説明

津波対応浮体建築物と建造方法

【課題】津波や台風高潮が発生しても浸水することのない津波対応浮体建築物及びその建造方法を提供する。
【解決手段】高潮水害の発生しやすい臨海地域に基礎4を構築し、その上へ台船型浮体1を単に載せ置く構成とし台船型浮体1には底部に鉛直下方に向けてアンカーポール2を突出すると共に、基礎表面にそのアンカーポール2が挿入される連結部材3を設け、ポール穴にアンカーポール2を挿入状態で基礎4上に浮体1を載せ置き、高潮浸水時に浮体1がアンカーポール2とポール穴のアンカー作用により流水に流されることなく鉛直上方に浮上するように構成した浮体建築物10を提供すると共に、基礎4にジャッキリフト8を挿入するメンテ通路6を形成しメンテ通路6内ジャッキリフト8を同期して昇降し浮体1底部の表面処理を施工するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は大地震による大津波や台風高潮又は集中豪雨による洪水等の水害から、人身人命及び貴重な財産を守護し、人が安全に居住する津波対応浮体建築物とその建造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平成16年12月26日マレーシア沖に発生した海底大地震により、インド洋沿岸諸国海岸地域に大津波による大水害が発生し、情報の伝達が遅れたこともあり過去未曾有の十数万人の死者が出た。
在来海岸地域に津波被害に対する避難設備は無く、小山や高層建築物の上階部に避難する以外に方法は無かった。
平成23年3月11日午後2時マグニチュード9に達する大地震と大津波が、三陸沿岸地帯に発生し近年日本国内で発生した津波に比較して比べものにならぬ極めて巨大な大災害が日本列島を直撃した。
如何に早く小山や高層建築物に逃避することが、被害を少なく食い止める方法ではある。
しかし小山や高層建築物が無い平野部の多い田園地帯や、又あっても時間距離が離れて速やかな避難の困難な臨海地帯は極めて多い。
津波発生の情報伝達通信手段の構築と共に、津波に遭遇した場合の避難する手段としての装置や設備の開発完備も極めて重要な課題である。
また年間数度も来襲する台風高潮や集中豪雨による河川氾濫による被害も、低地に居住する人達は高潮浸水や氾濫冠水により例年莫大な損害を蒙っている。
【0003】
我が国においては東日本大災害の次は、南海地震や東南海地震が発生する可能性が高いことから、鉄骨構造十数メートルのタワー型避難台の提案もなされている。
【特許文献1】特開2004−339920 しかしながら老若男女多数の人たちが短時間の内に階段を使って、十数メートル高所の避難台に登ることが出来るかどうかの疑問もあり、又津波の高さがタワーの高さ十数メートル以内であるかどうかの保証も無いので未だ普及の段階には至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は避難に際して十数メートもの高所に登ることなく、平地に設備した避難建築物に入るだけで難を逃れることが出来る津波対応浮体建築物を提供することを課題とする。
また本発明の津波に対する建築物の使用頻度は極めてゼロに近く、津波避難建築物として使用することは極めて稀であるので、避難用以外に多目的に使用出来る浮体建築物を提供することを課題とする。
【0005】
また本発明津波対策として使用する建築物は、十数メートル以上たとえば百メートル以上の如何なる高水位の津波にも、人命救助に対応出来る津波対応浮体建築物を提供することを課題とする。
また更に津波はおろかたびたび襲来する高潮水害や河川氾濫冠水にも、浸水冠水の危険がない一般建築物や居住用住宅を提供することを課題とする。
また更に本発明は、特に小高い丘や山の無い田園地帯で地域に3階以上の建築物が無く小高い丘陵地まで走るには車で数分以上かかる場所がある。
これらの地域は行政や地域の相談役が避難場所を指定決定するにも全く方法がなく困却しているのが現状であるが、本発明はこれらの地域に人命救助に対応出来る津波対応浮体建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
