説明

活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、接合構造体、分析用マイクロチップ、接合構造体の接着方法

【課題】接着強度、透明性に優れ、自家蛍光が極めて低く、かつマイクロチップに使用した場合の流路の封鎖がない、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、該接着剤組成物を用いて作製した接合構造体、分析用マイクロチップを提供する。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体Aと環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体Bを、重量比(単量体A/単量体B)が9/1〜5/5の範囲内で含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、該組成物を用いて作製した接合構造体、分析用マイクロチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、該接着剤組成物を用いて作製した接合構造体、分析用マイクロチップ、および接合構造体の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子診断用に使用される分析用マイクロチップは、2枚のプラスチック基板を接着剤を用いて接合して作製される。プラスチック基板には自家蛍光の少ない環状オレフィン系樹脂が用いられる。
環状オレフィン系樹脂からなる基板を接合するための接着剤は、例えば特許文献1〜5に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特許第4021391号公報
【特許文献2】特開2004−307577号公報
【特許文献3】特開2005−314453号公報
【特許文献4】特許第2805225号公報
【特許文献5】特許第3664262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載の接着剤では、環状オレフィン系樹脂の接着剤として共重合体を使用しているが、接着強度が低いという問題があった。また、特許文献5に記載の接着剤は接着強度は高いが、スチレン−ジエン系ブロック共重合体やアクリルニトリルブタジエンゴムを使用しているため透明性が確保できておらず、自家蛍光があるという問題があった。また、マイクロチップに使用した場合に流路が封鎖されるという問題もあった。また、有機溶剤を使用しているため環境適性の問題もあった。
本発明の目的はこれらの従来の接着剤の問題点を解決し、接着強度、透明性に優れ、自家蛍光が極めて低く、かつマイクロチップに使用した場合の流路の封鎖がない、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、該接着剤組成物を用いて作製した接合構造体、分析用マイクロチップ、および接合構造体の接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、下記手段により上記課題が解決されることを見出した。
【0006】
1. 環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体Aと環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体Bを、重量比(単量体A/単量体B)が9/1〜5/5の範囲内で含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
2. 前記単量体Aが、単量体Aに環状オレフィン系樹脂を4日間浸漬した場合の膨潤度が20%以上となり、かつ該樹脂が溶解しないものである、上記1記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
ただし膨潤度は下記式で定義される。
膨潤度 =(浸漬後重量−初期重量)/初期重量×100(%)
3. 前記単量体Aがシクロアルキル構造を有するアクリレート化合物またはメタクリレート化合物である、上記1または2記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
4. 前記単量体Bが芳香族ビニル化合物である、上記1〜3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
5. 前記単量体Aがメタクリル酸シクロヘキシルであり、前記単量体Bがスチレンである、上記1〜4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
6. 2つ以上の構造体単位を含み、該構造体単位の少なくとも1つが環状オレフィン系樹脂からなり、該構造体単位が上記1〜5のいずれかの活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化した接着剤層を介して接合された接合構造体。
7. 前記構造体単位の少なくとも1つが、前記接着剤層側の面に、幅0.01〜2mm、深さ0.01〜2mmの溝形状を有する、上記6記載の接合構造体。
8. 上記7記載の接合構造体からなり、遺伝子診断用に使用される分析用マイクロチップ。
