説明

流体供給孔付き小径回転工具

【課題】回転加工部とシャンクとの境界部分に流体供給孔の開口が設けられ、その開口から加工部位に対して流体を吐出させる場合に、その流体が外周側へ飛散することを抑制して加工部位に対する供給効率を向上させる。
【解決手段】シャンク12とドリル部(回転加工部)14との境界部分に傾斜角θが0°〜15°の範囲内の段差面20が設けられ、その段差面20に流体供給孔24が開口させられているため、その開口部24aの傾斜も傾斜角θと同じで15°以下になる。これにより、開口部24aの傾斜に起因する流体の外周側への飛散が抑制され、ドリル部14による加工部位に対する流体の供給効率が向上する。また、段差面20の内周端は凹円弧形状のコーナR22を介して滑らかにドリル部14に接続されているため、傾斜角θが15°以下と小さい場合でも、ドリル部14の基端部分に対する応力集中が緩和され、その応力集中に起因する折損等が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体供給孔付き小径回転工具に係り、特に、回転加工部とシャンクとの境界部分に流体供給孔の開口が設けられ、その開口から加工部位に対して所定の流体を吐出する流体供給孔付き小径回転工具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 工具径D1が2mm以下の回転加工部が、その回転加工部よりも大径のシャンクの先端側に工具軸心Oと同心に一体に設けられており、工具軸心Oまわりに回転駆動されることによりその回転加工部によって所定の加工を行なう一方、(b) 前記シャンクには流体供給孔が設けられて前記回転加工部との境界部分に開口させられており、その開口からその回転加工部による加工部位に対して所定の流体を吐出する流体供給孔付き小径回転工具が提案されている。特許文献1に記載の回転工具はその一例で、回転加工部は切削加工または研磨加工を行なうものであり、回転加工部の先端まで流体供給孔を形成することが困難な場合でも、シャンクの先端から加工部位に対して所定量の流体を供給することができる。また、工具径D1に制約されることなくシャンクの太さに応じて流体供給孔の径寸法や本数を設定できるため、回転加工部の先端まで細い流体供給孔を形成する場合に比較して、流体の供給量を大幅に増やすことができる。
【0003】
図6の小径ドリル100は、従来の流体供給孔付き小径回転工具の一例で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は(a) における VIB部の拡大断面図である。この小径ドリル100は、小径のドリル部(回転加工部)102と、そのドリル部102よりも大径のシャンク104とを一体に備えているが、このような一体構成の小径ドリル100は径寸法の急な変化による応力集中で折損し易くなるため、ドリル部102とシャンク104との境界部分にはテーパ形状の接続部106が設けられる。また、シャンク104のうちドリル部102よりも外周側の環状部分には、一対の流体供給孔108が工具軸心Oを挟んで対称的に且つ工具軸心Oと平行なストレート状に設けられている。これ等の流体供給孔108は、シャンク104を軸方向に貫通するように設けられ、シャンク104の後端面および上記接続部106の外周面にそれぞれ開口させられており、後端から供給された潤滑油剤(クーラント)やエアー等の流体が接続部106の開口部108aからドリル部102による加工部位に対して吐出される。これにより、エアーにより加工部位を冷却したり切りくずを除去したりすることができ、或いは潤滑油剤により加工部位を潤滑、冷却したり切りくずを流し出したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−300210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように径寸法の急な変化による応力集中を抑制するためにテーパ形状の接続部が設けられ、その接続部の外周面に流体供給孔が開口させられると、その開口から流体が吐出される際に工具軸心Oから離間する外周側へ飛散し易くなり、加工部位に対する流体の供給効率が必ずしも良くないという問題があった。前記図6を参照して具体的に説明すると、ドリル部102の径寸法が2mm以下の小径の場合、その基端に応力集中が生じて折損することを回避するため、接続部106の傾斜角θは例えば60°以上と大きくされるが、その接続部106のテーパ面に流体供給孔108が開口させられると、テーパ面の傾斜により開口部108aは外周側程図6(b) の上方へ後退する長穴形状となる。