に着脱可能に構成され、上記コンピュータ装置とは別個に提供される記録媒体としてもよい。このコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記コンピュータ装置内に設けられ、上記コンピュータ装置と共に提供される固定ディスク装置などの記録媒体としてもよい。上記第3の観点にかかるプログラムは、ネットワーク上に存在する他のコンピュータ装置から、そのデータ信号を搬送波に重畳して、ネットワークを通じて上記コンピュータ装置に配信することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態にかかる津波予測システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1のコンピュータ装置の構成を示すブロック図である。
【図3】海溝型地震に基づく津波の発生と、これに伴って生じる気圧の変化とを模式的に示す図である。
【図4】図1の各観測地点の気圧計が観測する気圧変化の波形を示す図である。
【図5】津波の発生が予測される地震発生時に、図1、図2のコンピュータ装置において実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1は、この実施の形態にかかる津波予測システムの全体構成を示す図である。図示するように、この津波予測システムは、陸上の高台(所定値以上の標高を有する)にある複数の観測地点201〜20nにそれぞれ設置された気圧計211〜21nと、気圧計211〜21nにて観測した気圧の気圧データを収集し、収集した気圧データに基づいて津波の予測をするコンピュータ装置100と、コンピュータ装置100の予測に基づいて警報を発する複数の警報装置301〜30mとから構成される。コンピュータ装置100と気圧計211〜21n、コンピュータ装置100と警報装置301〜30mは、インターネットや専用回線などの通信網400を介して接続される。
【0025】
図2は、図1のコンピュータ装置100の構成を示すブロック図である。図示するように、コンピュータ装置100は、CPU101と、主記憶装置及び補助記憶装置を含む記憶装置102と、気圧計211〜21n及び警報装置301〜30mと情報を送受信する通信装置103とを備える。後述する津波予測の処理を行うためのプログラムは、記憶装置102に記憶されている。また、観測地点データベース104と海底地形データベース105とを備える。
【0026】
観測地点データベース104は、観測地点201〜20nの各々についての位置(緯度及び経度)と高度とを登録したデータベースである。後述する津波の発生地点の特定には、気圧計211〜21nの各々から収集した気圧データと、観測地点データベース104に登録された気圧計211〜21nの設置箇所である観測地点201〜20nの位置及び高度のデータが必要となる。
【0027】
海底地形データベース105は、津波の発生を観測する対象となる海域における海底の地形データを登録したデータベースである。津波の速度及び高さは、海底の地形(海の深さ)に応じて変化するため、後述する海岸への津波の到達時刻及び津波の高さの予測には、海底地形データベース105に登録された海底の地形データが必要となる。
【0028】
以下、この実施の形態にかかる津波予測システムにおいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測するための仕組みについて説明する。ここでは、まず、津波の発生のメカニズムと津波の発生に伴って生じる事象について説明し、次に、これを利用して、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する手法について、説明する。
【0029】
図3は、海溝型地震に基づく津波の発生と、これに伴って生じる気圧の変化とを模式的に示す図である。海溝型地震は、海底500において、大陸プレート501と海洋プレート502との境界で断層ズレ503が生じることによって発生する。この断層ズレ503によってもたらされる震動が、地震波(P波及びS波)として、図1に示した陸地にまで伝わる。
【0030】
断層ズレ503の発生により、海底500に隆起が生じる(大陸プレート501が元の位置501’から跳ね上がる)が、この海底500の隆起によって、海面510が上昇する。ここで、上昇した海面510が元に戻ろうとすることで発生した津波が周囲に伝播し、図1に示した陸地と海の境界である海岸にまで到達する。また、海面510の上昇が起こると、その海面510の上昇に合わせて、その上部の大気520の圧力に変化が生じ、これが音波521(但し、可聴域の周波数帯ではない)として、図1に示した陸地に設置された観測地点201〜20nまで伝播する。
【0031】
津波は、海底500において大規模な断層ズレ503が生じて地震が発生したときに生じるが、津波の発生地点での海面510の上昇は、大気520の圧力変化を生じさせ、音波521として伝播されることで気圧計211〜21nにおいて観測する気圧データに変動が生じる。ここで、その伝播速度は、地震波が最も速く(そのうちのP波が最も速い)、次に音波521(気圧計211〜21nで観測される気圧データの変化)が速く、津波が最も遅い。
【0032】
