説明

流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法

【課題】流体に接する固体壁の肉厚変化(配管においては流体による配管の減肉)の程度を解析により把握する。
【解決手段】固体壁1とこの固体壁1の表面から境界層厚さδ程度以下までの流体2と皮膜3とを含む領域Lと、境界層BLを含む主流の領域Eとを設定する。この解析体系のうち領域Lではラグランジアン的な流動解析法により固体壁1と流体2と皮膜3との挙動を解析する。また領域Eではオイラー的な流動解析法により流体2の挙動を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体壁に沿って流れる流体により、固体壁の肉厚が変化する減肉事象を解析する技術に係り、特に流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントに敷設された配管には内部の高温・高圧・高流速の蒸気や水および高温・高圧・高流速の蒸気と水との二相流が流れており、絶えず過酷な環境に晒される。このため、配管内面にエロージョンやコロージョンが生じて経年的な減肉現象が生じる。この減肉現象が進行すると配管内部の流体が漏洩する恐れがあり重要な問題となる。このような減肉現象の進行速度は、空間的、時間的に一様ではなく、例えば配管内部の流体の条件や配管の形状等の種々の条件により異なる。
【0003】
例えば高温・高圧・高流速の水や水蒸気、蒸気と水との二相流が流れる配管内表面(流体と接する固体壁面)は、この表面に生じる化学反応による皮膜(例えば、錆)の形成や流体からのせん断力による磨耗等に起因してその肉厚が変化(減肉)することが知られている。しかし、この流体に接する固体壁の肉厚の変化をシミュレーションする方法は確立されていない。
【0004】
この流体に接する固体壁の肉厚の変化をシミュレーションする方法に類するものとして、ガスタービン等の高温部品の遮熱コーティングが運転中に受ける損傷の種類と進行を予測する実機損傷シミュレーションシステムがある(特許文献1)。しかし、この実機損傷シミュレーションシステムは試験で得られたデータから予測関数を作成して高温部品の遮熱コーティングが運転中に受ける損傷の種類と進行を予測するものであり、シミュレーションを行う対象となる部品毎に試験を行う必要がある。
【特許文献1】特開2004−132768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属材料で作られた配管内を水や水蒸気が流れる場合は、この配管内表面には酸化物の皮膜が形成される。例えば炭素鋼で作られた配管内表面にはマグネタイト(Fe)の皮膜が形成される。この配管内表面上のマグネタイト皮膜は多孔質であり配管内表面では炭素鋼中に含まれる鉄(Fe)が水と反応して腐食して水中へ溶解して水酸化鉄(Fe(OH))に変化する反応が生じている([数1])。
[数1]
Fe+2HO → Fe(OH)+2H+2e
【0006】
この水酸化鉄の一部は水中へ拡散するものの他の部分は[数2]による変化でマグネタイトとなり配管内表面へ皮膜として析出する。
[数2]
3Fe(OH) → Fe+2HO+2H+2e
【0007】
マグネタイト皮膜が相当程度の厚みになると多孔質なマグネタイト皮膜の空隙率が小さくなり配管内表面への水の供給が乏しくなる。そうすると、[数1]および[数2]の変化が滞りマグネタイト皮膜の成長は抑制される。
【0008】
配管内表面に形成されたマグネタイト皮膜は、水との反応により水中へ溶解するため、マグネタイト皮膜の厚みが薄くなり再び空隙率が大きくなると[数1]および[数2]の反応によりマグネタイトの供給が促進される。また、水中に溶解したマグネタイトも再び析出し皮膜を形成する。このプロセスが繰り返される間は、マグネタイト皮膜が安定的に形成されるため、配管内表面の損傷の進行は抑制される。
【0009】
しかし、配管内の水や水蒸気の流速が速い場合は、マグネタイト皮膜の溶解が促進されてマグネタイト皮膜の厚みが減少する。また、マグネタイト皮膜の表面では、流体のせん断力等の外力によりマグネタイト皮膜が大きく剥離することがある。そうするとマグネタイト皮膜の厚みはさらに減少する。マグネタイト皮膜が減少すると[数1]および[数2]の反応によりマグネタイトが供給されるが、マグネタイト皮膜の溶解や剥離(離脱)がマグネタイトの供給速度を上回ると配管の固体壁1は次第に薄くなり配管の破断にいたる恐れがある。
【0010】