この開口部108aの後退(傾斜)により、流体供給孔108による流体の拘束が外周側程早く解除され、流体が自由に移動できるようになるため、白抜き矢印Bで示すように外周側へ向かって飛散し易くなると考えられる。特に、ドリルやエンドミル等の小径回転工具は周速を出すために高速で回転駆動される場合が多いため、流体にも大きな遠心力が作用して一層外周側へ飛散し易くなる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、回転加工部とシャンクとの境界部分に流体供給孔の開口が設けられ、その開口から加工部位に対して所定の流体を吐出させる場合に、その流体が外周側へ飛散することを抑制して加工部位に対する供給効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 工具径D1が2mm以下の回転加工部が、その回転加工部よりも大径のシャンクの先端側に工具軸心Oと同心に一体に設けられており、工具軸心Oまわりに回転駆動されることによりその回転加工部によって所定の加工を行なう一方、(b) 前記シャンクには流体供給孔が設けられて前記回転加工部との境界部分に開口させられており、その開口からその回転加工部による加工部位に対して所定の流体を吐出する流体供給孔付き小径回転工具において、(c) 前記境界部分には、前記回転加工部の基端から外周側へ向かうに従って工具軸心Oと直角な方向から前記シャンク側へ傾斜する傾斜角θが0°〜15°の範囲内の平坦面またはテーパ面から成る段差面が設けられており、前記流体供給孔はその段差面に開口させられているとともに、(d) 前記段差面の内周端は、工具軸心Oを含む断面において凹円弧形状を成すコーナRにより前記回転加工部に滑らかに接続されていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の流体供給孔付き小径回転工具において、(a) 前記段差面は、前記傾斜角θが0°の工具軸心Oと直角な平坦面、または0°<θ≦15°の範囲内のテーパ面で、(b) 前記流体供給孔は前記コーナRに掛からないようにそのコーナRよりも外周側の前記平坦面または前記テーパ面に開口させられていることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明または第2発明の流体供給孔付き小径回転工具において、前記流体供給孔は、少なくとも前記段差面に開口する近傍部分が、工具軸心Oと平行なストレート孔、または工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔であることを特徴とする。
【0010】
なお、上記流体供給孔が段差面に開口する近傍部分とは、その開口から吐出される流体の吐出方向が孔形状によって左右される範囲を意味し、ストレート孔の場合は外力(遠心力など)を無視すればストレート孔に沿って工具軸心Oと平行に流体が吐出させられ、ねじれ孔の場合には外力を無視すれば開口部分におけるねじれ孔(つる巻き線)の接線方向へ流体が吐出されるような、長さ寸法を備えていれば良い。
【0011】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの流体供給孔付き小径回転工具において、(a) 前記シャンクは円柱形状を成しているとともに、その外径であるシャンク径D2は4mm以下で、(b) 前記流体供給孔の孔径dは0.3mm〜0.5mmの範囲内であることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの流体供給孔付き小径回転工具において、(a) 前記回転加工部は切れ刃によって切削加工を行なうもので、(b) その回転加工部は前記シャンクと共に超硬合金または高速度工具鋼にて構成されていることを特徴とする。
【0013】
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかの流体供給孔付き小径回転工具において、前記流体供給孔は工具軸心Oと平行なストレート孔で、前記シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられていることを特徴とする。
【0014】
第7発明は、第1発明〜第5発明の何れかの流体供給孔付き小径回転工具において、前記流体供給孔は、工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔で、前記シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられていることを特徴とする。
