説明

流体移送装置

本発明は移送対象である流体を垂直または水平に移送する装置に係り、より詳しくは前記流体に対して互いに異なる接触角を持つように前記流体の移送方向に交互に繰り返したパターンに形成された複数の区域を有する表面が形成され、前記接触角の差によって発生する力によって前記流体が移送される。本発明による流体移送装置、詳しくは流体移送のための微細流体管は、外部装置、風力などによる物理的振動、静電気あるいは電場によって発生する電磁場による力、物理的力、熱エネルギーによる振動などを含む外部エネルギー消費を最小にし、ポンプを用いなくて流体を垂直または水平方向に移送させる利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移送対象である流体を垂直または水平に移送する装置に係り、エネルギーの消費を最小化し、その移送方向を制御することができる新構造の流体移送装置を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
水及び多様な液体を移送し、これを制御することができる技術及び装置に対する要求は非常に多様な形態として提起される。特に、現在のような高油価及び環境問題によるエネルギー/環境問題が非常に重要な時点でこのような危機状況を賢く対処するためには、多様な分野に応用可能で低エネルギー消費及び環境に優しい液体移送技術の開発が必ず必要である。
【0003】
液体の移送及び輸送に係わる固体表面改質に関する研究は去る半世紀の間非常に活発に行われている。特に、装置の表面に多様な物理化学的な性質を改質することで水流に関与する物理的な特性に一定の傾きを持たせる方法が開発されてきた。
【0004】
一例として、表面改質に関する技術は主に今までよく知られた方法であるグラフティング−フロム重合法(grafting-from polymerization)あるいはプラズマ(plasma)またはコロナ放電の程度を制御することで表面性質を改質しようとする研究開発が試みられている。このために多様なボトムアップ(bottom-up)及びトップダウン(top-down)型のリソグラフィック(lithographic)及び非リソグラフィック(nonlithographic)方法がすでに開発されているが、これは主に一定距離でだけ応用可能であるという限界点に達している(J.Genzeretal,“Surface-Bound Soft Matter Gradients",Langmuir,24,2294-2317,2008)。
【0005】
前述したような表面改質による水流制御とは原理的にまったく違うが、2006年度ヒーティングプレート(heating plate)上での水滴移動に関する物理的な解釈による水移動制御に関する研究報告があったが(H.Linkeetal,“Self-Propeeled Leidenfrost Droplets"、Phys.Rev.Lett.,96,154502-1-154502-4,(2006))、これはエネルギー消耗的形態である。
【0006】
一方、植物体の木質部での水の輸送に関する既存の技術開発は主に環境関連重金属の除去などの応用的な側面で研究が主に行われている。
【0007】
このような研究は主に分子生物学的な側面での植物体形質転換によって効率を増大し効果を最適化する方向に進んでいる。
【0008】
導管の水移送に関する開発分野は現在主に巨視的な側面で根の周りにある土壌及び水分のイオン種類及びイオン濃度などを含む成分周囲環境変化による水輸送速度論的な側面での研究が主に行われている。木質部の成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの生合成に関する遺伝子の発掘と突然変異による構造的変化に対する機能遺伝体学的研究がモデル植物である1年生雑草シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を対象として活発に進んでいるが、水の輸送にどんな影響を及ぼすかに対する研究と単子葉植物や木本植物に対する研究はほとんど進んでいない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は移送対象である流体を垂直または水平に移送する装置を提供することである。
【0010】
