浄化剤及びその浄化剤を用いた有機塩素化合物の浄化方法
【課題】土壌、地下水及び底質、特には難透水性土壌が存在するサイトにおける有機塩素化合物を、原位置においてかつ効果的に浄化するための浄化剤及びこれを用いた有機塩素化合物の浄化方法を提供する。
【構成】ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤によれば、水中油滴型エマルジョンは、そのサイズが数ミクロンで微小サイズであり土壌中において優れた移動性を有することから、地下水に注入するだけで地下水の流れと濃度勾配により浄化対象範囲に拡散して効果を発揮し、ある注入井戸から広範囲に効果を発揮することができ、原位置浄化において注入用の井戸を多く設置する必要が無く、注入のための設備コストや運転コストの低減が可能となる。
【構成】ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤によれば、水中油滴型エマルジョンは、そのサイズが数ミクロンで微小サイズであり土壌中において優れた移動性を有することから、地下水に注入するだけで地下水の流れと濃度勾配により浄化対象範囲に拡散して効果を発揮し、ある注入井戸から広範囲に効果を発揮することができ、原位置浄化において注入用の井戸を多く設置する必要が無く、注入のための設備コストや運転コストの低減が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌及び地下水の有機塩素化合物を浄化する浄化剤及び土壌及び地下水の有機塩素化合物の浄化方法に関し、より詳細には、難透水性或いは高濃度汚染が存在する土壌及び地下水を浄化するための浄化剤及びその浄化剤を用いた有機塩素化合物の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染について
テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなどに代表される有機塩素化合物は、炭化水素または炭素に塩素が付加した物質であり、人工的に製造され、過去に溶剤として多くの産業分野において脱脂、洗浄などに利用され、生物に対する有害性、環境における難分解性、蓄積性が問題となり、世界的に有害物質として認識されている。日本においては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなど10物質について、土壌、地下水に関する環境基準が設定されている。これらは、不適切な使用、保管方法が原因となり地下の土壌や地下水汚染を引き起こしており、早期の浄化が求められている。
【0003】
有機塩素化合物のバイオレメディエーション
有害な化学物質により汚染された環境を浄化する手段として、微生物を利用して浄化する方法(バイオレメディエーション)が注目されている。この方法は、従来の物理的・化学的処理方法に比べて動力・設備等が低コストであり、原位置浄化が容易であることが大きな利点である。バイオレメディエーションは、汚染物質を分解する能力の高い外来微生物を添加することにより浄化するバイオオーギュメンテーションと、微生物に栄養源等を供給して増殖力、あるいは汚染物質の代謝力を高めることにより浄化するバイオスティミュレーションに大別される。外来微生物を利用するバイオオーギュメンテーションについては現在のところ、微生物の変異、域外への拡散などを考慮しながら実用化の方向へ進んでいる。一方、バイオスティミュレーションは、土着の微生物を利用することができ、また栄養塩類とその他材料を対象となる環境に添加するだけでよいので、多くの汚染サイトの原位置浄化工事において採用されるようになってきている。
【0004】
有機塩素化合物の中でも塩素数が多いテトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などは、嫌気性微生物による還元脱塩素化により逐次分解されることが知られている。従来の有機塩素化合物のバイオレメディエーションにおいては、この嫌気性微生物を利用する方法が主流である。
【0005】
特許文献1には、塩素化脂肪族炭水化物の微生物分解の為の水素ガスの使用について公開している。水中の水素ガスの溶解性は2mg/l以下で、塩素化脂肪族炭水化物の微生物分解の為に要求される水素濃度と比べ非常に低く、この方法は汚染物質が完全に除去されるまで水素ガスを注入し続ける必要があり、原位置における嫌気性バイオレメディエーションにおいて好ましい手段とはいえない。
【0006】
特許文献2には、無害な油の注入による帯水層の原位置微生物レメディエーションの促進方法を公開している。油は元来粘度が高く、密度が低い為、汚染された帯水層に孔から油を注入する際には、十分な圧力をかける特殊な注入技術を必要となる。また注入した油と帯水層の水が良く混ざって拡散することがない。
【0007】
特許文献3には、微生物レメディエーションの為に不活性粒子に浸透する油又は固化した油を使用する方法とその材料構成について公開している。この方法において油は徐放性の炭素供給源となるが、ポリマーや粘土粒子などの固化した油を作成する為に使用される外部物質により、土壌間隙が塞がるという問題が起こる。よって、この方法は原位置におけるバイオレメディエーションにとって適切ではない。
【0008】
特許文献4には、嫌気性バイオレメディエーションのための微生物の活動と還元作用を促進する乳酸などのヒドロキシル酸をゆっくり放出するポリ乳酸化合物について公開している。この材料は有機塩素化合物の汚染除去をする物質として有効であることが広く認識されているが、製造コストの高さや、媒体の粘度の高さによる特殊注入技術が必要となる為、比較的多量の材料が必要となる原位置浄化においては経済的ではない。
【0009】
特許文献5には、DNAPLsの還元的脱ハロゲン化にゼロ価の金属のエマルジョンの使用する方法について公開している。この発明の不利な点は添加された鉄が形態を変えて鉄化合物として帯水層に残ることである。
【0010】
以上のように、バイオスティミュレーションを原位置浄化に適用する場合に、汚染が広範囲に分布している場合が多く、それに応じて微生物の分解効果を発揮させるため、浄化対象範囲に栄養源類、その他材料を拡散させる必要がある。また、添加した材料が汚染を浄化した後も残留することは、二次汚染の原因ともなることから望ましくない。
【0011】
本発明者らは、従来のバイオレメディエーション剤の課題を解消すべく、嫌気性微生物による有機塩素化合物の浄化に関して特許文献6及び特許文献7において栄養剤を公開した。これらの技術は、栄養源、エネルギー源となる材料の水溶性が高く、また生分解性がよいので、土壌中において拡散しやすく、また嫌気状態を造成し汚染を分解・浄化するまでの工程が迅速に進行する。この結果、井戸の間隔を広く取ることが可能となり、少ない箇所から注入することにより広い範囲に効果を及ぼすことが可能である。また妨害物質の影響が及ぶ前に汚染を分解・浄化することが可能となり、浄化における作業量の低減、浄化期間の短縮を達成することが可能となった。さらに、環境中における生分解性の高い成分が選択されており、浄化完了後に材料は二酸化炭素及び水になり、現場に残留することはない。
【0012】
難透水性土壌
有機塩素化合物を浄化する場合に問題となるのは、有機塩素化合物が土壌に吸着しやすいという性質である。汚染メカニズムとして、有機塩素化合物が地下に浸透する場合に不飽和層土壌に吸着しながら飽和層に達し、地下水の流れに影響を受けながら砂礫層、砂層などの高透水性土壌を浸透していき、シルト層、粘土層などの難透水性土壌に達して汚染部位を形成することが多い。
【0013】
同時に有機塩素化合物は、土壌/水の分配比(KOC)が高く土壌に吸着しやすい。特に高濃度に汚染されている場合には、土壌への付着が顕著である。一方、微生物は、水に溶けた有機塩素化合物を分解する。したがって、微生物が地下水中の有機塩素化合物を分解しても、有機塩素化合物が土壌から地下水に再び溶出するため、地下水中の見かけ濃度は減少せず、浄化期間が長くなってしまう。
【0014】
このように多くの汚染現場において難透水性の土壌に汚染が存在するが、生分解性の高い材料を使用すると、地下水中の汚染は速やかに浄化されるものの、土壌に付着した汚染が地下水に溶出して分解しきる前に栄養材料が消費されてしまい、土壌に残留した汚染が地下水に再溶出するので、土壌及び地下水の汚染が浄化される前に栄養材料が不足する。したがって、栄養剤を複数回に分割して注入する必要があり、長期間にわたり注入装置を設置するためのスペース、注入作業負担及びコストなどが課題となる。一方、あまりに生分解性の低い材料を使用すると、汚染が浄化された後もサイトに残留してしまうおそれがある。また上流から流れ込む地下水の影響により地下水中の嫌気性を維持することが困難になる可能性が有る。さらに、同時に土壌中における栄養剤の移動性を高くすることも考慮しなければならない。
【0015】
界面活性剤及び油
有機塩素化合物を浄化するために界面活性剤を利用して土壌から有機塩素化合物を溶出させて物理・化学処理する方法が開示されている。
特許文献8には、界面活性剤により土壌から有機塩素化合物を脱離して分離・回収する方法が開示されている。特許文献9には、有機汚染物質溶出促進剤により汚染地盤構成物類から汚染物質を溶出させ、酸化剤により汚染物質を分解する方法が開示されている。特許文献10には、有機塩素化合物にアルカリ、溶剤としてアルコール、水及び界面活性剤を加えてエマルジョンとし、それを電解還元する方法が開示されている。特許文献11には、有機汚染物質を含む土壌に水または界面活性剤水溶液を添加して混合して対象土壌から汚染物質を分離した後、対象物質を含む水または界面活性剤水溶液を類似体により吸着、分離、除去または捕捉する方法が開示されている。
【0016】
しかし、これらの方法において現場において地下水に界面活性剤を添加し、土壌から脱離した有機塩素化合物を地表において回収あるいは分解する場合、揚水及び地下水の回収などに大規模な装置が必要となり、建造物がある現場には不向きである。また、初期設備コスト並びに運転コストが高くなる。また、これらの方法は、環境負荷の高い技術といえ、原位置浄化方法としては好ましくない。
【0017】
徐放性材料
微生物を利用して汚染を浄化する方法において栄養またはエネルギー源を徐放する材料もある。例えば、ポリ乳酸のような徐放性の電子供与体が有機塩素化合物の浄化材料として利用されている。他の方法として長期間に渡って電子供与体を放出する可能性がある大豆油やカノーラ油やオレイン酸塩を含む植物性油がある。植物性油は嫌気性微生物を活発にする有効な電子供与体となる可能性があり、ポリ乳酸と比べとても粘性が低い。
【0018】
しかし、これらの材料は、水よりもはるかに粘性が高いので、材料が土壌間隙を塞ぐといった可能性があるために飽和層の地下水中における分散が容易ではない。よって、地下水中での拡散性があまり高くなく、注入位置からターゲットとなる汚染部位まで到達しにくいため、注入井戸の間隔が狭くなり、注入井戸の本数が多くなることにより浄化コスト、作業量が多くなるという問題があった。特に乳化油の大きな液滴又は純粋な植物性油の注入は、到達エリアにおいて地下水の自由な流れを妨害し土壌の間隙を塞いでしまうので、注入初期において土壌の透水性が低下してしまう。そうなると浄化対象範囲が狭く限定されてしまうので、原位置における浄化手段として好ましくない。
【0019】
また、ポリ乳酸の製造コストはとても高く、高濃度のポリ乳酸の注入には特別な注入技術を要する。そのため全プロジェクトコストは非常に高くなる。さらに、有機塩素化合物、特には塩素化数の多いPCE、TCEなどの生分解に有効な微生物の活動環境とするために嫌気状態を速やかに造成する必要があるが、従来品は徐放性であるために分解性が低く、したがって、嫌気状態を造成するために時間がかかり、結果として浄化の遅延、妨害物質の影響を受けやすいという問題があった。
【0020】
界面活性剤及び油を利用したバイオレメディエーション
微生物を利用した汚染浄化において有機塩素化合物が脂溶性であることを利用して土壌の汚染を浄化する手段として界面活性剤、油類を利用する方法が有効であることが知られている。例えば、特許文献12において食品由来の廃油類、液状油脂類又は液状エマルジョンにより土壌等から有機塩素化合物を溶離させて微生物により分解する方法が開示されている。特許文献13には、油汚染土壌を生分解性洗浄剤により洗浄し、洗浄液と土壌を分離して、洗浄液を微生物により浄化する方法が開示されている。特許文献14及び特許文献15には、有機塩素系化合物で汚染された被処理物質に、嫌気性および好気性微生物を混合し、嫌気条件および好気条件を交互に繰り返しながら分解処理する方法において、分解処理を、油脂及び/または界面活性剤の存在下で行う方法が開示されている。特許文献16には、徐放性基材から放出された油脂および/または界面活性剤により有機塩素化合物を脱離または溶出させ、脱離した有機塩素化合物を微生物の作用によって分解する方法が開示されている。
【0021】
