説明

活性炭素繊維シート及びフィルター

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は活性炭素繊維と繊維径1μm以下の有機合成繊維からなる活性炭素繊維シートに関するものであり、有毒ガスおよび浮遊微小粒子捕集の両性能をかね備えた、かつ難燃性の高性能のフィルターに関するものである。
[従来技術]
近年、悪臭や有機溶剤等の有毒ガスと粉塵等の浮遊微小粒子が公害問題として論議される場が多くなってきている。
有毒ガスを防ぐ手だてとして、吸着性物質、特に活性炭が利用されており、また活性炭素繊維はガス吸着速度が極めて速い等の理由から、急速に展開が図られている。
しかし、微小粒子の除去に関しては、活性炭フィルターとは別に微小粒子除去用のフィルターを用いる場合や活性炭フィルターと微小粒子除去フィルターを組合せ二次加工したフィルターを用いる場合がある。これらは製造工程が煩雑であり、改善が望まれている。
活性炭素繊維をシート化する場合、活性炭素繊維には自着性がないため、バインダーが必要である。活性炭素繊維のバインダーとしては種々の溶液型やエマルジョン型の液状バインダーおよび繊維状バインダーが一般的である。
液状ハインダーの使用は、活性炭素繊維の細孔を塞ぎ吸着能力を低下させるため好ましくない。また、微小粒子の除去には効果はない。繊維状ハインダーの使用は、活性炭素繊維の脱落を防止し、充分な強度をもったシートを得るためには多量の繊維状バインダーを必要としシート内の活性炭素繊維の含有量を低下させる。また、繊維状、バインダーもその繊維径が大きく、微小粒子の捕集を効果的に除去することはできない。
[発明が解決しようとする課題]
上記の課題を解決するための手段として、いくつかの方法が開示されている。
特開昭62−155914号公報で活性炭素繊維、極微細径ガラス繊維、セルロース繊維を用いた濾紙が開示されている。活性炭素繊維は吸着性が高く、極微細径ガラス繊維は捕集性能が高いが、ともに自着性がないためシートを形成させるためには、上記成分以外にさらにバインダーを添加する必要があり、活性炭素繊維の量が低下し好ましくない。バインダーとしてリンターパルプや麻パルプ等のセルロース繊維が用いらているが、これらの繊維は可燃であり、シートが可燃性であることは避けられない。また、極微細ガラス繊維は使用時に極微細繊維の脱落が避けられず、振動、加工等によりシート自体からの発塵が顕著である。
特開昭60−129112号公報では活性炭と活性炭素繊維を単独または混合したもの、サブミクロン寸法のガラス繊維医(極微細ガラス繊維)、フィブリル化結合剤繊維を用いた不織フィルター材料が開示されている。特開昭60−94700号公報では活性炭と活性炭素繊維を単独または混合したものとフィブリル化アクリル繊維を用いたものが開示されている。前者は極細ガラス繊維が使用されており好ましくない。また、前者のフィブリル化結合材繊維とはポリエステル、ポリオレフィン、アクリル重合体などの繊維にせん断力を加えることなどにより得たもの、後者のフィブリル化アクリル繊維とはアクリル重合体繊維を同様にせん断力を加えることなどにより得たものとしているが、これらの有機繊維を用いた濾材では繊維が柔軟であることから極細ガラス繊維に比べ、圧力損失が高くなるという欠点がある、また、これらの繊維は可燃であり難燃性が必要とされる用途では利用できない。
このように、シート強度を維持し、有毒ガスの吸着性・微小粒子の捕集効率といった性能を両立させることは困難である。同時に難燃性を付与することも困難である。
本発明は、上記従来の問題点を解決するものであり、活性炭素繊維にバインダーとして繊維径1μm以下の有機合成繊維を用いた、吸着能力を高度に維持し、浮遊微粒子を高利強く捕集する、なおかつ難燃性の活性炭繊維シート及び該シートからなるフィルターを提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
本発明者らは前記の課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、活性炭素繊維とバインダーとして繊維径1μm以下の有機合成繊維を使用することにより得られたフィルターが、活性炭素繊維の吸着能力を損うことなく、高捕集率が得られ、難燃性であること見い出し本発明を完成した。