【0015】
第8発明は、第7発明の流体供給孔付き小径回転工具において、(a) 前記シャンクの外径であるシャンク径D2と等しい径寸法を有するとともに、前記工具径D1よりも外周側に径寸法が一定のつる巻き線に沿って前記ねじれ孔が軸方向に貫通するように設けられた工具素材を用いて、(b) その工具素材の一端部を前記工具径D1となるまで旋削除去することにより前記回転加工部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このような流体供給孔付き小径回転工具においては、シャンクと回転加工部との境界部分に傾斜角θが0°〜15°の範囲内の段差面が設けられており、その段差面に流体供給孔が開口させられているため、その開口部の傾斜も上記傾斜角θと同じで15°以下になる。これにより、その開口部の傾斜に起因する流体の外周側への飛散が抑制され、回転加工部による加工部位に対する流体の供給効率が向上する。また、段差面の内周端は凹円弧形状のコーナRを介して滑らかに回転加工部に接続されているため、傾斜角θが15°以下と小さい場合でも、回転加工部の基端部分に対する応力集中が緩和され、その応力集中に起因する折損等が抑制される。
【0017】
第2発明は、段差面が平坦面またはテーパ面で、流体供給孔は前記コーナRに掛からないようにそのコーナRよりも外周側の平坦面またはテーパ面に開口させられているため、回転加工部の基端部分すなわちコーナRに対する応力集中に起因する折損等が好適に抑制される。
【0018】
第3発明は、少なくとも段差面に開口する近傍部分の流体供給孔の形状が、工具軸心Oと平行なストレート孔、または工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔であるため、基本的にはストレート孔の場合は工具軸心Oと平行に流体が吐出させられ、ねじれ孔の場合にはその接線方向へ流体が吐出されるようになり、回転加工部による加工部位に対して流体が適切に供給される。
【0019】
第4発明は、シャンク径D2が4mm以下で、流体供給孔の孔径dが0.3mm〜0.5mmの範囲内であるため、シャンクの剛性や強度を損なうことなく、小径の回転加工部の先端まで流体供給孔を設ける場合に比較して、その流体供給孔の断面積を大きくして流体の供給量を大幅に増やすことができる。
【0020】
第5発明は、回転加工部が切れ刃によって切削加工を行なう小径の回転切削工具に関するもので、その回転加工部はシャンクと共に超硬合金または高速度工具鋼にて構成されているため、前記傾斜角θが15°以下と小さい場合でも、回転加工部の基端部分に対する応力集中に起因する折損等が抑制され、優れた加工性能や加工品質、工具寿命が得られる。
【0021】
第6発明は、流体供給孔が工具軸心Oと平行なストレート孔で、シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられているため、構造が簡単で安価に構成される。
【0022】
第7発明は、流体供給孔がねじれ孔で、シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられているが、例えば第8発明のように予めねじれ孔が設けられた工具素材を利用することにより、簡単且つ安価に製造することができる。工具素材は、例えばシャンク径D2と等しい工具径のドリルやエンドミル用のもので、工具先端の逃げ面等に流体供給孔が開口させられるように、それ等のねじれ溝と同じリードで流体供給孔が予め設けられた汎用のものが好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例である流体供給孔付き小径ドリルを示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は(a) におけるIB部の拡大断面図、(c) は(b) の下方すなわち先端側から見た先端面図である。
【図2】図1の傾斜角θを種々変更してエアーの掛かり具合を目視により調べた結果を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例を説明する図で、図1の(a) 、(b) に相当する図である。
【図4】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図1の(a) に相当する図である。
【図5】図4の流体供給孔付き小径ドリルの製造方法を説明する図である。