この配管の破断を回避するためには流体に接する固体壁の肉厚変化(配管においては流体による配管の減肉)の程度を把握することは非常に重要である。
【0011】
特許文献1に開示された実機損傷シミュレーションシステムは、試験で得られたデータから予測関数を作成して流体に接する固体壁の肉厚変化の予測をするため、予測の対象とする部品毎に試験を行う必要がある。
【0012】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたもので、作業量やコストの低減を図り、時々刻々変化する固体壁の肉厚を機構論的なシミュレーションにより評価する流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するため本発明では、流体と接する固体壁であって、前記流体と接する前記固体壁の表面には皮膜が形成されており、前記固体壁と前記固体壁の近傍の前記流体と前記皮膜とにラグランジアン的な流動解析法を適用して解析し、前記固体壁の近傍以外に存在する前記流体にオイラー的な流動解析法を適用して解析し、前記流体の運動と前記固体壁および前記皮膜の形状変化を解析して前記固体壁の減肉状態と前記皮膜の挙動を評価することを特徴とする流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業量やコストの低減を図り、時々刻々変化する固体壁の肉厚を機構論的なシミュレーションにより評価する流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
ここで、以下の説明において「ラグランジアン的な流動解析法」とは、解析体系に含まれる物質を各種物理量(位置、速度、圧力、温度、等々)を持つ有限個の解析要素粒子(点)で表し、この解析要素粒子の運動を追跡することにより解析体系に含まれる物質の質量、運動量、エネルギーの保存則を解く方法である(例えば特開平7−334484号公報、特開2005−135814号公報)。
【0017】
また、以下の説明において「オイラー的な流動解析法」とは、解析体系を有限個の解析要素で区切り、この解析要素内の物理量の収支を任意の時間間隔ごとに評価することにより、各保存則を解く方法である。代表的なものとして有限差分法、有限要素法が挙げられる(例えば特開2005−115934号公報、特開2005−182150号公報、特開平10−15479号公報)。
【0018】
[第1の実施形態]
本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第1実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
【0019】
図1から図3は本発明に係る本実施形態の固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を説明する概略図であり、図1は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を適用する解析体系の概略を説明する図であり、図2は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法のうちラグランジアン的な流動解析法における皮膜のモデル化の概略を説明する図であり、図3は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を適用する解析体系のモデル化の概略を説明する図である。
【0020】
図1に示すように、解析体系は固体壁1と、この固体壁1に沿って流れる流体2と、この固体壁1に形成され流体2に曝される皮膜3とを有する。この流体2中には固体壁1の表面から境界層厚さδに境界層BLが設定される。この境界層厚さδは流体2の流れの条件により層流境界層や乱流境界層などを考慮して設定できる。
【0021】
この解析体系に固体壁1とこの固体壁1の表面から境界層厚さδ程度以下までの流体2と皮膜3とを含む領域Lと、境界層BLを含む流体2の主流の領域Eとを設定する。この領域Lと領域Eとは一部重なり合うこととなり、この重なり合う領域を領域Oとする。この解析体系のうち領域Lではラグランジアン的な流動解析法により固体壁1と流体2と皮膜3との挙動を解析する。また領域Eではオイラー的な流動解析法により流体2の挙動を解析する。
【0022】
