説明

流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物

【課題】速硬性でありながら、オープンな環境に曝してもひび割れを生じない流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が−50℃〜−15℃であるポリマーのディスパージョンを含有する流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト等の流し込み施工用の速硬系ポリマーセメントモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、オープン環境に曝される流し込み施工用組成物としてポリマーセメントグラウト組成物がある。ノンポリマーのグラウト系材料は、強度が高く、かつ弾性係数が高いため、歪み変化に対する抵抗性が低い。また、流動性確保のために水分量が多く、乾燥収縮が大きく、オープン環境に曝すと、乾燥収縮によりひび割れを起こすことが多い。従って、オープン環境に曝される場合には、ポリマーディスパージョンを混合したポリマーセメントグラウトとして施工されることが多い(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2005−82416号公報
【特許文献2】特開2007−269608号公報
【特許文献3】特開2007−269609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、速硬系のグラウト材においては、ポリマーディスパージョンを混和しても脱型時に既にひび割れが入ることが多い。
【0004】
従って、本発明の課題は、速硬性でありながら、オープンな環境に曝してもひび割れを生じない流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、速硬性とひび割れ防止能とを兼ね備えたセメント組成物を開発すべく検討したところ、ガラス転移温度の低いポリマーのディスパージョンとカルシウムアルミネート系の速硬性セメントとを組み合せれば、当該2つの性能を有する流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ガラス転移温度(TG)が−50℃〜−15℃であるポリマーのディスパージョンを含有する流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乾燥収縮によるひび割れが防止できるだけでなく、ガラス転移温度が低いポリマーディスパージョンを用いているにもかかわらず、硬化体強度が高いモルタル及びコンクリートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、速硬系ポリマーセメントモルタル組成物に、TGが−50℃〜−15℃と低いポリマーのディスパージョンを配合したことを特徴とする。このようなTGの低いポリマーを採用した場合、得られるフィルム物性が軟かいためモルタル強度が低下する問題が考えられたが、流し込み施工用速硬系ポリマーセメントに用いた場合には、全く意外にも高い強度が得られる。これは、硬化時に多量の水を水和水として消費するため、ポリマーの乾燥によるフィルム形成が一気に進み、強度が高くなるものと考えられる。
【0009】
本発明に用いられるポリマーディスパージョンのポリマーは、乾燥して得られるフィルムのTG(ガラス転移温度)が−50℃以上−15℃以下であることが必要である。TGが−50℃未満であると、硬化体強度、特に引張り強度や躯体との付着強度が十分でなく、また静弾性係数も荷重を受ける硬化体としては不適な低いものとなってしまう。一方、TGが−15℃より高いと、ひび割れ低減効果が十分でない。より好ましいTGは―45℃〜−15℃であり、さらに好ましいTGは−45℃〜−20℃である。
【0010】
このようなポリマーとしては、オールアクリル重合体、スチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−ベオバ共重合体、エチレン−酢酸ビニル−ベオバ共重合体、アクリル−ベオバ−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などが挙げられるが、耐久性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸もしくはその誘導体を含む重合体又は共重合体が望ましい。ここで好ましい(メタ)アクリル酸の誘導体としては、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。ここで(メタ)アクリルにはメタクリル及びアクリルが含まれる。
【0011】
これらのポリマーのディスパージョンは、ポリマーが分散している形態であればよく、提供形態は特に問わない。ポリマー粒子が水中にコロイド上に懸濁したエマルション状のもの、再乳化可能な状態として乾燥・粉末化したものなどが使用可能である。また、ディスパージョン中には消泡剤、乳化安定剤、防腐剤、UV吸収剤等が含まれていてもよい。
当該ポリマーディスパージョンの含有量は、流し込み施工用速硬水硬性組成物固形分(水硬性成分+粒径3mm以下の細骨材)100重量部に対し、固形分換算で好ましくは2〜30重量部、より好ましくは3〜24重量部である。前記ポリマーディスパージョンの配合量が少なすぎると、十分なひび割れ防止効果が得られず、大面積または大容積の流し込み時には脱型時にひび割れることが多くなり、多すぎると強度低下や弾性係数不足により荷重を支える構造部材に向かなくなる。
【0012】
本発明の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物における、水硬性活性成分は、速硬系であれば特に制限されないが、速硬性を付与する有効成分として、カルシウムアルミネート系鉱物を含むものが好ましい。
ここでいうカルシウムアルミネート系鉱物とは、CaxAlyz、CaxAlyzm、又はCaxAlyznの組成式で表される鉱物であり、結晶状、非結晶状を問わない。例として、CaO・Al23、12CaO・7Al23、3CaO・3Al23・CaSO4、11CaO・7Al23・CaFが挙げられる。
【0013】
