説明

流体採集装置

【課題】所定の圧力がかけられた状態で供給される流体をその状態のまま所定の時間ごとに採集することができる流体採集装置を提供する。
【解決手段】供給源から流体を導く導水管40と、導水管40で導かれた流体を貯留する複数の耐圧容器35と、導水管40と各耐圧容器35との間に設けられて所定の時間が経過するごとに、導水管40と所定の耐圧容器35とを接続して導水管40内を流れる流体を所定の耐圧容器35内に流すように制御する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の圧力がかけられた状態で供給される気体又は液体等の流体を加圧状態のまま所定の時間ごとに採集することができる流体採集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや地下空洞などの周囲の地盤に関する情報を得る方法として、例えば空洞内の外側に地中空間を形成し、その地中空間から湧き出る地下水に含まれる成分を分析して地盤の状況を推定する地盤分析方法がある。そして、この方法に使用される地下水は、例えば作業員が実際にトンネル内部に入り、地中空間から湧き出る地下水を密閉可能な容器に入れることにより採集されてきた。
【0003】
一方、ボーリングで掘削した地中空間内を利用して所定の深度の地下水などをサンプラーで採取する試料採取装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−325615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した地盤分析方法や試料採取装置を用いて地盤に関する正確な情報を取得するためには、採取した地下水が実際にトンネルなどの岩盤中に存在している状態と同様の状態となっている必要がある。そして、実際に岩盤中に存在している地下水には深度に応じた高い圧力がかかっており、さまざまな成分が地下水に溶解している。溶解している成分の中には、大気圧ではガス状態となり地下水と分離してしまうものもある。
【0006】
したがって、上述したように、作業員が通常の密閉容器に地中空間から湧き出る地下水を入れる際に、地下水に含まれていた成分がガス状態となって地下水と分離してしまい、岩盤中に存在していた地下水とは異なってしまうという問題(問題1)があった。また、従来の方法では、地下水を採取するたびに作業員がトンネルなどに入る必要があるため、作業が煩雑になるという問題(問題2)と、長時間かかる地下水の採取をすることができないという問題(問題3)があった。なお、上述した試料採取装置を用いても問題1を解決することはできない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、所定の圧力がかけられた状態で供給される流体をその状態のまま所定の時間ごとに採集することができる流体採集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の流体採集装置は、供給源から所定の圧力がかけられた状態で流体を導く導管と、前記導管に接続されて前記流体を貯留する複数の耐圧容器と、所定の時間が経過するごとに前記導管内を流れる流体を所定の耐圧容器内に流すように制御して所定の圧力がかけられた状態で供給源から供給される一定量の流体をその状態のまま前記耐圧容器内に流入させる制御部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、所定の圧力下の地下水をそのままの状態で採集することができるので、所定の圧力がかけられた状態で供給される流体を所定の時間ごとに採集することができる。
【0010】
また、請求項2に係る本発明の流体採取装置は、請求項1に記載の流体採取装置において、前記複数の耐圧容器と前記供給源とをそれぞれ接続して前記耐圧容器の内部の流体を前記供給源に一定量戻す還流手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明では、供給源から供給された流体を供給源に戻すことになるので、供給源の状態を変化させずに、所定の圧力がかけられた状態で供給される流体をその状態のまま採集することができる。
【0012】
また、請求項3に係る本発明の流体採取装置は、請求項2に記載の流体採取装置において、前記還流手段は、前記耐圧容器と前記供給源とを接続する戻り導管と、前記耐圧容器内の流体を前記戻り導管を通して前記供給源に送り出すポンプとからなることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明では、戻り導管とポンプとを用いて還流手段を構成することにより、流体採集装置から供給源に対して容易に流体を還流させることができる。この結果、流体を還流させることができる好適な流体採集装置を作製することができる。