津波や台風及び河川氾濫等の高潮水難に対し、建築物の浸水を防止する浮体構造の台船型建築物で浮体上に人が居住するように構成し、以下1ないし5の条件を具備したことを特徴とする津波対応浮体建築物。
1,垂直断面積が先端に向けて次第に小となる船体船首部を備えた浮体は、津波高潮の襲来する方向に向けてコンクリート基礎の上に置かれる。
2,浮体と一体的に装備され浮体底部から鉛直下方に突出するアンカーポールと、浮体の空中重量を支えアンカーポールが挿入される連結部材が穿孔された基礎よりなる。
3.基礎上面に台座(5)を形成し、その台座上へ浮体を載せ置くと共に連結部材にアンカーポールを連結する。
4,前記台座(5)に隣接してジャッキリフト(8)を挿入可能なメンテ通路(6)を複数本形成する。
5,浸水状態となった時浮体は浮上するが、アンカーポールと連結部材が接触固定され浮体の流水による流動を阻止するように構成した。
【0007】
また次に上記津波対応浮体建築物において、メンテ通路(6)内に3台以上のジャッキリフト(8)を挿入し、そのジャッキリフトを同期して昇降させ浮体底部の表面処理作業することを特徴とする津波対応浮体建築物の建造方法である。
津波や台風及び河川氾濫等の水難に対し人身人命及び動産を守る避難用浮体の装備であって、水難情報により上記浮体上に避難者が乗船して避難する様に構成する。
また台風高潮や河川氾濫等で冠水する頻度の高い水難に対応し、浸水することがない安全な一般建築物や居住用住宅空間を提供する津波対応浮体建築物を提供する。
【0008】
本発明は必要な建設場所にコンクリートにより強固な基礎を構築し、その上へ台船構造の浮体である建築物を単に載せ置いたものである。
その浮体には浮体の底部から突出するアンカーポールを設け、基礎にはそのアンカーポールが挿入される様に上部表面にアンカー穴を穿孔した連結部材(3)が設けてある。
連結部材はアンカーポール先端部が挿入される穴状の形状でなくても、アンカーポールがパイプ形状ならばそのパイプの中へ挿入される棒状のものでも良い。
津波や台風高潮又は集中豪雨による河川堤防氾濫等の高水位が発生し、水位が浮体の喫水線以上になれば浮体は浮上する方向に水面から浮力を受ける。
水面の上昇と共に浮体は浮上するが、浮体から下方に突出したアンカーポールと基礎の連結部材の側壁部が接触固定され、浮体は潮流に水平方向の力を受けるが流されることなく鉛直真上方向に浮上する。
【0009】
津波は第一波が到来して水位が上昇し、次に急激な引き潮となり陸上部の破壊した器物等を海へ引き去り、また次に第二第三の高潮が到来することが多い。
高潮の高さがアンカーポールの長さ以内であれば、浮体は流されることなく水位と共に上下動するのみで、水位が下がればまた元の位置に浮体は安置される。
水位が更に上昇し浮体が浮上しアンカーポール下端部が連結部材から抜け出ると、アンカーポールと連結部材で構成されるアンカー装置がアンカー作用しなくなり、浮体は潮流や氾濫水に流される状態となる。
【0010】
浮体はアンカーポールを吊り下げた状態でフリーとなり、流れのままに翻弄されるが転覆沈没することはなく、浮体上の人命は救われる可能性が高い。
また次に本発明の津波対応浮体建築物は陸上建築物であり、造船所の様な大型設備を使えない市街地での現地工事で大型の浮体を建造しなければならない宿命がある。
そのため簡単に移動可能な小型設備で、巨大な浮体や建築物を建造する為に特別な施工手段の開発が必要であった。
本発明は移動可能な小型ジャッキリフトを基礎に設けたメンテ通路内に挿入し三台以上のジャッキリフトを同期して昇降させることにより浮体底部の外側からの表面処理をする建造方法を開発した。
【発明の効果】
【0011】
最近提案されている前述の津波の避難装置は、高さ十数メートルの鉄骨構造のタワーで頂上部に十メートル四方程度の手摺り付きの避難台と昇降用階段を設けたものである。
