説明

活性炭繊維及びその製造方法

【課題】本発明は、特定の表面構造からなり、上水処理、排水処理、触媒担体、電気二重層キャパシタ用電極材料等に利用し得る活性炭繊維、及び安全で簡便かつ量産化に適した該活性炭繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】表面の80%以上が、峡湾状のエッジ形状で構成され、長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする活性炭繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の表面構造からなり、上水処理、排水処理、触媒担体、電気二重層キャパシタ用電極材料等に利用し得る活性炭繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭や活性炭繊維等は水処理、触媒担体、電気二重層キャパシタ電極等、産業上有用な各種用途が知られている。中でも電気二重層キャパシタは各種携帯機器のバックアップ電源や補助電源をはじめ、近年では太陽電池と組み合わせた蓄電デバイス、ハイブリッド自動車におけるモーター駆動や回生エネルギーデバイスとしての用途が期待されている。このような電気二重層キャパシタの構成要素である電極には、活性炭を主成分とする素材が用いられ、この活性炭の主要性能の一つとして単位質量および単位体積当たりの電気容量が高いことが求められる。これら活性炭の一般的な製造方法としては、椰子殻、ピッチ、フェノール樹脂および構造の規定された有機高分子等の有機物あるいはこれらの成形体を熱分解し得た炭化物を賦活する方法が知られている。賦活化の手法としては、水蒸気、炭酸ガス等を利用するガス賦活と硫化カリウム、塩化亜鉛、アルカリ水酸化物等を利用する薬品賦活がある。中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水酸化物を利用した賦活は比表面積が大きい活性炭または活性炭繊維を得るのに効果的である。しかしながらアルカリ水酸化物を利用した賦活(アルカリ賦活ともいう)においては、賦活中に水素ガス、金属アルカリ等の可燃性物質が発生するため賦活中の発火、爆発及び賦活後の金属アルカリの処理に対策を要する。このため賦活は不活性ガスを導入しながら行う必要がある。また賦活装置に関しては、外部から空気等が入らないように密閉性の良いものが使用されている。特許文献1〜3においては、窒素ガス導入管を備え、窒素置換可能な縦型反応炉が使用されている。特許文献4においては外部から空気が入らないように装置内を微加圧に保ち、水封手段、入口、出口側置換室等が設置されている。
【0003】
一方で、浸食作用の大きな金属アルカリの賦活後の処理に関しては、例えば、特許文献5では賦活反応後に炭酸ガスを流すことにより金属アルカリを炭酸塩に変換する方法が開示されている。特許文献6では金属アルカリを炭素材に捕捉後、水蒸気を吹き付け水和することにより水酸化物にしてアルカリのリサイクルを行うことが開示されている。これはあくまで金属アルカリのリサイクルが目的であり、アルカリを補足した炭素材の安定性、処理については記載されていない。
【0004】
またアルカリ賦活においてはアルカリ融液の発泡性が問題となる。アルカリ賦活、特にアルカリ水酸化物を使用した場合は加熱によりアルカリ金属化合物が溶融し、炭素材に含浸し反応することで多孔質構造を生成し炭素材の賦活が行われる。原料炭素材が粉末または粒状で、これを入れる容器としてルツボ等を使用し、静置させて賦活を行う場合、賦活反応中に水分、水素ガス等の発生により融液が発泡し、容器からの吹きこぼれが起きることがある。特に賦活時の昇温速度を速くした場合は単位時間当たりのガス発生量が大きいため吹きこぼれが発生しやすい。特許文献7には賦活時の最終温度及び保持時間の記載はあるが、昇温速度に関しては制御されていない。一方でこれらの課題を解決し、特別に複雑かつ大掛かりな装置や危険なアルカリ廃液を用いることがなく、簡単かつ量産化に適した賦活方法、装置が提案されている(特許文献8)が、得られる腑活化炭素繊維の表面積や活性の点で必ずしも満足できる性能は発現しておらず、操作の簡便性と得られる活性炭繊維の機能性との両立が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−97414号公報
【特許文献2】特開平7−215711号公報
【特許文献3】特開平8−34605号公報
【特許文献4】特開平5−306109号公報
【特許文献5】特開2000−128518号公報
【特許文献6】特開2001−19415号公報
【特許文献7】特開平8−51045号公報