【0014】
また、請求項4に係る本発明の流体採取装置は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の流体採取装置において、前記導管は、供給源からの流体を導く導入管と、前記導入管に接続される球状の分岐部と、前記分岐部と前記複数の耐圧容器をそれぞれ接続する接続管とからなり、前記接続管ごとに設けられ前記制御部により制御される制御バルブを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る本発明では、球状の分岐部と接続管と電磁バルブを用い、導入管と複数の耐圧容器とを接続することにより、複数の耐圧容器の内部に容易に流体を分配・供給することができる。この結果、流体を分配・供給することができる好適な流体採集装置を作製することができる。
【0016】
また、請求項5に係る本発明の流体採取装置は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の流体採取装置において、ラドンを検出する固体放射線センサが前記耐圧容器の内部に設置され、前記流体が、地中空間内に形成された密閉空間内の地下水であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る本発明では、密閉空間内の地下水に含まれるラドンの濃度を正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の流体採集装置は、所定の圧力がかけられた状態で供給される流体をその状態のまま所定の時間ごとに採集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態例に係る流体採集装置の全体を表す概略図である。
【図2】取水装置の詳細状況説明図である。
【図3】亀裂が発生した状態の概略図である。
【図4】ラドンのトラック数の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0021】
地中に設けられた空洞の外側に地中空間(掘削穴)を形成すると共にその地中空間内に密閉空間を形成し、その密閉空間内に湧き出す地下水に含まれるラドンの濃度変化に基づいて、その密閉空間に連通した地中亀裂の大きさを測定することが行われている。本実施形態例の流体採集装置は、地中の亀裂を測定する装置の一部を構成するものである。尚、密閉空間内に湧き出る地下水の流量は一定であり、その地下水にかかる圧力も一定である。
【0022】
図1には本発明の一実施形態例に係る流体採集装置の全体を表す概略、図2には取水装置の詳細状況、図3には亀裂が発生した状態の概略、図4にはラドンのトラック数の経時変化を示してある。
【0023】
図1に示すように、流体採取装置1は、地中100に設けられた空洞200の外側に形成された地中空間110に配される2つのパッカー10と、ラドン検出手段である固体放射線センサ(例えばフィルムバッチなど)20と、取水装置30と、導水管40とで構成されている。
【0024】
具体的には、パッカー10が所定の間隔を隔てて地中空間110内に2つ設置されており、地中空間110内に密閉空間120を形成している。密閉空間120内には、導管としての導水管40の一端が配置されおり、密閉空間120と導水管40とが連通している。導水管40は空洞200側に配置されたパッカー10の内部と地中空間110の入り口部に設けられたフランジ111を貫通して、空洞200内に配置された取水装置30に接続されており、供給源である密閉空間120内に湧き出した地下水を取水装置30に導くことができる。
【0025】
取水装置30は、図2に示すように、導水管40に接続された球状の分岐部31と、4つの耐圧容器35と、分岐部31と各耐圧容器35とを接続する4つの接続管32とを有している。球状の分岐部31を用いることで、高い圧力がかけられた流体に対しても適用することができる。つまり、導管は、導水管40及び分岐部31及び接続管32で構成されている。
【0026】
接続管32には制御バルブとしての電磁バルブ33がそれぞれ設けられており、この電磁バルブ33を制御することによって、導水管40内を流れる地下水を所定の耐圧容器35に導くことができるようになっている。具体的には、所定の時間が経過するごとに、電磁バルブ33にそれぞれ接続された制御部(図示省略)により制御されて複数の電磁バルブ33が順に開放されるようになっている。分岐部31の上部及び接続管32には排出弁34がそれぞれ設けられており、排出弁34が開放されることにより分岐部31及び耐圧容器35の内部に溜まったガス成分が排出される。
【0027】