より詳細に、最小のエネルギーを消費して流体を移送することができる環境に優しい流体移送装置を提供することであり、外部との熱交換を非常に効率よくなすことができ、外部の物理的な衝撃や曲げ作用のような機械的な影響による流体の移送能力及び装置の損傷を最小化することができる流体移送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による流体移送装置は、移送対象である流体に対して互いに異なる接触角(contact angle)を持つように前記流体の移送方向に交互に繰り返した(recursively alternating)パターンに形成された複数の区域を有する表面を備えており、前記接触角の差によって発生する力(hydrodynamic force)によって前記流体が移送される特徴がある。
【0012】
前記互いに異なる接触角を持つ表面の前記流体スライド角(sliding angle)は0°〜5°であることが好ましく、実質的には0.1°〜5°であることが好ましい。
【0013】
前記互いに異なる接触角を持つ表面の接触角の差は3°〜180°であることが好ましい。
【0014】
前記表面は、前記流体に対する接触角が連続的に増加する鋸歯形を有する繰り返しパターンに形成されていてよい。
【0015】
前記表面は管の内面であり、両端が連結された複数の閉環帯または複数の螺旋区域が交互に繰り返し形成されており、前記複数の閉環帯または前記複数の螺旋区域が互いに異なる接触角を持っていてよい。
【0016】
この際、前記互いに異なる接触角を持つ前記閉環帯または前記螺旋区域の間に段差が形成されていてよく、前記互いに異なる接触角を持つ区域のうち大きい接触角を持つ表面が曲率を持ち突出している特徴がある。
【0017】
前記管の直径は100〜2000μmであることが好ましく、前記閉環帯または前記螺旋区域の幅は前記管の直径の0.0001倍〜5倍であることが好ましい。
【0018】
この際、前記接触角が大きい前記区域ほど幅が狭いことが好ましい。
【0019】
前記螺旋区域の幅方向の中心線が、前記管の長手方向に対して20°〜70°の角度を持つことが好ましい。
【0020】
前記段差は前記管の直径の0.0001倍〜0.01倍であることが好ましい。
【0021】
本発明による流体移送装置の移送対象流体は水である特徴がある。この際、前記流体に対して互いに異なる接触角を持つ表面は撥水性(hydrophobicity)表面及び超撥水性(superhydrophobicity)表面である特徴がある。
【0022】
前記撥水性表面及び超撥水性表面はそれぞれ高分子表面である特徴があり、前記超撥水性表面は撥水性表面に超高速レーザービームを照射処理して形成された特徴がある。
【0023】
この際、前記撥水性表面はポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane)、PDMS)表面である特徴がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明による流体移送装置は、自然界に存在する風または人為的な振動のような最小のエネルギーを用いて流体を垂直または水平方向に移送することができ、流体が移送される方向の制御が可能である利点がある。
【0025】
また、密閉型流体移送装置の場合、非常に微細な管状を持ち外部装置との熱的エネルギー交換を非常に効率よく遂行し、外部の物理的な衝撃や曲げ作用のような機械的な影響による損傷を最小化することができ、ほぼすべての高分子及び金属あるいは非金属などの多様な物質を用いて製造することができ、高層建築物用流体輸送システムだけでなく、冷却用モーターが不要な超節電無騒音クーラー、流体ポンプが不要なバイオチップ、マイクロフルーイディクスチップなどの多様な分野に活用可能な利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による開放型または密閉型流体移送装置において移送対象である流体と触れ合う表面(のみ)を示す一例である。
【図2】互いに異なる接触角を持つ液滴の断面を示す概念図である。
【図3】ユリ茎の導管構造を精密に観察した走査電子顕微鏡(scanning electron microscope)写真である。
【図4】本発明による開放型流体移送装置の一断面図である。
【図5】本発明による開放型流体移送装置の一斜視図である。
【図6】本発明による密閉型流体移送装置の一例である。
【図7】本発明による密閉型流体移送装置の他の例である。
【図8】本発明による密閉型流体移送装置のさらに他の例である。
【図9】本発明による密閉型流体移送装置のさらに他の例である。
【図10】本発明による密閉型流体移送装置のさらに他の例である。
【図11】本発明の流体移送装置の一活用例である。
