説明

活性酸素種の濃度測定方法、感度較正方法、センサ、測定装置、および較正用溶液

【課題】センサによる試料液の測定前に当該センサのOラジカルなどの活性酸素種に対する感度を安価かつ簡便に求めることができる。
【解決手段】本発明は、一の形態として、活性酸素種の濃度測定方法であって、前記活性酸素種が溶解した活性酸素種溶液にセンサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記活性酸素種の濃度との関係である活性酸素種感度を求め、還元性を有する還元性物質が溶解した還元性物質溶液に前記センサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記還元性物質の濃度との関係である還元性物質感度を求め、既知の濃度の前記還元性物質溶液に使用前の前記センサを浸漬させて、測定される電流の大きさに基づいて使用前の前記センサの前記活性酸素種感度を求め、試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定することを特徴とする活性酸素種の濃度測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種の濃度測定方法、感度較正方法、センサ、測定装置、および較正用溶液に関し、特に、スーパーオキシドアニオンラジカル(以下、「Oラジカル」と略称する)に代表される活性酸素種の濃度測定に用いるセンサの感度較正方法、較正対象であるセンサ、当該センサを備えた測定装置、および較正に用いる較正用溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルなどの活性酸素種は生体の維持に不可欠なものであるが、一方では、脳梗塞および心筋梗塞等の各種疾患、癌、老化などの要因になることが知られており、医療分野等において様々な濃度測定方法が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特再表2004−074828号公報
【特許文献2】特開2006−314386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Oラジカルの濃度測定を行う際には、事前に濃度測定に使用するセンサの感度較正を行う必要がある。感度較正の方法としては、スピンストラップ法、ストップトフロー法、および化学発光法が知られているが、いずれの方法も、操作に熟練を要することや、装置や試薬が高価であるなどの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することを目的として、本発明は、一の形態として、活性酸素種の濃度測定方法であって、
前記活性酸素種が溶解した活性酸素種溶液にセンサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記活性酸素種の濃度との関係である活性酸素種感度を求め、
還元性を有する還元性物質が溶解した還元性物質溶液に前記センサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記還元性物質の濃度との関係である還元性物質感度を求め、
既知の濃度の前記還元性物質溶液に使用前の前記センサを浸漬させて、測定される電流の大きさに基づいて使用前の前記センサの前記活性酸素種感度を求め、試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定することを特徴とする活性酸素種の濃度測定方法を提供する。
【0006】
また、上記の活性酸素種の濃度測定方法において、
同一の前記センサについて前記活性酸素種感度および前記還元性物質感度を求め、
前記活性酸素種感度と前記還元性物質感度とを前記電流の大きさで関連付けることにより前記活性酸素種の濃度と前記還元性物質の濃度との関係を求め、
使用前の前記センサを既知の濃度の前記還元性物質溶液に浸漬させて電流を測定することにより使用前の前記センサの還元性物質感度を求め、
使用前の前記還元性物質感度と予め求めた前記還元性物質感度とのずれおよび予め求めた前記活性酸素種の濃度と前記還元性物質の濃度との関係に基づいて前記センサの前記活性酸素種感度を較正し、
感度較正後の前記センサを用いて試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定してもよい。
【0007】
また、上記の活性酸素種の濃度測定方法において、
前記センサと同型の複数のセンサの各々について、前記活性酸素種感度および前記還元性物質感度を求め、
複数の前記センサについて求めた前記活性酸素種感度と前記還元性物質感度との対応関係に基づいて、同型の前記センサにおける前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との一般的な関係を求め、