津波情報を受けて速やかに100人以上の多数の人たちが、十数メートルもの階段を上ることは、非常に困難を伴うものであり相当な時間を要する。
本発明の津波対応浮体建築物は浮体が浮上するための条件即ちアルキメデスの定理により、水面上に浮上した船体は船体底部の喫水線以下の容積の水の重さに等しい浮力を受ける。
(陸上に建設する建築物であるが浸水時は水上に浮かぶ船舶となり、説明が理解しやすいように以下甲板等の船舶用語も使用する。)
【0012】
津波対応浮体建築物に使用する台船型浮体は、構造上の特徴で甲板とほぼ等しい船底部面積があり、必要な浮力を得るために喫水が浅く極めて高さの低い平板状船体構造で充足する。
従って浮体上に避難する場合浮体の高さが極めて低く、浮体の前後側面にも昇降通路が配置可能で、階段昇降する場合に多数の人が並列して同時に乗り込むことが可能である。
更に本発明で基礎を側壁と底面を備える容器構造とし、容器状基礎を地面より下に埋設しその底面の高さを地面より下に下げたものは、その底面の上へ浮体を載せ置く構造となあり、浮体の甲板の高さが地面GLと同一及び自由に設定出来るので階段などで高所へ登る必要がない。
従って前述のタワー型避難台に比べて短時間の内に多数の人員の避難が可能である。
【0013】
更にこの避難用浮体の使用頻度は数十年ないし数百年に一度あるかないかの程度であり、このためには津波や台風高潮の避難のためだけでなく、常時は避難以外の用途に使用出来る多目的設備であることが望ましく土地と設備の有効利用が計られる。
即ち本台船浮体を設置して一定面積の土地を占用しても、台船型浮体は地面より下に入り台船浮体の入る容器型基礎の平面積だけ専用することになる。
また甲板上から船体内部船穀内への通路を設け、地下室として甲板下の容積を有効利用することも出来る。
その台船型浮体の上へ殆どの建築物例えば、集会場・ホテル・レストラン・幼稚園・学校・居住用住宅等まで建築装備可能で安全極まりない住居も提供出来る。
【0014】
津波避難に使用する場合、浮体すなわち船体の船首部分は津波の来襲する方向に向かって据え付けられており、船首部分は垂直断面積が次第に小さくなる流線形状に建造されているので波切りが良く津波など高速流を受けて船首部分は上方に浮上する。
急激な海水水位が上昇すると共に海から陸上方向に早い流速での潮流が発生しても、鉄筋コンクリートによる基礎に穿孔された連結部材と、アンカーポールによるアンカー装置によって浮体は固定され潮流に流されることはない。
水位が上昇することにより、浮体は浸水からの浮力を受けて浮上するがアンカー装置のアンカー作用により流されること無く鉛直上方に上昇する。
津波等の高潮水害では海から陸上部へ流れ込んだ水は、次に急激な引き潮となって陸上部から海へ流下する。この場合も浮体は上記アンカー装置によって水平方向への移動が阻止されて、水面の降下と共に浮体自体が鉛直下方へ降下して洋上に流されることなく元の位置に元の状態で復帰され甲板上の人身が守られる。
【0015】
津波の水面が極めて高くアンカーポールが基礎のアンカー穴から引き抜かれて外れた場合は、浮体はフリーとなって海水の移動と共に津波流に流されるが浮体船首部から錨とチェン又はワイヤーにより地上と強固に連結されているため、錨に引かれて浮体は固定され津波に破壊された浮遊物のように翻弄されることは無く船上の避難者は救われる可能性が高い。
しかしこの場合も陸上の大型構築物等に衝突破損しない限り浮体は沈没することはなく、その限り乗船している人身人命は守られる。
【0016】
本発明者は本発明と同種の発明及び考案を先願にて以下の通り出願している。
1,特願2005−137「水難避難台船」
2,特願2005−4065「水難避難台船型船舶」
3,特願2005−12248「水難対策浮体型建築物」
4,特願2005−16873「浮体型建築物」
5,特願2005−21277「台船型浮体建築物」
6,実願2005−571「浮体建築物」
7,特願2005−34075「浮体建築物」
本発明は上記発明及び考案の改良に関するもので、より具体的実用的にメインテナンスを考慮して創作したものである。