【図6】従来の流体供給孔付き小径ドリルの一例を説明する図で、図1の(a) 、(b) に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明はドリルやエンドミル、タップ等の回転切削工具に好適に適用されるが、小径砥石等の回転研削工具に適用することもできる。工具径D1は2mm以下で、特に現状では工具先端まで流体供給孔を設けることが困難な1mm程度以下のものに好適に適用される。例えばメートルねじ用のタップの場合は、呼びがM1以下すなわちおねじの外径(工具径D1)が1mm以下のものに好適に適用され、ユニファイねじ用のタップの場合は、呼びがNo00以下すなわちおねじの外径(工具径D1)が0.0394インチ(≒1.00076mm)以下のものに好適に適用される。ドリルやエンドミルについては、工具径D1すなわちドリル刃の外径や外周刃の径寸法が1mm以下のものに好適に適用される。
【0025】
工具径D1は切れ刃等による加工部の外径で、必ずしも回転加工部全域で一定寸法である必要はなく、シャンク側程径寸法が小さくなるバックテーパ等が設けられても良い。シャンクについても、径寸法が連続的に変化していても良く、その場合はシャンクの先端部分の外径をシャンク径D2とする。
【0026】
回転切削工具の場合、工具の材質としては超硬合金または高速度工具鋼が好適に用いられるが、他の工具材料を採用することもできる。また、必要に応じてTiNやTiCN、TiAlN、CrN等の化合物被膜やDLC(Diamond Like Carbon ;ダイヤモンド状カーボン)膜、ダイヤモンド被膜等の硬質被膜をコーティングしたり、水蒸気処理、窒化処理等を施したりすることもできる。
【0027】
工具径D1よりも大径のシャンク径D2の寸法は適宜定められ、例えば3mm〜6mm程度の範囲内が適当で、各種の規格によれば3mm或いは1/8インチ(≒3.175mm)のものに好適に適用される。
【0028】
流体供給孔は、例えば第3発明のように段差面に開口する近傍部分がストレート孔またはねじれ孔とされ、シャンクの全長に亘ってストレート孔やねじれ孔が設けられるが、段差面の近傍部分以外は例えば工具軸心Oと同心の大径孔などであっても良い。第1発明では、工具軸心Oに対して傾斜する直線状の流体供給孔を、シャンクを軸方向に貫通するように設けることもできるなど、種々の態様が可能である。流体供給孔は1または複数設けられるが、複数の流体供給孔を設ける場合、工具軸心Oまわりにおいて等角度間隔で設けることが望ましい。
【0029】
段差面の内周端は凹円弧形状のコーナRを介して回転加工部に滑らかに接続されているが、そのコーナRの半径は、応力集中を緩和する上で0.1mm以上が望ましい。また、第2発明のように流体供給孔がコーナRに掛からないように設けられる場合は、流体供給孔をできるだけ回転加工部の近くに開口させる上で、コーナRの半径を0.3mm程度以下とすることが望ましい。
【0030】
段差面は、例えば傾斜角θが0°の工具軸心Oと直角な平坦面、または0°<θ≦15°の範囲内のテーパ面とされるが、工具軸心Oを含む断面において全体として緩やかな凹円弧形状に湾曲した凹湾曲面とすることも可能で、その場合は少なくとも流体供給孔の開口部分の傾斜角、すなわち工具軸心O側に位置する内側の開口端と反対の外側の開口端とを結ぶ直線と、工具軸心Oと直角な直線との間の傾斜角θが、0°〜15°の範囲内になるようにすれば良い。
【0031】
流体供給孔の孔径dは、シャンクの剛性や強度を損なうことなく十分な量の流体を供給する上で0.3mm〜0.5mm程度の範囲内が望ましいが、その範囲外の寸法とすることも可能で、工具径D1とシャンク径D2との寸法差等を考慮して適宜定められる。
【0032】
流体供給孔は、例えばシャンクを軸方向に貫通するように設けられ、シャンクの後端から流体供給孔内に流体が供給されるように構成されるが、シャンクの途中に外周面に開口する径方向の連通孔を設け、その連通孔から流体が供給されるようにすることも可能である。
【0033】
第8発明の工具素材は、例えばシャンク径D2と等しい工具径のドリルやエンドミル用のもので、工具先端の逃げ面等に流体供給孔が開口させられるように、所定のリードで流体供給孔が予め設けられた汎用品(市販品)が好適に用いられるが、このようなねじれ孔を有する工具素材は例えば押出プレス成形によって製造される。そして、その工具素材の一端部を工具径D1となるまで切削加工や研削加工によって旋削除去し、その外周面に切りくず排出用の溝や切れ刃等を設けることにより回転加工部を形成することができる。
【実施例1】