これらの方法において、地下水或いは土壌を浄化するにあたり原位置において油脂及び/または界面活性剤を拡散させて広げる手段が考慮されていない。したがって、処理物質の量と処理範囲が限定できる、例えば廃棄物処理プラントなどに適用することは可能であるが、処理範囲を限定されていない、例えば工場敷地における土壌、地下水の汚染を原位置において浄化することは困難で、もしも実施しようとすると材料を供給するための井戸を多く設置する必要があり、また注入作業も煩雑になるため、浄化コストが極めて高くなる。以上のようにこれらの方法は、一般的な汚染環境を原位置で浄化する際の適用性に難点がある。
【0022】
【特許文献1】米国特許5602296号公報
【特許文献2】米国特許5265674号公報
【特許文献3】米国特許6331300号公報
【特許文献4】米国特許6420594号公報
【特許文献5】米国特許6664298号公報
【特許文献6】特開2005−185870号公報
【特許文献7】特開2005−288276号公報
【特許文献8】特開平09−075907号公報
【特許文献9】特開2001−300506号公報
【特許文献10】特開2003−268583号公報
【特許文献11】特開2005−081209号公報
【特許文献12】特開2003−190922号公報
【特許文献13】特開2003−320364号公報
【特許文献14】特開2005−013218号公報
【特許文献15】特開2003−164849号公報
【特許文献16】特開2005−262107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
油類または界面活性剤を利用して有機塩素化合物を除去して浄化する方法において、先に挙げた従来の方法では、浄化材料を汚染サイトに広げる手段が考慮されておらず、ほとんどの場合プラント処理に限定され、原位置における処理に適用することが困難である。 汚染サイトに拡散しにくい材料の場合、浄化の効果は注入している井戸の周辺のみに限定され、自然環境における土壌・地下水汚染のように汚染が広がっているような条件においては、多くの注入井戸を設置し、また注入しなければならないため、浄化コストが高くなる要因となっていた。また、有機塩素化合物を溶出させるための油及び界面活性剤は、通常分子構造が大きく分解されにくく、浄化後もサイトに残留する可能性があり、浄化剤による二次汚染のおそれがあった。
【0024】
本発明は、土壌、地下水及び底質、特には難透水性土壌が存在するサイトにおける有機塩素化合物を、原位置においてかつ効果的に浄化するための浄化剤及びこれを用いた有機塩素化合物の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ひまわり油又はベニバナ油又はぬか油のいずれか一つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤から形成される水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤が有機塩素化合物を、原位置においてかつ効果的に浄化するための浄化剤として最適であることを見出した。
【0026】
すなわち本発明の浄化剤はひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含むことを特徴とする。
【0027】
ここにエマルジョンとは、水中に混じりあわない他の液体が微細粒子となって、分散、浮遊している混合物であり、水中油滴型エマルジョンとは外相(連続相)にある水中において油と外相液との表面張力が弱まり、乳化し、外相液が油を包んだ状態(水中油滴型エマルジョン)の微細な油滴となって分散した状態の液状混合物である。
【0028】
ここでいう水とは、水道水、ミネラルウォーター、さらにこれらを浄水器などにより処理した水(アルカリイオン水、活性炭ろ過水など)などのように飲料に供される水、水道水、工業用水などを精製処理したイオン交換水、逆浸透水、蒸留水、超純水などが該当する。また、自然環境中の河川水、湖沼水、地下水、雨水などのいわゆる淡水、工業用水、工業排水などについては、使用に先立ち含有する油分、浮遊物、金属類、イオン類などが除去されている必要があり、水道水質基準を満足していることが望ましい。海水については、塩分がエマルジョンの構造安定性に悪影響を及ぼすことから、脱塩処理などにより淡水化されている必要がある。なお、本発明の材料を地下水など自然環境に対して使用する場合には、地下水環境基準、地下浸透基準などの環境基準を満足して使用するべきであり、エマルジョンの製造に使用する水の水質には特に配慮する必要がある。
【0029】
水中でのひまわり油及びベニバナ油及びぬか油のうち少なくともいずれか1以上の油のエマルジョンに対する混合比率を20〜60%(wt%:以下同じ)に調整するのは、土壌間隙を通過するために必要なエマルジョンのサイズの維持と浄化に寄与する油の比率を高めることを考慮する必要があるからであり、浄化剤として好ましい。
【0030】
さらに界面活性剤はステアロイル乳酸塩及び/又は蔗糖脂肪酸エステルとすることができ、かかる界面活性剤は、その混合比率を0.5%から2.5%の範囲とする。土壌間隙を通過するために必要な水中油滴型エマルジョンの安定性を向上する必要があるからである。
この混合比率が0.5%未満である場合には、水中油滴型エマルジョンの安定性を向上することはできず好ましくない。
また2.5%を超える混合比率とすると、界面活性剤が水に対して混和する限界を超えてしまいエマルジョンの形成に寄与しなくなるため、好ましくない。
【0031】
また本発明の有機塩素化合物の浄化方法は、本発明の浄化剤と共に栄養材料を添加することを特徴とする。
【0032】
この栄養材料とは、土着の微生物に栄養源等を供給して増殖力、あるいは汚染物質の代謝力を高める栄養源、エネルギー源となることをその一般的性状とするものである。この栄養材料としては酵母エキス又は豆乳又はコーン乳又はペプトンのうちのいずれか1つ以上が選択される。
【0033】
これらの栄養材料は、特には水溶性が高く、また生分解性が良好で、土壌中において拡散しやすく、また嫌気状態を造成し汚染を分解・浄化するまでの工程が迅速に進行することに寄与する栄養材料として選択される。さらに、これらの栄養材料は環境中における生分解性の高い成分として選択され、浄化完了後に二酸化炭素及び水になり、現場に残留することのない栄養材料として選択される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の浄化剤によれば、有機塩素化合物による汚染を浄化するための材料として選択された油と界面活性剤から構成される水中油滴型エマルジョンを含むので、この水中油滴型エマルジョンは、そのサイズが数ミクロンで微小サイズであり土壌中において優れた移動性を有することから、地下水に注入するだけで地下水の流れと濃度勾配により浄化対象範囲に拡散して効果を発揮し、ある注入井戸から広範囲に効果を発揮することができ、原位置浄化において注入用の井戸を多く設置する必要が無く、注入のための設備コストや運転コストの低減が可能となる。また地下水の上流から注入して下流にまで浄化効果を広範囲かつ持続的に発揮し、浄化効果を及ぼすことができるので、地表に建造物があっても問題はなく、現場の諸条件に左右されることなく多くの汚染現場に適用することが可能となり、注入工法を適用する際の制限条件を解消することもできる。
【0035】
さらに水中油滴型エマルジョンを構成する油、界面活性剤は、従来の低分子栄養源類に比べると分解速度が遅く、微生物による分解影響領域がある程度の期間にわたって維持されるので、例えば工場の敷地境界域に注入すると汚染の域外流出の防止対策になり、同時に上流からのもらい汚染の防止対策ともなる。
【0036】
また、本発明の浄化剤が含む水中油滴型エマルジョンの構成成分である油及び界面活性剤は、汚染物質が脂溶性であることから土壌から地下水への汚染の溶出を促進することができるので、土壌に付着した汚染のバイオアベイラビリティを高めることにより浄化期間を短縮することができる。
【0037】
さらに本発明の浄化剤が含む水中油滴型エマルジョンの構成成分である油及び界面活性剤は、好気性微生物が酸素を消費して地下水を嫌気条件とし、さらに嫌気性微生物が有機塩素化合物を還元脱塩化するための水素供与源となる。これらの成分は、油類、界面活性剤の中から生分解性が高い材料から選定され、一定期間にわたり徐々に分解されて有機酸を持続的に生成し、微生物に対して電子供与源としての効果を長期的に発揮するため、難透水性土壌から地下水へ継続的に溶出する汚染に対して効果を発揮すると共に浄化後は環境中に残留しない。したがって環境に対する負荷が小さく使用前の環境への速やかな復元が可能となる。
【0038】
さらに、本発明の有機塩素化合物の浄化方法は、本発明の水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤とともに酵母エキス、豆乳、コーン乳、ペプトンなどの栄養源を添加するので、これらの栄養源は多くの種類の好気性微生物が地下水中の酸素を電子受容体として消費して嫌気状態を造成するために利用され、好気性微生物を活性化・増殖させて、有機塩素化合物を微生物により分解するために最適な嫌気状態を速やかに造成することができる。また同時に嫌気性微生物が有機塩素化合物を電子受容体として脱塩素化する際の電子供与体としても作用する。従来の浄化剤では困難であった短期間での嫌気条件の造成を可能としたことにより、嫌気性微生物を利用した浄化期間をさらに短縮することが可能となる。以上の利点により、難透水性土壌や高濃度汚染の存在するサイトに対処可能になり、汚染分布、土質、建造物の有無など条件の異なるサイトに対する適用性及び浄化効率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に本発明を実施するための最良の形態につき説明する。
図1は、本発明の浄化剤による汚染浄化フローを示す。
この図1に示す汚染浄化フローで実施される本発明の有機塩素化合物の浄化方法による浄化の対象は、有機塩素化合物により汚染された土壌、地下水、底質などが該当し、さらには掘削された土壌、揚水された地下水、汚泥、表層水なども浄化対象となり、これらには限定されない。
【0040】
図1に示される様に本発明の浄化剤による汚染浄化プロセスは浄化剤製造工程1と汚染浄化工程10の2段階のプロセスよりなる。
浄化剤製造工程1では、水に油を加え、さらに界面活性剤を加えた上でホモジナイザー、高剪断ミキサー、ホモミキサーによる混合(20℃〜60℃)が行われる。
【0041】
以上の浄化剤製造工程1で水に加えられ、浄化剤の構成成分とされる油としては、ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のうちいずれか1つ以上選択したものとされる。これらの油は、植物体から抽出された油分であり、微生物に分解されて脂肪酸を発生し、微生物が有機塩素化合物を脱塩素化する反応における電子供与体となる。また、同時に土壌に付着した有機塩素化合物を地下水に溶出させる効果も有する。これらの材料は、植物由来の物質であることから環境中において有害性が極めて低いため、地下水などの自然環境に添加するための浄化材料として好ましい。
【0042】
以上の浄化剤製造工程1で水に加えられ、浄化剤の構成成分とされる界面活性剤としては、食品・医薬・化学分野において使用される界面活性剤のうち、生分解性が高いこと、生分解されて脂肪酸を発生すること、油との混和性がよいことを条件としてステアロイル乳酸塩及び/又は蔗糖脂肪酸エステルが好適に用いられる。これらは、親水性・親油性バランスがよく、また水中における構造安定性が高く、上記油を水中において微細なサイズのエマルジョンとするための界面活性剤として作用する。また前記油と同様にこれらは、土壌に付着した有機塩素化合物を地下水に溶出させる効果も有する。
【0043】
また、これらの材料は、植物由来の物質であり、自然環境に対する負荷が低く、環境中において有害性が無いため、食品業界において乳化剤として使用されている。また、微生物に対して毒性がなく、微生物により分解されると電子供与体となる脂肪酸を発生して、有機塩素化合物が微生物により電子受容体として還元脱塩素化されて無害化される作用に寄与するので、これらの材料は地下水などの自然環境に添加するための浄化材料として好ましい。
【0044】
一般に、界面活性剤としては、ステアロイル乳酸ナトリウム等のステアロイル乳酸塩、DKF−160やDKF−100等の蔗糖脂肪酸エステル、トゥイーン60などのポリソルベート、スパン60などのソルビタンエステル、大豆レシチンなどが挙げられる。しかし、ポリソルベート系、ソルビタンエステル系、大豆レシチンなどは、水中においてエマルジョンの構造安定性が十分でなく相分離が起こりやすいため、地下水環境における浄化材料としては不適当である。
【0045】
この浄化剤製造工程1においては高コスト設備のホモジナイザーや高剪断ミキサー又は水中油滴型エマルジョンの油滴サイズを決定する低コスト設備のホモミキサーなどを利用して水中油滴型エマルジョンを製造することができる。
この場合に、水に油を加え、さらに界面活性剤を加え、ホモジナイザー、高剪断ミキサー、ホモミキサーによる混合を行う際の温度範囲を20〜60℃、さらに好ましくは40〜60℃とすることで、水中において微細かつ安定な水中油滴型エマルジョンを形成することができる。
