説明

浄水施設の濃縮槽における臭気低減方法

【課題】 原水から懸濁物質を除去して浄水を製造する浄水施設の濃縮槽において、貯留する汚泥が腐敗し、上澄み液や汚泥は著しい臭気を発する。
【解決手段】 酸素の供給が途絶えると有機物を含む汚泥は、有機物濃度が比較的低くても細菌の働きにより腐敗が急激に進行していく。この様な状態になると汚泥は黒く変色し、玉葱が腐ったような臭いや硫化水素臭などの激しい臭気が発生する。問題解決のアプローチは、濃縮槽の汚泥を嫌気状態にしないことにある。具体的には、濃縮槽の底から汚泥をポンプで引き抜きエアレーションを施し再び濃縮槽の給泥筒の内側へ上澄み液を乱さない様に戻す。これにより、細菌は酸素呼吸に移り有機物の分解すなわち発酵が抑えられるので、濃縮槽は臭くなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水施設の濃縮槽汚泥が腐敗し臭気を発するのを低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の浄水施設の濃縮槽に汚泥を貯留していると、腐敗臭等の臭気が発生する。(例えば、特許文献1参照。)また、汚泥に含まれている有機物濃度が低くても細菌の働きで分解され著しい腐敗臭を発する。(例えば、非特許文献1「7.1嫌気性消化の機構」の項参照。)
【特許文献1】特開平7−328327号 公報,要約
【非特許文献1】「水処理工学 井出哲夫編著」,技報堂出版(株),p.356
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上に述べたように従来の濃縮槽では、汚泥が腐敗し臭気が発生していた。このため汚泥を天日乾燥するケースでは支障がでる。上澄み液も発生するメルカプタンや硫化水素臭などの強烈な臭気により再利用できなかった。しかもpHが極端な酸性を呈することから、そのままでは場外に排水できない。などの問題があった。
【0004】
次に、濃縮槽に貯留されている有機物を含む汚泥が腐敗し臭気を発生させていく工程を箇条書きする。
工程1 汚泥の有機物の濃度がある一定以上になり大気中からの酸素の供給が追いつかなくなると、汚泥は嫌気性になる。
工程2 汚泥が嫌気的条件になると細菌による有機物の分解、すなわち酸性発酵が急激に進行する。
工程3 上澄み液のpHは6未満にまで急激に低下し強烈な腐敗臭を発する。
【0005】
本発明は、従来の浄水施設の濃縮槽が有していた問題を解決しようとするものであり、臭気を発しない濃縮槽を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで汚泥を腐敗させる働きをする細菌の活動に関して説明する。嫌気性細菌や通性嫌気性菌は、酸素がない環境において有機物を酸化分解してエネルギーを獲得する。すなわち糖を分解して発酵を行うのだが、この発酵が強烈な腐敗臭をもたらす。逆に酸素が充分にある環境おいて嫌気性細菌はスーパーオキサイドが分解できず不活化する。また通性嫌気性菌は酸素呼吸によりエネルギーを獲得し増殖は盛んになるが発酵はあまり起こらない。
【0007】
従って問題解決のアプローチは、有機物を含む汚泥を嫌気性の状態にしないことにある。まず、濃縮槽の底部より汚泥をポンプで連続的に引き抜き、再び濃縮槽に戻す際ブロック等に衝突させる。衝突した衝撃で汚泥に含まれていたメルカプタンなどの臭気が拡散すると同時に空気が混入しエアレーションが完了する。次に、曝気された汚泥は、給泥筒の内側に導かれ元の汚泥の層に静かに戻されるので上澄み液と汚泥との境界が乱れない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の目的は、浄水施設の濃縮槽で発生する強烈な臭気の低減策を、エアレーションという薬品を用いない安全な手段で提供しようとするものである。しかも発生してしまった臭気を除去する“対処療法”ではなく、汚泥の腐敗そのものを防止する“根本的対策”である。また用いたエアレーション方法はシンプルで新たな動力も必要としない。さらに汚泥の濃度が低くならず濃縮槽本来の機能が損なわれない。
【0009】