なお、海底500のある箇所において大規模な断層ズレ503が発生した場合、これに誘発されて別の箇所において断層ズレ503が発生する場合がある。最初の断層ズレ503による揺れが収束しないうちに別の箇所での断層ズレ503が発生したときには、2つの断層ズレ503の何れにより地震動が生じているのかを即座に切り分けるのは困難であるが、2つの断層ズレ503により別々の津波の発生は、後述するように切り分けることができる。
【0033】
図4は、図1の各観測地点201〜20nの気圧計211〜21nが観測する気圧変化の波形を示す図である。ここでは、3つの観測地点201、202、203に設置された気圧計211、212、213が観測した気圧データに基づく気圧変化の波形221、222、223を示している。図4から分かるように、波形221、222、223は、互いに近似した形状となっている。
【0034】
波形221、222、223によると、気圧計211、212、213において、2つのピークが観測されているが、ピークが生じる時刻tには、微妙なズレが生じている。先のピークについては、気圧計211、212、213の時間順で観測されているが、後のピークについては、気圧計212、211、213の時間順で観測されている。2つのピークは、それぞれ別の海域での断層スベリ503により発生した津波に対応するものと考えられる。
【0035】
2つのピークについて、観測地点データベース104から読み出した気圧計211、212、213が設置された観測地点201、202、203の位置等と、気圧計211、212、213毎にピークが観測された時刻の差とから、海域における津波の発生地点が特定される。津波の発生地点の特定のための手法は、地震波の到達時間の時間差から地震の震源を特定するのと同じ手法によって行える。また、ピーク波形の大きさ(ピークを中心とした一定範囲の波形の面積に応じて求められる)から、発生した津波の規模を特定する。
【0036】
なお、陸上には複数の観測地点201〜20nが設けられているが、そのうちの特定の観測地点において局地的に生じた事象により、当該特定の観測地点の気圧計において観測した気圧変化の波形が、他の観測地点の気圧計において観測した気圧変化の波形とは近似しているとは言えないものとなることがある。津波の発生地点及び規模の特定に際しては、このような局所的な影響を受けたと考えられる観測地点の気圧計で観測された気圧データを排除するものとしている。
【0037】
もっとも、局地的な荒天などの影響により生じた気圧変化の周波数は、津波の発生により生じた気圧変化の周波数とは完全に切り分けられる場合がある。津波の発生により生じた気圧変化の周波数と完全に切り分けることができる局地的な気圧変化は、局地的な影響による気圧変化の周波数成分を除去した上で、津波の発生地点及び規模の特定のために用いられる。
【0038】
津波の発生地点及び規模が特定されると(この例では、2つの津波の発生が特定される)、海底地形データベース105に登録された海底地形のデータに基づいて、各発生地点において発生した津波が海岸の各所に到達する時刻と、各所における津波の高さを予測する。複数の地点で津波が発生し、各々の到達時刻が重なると予測される箇所では、津波の高さの予測は、個別に予測された津波の高さを足し合わせたものとなる。
【0039】
以下、この実施の形態にかかる津波予測システムにおいて実行される処理について説明する。図5は、津波の発生が予測される地震が発生した時に、図1、図2のコンピュータ装置100において実行される処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、津波の発生が予測される規模の地震が発生したときに割込処理によって起動され、他の処理に優先して実行される。コンピュータ装置100は、それ以外のときは別の処理を行っている。
【0040】
処理が開始すると、コンピュータ装置100のCPU101は、観測地点201〜20nの各々に設置された気圧計211〜21nによって観測される気圧変化を示す気圧データを収集する(ステップS101)。次に、CPU101は、気圧計211〜21nの各々から収集した気圧データの波形を比較する(ステップS102)。比較した波形の中に、他の気圧計で観測された波形と近似していると言えないものがあった場合には、当該波形の気圧データを観測した気圧計の気圧データを、津波の発生地点等の予測に用いる対象から排除する(ステップS103)。
【0041】
次に、CPU101は、気圧計211〜21nの各々から収集した気圧データの波形ピークを各々で観測された時刻とともに抽出する。複数のピークが観測された場合には、各ピークについて同じことを行う(ステップS104)。CPU101は、気圧データの波形ピークの時間差と観測地点データベース104に登録された各気圧計211〜21nの位置に基づいて、ピーク毎の津波の発生地点を特定するとともに、ピーク波形の大きさから当該発生地点において発生した津波の規模を特定する。複数のピークが観測された場合には、各ピークについて同じことを行う(ステップS105)。
【0042】
津波の発生地点及び規模が特定されると、CPU101は、海底地形データベース105に登録された海底地形のデータを参照して、海岸への津波の到達時刻及び海岸での津波の高さを予測する。複数のピークが観測された場合には、各ピークについて同じことを行うが、異なる発生地点の津波の到達時刻が重なり合う場合には、各々から予測される高さを足し合わせたものが、津波の高さの予測となる(ステップS106)。そして、CPU101は、予測した津波の到達時刻及び高さに関する警報を、警報装置301〜30mから発して(ステップS107)、処理を終了する。
【0043】