9. 上記7記載の接合構造体の接着方法であって、前記溝形状を有する構造体単位の接着面の溝形状の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるようなパターンを有する印刷版上に、上記1〜5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、一方の構造体単位の表面に転写させて、該表面と他方の構造体単位を重ねた後に、活性エネルギー線を照射して該組成物を硬化させて接着する、接合構造体の接着方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着強度、透明性、環境適性に優れ、かつ自家蛍光のない、環状オレフィン系樹脂からなる構造体の接合に用いる活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、該接着剤組成物を用いて作製した接合構造体、分析用マイクロチップ、および接合構造体の接着方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。また、本明細書において、「アクリレート化合物またはメタクリレート化合物」を単に「(メタ)アクリレート化合物」とも記載する。「(メタ)アクリル酸」等も同様である。
【0009】
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、活性エネルギー線による硬化前の環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体Aと、環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体Bとを含有しており、浸透性の単量体Bが環状オレフィン成形品の表面に浸透した後に、膨潤性のある単量体Aと光硬化でラジカル重合させることにより、接着剤ポリマー鎖と環状オレフィン系樹脂との絡み合いが発生する(チェーンエンタングルメント)ため、強力な接着強度が得られると推測される。
【0010】
本明細書での膨潤と溶解について説明する。
単量体と環状オレフィン系樹脂からなる試験片(厚さ2mm、長さ50mm、幅30mmの成形品を約0.2gの大きさに切ったもの)との重量比率を9:1として、23℃60%RHで単量体に該試験片を4日間浸漬させ、浸漬前後の該試験片の重量を測定し、下式のように膨潤度を定義した。
膨潤度 =(浸漬後重量−初期重量)/初期重量×100(%)
なお、浸漬後の重量測定の前には特に乾燥工程を設けなくともキムワイプ(日本製紙クレシア(株)製、登録商標)等で充分拭う程度(目視でキムワイプに単量体がつかなくなる程度)でよい。
本明細書では上記膨潤度が1%以上である場合を「膨潤する」と定義した。
【0011】
また、目視で前記試験片の跡形がなくなった場合を「溶解した」と定義した。
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に含有される各成分について説明する。
【0013】
[環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体A]
環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体Aは、膨潤度が20%以上となり、且つ該樹脂が溶解しないラジカル重合可能な単量体であることが好ましい。
単量体Aとしては、シクロアルキル構造を有する(メタ)アクリレート化合物が好ましく、メタクリル酸シクロヘキシル(膨潤度25.5%)が特に好ましい。
単量体Aとして使用される各化合物は市販されており容易に入手可能であるし、また容易に合成することもできる。
例えばメタクリル酸シクロヘキシルは、和光純薬工業(株)から、製品名「和光特級 メタクリル酸シクロヘキシル」が販売されている。
【0014】
[環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体B]
環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体Bとしては、芳香族ビニル化合物が好ましく、スチレンが特に好ましい。
スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−オクチルスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
単量体Bとして使用される各化合物は市販されており容易に入手可能であるし、また容易に合成することもできる。
例えばスチレンは、和光純薬工業(株)から製品名「和光特級 スチレン、モノマー」が販売されている。
【0015】
[単量体Aと単量体Bの含有比]
単量体Aと単量体Bの含有比は、重量比(単量体A/単量体B)で9/1〜5/5の範囲内である。該重量比が、9/1より大きい、すなわちスチレン等の単量体Bの含有量が上記範囲よりも少ないと、接着剤組成物の粘度が高くなり、塗布時に空気が接着剤組成物に巻き込まれることにより泡が発生し、塗布性が悪化する。また、接着強度が低下する。
該重量比が、5/5より小さい、すなわちスチレン等の単量体Bの含有量が上記範囲よりも多いと、環状オレフィン系樹脂が溶解してしまう。また自家蛍光の増加や透明性の低下が起こる。
該重量比は好ましくは8/2〜5/5の範囲内である。
一方接着強度は、単量体A/単量体Bを9/1以下としたことによって、環状オレフィン系樹脂からなる成形品である試験片を用いてJIS K7113等による引張試験に供した場合、引張り試験後の試験片接着体の破断パターンが、接着剤と試験片表面との界面剥離から接着剤自体の凝集破壊パターンへの移行が観察される。従ってより好ましくは単量体A/単量体Bは8/2以下である。
【0016】
[その他の成分]
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で前記単量体Aと単量体B以外にもその他の成分を含有してもよい。
