説明

流出油の糸状菌による除去方法

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】本発明は、水面に流出した油に糸状菌を散布し、オイルボールを形成させた後、これを捕集除去することを特徴とする流出油除去方法に関するものである。
【従来の技術】近年、各種石油類による海洋等の汚染が非常に深刻な環境問題となっている。このような汚染は、大型タンカーの海難事故や油田事故、各種工業プラントの事故等により引起こされるが、いずれの場合も莫大な量の油が流出することになり、大規模な環境被害をもたらす。このような流出油の除去処理には困難を要し、その有効な処理技術の確立が非常に重要な技術課題である。従来、このような流出油の処理技術として、界面活性剤等により油を分散する方法やウレタンマット等に油を吸収する方法、薬剤によりオイルボール化を促進する方法等が知られているが、いずれの方法も問題があり処理技術としては不十分であった。例えば、界面活性剤等の薬剤を散布する方法では、これらの処理剤が毒性を示すものが多く、添加量も油量に対して最低でも数%が必要で、二次公害の危険性が大であり、また流出油量の莫大さから経済的な問題も大きい。また、ウレタンマット等に吸収する方法は、特殊設備を必要とし大規模の流出油事故には不向きである。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上のような問題点がない流出油処理法として、微生物を用いる方法を鋭意検討した結果、糸状菌が効率的にオイルボール化を促進することを見出し、この知見を元に本発明を完成した。本発明は、水面に流出した油に油量の0.1%以下の糸状菌を散布し、オイルボールを形成させた後、これを捕集除去することを特徴とする新規な流出油除去方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】本発明は、水面に流出した油に糸状菌を散布し、オイルボールを形成させた後、これを捕集除去することを特徴とする流出油の除去方法である。上記糸状菌としては、菌糸体を形成するものであればいづれでもよいが、例えば、フィトフトラ属、サプロレグニア属、バシヂオボラス属、コニヂオボラス属、クンニガメラ属、モルチエレラ属、ムコル属、リゾプス属、オイペニシリウム属、ノイロスポラ属、ファネロカエテ属、アスペルギルス属、オウレオバシヂウム属、ビウベリア属、クラドスポリウム属、フザリウム属、グリオクラヂウム属、ペニシリウム属、スコルコバシヂウム属、トリコデルマ属またはトリコフィトン属に属し菌糸体を形成する能力を有する菌が挙げられる。なお、これらの糸状菌のうち、フィトフトラ属又はサプロレグニア属は鞭毛菌亜門に属し、バシヂオボラス属、コニヂオボラス属、クンニガメラ属、モルチエレラ属、ムコル属、リゾプス属は接合菌亜門に属し、オイペニシリウム属、ノイロスポラ属は子のう菌亜門に属し、ファネロカエテ属は担子菌亜門に属し、アスペルギルス属、オウレオバシヂウム属、ビウベリア属、クラドスポリウム属、フザリウム属、グリオクラヂウム属、ペニシリウム属、スコルコバシヂウム属、トリコデルマ属またはトリコフィトン属は不完全菌亜門に属するものである。上記各属の糸状菌の具体的な例としてはフィトフトラ・シンナモミ、サプロレグニア・パラジチカ、バシヂオボラス・ラナラム、コニヂオボラス・インコングルウス、クンニガメラ・エチヌラタ、モルチエレラ・イサベリナ、ムコル・ラセモサス、リゾプス・オリゼ、オイペニシリウム・ジャバニカム、ノイロスポラ・クラッサ、ファネロカエテ・クリソスポリウム、アスペルギルス・ニガ、アスペルギルス・オクラセウス、アスペルギルス・パラジチカス、オウレオバシヂウム・プルランス、ビウベリア・バシアナ、クラドスポリウム・クラドスポリオイデス、クラドスポリウム・レジネ、フザリウム・オキシスポラム、グリオクラヂウム・ビレンス、ペニシリウム・オクロクロン、ペニシリウム・ピノフィラム、スコルコバシヂウム・オボバタム、トリコデルマ・ビリデ、またはトリコフィトン・メンタグロフィテスが挙げられる。これらの糸状菌は、単独でも多種混合物でも使用可能であり、特に限定しない。糸状菌の散布量は少量で良く、通常、油分の0.01〜0.1重量%が好ましく、0.01重量%以下ではオイルボール化速度が低下し、0.1重量%以上添加は散布効果の向上が認められないため経済的に不利である。糸状菌の形態は、菌糸体、または胞子体の生細胞、または凍結物、または凍結乾燥物のいずれでも良く、特に限定しない。糸状菌単独の散布でもオイルボールは形成されるが、好ましくは窒素源とリン源の併用が効果的である。窒素源およびリン源としては、無機化合物または有機化合物のいずれでも良く、特に限定しない。また、特に炭化水素資化能のない糸状菌の場合は、糸状菌の利用し易い炭素源の併用も効果的である。炭素源としては、糖類やアミノ酸類等、糸状菌が利用し易いものであれば特に限定しない。本発明の流出油処理方法は、水面に流出した油類に糸状菌を適当な手段により散布することにより実施できる。これにより、散布された糸状菌は、水面の油膜に付着し、自然の波の効果で、増殖しながら菌糸体間に油を凝集してオイルボールを形成する。通常、1〜3日間、遅くとも10日間でオイルボールを形成させることができる。