即ち、本発明は、活性炭素繊維と剛直鎖合成高分子から得られる繊維径1μm以下のミクロフィブリル化有機合成繊維を含有し、該有機合成繊維が5〜50%、該活性炭素繊維が95〜50%の範囲で含有してなる活性炭素繊維シートである。
また、該活性炭素繊維シートを加工したフィルターである。
上記活性炭素繊維シートはフィルターとして用いることが可能である。
以下本発明の詳細な説明を行う。
本発明で用いられる活性炭素繊維は比表面積、吸着能等の目的に応じて選択できるが、水に分散するものであればよい。分散しにくい場合は粘剤や分散剤を適宜添加し撹拌すればよい。平均繊維長は0.05mm〜15mmで、好ましくは0.5mm〜10mmである。0.05mmより短いとシードが緻密になりシートの通気性が低下し、15mmより長いと水中での分散が悪くなる。
本発明では繊維径1μm以下の有機合成繊維が、バインダーとしての能力、捕集効率が優れているため用いられる。有機合成繊維としては、従来用いられてきたような柔軟なものはフィルターの圧力損失が高くなり好ましくないので、できるだけ剛直なものが好ましく、特に剛直鎖状高分子と総称される材料からなる有機合成繊維が有効である。剛直鎖状高分子とは、溶液中直線状を維持する鎖長が50オングストローム以上ある高分子のことであり、例えば、ポリ(P−フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(P−ベンズアミド)、ポリ(P−フェニレンベンゾビスチアゾール)、ポリ(P−フェニレンベンゾビスオキサゾール)、ポリ(アミドヒドラジド)、ポリヒドラジド、ポリ(P−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテルフタルアミド)などがある。
繊維径1μm以下の繊維を得る方法の一例として、剛直鎖状高分子の繊維あるいはパルプ状物に特開昭56−100801号公報に開示されている方法を用いミクロフィブリル化したものがあげられる。この方法は一般の製紙工程で用いられているリファイナー等による処理とは異なり、均質化装置を用いて繊維あるいはパルプ状物をミクロフィブリル化するものである。すなわち、水に分散させ、剛直鎖状高分子から得られた繊維のスラリーをその前後に200kgf/cm2以上の圧力差を設けたオリフィスを高速で通過させ、直ちに減速することによりスラリー粒子にせん断力を加えると、繊維が繊維軸の方向に縦分割されたミクロフィブリル状になる。この工程を繰り返すことにより得られた物である。具体的な例としては、ポリ(P−フェニルレンテレフタルアミド)のミクロフィブリル化繊維(MFC−400、ダイセル化学社製)等があげられる。
本発明で用いる有機合成繊維は、通常用いらる繊維を摩擦する方法やせん断する方法では到底得ることができない、1μm以下という微細な繊維径を有しているため繊維間の結合能力が非常に大きく、活性炭素繊維との絡み合いがよく、他にパルプ等のバインダーを必要としない。また、抄紙機のワイヤー上に形成された湿紙の強度が強いため、次の工程への転移が容易であり、通常の抄紙設備で効率よく製造できる。
繊維径1μm以下の有機合成繊維の量はシート重量に対し、5%〜50%で、好ましくは10%〜40%である。繊維径1μm以下の有機合成繊維の量が5%より少ないとシートの強度が弱く、また捕集効率も悪いが、50%より多いと捕集効率は上がるものの、圧力損失が上昇するため好ましくない。
また、シートにさらにかさ高性を持たせるため、上記の剛直鎖高分子のウィスカーを混合することも効果的である。また、難燃性のフィブリッドをさらに混合してもよい。
本発明の活性炭素繊維シートは必要であれば、撥水剤をスプレー、塗布、含浸し、乾燥することにより、撥水加工してもよい。また、サイズ剤をスラリーに混合し、抄紙してもよい。
本発明の活性炭素繊維シートは必要であれば、他の天然繊維、合成繊維、無機繊維を混合し、抄紙することも可能である。また、無機填料を混合し、抄紙することも可能である。さらに、天然・化学消臭剤、天然・合成香料を含有させることも可能である。ただし、これらの物質を含有量が本発明のシートの性能を阻害する範囲であってはならない。
本発明の活性炭素繊維シートは必要であれば、裏打ち材を接着することも可能である。裏打ち材は通気性の良いものが好ましい。接着方法は市販の接着剤を使用しても良いし、裏打ち材が熱溶融性であれば熱融着してもよい。