耐圧容器35の内部には複数の固体放射線センサ20がそれぞれ配置されており、耐圧容器35内に流れ込んだ地下水に含まれるラドンの放射線のトラック数Nを検出することができる。従って、取水装置30を用いることにより、所定の経過時間ごとの密閉空間120の地下水に含まれるラドンの放射線のトラック数N(量)を検出することができる。
【0028】
また、耐圧容器35の下方には排出管36がそれぞれ接続され、排出管36には電磁バルブ37がそれぞれ設けられている。電磁バルブ37は、接続管32に設けられた電磁バルブ33と連動し、所定の耐圧容器35に地下水が流れ込む際に同時に耐圧容器35の内部に貯蔵されていた水を排水することができる。即ち、耐圧容器35に地下水が流れ込むと同時に流れ込んだ量と同量の水が排出される。その結果、耐圧容器35の内部には常に一定量の地下水が存在することになり、耐圧容器35の内部は密閉空間120の地下水にかかる圧力と同じ圧力に保たれることになる。
【0029】
これにより、地下水にかかる圧力が低下して地下水に溶解していたラドンが気体として放出されるのを防止することができる。この結果、固体放射線センサ20を用いて、地下水に溶解しているラドンの量(放射線のトラック数N)を正確に測定することができる。尚、この取水装置30を稼動させる前には、耐圧容器35の内部の圧力が密閉空間120の内部の地下水の圧力と等しくなるように、耐圧容器35の内部には所定の量の水が予め貯留されている。
【0030】
排出管36は戻り導管41に接続され、戻り導管41はフランジ111を貫通して密閉空間120に連通している。このため、密閉空間120の地下水は取水装置30内を循環することになる。尚、図2では取水装置30の構造を明確にするために、3つの排出管36に接続される戻り導管を省略してある。
【0031】
密閉空間120の地下水を循環させるためのポンプ42が戻り導管41に設置され、ポンプ42により地下水を循環させるようにしている。これにより、密閉空間120の状態を変化させずに、所定の圧力がかけられた状態で供給される地下水をその状態のまま採集することができる。そして、所定の時間が経過するごとに、地下水が流れる耐圧容器35を順次変更することにより、所定の時間ごとの地下水を採集することができる。従って、従来は作業員が地下水を採集する際に行っていた煩雑な作業を省略することができると共に、耐圧容器35の内部の地下水を分析することによって密閉空間120の地下水の経時変化を容易に観察することができる。
【0032】
このように、流体採取装置1を構成することにより、空洞200の周囲の岩盤などの緩みなどにより発生した亀裂のうち、図3に示すような密閉空間120と連通した亀裂150の状態を検証することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る流体採取装置1を用いて、空洞200の周囲の岩盤などの緩みなどにより発生した亀裂のうち、密閉空間120と連通した亀裂150の大きさの測定について説明する。図4は、密閉空間120と連通した亀裂150が発生した場合の固体放射線センサ20によって検出されたラドンのトラック数Nを示すグラフである。フィルムバッチなどのような固体放射線センサ20では、一定時間内でラドンから放射された放射線のトラック数Nが検出される。その結果、たとえ密閉空間120内の地下水中のラドンの濃度が一定であっても経過時間と共に固体放射線センサ20によって検出されるトラック数Nは一定の割合で増加することになる。
【0034】
尚、本実施形態例では、上述した取水装置30を用いており、所定の経過時間ごとの密閉空間120の地下水に含まれるラドンのトラック数Nを検出することができるので、一回の測定でこのグラフを得ることができる。
【0035】
従って、亀裂150が発生する前であっても、密閉空間120の地下水にはラドンが含まれているので、図3に示すように、トラック数Nは一定の増加割合で(密閉空間を形成する岩盤の表面積に応じて)増加するように検出される(バックグラウンド)。そして、密閉空間120に亀裂150が発生すると、岩盤の表面からラドンを含む地下水が亀裂150及び地中空間110に流れ込むことになる。そして、地下水が導管(導水管40、分岐部31及び接続管32)を通って耐圧容器35内に流れ込む。その結果、経過時間に対するトラック数Nの増加割合(傾き)は亀裂150が発生する前のトラック数Nの増加割合よりも大きくなる。
【0036】
従って、亀裂150が発生する前のトラック数Nの増加割合と、亀裂150が発生した後のトラック数Nの増加割合とから、亀裂が発生した後に増加したラドンの濃度を求め、増加したラドンの濃度に基づいて亀裂150の状況を導き出すことができる。
【0037】