【図12】本発明によって実際に製作した開放型流体移送装置のモールド及びPDMS基板の光学写真である。
【図13】超高速レーザーのフルエンスを制御することで改質表面の接触角とスライド角の変化を示すグラフである。
【図14】本発明によって実際に製作した開放型流体移送装置において水液滴の流れを観察した動画画面をそれぞれの時間帯別に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に基づいて本発明の流体移送装置を詳細に説明する。以下に提示する図は当業者に本発明の思想を十分に伝達するための例として提供するものである。したがって、本発明は以下に提示する図面に限らなくて他の形態に具体化することもできる。また、明細書全般にわたって同一参照番号は同一構成要素を示し、提示された図面は構造の明瞭な理解のために一部が誇張して示されることができる。
【0028】
この際、使われる技術用語及び科学用語において他の定義がなければ、この発明が属する技術分野で通常の知識を持った者が通常に理解している意味を有し、下記の説明及び添付図面において本発明の要旨を不必要にあいまいにすることができる公知の機能及び構成についての説明は省略する。
【0029】
本発明による流体移送装置は少なくとも2端部及び少なくとも1側面が密閉しなかった開放型あるいは2端部だけが開放した密閉型流体移送装置であり、前記開放型流体移送装置は巨視的に偏平なプレート、巨視的に曲率を有するプレート及び少なくとも一側が開放した多角形、楕円形及び円形の管を含み、2端部だけが開放した密閉型流体移送装置は多角形管、楕円形管、及び円形管を含む。この際、前記密閉型流体移送装置は微細流体管である特徴がある。
【0030】
本発明による流体移送装置は前述した密閉型または開放型流体移送装置であり、流体と触れ合った表面を特定し、最小エネルギーを受けて流体を移送させる。
【0031】
図1は本発明による開放型または密閉型流体移送装置において移送対象である流体と触れ合う表面(のみ)を示す一例で、前記表面は前記流体と異なる接触角を持つ面210、220が前記流体の移送方向(人為的な流体の流れ方向である流路)に交互に繰り返して形成されている特徴があり、前記流体は前記接触角の差によって発生する力(hydrodynamic force)によって移送される特徴がある。
【0032】
より詳細に、図2に示すように、移送対象流体100に対して高接触角を持つ表面210と相対的に低接触角を持つ表面220が連続的に交互に繰り返す特徴を持つことにより、移送対象流体、詳しくは多数の液滴の形態で不連続的に移送される移送対象液滴は3相が接する位置(A、B)で固相−液相界面/固相−気相界面/液相−気相界面の三つの界面エネルギーによる界面張力の平衡がなされ、固相−液相界面エネルギーが固相−気相界面エネルギーと類似の表面210では高接触角(θ1)を持ち、固相−液相界面エネルギーが固相−気相界面エネルギーより低い表面220では相対的に低接触角(θ2)を持つことになる。
【0033】
図2に示すように、単一液滴100内で互いに異なる接触角(θ1、θ2)が形成されれば、このような接触角の差(△θ=θ1−θ2)によって発生する力により、液滴100が高接触角を持つ表面210から低接触角を持つ表面220に移送される。
【0034】
前述した本発明による流体移送は、植物の導管を精密に観察及び分析して見つけた新しい水移送メカニズムに基づくものである。
【0035】
図3はユリ茎の導管構造を精密に観察した写真で、図3(a)は導管の方向に平行にカットして観察した走査電子顕微鏡写真である。図3(a)から分かるように、数マイクロメートルの直径を持つ螺旋状のマイクロ構造が螺旋(helical)あるいは二重螺旋(double helical)状に導管の内部に存在し、その表面がリグニンで塗布されている。
【0036】
また、植物の種類によって導管の進行方向に対しておよそ60°の角を持って傾いた斜線方向にマイクロリングが導管の内部壁で観察されることもある。
【0037】
図3(b)はこのような導管のマイクロ構造表面をより高配率で観察した走査電子顕微鏡写真で、リグニンが数十ないし数百ナノメートルのサイズで無秩序な形態にマイクロ構造物の表面に塗布されていることが分かる。このようなマイクロ−ナノハイブリッド構造形態が流体力学的特性に及ぶ影響はいわゆるロータス−効果(Lotus-effect)と呼ばれて知られており、この表面は超疎水性(あるいは超撥水性、superhydrophobicity)の性質を有する。
【0038】