この場合に、温度が20℃未満であると、微細均一なエマルジョンの製造が困難で、40未満では微細均一なエマルジョンの製造が容易ではない。一方、60℃を超えると、安定なエマルジョンの形成が困難となる。
【0046】
以上の浄化剤製造工程1で得られた本発明の浄化剤によって、汚染浄化工程10が実施される。
汚染浄化工程10が実施されることによって浄化される対象となる物質としては、有機塩素化合物が該当し、脂肪族では、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、トリクロロエタン、ジクロロエタン、クロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロメタンなど、芳香族では、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン、ポリ塩化ジベンゾフランなどのダイオキシン類、コプラナーPCBなどのPCB類などが挙げられ、これらに限定されない。
【0047】
この汚染浄化工程10では、サイト調査、浄化設計、注入井戸、観測井戸の設置等の予備作業を行った後、浄化設計に基づき浄化剤の希釈・濃度調整を行う。その後、エマルジョン液の注入を行うと共に、栄養源(酵母エキスなど)の注入を行う。注入された浄化剤は注入圧力及び水中油滴型エマルジョン自体の流動性によって土壌・地下水中で拡散する。すなわち本発明の浄化剤は、水中での混和性、分散性が高く、地下水に添加されると土壌間隙中を地下水の流れにより、または注入による圧力により移動し、浄化対象範囲に容易に拡散する。
【0048】
拡散した水中油滴型エマルジョンは、土着微生物による生分解によって有機酸を生成すると共に土壌に付着した有機塩素化合物を水に溶出させて、微生物により脱塩素化することができるようにする。有機塩素化合物は、一般に水溶性が低く、また土壌中の有機物の存在下で土壌に吸着しやすくなり、多くの汚染現場では、地下水よりも土壌に分配されている。そのため、地下水中の有機塩素化合物を除去、あるいは分解しても、土壌から溶解度に応じて有機塩素化合物が再溶出するため、浄化作業を延々と継続する必要が生じる場合がある。これに対して本発明の浄化剤は、その界面活性効果と共溶媒効果により土壌に付着した有機塩素化合物を地下水中に溶出させることができる。
【0049】
地下水中に溶出された有機塩素化合物は、微生物により電子受容体として還元脱塩素化されて無害化されるので、従来浄化材料では浄化が長期化する傾向にあった高濃度の汚染に対しても浄化効果を促進することが可能となる。
【0050】
さらに、地下水中の水中油滴型エマルジョンが土着微生物により徐々に分解されると、水素、酢酸、プロピオン酸、乳酸などの脂肪酸などが生成し、嫌気性微生物が有機塩素化合物を電子受容体として脱塩素化するための電子供与体として作用する。
以上の汚染浄化工程10で有機塩素化合物の還元脱塩素化・浄化が行われる。
【0051】
汚染浄化工程10では、本発明の浄化剤と共に酵母エキス及び豆乳及びコーン乳及びペプトンのうちのいずれか1つ以上を含む栄養材料を添加するのが好ましい。これらは、いずれも微生物にとって増殖、活性化を促す栄養源として作用する。
【0052】
豆乳、コーン乳は、それぞれ大豆、とうもろこしから製造された液体である。豆乳は、豆腐の製造工程において大豆から絞り出た白色液体であり、水溶性のたんぱく質、グリシニンをはじめとする多くの種類のアミノ酸により構成されており、アミノ酸、たんぱく質を豊富に含むので、好気性、嫌気性を問わず様々な微生物にとって好適な栄養源として作用する。また豆乳、コーン乳に含まれるたんぱく質は水溶性であり、地下水中において拡散しやすく、地下水に添加した後に広範囲に供給することができる。さらに水溶性のビタミン類も含むので、微生物を活性化するための材料として好ましい。
【0053】
酵母エキスは、酵母の有用な成分を自己消化や酵素、熱水などの処理を行うことにより抽出されたエキスである。主成分としてアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含むので、微生物に対する栄養源として好ましい。また、現在の食品と食品添加物との分類では、酵母エキスは食品添加物ではなく、醤油や昆布エキスなどと同様に食品に分類されているので、環境に対する安全性が高い。また、酵母エキスが微生物により分解されて生成するアミノ酸、その他の成分も微生物にとって栄養源として作用するので、浄化に使用する材料の成分として好ましい。
【0054】
ペプトンは、天然の蛋白質を加水分解又はある種の酵素(ペプシン、パパイン、パンクレアチン等)の作用により処理して得た可溶性の物質である。細菌の増殖培地や各種発酵、純培養において使用される物質である。ペプトンが微生物に供給されると分解されてアミノ酸を生成する。このアミノ酸が土着の多くの微生物にとっての栄養源となるので、浄化に使用する材料として好ましい。
【0055】
これらは、いずれも好気性から嫌気性まで含めた多くの微生物にとってアミノ酸、ミネラル、ビタミン類などの栄養の供給源となり、好気性微生物が活性化・増殖することにより酸素を消費して嫌気状態を造成し、さらには、嫌気状態において有機塩素化合物を分解する微生物を活性化・増殖することで、有機塩素化合物の還元脱塩素化を促進するために供される。
【0056】
浄化剤製造工程1で得られ、汚染浄化工程10で用いられる水中油滴型エマルジョンは、土壌透水性の大きな減少を防ぐために土壌孔口1ミクロンに対し0.3ミクロン以下の中間の油滴サイズ比であることが望ましい。乳化油の注入が目の粗い土壌で行われない限り、平均油滴サイズを1ミクロン以下にすることが重要である。特に汚染の域外流出やもらい汚染対策として浸透性反応壁を設置する場合には、透水性の低下により地下水の流れが影響を受けるために注意が必要である。
【0057】
さらに水中において安定かつ移動性がよいことを考慮すると水中油滴型エマルジョンのサイズは、1ミクロン以下がよい。この水中油滴型エマルジョンを得る為には、界面活性剤を混和前に湯水に分散させ、この界面活性剤の溶液と油をミキサーに入れ混合する。
【0058】
本発明の浄化剤における油混合比率は10−65%が好ましい。さらには中くらいの粘性と良い安定性を持つ小さな液滴サイズが最適であるので、油混合比率は20〜60%が好ましく、最も好ましくは、水中油滴型エマルジョン中の油の混合比率が45〜55%となる条件がよい。
混合比率が10%未満では、充分な作用をもつエマルジョンを得ることはできず、一方65%を超えると、水中油滴が微細均一に分散したエマルジョンを得ることができない。また、20%未満では、中くらいの粘性と良い安定性を持つバランスの良い小さな液滴サイズのエマルジョンを得ることはできず、65%を超えると、粘性が過剰となり流動性を阻害する。
【0059】
地下水或いは土壌中を微生物の好適な生育条件に保つため、汚染浄化工程10で帯水層に対して薄めた水中油滴型エマルジョンを注入する際には、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのpHを調整するための材料を水中油滴型エマルジョンに添加することにより、pHを5〜9の範囲に調整するとよい。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の浄化剤及び有機塩素化合物の浄化方法の実施例につき説明する。以下の各実施例は、実施例1〜実施例8及び比較例1が図1に示す汚染浄化フローにおける浄化剤製造工程1及び本発明の浄化剤に関する。また実施例7及び図2が本発明の浄化剤の生分解性に関する。実施例8〜10及び図3〜24は汚染浄化工程10及び本発明の有機塩素化合物の浄化方法とその比較例に関する。
[実施例1]
油の混合比率を一定にし、水の中の界面活性剤の濃度を変えることで、界面活性剤の濃度が製造されるエマルジョンの安定性に与える影響を観察した。このために、界面活性剤SSL(SODIUM STEAROYL LACTYLATE:ステアロイル乳酸塩)を1g、2.5g、5gを量り取り、それぞれを湯水と合わせて100gとなるように分散させて界面活性剤の分散液を製造した。さらに、そこにひまわり油100gを加えて実験室のミキサーで10分間混ぜ、エマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与えるSSL混合比率の影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示される様に、エマルジョン中のSSLの混合比率が0.5%では水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は特にないが、SSL混合比率が1.25%で水中油滴型エマルジョンの安定性に良い影響を与え、SSL混合比率が2.5%で水中油滴型エマルジョンの安定性に優れた影響を与えた。この結果よりエマルジョン液に対する界面活性剤の濃度を重量パーセントで2.5%とすると安定性の良好なエマルジョンを製造することができることが判明した。
【0063】
[実施例2]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、ステアロイル乳酸ナトリウム、DKF−160、DKF−110、DKF−50、トゥイーン60、スパン60の各種界面活性剤5gを水と合わせて100gとなるように分散させて界面活性剤−水混合液を作成し、これと100gのひまわり油を実験室のミキサーに入れて10分間攪拌した。これによって得られたエマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与える各種界面活性剤の影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示される様に、スパン60を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は不良であるが、トゥイーン60若しくはDKF−50を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に良好な影響を与え、DKF−110若しくはDKF−160を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に非常に良好な影響を与え、SSLを用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に極めて良好な影響を与えたことがわかる。この結果より界面活性剤の中でもステアロイル乳酸塩の界面活性剤SSL、蔗糖脂肪酸エステルの界面活性剤DKF−160、DKF−110が有効に用いることができる界面活性剤であることがわかる。
【0066】
[実施例3]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、各種油の適正評価試験を行った。まず5gのステアロイル乳酸ナトリウムと水を合わせて100gとして実験室のミキサーに入れ、さらにひまわり油100gを入れ、10分間攪拌した。同様の試料をベニバナ油、ぬか油、ヒマシ油、扁桃油、胡麻油を用いて作成し、これによって得られたエマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与える各種油の種別による影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その評価結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示される様に、胡麻油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は不良であるが、扁桃油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に良好な影響を与え、ヒマシ油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に非常に良好な影響を与え、ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油、を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に極めて良好な影響を与えたことがわかる。
【0069】
[実施例4]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、水中油滴型エマルジョン中の油の混合比率を変え、水中油滴型エマルジョンを作成した。エマルジョンの安定性を決定する主な要素の1つはエマルジョン中の油分である。5gのSSLと合わせて100gとなるように水を混合してSSL混合液を作成した。そして、SSL混合液とひまわり油とを表4の比率で混合してエマルジョンの安定性について観察した。表4に示される様に、エマルジョン中の油分の増加が、エマルジョンの不安定性という結果になり、エマルジョン中の油分60%までであれば安定したエマルジョンを作成出来ることがわかった。
【0070】
【表4】
【0071】
[実施例5]