ここで、ラグランジアン的な流動解析法における解析要素粒子5の大きさは固体壁1の表面に形成された皮膜3の挙動を評価できるよう皮膜3の平均的な厚みTavの略1/5程度以下の大きさに設定する(図2)。他方、オイラー的な流動解析法における解析要素の大きさは、ラグランジアン的な流動解析法で設定する解析要素粒子の大きさ以上、流体2の主流領域の数分の1程度までの大きさに設定する。すなわち、ラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lにおける解析要素粒子のサイズは、オイラー的な流動解析法を適用する領域Eの解析要素のサイズよりも小さく設定する。また、ラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lには、流体2中に任意の特性を設定した解析要素粒子5を流すことができる。
【0023】
そうすると、図3に示すように領域Lには固体壁1の特性をモデル化した解析要素粒子5Aと流体2の特性をモデル化した解析要素粒子5Bと皮膜3の特性をモデル化した解析要素粒子5Cとが並んだラグランジアン的な流動解析法を適用する解析モデルが得られ、領域Eには流体2の境界層BLから固体壁1の方向へ一部に境界層を含んだ部分と主流領域との特性をモデル化した解析要素6が並んだオイラー的な流動解析法を適用する解析モデルが得られる。なお、領域Oにおいて領域Lと領域Eとの重なり合いは、ラグランジアン的な流動解析法における解析要素粒子5の略数個分程度の距離とすることができる。
【0024】
固体壁1は、平板の他に曲率を持つ板や配管のような円筒、曲管、表面が凸凹の板、流体2中を移動するタービンブレードなどの構造物へも適用できる。また、領域Lは、固体壁1とこの固体壁1の表面から境界層厚さδに解析要素粒子5の略数個分程度以下までの距離を加えた部分の流体2と皮膜3とを含む領域とし、領域Eは流体2の境界層BLから主流の領域に設定することもできる。
【0025】
さらに、解析要素6は三角形要素のみでなく、四辺形要素や立体要素などの要素形状とすることもできる。またさらに、流体2中に存在する構造物についても、本実施形態と同様に境界層BLを設定し、この境界層BLに基づき領域Lと領域Eとを分割して、それぞれの領域に適用する解析モデルを得ることができる。
【0026】
本実施形態は、まずこのラグランジアン的な流動解析法を適用する解析モデルとオイラー的な流動解析法を適用する解析モデルとに流体2の流速、圧力、温度などからなる初期条件を与え、それぞれ独立に微少時間(Δt1)の解析を進める。
【0027】
次にラグランジアン的な流動解析法とオイラー的な流動解析法から得られた微少時間(Δt1)後の解析結果のうち、領域Lと領域Eとが重なり合う領域Oにおける流速、圧力、温度などの物理量(境界条件)を境界層におけるインタフェース・データとして相互に授受する。図3に示すように、このインタフェース・データの授受は、オイラー的な流動解析法を適用する領域Eのうち領域Oにも含まれる任意の1つの解析要素6と、この解析要素が重なり合うラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lのうち領域Oに含まれる解析要素粒子5とを1単位として行う(領域U)。
【0028】
すなわち、この1単位にはオイラー的な流動解析法が適用される1つの解析要素6と、ラグランジアン的な流動解析法が適用される複数の解析要素粒子5とが含まれる。この1単位に含まれるオイラー的な流動解析法で得られた解析要素6の物理量を、この1単位に含まれるラグランジアン的な流動解析法を適用する解析要素粒子5の次ステップに解析する微少時間(Δt2)の初期に与える境界条件とする。また、この1単位に含まれるラグランジアン的な流動解析法で得られた複数の解析要素粒子5の物理量の平均値を、この1単位に含まれるオイラー的な流動解析法を適用する解析要素6の次ステップに解析する微少時間(Δt2)の初期に与える境界条件とする。このインタフェース・データの授受をオイラー的な流動解析法を適用する領域Eのうち領域Oにも含まれるすべての解析要素6と、この解析要素が重なり合うラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lのうち領域Oに含まれるすべての解析要素粒子5とについて1単位ごとに行う。さらに、次ステップで解析する微少時間(Δt2)の境界条件を除いた条件は、これ以前に解析した微少時間(Δt1)の解析結果をそれぞれの解析方法について独立に与えて、それぞれ独立に微少時間(Δt2)の解析を進める。以下、同様にして所要の全解析時間(T)について解析を継続し終了する。
【0029】
図4は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を適用する事象の概略を説明する図である。