使用前の前記センサを既知の濃度の前記還元性物質溶液に浸漬させて電流を測定することにより使用前の前記センサの還元性物質感度を求め、
同型の前記センサにおける前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との関係および使用前の前記センサの還元性物質感度に基づいて前記センサの使用前の前記活性酸素種感度を求め、試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定してもよい。
【0008】
なお、上記の活性酸素種の濃度測定方法における前記活性酸素種は、Oラジカルであってよい。
【0009】
また、本発明は、他の形態として、上記の活性酸素種の濃度測定方法によって活性酸素種の濃度測定が可能なセンサであって、
前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との関係を示す情報を保持していることを特徴とするセンサを提供する。
【0010】
また、本発明は、さらに他の形態として、上記のいずれかの特徴を有する活性酸素種の濃度測定方法に用いる測定装置であって、
上記の特徴を有するセンサと、
前記センサによる測定電流を検出する装置本体と、
前記還元性物質溶液を収容し、前記センサの電極を前記還元性物質溶液に浸漬させた状態で前記センサを保持可能な容器と、
を備えることを特徴とする測定装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、さらに他の形態として、上記のいずれかの特徴を有する活性酸素種の濃度測定方法に用いる還元性物質溶液を提供する。
【0012】
ここで、上記還元性物質溶液に溶解している前記還元性物質は、酸化還元電位が前記活性酸素種と略等しいことを特徴とする校正用溶液を提供する。
【0013】
また、前記還元性物質は、前記還元性物質溶液に溶解させてから前記センサを浸漬させるまでの間に、濃度が一定であることがより好ましい。
【0014】
また、上記還元性物質は、前記還元性物質溶液に溶解させてから、少なくとも1分後に前記還元性物質の濃度の50%を維持することが好ましい。
【0015】
なお、上記還元性物質は、アスコルビン酸であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、さらに他の形態として、センサの活性酸素種感度の特定方法であって、
前記活性酸素種が溶解した活性酸素種溶液にセンサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記活性酸素種の濃度との関係である活性酸素種感度を求め、
還元性を有する還元性物質が溶解した還元性物質溶液に前記センサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記還元性物質の濃度との関係である還元性物質感度を求め、
既知の濃度の前記還元性物質溶液に使用前の前記センサを浸漬させて、測定される電流の大きさに基づいて使用前の前記センサの前記活性酸素種感度を求めることを特徴とする活性酸素種感度の特定方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る活性酸素種の濃度測定方法によれば、分解によって溶液中の濃度が時間とともに小さくなるOラジカルに代表される活性酸素種を直接測定することなく、センサの活性酸素種に対する感度(活性酸素種の濃度に対する測定電流の特性)をセンサの使用前に安価かつ簡便に求めることができる。また、本発明に係る活性酸素種の濃度測定方法に用いる還元性物質溶液に溶解する還元性物質に酸化還元電位が上記活性酸素種と略等しい物質を溶解させることにより、還元性物質溶液をセンサで測定することにより得られる電流の大きさに基づいて、センサの活性酸素種感度を求めることができる。したがって、センサで試料液中の活性酸素種の濃度を測定する際に、センサの活性酸素種感度を調べるために活性酸素種溶液を準備する必要がない。また、センサに還元性物質感度と活性酸素種感度との関係を示す情報をメモリに記憶させるなどの方法で保持させておくことにより、特に測定者は、センサで試料液中の活性酸素種の濃度を測定する直前に、記憶された活性酸素種感度を、還元性物質溶液をセンサで測定することにより特定された活性酸素種感度で較正するのみで、従来困難であった活性酸素種の濃度測定を可能とするため、測定者の負荷は軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】Oラジカルの濃度測定に用いるセンサのOラジカル感度および還元性物質感度などを測定する測定装置の構成を示す図である。