例えば、光重合開始剤、シランカップリング剤、酸性リン酸化合物、酸化防止剤、着色剤、剥離剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、フィラー、レベリング剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。
光重合開始剤としては、ラジカル系のうちアルキルフェノン系が好ましい。その中でベンジルジメチルケタールが特に好ましい。例として、ダロキュア1173、イルガキュア127、184、651、2959(長瀬産業株式会社)が挙げられる。
これらのその他の成分の接着剤組成物中の含有量は、1〜10質量%であることが好ましい。
【0017】
[環状オレフィン系樹脂]
本発明における環状オレフィン系樹脂とは、環状オレフィン構造を有する重合体樹脂のことを表す。環状オレフィン構造を有する重合体樹脂の例には、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィンの重合体、環状共役ジエンの重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物などがある。
これらのなかでもノルボルネン系付加重合体およびノルボルネン系開環重合体などのノルボルネン系樹脂が特に好ましい。
【0018】
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−7732号公報、特表2002−504184号公報、米国特許出願公開第2004/229157号明細書あるいは国際公開第2004/070463号パンフレット等に開示されている。ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合することによって得られる。また、必要に応じ、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、エチレン、プロピレン、ブテン;ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン;エチリデンノルボルネンのような非共役ジエン;アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの線状ジエン化合物とを付加重合することもできる。このノルボルネン系付加(共)重合体は、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)の異なる例えばAPL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)あるいはAPL6015T(Tg135℃)などのグレードがある。ポリプラスチック(株)よりTOPAS8007(Tg80℃)、同6013(Tg140℃)、同6015(Tg160℃)などのペレットが発売されている。更に、Ferrania社よりAppear3000(Tg330℃)が発売されている。
【0019】
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号、特開平7−196736号、特開昭60−26024号、特開昭62−19801号、特開2003−1159767号あるいは特開2004−309979号等の各公報に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより作られる。
このノルボルネン系樹脂または該樹脂を射出成形した成形体(本発明で用いる後述の構造体単位に相当)は、市販されており容易に入手できる。例えば、JSR(株)からアートン(Arton)G、アートンFという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からZEONOR(ゼオノア)750R、1020R、1600、ZEONEX(ゼオネックス)480R平板(射出成形品、厚み2mm)等の商品名で市販されており、これらを使用することができる。
【0020】
[接合構造体]
接合構造体は、2つ以上の構造体単位を接着剤組成物を硬化した接着剤層を介して接合したものであるが、本発明においては構造体単位の少なくとも1つは環状オレフィン系樹脂からなる。少なくとも1つの構造体単位の他の構造体単位と接合する面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、接合させる他の構造体単位を重ね、活性エネルギー線を照射して該接着剤組成物を硬化させ接着剤層とし、該接着剤層を介して接合する。
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、環状オレフィン系樹脂からなる構造体単位どうしを接合するために用いられることが好ましい。
構造体単位どうしを重ねてから活性エネルギー線照射までの時間として、0.5〜数秒で幅をもっていてもよいが、完全に固化させるため1時間かけて行ってもよい。
【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は前記単量体Aおよび単量体Bを特定の比率で含有しており、粘度が適切であり、塗布性に優れる。また前記構造体単位の少なくとも1つが、接着剤層側の面に溝形状を有する場合、例えば幅0.01〜2mm、深さ0.01〜2mmの溝形状を有する場合には、溝を埋めることなく接合することが可能である。このような溝形状を有する構造体単位を接合したものとしては、例えば遺伝子診断に用いられる分析用マイクロチップが挙げられ、本発明の接着剤組成物を用いればマイクロチップの流路を封鎖することがない。マイクロチップのスペックとしては、例えば厚さ2mm、縦30mm、横50mmで、幅0.5mm、深さ0.5mmの溝形状を有するノルボルネン系樹脂からなる構造体単位に、厚さ1mm、縦30mm、横50mmのノルボルネン系樹脂からなる構造体単位(平板)を接合させたものなどが挙げられる。