また本発明は上記発明の具体的製作方法を考慮し、製作方法に適した構成に改良して津波対応浮体建築物とその建造方法を提供するものである。
【0017】
本発明は特に台船型浮体の建設現場での建造方法に関するものであり、台船はこれまですべて大型クレーンやレール型船台または浮きドック等の造船所での建造であった。
本発明は内陸の陸上建築物で造船所の様な大型つり上げクレーン設備はなく、工事が完了すれば次々と建設現場が変わる建築工事であるため造船所での台船建造方法技術が通用せず、新たな施工方法を創作しなければならなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための一態様を例示するものであって、本発明は実施例のものだけに特定しない。
【実施例】
【0019】
図1は本発明津波対応浮体建築物(10)の構成と、浸水時の作動原理を説明するための鳥瞰図である。
鉄筋コンクリートにてなる基礎(4)は大部分が地中に埋設され、底面(18)及び四方に側壁部(15)を備える容器構造プール型で側壁部上面が地面(9)より若干高く形成されている。
底面(18)上に三条の直方体台座(5)が形成され、台座の四隅部に後述のアンカーポール(2)が挿入される連結部材(3)が穿孔されている。
【0020】
台座(5)と台座の間に底面(18)と同一平面でメンテ通路(6)が形成され、油圧式のジャッキリフト(8)が描かれている。ジャッキリフトは後述するが浮体(1)をジャッキアップする為の装置である。
底板と四側面と上面が鋼板等の板材にてなる中空の浮体(1)は、内部に荷重台(11)が内装され四隅部にアンカーポール(2)が一体的に枢着されている。
アンカーポール(2)はテレスコープ型で鉛直下方に伸縮し、図では伸長して下端部が前記連結部材(3)に挿入されている。
【0021】
基礎(4)の台座(5)は、浮体(1)とその上に構築される建築物のすべての空中重量を支える耐荷重力を備え、平常時浮体(1)は台座上に置かれる。
図1は浸水時の状況を示し、水面線(14)まで水位が上昇し浮体(1)が浮上すると共にアンカーポール(2)は下方に伸長してその先端部のみが連結部材(3)上端部に当接している。
津波や台風高潮及び河川氾濫等の浸水により、浮体(1)が浮上すると共にその流速により浮体(1)は水平方向に押し流される大きな力が作用するが浮体(1)は流されることはない。
浮体(1)と一体のアンカーポール(2)は浮体(1)と共に下流方向に流される大きな力を受けるが、アンカーポール(2)と連結部材(3)が当接し連結部材(3)にその力が作用して基礎(4)に作用するが、地球地面と一体の基礎(4)は不動であり浮体(1)は流されることはない。
【0022】
浮体(1)はアンカーポール(2)と連結部材(3)とが当接するアンカー作用により流水に流されることなく、水位の上昇と下降に従って上下動し最後に高潮が引けばまた元の位置に浮体(1)は安置される。
浸水水位が異常に高くアンカーポール(2)下端部が連結部材(3)から抜け出ると、浮体(1)はアンカーポール(2)を吊り下げた状態で流れに翻弄される。
浮体(1)は平板状の形状で水面上では極めて安定した構造であるが、アンカーポール(2)を吊り下げると重心が下方に移動し更に安定性が良くなる。
従って構築物に衝突して台船型浮体が破損浸水しない限り沈没することはなく、浮体上の建築物や人身は守られる。
【0023】
浮体船首部甲板上にウインチ(30)が設置されチェン(32)を介して錨(31)に連結されている。
これは浮体が上記のごとくアンカーポールをつり下げて浮遊状態になったとき、浮体が津波にさらわれて流れに翻弄されるのを防止するものである。
またアンカーポールは必ずしも浮体に固定されるものでは無く、一定の水位に達すれば図14ないし図15に示すようにアンカーポールを連結部材(3)に残し、浮体が自由に浮上するように構成しても良い。
【0024】
また台船型浮体(1)が破損して浸水があっても、浸水沈没は通常相当な時間経過後でそれまでに高潮水害は終了することが多い。