一方、このようなマイクロサイズの螺旋が表面に備えられるとき、その隔間の導管表面はマイクロ構造はないがリグニンが相当部分に塗布されていることが分かる。したがって、この部分は疎水性のリグニンによって相当な水準の撥水性の表面特性を有する。
【0039】
これにより、本出願人は導管表面の流体力学的状態は微細螺旋部分での超撥水性とその間隔での表面の撥水性を持つ微細構造の規則的で反復的な流体力学的特性の変異が存在し、このような撥水性の差によって引き起こされる流体力学的力(hydrodynamics force)によって植物体の導管で水が移送されることを見つけた。
【0040】
本発明はこのような発見に基づき、流体と接触して流体移動通路を提供する装置の表面に流体と異なる接触角を持つ面が前記流体の移送方向(人為的な流体の流れ方向である流路)に交互に繰り返して形成されることにより、最小の外部エネルギーを消耗して垂直または水平に流体が移送できるようにする装置を提供するものである。
【0041】
前述した接触角の差によって引き起こされた力による液滴100の移動の際、基本的に液滴のサイズによって前記接触角の差、一接触角を持つ表面の流体移動方向への長さ、互いに異なる接触角を持つ表面間の流体移動方向を基準とする間隔などが決まらなければならない。
【0042】
好ましくは、前記液滴は、重力を無視して前記接触角の差によって引き起こされた力によって水平または垂直方向に移送可能な体積を持たなければならない。この際、液滴の密度も考慮しなければならない。
【0043】
一般に、空気中の浮力(buoyancy pressure)及び水自体の接着力(adhesion force)によって重力の影響を無視することができるほどに液滴が小さな場合は体積がおよそ3〜4μl以下であることが知られている。本発明の一実施例による管状移送装置の直径が大きくてその自体の重力効果がある場合、壁面の勾配力(gradient force)の影響が重力によって相殺されることができるので、前記液滴の体積は0.004μm以下の体積を持つ液滴が好ましく、実質的には1nm〜0.004μmの体積を持つ液滴が好ましい。
【0044】
好ましくは、液滴の効果的な移送のために、前記互いに異なる接触角を持つ表面の接触角の差(△θ=θ1−θ2)は3°〜180°であり、表面と流体の接触の際、牽引力(drag force)による移送効率の低下を防止するために、移動対象流体と接する全表面で前記流体スライド角(sliding angle)は0°〜5°であることが好ましい。
【0045】
図4は本発明による開放型流体移送装置の一断面図で、鋸歯状に凹凸が形成されたプレートの一断面図である。
【0046】
前記プレートの鋸歯面230(山をなす面)は相対的に高接触角を持つ一表面231から相対的に低接触角を持つ一表面232に連続的に接触角が減少する表面を持つ特徴がある。
【0047】
図4のように、鋸歯面230における接触角が連続的に減少するようにすることで、前述した液滴100の移動がより連続的になされることができる。液滴100が鋸歯面の高接触角の一表面231から低接触角の一表面232の終端まで移送された後、前記液滴は移送される慣性、外部装置、風力などによる物理的振動、静電気あるいは電場によって発生する電磁場による力、物理的力及び熱エネルギーによる振動によってエッジに移送される。
【0048】
この際、前記低接触角の一表面232の終端まで移送された液滴は確率的にさらに高接触角の一表面231側またはエッジ側に動くことができるが、高接触角の一表面231側に動いた液滴は前述した接触角の差による力によってさらに低接触角の一表面232の終端まで移送される、結果としてすべての液滴100は単一方向(D)に移送される。
【0049】
図5は本発明による開放型流体移送装置の斜視図で、鋸歯形凹凸が形成されたプレート200において、凹凸表面の全領域でなく、プレート200の鋸歯面のうち流体を移送させようとする領域及び方向に一定領域に高接触角を持つ一表面231から相対的に低接触角を持つ一表面232に連続的に接触角が減少する表面230を形成することで、プレート表面に特定の流路を形成することができる。この際、図5に示すように、液滴の計画された移送方向でない流路の側面には最大接触角を持つ表面233を形成することで、液滴の流路離脱をあらかじめ防止することが好ましい。
【0050】
図4〜図5のような開放型流体移送装置は、移送対象である液滴のサイズによって前記一鋸歯面230において連続的に変わる接触角の最大差、鋸歯面230の長さ(L)及び鋸歯面230の傾斜角(γ)などが決まらなければならない。