【0022】
[活性エネルギー線]
接着剤組成物を硬化させる活性エネルギー線としては、紫外線、X線及び電子線等が挙げられるが、安価な装置を使用することができる紫外線を用いることが好ましい。紫外線により硬化させる場合の光源としては、種々のものを使用することができ、例えば加圧若しくは高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ、又はカーボンアーク灯等が挙げられる。
【0023】
[接着方法]
接合構造体の接着方法は、前記溝形状を有する構造体単位の接着面の溝形状(凹構造)の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるようなパターンを印刷版として(図1参照)、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を印刷版に塗布し(図2参照)、一方の構造体単位の表面に転写させて(図3参照)、他方の構造体単位を重ねた後に、活性エネルギー線を照射して硬化、接着する(図4参照)ことが好ましい。
接着面の溝形状の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるようなパターンを接着面に転写させる方法としては、比較的少量であればパッド(タンポ)印刷方式、大量生産する場合は、凸版、フレキソ、オフセット、シルク、グラビアの各印刷方式が好ましい。
本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は例えばスチレンモノマーとメタクリル酸シクロへキシルモノマーを含む場合などは、これらモノマーが液体であるため溶剤無しで塗布できる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
[活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調製]
下記のような含有量で活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(1)を調製した。
スチレン 9.5質量%
メタクリル酸シクロヘキシル 85.5質量%
光重合開始剤:ダロキュア 1173(長瀬産業株式会社) 5質量%
【0026】
[接合構造体の作製]
厚さ2mm、長さ50mm、幅30mmのZEONEX480R平板(日本ゼオン(株)製樹脂)に上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(1)をパッドを用いて塗布して(塗布量:100mg/cm、塗布面積:10×30mm)、厚さ2mm、長さ50mm、幅30mmのZEONEX480R平板(日本ゼオン(株)製樹脂)を下記図5に示すように貼り合わせた。
その後、ハンディーUVランプLUV−16(アズワン株式会社製)を用いて紫外線を1時間照射し、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(1)を硬化させて、接合構造体(1)を作製した。
【0027】
接合構造体(1)に対して以下の方法で評価した。結果は下記表1に示した。
【0028】
[接着強度]
JIS K7113 プラスチックの引張試験方法に準拠して引張試験を行い、接着強度を求めた。
引張試験機:島津製作所製 AUTOGRAPH AG−50kNG
引張り試験条件:引張りせん断モード、変形速度1mm/min
得られた結果を下記基準で評価した。
○: 11kg/cm以上
△: 8kg/cm以上11kg/cm未満
×: 8kg/cm未満
【0029】
[自家蛍光]
下記測定機と条件にて、接着剤層が存在する部分の蛍光強度最大値(Im)と接着剤層が無い部分の蛍光強度最大値(Io)の差を求め、下記式を計算し評価した。
(Im−Io)×100/Io
蛍光測定機:蛍光測定システムMCPDシリーズ(太陽電子株式会社)
中心波長:1163Hz
得られた結果を下記基準で評価した。
○: 0%以上9%未満
△: 9%以上20%未満
×: 20%以上
【0030】
[透明性(肉眼)]
肉眼で接着剤層が存在する部分(塗布部分)と接着剤層が存在しない部分(未塗布部分)を比較した。
得られた結果を下記基準で評価した。
○: 塗布部分と未塗布部分が同等
×: 塗布部分が未塗布部分より濁っている
【0031】
[透明性(色差計)]
色差計(ミノルタ製CR200)による接着剤未塗布箇所(Lo)と塗布箇所(Lm)とのL値の%差を求め、下記式を計算し評価した。
(Lm−Lo)×100/Lo
得られた結果を下記基準で評価した。
○: 30%以下
×: 30%を超える
【0032】
[溝形状を有する接合構造体の作製]