ステアロイル乳酸ナトリウム、蔗糖脂肪酸エステル(DKF)などの界面活性剤を複数種使用して製造されたエマルジョンの安定性について検証するために、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)、蔗糖脂肪酸エステル(DKF)などの界面活性剤の混和液で水中油滴型エマルジョンを作成した。ひまわり油100gを実験室のミキサーに入れ、そこにステアロイル乳酸ナトリウム2.5g、あるいは蔗糖脂肪酸エステル2.5gを水と混合して調製した混合液各50gを合わせた混合液100gを入れ、10分間ブレンダーで混合した。その結果を表5に示す。表5に示す様に、ステアロイル乳酸ナトリウムから成る界面活性剤と蔗糖脂肪酸エステルを併用して製造されたエマルジョンが安定であることが確認された。
【0072】
【表5】
【0073】
[実施例6]
水中油滴型エマルジョンの製造中に、様々な塩を使ってエマルジョンの安定性を観察した。まず、5gの界面活性剤と水を混合して100gとした界面活性剤−水混合液を作成し、この混合液50gと油50gを混合してエマルジョン100gを製造した。さらにそこに、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸二アンモニウム、乳酸ナトリウムをそれぞれ所定量添加してエマルジョンの安定性を観察した。その結果を表6に示す。表6から塩の濃度を制限することで相分離を防ぎ、エマルジョン中の塩を増やすことで相分離が発生することがわかる。
【0074】
【表6】
【0075】
[実施例7]
表7に示す実施例7−1〜5及び比較例の浄化剤の分解性試験を好気環境のもとに実施した。この為に、5Lガラス製ボトルを使用し、3Lの水に500mg/Lの濃度でエマルジョンを混ぜ、汚泥2%を加え、スターラーで掻き混ぜながら、好気環境のもと実験を実施した。浄化剤の分解性を定期的に化学的酸素要求量(COD)を分析することにより測定した。微生物に対する栄養源の供給性能は、CODとしておよそ100mg/L以上が必要である。図2は時間経過とエマルジョンの分解性の傾向を示す。図2に示される様に本発明の浄化剤である実施例7−1〜5は、CODが長期間に亘って残留し、持続性が高い事がわかる。一方、広く使用されている微生物栄養源である比較例の酵母エキスの場合、約30日程度でCODが100mg/L以下となった。以上の結果より、本発明の浄化剤の栄養源供給の持続力が高い事が示された。
【0076】
【表7】
【0077】
[実施例8]
微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレン(TCE)で汚染された地下水5Lをミクロコスモに使用した。地下水の汚染濃度は、トリクロロエチレンで約5mg/Lであった。地下水を嫌気チャンバーにおいて5Lのガラス製容器に移し入れ、表8に示される本発明の成分の異なる各浄化剤を500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し、さらに容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)、塩化ビニル(VC)、エチレンの濃度を150日間にわたり定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を実施例8−1、実施例8−2、実施例8−3、実施例8−4、実施例8−5、実施例8−6、実施例8−7、実施例8−8、実施例8−9、実施例8−10、実施例8−11、実施例8−12、実施例8−13、実施例8−14、実施例8−15、実施例8−16、実施例8−17として、表8に示す。また図3から図19に実施例8−1〜17の試験経過における経過時間(日)とVOC濃度(mg/L)の変化の態様を示す。
【0078】
表8及び図3から図19に示される様に、本発明の浄化剤により地下水中の揮発性有機塩素化合物を浄化できることが示された。
【0079】
【表8】
【0080】
[実施例9]
微生物による揮発性有機塩素化合物の分解に対する本発明の浄化剤の効果、特に汚染が高濃度の場合について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレンで汚染された地下水5Lをミクロコスモに使用した。地下水の汚染濃度は、トリクロロエチレンで約5mg/Lであった。この地下水にトリクロロエチレン濃度20mg/Lとなるようにトリクロロエチレンを追加し、地下水を嫌気チャンバーにおいて5Lのガラス製容器に移し入れ、本発明の浄化剤としてひまわり油、SSLと酵母エキス(実施例)と酵母エキスのみ(比較例)をそれぞれ500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し、さらに容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。その結果を図20(実施例)と図21(比較例)に示す。ここでT−VOCは、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルの総量を示す。また、図22には、T−VOCについて実施例と比較例の場合を示した。図20から図22に示される様に、本発明の浄化剤の場合には、高濃度の場合にも持続的に効果を発揮して浄化に至っているが、比較例の場合には初期においては、本発明の浄化剤よりも浄化速度が速いものの、次第に効果が薄れて最終的には浄化に至っていないことがわかる。以上のことより、本発明の浄化剤が高濃度の汚染に対しても浄化効果を持続的に発揮することを実証することができた。
【0081】
[実施例10]
微生物による揮発性有機塩素化合物の分解に対する本発明の浄化剤の効果、特に土壌汚染に対する効果について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレンで汚染された土壌2.5kgと地下水2.5Lを嫌気チャンバー内において5Lガラス容器に加えてミクロコスモを6つ作成した。さらに、そこにひまわり油、SSLと酵母エキスから成る本発明の浄化剤(実施例)と酵母エキスのみ(比較例)をそれぞれ500mg/Lとなるように3つのミクロコスモに添加し、さらに満杯になるまで地下水を追加した後、容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。3つのミクロコスモの平均の結果を図23(実施例)と図24(比較例)に示す。ここでT−VOCは、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルの総量を示す。図23と図24に示される様に、本発明の浄化剤の場合には、初期に溶出効果により土壌からVOC類を溶脱させ、さらに持続的に効果を発揮して浄化に至っている。一方、比較例の場合には、土壌から汚染を溶出させることができないためか、最終的に浄化に至っていないことがわかる。以上のことより、本発明の浄化剤が土壌汚染に対しても浄化効果を持続的に発揮することを実証することができた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】浄化剤による汚染浄化フローを示す。
【図2】実施例7−1〜5及び比較例の浄化剤の分解性試験を好気環境のもとに実施した結果を示す図である。
【図3】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−1において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図4】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−2において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図5】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−3において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図6】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−4において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図7】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−5において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図8】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−6において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図9】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−7において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図10】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−8において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図11】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−9において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図12】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−10において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図13】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−11において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図14】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−12において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図15】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−13において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図16】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−14において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図17】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−15において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図18】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−16において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図19】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−17において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図20】本発明の浄化剤の実施例としてひまわり油、SSLと酵母エキスをそれぞれ500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し嫌気環境のもとミクロコスモを培養し、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図21】本発明の比較例として酵母エキスのみを500mg/Lミクロコスモに添加し、嫌気環境のもとミクロコスモを培養してトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図22】図20に示す実施例及び図21に示す比較例におけるT−VOCの変化を示す図である。
【図23】本発明の実施例の浄化剤の土壌汚染に対する効果について評価する為にミクロコスモ実験を行い揮発性有機塩素化合物の濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図24】本発明の実施例に対する比較例として500mg/Lの酵母エキスのみを用いミクロコスモ実験を行い揮発性有機塩素化合物の濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌及び地下水の有機塩素化合物を浄化する浄化剤及び土壌及び地下水の有機塩素化合物の浄化方法に関し、より詳細には、難透水性或いは高濃度汚染が存在する土壌及び地下水を浄化するための浄化剤及びその浄化剤を用いた有機塩素化合物の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染について
テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなどに代表される有機塩素化合物は、炭化水素または炭素に塩素が付加した物質であり、人工的に製造され、過去に溶剤として多くの産業分野において脱脂、洗浄などに利用され、生物に対する有害性、環境における難分解性、蓄積性が問題となり、世界的に有害物質として認識されている。日本においては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンなど10物質について、土壌、地下水に関する環境基準が設定されている。これらは、不適切な使用、保管方法が原因となり地下の土壌や地下水汚染を引き起こしており、早期の浄化が求められている。
【0003】
有機塩素化合物のバイオレメディエーション
有害な化学物質により汚染された環境を浄化する手段として、微生物を利用して浄化する方法(バイオレメディエーション)が注目されている。この方法は、従来の物理的・化学的処理方法に比べて動力・設備等が低コストであり、原位置浄化が容易であることが大きな利点である。バイオレメディエーションは、汚染物質を分解する能力の高い外来微生物を添加することにより浄化するバイオオーギュメンテーションと、微生物に栄養源等を供給して増殖力、あるいは汚染物質の代謝力を高めることにより浄化するバイオスティミュレーションに大別される。外来微生物を利用するバイオオーギュメンテーションについては現在のところ、微生物の変異、域外への拡散などを考慮しながら実用化の方向へ進んでいる。一方、バイオスティミュレーションは、土着の微生物を利用することができ、また栄養塩類とその他材料を対象となる環境に添加するだけでよいので、多くの汚染サイトの原位置浄化工事において採用されるようになってきている。
【0004】
有機塩素化合物の中でも塩素数が多いテトラクロロエチレン(PCE)やトリクロロエチレン(TCE)などは、嫌気性微生物による還元脱塩素化により逐次分解されることが知られている。従来の有機塩素化合物のバイオレメディエーションにおいては、この嫌気性微生物を利用する方法が主流である。
【0005】
特許文献1には、塩素化脂肪族炭水化物の微生物分解の為の水素ガスの使用について公開している。水中の水素ガスの溶解性は2mg/l以下で、塩素化脂肪族炭水化物の微生物分解の為に要求される水素濃度と比べ非常に低く、この方法は汚染物質が完全に除去されるまで水素ガスを注入し続ける必要があり、原位置における嫌気性バイオレメディエーションにおいて好ましい手段とはいえない。
【0006】
特許文献2には、無害な油の注入による帯水層の原位置微生物レメディエーションの促進方法を公開している。油は元来粘度が高く、密度が低い為、汚染された帯水層に孔から油を注入する際には、十分な圧力をかける特殊な注入技術を必要となる。また注入した油と帯水層の水が良く混ざって拡散することがない。
【0007】
特許文献3には、微生物レメディエーションの為に不活性粒子に浸透する油又は固化した油を使用する方法とその材料構成について公開している。この方法において油は徐放性の炭素供給源となるが、ポリマーや粘土粒子などの固化した油を作成する為に使用される外部物質により、土壌間隙が塞がるという問題が起こる。よって、この方法は原位置におけるバイオレメディエーションにとって適切ではない。
【0008】
特許文献4には、嫌気性バイオレメディエーションのための微生物の活動と還元作用を促進する乳酸などのヒドロキシル酸をゆっくり放出するポリ乳酸化合物について公開している。この材料は有機塩素化合物の汚染除去をする物質として有効であることが広く認識されているが、製造コストの高さや、媒体の粘度の高さによる特殊注入技術が必要となる為、比較的多量の材料が必要となる原位置浄化においては経済的ではない。
【0009】
特許文献5には、DNAPLsの還元的脱ハロゲン化にゼロ価の金属のエマルジョンの使用する方法について公開している。この発明の不利な点は添加された鉄が形態を変えて鉄化合物として帯水層に残ることである。
【0010】
以上のように、バイオスティミュレーションを原位置浄化に適用する場合に、汚染が広範囲に分布している場合が多く、それに応じて微生物の分解効果を発揮させるため、浄化対象範囲に栄養源類、その他材料を拡散させる必要がある。また、添加した材料が汚染を浄化した後も残留することは、二次汚染の原因ともなることから望ましくない。
【0011】
本発明者らは、従来のバイオレメディエーション剤の課題を解消すべく、嫌気性微生物による有機塩素化合物の浄化に関して特許文献6及び特許文献7において栄養剤を公開した。これらの技術は、栄養源、エネルギー源となる材料の水溶性が高く、また生分解性がよいので、土壌中において拡散しやすく、また嫌気状態を造成し汚染を分解・浄化するまでの工程が迅速に進行する。この結果、井戸の間隔を広く取ることが可能となり、少ない箇所から注入することにより広い範囲に効果を及ぼすことが可能である。また妨害物質の影響が及ぶ前に汚染を分解・浄化することが可能となり、浄化における作業量の低減、浄化期間の短縮を達成することが可能となった。さらに、環境中における生分解性の高い成分が選択されており、浄化完了後に材料は二酸化炭素及び水になり、現場に残留することはない。
【0012】
難透水性土壌
有機塩素化合物を浄化する場合に問題となるのは、有機塩素化合物が土壌に吸着しやすいという性質である。汚染メカニズムとして、有機塩素化合物が地下に浸透する場合に不飽和層土壌に吸着しながら飽和層に達し、地下水の流れに影響を受けながら砂礫層、砂層などの高透水性土壌を浸透していき、シルト層、粘土層などの難透水性土壌に達して汚染部位を形成することが多い。
【0013】
同時に有機塩素化合物は、土壌/水の分配比(KOC)が高く土壌に吸着しやすい。特に高濃度に汚染されている場合には、土壌への付着が顕著である。一方、微生物は、水に溶けた有機塩素化合物を分解する。したがって、微生物が地下水中の有機塩素化合物を分解しても、有機塩素化合物が土壌から地下水に再び溶出するため、地下水中の見かけ濃度は減少せず、浄化期間が長くなってしまう。
【0014】
このように多くの汚染現場において難透水性の土壌に汚染が存在するが、生分解性の高い材料を使用すると、地下水中の汚染は速やかに浄化されるものの、土壌に付着した汚染が地下水に溶出して分解しきる前に栄養材料が消費されてしまい、土壌に残留した汚染が地下水に再溶出するので、土壌及び地下水の汚染が浄化される前に栄養材料が不足する。したがって、栄養剤を複数回に分割して注入する必要があり、長期間にわたり注入装置を設置するためのスペース、注入作業負担及びコストなどが課題となる。一方、あまりに生分解性の低い材料を使用すると、汚染が浄化された後もサイトに残留してしまうおそれがある。また上流から流れ込む地下水の影響により地下水中の嫌気性を維持することが困難になる可能性が有る。さらに、同時に土壌中における栄養剤の移動性を高くすることも考慮しなければならない。
【0015】
界面活性剤及び油
有機塩素化合物を浄化するために界面活性剤を利用して土壌から有機塩素化合物を溶出させて物理・化学処理する方法が開示されている。
特許文献8には、界面活性剤により土壌から有機塩素化合物を脱離して分離・回収する方法が開示されている。特許文献9には、有機汚染物質溶出促進剤により汚染地盤構成物類から汚染物質を溶出させ、酸化剤により汚染物質を分解する方法が開示されている。特許文献10には、有機塩素化合物にアルカリ、溶剤としてアルコール、水及び界面活性剤を加えてエマルジョンとし、それを電解還元する方法が開示されている。特許文献11には、有機汚染物質を含む土壌に水または界面活性剤水溶液を添加して混合して対象土壌から汚染物質を分離した後、対象物質を含む水または界面活性剤水溶液を類似体により吸着、分離、除去または捕捉する方法が開示されている。
【0016】
しかし、これらの方法において現場において地下水に界面活性剤を添加し、土壌から脱離した有機塩素化合物を地表において回収あるいは分解する場合、揚水及び地下水の回収などに大規模な装置が必要となり、建造物がある現場には不向きである。また、初期設備コスト並びに運転コストが高くなる。また、これらの方法は、環境負荷の高い技術といえ、原位置浄化方法としては好ましくない。
【0017】
徐放性材料
微生物を利用して汚染を浄化する方法において栄養またはエネルギー源を徐放する材料もある。例えば、ポリ乳酸のような徐放性の電子供与体が有機塩素化合物の浄化材料として利用されている。他の方法として長期間に渡って電子供与体を放出する可能性がある大豆油やカノーラ油やオレイン酸塩を含む植物性油がある。植物性油は嫌気性微生物を活発にする有効な電子供与体となる可能性があり、ポリ乳酸と比べとても粘性が低い。
【0018】
しかし、これらの材料は、水よりもはるかに粘性が高いので、材料が土壌間隙を塞ぐといった可能性があるために飽和層の地下水中における分散が容易ではない。よって、地下水中での拡散性があまり高くなく、注入位置からターゲットとなる汚染部位まで到達しにくいため、注入井戸の間隔が狭くなり、注入井戸の本数が多くなることにより浄化コスト、作業量が多くなるという問題があった。特に乳化油の大きな液滴又は純粋な植物性油の注入は、到達エリアにおいて地下水の自由な流れを妨害し土壌の間隙を塞いでしまうので、注入初期において土壌の透水性が低下してしまう。そうなると浄化対象範囲が狭く限定されてしまうので、原位置における浄化手段として好ましくない。
【0019】
また、ポリ乳酸の製造コストはとても高く、高濃度のポリ乳酸の注入には特別な注入技術を要する。そのため全プロジェクトコストは非常に高くなる。さらに、有機塩素化合物、特には塩素化数の多いPCE、TCEなどの生分解に有効な微生物の活動環境とするために嫌気状態を速やかに造成する必要があるが、従来品は徐放性であるために分解性が低く、したがって、嫌気状態を造成するために時間がかかり、結果として浄化の遅延、妨害物質の影響を受けやすいという問題があった。
【0020】
界面活性剤及び油を利用したバイオレメディエーション
微生物を利用した汚染浄化において有機塩素化合物が脂溶性であることを利用して土壌の汚染を浄化する手段として界面活性剤、油類を利用する方法が有効であることが知られている。例えば、特許文献12において食品由来の廃油類、液状油脂類又は液状エマルジョンにより土壌等から有機塩素化合物を溶離させて微生物により分解する方法が開示されている。特許文献13には、油汚染土壌を生分解性洗浄剤により洗浄し、洗浄液と土壌を分離して、洗浄液を微生物により浄化する方法が開示されている。特許文献14及び特許文献15には、有機塩素系化合物で汚染された被処理物質に、嫌気性および好気性微生物を混合し、嫌気条件および好気条件を交互に繰り返しながら分解処理する方法において、分解処理を、油脂及び/または界面活性剤の存在下で行う方法が開示されている。特許文献16には、徐放性基材から放出された油脂および/または界面活性剤により有機塩素化合物を脱離または溶出させ、脱離した有機塩素化合物を微生物の作用によって分解する方法が開示されている。
【0021】
これらの方法において、地下水或いは土壌を浄化するにあたり原位置において油脂及び/または界面活性剤を拡散させて広げる手段が考慮されていない。したがって、処理物質の量と処理範囲が限定できる、例えば廃棄物処理プラントなどに適用することは可能であるが、処理範囲を限定されていない、例えば工場敷地における土壌、地下水の汚染を原位置において浄化することは困難で、もしも実施しようとすると材料を供給するための井戸を多く設置する必要があり、また注入作業も煩雑になるため、浄化コストが極めて高くなる。以上のようにこれらの方法は、一般的な汚染環境を原位置で浄化する際の適用性に難点がある。
【0022】
【特許文献1】米国特許5602296号公報
【特許文献2】米国特許5265674号公報
【特許文献3】米国特許6331300号公報
【特許文献4】米国特許6420594号公報
【特許文献5】米国特許6664298号公報
【特許文献6】特開2005−185870号公報
【特許文献7】特開2005−288276号公報
【特許文献8】特開平09−075907号公報
【特許文献9】特開2001−300506号公報
【特許文献10】特開2003−268583号公報
【特許文献11】特開2005−081209号公報
【特許文献12】特開2003−190922号公報
【特許文献13】特開2003−320364号公報
【特許文献14】特開2005−013218号公報
【特許文献15】特開2003−164849号公報
【特許文献16】特開2005−262107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