以上説明したように、津波は、大陸プレート501と海洋プレート502との境界での断層ズレ503によって生じた海底500の隆起によって海面510が上昇し、上昇した海面510が元に戻ろうとすることで発生するものであるが、海面510の上昇とほぼ一致する形で当該地点の大気520の圧力が変化し、この大気圧の変化が音波521として周囲に伝播されるものとなる。
【0044】
この実施の形態にかかる津波予測システムでは、各々に気圧計211〜21nが設けられた複数の観測地点201〜20nが陸上に設けられ、この気圧計211〜21nで観測された気圧変化のデータを収集し、当該気圧変化を時系列に表した波形221〜22nのピークと各観測地点201〜20nの位置に基づいて、海上における津波の発生地点と発生した津波の規模を特定するものとしている。そして、特定した津波の発生地点及び規模と、海底地形のデータに基づいて、海岸の各所における津波の到達時刻と海岸における津波の高さを予測するものとしている。
【0045】
ここで、気圧計211〜21nで観測した気圧変化は、津波の発生地点における海面510の上昇とほぼ一致するため、各気圧計211〜21nで観測された気圧変化のピークの時差を用いることで、海域における津波の発生地点を正確に特定することができる。最初に生じた断層ズレ503と、これに誘発されて生じた別の断層ズレ503とのそれぞれに対して気圧変化の波形にピークが現れるため、両者を切り分けて、ほぼ同時に発生した複数の津波の発生地点も別々に特定できるものとなる。地震そのものの規模に基づく場合には、別の地点でほぼ同時に発生した津波を特定するのは非常に困難であるが、この実施の形態にかかる津波予測システムでは、そのようなこともない。
【0046】
また、気圧変化のピーク波形は、発生した津波の規模にほぼ比例したものとなるので、発生地点における津波の規模も正確に特定することができる。そして、津波の発生地点及び規模が特定できた場合、津波の速度や高さは海底の地形によって決まることが経験的に知られているため、海底地形データベース105に登録された海底地形のデータを参照することで、海岸の各所への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを正確に予測することができ、警報装置301〜30mから適切な警報を発することが可能となる。
【0047】
また、観測地点201〜20nの各々には、当該地点における気圧を計測する気圧計211〜21nを設置すればよいだけであり、しかも、観測地点201〜20nは陸上にあるので、比較的安価で簡易にシステムを構築することができる。さらに、観測地点201〜20nは、一定の海抜高度を有する高台に設けられているため、津波の襲来によって気圧計211〜21nが破壊されて、その後の余震により生じた新たな津波の予測ができなくなってしまうということもない。
【0048】
また、気圧計211〜21nの各々で観測された気圧変化の波形のうちに、他とは近似しない波形があった場合には当該気圧計のデータは津波の発生地点及び規模の特定に用いないものとしているため、観測地点201〜20nの何れかでの局所的な影響による気圧変化が、津波の発生地点及び規模の特定に影響を与えて、これらが誤って特定されてしまうのを防ぐことができる。もっとも、荒天などにより生じた局所的な気圧変化の周波数は、津波の発生に基づく気圧変化の周波数とは明らかに異なることが分かる場合もあるので、このような周波数成分を除いた波形で津波の発生地点及び規模の特定を行うことで、荒天時においても使用可能な実用性の高いシステムを構築することができるものとなる。
【0049】
さらに、断層ズレ503による地震波、海面510の上昇による津波、海面の上昇による気圧変化は、連動して発生するものであるが、その伝播速度は、地震波、気圧変化、津波の順となっている。この実施の形態にかかる津波予測システムにおいて、コンピュータ装置100が津波の予測を行うための処理プログラムは、津波の発生が予想される規模の地震が発生したときに起動され、それ以外の場合においては、コンピュータ装置100は、別の処理を行っている。このため、津波の発生を監視する必要がないときにコンピュータ資源を無駄に消費しないで済むものとなる。
【0050】
本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。以下、本発明に適用可能な上記の実施の形態の変形態様について説明する。
【0051】
上記の実施の形態では、観測地点201〜20nは、全て陸上の高台にあるものとして説明したが、陸上であっても高台でないところや、海上に観測地点が置かれることを妨げるものではない。また、予測した津波の到達時刻及び高さを、警報装置301〜30mから発するのに加えて、或いはこれに代えて、携帯電話機にメールで配信するものとしてもよい。テレビ局やラジオ局などの報道機関に通知するものとしてもよい。
【0052】
上記の実施の形態では、コンピュータ装置100において実行される津波予測の処理のためのプログラムは、記憶装置102に記憶されているものとしていた。これに対して、このプログラムを、磁気ディスク装置や半導体メモリデバイスなどの記録媒体に格納し、コンピュータ装置100とは独立して配布するものとしてもよい。また、通信網400に接続されたサーバ装置が有する固定ディスク装置に格納しておき、コンピュータ装置100に通信網400を介して配信するものとしてもよい。
【0053】
