説明

流動接触分解方法

【課題】LCO(Light Cycle Oil)から付加価値の高い留分を効率よく製造でき、LCOを十分に低減できる流動接触分解方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る流動接触分解方法は、第1の流動接触分解装置に原料油を供給し、全芳香族分含有量40〜80体積%である沸点範囲221〜343℃の留分(LCO)が得られるように、第1の流動接触分解装置において原料油を接触分解する第1工程と、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する第2の流動接触分解装置に上記留分を含有する被処理油を供給し、第2の流動接触分解装置の反応帯域において分解触媒の存在下、反応帯域の出口温度550〜750℃、被処理油と触媒との接触時間0.1〜1秒、触媒/油比20〜40wt/wtの条件で被処理油を接触分解する第2工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油等の流動接触分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油の精製プロセスにおいて生じる重質油を付加価値の高いガソリンなどに転換する技術の検討がなされている。例えば、下記特許文献1には、重質油からガソリン及び軽質オレフィンを高い収率で得るため、通常の重質油流動接触分解と超過酷な重質油流動接触分解とを組み合わせた流動接触分解法が記載されている。
【特許文献1】特開平10−46160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
より具体的には、上記特許文献1に記載の発明は、重質油を第1の流動接触分解装置に供給して通常の重質油流動接触分解を実施した後、これによって得られた分解生成物を蒸留塔に供給して蒸留するプロセスに関するものである。このプロセスでは蒸留によって得られたLCO(軽質サイクル油)及び/又はHCO(重質サイクル油)を原料油として第2の流動接触分解装置へと供給し、超過酷な条件下で原料油の接触分解が行われる(特許文献1の段落[0017]〜[0019]を参照)。
【0004】
LCO(Light Cycle Oil)は沸点範囲が軽油留分と重複するが、芳香族分を多く含むためこれを軽油に配合した場合、軽油のセタン価が低くなってしまう傾向がある。かかるLCOを効率的に分解し、付加価値の高い留分を得ることができれば、LCOをガソリン等の原料として活用できる。しかしながら、本発明者らは、LCOを超過酷な条件下で接触分解を行ったとしても、LCOを十分効率的に分解できない場合があることを見出した。この場合、流動接触分解によって生じるLCOが増大するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、LCOから付加価値の高い留分を効率よく製造でき、LCOを十分に低減できる流動接触分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、LCOの組成とLCOの分解性との関係について検討を行った。その結果、超過酷な条件下で接触分解を行う流動接触分解装置に対し、全芳香族分含有量が所定の範囲内のLCOを供給することがガソリン等への転換ひいてはLCOの低減に有効であることを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明に係る流動接触分解方法は、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する第1の流動接触分解装置に原料油を供給し、全芳香族分含有量が40〜80体積%である沸点範囲221〜343℃の留分が得られるように、第1の流動接触分解装置において原料油を接触分解する第1工程と、反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する第2の流動接触分解装置に上記留分を含有する被処理油を供給し、第2の流動接触分解装置の反応帯域において分解触媒の存在下、反応帯域の出口温度550〜750℃、被処理油と触媒との接触時間0.1〜1秒、触媒/油比20〜40wt/wtの条件で被処理油を接触分解する第2工程とを備える。
【0008】
本発明の流動接触分解方法においては、第1工程を経て全芳香族分含有量40〜80体積%であるLCOが得られる。このLCOを含有する被処理油を第2の流動接触分解装置に供給し、超過酷な条件下で被処理油の接触分解を行うことによって、LCOからガソリン等の付加価値の高い留分を効率的に得ることができる。