【特許文献8】特開2002−362915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の表面構造からなり、上水処理、排水処理、触媒担体、電気二重層キャパシタ用電極材料等に利用し得る活性炭繊維、及び安全で簡便かつ量産化に適した該活性炭繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに以下に述べる特定の構造の炭素繊維を原料に用い、空気中での加熱処理による賦活を行うことにより、これらの問題を解決、上記の目的を達するに有用な活性炭繊維及びその製造方法を見出して、本発明を完成した。本発明の要旨を以下に示す。
【0008】
1. 表面の80%以上が、峡湾状のエッジ形状で構成され、長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする活性炭繊維。
2. 峡湾状のエッジ形状のエッジ部分が長さ10〜100nm、幅1〜50nmの範囲にある上記1項に記載の活性炭繊維。
3. 比表面積が30〜3000m/gである上記1項または2項に記載の活性炭繊維。
4. 黒鉛構造に由来する結晶面間隔が0.335nm以上0.400nm以下である請求項1〜3の何れかに記載の活性炭繊維。
5. 長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmの左右対称の繊維であり、中央から先端に向かって均一に径が減少する構造から成り、先端部分の直径が100nm以下である、黒鉛構造を有する炭素繊維を500〜1000℃にて酸化処理することを特徴とする、上記1項〜4項の何れかに記載の活性炭繊維の製造方法。
6. 炭素繊維が、Fe、Co、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属成分と、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンからなる群から選択される少なくとも1種の炭素化合物の気体とを、300℃から2000℃の間の温度で化学気相成長法により反応せしめたものである上記5項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、腐食性の高いアルカリや煩雑な腑活化装置を用いる事無く、空気中での加熱処理により、表面積が大きく高い性能を有する活性炭繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1にて空気による酸化処理を行って得られた活性炭繊維試料の透過型電子顕微鏡像の写真図であり、該活性炭繊維の寸法及び、表面形状を確認することができる。
【図2】実施例1にて空気による酸化処理を行って得られた活性炭繊維試料の透過型電子顕微鏡像の写真図であり、該活性炭繊維の峡湾状のエッジ形状を確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の活性炭繊維は、表面の80%以上が、峡湾状のエッジ形状で構成され、長さが1μm〜1m形状の領域であり、央部分の直径が0.1μm〜10μm、であることを特徴とする。
【0012】
本発明の活性炭繊維において、峡湾状のエッジ形状のサイズは、エッジ形状一つあたりの長さが10〜100nmであり、幅は1〜50nmの範囲であることが好ましい。当該エッジ形状サイズがこれ以上またはこれ以下である場合、表面形状の規則性が低下し、活性炭繊維としての表面積や特性が低下する。
【0013】
また、本発明の活性炭繊維は、比表面積が30〜3000m/gの範囲にあるものが好ましい。表面積をこれ以上増加するには賦活化の温度や時間の条件を厳しくする必要があるが、収率を大きく損なうため好ましくない。また表面積がこの範囲以下であると、活性炭としての性能が著しく低減する。上記比表面積は、800〜2800m/gであるとより好ましく、1500〜2700m/gであると更に好ましい。
【0014】
また本発明の活性炭繊維は、黒鉛構造の結晶面間隔が0.335nm以上〜0.400nm以下であるものが好ましい。面間隔が、0.400nmより大きいとグラファイト層が発達していないために導電性が低く、例えば電気二重層コンデンサ用の分極性電極の如きエネルギー源としての使用に必要な十分な静電容量が得られないなど性能面で好ましくない。また、炭素繊維の面間隔が0.335nm未満でも静電容量が劣り好ましくない。
【0015】