【0051】
詳しくは、前記連続的に変わる接触角の最大差(231での接触角−232での接触角)は3°〜180°であり、前記鋸歯面230の長さ(L)は100〜5000μm、前記傾斜角(γ)は7°〜90°が好ましい。
【0052】
図6〜図10は本発明による密閉型流体移送装置の一例で、詳しくは円筒状微細管であり、図7は管の内面に凹凸が形成されなかった場合、図6、図8〜図10は管の内面に凹凸が形成された場合であり、移送対象である流体に対して高接触角を持つ表面が曲率を持って突出している例(図8〜図10)と図4と類似の鋸歯形凹凸面230が形成されている例(図6)を示すもので、いずれも管の下部から管の上部側に流体移送方向を持つ場合である。
【0053】
この際、管200の材質は流体に対する接触角を考慮しない金属、セラミック、高分子またはガラス質であることができ、凹凸が存在する場合、前記管の内面に形成された凹凸も管の材質と同一材質で構成され、管内側の表面にだけコーティング、蒸着、表面改質などを施すことで、高接触角の一表面231から連続的に接触角が減少する表面230、あるいは高接触角の一表面210及び低接触角を持つ一表面220が備えることができる。
【0054】
この際、管200の材質は移送対象流体に対して低接触角を持つ金属、セラミック、高分子またはガラス質であることができ、凹凸が存在する場合、前記管の内面に形成された凹凸も管の材質と同一材質で構成され、表面改質によって連続的に接触角が増加する表面230または高接触角の一表面210を備えることができる。
【0055】
この際、管200の材質は移送対象流体に対して高接触角を持つ金属、セラミック、高分子またはガラス質であることができ、凹凸が存在する場合、前記管の内面に形成された凹凸も管の材質と同一材質で構成され、表面改質によって連続的に接触角が減少する表面230または低接触角の一表面220を備えることができる。
【0056】
図6〜図10に示す管の直径、詳しくは管の内径(d)は移送対象液滴のサイズを決め、0〜0.004μmの体積を持つ多数の液滴が不連続的に移送されるために、前記管の内径(d)は100μm〜2000μmであることが好ましい。
【0057】
図6のように鋸歯形表面凹凸が形成された管の内面を持つ場合、前記鋸歯形表面凹凸において一鋸歯面は、図4に基づいて前述したように、高接触角の一表面(下部位置)から低接触角の一表面(上部位置)まででなり、前記一鋸歯面で連続的に変わる接触角の最大差は3°〜180°であり、前記鋸歯面230の長さは100〜5000μm、鋸歯面が流体移送方向(管の長軸方向)に対してなす角度(γ)は7°〜90°が好ましい。
【0058】
図7は表面凹凸が形成されなかった場合を示すもので、液滴に対して高接触角を持つ表面210と低接触角を持つ表面220のそれぞれが両端の連結された閉環帯210、230で管の内面を形成する場合であり、前記閉環帯210、230の幅方向の中心線と流体移送方向(管の長手方向)が90°の場合を示すものである。
【0059】
しかし、図7は流体の移送方向に沿って高接触角を持つ表面と低接触角を持つ表面の交互に繰り返して形成された管の内面を示す一例であるだけで、前記閉環帯210、230の幅方向の中心線と流体移送方向(管の長手方向)が90°以下の角度をなすことができることはいうまでもない。
【0060】
また、図7に示す閉環帯は互いに異なる接触角を持つ螺旋を成す帯表面が交互に繰り返して形成された管の内面であることができる。
【0061】
以下、本発明による密閉型流体移送装置を表面凹凸が存在する場合である図8〜10に基づいて詳細に説明するが、凹凸が形成されなかった場合も類似の特徴を持つことはいうまでもない。
【0062】
図8〜図10は凹凸が形成された密閉型流体移送装置の一例で、曲率を有する突出部が移送対象流体に対して高接触角を持つ表面を持つ一例である。
【0063】
図8(a)に示すように、管の内面は移送対象流体に対して高接触角を持つ表面210と低接触角を持つ表面220が交互に配置されており、互いに異なる接触角を持つ表面は両端が連結された帯状(突出部によって一定領域が曲率を有する帯状を含み)を持ち、流体の移送方向(管の長手方向)と帯の幅方向中心線が90°の関係を持つ。
【0064】
図8(b)は図8(a)の断面を持つ管の内面のみを示す斜視図で、高接触角を持つ表面210及び低接触角を持つ表面220の幅(t1、t2)のそれぞれは互いに独立して、管の直径(d)の0.0001倍〜5倍であることが好ましい。
【0065】