【0030】
発電プラントなどに敷設される金属材料製の配管内(固体壁1に相当)に水または蒸気(流体2に相当)が流れる条件を考える。
【0031】
図4に示すように、皮膜3が多孔質であるため、水分が金属材料製の固体壁1の表面に達すると化学反応により酸化物粒子8が析出したり(事象A)、流体2の流れによるせん断力が作用して皮膜3の一部が剥離したり(事象B)、皮膜3の表面や孔から流体2中に金属成分9が溶解して金属成分9が流体2中に流出したり(事象C)、流体2中に溶解している金属成分9が析出して酸化物粒子8が流体2中に混入したり(事象D)、流体2中を流れている酸化物粒子8が固体壁1または皮膜3の表面に付着(事象E)する事象(皮膜3の挙動)が固体壁1または皮膜3の近傍で生じている。
【0032】
ラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lについて酸化物粒子8の特性をモデル化した解析要素粒子や、金属成分9の特性をモデル化した解析要素粒子を流体2の特性をモデル化した解析要素粒子5B中に所望に設定することで、これらの各事象について本実施形態を適用できる。
【0033】
この事象Aから事象Eについて本実施形態を適用すると、固体壁1または皮膜3の近傍は領域Lに含まれラグランジアン的な流動解析法が適用されるので、固体壁1の表面から酸化物粒子8が析出する事象や、流体2のせん断力により皮膜3を形成する酸化物粒子8が剥離して流体2中へ流出する事象や、皮膜3の表面や孔から流体2中に金属成分9が溶解して流出する事象や、流体2中に溶解している金属成分9が析出して酸化物粒子8が流体2中に混入する事象や、流体2中に含まれる酸化物粒子8が固体壁1に付着する事象を解析することができる。
【0034】
ラグランジアン的な流動解析法は、外力により移動可能な解析要素粒子で固体壁1と流体2と皮膜3とをモデル化しているため、固体壁1の形状が時間的に変化する領域Lの流体解析に都合が良い。一方、領域Lに複数の解析要素を設定し、この解析要素内の物理量の収支を評価することで流動の解析を行うオイラー的な流動解析法では固体壁1の形状が変化するたびに解析要素を設定し直す必要があり、解析手順は非常に煩雑になり解析の実施は困難である。
【0035】
また、本実施形態は、発電プラントなどに敷設される金属材料製の配管内(固体壁1に相当)に水または蒸気(流体2に相当)が流れる条件のみでなく、非金属材料や高分子材料、コンクリートなどを材料とする固体壁で解析要素粒子5を用いて特性をモデル化できる固体壁1に沿って流れる油や気液二層流、固液二層流などの流体で解析要素粒子5と解析要素6とを用いて特性をモデル化できる流体2についても適用できる。
【0036】
本実施形態によれば、固体壁1および皮膜2の近傍の領域Lをラグランジアン的な流動解析法で解析することで、固体壁1の厚みの変化と皮膜3の挙動とを容易に評価できる。
【0037】
また、オイラー的な流動解析法とラグランジアン的な流動解析法とを併用することで、境界層BLの影響を考慮した領域Eと領域Lとの解析が可能となり、流体2の主流領域の影響を考慮した固体壁1の厚みの変化を容易に評価できる。
【0038】
[第2の実施形態]
本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第2実施形態について、図5を参照して説明する。
【0039】
本実施形態の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法において第1実施形態の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図5は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を適用する事象の概略を説明する図である。
【0041】
発電プラントなどに敷設される金属材料製の配管内(固体壁1に相当)に蒸気(流体2に相当)が流れ、配管の内表面(固体壁1の表面に相当)には金属酸化物の皮膜(皮膜3に相当)が形成され、この金属酸化物の皮膜の表面の凹凸の変化が大きい場合を考える。
【0042】