【0034】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である流体供給孔付き小径ドリル10(以下、単に小径ドリル10という)を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は(a) におけるIB部の拡大断面図、(c) は(b) の下方すなわち先端側から見た先端面図である。この小径ドリル10は、径寸法(シャンク径)D2が一定の円柱形状のシャンク12と、そのシャンク12の先端側に工具軸心Oと同心に設けられたドリル部14とを有し、超硬合金または高速度工具鋼にて一体に構成されているとともに、ドリル部14には必要に応じてTiAlN等の硬質被膜がコーティングされる。ドリル部14は回転加工部に相当し、所定のリードでねじれた一対のねじれ溝16が形成されているとともに、そのねじれ溝16が軸方向の先端に開口する部分に一対の切れ刃18が設けられており、シャンク12側から見て工具軸心Oの右まわりに回転駆動されることにより穴明け加工が行なわれる。この切れ刃18の外径である工具径D1は2mm以下で、本実施例では約1.0mmであり、ドリル部14は全長に亘って径寸法が略一定のストレート形状を成している。一対のねじれ溝16および切れ刃18は、それぞれ工具軸心Oに対して対称的に設けられている。
【0035】
シャンク12の外径であるシャンク径D2は約3.0mmで、ドリル部14との境界部分には、ドリル部12の基端から外周側へ向かうに従って工具軸心Oと直角な方向からシャンク12側(図1(b) における上方側)へ傾斜する傾斜角θが0°〜15°の範囲内の段差面20が設けられている。この段差面20は、本実施例では傾斜角θが0°の工具軸心Oと直角な平坦面、または0°<θ≦15°の範囲内のテーパ面で、図1は傾斜角θ≒10°のテーパ面の場合であり、テーパ角度が(180°−2θ)のテーパ面となる。また、その段差面20の内周端は、図1(b) に示す工具軸心Oを含む断面形状において、凹円弧形状を成すコーナR22を介してドリル部14に滑らかに接続されている。このコーナR22の半径は、0.1mm〜0.3mmの範囲内で、本実施例では約0.2mmである。
【0036】
上記シャンク12には、コーナR22に掛からないようにコーナR22よりも外周側部分に、一対の流体供給孔24が設けられている。この流体供給孔24の孔径dは0.3mm〜0.5mmの範囲内で、例えば0.4mm程度とされる。また、一対の流体供給孔24は、何れも工具軸心Oと平行なストレート孔で、工具軸心Oを挟んで対称的な2位置に、シャンク12を軸方向に貫通するように設けられており、シャンク12の後端面および前記段差面20に開口させられている。そして、シャンク12の後端から流体供給孔24内に供給されたエアーや潤滑油剤(クーラント)等の流体は、段差面20の開口部24aから吐出させられ、ドリル部14による加工部位(穴明け加工部)へ供給されて、加工部位を冷却したり切りくずを除去したりする。
【0037】
ここで、本実施例では段差面20の傾斜角θが0°〜15°の範囲内で、その段差面20に流体供給孔24が開口させられているため、その開口部24aの傾斜も上記傾斜角θと同じで15°以下になる。これにより、前記図6(b) に白抜き矢印Bで示すような外周側への飛散が抑制され、回転による遠心力を無視すれば図1(b) に白抜き矢印Aで示すように工具軸心Oと略平行な方向へ吐出されるようになり、ドリル部14による加工部位すなわち穴明け加工部に対する流体の供給効率が向上する。
【0038】
図2は、傾斜角θ=80°、60°、20°、10°、および0°の5種類の小径ドリル10を用意し、流体供給孔24にエアーを供給して開口部24aから吐出させ、穴明け加工部に対するエアーの掛かり具合を目視により調べた結果である。図2において、「×」はエアーブロー作用が得られず、「△」はエアーが穴明け加工部に掛かっているものの十分でない場合、「○」は十分なエアーブロー作用が得られた場合である。この結果から、傾斜角θが15°以下であれば十分なエアーブロー作用が得られるものと判断できる。
【0039】
このように、段差面20の傾斜角θが0°〜15°の範囲内の本実施例の小径ドリル10によれば、その段差面20に開口する流体供給孔24の開口部24aの傾斜も傾斜角θと同じで15°以下になるため、その開口部24aの傾斜に起因する流体の外周側への飛散が抑制され、ドリル部14による加工部位に対する流体の供給効率が向上する。
【0040】
また、段差面20の内周端は凹円弧形状のコーナR22を介して滑らかにドリル部14に接続されているため、傾斜角θが15°以下と小さい場合でも、ドリル部14の基端部分すなわちコーナR22が設けられた部分に対する応力集中が緩和され、その応力集中に起因する折損等が抑制される。