観測地点データベース104及び海底地形データベース105は、記録媒体の形で配布したり、通信網400を介して配布したりするプログラムに含めて、配布することもできるが、観測地点データベース104及び海底地形データベース105をプログラムがインストールされるコンピュータ装置100とは別に通信網400上に設置し、これらのデータベース104、105にコンピュータ装置100からアクセスするものとしてもよい。記憶装置102にプログラムを記憶した状態で配布した場合も同様である。
【符号の説明】
【0054】
100 コンピュータ装置
101 CPU
102 記憶装置
103 通信装置
104 観測地点データベース
105 海底地形データベース
201〜20n 観測地点
211〜21n 気圧計
301〜30m 警報装置
400 通信網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が異なる観測地点に設置され、当該観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置と、該複数の各々の気圧観測装置に通信回線を介して接続された津波予測装置とを備え、
前記津波予測装置は、
津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段と、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段と、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段と、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段とを備える
ことを特徴とする津波予測システム。
【請求項2】
前記複数の気圧観測装置は、3以上あり、
前記津波予測装置は、前記気圧データ収集手段が収集した気圧観測装置毎の気圧データの各々に、他の気圧観測装置での気圧データが有する特徴とは異なる特徴を有する異常な気圧データを識別する異常気圧データ識別手段をさらに備え、
前記気圧データ解析手段は、前記異常気圧データ識別手段により異常な気圧データと識別された気圧データ以外の気圧データを解析する
ことを特徴とする請求項1に記載の津波予測システム。
【請求項3】
前記気圧データ解析手段は、前記気圧データ収集手段が気圧観測装置毎に収集した時系列の気圧データのうちのピークを特定する気圧ピーク特定手段を含み、
前記発生津波特定手段は、前記気圧ピーク特定手段が特定した気圧データのピークが2以上ある場合には、該ピーク毎に津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の津波予測システム。
【請求項4】
前記津波予測装置は、津波の発生が予測される規模の地震が発生したことを契機として起動される
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の津波予測システム。
【請求項5】
前記複数の気圧観測装置が設置された観測地点の少なくとも1つは、陸上にある
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の津波予測システム。
【請求項6】
各々が異なる観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置に通信回線を介して接続された津波予測装置であって、
津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段と、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段と、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段と、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段と
を備えることを特徴とする津波予測装置。
【請求項7】
各々が異なる観測地点における気圧データを観測する複数の気圧観測装置に通信回線を介して接続されるとともに、津波の観測対象となる海域の海底地形データを記憶した海底地形データ記憶手段を備えるコンピュータ装置において実行されるプログラムであって、
前記複数の気圧観測装置の各々が観測した気圧データを、気圧観測装置毎に時系列で収集する気圧データ収集手段、
前記気圧データ収集手段が前記複数の気圧観測装置の各々から収集した気圧データを解析する気圧データ解析手段と、
前記気圧データ解析手段の解析結果に基づいて、津波が発生した地点及び発生した津波の規模を特定する発生津波特定手段、及び、
前記海底地形データ記憶手段に記憶された海底地形データと、前記発生津波特定手段が特定した津波の発生地点及び規模に基づいて、海岸への津波の到達時刻及び到達する津波の高さを予測する津波予測手段
として前記コンピュータ装置を機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96802(P2013−96802A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239029(P2011−239029)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(303043276)株式会社雪研スノーイーターズ (2)
【出願人】(397039919)一般財団法人日本気象協会 (29)