【図2】測定装置が備えるセンサの全体図とコネクタおよび測定部を拡大した図である。
【図3】特定のセンサについての測定電流値を基準とした還元性物質濃度とOラジカル濃度との関係を求めるための具体的手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】センサでOラジカル溶液を測定したときの測定開始からの経過時間と測定電流値との関係の一例を示すグラフである。
【図5】センサで濃度の異なる複数の還元性物質溶液を測定したときの測定開始からの経過時間と測定電流値との関係の一例を示すグラフである。
【図6】センサで測定される電流の大きさと還元性物質の濃度との関係の一例を示すグラフである。
【図7】センサの使用前較正の具体的手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】同型のセンサにおけるアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な関係を求めるための具体的手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】複数のセンサの各々について求めたアスコルビン酸感度の一例を示すグラフである。
【図10】同型のセンサのアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な線形関係を示すグラフである。
【図11】図10でアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な線形関係を求めたセンサと同型のセンサについて使用前にOラジカル感度を測定する具体的手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の特徴を限定するものではない。また、以下の実施形態の中で説明されている構成の全てが本発明を実施する上で必須であるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明に係る感度較正方法を実施する際に用いられる測定装置10の構成を示す図である。本発明に係る感度較正方法は、Oラジカルの濃度測定に用いるセンサの感度較正を安価かつ簡便に行うことのできる方法であり、例えば図1に示す測定装置10を用いて実施することができる。この測定装置10は、容器20と、アンプ60と、装置本体70と、コンピュータ80とを備える。本例では、感度較正対象であるセンサ40が容器20に固定されており、容器20内には、被測定溶液30が入っている。
【0021】
図2は、センサ40の全体図と測定部41およびコネクタ(接続部)43を拡大した図である。図2に示すように、センサ40は、保護チューブ42の一端に測定部41が設けられており、他端にコネクタ43が取り付けられている。測定部41は、図2にそのたて断面の拡大図で示すように、中心に配された棒状電極41aと、棒状電極41aの外周に配された絶縁材41bと、絶縁材41bの外周に配された筒状電極41cと、外周面が保護チューブ42で覆われたシールドケーブル41dと、シールドケーブル41dの中心に配されてその先端部が導電性樹脂41fを介して棒状電極41aと電気的に接続された芯線41eと、棒状電極41aの一部と導電性樹脂41fの外周を覆うように絶縁材41bの内側に配された保護チューブ41gと、シールドケーブル41dにおいて芯線41eに対して電気的に絶縁されつつその周囲を囲むように配されたシールド線41hと、シールド線41hの延出部と筒状電極41cとを接続するハンダ付部41iと、棒状電極41aの先端部に配された錯体膜41jとを有する。
【0022】
棒状電極41aはカーボン製であり、センサ40の陽極として機能する。また、筒状電極41cはステンレス製であり、センサ40の陰極として機能する。また、絶縁材41bは絶縁性のエポキシ樹脂であり、これに対し、導電性樹脂41fは導電性のエポキシ樹脂である。また、保護チューブ41gおよび保護チューブ42は、いずれも絶縁体であるポリイミド樹脂によって形成されている。また、錯体膜41jは、例えば鉄5,10,15,20−テトラキス(3−チエニル)ポルフィリンにN−メチルイミダゾールを軸配位子として導入した鉄六配位錯体(Im)FeT3ThPを用い、電解重合法により形成された膜体である。
【0023】
以上の構成を有するセンサ40は、例えば止血弁が設けられたカテーテルシースを介して被測定者の測定部位まで挿入されてOラジカルの濃度測定が行われるが、その前に、Oラジカルに対する感度較正を行う必要がある。次に、センサ40の感度較正の具体的手順について説明する。
【0024】