【0009】
なお、ここでいう「LCO」とは、流動接触分解(FCC)によって得られる沸点範囲221〜343℃の留分を意味する。また、「全芳香族分含有量」とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会誌JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験法−高速液体クロマトグラフ法」に記載の方法に準拠して測定される各芳香族分含有量の容量百分率(体積%)を意味する。また、「沸点範囲」とは、JIS K 2254「石油製品−蒸発試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0010】
本発明に係る流動接触分解方法は、第2工程を経て得られる分解生成物を第1の流動接触分解装置に返送する工程を更に備えたものであってもよい。第2工程を経て得られた分解生成物を第1の流動接触分解装置に返送してリサイクルすることで、ガソリンなどの付加価値の高い留分の収率が一層向上する。なお、第2工程を経て得られた分解生成物は、LCOに相当する留分が十分に低減されているので、上記のようなリサイクルを行っても当該留分に含まれる難反応性成分が系内に蓄積することを十分に抑制できる。
【0011】
第1工程を経て得られる留分(LCO)は、15℃における密度が0.95g/cm未満であることが好ましい。被処理油が密度0.95g/cm未満のLCOを含有するものであると、ガソリンを一層高い収率で得ることができる。ここでいう「密度」とはJIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される値を意味する。
【0012】
上記本発明の流動接触分解方法によれば、第1工程及び第2工程を経て得られた分解生成物を用いた各種燃料及び石油化学製品を提供することができる。すなわち、本発明は、上記本発明の流動接触分解方法により得られる沸点範囲25〜220℃の留分の一部又は全部あるいはその水素化物を含有するガソリンを提供する。また、本発明は、上記本発明の流動接触分解方法により得られる炭素数3又は4の炭化水素を含有する液化石油ガスを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LCOから付加価値の高い留分を効率よく製造でき、LCOを十分に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<第1工程>
本実施形態に係る流動接触分解方法では、まず、第1の流動接触分解装置に原料油を供給して原料油を流動接触分解する(第1工程)。「流動接触分解」とは、重質な原料油と流動状態に保持されている触媒とを接触させ、ガソリンや軽質オレフィンを主体とした軽質な炭化水素に分解することを意味する。この第1工程においては、全芳香族分含有量40〜80体積%のLCOを得る。
【0016】
第1工程を経て得られるLCOは、上述の通り、全芳香族分含有量が40〜80体積%である。当該LCOの全芳香族分含有量は、40〜70体積%であることがより好ましく、40〜65体積%であることがより好ましい。全芳香族分含有量が40体積%未満であると、第2の流動接触分解装置に供給された際、分解される芳香族分が不足し、ガソリンのオクタン価が不十分となる。他方、芳香族分含有量が80体積%未満を超えると、後述する第2工程においてコーク収率が増大し、分解されないLCOが増大する。
【0017】
また、第1工程を経て得られるLCOは、15℃における密度が0.95g/cm未満であることが好ましい。LCOの密度が0.95g/cmを超えると、第2工程においてコーク収率が増大し、分解されないLCOが増大しやすくなる。また、コーク収率の増加により触媒の活性が低下するため、相対的に熱分解が進行して軽質ガスが増大しやすくなる。LCOの密度の上限は0.94g/cm未満であることがより好ましい。LCOの密度の下限は、0.88g/cmであることが好ましく、0.89g/cmであることがより好ましい。LCOの密度が0.88g/cm未満であると、第2工程において生成するガソリンのオクタン価が不十分となる。
【0018】
第1の流動接触分解装置において上記条件を満たすLCOを得るには、原料油の組成、触媒の組成、反応帯域の出口温度、原料油と触媒との接触時間、触媒/油比等を適宜調整すればよい。以下、原料油の種類、流動接触分解装置、触媒等について説明する。
【0019】
第1の流動接触分解装置に供給する原料油は、原油を蒸留して得られる重質油を含有するものが好ましい。かかる重質油としては、例えば、常圧残油、常圧残油を更に減圧蒸留して得られる減圧軽油、減圧残油、これらの水素化処理油又は熱分解油、及びこれらの混合油等が挙げられる。