【発明の効果】本発明によれば、タンカー事故等により流出した各種油類を効率的にオイルボール化することができる。しかも、糸状菌はオイルボール中にあるため、糸状菌が水中を汚染することはない。形成したオイルボールは適当な手段で捕集して容易に除去できる。このようにして、各種流出油による汚染の浄化が達成される。
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
実施例1内容積180mlの深型シャーレ(φ90×40mm)に、硝酸アンモニウム2mg/mlとリン酸2カリ0.2mg/mlを添加した海水50mlを入れ、この水面に沸点270℃以下の軽質分を留去したウェザリング原油を50mg拡散させた。次に、クンニガメラ・エチヌラタATCC9244、またはクンニガメラ・エチヌラタATCC36112、またはオイペニシリウム・ジャバニカムATCC26879、またはアスペルギルス・オクラセウスIFO4344、またはアスペルギルス・オクラセウスATCC1008、またはアスペルギルス・パラジチカスDSM2038、またはビウベリア・バシアナDSM1344、またはクラドスポリウム・クラドスポリオイデスIFO6348、またはグリオクラヂウム・ビレンスIFO6355、またはペニシリウム・オクロクロンATCC36110、またはペニシリウム・オクロクロンIFO4612、またはペニシリウム・ピノフィラムIFO6345のいずれかの糸状菌の菌糸体を乾燥重量換算で油量の0.1重量%になるように散布した後、深型シャーレの往復運動により人工波を形成させながら25℃で10日間放置した。これにより形成されたオイルボールを機械的に除去後、シャーレ内の残存油をクロロホルム抽出して、本抽出液の660nmの吸光度により残存油量を求めて、油除去率を計算した。結果を表1に示した。なお、油除去率は(添加油量−残存油量)/添加油量によった。
実施例2海水に添加した硝酸アンモニウムとリン酸2カリの代わりに、ディフコ社のYMブロスを1/5量を用い、糸状菌の種類がフィトフトラ・シンナモミATCC16984、またはサプロレグニア・パラジチカATCC22284、またはバシヂオボラス・ラナラムATCC14449、またはコニヂオボラス・インコングルウスATCC14445、またはクンニガメラ・エチヌラタATCC9244、またはクンニガメラ・エチヌラタATCC36112、またはモルチエレラ・イサベリナIFO7874、またはムコル・ラセモサスIFO4581、またはリゾプス・オリゼIFO4705、またはオイペニシリウム・ジャバニカムATCC26879、またはノイロスポラ・クラッサIFO6178、またはファネロカエテ・クリソスポリウムIFO31249、またはアスペルギルス・ニガIFO4407、またはアスペルギルス・オクラセウスIFO4344、またはアスペルギルス・オクラセウスATCC1008、またはアスペルギルス・パラジチカスDSM2038、またはオウレオバシヂウム・プルランスIFO6353、またはビウベリア・バシアナDSM1344、またはクラドスポリウム・クラドスポリオイデスIFO6348、またはクラドスポリウム・レジネIFO31710、またはフザリウム・オキシスポラムIFO7152、またはグリオクラヂウム・ビレンスIFO6355、またはペニシリウム・オクロクロンATCC36110、またはペニシリウム・オクロクロンIFO4612、またはペニシリウム・ピノフィラムIFO6345、またはスコルコバシヂウム・オボバタムATCC38655、またはトリコデルマ・ビリデIFO5720、またはトリコフィトン・メンタグロフィテスIFO5466であること以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 水面に流出した油に、油分の0.01〜0.1重量%の糸状菌を散布し、オイルボールを形成させた後、これを捕集除去することを特徴とする流出油の除去方法。
【請求項2】 糸状菌が、フィトフトラ属、サプロレグニア属、バシヂオボラス属、コニヂオボラス属、クンニガメラ属、モルチエレラ属、ムコル属、リゾプス属、オイペニシリウム属、ノイロスポラ属、ファネロカエテ属、アスペルギルス属、オウレオバシヂウム属、ビウベリア属、クラドスポリウム属、フザリウム属、グリオクラヂウム属、ペニシリウム属、スコルコバシヂウム属、トリコデルマ属またはトリコフィトン属に属し菌糸体を形成する能力を有する菌である特許請求の範囲第1項記載の流出油の除去方法。

【特許番号】特許第3461527号(P3461527)
【登録日】平成15年8月15日(2003.8.15)
【発行日】平成15年10月27日(2003.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−113434
【出願日】平成5年5月14日(1993.5.14)
【公開番号】特開平6−322742
【公開日】平成6年11月22日(1994.11.22)
【審査請求日】平成12年4月20日(2000.4.20)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【参考文献】
【文献】特開 昭47−692(JP,A)
【文献】特開 昭50−124464(JP,A)