水位が下がり障害物の無い平らな地形であれば、浮体(1)はそのままの状態でアンカーポール(2)が縮小しその位置に安置される。
【0025】
次に本発明津波対応浮体建築物(10)の建築現場での建造方法について詳述する。
特に浮体(1)は台船型船舶であり、大型クレーンとレール船台や浮きドック等これまで設備の整った造船所で建造されるものであった。
完成浸水後は洋上曳航など常に水上を移動または係留されるもので、本発明の津波対応浮体建築物の浮体は建設現場で建造しその場所で永年設置されるものとは基本的に異なる。
【0026】
工事が完了すれば建設現場が次々と変わり、大型設備の無い現場で如何に効率的に建造するかは新たな建造方法とそれに適した構造変更の必要があった。
図2は図1の右下から左上方向に見た基礎(4)の側面図でアンカーポール(2)部分の断面図である。
基礎(4)はプール型基礎(7)で両端の基礎側壁部(15)の上面は、雨水が流れ込まないように地面(9)から僅かながら上方に突出している。
図2に示す様に連結部材(3)が穿孔されメンテ通路(6)及び浮体(1)を置く台座(5)が形成されている。
【0027】
図3は浮体(1)の組み立て作業中の図で、台座(5)上に鋼板等の板材(19)を敷き溶接により連結しながらアンカーポール(2)及び荷重台(11)を設計図書に従って配置する。
荷重台(11)は浮体の上に建設される建築物の荷重分布と、浮体が浸水した場合の水圧とのバランスを考慮して必要強度を推定し設計しなければならない。
図6は荷重台を例示するものであり、AはH型鋼Bは角パイプCは円筒パイプの両端に平板を溶接したものDはH型鋼4本を組み合わせ両端を平板に溶接したものである。 何れも上下方向に耐荷重強度があるように、板鋼材を縦に圧縮する方向に力が作用する。
【0028】
アンカーポール(2)自体も、上下方向の荷重を受ける荷重台としての機能がある。
図3の浮体(1)組み立て作業は、浮体の底板や側面の外側からは溶接や塗装等の表面処理は、作業スペースが無く施工出来ないので、すべて浮体内側からの作業ですすめる。
図7は図1の左手前から右奥方向に見た側面図で、アンカーポール(2)位置の断面図であり図8はその平面図でプール型基礎(7)底面(18)の断面図である。
【0029】
図4は浮体の完成図であり、メンテ通路(6)にはジャッキリフト(8)が配置されている。
ジャッキリフト(8)は図1及び図7ないし図8の開口部(12)からプール型基礎(7)内に搬入され、図8に示すように浮体の重量に適合した必要な台数が適正に配置される。
図5と図7はジャッキリフト(8)がすべて同期して運転され浮体全体が持ち上げられ、アンカーポール(2)は重力の為 下方に伸長した状況を示す。
この状態で浮体(1)の底板や側面の外側からの溶接状態即ち裏波の点検や塗装等の表面処理作業を施工する。
【0030】
ジャッキリフト(8)が浮体底板に当接している部分は直接作業が出来ないので、隣接場所のジャッキリフト(8)で支えてその部分のみ降下させて作業する。
次にジャッキリフトをすべて同期して降下させ、浮体を台座(5)上に安置させジャッキリフトを取り出せば浮体工事は完了する。
浮体工事が完了すれば次にその浮体上に建築物を建設するが、建家(20)等建築物と浮体は図示しないがアンカーボールトにより強固に連結する。
【0031】
図9はその建築工事が完了した完成図であり、右端開口部(12)には開閉扉(21)が設けられており手動または動力による駆動装置(22)により開閉する様に構成されている。
この開閉扉(21)の開口(27)は図8に示すように幅方向に大きく開口し、津波等の浸水情報を受けて上方へ回動解放する。
図10はその状況を示し浸水は先ず開閉扉(21)に衝突してプール型基礎(7)の底面(18)に流入し、メンテ通路(6)が導水路(16)となりプール内全体に浸水して浮体(1)は大きな浮力を受けて浮上する。
【0032】