【0020】
第1の流動接触分解装置は反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する装置であれば特に制限はない。また、反応帯域は触媒粒子と原料油がともに管内を下向に流れる下向流型反応器あるいは触媒粒子と原料油がともに管内を上向に流れる上向流型反応器のいずれを用いてもよいが、下向流型反応器が好ましく用いられる。
【0021】
第1の流動接触分解装置において使用する接触分解触媒は、超安定Y型ゼオライトを10〜50質量%含有するものが好ましく、15〜40質量%含有するものがより好ましい。該超安定Y型ゼオライトとしては、Si/Alの原子比が3〜20であるものが好ましく用いられる。Si/Alの原子比は、より好ましくは5〜20であり、さらに好ましくは7〜15である。Si/Alの原子比が3未満であると触媒活性が過剰に大きくなり、ガスの発生量が増大しやすい。他方、Si/Alの原子比が20を超えるとゼオライトのコストが増大し、経済性の点で好ましくない。
【0022】
また、超安定Y型ゼオライトは、結晶格子定数が24.55Å以下であり、結晶化度が90%以上であるものが好ましく用いられる。また、超安定Y型ゼオライトはイオン交換サイトにアルカリ希土類金属を導入したものが好ましく用いられる。
【0023】
上記触媒の好ましい態様としては、超安定Y型ゼオライトを、副活性成分であり重質油の大きな分子を分解することのできるマトリックス、カオリンなどの増量剤とともにバインダーで粒子状に成型したものが挙げられる。触媒に用いられるマトリックス成分としてはシリカアルミナが好ましく用いられる。
【0024】
また、該触媒は、超安定Y型ゼオライトの他に、Y型ゼオライトよりも細孔径の小さい結晶アルミノシリケイトゼオライト、シリコアルミノフォスフェート(SAPO)などを更に含有してもよい。そのようなゼオライトとしてはZSM−5、そしてSAPOとしてはSAPO−5、SAPO−11、SAPO−34が挙げられる。これらのゼオライト又はSAPOは、超安定Y型ゼオライトを含む触媒粒子と同一の触媒粒子中に含まれてもよく、あるいは別の触媒粒子として含まれてもよい。
【0025】
第1の流動接触分解装置の反応帯域の出口温度は、450〜550℃であることが好ましく、480〜530℃であることがより好ましい。反応帯域の出口温度が450℃未満であると、第1工程で得られるLCOの全芳香族分含有量が不十分となりやすい。他方、出口温度が550℃を超えると熱分解が顕著になりドライガス発生量が増大しやすい。なお、「反応帯域の出口温度」とは反応器の出口温度のことであり、分解生成物が急冷あるいは触媒と分離される前の温度である。
【0026】
第1の流動接触分解装置における原料油と触媒の接触時間は、1.5〜10秒であることが好ましく、2〜8秒であることがより好ましい。接触時間が1.5秒未満であると原料油の分解が不十分となりやすく、他方、10秒を越えると過分解や水素移行反応により、プロピレン、ガソリン等が減少し、軽質ガスやコーク収率が増加しやすい。なお、「原料油と触媒の接触時間」とは、流動床型反応器の入口で原料油と触媒とが接触してから反応器出口で反応生成物と触媒が分離されるまでの時間を意味する。また、「水素移行反応」とは、ナフテン等からオレフィンが水素を受け取ってパラフィンに変換される反応であり、軽質オレフィンの減少、ガソリンのオクタン価の低下などの原因となる反応である。
【0027】
第1の流動接触分解装置における触媒/油比は、4〜10wt/wtであることが好ましい。触媒/油比が4wt/wt未満であると原料油の分解が不十分となりやすい。他方、触媒/油比が10wt/wtを超えると触媒循環量が大きくなり、再生帯域において触媒再生に必要な触媒滞留時間を確保できず、触媒の再生が不十分となりやすい。なお、「触媒/油比」とは、触媒循環量(ton/h)と原料油供給速度(ton/h)との比を意味する。
【0028】
第1の流動接触分解装置における反応圧力は、0.1〜0.3MPaであることが好ましく、0.12〜2.0MPaであることがより好ましい。反応圧力が0.1MPa未満であると大気圧との差が過剰に小さくなり、コントロールバルブによる圧力の調整が困難となりやすい。また、反応圧力が0.1MPa未満の場合、それに伴って再生帯域の圧力も小さくなり、再生に必要なガスの滞留時間を確保するために容器を大きくしなければならず、経済的に好ましくない。他方、反応圧力が0.3MPaを超えると、単分子反応である分解反応に対する水素移行反応などの二分子反応の割合が増加しやすい。なお、「反応圧力」とは流動床型反応器の全圧を意味する。