油類または界面活性剤を利用して有機塩素化合物を除去して浄化する方法において、先に挙げた従来の方法では、浄化材料を汚染サイトに広げる手段が考慮されておらず、ほとんどの場合プラント処理に限定され、原位置における処理に適用することが困難である。 汚染サイトに拡散しにくい材料の場合、浄化の効果は注入している井戸の周辺のみに限定され、自然環境における土壌・地下水汚染のように汚染が広がっているような条件においては、多くの注入井戸を設置し、また注入しなければならないため、浄化コストが高くなる要因となっていた。また、有機塩素化合物を溶出させるための油及び界面活性剤は、通常分子構造が大きく分解されにくく、浄化後もサイトに残留する可能性があり、浄化剤による二次汚染のおそれがあった。
【0024】
本発明は、土壌、地下水及び底質、特には難透水性土壌が存在するサイトにおける有機塩素化合物を、原位置においてかつ効果的に浄化するための浄化剤及びこれを用いた有機塩素化合物の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ひまわり油又はベニバナ油又はぬか油のいずれか一つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤から形成される水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤が有機塩素化合物を、原位置においてかつ効果的に浄化するための浄化剤として最適であることを見出した。
【0026】
すなわち本発明の浄化剤はひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含むことを特徴とする。
【0027】
ここにエマルジョンとは、水中に混じりあわない他の液体が微細粒子となって、分散、浮遊している混合物であり、水中油滴型エマルジョンとは外相(連続相)にある水中において油と外相液との表面張力が弱まり、乳化し、外相液が油を包んだ状態(水中油滴型エマルジョン)の微細な油滴となって分散した状態の液状混合物である。
【0028】
ここでいう水とは、水道水、ミネラルウォーター、さらにこれらを浄水器などにより処理した水(アルカリイオン水、活性炭ろ過水など)などのように飲料に供される水、水道水、工業用水などを精製処理したイオン交換水、逆浸透水、蒸留水、超純水などが該当する。また、自然環境中の河川水、湖沼水、地下水、雨水などのいわゆる淡水、工業用水、工業排水などについては、使用に先立ち含有する油分、浮遊物、金属類、イオン類などが除去されている必要があり、水道水質基準を満足していることが望ましい。海水については、塩分がエマルジョンの構造安定性に悪影響を及ぼすことから、脱塩処理などにより淡水化されている必要がある。なお、本発明の材料を地下水など自然環境に対して使用する場合には、地下水環境基準、地下浸透基準などの環境基準を満足して使用するべきであり、エマルジョンの製造に使用する水の水質には特に配慮する必要がある。
【0029】
水中でのひまわり油及びベニバナ油及びぬか油のうち少なくともいずれか1以上の油のエマルジョンに対する混合比率を20〜60%(wt%:以下同じ)に調整するのは、土壌間隙を通過するために必要なエマルジョンのサイズの維持と浄化に寄与する油の比率を高めることを考慮する必要があるからであり、浄化剤として好ましい。
【0030】
さらに界面活性剤はステアロイル乳酸塩及び/又は蔗糖脂肪酸エステルとすることができ、かかる界面活性剤は、その混合比率を0.5%から2.5%の範囲とする。土壌間隙を通過するために必要な水中油滴型エマルジョンの安定性を向上する必要があるからである。
この混合比率が0.5%未満である場合には、水中油滴型エマルジョンの安定性を向上することはできず好ましくない。
また2.5%を超える混合比率とすると、界面活性剤が水に対して混和する限界を超えてしまいエマルジョンの形成に寄与しなくなるため、好ましくない。
【0031】
また本発明の有機塩素化合物の浄化方法は、本発明の浄化剤と共に栄養材料を添加することを特徴とする。
【0032】
この栄養材料とは、土着の微生物に栄養源等を供給して増殖力、あるいは汚染物質の代謝力を高める栄養源、エネルギー源となることをその一般的性状とするものである。この栄養材料としては酵母エキス又は豆乳又はコーン乳又はペプトンのうちのいずれか1つ以上が選択される。
【0033】
これらの栄養材料は、特には水溶性が高く、また生分解性が良好で、土壌中において拡散しやすく、また嫌気状態を造成し汚染を分解・浄化するまでの工程が迅速に進行することに寄与する栄養材料として選択される。さらに、これらの栄養材料は環境中における生分解性の高い成分として選択され、浄化完了後に二酸化炭素及び水になり、現場に残留することのない栄養材料として選択される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の浄化剤によれば、有機塩素化合物による汚染を浄化するための材料として選択された油と界面活性剤から構成される水中油滴型エマルジョンを含むので、この水中油滴型エマルジョンは、そのサイズが数ミクロンで微小サイズであり土壌中において優れた移動性を有することから、地下水に注入するだけで地下水の流れと濃度勾配により浄化対象範囲に拡散して効果を発揮し、ある注入井戸から広範囲に効果を発揮することができ、原位置浄化において注入用の井戸を多く設置する必要が無く、注入のための設備コストや運転コストの低減が可能となる。また地下水の上流から注入して下流にまで浄化効果を広範囲かつ持続的に発揮し、浄化効果を及ぼすことができるので、地表に建造物があっても問題はなく、現場の諸条件に左右されることなく多くの汚染現場に適用することが可能となり、注入工法を適用する際の制限条件を解消することもできる。
【0035】
さらに水中油滴型エマルジョンを構成する油、界面活性剤は、従来の低分子栄養源類に比べると分解速度が遅く、微生物による分解影響領域がある程度の期間にわたって維持されるので、例えば工場の敷地境界域に注入すると汚染の域外流出の防止対策になり、同時に上流からのもらい汚染の防止対策ともなる。
【0036】
また、本発明の浄化剤が含む水中油滴型エマルジョンの構成成分である油及び界面活性剤は、汚染物質が脂溶性であることから土壌から地下水への汚染の溶出を促進することができるので、土壌に付着した汚染のバイオアベイラビリティを高めることにより浄化期間を短縮することができる。
【0037】
さらに本発明の浄化剤が含む水中油滴型エマルジョンの構成成分である油及び界面活性剤は、好気性微生物が酸素を消費して地下水を嫌気条件とし、さらに嫌気性微生物が有機塩素化合物を還元脱塩化するための水素供与源となる。これらの成分は、油類、界面活性剤の中から生分解性が高い材料から選定され、一定期間にわたり徐々に分解されて有機酸を持続的に生成し、微生物に対して電子供与源としての効果を長期的に発揮するため、難透水性土壌から地下水へ継続的に溶出する汚染に対して効果を発揮すると共に浄化後は環境中に残留しない。したがって環境に対する負荷が小さく使用前の環境への速やかな復元が可能となる。
【0038】
さらに、本発明の有機塩素化合物の浄化方法は、本発明の水中油滴型エマルジョンを含む浄化剤とともに酵母エキス、豆乳、コーン乳、ペプトンなどの栄養源を添加するので、これらの栄養源は多くの種類の好気性微生物が地下水中の酸素を電子受容体として消費して嫌気状態を造成するために利用され、好気性微生物を活性化・増殖させて、有機塩素化合物を微生物により分解するために最適な嫌気状態を速やかに造成することができる。また同時に嫌気性微生物が有機塩素化合物を電子受容体として脱塩素化する際の電子供与体としても作用する。従来の浄化剤では困難であった短期間での嫌気条件の造成を可能としたことにより、嫌気性微生物を利用した浄化期間をさらに短縮することが可能となる。以上の利点により、難透水性土壌や高濃度汚染の存在するサイトに対処可能になり、汚染分布、土質、建造物の有無など条件の異なるサイトに対する適用性及び浄化効率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に本発明を実施するための最良の形態につき説明する。
図1は、本発明の浄化剤による汚染浄化フローを示す。
この図1に示す汚染浄化フローで実施される本発明の有機塩素化合物の浄化方法による浄化の対象は、有機塩素化合物により汚染された土壌、地下水、底質などが該当し、さらには掘削された土壌、揚水された地下水、汚泥、表層水なども浄化対象となり、これらには限定されない。
【0040】
図1に示される様に本発明の浄化剤による汚染浄化プロセスは浄化剤製造工程1と汚染浄化工程10の2段階のプロセスよりなる。
浄化剤製造工程1では、水に油を加え、さらに界面活性剤を加えた上でホモジナイザー、高剪断ミキサー、ホモミキサーによる混合(20℃〜60℃)が行われる。
【0041】
以上の浄化剤製造工程1で水に加えられ、浄化剤の構成成分とされる油としては、ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のうちいずれか1つ以上選択したものとされる。これらの油は、植物体から抽出された油分であり、微生物に分解されて脂肪酸を発生し、微生物が有機塩素化合物を脱塩素化する反応における電子供与体となる。また、同時に土壌に付着した有機塩素化合物を地下水に溶出させる効果も有する。これらの材料は、植物由来の物質であることから環境中において有害性が極めて低いため、地下水などの自然環境に添加するための浄化材料として好ましい。
【0042】
以上の浄化剤製造工程1で水に加えられ、浄化剤の構成成分とされる界面活性剤としては、食品・医薬・化学分野において使用される界面活性剤のうち、生分解性が高いこと、生分解されて脂肪酸を発生すること、油との混和性がよいことを条件としてステアロイル乳酸塩及び/又は蔗糖脂肪酸エステルが好適に用いられる。これらは、親水性・親油性バランスがよく、また水中における構造安定性が高く、上記油を水中において微細なサイズのエマルジョンとするための界面活性剤として作用する。また前記油と同様にこれらは、土壌に付着した有機塩素化合物を地下水に溶出させる効果も有する。
【0043】
また、これらの材料は、植物由来の物質であり、自然環境に対する負荷が低く、環境中において有害性が無いため、食品業界において乳化剤として使用されている。また、微生物に対して毒性がなく、微生物により分解されると電子供与体となる脂肪酸を発生して、有機塩素化合物が微生物により電子受容体として還元脱塩素化されて無害化される作用に寄与するので、これらの材料は地下水などの自然環境に添加するための浄化材料として好ましい。
【0044】
一般に、界面活性剤としては、ステアロイル乳酸ナトリウム等のステアロイル乳酸塩、DKF−160やDKF−100等の蔗糖脂肪酸エステル、トゥイーン60などのポリソルベート、スパン60などのソルビタンエステル、大豆レシチンなどが挙げられる。しかし、ポリソルベート系、ソルビタンエステル系、大豆レシチンなどは、水中においてエマルジョンの構造安定性が十分でなく相分離が起こりやすいため、地下水環境における浄化材料としては不適当である。
【0045】
この浄化剤製造工程1においては高コスト設備のホモジナイザーや高剪断ミキサー又は水中油滴型エマルジョンの油滴サイズを決定する低コスト設備のホモミキサーなどを利用して水中油滴型エマルジョンを製造することができる。
この場合に、水に油を加え、さらに界面活性剤を加え、ホモジナイザー、高剪断ミキサー、ホモミキサーによる混合を行う際の温度範囲を20〜60℃、さらに好ましくは40〜60℃とすることで、水中において微細かつ安定な水中油滴型エマルジョンを形成することができる。
この場合に、温度が20℃未満であると、微細均一なエマルジョンの製造が困難で、40未満では微細均一なエマルジョンの製造が容易ではない。一方、60℃を超えると、安定なエマルジョンの形成が困難となる。
【0046】
以上の浄化剤製造工程1で得られた本発明の浄化剤によって、汚染浄化工程10が実施される。
汚染浄化工程10が実施されることによって浄化される対象となる物質としては、有機塩素化合物が該当し、脂肪族では、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、トリクロロエタン、ジクロロエタン、クロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロメタンなど、芳香族では、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン、ポリ塩化ジベンゾフランなどのダイオキシン類、コプラナーPCBなどのPCB類などが挙げられ、これらに限定されない。
【0047】
この汚染浄化工程10では、サイト調査、浄化設計、注入井戸、観測井戸の設置等の予備作業を行った後、浄化設計に基づき浄化剤の希釈・濃度調整を行う。その後、エマルジョン液の注入を行うと共に、栄養源(酵母エキスなど)の注入を行う。注入された浄化剤は注入圧力及び水中油滴型エマルジョン自体の流動性によって土壌・地下水中で拡散する。すなわち本発明の浄化剤は、水中での混和性、分散性が高く、地下水に添加されると土壌間隙中を地下水の流れにより、または注入による圧力により移動し、浄化対象範囲に容易に拡散する。
【0048】