【0041】
また、段差面20が平坦面またはテーパ面で、流体供給孔24はコーナR22に掛からないようにそのコーナR22よりも外周側の平坦面またはテーパ面に開口させられているため、ドリル部14の基端部分すなわちコーナR22に対する応力集中に起因する折損等が一層好適に抑制される。
【0042】
また、本実施例では流体供給孔24が工具軸心Oと平行なストレート孔で、シャンク12を軸方向に貫通するように一対設けられているため、構造が簡単で安価に構成されるとともに、遠心力を無視すれば基本的に工具軸心Oと平行に流体が吐出されるため、ドリル部14による加工部位に対して流体が適切に供給される。
【0043】
また、本実施例ではシャンク径D2が3.0mmで、流体供給孔24の孔径dが0.3mm〜0.5mmの範囲内であるため、シャンク12の剛性や強度を損なうことなく、小径のドリル部14の先端まで流体供給孔を設ける場合に比較して、流体供給孔24の断面積を大きくして流体の供給量を大幅に増やすことができる。
【0044】
また、本実施例は切れ刃18によって穴明け加工を行なう小径ドリル10に関するもので、そのドリル部14はシャンク12と共に超硬合金または高速度工具鋼にて構成されているため、傾斜角θが15°以下と小さい場合でも、ドリル部14の基端部分に対する応力集中に起因する折損等が抑制され、優れた加工性能や加工品質、工具寿命が得られる。
【実施例2】
【0045】
以下、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には、同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0046】
図3の流体供給孔付き小径ドリル30は、前記小径ドリル10に比較して、シャンク12の後端から有底の大径孔32が工具軸心Oと同心に設けられ、その大径孔32の底部に前記一対の流体供給孔24が開口させられている場合である。大径孔32は、一対の流体供給孔24の外側端と略同じ径寸法で設けられている。この場合も、段差面20や開口部24a等は前記実施例と同じであるため、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【実施例3】
【0047】
図4の流体供給孔付き小径ドリル40は超硬合金製で、大径のシャンク12には、工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って一対のねじれ孔42が設けられており、そのねじれ孔42が流体供給孔として用いられる場合である。一対のねじれ孔42は、前記ドリル部14よりも外周側の環状部分に、工具軸心Oに対して対称的すなわち工具軸心Oを中心として180°位相をずらして設けられているとともに、シャンク12を軸方向に貫通するように設けられ、シャンク12の後端面および前記段差面20に開口させられており、その段差面20の開口部からエアー等の流体を吐出する。このような小径ドリル40は、図5に示すように予めねじれ孔42が設けられた工具素材50を利用することにより、簡単且つ安価に製造することができる。工具素材50は、シャンク径D2と等しい工具径のドリルやエンドミル用のもので、工具先端の逃げ面等に流体供給孔が開口させられるように、それ等のねじれ溝と同じリードで一対のねじれ孔42が予め設けられた汎用品(市販品)で、このようなねじれ孔42を有する工具素材50は例えば押出プレス成形等によって製造される。そして、図5の(b) に示すように、その工具素材50の一端部を工具径D1となるまで切削加工や研削加工によって旋削除去することにより、工具径D1と等しい径寸法の小径部52を形成するとともに、その小径部52の基端部分(段差部分)に傾斜角θの段差面20や前記コーナR22等を形成する。また、(c) に示すように小径部52の外周面に前記ねじれ溝16や切れ刃18を設けてドリル部14を形成することにより、目的とする小径ドリル40が製造される。なお、ねじれ孔42とねじれ溝16とは無関係で、それ等のリード等は互いに独立に適宜設定される。
【0048】
本実施例では、工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔42が流体供給孔として用いられるため、段差面20におけるねじれ孔42の接線方向へ流体が吐出されるが、段差面20やコーナR22は前記実施例と同じであるため、基本的には前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0049】