図3は、センサ40の使用前較正に利用する還元性物質濃度とOラジカル濃度との関係を求めるための具体的手順の一例を示すフローチャートである。本フローでは、まず、Oラジカルが溶解した溶液にセンサ40を浸漬させたときに測定される電流の大きさとOラジカルの濃度との関係を求める。より具体的には、まず、リン酸緩衝液(PBS)にキサンチン(XAN)を溶解させた溶液にキサンチンオキシダーゼ(XOD)を加えて一定の速度でOラジカルを発生させる。そして、この溶液にセンサ40を浸漬させて(ステップ:S11)、一定時間経過後にOラジカルの発生と分解が平衡して溶液中のOラジカルの濃度が安定した後、アンプ60からセンサ40の陽極−陰極間に500mVの直流電圧を印加し、錯体膜41j上でOラジカルと錯体膜中の鉄イオンとの間で酸化還元反応が起こるときに発生する電流を測定する(ステップ:S12)。図4は、センサ40でOラジカル溶液を測定したときの測定開始からの経過時間と測定電流値との関係の一例を示すグラフである。
【0025】
ここで、上記のように平衡状態となった溶液中のOラジカルの濃度は、溶液中に溶解させたキサンチンの濃度やキサンチンオキシダーゼの添加量などから求めることができるので、Oラジカルの濃度を変えた何種類かの溶液で上記の測定を行うことにより(ステップ:S13)、センサ40で測定された電流の大きさとOラジカルの濃度との関係(センサ40のOラジカル感度:〔nA/nMol〕)が求められる(ステップ:S14)。
【0026】
次に、還元性物質が溶解した溶液にセンサ40を浸漬させたときに測定される電流の大きさと当該還元性物質の濃度との関係を求める。より具体的には、水、生理食塩水、またはリン酸緩衝液のいずれかに、還元性物質としてアスコルビン酸を溶解させたアスコルビン酸標準液を複数のアスコルビン酸濃度で調製する。次に、アンプ60からセンサ40の陽極−陰極間に500mVの直流電圧を印加した状態で水、生理食塩水、またはリン酸緩衝液のいずれかの溶媒(錯体膜安定化用溶液)にセンサ40を1分程度浸漬させて錯体膜41j表面を溶液に対して安定化させる(ステップ:S21)。そして、濃度の異なるアスコルビン酸標準液のいずれかにセンサ40を浸漬させて(ステップ:S22)、一定時間経過(平衡状態となった)後の電流を測定する(ステップ:S23)。
【0027】
次に、上記の測定を濃度の異なる他のアスコルビン酸標準液についても行う(ステップ:S24)。ここで、センサ40で3種類の異なる濃度のアスコルビン酸溶液を測定したときの測定開始からの経過時間と測定電流値との関係を図5に示す。図5の測定開始後1000秒経過までに示された3つの矩形波状の波形は、3種類の異なる濃度のアスコルビン酸溶液を濃度の低いほうから順にセンサ40で測定したときの測定電流値である。このように、既知の濃度の複数種類のアスコルビン酸溶液をセンサ40で測定することにより、センサ40で測定される電流の大きさとアスコルビン酸の濃度との関係(センサ40の還元性物質感度:〔nA/mMol〕)が例えば図6に示すように求められる(ステップ:S25)。そして、上記各手順において求めたセンサ40のOラジカル感度およびアスコルビン酸感度に基づいて、センサ40についてのアスコルビン酸の濃度とOラジカルの濃度との関係を求める(ステップ:S26)。
【0028】
ここで、アスコルビン酸の濃度とOラジカルの濃度との関係は、検量線として求めてもよいが、少なくとも後述のセンサ40を使用前に較正する手順において用いるアスコルビン酸溶液におけるアスコルビン酸の濃度からOラジカルの濃度へと換算可能であれば特定のアスコルビン酸濃度からOラジカル濃度へと換算可能な換算表であってもよい。また、上記検量線および換算表などの情報は、センサ40固有の情報としてコネクタ43のケース内部に設けられた記憶部43aに電子データとして記憶される(ステップ:S27)。ここで、記憶部43aは、本発明における保持部の一例である。なお、図示しないが記憶部43aは測定装置10の装置本体70内などに備えられても良い。
【0029】
この情報は、後述のセンサ40の使用前較正時において、センサ40のコネクタ43をアンプ60に差し込むと自動的に記憶部43aからアンプ60経由で装置本体70やコンピュータ80に出力される。なお、記憶部43aには、例えばフラッシュメモリーなどの記憶素子が好ましく用いられる。また、本例のように上記の情報を記憶部43aに記憶させる形態に替えて、当該情報をラベル等に印刷してコネクタ43などに貼り付けても良く、この場合、後述のセンサ40の使用前較正時に、測定装置10の使用者がラベル等に表示された情報を参照して後述の較正値を求めることが好ましい。
【0030】
