説明

活性エネルギー線硬化型インキ組成物

【課題】硬化性能と柔軟性能の両方に優れた活性エネルギー線硬化型インキ組成物の提供

【解決手段】インキ全量に対して、1〜20重量%のバインダー樹脂、10〜80重量%のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、光重合開始剤および顔料を含有する活性エネルギー線硬化型インキにおいて、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーが、エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーを1種類以上かつ、エチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーを2種類以上であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性能と柔軟性能の両立が可能な活性エネルギー線硬化型インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型インキを構成する成分は、樹脂、モノマー、顔料、開始剤、その他補助剤に大別することができ、モノマー成分においては一分子中に存在するエチレン性不飽和二重結合の数が多いものは硬化性能が高く柔軟性能が低い。一方でエチレン性不飽和二重結合の数が少ないものは硬化性能が低く柔軟性能が高いことが知られている。
【0003】
硬化性能が低いインキでは、印刷時のインキ硬化が不十分になる場合があり、インキ硬化が不十分だと印刷表面の擦れや積み重ねたとき上の印刷物の裏面にインキが付着するブロッキングのトラブルを引き起こすことがある。
【0004】
柔軟性能が低いインキでは、印刷物が製函工程等で折り曲げられたときにインキ皮膜が開裂する罫線割れのトラブルを引き起こすことがある。
【0005】
一般に活性エネルギー線硬化型インキにおいて、硬化性能を得るためにはエチレン性不飽和二重結合の数が多いモノマーを用い、柔軟性能を得るためにはエチレン性不飽和二重結合の数が少ないモノマーを用いる。硬化性能と柔軟性能は相反する性能であるため、その両立は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−157962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化性能と柔軟性能に優れた活性エネルギー線硬化型インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、バインダー樹脂、特定のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、光重合開始剤および顔料を含有する活性エネルギー線硬化型インキは、硬化性能と柔軟性能に優れたことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、インキ全量に対して、1〜20重量%のバインダー樹脂、10〜80重量%のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、光重合開始剤および顔料を含有する活性エネルギー線硬化型インキにおいて、
エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーが、
エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーを1種類以上
かつ、
エチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーを2種類以上であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキに関するものである。
【0009】
さらに、本発明は、前記エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーまたはエチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーのうち少なくとも3種類のモノマーが、インキ全量に対して、2重量%以上であることを特徴とする上記の活性エネルギー線硬化型インキに関するに関するものである。
また、本発明は、エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーおよびエチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーが、
重量平均分子量600以上のモノマー2種類
および
重量平均分子量600未満のモノマー1種類を含んでいることを特徴とする上記の活性エネルギー線硬化型インキに関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、硬化性能と柔軟性能の両方に優れた活性エネルギー線硬化型インキ組成物を提供することが可能となった。
【0011】
単純にエチレン性不飽和二重結合の多いモノマーと少ないモノマーを併用するだけでは硬化性能と柔軟性能の両立は発現せず、エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーとエチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーを3種類以上用い、これらのうち少なくとも1種類は重量平均分子量600以下のモノマーを用いることで硬化性能を発現し、且つ、これらのうち少なくとも2種類は重量平均分子量600以上のモノマーを用いることで柔軟性能を発現し、硬化性能と柔軟性能の両立を可能にしたと考える。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用する、活性エネルギー線とは、紫外線、電子線のことであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明で使用するエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとは、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、ビニルモノマーのことであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0014】
本発明で使用される活性エネルギー線硬化型組成物の組成の例としては、
(a)バインダー樹脂 1〜20重量%
(b)アクリレートモノマー 10〜80重量%
(d)顔料(有機顔料・無機顔料) 5〜55重量%
(e)光開始剤、光開始助剤 1〜20重量%
(f)添加剤 1〜10重量%
が挙げられる。
【0015】
本発明において使用するバインダー樹脂としては、熱硬化性または熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ブタジエンーアクリルニトリル共重合体のような合成ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は、その中の1種または2種以上を用いることができる。何れもエチレン性不飽和ニ重結合を有するモノマー可溶である樹脂が用いられる。
【0016】
本発明において、アクリレートモノマーとは単官能または多官能の(メタ)アクリレート類をいい、10〜80重量%の範囲で用いられる。
【0017】
単官能モノマーとしてアルキル(カーボン数が2〜18)(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートがあり、さらにベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノメチロール(メタ)アクリレート等が例示される。
【0018】
多官能(メタ)アクリレート類としてはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、 ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート(通称マンダ)、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添加ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添加ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添加ビスフェノーAジ(メタ)アクリレート、水添加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラエチレンオキサイド付加体(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトネートヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0019】
顔料としては、無機顔料および有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラなどが、有機顔料としては、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系などの溶性アゾ顔料、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素または臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系など)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系などの多環式顔料および複素環式顔料などの公知公用の各種顔料が使用可能である。
本発明に係る顔料は、組成物100重量%に対して5〜55重量%の範囲で用いられる。
【0020】
本発明で使用される光開始剤としては、水素引き抜き型として、ベンゾフェノン、p−メチルベンゾフェノン、p―クロルベンゾフェノン、テトラクロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルージフェニルサルファイド、2−イソプロピルチオシサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、アセトフェノン・アリールケトン系開始剤、4,4’−ビス(ジエチルアニノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノアセトフェノン・ジアルキルアミノアリールケトン系開始剤、チオキサントン、キサントン系・そのハロゲン置換・多環カルボニル系開始剤などが挙げられる。また、開裂型光開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α―アクリルベンゾイル・ベンゾイン系、ベンジル、2−メチルー2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパンー1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノー1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシー2−メチルー1−フェニルプロパンー1−オン、1−(4−イソプロピルフェニルー2−ヒドロキシー2−メチルプロパンー1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルー(2−ヒドロキシー2−プロピル)ケトン、4−(2−アクロイルーオキシエトキシ)フェニルー2−ヒドロキシー2−プロピルケトン、ジエトキシアセトフェノンなどがある。
【0021】
また、光開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン・脂肪族アミン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジブチルエタノールアミンが挙げられる。
光開始剤は組成物100重量%に対して組成中に1〜20重量%の範囲で用いられる。
【0022】
一方、組成物中への、添加剤として、耐摩擦、ブロッキング防止、スベリ、スリキズ防止、暗反応防止を目的とする各種添加剤を使用することができ、必要に応じて、レベリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によ
って限定されるものではない。
以下に示す処方により活性エネルギー線硬化型インキ組成物を作成した。
【0024】
(ワニスの作製)
バインダー樹脂とモノマーとを昇温加熱混合(上限温度を100℃の留め)させ、バインダー樹脂をモノマーに溶解させて樹脂ワニスを作製する。ここでバインダー樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂(分子量50000)を使用したが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0025】
(インキ組成物の作製)
表1、2の処方により配合した原料を、バタフライミキサーを用いて攪拌混合し、3本ロールにて最大粒径が7.5μm以下になるように分散してインキ組成物を作成し、更に樹脂ワニスとモノマーの割合を調整して、インコメーター400rpm、30℃の条件でタック値が8.0〜10.0を示す実施例1〜4、比較例1〜5の活性エネルギー線硬化型インキ組成物を作成した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
<硬化性能評価>
各活性エネルギー線硬化型インキ6.0×10−4(ml/cm)をRIテスターにてマリコート紙(北越製紙(株)製コートボール紙)に印刷し、紫外線照射(空冷メタルハライドランプ120W/cm1灯)後、綿布で擦って皮膜に傷が付かないコンベアスピードで判定した。
(評価基準)
○:コンベアスピード 60m/分で傷つき無
△:コンベアスピード 60m/分で傷つき有 30m/分で傷つき無
×:コンベアスピード 30m/分で傷つき有
【0031】
<柔軟性能評価>
各活性エネルギー線硬化型インキ6.0×10−4(ml/cm)をRIテスターにてマリコート紙(北越製紙(株)製コートボール紙)に印刷し、紫外線照射(空冷メタルハライドランプ120W/cm1灯)コンベアスピード20m/分で硬化させ展色物を作成。展色面と反対方向に180度折り曲げた後、90度まで戻したときの展色面のインキ割れの有無を、柔軟性能の指標とした。
(評価基準)
○:割れ無
△:若干の割れ
×:割れ有
【0032】
【表5】