拡散した水中油滴型エマルジョンは、土着微生物による生分解によって有機酸を生成すると共に土壌に付着した有機塩素化合物を水に溶出させて、微生物により脱塩素化することができるようにする。有機塩素化合物は、一般に水溶性が低く、また土壌中の有機物の存在下で土壌に吸着しやすくなり、多くの汚染現場では、地下水よりも土壌に分配されている。そのため、地下水中の有機塩素化合物を除去、あるいは分解しても、土壌から溶解度に応じて有機塩素化合物が再溶出するため、浄化作業を延々と継続する必要が生じる場合がある。これに対して本発明の浄化剤は、その界面活性効果と共溶媒効果により土壌に付着した有機塩素化合物を地下水中に溶出させることができる。
【0049】
地下水中に溶出された有機塩素化合物は、微生物により電子受容体として還元脱塩素化されて無害化されるので、従来浄化材料では浄化が長期化する傾向にあった高濃度の汚染に対しても浄化効果を促進することが可能となる。
【0050】
さらに、地下水中の水中油滴型エマルジョンが土着微生物により徐々に分解されると、水素、酢酸、プロピオン酸、乳酸などの脂肪酸などが生成し、嫌気性微生物が有機塩素化合物を電子受容体として脱塩素化するための電子供与体として作用する。
以上の汚染浄化工程10で有機塩素化合物の還元脱塩素化・浄化が行われる。
【0051】
汚染浄化工程10では、本発明の浄化剤と共に酵母エキス及び豆乳及びコーン乳及びペプトンのうちのいずれか1つ以上を含む栄養材料を添加するのが好ましい。これらは、いずれも微生物にとって増殖、活性化を促す栄養源として作用する。
【0052】
豆乳、コーン乳は、それぞれ大豆、とうもろこしから製造された液体である。豆乳は、豆腐の製造工程において大豆から絞り出た白色液体であり、水溶性のたんぱく質、グリシニンをはじめとする多くの種類のアミノ酸により構成されており、アミノ酸、たんぱく質を豊富に含むので、好気性、嫌気性を問わず様々な微生物にとって好適な栄養源として作用する。また豆乳、コーン乳に含まれるたんぱく質は水溶性であり、地下水中において拡散しやすく、地下水に添加した後に広範囲に供給することができる。さらに水溶性のビタミン類も含むので、微生物を活性化するための材料として好ましい。
【0053】
酵母エキスは、酵母の有用な成分を自己消化や酵素、熱水などの処理を行うことにより抽出されたエキスである。主成分としてアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含むので、微生物に対する栄養源として好ましい。また、現在の食品と食品添加物との分類では、酵母エキスは食品添加物ではなく、醤油や昆布エキスなどと同様に食品に分類されているので、環境に対する安全性が高い。また、酵母エキスが微生物により分解されて生成するアミノ酸、その他の成分も微生物にとって栄養源として作用するので、浄化に使用する材料の成分として好ましい。
【0054】
ペプトンは、天然の蛋白質を加水分解又はある種の酵素(ペプシン、パパイン、パンクレアチン等)の作用により処理して得た可溶性の物質である。細菌の増殖培地や各種発酵、純培養において使用される物質である。ペプトンが微生物に供給されると分解されてアミノ酸を生成する。このアミノ酸が土着の多くの微生物にとっての栄養源となるので、浄化に使用する材料として好ましい。
【0055】
これらは、いずれも好気性から嫌気性まで含めた多くの微生物にとってアミノ酸、ミネラル、ビタミン類などの栄養の供給源となり、好気性微生物が活性化・増殖することにより酸素を消費して嫌気状態を造成し、さらには、嫌気状態において有機塩素化合物を分解する微生物を活性化・増殖することで、有機塩素化合物の還元脱塩素化を促進するために供される。
【0056】
浄化剤製造工程1で得られ、汚染浄化工程10で用いられる水中油滴型エマルジョンは、土壌透水性の大きな減少を防ぐために土壌孔口1ミクロンに対し0.3ミクロン以下の中間の油滴サイズ比であることが望ましい。乳化油の注入が目の粗い土壌で行われない限り、平均油滴サイズを1ミクロン以下にすることが重要である。特に汚染の域外流出やもらい汚染対策として浸透性反応壁を設置する場合には、透水性の低下により地下水の流れが影響を受けるために注意が必要である。
【0057】
さらに水中において安定かつ移動性がよいことを考慮すると水中油滴型エマルジョンのサイズは、1ミクロン以下がよい。この水中油滴型エマルジョンを得る為には、界面活性剤を混和前に湯水に分散させ、この界面活性剤の溶液と油をミキサーに入れ混合する。
【0058】
本発明の浄化剤における油混合比率は10−65%が好ましい。さらには中くらいの粘性と良い安定性を持つ小さな液滴サイズが最適であるので、油混合比率は20〜60%が好ましく、最も好ましくは、水中油滴型エマルジョン中の油の混合比率が45〜55%となる条件がよい。
混合比率が10%未満では、充分な作用をもつエマルジョンを得ることはできず、一方65%を超えると、水中油滴が微細均一に分散したエマルジョンを得ることができない。また、20%未満では、中くらいの粘性と良い安定性を持つバランスの良い小さな液滴サイズのエマルジョンを得ることはできず、65%を超えると、粘性が過剰となり流動性を阻害する。
【0059】
地下水或いは土壌中を微生物の好適な生育条件に保つため、汚染浄化工程10で帯水層に対して薄めた水中油滴型エマルジョンを注入する際には、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのpHを調整するための材料を水中油滴型エマルジョンに添加することにより、pHを5〜9の範囲に調整するとよい。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の浄化剤及び有機塩素化合物の浄化方法の実施例につき説明する。以下の各実施例は、実施例1〜実施例8及び比較例1が図1に示す汚染浄化フローにおける浄化剤製造工程1及び本発明の浄化剤に関する。また実施例7及び図2が本発明の浄化剤の生分解性に関する。実施例8〜10及び図3〜24は汚染浄化工程10及び本発明の有機塩素化合物の浄化方法とその比較例に関する。
[実施例1]
油の混合比率を一定にし、水の中の界面活性剤の濃度を変えることで、界面活性剤の濃度が製造されるエマルジョンの安定性に与える影響を観察した。このために、界面活性剤SSL(SODIUM STEAROYL LACTYLATE:ステアロイル乳酸塩)を1g、2.5g、5gを量り取り、それぞれを湯水と合わせて100gとなるように分散させて界面活性剤の分散液を製造した。さらに、そこにひまわり油100gを加えて実験室のミキサーで10分間混ぜ、エマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与えるSSL混合比率の影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示される様に、エマルジョン中のSSLの混合比率が0.5%では水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は特にないが、SSL混合比率が1.25%で水中油滴型エマルジョンの安定性に良い影響を与え、SSL混合比率が2.5%で水中油滴型エマルジョンの安定性に優れた影響を与えた。この結果よりエマルジョン液に対する界面活性剤の濃度を重量パーセントで2.5%とすると安定性の良好なエマルジョンを製造することができることが判明した。
【0063】
[実施例2]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、ステアロイル乳酸ナトリウム、DKF−160、DKF−110、DKF−50、トゥイーン60、スパン60の各種界面活性剤5gを水と合わせて100gとなるように分散させて界面活性剤−水混合液を作成し、これと100gのひまわり油を実験室のミキサーに入れて10分間攪拌した。これによって得られたエマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与える各種界面活性剤の影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示される様に、スパン60を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は不良であるが、トゥイーン60若しくはDKF−50を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に良好な影響を与え、DKF−110若しくはDKF−160を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に非常に良好な影響を与え、SSLを用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に極めて良好な影響を与えたことがわかる。この結果より界面活性剤の中でもステアロイル乳酸塩の界面活性剤SSL、蔗糖脂肪酸エステルの界面活性剤DKF−160、DKF−110が有効に用いることができる界面活性剤であることがわかる。
【0066】
[実施例3]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、各種油の適正評価試験を行った。まず5gのステアロイル乳酸ナトリウムと水を合わせて100gとして実験室のミキサーに入れ、さらにひまわり油100gを入れ、10分間攪拌した。同様の試料をベニバナ油、ぬか油、ヒマシ油、扁桃油、胡麻油を用いて作成し、これによって得られたエマルジョンの安定性を視認観察し、水中油滴型エマルジョンの安定性に与える各種油の種別による影響を評価した。ここで、評価における基準は、製造してから24時間経過後のエマルジョンのサイズとした。サイズが10μm以上、もしくは油膜となりエマルジョンが形成されていない場合を不良(×)とし、5μm以上10μm未満である場合を可(●)とし、1μm以上5μm未満である場合を良好(○)とし、1μm未満である場合を優秀(◎)とした。その評価結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示される様に、胡麻油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に与える影響は不良であるが、扁桃油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に良好な影響を与え、ヒマシ油を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に非常に良好な影響を与え、ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油、を用いた場合には水中油滴型エマルジョンの安定性に極めて良好な影響を与えたことがわかる。
【0069】
[実施例4]
本発明の浄化剤に関する評価試験として、水中油滴型エマルジョン中の油の混合比率を変え、水中油滴型エマルジョンを作成した。エマルジョンの安定性を決定する主な要素の1つはエマルジョン中の油分である。5gのSSLと合わせて100gとなるように水を混合してSSL混合液を作成した。そして、SSL混合液とひまわり油とを表4の比率で混合してエマルジョンの安定性について観察した。表4に示される様に、エマルジョン中の油分の増加が、エマルジョンの不安定性という結果になり、エマルジョン中の油分60%までであれば安定したエマルジョンを作成出来ることがわかった。
【0070】
【表4】
【0071】
[実施例5]
ステアロイル乳酸ナトリウム、蔗糖脂肪酸エステル(DKF)などの界面活性剤を複数種使用して製造されたエマルジョンの安定性について検証するために、ステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)、蔗糖脂肪酸エステル(DKF)などの界面活性剤の混和液で水中油滴型エマルジョンを作成した。ひまわり油100gを実験室のミキサーに入れ、そこにステアロイル乳酸ナトリウム2.5g、あるいは蔗糖脂肪酸エステル2.5gを水と混合して調製した混合液各50gを合わせた混合液100gを入れ、10分間ブレンダーで混合した。その結果を表5に示す。表5に示す様に、ステアロイル乳酸ナトリウムから成る界面活性剤と蔗糖脂肪酸エステルを併用して製造されたエマルジョンが安定であることが確認された。
【0072】
【表5】
【0073】
[実施例6]
水中油滴型エマルジョンの製造中に、様々な塩を使ってエマルジョンの安定性を観察した。まず、5gの界面活性剤と水を混合して100gとした界面活性剤−水混合液を作成し、この混合液50gと油50gを混合してエマルジョン100gを製造した。さらにそこに、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸二アンモニウム、乳酸ナトリウムをそれぞれ所定量添加してエマルジョンの安定性を観察した。その結果を表6に示す。表6から塩の濃度を制限することで相分離を防ぎ、エマルジョン中の塩を増やすことで相分離が発生することがわかる。
【0074】
【表6】
【0075】
[実施例7]