図5に示すように、固体壁1に沿って流れている流体2中には酸化物粒子8や液滴10が含まれ、この酸化物粒子8や液滴10が凹凸に形成された皮膜3の凸部の先端部に衝突し、この凸部の先端部の一部が剥離して流体2中を流れる酸化物粒子8となる(事象E)。また、凸部の先端部の一部が剥離した皮膜3の下流側の凹部では乱流がおこり、この乱流によるせん断力が作用して皮膜3の凹部の表面の一部が剥離して流体2中を流れる酸化物粒子8となる(事象F)。さらに、凹部の表面の一部が剥離した皮膜3の部分の厚みが次第に薄くなり、多孔質な皮膜3を通して水分が金属材料製の固体壁1の表面に達すると化学反応により酸化物粒子8が析出する(事象G)。さらにまた、表面の一部が剥離した皮膜3の凸部や凹部は、流体2中を流れる酸化物粒子8が付着することで新たな皮膜3を形成する(図示省略、事象H)。これらの事象(皮膜3の挙動)が固体壁1または皮膜3の近傍で生じている。
【0043】
ラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lについて酸化物粒子8の特性をモデル化した解析要素粒子や、液滴10の特性をモデル化した解析要素粒子を流体2の特性をモデル化した解析要素粒子5B中に所望に設定することで、これらの各事象について本実施形態を適用できる。
【0044】
この事象Eから事象Hについて本実施形態を適用すると、固体壁1または皮膜3の近傍は領域Lに含まれラグランジアン的な流動解析法が適用されるので、酸化物粒子8や液滴10が皮膜3に衝突して皮膜3を形成する酸化物粒子8が剥離して流体2中へ流出する事象や、固体壁1の表面から酸化物粒子8が析出する事象や、流体2中に含まれる酸化物粒子8が固体壁1に付着する事象を解析することができる。
【0045】
本実施形態によれば、固体壁1および皮膜2の近傍の領域Lをラグランジアン的な流動解析法で解析することで、固体壁1の厚みの変化と皮膜3の挙動とを容易に評価できる。
【0046】
また、オイラー的な流動解析法とラグランジアン的な流動解析法とを併用することで、境界層BLの影響を考慮した領域Eと領域Lとの解析が可能となり、流体2の主流領域の影響を考慮した固体壁1の厚みの変化を容易に評価できる。
【0047】
さらに、流体2中に含まれる酸化物粒子8や液滴10を解析要素粒子5でモデル化することで、固体壁1および皮膜2の近傍の流れの状態をより正確に解析的に把握することができる。
【0048】
[第3の実施形態]
本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第3実施形態について、図6を参照して説明する。
【0049】
本実施形態の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法において第1実施形態の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図6は本実施形態における流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法を適用する事象の概略を説明する図である。
【0051】
発電プラントなどに敷設される金属材料製の配管内(固体壁1に相当)に蒸気や水(流体2に相当)が流れ、配管の内表面(固体壁1の表面に相当)には金属酸化物の皮膜(皮膜3に相当)が形成されている場合を考える。
【0052】
図6に示すように、固体壁1に沿って流れている流体2中には所望の濃度を模擬して酸化物粒子8が含まれる。また、モデル化された解析体系には、この解析体系の上流側から所望の濃度を模擬して酸化物粒子8が含まれる流体2が流入する事象を模擬する。
【0053】
ラグランジアン的な流動解析法を適用する領域Lについて酸化物粒子8の特性をモデル化した解析要素粒子をあらかじめ配置し、かつ流れの上流側から領域Lに流入する流体2の特性をモデル化した解析要素粒子5B中に所望の濃度で酸化物粒子8の特性をモデル化した解析要素粒子を配置することで、解析体系の入口から任意の濃度の酸化物粒子8を含む流体2が流入する事象について本実施形態を適用できる。
【0054】
この事象Aから事象Hについて本実施形態を適用すると、固体壁1または皮膜3の近傍は領域Lに含まれラグランジアン的な流動解析法が適用されるので任意の濃度で、酸化物粒子8を含む流体2が固体壁1や皮膜3に沿って流れた場合の、事象Aから事象Hを解析することができる。
【0055】
本実施形態によれば、固体壁1および皮膜2の近傍の領域Lをラグランジアン的な流動解析法で解析することで、固体壁1の厚みの変化と皮膜3の挙動とを容易に評価できる。
【0056】
また、オイラー的な流動解析法とラグランジアン的な流動解析法とを併用することで、境界層BLの影響を考慮した領域Eと領域Lとの解析が可能となり、流体2の主流領域の影響を考慮した固体壁1の厚みの変化を容易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第1実施形態を適用する解析体系の概略を説明する図。