より好ましくは、前記互いに異なる接触角を持つ表面のうち、高接触角を持つ表面210の幅(t2)がもっと狭いことが好ましく、前記互いに異なる接触角を持つ表面210、220が交互に配置されるが、同一接触角を持つ表面であっても互いに異なる幅を持つことができることはいうまでもない。
【0066】
前記高接触角を持つ表面210が形成される突出部は曲率の変化が連続的な滑らかな形状の突出部であることが好ましく、前記突出部は管の中心軸を基準として負の曲率及び正の曲率のいずれも持つことが好ましい。
【0067】
前記突出部が突出した高さ(h)は管の直径(d)の0.0001倍〜0.01倍であることが好ましい。
【0068】
図9は流体の移送方向(管の長手方向)と帯の幅方向中心線が一定の角度をなす場合を示す例である。この際、高接触角表面210及び低接触角表面220のそれぞれの幅(t1、t2)は最短幅を意味し、管が低接触角を持つ物質で構成され、管物質の表面改質によって高接触角表面を持つ場合を示すものである。
【0069】
流体の移送方向(管の長手方向)と帯の幅方向中心線が成す角度(α)は20°〜70°であることが好ましい。
【0070】
図10は閉環帯でない螺旋状帯の反復によって管の内面が構成される場合を示すもので、高接触角を持つ表面210の螺旋と低接触角を持つ表面220の2種の螺旋で管の内面が構成される場合である。
【0071】
図10の一例において、たとえ高接触角を持つ表面210が単一の螺旋状構造を持つものとして示したが、高接触角を持つ表面210が同一または相異な幅の二重以上の螺旋状構造を持つことができることはいうまでもない。
【0072】
前記螺旋状帯の幅中心線での接線は前記流体移送方向(管の長手方向)に対して20°〜70°の角度を持つことが好ましい。
【0073】
図7〜図10の一例において、本発明の密閉型流体移送装置は微細ナノ構造(表面凹凸)による接触抵抗の追加低下及び液滴の移送時の連続的な力の提供の観点で図10の螺旋状構造と類似の構造を持つことが好ましい。
【0074】
図11は本発明の流体移送装置の活用例を示すもので、多数の図10の密閉型流体移送装置で構成されて、垂直方向に流体を移送する移送ユニットを示すものである。
【0075】
前述した本発明による流体移送装置の移送対象流体は水である特徴がある。この際、前記流体に対して互いに異なる接触角を持つ表面210、220は撥水性(hydrophobicity)表面及び超撥水性(superhydrophobicity)表面である特徴がある。
【0076】
前記超撥水性表面の接触角(水液滴に対する接触角)は前記撥水性表面の接触角(水液滴に対する接触角)より大きく、前記撥水性表面の流体に対する接触角は80°〜120°であり、前記超撥水性表面の水接触角は90°〜180°であることが好ましい。
【0077】
前記撥水性表面及び超撥水性表面はそれぞれ高分子表面である特徴があり、前記超撥水性表面は撥水性表面に超高速レーザービームを照射処理して形成された特徴がある。この際、前記撥水性表面はポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane)、以下PDMS)表面である特徴がある。
【0078】
本発明の超高速レーザーによる表面改質はPDMSを含む高分子基板または高分子管の内部に形成された表面に数〜数百ナノメートル以下のナノサイズ微細構造を持たせるように超高速レーザーのビームを照射して超撥水性表面を製造する特徴がある。
【0079】
この際、超高速レーザーはフェムト秒パルスを持ち、超高速レーザービームの波長は700〜1000nm、パルス幅は100〜200fs、基板の移送速度は3〜5mm/sec、レーザービームスポット間の間隔は3〜5μm、フェムト秒レーザービームの焦点を調整するための対物レンズの色収差(N.A.)は0.1〜0.2、基板表面のレーザービームスポットのサイズは6〜9μmであることが好ましい。また、前記超高速レーザーのフルエンスは2〜8J/cm、基板表面に照射される平均レーザーパルスの数は1.5〜2.5であることが好ましい。この際、接触される流体に対して90°〜180°の接触角を持つように改質するための前記超高速レーザーのフルエンスは2〜8J/cmである特徴があり、5°以下のスライド角を持つように改質するための前記超高速レーザーのフルエンスは4〜8J/cmである特徴がある。
【0080】
本発明の優秀性を実験的に立証するために、ポリジメチルシロキサン及びレーザービームによった表面改質を用いて図3と類似の構造を持つ開放型流体移送装置を製造した。
【0081】