図では水面線(14)の上昇と共に浮体は浮上しながらアンカーポール(2)は鉛直下方に伸長し、アンカーポール下端部が連結部材(3)に当接して、アンカーポールと連結部材(3)のアンカー作用により、浮体は流されることは無くその位置を保っている。
水位が下降すれば浮体と建家(20)はそのままの位置でアンカーポール(2)が短縮して、元の台座上に安置される。
【0033】
水位上昇が異常に高くアンカーポール(2)下端部が連結部材(3)から抜け出ると、アンカー作用が無くなり建家と浮体は流れに翻弄されるが、大事故にはなり難く前述の図1での説明の通りである。
十年ないし数十年に一度は浮体(1)の底板とプール型基礎(7)の内側は点検整備する必要があり、その時には図9に示すように開閉扉(21)を開口しジャッキリフト(8)をメンテ通路(6)内に搬入して、浮体とその上の建築物すべてをジャッキアップしてメインテナンス整備する。
【0034】
図11ないし図13に記載の津波対応浮体建築物(10)の実施例は、津波避難のみに使用する緊急避難用として想定したものである。
この基礎(4)はプール型ではなく地面(9)上に台座(5)が露出している為、浮体(1)甲板(28)には階段等の昇降路(25)を上がらねばならない。
図11は右側から高潮が押し寄せる方向に浮体台船の船首部を向けた配置とし、側面から見た側断面図であり、図12はその平面図で図13は正面から見た側断面図である。
【0035】
アンカーポール(2)は伸縮型ではなく浮体(1)と一体の鞘管(23)内に鋼管パイプを連通したもので、上端にストッパ(26)を設けある程度浮体が浮上すると鞘管(23)上端に当接し、アンカーポール(2)を引き抜く作用をする。
浮体側面の下方には浮体(1)と一体に雨水カバ(13)が全周に亘って、基礎上面の突条(29)を覆う様に設けられており雨水のメンテ通路(6)流入を防止している。
メンテ通路(6)右端部上方には開閉扉(21)が設けられており、津波等の高潮情報を受けてスイング解放しておき、浸水をメンテ通路(6)兼用の導水路(16)を介して浮体底部へ海水を導入して浮体浮上を促進する。
また開閉扉(21)は浮体のメンテナンス作業時には、図のようにジャッキリフト(8)を挿入して前実施例と同様に、三台以上のジャッキリフト(8)を同期して運転し浮体をジャッキアップする。
【0036】
メンテ通路(6)の大きさは人が入れる寸法が理想ではあるが、必ずしも作業員が入れなくても治具を使用して手前から奥に押し入れても良い。
図14ないし図16は避難するための小高い丘陵や安全な高さの避難用ビルがない田園地帯に設け、大勢の避難者を収容する避難用浮体としての津波避難建築物である。
図16は右側が津波の襲来する海であり、海に向かって船首を向け鉄筋コンクリート基礎の上に載置された浮体で船首甲板上に2台のウインチ(30)が据え付けられチェインを介して錨(31)が基礎の前方に埋設されている。
津波が右側海岸線から襲来すると先ず船首部に衝突し浮体に大きな波の力が作用し、浮体は左方向に強く押されるが、浮体と一体の鞘管(23)内に収納されたアンカーポールと基礎の連結部材が大地に固定されており浮体は鉛直上方に浮上するが流されない。
【0037】
アンカーポールの長さ以上の津波の場合、浮体はアンカーポールから抜け出て流されるが錨に連結されたチェンによって食い止められる。非常に高い水深で浮体が高く浮き上がる場合は、ウインチ(30)によってチェン(32)を伸ばさなければ錨(31)が引けて浮体(1)の流れを食い止められない。
図14ないし図15は図16の平面図を立体的に描写したもので、アンカーポール(2)の上端部にストッパが無く浮体はアンカーポールを残して簡単に浮上するものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は津波災害に対する避難設備であり、近い将来南海地震や東南海地震が発生することが予測されており極めて関心の高いテーマである。
また台風による高潮水害は殆ど毎年各地で発生しており、この高潮水害に対応する手段として本発明は極めて有効である。