【0029】
反応帯域で接触分解処理が施された分解生成物と未反応物と触媒との混合物は分離帯域に送られ、当該分離帯域において混合物からの触媒の分離が行われる。分離帯域としては、サイクロン等の遠心力を利用した固液分離装置が好ましく用いられる。分離帯域で分離された触媒はストリッピング帯域に送られ、当該ストリッピング帯域において触媒粒子から生成物、未反応物等の炭化水素類の大部分が除去される。一方、反応中に原料の一部がより重質な炭素質(コーク)となり触媒上に付着するが、コークあるいは更に重質の炭化水素類が付着した触媒は、当該ストリッピング帯域から再生帯域(再生塔)に送られる。
【0030】
再生帯域では、ストリッピング帯域からの触媒を、再生帯域の触媒濃厚相の温度650〜800℃、再生帯域圧力0.1〜0.3MPa、再生帯域出口における排ガス中の酸素濃度0〜3mol%の条件下で処理することが好ましい。
【0031】
再生帯域の触媒濃厚相の温度は、上記の通り、650〜800℃であることが好ましいが、670〜750℃であることがより好ましい。再生帯域液温度が650℃未満であるとコークの燃焼が不十分となる。800℃を超えると触媒の劣化が促進され、また、再生帯域の材料として再生帯域の触媒濃厚相の温度に耐えるためのより高価な部材を使う必要があり、経済的に好ましくない。
【0032】
再生帯域圧力は、上記の通り、0.1〜0.3MPaであることが好ましい。再生帯域圧力が0.1MPa未満であると、再生に必要なガスの滞留時間を確保するため、再生帯域の容器が大きくなり経済的に好ましくない。他方、再生帯域圧力が0.3MPaを超えると、それに伴い反応帯域の圧力が大きくなり、反応帯域において水素移行反応のような経済に好ましくない。
【0033】
再生帯域出口の排ガス中の酸素濃度は、上記の通り、0〜3mol%であることが好ましい。酸素濃度が3mol%を超えると、余分な空気を余分な動力を用いて再生帯域に送り込んでいることになり経済的に好ましくない。酸化処理を受けた触媒が再生触媒であり、触媒上に沈着したコーク及び重質炭化水素類が燃焼により減少されたものである。この再生触媒は、上記の反応帯域に連続的に循環される。場合によっては不必要な熱分解あるいは過分解を抑制するため、分解生成物は分離帯域の直前又は直後で急冷される。再生帯域における炭素質の燃焼に伴い発生する熱量により触媒の加熱が行われ、その熱は触媒と共に反応帯域に持ち込まれる。この熱量によって原料油の加熱、気化が行われる。また分解反応は吸熱反応であることから、分解反応熱としてもこの熱量が利用される。
【0034】
第1の流動接触分解装置は、分解生成物回収帯域を更に備えることが好ましい。かかる生成物回収帯域としては、分解生成物を沸点などにより分離して回収する分解生成物回収設備が挙げられる。該分解生成物回収設備は複数の蒸留塔、吸収塔、コンプレッサー、ストリッパー、熱交換器等を含んで構成される。該分解生成物回収設備により、沸点範囲が221〜343℃であるLCOを回収することができる。
【0035】
<第2工程>
上記の第1工程を経て得られたLCO(被処理油)を第2の流動接触分解装置に供給し、LCOを流動接触分解する(第2工程)。第2の流動接触分解装置としては、上述の第1の流動接触分解装置と同様の構成のものを使用できる。また、接触分解触媒についても上記第1工程と同様、超安定Y型ゼオライトを含有するもの等を使用できる。第2の流動接触分解装置の反応帯域において分解触媒の存在下、反応帯域の出口温度550〜750℃、被処理油と触媒との接触時間0.1〜1秒、触媒/油比20〜40wt/wtの条件で被処理油を接触分解する。
【0036】
第2の流動接触分解装置の反応帯域の出口温度は、上述の通り、550〜750℃であるが、550〜650℃であることが好ましく、560〜640℃であることがより好ましい。反応帯域の出口温度が550℃未満であるとガソリンや液化石油ガスの収率が不十分となりやすい。他方、出口温度が750℃を超えると熱分解が顕著になりドライガス発生量が増大しやすい。
【0037】
第2の流動接触分解装置における原料油と触媒の接触時間は、上述の通り、0.1〜1.0秒であるが、0.3〜0.9秒であることが好ましい。接触時間が0.1秒未満であるとLCOの分解が不十分となりやすく、他方、1.0秒を越えると過分解や水素移行反応により、プロピレン、ガソリン等が減少しやすい。
【0038】