また、上記還元性物質は、本例のアスコルビン酸に限られず、酸化還元電位がOラジカルと略等しい還元性物質であって、リン酸緩衝液などの溶媒に溶解させて溶液としたときにその濃度と当該溶液にセンサ40を浸漬させたときに測定される電流の大きさとの間に一義的な関係を有し、さらに、当該関係から、センサ40のOラジカル感度へと換算可能である物質であればよい。また、上記還元性物質は、当該物質を溶媒(溶液)に溶解してからセンサ40を浸漬させるまでの間(通常は長くても1時間以内)に溶液中の濃度が一定である(分解などによって濃度が変化しない)物質であればより好ましい。このような物質の他の例としては、尿酸、グルタチオン、α−トコフェロール、およびグルコースなどが挙げられる。
【0031】
なお、上記溶媒(溶液)に溶解したときに分解などにより濃度変化が生じる還元性物質であっても、溶媒へ溶解させてから1分後に溶解量の50%以上が分解されずに維持されており、さらに、経時的な分解の傾向が明らかな物質であれば、本例のアスコルビン酸に替わる還元性物質として用いることができる。また、上記溶媒(溶液)に溶解したときの分解性が上記要件を満たさない還元性物質であっても、溶媒への溶解性が良好であれば、センサ40を浸漬させる直前に溶解させることが可能であるので、本例のアスコルビン酸に替わる還元性物質として用いることができる。
【0032】
次に、センサ40を患者の血液などの試料液中のOラジカルの濃度測定などに実際に使用する前に行うセンサ40の使用前較正についてその手順を説明する。
【0033】
図7は、センサ40の使用前較正の具体的手順(較正後のセンサ40を用いた試料液中のOラジカル濃度の測定までを含む)の一例を示すフローチャートである。本フローでは、まず、既知の濃度のアスコルビン酸溶液を調製し、これにセンサ40を浸漬させて電流を測定する(ステップ:S31)。そして、測定される電流の大きさから、センサ40のアスコルビン酸感度の較正値、すなわち、図3に示す一連の手順によって求めたセンサ40のアスコルビン酸感度においてアスコルビン酸溶液のアスコルビン酸の濃度から推定される電流の大きさと本手順によって実際に測定された電流の大きさとのずれに基づいて、センサ40のアスコルビン酸感度を現在の感度に置き換えるための換算係数を求める。
【0034】
そして、上記換算係数(較正値)を、上記手順で求めたセンサ40のOラジカル感度に適用して当該感度を較正する(ステップ:S32)。これにより、センサ40の現在のOラジカル感度が算出される。そして、以上の手順によって使用前較正を終えたセンサ40を生体等に挿入して血液(試料液)などの測定対象の電流を測定することにより(ステップ:S33)、センサ40の現在のOラジカル感度に基づいて試料液中のOラジカル濃度を求める(ステップ:S34)。
【0035】
このように、本例のセンサ40によるOラジカルの濃度測定方法によれば、予めセンサ40についてのアスコルビン酸の濃度とOラジカルの濃度との関係を求めておくことにより、分解によって溶液中の濃度が時間とともに小さくなるOラジカルをセンサ40の使用前に改めて測定して感度較正をする必要がなく、アスコルビン酸などの安価な還元性物質を溶解させた溶液を測定するだけで感度較正が完了する。したがって、センサ40の使用前に行うOラジカルに対する感度較正をより安価かつ簡便に行うことができる。
【0036】
また、上記のように、予め求めたアスコルビン酸の濃度とOラジカルの濃度との関係を示す検量線あるいは換算表などの情報が、センサ40の使用前の較正時に利用可能なデータとしてコネクタ43のケース内部に設けられた記憶部43aに記憶されているので、センサ40のOラジカルの濃度との関係を他のセンサの検量線などに基づいて誤って算出するのを防ぐことができる。
【0037】
また、図3を参照して説明したアスコルビン酸濃度とOラジカル濃度との関係を求める一連の手順は、例えばセンサ40の製造時に工場で実施しておくことができるので、センサ40のユーザーは使用前に図6を参照して説明した使用前較正のみを行えば良く、従来と比べて較正に要する手間や時間を大幅に削減することができる。
【0038】
なお、以上に説明した方法は、センサ40固有の特性としてアスコルビン酸濃度とOラジカル濃度との関係を求め、これをセンサ40の使用前較正に利用してセンサ40のOラジカル感度を較正するものでるが、本発明の発明者は、センサ40について求めたアスコルビン酸感度とOラジカル感度との関係と、センサ40と同型の他の複数のセンサについて求めた当該関係との間に線形性があることを見出した。そこで、以下に説明するセンサ40によるOラジカルの濃度測定方法では、濃度測定に使用するセンサ40と同型の複数のセンサ40A〜40Eの各々について求めたOラジカル感度とアスコルビン酸感度との対応関係から、センサ40と同型のセンサにおけるアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な関係を求めることを特徴としている。そして、使用前のセンサ40を既知の濃度のアスコルビン酸溶液に浸漬させて電流を測定することによりセンサ40のアスコルビン酸感度を求め、センサ40と同型のセンサにおける上記の関係と求めたアスコルビン酸感度とからセンサ40のOラジカル感度を求めて試料液の測定を行うというものである。