技術的に完成した装備を提供することにより建設業界及び造船業界にも産業上大きな利用の可能性がある。
2004年12月末のインド洋沿岸地域を襲った大津波は、数時間の内に十数万人の尊い人命を奪い海洋性リゾートを楽しむ人達に大打撃を与えた。
【0039】
大津波に対する何らかの絶対信頼出来る救難施設が完成するまでは、多くの観光客は海岸リゾートに足を向けなくなるであろう。
本発明はその安全性に対する効果が証明され衆知されることにより、この海洋性リゾート産業と臨海地域に居住する多くの人達に安全な生活を保証する大きな糧となる可能性がある。
また本発明は一般の居住用建築物や大型のホテルに適用し、高潮被害の発生しやすい海岸低地に建築することにより、その効果が証明されれば建設産業界に大きな利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明津波対応浮体建築物(10)の構成と、浸水時の作動原理を説明する鳥瞰図。
【図2】プール型基礎(7)断面図。
【図3】浮体工事中のプール型基礎(7)断面図。
【図4】同上。
【図5】同上。
【図6】荷重台の例示鳥瞰図。
【図7】浮体建造工事中のプール型基礎(7)側断面図。
【図8】同上平面図。
【図9】プール型基礎と浮体の側断面図と完成した建家(20)側面図。
【図10】同上浸水時の作用説明側断面図。
【図11】避難専用津波対応浮体建築物(10)の側断面図。
【図12】同上平面図。
【図13】正面から見た避難専用津波対応浮体建築物の側断面図。
【図14】津波襲来により浮上した浮体の鳥瞰図。
【図15】基礎の上に置かれた浮体の鳥瞰図。
【図16】基礎の上に置かれた浮体の平面図
【符号の説明】
【0041】
1…浮体
2…アンカーポール
3…連結部材
4…基礎
5…台座
6…メンテ通路
7…プール型基礎
8…ジャッキリフト
9…地面
10…津波対応浮体建築物
11…荷重台
12…開口部
13…雨水カバ
14…水面線
15…側壁部
16…導水路
17…台座
18…底面
19…板材
20…建家
21…開閉扉
22…駆動装置
23…鞘管
24…手摺り
25…昇降路
26…ストッパ
27…開口
28…甲板
29…突条
30…ウインチ
31…錨
32…チェイン
33…船首部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波や台風及び河川氾濫等の高潮水難に対し、建築物の浸水を防止する浮体構造の台船型建築物で浮体上に人が居住するように構成し、以下1ないし5の条件を具備したことを特徴とする津波対応浮体建築物。
1,垂直断面積が先端に向けて次第に小となる船体船首部を備えた浮体は、津波高潮の襲来する方向に向けてコンクリート基礎の上に置かれる。
2,浮体と一体的に装備され浮体底部から鉛直下方に突出するアンカーポールと、浮体の空中重量を支えアンカーポールが挿入される連結部材が穿孔された基礎よりなる。
3.基礎上面に台座(5)を形成し、その台座上へ浮体を載せ置くと共に連結部材にアンカーポールを連結する。
4,前記台座(5)に隣接してジャッキリフト(8)を挿入可能なメンテ通路(6)を複数本形成する。
5,浸水状態となった時浮体は浮上するが、アンカーポールと連結部材が接触固定され浮体の流水による流動を阻止するように構成した。
【請求項2】
請求項1の浸水対応浮体建築物において、メンテ通路内に3台以上のジャッキリフトを挿入し、そのジャッキリフトを同期して昇降させ浮体底部の表面処理作業することを特徴とする浸水対応浮体建築物の建造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−225032(P2012−225032A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92652(P2011−92652)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000251015)
【Fターム(参考)】