本発明の活性炭繊維を製造する方法としては、長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmの左右対称の繊維であり、中央から先端に向かって均一に径が減少する構造から成り、先端部分の直径が100nm以下である、黒鉛構造を有する炭素繊維(以下、ムスターシュ繊維(Moustache fiber)と称することがある)を、500〜1000℃にて酸化処理することを特徴とする製造方法が好ましい。当該酸化処理の温度として500℃以下では、賦活速度が遅く、また十分に賦活処理が進まないため好ましくない。また1000℃以上では賦活化の制御が難しく、本発明の活性炭繊維を得にくくなる。酸化処理の温度としては、550℃〜900℃であるとより好ましく、600℃〜800℃であると更に好ましい。当該処理時間は1分間〜3時間が好ましく、10分間〜60分間であるとより好ましい。上記酸化処理の装置としては、電気炉など公知の加熱装置を使用することができ、後述するように、原料のムスターシュ繊維を調製したCVDプロセスの装置にて、該ムスターシュ繊維の調製後に引き続いて酸化処理を行うのも簡便であり好ましい。
【0016】
本発明の活性炭繊維を製造する方法における酸化処理では、酸素、オゾン、過酸化水素、塩素などのハロゲン、各種のハロゲン酸類など種々の酸化剤を使用することができるが、酸素による酸化が簡便であり好ましく、通常の空気を用いるのが安価かつ簡便であり特に好ましい。
【0017】
上記のムスターシュ繊維は、その生成プロセスにおいて炭素原子が繰返し堆積することにより成長することが知られており、該ムスターシュ繊維を酸化処理すると、炭素原子の堆積によって生じた各面の間で、特異的に酸化が進むことにより、峡湾状のエッジ構造が形成され本発明の活性炭繊維が得られるものと、本発明者は推察している。なお、ムスターシュ繊維ではない通常の炭素繊維を、上記のように酸化処理しても、本発明の峡湾状のエッジ形状を有する活性炭繊維を得ることはできず、更に、炭素分の多くが燃焼により失われてしまう。
【0018】
本発明の活性炭繊維の原料に使用する上記ムスターシュ繊維の製造方法としては、所定の条件下で炭素含有ガスを触媒に接触させて反応させる化学気相成長法(CVD)を好適に用いることができ、好ましいCVDプロセスとして、例えば、特開2006−144169号公報に開示されている、触媒を用いるプロセスが挙げられる。当該CVDプロセスにおいて、触媒は金属化合物若しくは単体の金属(本発明において、金属成分と称する場合は金属化合物、及び単体の金属を指す)が担持された微粉末、又はそれら金属成分の粒子などであり、この触媒を成長核として基板上に配置し、炭素源を上記触媒に接触させて、300℃から2000℃の間の温度で化学気相成長法により反応させることにより、上記のムスターシュ繊維が生成する。当該反応温度としては400〜1000℃であるとより好ましく、当該反応時間は1分間〜5時間が好ましく、3分間〜60分間であるとより好ましい。このようにして得られたムスターシュ繊維を、窒素、アルゴンなどの不活性ガス下、好ましくは500〜3500℃、より好ましくは800〜3000℃で加熱処理することにより炭素化・黒鉛化を更に進めてもよい。この加熱処理時間としては、0.1〜24時間であることが好ましく、0.2〜10時間であることがより好ましく、さらに0.5〜8時間であることが好ましい。また、この加熱処理については、ムスターシュ繊維の調製に用いたCVDプロセスの装置にて、ムスターシュ繊維の調製に引き続いて行っても良く、また別の加熱装置を用いても良い。
【0019】
上記CVDプロセスにおいて用いる触媒を構成する金属成分は鉄族元素(第8族元素)を含むものが良く、鉄族元素の合金、あるいは多成分金属でも良い。合金等の場合には、鉄属元素の合金、あるいはこれに第IB属元素を加えたものがよい。なお、鉄族元素に代えて亜鉛を含むものでも良い。この合金等の組成は第IB属元素の含有量が約0〜99atm(原子)%であって、その残量が鉄族元素あるいは鉄属元素合金であるものが適当である。該触媒の金属成分は第IB属元素および鉄族元素の他に第3成分の金属元素を含むものでも良く、その第3成分の金属元素としては、特に制限されないが、好ましくはチタン(Fe)、タングステン(W)、スズ(Sn)、またはタンタル(Ta)である。第3成分の含有量は20atm%以内、好ましくは約10atm%以内であり、より好ましくは鉄族元素の約6atm%以内が適当である。好ましい金属成分はFe、Ni、及びCoからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、ハロゲン化鉄、ハロゲン化ニッケル、及びハロゲン化コバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるとより好ましく、FeCl,FeCl,CoCl,CoCl,NiCl,及びNiClからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであると、更に好ましい。