本発明の活性炭素繊維シートはカッター、スリッター等で容易に切断加工可能でユニットなどに組み込み、フィルターとして使用可能である。また、ひだ織り加工、波型加工を施しても破損することがなく、片面あるいは両面段ボールを作成し、波型の稜線方向が、平行または直行するように積層し、あるいは円筒状に巻き付けハニカム構造体とし、フィルターとして使用することも有効である。
[作用]
本発明の活性炭素繊維シートは、活性炭素繊維にバインダーとしての機能と微小粒子の捕集としての機能を有する繊維径1μm以下の有機合成繊維を用いることにより活性炭素繊維の細孔を塞ぐことがなく、悪臭、溶剤等の吸着量の大きい、微小粒子の捕集効率の高いフィルターとして有効に作用する。
[実施例]
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
実施例において記載の部、%すべて重量によるものである。
(実施例1〜3)
活性炭素繊維(比表面積1500m2/g、ベンゼン吸着能530mg/g、日本カイノール社製)を水中に添加し、0.3%濃度に調製し、SV型往復反転式撹拌機(島崎製作所製、アジター)で分散後、難燃製ミクロフィブリル化繊維(MFC−400、ダイセル化学社製)をアジターで撹拌しながら添加混合した。このとき活性炭素繊維とMFC−400の混合比を90/10(実施例1)、80/20(実施例2)、60/40(実施例3)の3水準調製した。ついで該スラリーに水を加え各々0.1%に希釈し、乾燥重量で80g/m2のシートを角型手抄装置(金網80メッシュ−金網寸法25cm×25cm)で抄紙後、プレス、乾燥し活性炭素繊維シートを得た。
(比較例1〜3)
実施例1〜3と同様の方法で分散した活性炭素繊維のスラリーに極細ガラス繊維(ジョンマンビル社製、CODE106、繊維径0.54〜0.68μm)、フィブリル化アクリル繊維を各々添加混合した。活性炭素繊維/極細ガラス繊維/フィブイル化アクリル繊維の混合比は80/10/10(比較例1)、65/25/10(比較例2)、10/50/40(比較例3)の3水準調製した。実施例1〜3と同じ方法で活性炭素繊維シートを得た。活性炭素繊維の脱落はなかった。
(比較例4)
フィブリル化アクリル繊維をリンターパルプと麻パルプに代える以外は比較例1〜3と同じ方法で活性炭素繊維シートを得た。活性炭素繊維/極細ガラス繊維/リンターパルプ/麻パルプの配合比は45/15/20/10で調製した。
以上、実施例1〜3、比較例1〜4の物性の測定結果を表1に記す。項目は、厚み、引張強度、ベンゼン吸着能、圧力損失及び捕集効率である。なおベンゼン吸着能はJIS−K1417で測定した。圧力損失および捕集効率はJIS−B9908の形式1により風速5.3cm/秒で測定した。また、捕集効率の測定はDOPエアロゾル(フタル酸ジオクチル、粒径0.3μm)を用いて測定した。また、燃焼性と燃焼後シート形態が維持されてるか否かを○×で表した。結果を表1に示す。


[発明の効果]
本発明の活性炭素繊維シートは活性炭素繊維と繊維径1μm以下の有機合成繊維からなる。繊維径1μm以下の有機合成繊維にはバインダーとしての機能だけでなく微小粒子を効率よく捕集する機能を有するため、本発明の活性炭素繊維シートは強度を維持し、吸着性が高く、なおかつ捕集効率も高いフィルターであり、さらに、難燃性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】活性炭素繊維と剛直鎖合成高分子から得られる繊維径1μm以下のミクロフィブリル化有機合成繊維を含有し、該有機合成繊維が5〜50%、該活性炭素繊維が95〜50%の範囲で含有してなる活性炭素繊維シート。
【請求項2】請求項1記載の活性炭素繊維シートを加工したフィルター。

【特許番号】第2806582号
【登録日】平成10年(1998)7月24日
【発行日】平成10年(1998)9月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−340348
【出願日】平成1年(1989)12月28日
【公開番号】特開平3−202108
【公開日】平成3年(1991)9月3日
【審査請求日】平成8年(1996)3月28日
【出願人】(999999999)三菱製紙株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭55−36323(JP,A)
【文献】特開 昭61−263614(JP,A)
【文献】特開 昭63−232814(JP,A)