図12(a)に示すように、まずステンレス金属板の表面を図3と類似の断面を持つように製作した。この表面を洗浄した後、PDMSのプレポリマー(prepolymer)及び開始剤(initiator)を10:1で撹拌した後、ステンレスモールド上に塗布して重合反応させることで図12(b)のようなPDMS材質の流体移送装置の基板を製造した。この際、製作されたPDMS基板の単一鋸歯面の長さ(L)は5.0mm、鋸歯面の傾斜角(γ)は12°であった。
【0082】
その後、製作されたPDMS基板の鋸歯面に超高速レーザーを部分的に照射して微細工程を行うことで表面の流体力学的特性を改質した。
【0083】
波長が810nm、パルス幅が150fs(Quantronix、USA)のレーザーをPDMS基板表面に照射した。PDMS板は直交するXY−ステージ上に配置させ、基板をx軸方向に4mm/secの速度で移動させた。この際、移動速度及びレーザーの繰り返し速度を考慮すれば、それぞれのレーザースポット間の間隔は4μmである。フェムト秒レーザービームをZ−軸方向に線形移動可能なさらに他のステージ上に配置された対物レンズを(N.A.=0.14)を通じてPDMS表面に焦点を固定して照射した。この際、対物レンズを光学的に考慮すれば、PDMS表面のレーザースポットのサイズは7.7μmである。したがって、各部分のPDMS表面に照射される平均レーザーパルスの数は約1.9回程度に制限することで、1ms時間(1kHz)間隔で照射される超高速レーザーの繰り返し照射によって発生することもできる累積した熱効果を最小化した。
【0084】
前述したフェムト秒レーザーで直接表面改質したPDMS基板の場合、接触角は約165°、スライド角は3°以下で、Cassie−Boxter(C−B)モデルに属することが分かる。
【0085】
より詳しくは、適当な強度の超高速レーザーフルエンスの下で表面の照射によって超撥水性のPDMS表面を製造することができた。特に、表面処理されたPDMSの表面微細構造はナノサイズの超微細構造がマイクロサイズの微細構造上に適切に配置されることで非常に荒い表面状態が実現され、これは自然界で発見される超撥水性表面の微細構造と同一であることが分かる。
【0086】
図13は超高速レーザーのフルエンスを制御することによる接触角とスライド角の変化を示すグラフである。90°〜170°の接触角を持つ前記超高速レーザーのフルエンスは2〜8J/cm、3°以下のスライド角を持つ前記超高速レーザーのフルエンスは4〜8J/cmであることが分かる。
【0087】
図14はPDMS及び超高速フェムト秒レーザーの照射によって製造された図3と類似の開放型流体流れ装置を用いて観察された水滴の流れを観察した動画の画面を各時間帯別に示す。図14において、水滴は表記の(A)地点(超撥水性領域)から表面改質されたすべての部分を非常に早く転がって鋸歯面の最後地点(エッジ付近)である(B)地点(PDMA自体の撥水性領域)まで到逹することが分かる。
【0088】
一方、以上の開放型流体移送装置と類似して、密閉型流体移送装置は次のような方法で微細流体管化することができる。PDMS基板の厚さを十分に薄くし、その表面をマイクロ構造物(突出部)が水流方向の斜線に一定角になるように製作する。この際、マイクロ構造物と水流方向が成す角は設計時に微細流体管の直径との関係を考慮することで正確に予測−設計することができる。以上の方法で考案されたPDMS表面は前述したレーザー照射方法あるいは既存の他の方法で流体力学的性質を変化させた後、これを管の形態に成すことで本発明によって考案された密閉型微細流体管を完成することができる。
【0089】
本発明で提案する流体移送に関する表面構造と流体移送機能の原理的な側面での理解は国内外的に試みられなかった非常に進歩的で新規性の高い分野である。したがって、本発明によって導管の内部表面の微細構造による流体力学的性質に及ぶ関係に対する解釈が可能であり、実用的な側面での活用性が非常に高い発明であると理解することができる。
【0090】
以上のように、本発明を具体的な製造例のように特定の事項と限定された実施例及び図面に基づいて説明したが、これは本発明のより全般的な理解に役立てるために提供したものであるだけ、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野で通常の知識を持つ者であればこのような記載から多様な修正及び変形が可能である。
【0091】
したがって、本発明の思想は前述した実施例に限定されてはいけなく、後述する特許請求範囲だけでなくこの特許請求範囲と同等または等価の変形があるすべてのものは本発明思想の範疇に属すると言える。