【0020】
上記のCVDプロセスにおいて、金属成分を担体に担持した触媒を用いる場合、当該担体としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、酸化マグネシウムなどの金属酸化物粉末、あるいはこれらの混合物や固溶物などの合成酸化物微粉末、ゼオライト、マイカ粉末などの天然鉱物粉末を使用することができる。この担持体は超微粒子あるいは多孔質粉末が好ましく、特にアルミナ、シリカのアエロジル粉末やゼオライトが好ましい。
【0021】
上記のCVDプロセスにおいて、ムスターシュ繊維を製造するための炭素源としては、一般の炭素化合物のガスを用いることができる。炭素化合物に含まれる炭素原子の数は8原子以下、好ましくは6原子以下、より好ましくは4原子以下が適当であり、2原子以下が最も好ましい。具体的には、例えば、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどからなる群より選ばれる1種類以上である。また、上記炭素化合物のガスとともに水素ガスを用いても良い。好ましい炭素原としては、一酸化炭素、メタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素とエチレンとの混合物、又は一酸化炭素と水素との混合物が挙げられる。
【0022】
本発明において用いられる上記ムスターシュ繊維としては、該ムスターシュ繊維中央と先端以外の部分は、炭素の含有量が95質量%以上であり、黒鉛構造を有するものが好ましい。該ムスターシュ繊維の先端部分は金属の含有量が10質量%以上であることが好ましい。この先端は通常、並んでいる炭素ナノ微粒子から成り、この微粒子の中は金属を含有することがある。繊維の中央部分は金属の含有量が1質量%以上であると好ましい。
【実施例】
【0023】
1) 比表面積測定
比表面積は、NOVA1200(ユアサイオニックス製)で評価した窒素吸着量から求めた。
2) 活性炭繊維の広角X線測定
理学電気株式会社製のRU−300を用いた。なお、繊維の黒鉛構造に由来するX線回折による半値価はピークの半値幅より、また黒鉛構造に由来する結晶面間隔(d002)は2θの値からそれぞれ求めた。
【0024】
[参考例1] ムスターシュ繊維の調製
FeCl粉末100mgを2×15cmの磁製板の上に載せ、該FeCl粉末を3×0.5×0.5cmの磁製ボートで覆い、かつ磁製板と磁製ボートの間は300ミクロン以下のすき間ができるようにした。これをCVD装置の1リットルの石英管内に設置し、石英管に密栓をし、ポンプにより排気した。真空が10Pa以下となったことを確認の上で、ポンプを止め、アルゴンを導入し、圧力105Paの安定した条件で100mL/分のアルゴン流量に設定した。CVD装置内を室温から500℃まで20分間で昇温した。昇温によりCVD装置内が500℃に到達したことを確認した後,アルゴンの導入を止め、アセチレンガスを流量50mL/分で導入し始め、反応させた。反応開始10分後に、アセチレン導入と加熱を止め、アルゴンを流量100mL/分に設定し導入開始した。CVD装置内が200℃に冷却したことを確認した後、アルゴンの導入を止めた。CVD装置内を室温まで冷却後、石英管を開け、磁製板の上に磁製ボートの外周に灰色、ウール状の炭素繊維が堆積したので、これを収集した。更にこのものを新しい磁性板に分け取り、今度はアセチレンを流さず、アルゴン流量100mL/分の条件で室温から1000℃まで30分で昇温して、そのまま1時間保持してから再度室温まで冷却することで高純度のムスターシュ繊維が得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、このムスターシュ繊維が、その中央部分の円周上にリング様に金属が存在し中心から左右対称に成長した繊維束からなり、長さが2μm〜100μm、中央部分の直径が0.2μm〜5μmの左右対称の繊維であり、中央から先端に向かって均一に径が減少し、繊維の両先端部分の直径が30〜80nmであり、更にTEMの電子線回折により、繊維軸に対して平行ではなく、ほとんど垂直に位置した黒鉛構造層を有することを確認した。該ムスターシュ繊維の各部分の元素組成を確認したところ、繊維の先端部分は金属(鉄原子)の含有量が10質量%であり、繊維の中央部分の鉄金属の含有量が1.2質量%であり、中央と先端以外の部分は炭素含有量が98質量%であった。また精製、洗浄処理後の繊維について同様の組成解析を行ったところ、繊維の先端部分の金属含有量は200質量ppm、繊維の中央部分の金属含有量は110質量ppmであり、中央と先端以外の部分は炭素含有量が99.8質量%であった。