【0033】
表5に示すようにアクリレートモノマーの組み合わせとして、本特許の条件を満たす実施例1〜6の各活性エネルギー線硬化型インキでは、硬化性能、柔軟性能共に良好な結果を示し、硬化性能と柔軟性能が両立できる結果を得た。一方でエチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーを用いていない比較例1は柔軟性能が劣り、エチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーを用いていない比較例2は硬化性能が劣り、エチレン性不飽和二重結合を4官能以上有し且つ重量平均分子量600以下のモノマーを用いていない比較例3は硬化性能が劣り、エチレン性不飽和二重結合を4官能以上有し且つ重量平均分子量600以上のモノマーを用いていない比較例4は柔軟性能が劣り、エチレン性不飽和二重結合を4官能以上有し且つ重量平均分子量600以上のモノマーを1種類しか用いていない比較例5は柔軟性能が充分でなく、エチレン性不飽和二重結合を4官能または5官能以上有するモノマーを2種類しか用いていない比較例6は、硬化性能が充分でなく且つ柔軟性能も劣る結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ全量に対して、1〜20重量%のバインダー樹脂、10〜80重量%のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、光重合開始剤および顔料を含有する活性エネルギー線硬化型インキにおいて、
エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーが、
エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーを1種類以上
かつ、
エチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーを2種類以上
であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーまたはエチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーのうち少なくとも3種類のモノマーが、インキ全量に対して、2重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和二重結合を4官能有するモノマーおよびエチレン性不飽和二重結合を5官能以上有するモノマーが、
重量平均分子量600以上のモノマー2種類
および
重量平均分子量600未満のモノマー1種類
を含んでいることを特徴とする請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化型インキ。