第2の流動接触分解装置における触媒/油比は、上述の通り、20〜40wt/wtであるが、25〜35wt/wtであることが好ましい。触媒/油比が20wt/wt未満であるとLCOの分解が不十分となりやすい。他方、触媒/油比が40wt/wtを超えると触媒循環量が大きくなり、再生帯域において触媒再生に必要な触媒滞留時間を確保できず、触媒の再生が不十分となりやすい。
【0039】
第2の流動接触分解装置における反応圧力は、0.1〜0.3MPaであることが好ましく、0.12〜2.0MPaであることがより好ましい。反応圧力が0.1MPa未満であると大気圧との差が過剰に小さくなり、コントロールバルブによる圧力の調整が困難となりやすい。また、反応圧力が0.1MPa未満の場合、それに伴って再生帯域の圧力も小さくなり、再生に必要なガスの滞留時間を確保するために容器を大きくしなければならず、経済的に好ましくない。他方、反応圧力が0.3MPaを超えると、単分子反応である分解反応に対する水素移行反応などの二分子反応の割合が増加しやすい。
【0040】
第2の流動接触分解装置の再生帯域の条件は、第1の流動接触分解装置と同様とすることができる。また、第2の流動接触分解装置は、第1の流動接触分解装置と同様、分解生成物回収帯域を更に備えることが好ましい。該分解生成物回収設備により、所定の沸点範囲の留分(例えば、LCO)を回収することができる。
【0041】
以上の通り、本実施形態に係る流動接触分解方法によれば、全芳香族分含有量40〜80体積%であるLCOを第2の流動接触分解装置に供給し、超過酷な条件下で被処理油の接触分解を行うことによって、LCOから付加価値の高い留分を効率よく製造できる。このため、流動接触分解プロセスにおいて生じるLCOを十分に低減できる。
【0042】
本実施形態に係る流動接触分解方法は、上記第2工程を経て得られる分解生成物を第1の流動接触分解装置に返送する工程を更に備えたものであってもよい。当該分解生成物を第1の流動接触分解装置に返送してリサイクルすることで、プロセス全体として付加価値の高い留分の収率を一層向上できる。また、第1工程及び第2工程を経ることにより、原料油に含まれるLCOに相当する留分を十分に低減できるので、上記のようなリサイクルを行っても当該留分に含まれる難反応性成分が系内に蓄積することを十分に抑制できる。
【0043】
また、第1工程及び/又は第2工程によって得られる沸点25〜220℃の留分はガソリン基材として用いることができる。ここで、沸点25〜220℃の留分は、その一部をガソリン基材として用いてもよく、あるいは全部をガソリン基材として用いてもよく、また、沸点25〜220℃の留分を水素化処理し、得られる水素化物をガソリン基材として用いることもできる。
【0044】
また、第1工程及び/又は第2工程によって得られる炭素数3又は4の炭化水素は液化石油ガス基材として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
脱硫常圧残油を第1の流動接触分解装置を供給し、一段目の流動接触分解を行った(第1工程)。原料油として使用した脱硫常圧残油の性状を表1に示す。
【0047】
本実施例においては、第1の流動接触分解装置として、反応帯域(断熱型の下向流型反応器)、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有するパイロット装置(Xytel社製)を用いた。また、接触分解触媒として、以下のようにして調製した触媒を用いた。
【0048】
40%の硫酸3370g中へJIS3号水ガラスの希釈溶液(SiO濃度=11.6%)21550gを滴下し、pH3.0のシリカゾルを得た。このシリカゾル全量中へ安定Y型ゼオライト(東ソー(株)製:HSZ−370HUA)3000gとカオリン4000gを加え混練し、250℃の熱風で噴霧乾燥した。こうして得られた噴霧乾燥品を50℃、0.2%硫酸アンモニウムで洗浄した後、110℃のオーブン中で乾燥し、さらに600℃で焼成して触媒を得た。この触媒中の超安定Y型ゼオライトの含有量は30%であった。なお、このときの触媒粒子のかさ密度は0.7g/ml、平均粒径は71μm、表面積は180m/g、細孔容積は0.12ml/gであった。
【0049】
上記のようにして得られた触媒を、上記装置に供給する前に、800℃で6時間、100%スチーミング処理により擬似平衡化させた。流動接触分解の反応条件は、以下のように設定した。
(第1工程)
反応帯域出口温度:525℃、
接触時間2.0秒、
触媒/原料油比:5.8wt/wt、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:700℃。
【0050】
第1の流動接触分解装置における流動接触分解を経て得られたLCOを第2の流動接触分解装置を供給し、二段目の流動接触分解を行った(第2工程)。流動接触分解の反応条件は、以下のように設定した。なお、触媒は第1工程と同様のものを使用した。