尚、亀裂150の状況を導き出す際に必要となるラドンフラックスは実際に測定してもよいし、様々な組成の岩盤に対するラドンフラックスをデータベースに予め格納しておき、データベースに格納されているラドンフラックスの中で、亀裂150が形成される岩盤の組成と最も類似する組成の岩盤のラドンフラックスを代用してもよい。
【0038】
以上説明したように、流体採取装置1では、所定の圧力がかけられた状態で一定量供給される地下水をその状態のまま所定の時間ごとに採集することができる。この結果、地中亀裂の状態と密接に関連するラドンを利用して、密閉空間に連通するように地中に発生した亀裂の状況を正確に導き出すことができる。
【0039】
尚、密閉空間120でラドンが気体状態で存在する場合には、地下水に代えて気体状態のラドンを流体採取装置1により採集してもよい。また、上記実施形態例では、分岐部31と接続管32と電磁バルブ33とを介して、導水管40と耐圧容器35とをそれぞれ接続したが、流体にかかる圧力を変化させることなく所定の時間が経過するごとに、導水管40と所定の耐圧容器35とを接続して、導水管40の内部を流れる流体を所定の耐圧容器35の内部に流すように制御できるものであれば、導管の構成は特に限定されない。また、上述した実施形態例では、空洞200の外周面に穿設された地中空間110の密閉空間120に湧き出る地下水を採集するようにしたが、本発明に係る流体採集装置は、所定の流量・圧力で供給される流体の採取であれば他の流体の採取にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、所定の圧力がかけられた状態で供給される気体又は液体等の流体を加圧状態のまま所定の時間ごとに採集することができる流体採集装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 流体採取装置
10 パッカー
20 固体放射線センサ
30 取水装置
31 分岐部
32 接続管
33、37 電磁バルブ
34 排出弁
35 耐圧容器
36 排出管
40 導水管
41 戻り導管
42 ポンプ
100 地中
110 地中空間
111 フランジ
120 密閉空間
150 亀裂
200 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給源から所定の圧力がかけられた状態で流体を導く導管と、
前記導管に接続されて前記流体を貯留する複数の耐圧容器と、
所定の時間が経過するごとに前記導管内を流れる流体を所定の耐圧容器内に流すように制御して所定の圧力がかけられた状態で供給源から供給される一定量の流体をその状態のまま前記耐圧容器内に流入させる制御部とを備えた
ことを特徴とする流体採集装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体採取装置において、
前記複数の耐圧容器と前記供給源とをそれぞれ接続して前記耐圧容器の内部の流体を前記供給源に一定量戻す還流手段を備えた
ことを特徴とする流体採取装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体採取装置において、
前記還流手段は、
前記耐圧容器と前記供給源とを接続する戻り導管と、
前記耐圧容器内の流体を前記戻り導管を通して前記供給源に送り出すポンプとからなる
ことを特徴とする流体採取装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の流体採取装置において、
前記導管は、供給源からの流体を導く導入管と、前記導入管に接続される球状の分岐部と、前記分岐部と前記複数の耐圧容器をそれぞれ接続する接続管とからなり、
前記接続管ごとに設けられ前記制御部により制御される制御バルブを備えた
ことを特徴とする流体採集装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の流体採取装置において、
ラドンを検出する固体放射線センサが前記耐圧容器の内部に設置され、
前記流体が、地中空間内に形成された密閉空間内の地下水である
ことを特徴とする流体採集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−266375(P2010−266375A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119140(P2009−119140)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地層処分技術調査等委託費(地層処分共通技術調査:岩盤中地下水移行評価技術高度化開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】