本発明における流し込み施工とは、モルタル、コンクリート等の混練物(スラリー)を型枠、床、土間、地中等に流し込んで養生硬化させて施工することをいう。グラウト材の他、コンクリートも含まれる。
【0014】
本発明の組成物には、流し込み施工に適した性状を得るため、減水剤を含んでいることが好ましい。減水剤は粉末状、溶液状を問わない。減水剤としては、リグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系のもの等が挙げられる。減水剤の含有量は、水硬性成分100重量部に対し、好ましくは0.02〜5重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
またさらに、硬化促進剤、硬化遅延剤、増粘剤、繊維、収縮低減剤、膨張材、スラグ、ポゾラン物質(フライアッシュ,シリカフューム,メタカオリン等)等を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の組成物には、水硬性成分のほか、3mm以下の細骨材を含んでもよい。例として珪砂、石灰石砂、寒水石砂、各種スラグ骨材、各種クリンカー骨材等が挙げられる。細骨材の配合量は、水硬性成分100重量部に対し好ましくは400重量部以下、より好ましくは280重量部以下である。
【0016】
さらに本発明においては、通常コンクリートに使用される粗骨材が使用可能である。粗骨材としては粒径は3mm以上のものが使用可能であるが、好ましくは40mm以下が好ましい。粗骨材としては、川砂利、山砂利、海砂利、火山礫軽量骨材等の天然骨材;砕石、スラグ骨材、人工軽量骨材、重量骨材等の人工骨材が使用可能である。粗骨材は、流し込み施工用速硬水硬性組成物固形分(水硬性成分+粒径3mm以下の細骨材)100重量部に対し、好ましくは500重量部以下、より好ましくは300重量部以下配合される。
【0017】
本発明の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物は、前記原料と水を混練し、常法に従い、施工場所や型枠に流し込み、養生硬化することにより施工される。かかる施工により、オープンな環境下においても乾燥収縮によるひび割れが防止できるとともに強度の高い硬化体が得られる。ここで、水/セメント比は、65%以下が好ましい。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されない。
【0019】
実施例1〜5及び比較例1〜7
表1及び表2に記載の粉体、液体及び粗骨材を混合して流し込み施工し、その硬化体について評価した。それらの結果も表1及び表2に示す。
【0020】
(原料)
低TGポリマーエマルション1:太平洋マテリアル社 RF弾性コート混和材(TG−21℃,固形分55%)(スチレン−アクリル共重合)
低TGポリマーエマルション2:旭化成ケミカルズ社 ポリトロンZ860(TG−40℃,固形分51.5%)(スチレン−アクリル共重合)
高TGポリマーエマルション1:太平洋マテリアル社 CX−B(TG−3℃,固形分45%)(スチレン−ブタジエン共重合)
高TGポリマーエマルション2:太平洋マテリアル社 TMポリマー混和材A(TG+4℃,固形分23%)(オールアクリル重合)
市販速硬系グラウト粉体1:電気化学工業社 ハイプレタスコンType−I
市販速硬系グラウト粉体2:太平洋マテリアル社 プレユーロックススーパー
市販普通硬化型グラウト粉体1:電気化学工業社 プレタスコンType−1
市販普通硬化型グラウト粉体2:電気化学工業社 プレユーロックス
粗骨材:大井川産 川砂利 粒径3〜10mm、湿潤状態で使用
【0021】
(評価方法)
ひび割れ観察:(1)コンクリート上に、1200×600の範囲に20mm厚で流し込んで、屋外に放置。28日後に観察。
(2)1200×450×300の型枠内に流し込み、3日後に脱型して、屋外に放置。28日後に観察。
【0022】
<評価>
○:ひび割れなし。
△:幅0.2mm以下のひび割れあり。
×:幅0.2mm以上のひび割れあり。
【0023】
付着強度:ひび割れ観察(1)の試験体で、成形28日後に40×40mmの方形に切り込みを入れ、鋼製アタッチメントを貼り付け、建研式接着力試験器にて試験。2.0N/mm2以上を合格とした。
圧縮強度:JHS−416にて試験。成形28日後に30N/mm2以上を合格とした。
硬化時間:JHS−312にて試験。4時間以内の硬化を速硬性ありと評価。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1及び表2から明らかなように、TGが−50℃〜−15℃と低いポリマーを配合した速硬系セメント組成物を用いて、流し込み施工により得られた硬化体は、ひび割れが観察されず、かつ優れた速硬性を有するにもかかわらず高い強度が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が−50℃〜−15℃であるポリマーのディスパージョンを含有する流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、(メタ)アクリル酸又はその誘導体を含む重合体又は共重合体である請求項1記載の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項3】
カルシウムアルミネートを含有するものである請求項1又は2記載の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項4】
流動性を有するグラウトとして用いられる、請求項1〜3のいずれか1項記載の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項5】
粒径3mm以上の粗骨材を含み、コンクリートとして用いられる、請求項1〜3のいずれか1項記載の流し込み施工用速硬系ポリマーセメントモルタル組成物。

【公開番号】特開2010−150083(P2010−150083A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330153(P2008−330153)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】