なお、上記各実施例は何れも回転加工部としてドリル部14を備えている小径ドリルに本発明が適用された場合であったが、ドリル部14の代りにエンドミルやタップ等の他の回転加工部を有する小径回転工具にも本発明は同様に適用され得る。
【0050】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0051】
10、30、40:流体供給孔付き小径ドリル(流体供給孔付き小径回転工具) 12:シャンク 14:ドリル部(回転加工部) 20:段差面 22:コーナR 24:流体供給孔 24a:開口部 42:ねじれ孔(流体供給孔) 50:工具素材 O:工具軸心 D1:工具径 D2:シャンク径 d:孔径 θ:傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具径D1が2mm以下の回転加工部が、該回転加工部よりも大径のシャンクの先端側に工具軸心Oと同心に一体に設けられており、工具軸心Oまわりに回転駆動されることにより該回転加工部によって所定の加工を行なう一方、
前記シャンクには流体供給孔が設けられて前記回転加工部との境界部分に開口させられており、該開口から該回転加工部による加工部位に対して所定の流体を吐出する流体供給孔付き小径回転工具において、
前記境界部分には、前記回転加工部の基端から外周側へ向かうに従って工具軸心Oと直角な方向から前記シャンク側へ傾斜する傾斜角θが0°〜15°の範囲内の段差面が設けられており、前記流体供給孔は該段差面に開口させられているとともに、
前記段差面の内周端は、工具軸心Oを含む断面において凹円弧形状を成すコーナRにより前記回転加工部に滑らかに接続されている
ことを特徴とする流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項2】
前記段差面は、前記傾斜角θが0°の工具軸心Oと直角な平坦面、または0°<θ≦15°の範囲内のテーパ面で、
前記流体供給孔は前記コーナRに掛からないように該コーナRよりも外周側の前記平坦面または前記テーパ面に開口させられている
ことを特徴とする請求項1に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項3】
前記流体供給孔は、少なくとも前記段差面に開口する近傍部分が、工具軸心Oと平行なストレート孔、または工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項4】
前記シャンクは円柱形状を成しているとともに、その外径であるシャンク径D2は4mm以下で、
前記流体供給孔の孔径dは0.3mm〜0.5mmの範囲内である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項5】
前記回転加工部は切れ刃によって切削加工を行なうもので、
該回転加工部は前記シャンクと共に超硬合金または高速度工具鋼にて構成されている
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項6】
前記流体供給孔は工具軸心Oと平行なストレート孔で、前記シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられている
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項7】
前記流体供給孔は、工具軸心Oを中心とする一定の径寸法のつる巻き線に沿って形成されたねじれ孔で、前記シャンクを軸方向に貫通するように1または複数設けられている
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の流体供給孔付き小径回転工具。
【請求項8】
前記シャンクの外径であるシャンク径D2と等しい径寸法を有するとともに、前記工具径D1よりも外周側に径寸法が一定のつる巻き線に沿って前記ねじれ孔が軸方向に貫通するように設けられた工具素材を用いて、
該工具素材の一端部を前記工具径D1となるまで旋削除去することにより前記回転加工部が設けられている
ことを特徴とする請求項7に記載の流体供給孔付き小径回転工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−264533(P2010−264533A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117069(P2009−117069)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】