浄水場としての最大のメリットは、上澄み液がそのまま再利用できることである。これで製品である水道水に異臭味問題が発生する懸念がなくなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1は本発明を実施する濃縮槽を示す概略図であり、1は濃縮槽、2は給泥筒、3はポンプ、濃縮槽の下部には圧密を利用して濃縮された汚泥4を引き抜くサクション管5が設けられている。濃縮槽上部、ポンプの吐出し口に50センチ角ほどの衝突板6を設置する。これにより請求項1で記載した浄水施設の濃縮槽における汚泥臭気の低減が行える。まずサクション管5で引き抜かれた汚泥4は、ポンプで加圧され濃縮槽の上部にセットされた衝突板6に衝突する。このあと汚泥は給泥筒2の内側を通るので、上澄み液7を乱すことなく再び濃縮槽の汚泥の層に戻される。
【0011】
給泥筒2は、上澄み液7の層を貫通し貯留している汚泥4にまで直接達する構造にしなければならない。また、サイズは余分なガスを抜くことができる容量にする必要がある。汚泥の浮き上がりを防止する為である。
【0012】
汚泥を衝突させる衝突板6の形状は平面である必要はない。汚泥の性状により曲面あるいは四角錐などの形状を選択しても良い。衝突した汚泥が、塊にならず薄く膜状に拡がる形状を選択する事が重要である。衝突板の表面に凸凹を作ることも効果がある。また衝突板の面積はポンプ吐出量に合わせて選定する。
【0013】
請求項1を実施するにあたり既設濃縮槽の構造を変える必要はないが、配管にはバイパス管や切り替え用バルブを設置する必要は生じる。図示なし。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を組み込んで、濃縮槽の汚泥臭気を低減させた例を示す。汚泥は、有機物を比較的多く含むダムを原水にする送水量約4万立方メートルの浄水場の沈でん池汚泥である。濃縮槽は容量約400立方メートルが2槽。気温が上昇する5月から10月までの間、濃縮槽は貯留している汚泥の内部からガスが発生し激しい臭気を発していた。上澄み液の臭気強度は数十倍を記録したこともあった。この浄水場では、クローズドシステムを採用していることから製品である水道水に異臭味問題を生じさせる恐れがあった。また、場外に排出するとしても臭気のほかpHが低すぎて法に抵触する恐れがあった。
【0015】
本発明を濃縮槽に組み込んだ結果、汚泥内部から海底火山の噴火のように発生していたガスが激減。上澄み液の臭気強度は数倍にまで低下しpHは6以上に戻った。また水面に浮かんでいた黄色の泡は消滅、黒く変色していた濃縮槽の汚泥も灰色になった。汚泥濃度はほとんど変化しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のシステム全体を模式的に表した図である。
【図2】図1の最も重要な部分、汚泥を衝突板に衝突させているところを模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0017】
1 濃縮槽
2 給泥筒
3 ポンプ
4 汚泥
5 サクション管
6 衝突板
7 上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水から懸濁物質を除去して水道水を製造する浄水施設の濃縮槽において、下記の工程を有することを特徴とする上澄み液及び汚泥の臭気低減方法。
工程1 濃縮槽の底部よりポンプを用いて汚泥を引き抜く工程。
工程2 工程1の次ぎの工程で、引き抜いた汚泥を、ポンプの吐出圧を利用して板やブロックなどに衝突させ、臭気を含むガスを拡散し空気を混入させる工程。
工程3 工程2の次の工程で、エアレーションした汚泥を、再び濃縮槽の給泥筒の内側に上澄み液と汚泥との境界を乱さずに静かに戻す工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−87970(P2006−87970A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272937(P2004−272937)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月10日 社団法人日本水道協会発行の「第55回 全国水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(501416760)
【Fターム(参考)】