【図2】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第1実施形態のうちラグランジアン的な流動解析法における皮膜のモデル化の概略を説明する図。
【図3】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第1実施形態を適用する解析体系のモデル化の概略を説明する図。
【図4】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第1実施形態を適用する事象の概略を説明する図。
【図5】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第2実施形態を適用する事象の概略を説明する図。
【図6】本発明に係る流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法の第3実施形態を適用する事象の概略を説明する図。
【符号の説明】
【0058】
1 固体壁
2 流体
3 皮膜
5、5A、5B、5C 解析要素粒子
6 解析要素
8 酸化物粒子
9 金属成分
10 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体と接する固体壁であって、前記流体と接する前記固体壁の表面には皮膜が形成されており、
前記固体壁と前記固体壁の近傍の前記流体と前記皮膜とにラグランジアン的な流動解析法を適用して解析し、
前記固体壁の近傍以外に存在する前記流体にオイラー的な流動解析法を適用して解析し、
前記流体の運動と前記固体壁および前記皮膜の形状変化を解析して前記固体壁の減肉状態と前記皮膜の挙動を評価することを特徴とする流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項2】
前記固体壁の近傍は、前記固体壁の表面から前記流体の境界層の厚さであって、
前記固体壁と前記境界層の厚さを含む領域に存在する前記流体と前記皮膜とにラグランジアン的な流動解析法を適用して解析し、
前記流体の前記境界層の厚さを含む主流領域に存在する前記流体にオイラー的な流動解析法を適用して解析することを特徴とする請求項1に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項3】
前記固体壁と前記固体壁の近傍に存在する前記流体と前記皮膜とにラグランジアン的な流動解析法を適用して解析する際に、
解析粒子要素のサイズを前記皮膜の厚みの略1/5以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項4】
前記ラグランジアン的な流動解析法と前記オイラー的な流動解析法とは、
それぞれの解析が重なり合う領域で得られた解析の結果を境界条件として相互に授受することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項5】
前記ラグランジアン的な流動解析法は、
前記固体壁および前記皮膜の成分が前記流体中に溶解する事象および前記流体中に溶解している固体壁および皮膜の成分が析出する事象のうち少なくとも1つの事象を評価することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項6】
前記ラグランジアン的な流動解析法は、
前記皮膜が前記流体から受ける力により前記皮膜の一部が剥離する事象および前記流体に含まれる前記皮膜の成分が前記皮膜に付着する事象のうち少なくとも1つの事象を評価することを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。
【請求項7】
前記ラグランジアン的な流動解析法は、
解析体系の入口から所望の濃度で前記皮膜の成分を含む前記流体を流入させる事象を評価することを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載の流体に接する固体壁の肉厚変化シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−298529(P2008−298529A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143702(P2007−143702)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】