厚さ2mm、長さ50mm、幅30mmのZEONEX480R平板(日本ゼオン(株)製樹脂)に幅0.5mm、深さ0.5mmの溝形状を設けた環状オレフィン系樹脂からなる構造体単位1に、上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(1)を該溝形状の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるようなパターンを有するパッド(印刷版)を用いて溝形状の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるように転写・塗布した(塗布量:100±20mg/cm、塗布面積:構造体単位1の4辺および溝形状から2mmの領域は該接着剤組成物の非塗布領域とした。この接着剤組成物の非塗布領域は、接着剤の粘度、平板(構造体単位2)を押し付ける圧力に応じて1〜5mmに調節することができる)。塗布面に、厚さ2mm、長さ50mm、幅30mmのZEONEX480R平板(日本ゼオン(株)製樹脂)(構造体単位2)を重ね、ハンディーUVランプLUV−16(アズワン株式会社製)を用いて紫外線を1時間照射し、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(1)を硬化させて、溝形状を有する接合構造体(10)を作製した(下記図6参照)。UV照射時の圧力は、接着剤組成物の粘度と展開面積により、接合構造体の自重レベル〜1000gf/cm程度に調整した。
【0033】
[流路の封鎖防止]
肉眼で流路への接着剤層のはみ出しの有無を確認した。
得られた結果を下記基準で評価した。
○: はみ出しなし
×: はみ出しあり
【0034】
[実施例2、3、比較例1〜3]
スチレンとメタクリル酸シクロヘキシルの含有量を表1に示すように変更した以外は前記実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を調製し、接合構造体および溝形状を有する接合構造体を作製し、評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
透明性は色差計によるものを示したが、肉眼による評価も同様の結果であった。
表1に示した結果より、本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を用いて作製した接合構造体は接着強度、自家蛍光、透明性、流路の封鎖防止のすべての観点で優れたものであることがわかる。また、本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物はベンゼン、トルエン、酢酸エチルなどの有機溶剤を使用していないため環境適性の観点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】接合構造体の作製方法を説明するための模式図
【図2】接合構造体の作製方法を説明するための模式図
【図3】接合構造体の作製方法を説明するための模式図
【図4】接合構造体の作製方法を説明するための模式図
【図5】実施例1で作製した接合構造体(1)の模式図
【図6】実施例1で作製した溝形状を有する接合構造体(10)の模式図
【符号の説明】
【0038】
t 厚さ

長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂を膨潤させるラジカル重合可能な単量体Aと環状オレフィン系樹脂を溶解するラジカル重合可能な単量体Bを、重量比(単量体A/単量体B)が9/1〜5/5の範囲内で含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項2】
前記単量体Aが、単量体Aに環状オレフィン系樹脂を4日間浸漬した場合の膨潤度が20%以上となり、かつ該樹脂が溶解しないものである、請求項1記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
ただし膨潤度は下記式で定義される。
膨潤度 =(浸漬後重量−初期重量)/初期重量×100(%)
【請求項3】
前記単量体Aがシクロアルキル構造を有するアクリレート化合物またはメタクリレート化合物である、請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項4】
前記単量体Bが芳香族ビニル化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項5】
前記単量体Aがメタクリル酸シクロヘキシルであり、前記単量体Bがスチレンである、請求項1〜4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項6】
2つ以上の構造体単位を含み、該構造体単位の少なくとも1つが環状オレフィン系樹脂からなり、該構造体単位が請求項1〜5のいずれかの活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化した接着剤層を介して接合された接合構造体。
【請求項7】
前記構造体単位の少なくとも1つが、前記接着剤層側の面に、幅0.01〜2mm、深さ0.01〜2mmの溝形状を有する、請求項6記載の接合構造体。
【請求項8】
請求項7記載の接合構造体からなり、遺伝子診断用に使用される分析用マイクロチップ。
【請求項9】
請求項7記載の接合構造体の接着方法であって、前記溝形状を有する構造体単位の接着面の溝形状の近傍が接着剤組成物の非塗布領域となるようなパターンを有する印刷版上に、請求項1〜5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、一方の構造体単位の表面に転写させて、該表面と他方の構造体単位を重ねた後に、活性エネルギー線を照射して該組成物を硬化させて接着する、接合構造体の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−6984(P2010−6984A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169126(P2008−169126)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】