【0039】
図8は、センサ40と同型のセンサにおけるアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な関係を求めるための具体的手順の一例を示すフローチャートである。本フローでは、まず、センサ40と同型のセンサ40Aについて、ステップS51〜S65の手順でOラジカル感度とアスコルビン酸感度を求める。これらの手順は、図3を参照して説明したステップS11〜S25と同じであることからその説明を省略する。
【0040】
次に、センサ40Aと同型の複数(本例では4本)のセンサ40B〜40Eのそれぞれについて、ステップS51〜S65の手順でOラジカル感度とアスコルビン酸感度を求める(ステップ:S66)。そして、センサ40A〜40Eの各々について求めたOラジカル感度とアスコルビン酸感度との対応関係から、これらのセンサ40A〜40Eと同型のセンサにおけるアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な関係を求める(ステップ:S67)。
【0041】
図9は、センサ40A〜40Eの各々について求めたアスコルビン酸感度の一例を示すグラフである。また、センサ40A〜40EのOラジカル感度とアスコルビン酸感度との対応関係から得られた同型のセンサのアスコルビン酸感度とOラジカル感度との線形関係を図10に示す。このように、同型の複数のセンサ40A〜40EについてOラジカル感度とアスコルビン酸感度を測定することにより、同型のセンサについてのOラジカル感度とアスコルビン酸感度との間の一般的な関係が得られる。
【0042】
図11は、センサ40A〜40Eと同型のセンサ40の使用前較正の具体的手順(較正後のセンサ40を用いた試料液中のOラジカル濃度の測定までを含む)の一例を示すフローチャートである。本フローでは、まず、濃度の異なる複数種類のアスコルビン酸溶液を調製し、それらの溶液にセンサ40を浸漬させて電流を測定してその測定結果からセンサ40のアスコルビン酸感度を求める(ステップ:S71)。そして、求めたアスコルビン酸感度を図9のフローで得られたOラジカル感度とアスコルビン酸感度との線形関係に当てはめてOラジカル感度を求める(ステップ:S72)。
【0043】
そして、以上の手順によってOラジカル感度を求めたセンサ40を生体等に挿入して血液(試料液)などの測定対象の中でのセンサ電流を測定することにより(ステップ:S73)、センサ40のOラジカル感度に基づいて試料液中のOラジカル濃度を求める(ステップ:S74)。
【0044】
このように、本例のセンサ40によるOラジカルの濃度測定方法によれば、予めセンサ40と同型のセンサについてのアスコルビン酸感度とOラジカル感度との一般的な関係を求めておくことにより、試料液のOラジカル濃度の測定に使用するセンサ40については、使用前にアスコルビン酸感度を測定するだけでOラジカル感度を求めることができる。したがって、センサ40の使用前にOラジカル感度を測定する必要がなく、試料液のOラジカル濃度の測定を容易に行うことができる。
【0045】
以上、本発明を好適な実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は、上記の実施形態に記載の範囲には限定されない。上記の実施形態に多様な変更または改良を加え得ることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0046】
10 測定装置
20 容器
40 センサ
41 測定部
42 保護チューブ
43 コネクタ(接続部)
60 アンプ
70 装置本体
80 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素種の濃度測定方法であって、
前記活性酸素種が溶解した活性酸素種溶液にセンサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記活性酸素種の濃度との関係である活性酸素種感度を求め、
還元性を有する還元性物質が溶解した還元性物質溶液に前記センサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記還元性物質の濃度との関係である還元性物質感度を求め、
既知の濃度の前記還元性物質溶液に使用前の前記センサを浸漬させて、測定される電流の大きさに基づいて使用前の前記センサの前記活性酸素種感度を求め、試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定することを特徴とする活性酸素種の濃度測定方法。