表7に示す実施例7−1〜5及び比較例の浄化剤の分解性試験を好気環境のもとに実施した。この為に、5Lガラス製ボトルを使用し、3Lの水に500mg/Lの濃度でエマルジョンを混ぜ、汚泥2%を加え、スターラーで掻き混ぜながら、好気環境のもと実験を実施した。浄化剤の分解性を定期的に化学的酸素要求量(COD)を分析することにより測定した。微生物に対する栄養源の供給性能は、CODとしておよそ100mg/L以上が必要である。図2は時間経過とエマルジョンの分解性の傾向を示す。図2に示される様に本発明の浄化剤である実施例7−1〜5は、CODが長期間に亘って残留し、持続性が高い事がわかる。一方、広く使用されている微生物栄養源である比較例の酵母エキスの場合、約30日程度でCODが100mg/L以下となった。以上の結果より、本発明の浄化剤の栄養源供給の持続力が高い事が示された。
【0076】
【表7】
【0077】
[実施例8]
微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレン(TCE)で汚染された地下水5Lをミクロコスモに使用した。地下水の汚染濃度は、トリクロロエチレンで約5mg/Lであった。地下水を嫌気チャンバーにおいて5Lのガラス製容器に移し入れ、表8に示される本発明の成分の異なる各浄化剤を500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し、さらに容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)、塩化ビニル(VC)、エチレンの濃度を150日間にわたり定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を実施例8−1、実施例8−2、実施例8−3、実施例8−4、実施例8−5、実施例8−6、実施例8−7、実施例8−8、実施例8−9、実施例8−10、実施例8−11、実施例8−12、実施例8−13、実施例8−14、実施例8−15、実施例8−16、実施例8−17として、表8に示す。また図3から図19に実施例8−1〜17の試験経過における経過時間(日)とVOC濃度(mg/L)の変化の態様を示す。
【0078】
表8及び図3から図19に示される様に、本発明の浄化剤により地下水中の揮発性有機塩素化合物を浄化できることが示された。
【0079】
【表8】
【0080】
[実施例9]
微生物による揮発性有機塩素化合物の分解に対する本発明の浄化剤の効果、特に汚染が高濃度の場合について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレンで汚染された地下水5Lをミクロコスモに使用した。地下水の汚染濃度は、トリクロロエチレンで約5mg/Lであった。この地下水にトリクロロエチレン濃度20mg/Lとなるようにトリクロロエチレンを追加し、地下水を嫌気チャンバーにおいて5Lのガラス製容器に移し入れ、本発明の浄化剤としてひまわり油、SSLと酵母エキス(実施例)と酵母エキスのみ(比較例)をそれぞれ500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し、さらに容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。その結果を図20(実施例)と図21(比較例)に示す。ここでT−VOCは、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルの総量を示す。また、図22には、T−VOCについて実施例と比較例の場合を示した。図20から図22に示される様に、本発明の浄化剤の場合には、高濃度の場合にも持続的に効果を発揮して浄化に至っているが、比較例の場合には初期においては、本発明の浄化剤よりも浄化速度が速いものの、次第に効果が薄れて最終的には浄化に至っていないことがわかる。以上のことより、本発明の浄化剤が高濃度の汚染に対しても浄化効果を持続的に発揮することを実証することができた。
【0081】
[実施例10]
微生物による揮発性有機塩素化合物の分解に対する本発明の浄化剤の効果、特に土壌汚染に対する効果について評価する為にミクロコスモ実験が行われた。この為に入手したトリクロロエチレンで汚染された土壌2.5kgと地下水2.5Lを嫌気チャンバー内において5Lガラス容器に加えてミクロコスモを6つ作成した。さらに、そこにひまわり油、SSLと酵母エキスから成る本発明の浄化剤(実施例)と酵母エキスのみ(比較例)をそれぞれ500mg/Lとなるように3つのミクロコスモに添加し、さらに満杯になるまで地下水を追加した後、容器の口に空気バッグとサンプリングポートを付け、嫌気環境のもとミクロコスモを培養した。そしてトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した。測定方法は、JIS−K0125に準じた。3つのミクロコスモの平均の結果を図23(実施例)と図24(比較例)に示す。ここでT−VOCは、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルの総量を示す。図23と図24に示される様に、本発明の浄化剤の場合には、初期に溶出効果により土壌からVOC類を溶脱させ、さらに持続的に効果を発揮して浄化に至っている。一方、比較例の場合には、土壌から汚染を溶出させることができないためか、最終的に浄化に至っていないことがわかる。以上のことより、本発明の浄化剤が土壌汚染に対しても浄化効果を持続的に発揮することを実証することができた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】浄化剤による汚染浄化フローを示す。
【図2】実施例7−1〜5及び比較例の浄化剤の分解性試験を好気環境のもとに実施した結果を示す図である。
【図3】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−1において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図4】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−2において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図5】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−3において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図6】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−4において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図7】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−5において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図8】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−6において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図9】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−7において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図10】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−8において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図11】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−9において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図12】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−10において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図13】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−11において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図14】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−12において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図15】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−13において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図16】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−14において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図17】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−15において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図18】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−16において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図19】微生物による揮発性有機塩素化合物(VOC)の分解に対する本発明の浄化剤の効果について評価する為に行われたミクロコスモ実験である実施例8−17において、TCE、c−DCE、VCそれぞれの浄化に要した日数を示す図である。
【図20】本発明の浄化剤の実施例としてひまわり油、SSLと酵母エキスをそれぞれ500mg/Lとなるようにミクロコスモに添加し嫌気環境のもとミクロコスモを培養し、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図21】本発明の比較例として酵母エキスのみを500mg/Lミクロコスモに添加し、嫌気環境のもとミクロコスモを培養してトリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニル、エチレンの濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図22】図20に示す実施例及び図21に示す比較例におけるT−VOCの変化を示す図である。
【図23】本発明の実施例の浄化剤の土壌汚染に対する効果について評価する為にミクロコスモ実験を行い揮発性有機塩素化合物の濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【図24】本発明の実施例に対する比較例として500mg/Lの酵母エキスのみを用いミクロコスモ実験を行い揮発性有機塩素化合物の濃度を定期的に測定した結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含むことを特徴とする土壌又は地下水又は底質の浄化剤。
【請求項2】
汚染媒体に対して請求項1に記載の水中油滴型エマルジョンと共に栄養材料を添加することを特徴とする有機塩素化合物の浄化方法であって、当該栄養材料が酵母エキス又は豆乳又はコーン乳又はペプトンのうちのいずれか1つ以上を含む有機塩素化合物の浄化方法。
【請求項1】
ひまわり油、ベニバナ油、ぬか油のいずれか1つ以上と、ステアロイル乳酸塩、蔗糖脂肪酸エステルを含むグループのいずれか1つ以上から選択される界面活性剤とを水に混合することによって形成される水中油滴型エマルジョンを含むことを特徴とする土壌又は地下水又は底質の浄化剤。
【請求項2】
汚染媒体に対して請求項1に記載の水中油滴型エマルジョンと共に栄養材料を添加することを特徴とする有機塩素化合物の浄化方法であって、当該栄養材料が酵母エキス又は豆乳又はコーン乳又はペプトンのうちのいずれか1つ以上を含む有機塩素化合物の浄化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−49292(P2008−49292A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229375(P2006−229375)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(302008467)エコサイクル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(302008467)エコサイクル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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