(第2工程)
反応帯域出口温度:600℃、
接触時間:0.4秒、
触媒/原料油比:30wt/wt、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:680℃。
【0051】
被処理油として使用したLCOの密度及び芳香族分含有量、並びに、第2の流動接触分解装置におけるLCOの転化率及び分解生成物の収率を表2に示す。なお、表2中、分解生成物の収率は全て原料油に対する分解生成物の質量比を百分率で示したものである。また、C1はメタンガス、C2はエタンガス、C3は炭素数3の炭化水素、C4は炭素数4の炭化水素、ガソリンは炭素数5から沸点221℃の炭化水素、LCOは沸点範囲221〜343℃の留分、CLOは沸点343℃を超える留分(クラリファイドオイル)を示す。
【0052】
[実施例2]
脱硫減圧残油を第1の流動接触分解装置を供給し、一段目の流動接触分解を行った(第1工程)。原料油として使用した脱硫減圧残油の性状を表1に示す。第1の流動接触分解装置における流動接触分解を経て得られたLCOを第2の流動接触分解装置を供給し、二段目の流動接触分解を行った(第2工程)。
【0053】
原料油として脱硫減圧残油を使用したこと、並びに、流動接触分解の反応条件を以下のように設定したことの他は、上記実施例1と同様にして一段目及び二段目の流動接触分解を行った。
(第1工程)
反応帯域出口温度:510℃、
接触時間2.0秒、
触媒/原料油比:5.2wt/wt、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:695℃。
(第2工程)
反応帯域出口温度:600℃、
接触時間:0.4秒、
触媒/原料油比:30wt/wt、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:680℃。
【0054】
[比較例1]
【0055】
脱硫常圧残油(表1参照)を第1の流動接触分解装置を供給し、一段目の流動接触分解を行った(第1工程)。第1の流動接触分解装置における流動接触分解を経て得られたLCOを第2の流動接触分解装置を供給し、二段目の流動接触分解を行った(第2工程)。
【0056】
流動接触分解の反応条件を以下のように設定したことの他は、上記実施例1と同様にして一段目及び二段目の流動接触分解を行った。
(第1工程)
反応帯域出口温度:600℃、
接触時間0.4秒、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:680℃、
触媒/原料油比:30wt/wt。
(第2工程)
反応帯域出口温度:600℃、
接触時間:0.4秒、
再生帯域の触媒濃厚相の温度:680℃、
触媒/原料油比:30wt/wt。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する第1の流動接触分解装置に原料油を供給し、全芳香族分含有量が40〜80体積%である沸点範囲221〜343℃の留分が得られるように、前記第1の流動接触分解装置において前記原料油を接触分解する第1工程と、
反応帯域、分離帯域、ストリッピング帯域及び再生帯域を有する第2の流動接触分解装置に前記留分を含有する被処理油を供給し、前記第2の流動接触分解装置の前記反応帯域において分解触媒の存在下、前記反応帯域の出口温度550〜750℃、前記被処理油と前記触媒との接触時間0.1〜1秒、触媒/油比20〜40wt/wtの条件で前記被処理油を接触分解する第2工程と、
を備えることを特徴とする流動接触分解方法。
【請求項2】
前記第2工程を経て得られる分解生成物を前記第1の流動接触分解装置に返送する工程を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の流動接触分解方法。
【請求項3】
前記第1工程を経て得られる前記留分は、15℃における密度が0.95g/cm未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の流動接触分解方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の流動接触分解方法により得られる沸点範囲25〜220℃の留分の一部又は全部あるいはその水素化物を含有することを特徴とするガソリン。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の流動接触分解方法により得られる炭素数3又は4の炭化水素を含有することを特徴とする液化石油ガス。