【符号の説明】
【0092】
100:液滴
200:管
210:高接触角表面
220:低接触角表面
230:鋸歯面
231:鋸歯面の高接触角領域
232:鋸歯面の低接触角領域
233:高接触角領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送対象である流体に対して互いに異なる接触角(contact angle)を持つように前記流体の移送方向に交互に繰り返したパターンに形成された複数の区域を有する表面を備えており、前記接触角の差によって発生する力(hydrodynamic force)によって前記流体が移送されることを特徴とする、流体移送装置。
【請求項2】
前記互いに異なる接触角を持つ前記複数の区域は、0゜〜5゜の流体スライド角(sliding angle)を有していることを特徴とする、請求項1に記載の流体移送装置。
【請求項3】
前記表面は、前記流体に対する接触角が連続的に増加する鋸歯形を有する繰り返しパターンに形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の流体移送装置。
【請求項4】
前記表面は管の内面であり、両端が連結された複数の閉環帯または複数の螺旋区域が交互に繰り返し形成されており、前記複数の閉環帯または前記複数の螺旋区域が互いに異なる接触角を持つことを特徴とする、請求項2に記載の流体移送装置。
【請求項5】
前記互いに異なる接触角を持つ前記閉環帯または前記螺旋区域の間に段差が形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の流体移送装置。
【請求項6】
前記互いに異なる接触角を持つ区域のうち、大きい接触角を持つ表面が曲率を持ち突出していることを特徴とする、請求項5に記載の流体移送装置。
【請求項7】
前記管の直径は100〜2000μmであることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の流体移送装置。
【請求項8】
前記閉環帯または前記螺旋区域の幅は、前記管の直径の0.0001倍〜5倍であることを特徴とする、請求項7に記載の流体移送装置。
【請求項9】
前記接触角が大きい前記区域ほど幅が狭いことを特徴とする、請求項8に記載の流体移送装置。
【請求項10】
前記螺旋区域の幅方向の中心線が、前記管の長手方向に対して20°〜70°の角度を持つことを特徴とする、請求項7に記載の流体移送装置。
【請求項11】
前記段差が前記管の直径の0.0001倍〜0.01倍であることを特徴とする、請求項6に記載の流体移送装置。
【請求項12】
前記流体が水であることを特徴とする、請求項1〜6、8〜11のいずれか1項に記載の流体移送装置。
【請求項13】
前記流体に対して互いに異なる接触角を持つ表面が撥水性(hydrophobicity)表面及び超撥水性(superhydrophobicity)表面であることを特徴とする、請求項12に記載の流体移送装置。
【請求項14】
前記撥水性表面及び超撥水性表面がそれぞれ高分子表面であることを特徴とする、請求項13に記載の流体移送装置。
【請求項15】
前記超撥水性表面が撥水性表面に超高速レーザービームを照射処理して形成されたものであることを特徴とする、請求項14に記載の流体移送装置。
【請求項16】
前記撥水性表面がポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane)、PDMS)表面であることを特徴とする、請求項15に記載の流体移送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−503137(P2012−503137A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527754(P2011−527754)
【出願日】平成21年9月22日(2009.9.22)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005399
【国際公開番号】WO2010/033008
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(595027240)コリア リサーチ インスティチュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス (19)
【Fターム(参考)】