【0025】
[実施例1]
参考例1で得られたムスターシュ繊維1質量部を2×15cmの磁製板の上に載せ、CVD装置の1リットルの石英管内に設置し、石英管に密栓をし、ポンプにより排気した。真空が10Pa以下となったことを確認の上で、ポンプを止め、アルゴンを導入し、圧力105Paの安定した条件で100mL/分のアルゴン流量に設定した。CVD装置内を室温から 700℃まで30分間で昇温した。昇温によりCVD装置内が700℃に到達したことを確認した後,アルゴンの導入を止め、乾燥空気を流量50mL/分で導入し始め、反応させた。反応開始30分後に、乾燥空気導入と加熱を止め、アルゴンを流量100mL/分に設定し導入開始した。CVD装置内が200℃に冷却したことを確認した後、アルゴンの導入を止めた。CVD装置内を室温まで冷却後、石英管を開け、磁製板の上のウール状の粗活性炭繊維0.4質量部を収集した。この粗活性炭繊維を3質量%の塩酸水溶液で1時間洗浄することにより精製し、脱イオン水で十分洗浄後に70℃で減圧乾燥することで、活性炭繊維を得た。
【0026】
得られた活性炭繊維の構造を透過型電子顕微鏡により観察した。図1、2は、実施例1で得られた炭素繊維試料の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図1より、長さが2μm〜10μm、直径が0.1μm〜0.5μmの繊維であることを確認した。更に図2により、電子顕微鏡による詳細観察では、峡湾状のエッジ形状であり、各エッジのサイズは長さが20〜50nm、幅5〜30nmであることが確認された。また、比表面積は2517m/g、X線回折による半値価は0.5°であり、黒鉛結晶面間隔(d002)は0.341nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の活性炭繊維は、担体として使用される従来の活性炭や、分極性電極材料として従来使用されている炭素微粒子とは異なる繊維状の炭素であり、また近年使用されているカーボンナノチューブとも異なる峡湾状のエッジ構造を有していることを特徴とする。このため、本発明の活性炭繊維はLi、H、又はこれらの混合物の吸収材として、更にはそれを利用した電気二重層コンデンサの分極性電極あるいは集電体などの導電剤としての利用に加え、上水処理、排水処理、触媒担体など、環境関連、エネルギー関連素材産業等の分野に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の80%以上が、峡湾状のエッジ形状で構成され、長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする活性炭繊維。
【請求項2】
峡湾状のエッジ形状のエッジ部分が長さ10〜100nm、幅1〜50nmの範囲にある請求項1に記載の活性炭繊維。
【請求項3】
比表面積が30〜3000m/gである請求項1または2に記載の活性炭繊維。
【請求項4】
黒鉛構造に由来する結晶面間隔が0.335nm以上0.400nm以下である請求項1〜3の何れかに記載の活性炭繊維。
【請求項5】
長さが1μm〜1mm、中央部分の直径が0.1μm〜10μmの左右対称の繊維であり、中央から先端に向かって均一に径が減少する構造から成り、先端部分の直径が100nm以下である、黒鉛構造を有する炭素繊維を500〜1000℃にて酸化処理することを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の活性炭繊維の製造方法。
【請求項6】
炭素繊維が、Fe、Co、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属成分と、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタジエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンからなる群から選択される少なくとも1種の炭素化合物の気体とを、300℃から2000℃の間の温度で化学気相成長法により反応せしめたものである請求項5記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74547(P2011−74547A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229625(P2009−229625)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】