【請求項2】
同一の前記センサについて前記活性酸素種感度および前記還元性物質感度を求め、
前記活性酸素種感度と前記還元性物質感度とを前記電流の大きさで関連付けることにより前記活性酸素種の濃度と前記還元性物質の濃度との関係を求め、
使用前の前記センサを既知の濃度の前記還元性物質溶液に浸漬させて電流を測定することにより使用前の前記センサの還元性物質感度を求め、
使用前の前記還元性物質感度と予め求めた前記還元性物質感度とのずれおよび予め求めた前記活性酸素種の濃度と前記還元性物質の濃度との関係に基づいて前記センサの前記活性酸素種感度を較正し、
感度較正後の前記センサを用いて試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の活性酸素種の濃度測定方法。
【請求項3】
前記センサと同型の複数のセンサの各々について、前記活性酸素種感度および前記還元性物質感度を求め、
複数の前記センサについて求めた前記活性酸素種感度と前記還元性物質感度との対応関係に基づいて、同型の前記センサにおける前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との一般的な関係を求め、
使用前の前記センサを既知の濃度の前記還元性物質溶液に浸漬させて電流を測定することにより使用前の前記センサの還元性物質感度を求め、
同型の前記センサにおける前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との関係および使用前の前記センサの還元性物質感度に基づいて前記センサの使用前の前記活性酸素種感度を求め、試料液中の前記活性酸素種の濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の活性酸素種の濃度測定方法。
【請求項4】
前記活性酸素種は、Oラジカルであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の活性酸素種の濃度測定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の活性酸素種の濃度測定方法によって活性酸素種の濃度測定が可能なセンサであって、
前記還元性物質感度と前記活性酸素種感度との関係を示す情報を保持していることを特徴とするセンサ。
【請求項6】
活性酸素種の濃度測定に用いる測定装置であって、
請求項5に記載のセンサと、
前記センサによる測定電流を検出する装置本体と、
前記還元性物質溶液を収容し、前記センサの電極を前記還元性物質溶液に浸漬させた状態で前記センサを保持可能な容器と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の活性酸素種の濃度測定方法に用いる還元性物質溶液。
【請求項8】
前記還元性物質は、酸化還元電位が前記活性酸素種と略等しいことを特徴とする請求項7に記載の還元性物質溶液。
【請求項9】
前記還元性物質は、前記還元性物質溶液に溶解させてから前記センサを浸漬させるまでの間に、濃度が一定であることを特徴とする請求項7または8に記載の還元性物質溶液。
【請求項10】
前記還元性物質は、前記還元性物質溶液に溶解させてから、少なくとも1分後に前記還元性物質の濃度の50%を維持することを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の還元性物質溶液。
【請求項11】
前記還元性物質は、アスコルビン酸であることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の還元性物質溶液。
【請求項12】
センサの活性酸素種感度の特定方法であって、
前記活性酸素種が溶解した活性酸素種溶液にセンサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記活性酸素種の濃度との関係である活性酸素種感度を求め、
還元性を有する還元性物質が溶解した還元性物質溶液に前記センサを浸漬させたときに測定される電流の大きさと前記還元性物質の濃度との関係である還元性物質感度を求め、
既知の濃度の前記還元性物質溶液に使用前の前記センサを浸漬させて、測定される電流の大きさに基づいて使用前の前記センサの前記活性酸素種感度を求めることを特徴とする活性酸素種感度の特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96793(P2013−96793A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238746(P2011−238746)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)