説明

浅漬および浅漬の保存安定性の向上方法

【課題】本発明は、保存安定性に優れ且つ低コストで製造できる浅漬と、浅漬の保存安定性を向上する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る浅漬は、野菜類および調味液からなり、ナイシンを含むことを特徴とする。また、本発明に係る浅漬の保存安定性の向上方法は、野菜類および調味液からなる浅漬にナイシンを添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が改善された浅漬と、浅漬の保存安定性を向上する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浅漬は、主に野菜などに塩をまぶした上で重しをかけて製造されるが、さらに熟成させる一般的な漬物とは異なり、数十分から長くて一昼夜塩漬けするのみである。よって、好塩菌による熟成は進まないので、調味液による味付けが行われることが多い。通常、一般に流通する浅漬製品から調味液が除去されることはなく、野菜などが調味液に浸漬されたままの状態で出荷される。
【0003】
浅漬は手軽に食せることに利点があるので、水洗いなどが必要とならないよう、浅漬用調味液の塩分は比較的低い。よって、特に常温で保存された場合、浅漬製品は変色したり、また、変質して味が落ちるおそれがある。一方、保存安定性を高めるために調味液の塩分濃度を高めると、浅漬本来の食味が損なわれる。そこで、浅漬の食味を維持したまま保存安定性を高める技術が種々開発されている。
【0004】
例えば特許文献1には、洗浄した野菜を湯通しした後に急速凍結する方法が開示されている。また、特許文献2には、浅漬用容器内の空気を除去し、代わりに不活性ガスを封入して容器内の酸素濃度を低減する方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記方法を工業的に実施するには新たな製造設備の増設が必要となるなど、製造コストの問題が生じる。よって、より簡便に浅漬製品の保存安定性を向上させる技術が求められていた。
【0006】
ところで、近年、乳酸菌が生産する抗菌ペプチド、即ちバクテリオシンが、食品の保存安定性を高める成分として注目されている。バクテリオシンには、食品の物性や外観などの品質を維持できる、無味無臭であり食品の味や香りに影響を与えない、消化酵素により容易に分解されるため安全性が高い、といった利点がある。
【0007】
バクテリオシンとしては、乳酸菌であるLactococcus lactisにより生産されるナイシンが知られている。ナイシンは、主に乳製品に添加され、その保存安定性や風味を改善するために用いられている(特許文献3〜5)。
【0008】
また、特許文献6にはバクテリオシンと有機酸やアミノ酸類などとを含む食品用保存剤が開示されており、バクテリオシンとの併用成分の一つである植物成分としてフェルラ酸が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−46044号公報
【特許文献2】特開2008−136491号公報
【特許文献3】特開平4−287636号公報
【特許文献4】特開2005−151996号公報
【特許文献5】特開2007−267736号公報
【特許文献6】特開平7−39355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来、浅漬の保存安定性を向上させるための技術は知られていたが、製造装置の追加や改良が必要となるなど、製造コストを極端に高めるものであった。また、殺菌剤などを添加すれば浅漬の保存安定性は向上すると考えられるが、それでは人体に対する害や、食味の低下が懸念される。
【0011】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、保存安定性に優れ且つ低コストで製造できる浅漬と、浅漬の保存安定性を向上する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた。その結果、日本では平成21年3月に食品添加物として認可されているものの、漬物への使用は認められていないナイシンが、浅漬の保存安定性を高めることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係る浅漬は、野菜類および調味液からなり、さらにナイシンを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る浅漬で用いられるナイシンとしては、ナイシンAが好適である。ナイシンAの浅漬に対する有効性は、本発明者らによる実験的知見により確認されている。
【0015】
本発明に係る浅漬としては、さらにフェルラ酸を含むものが好ましい。フェルラ酸の配合により、ナイシンに基づく保存安定性をより一層向上させることができ、食味をさらに長期間維持することが可能になる。
【0016】
なお、特許文献6にはナイシンとの併用成分としてフェルラ酸も記載されているが、このフェルラ酸は、併用成分として開示されている多数のカテゴリーの一つである植物成分の内のさらに一例に過ぎず、実際にナイシンとフェルラ酸を併用した具体的な実験例は記載されていない。
【0017】
本発明に係る浅漬におけるナイシンの割合としては、調味液に対して2.0mg/kg以上が好適である。当該割合が2.0mg/kg以上であれば、浅漬の保存安定性をより確実に向上させることが可能になる。
【0018】
フェルラ酸の配合量としては、調味液に対して0.5g/kg以上が好ましい。ナイシンとフェルラ酸の併用効果は、フェルラ酸の配合量が比較的少なくても得られ、0.5g/kg以上であれば十分に発揮される。
【0019】
本発明に係る浅漬の保存安定性の向上方法は、野菜類および調味液からなる浅漬にナイシンを添加することを特徴とする。さらにフェルラ酸を添加すると、効果が一層顕著なものとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る浅漬は、保存安定性に優れる上、低コストで製造することができる。また、本発明方法によれば、浅漬の保存安定性を低コストで向上することが可能になる。よって本発明は、浅漬の製品化に寄与できるものとして、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ナイシンAを用いる場合と用いない場合において、浅漬製品調味液のpHの経時的変化を示す図である。
【図2】図2は、ナイシンAを用いる場合と用いない場合において、浅漬製品の食味の経時的変化を示す図である。
【図3】図3は、対照、ナイシンAのみ添加した場合、ナイシンに加えてフェルラ酸を添加した場合、およびナイシンに加えて乳酸を添加した場合において、浅漬製品調味液のpHの経時的変化を示す図である。
【図4】図4は、対照、ナイシンAのみ添加した場合、ナイシンに加えてフェルラ酸を添加した場合、およびナイシンに加えて乳酸を添加した場合において、浅漬製品調味液における乳酸菌数の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る浅漬は、野菜類および調味液からなり、ナイシンを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る浅漬の材料として用いられる野菜類は、一般的なものであれば特に制限されない。例えば、オクラなどのアオイ科果菜類;カンピョウ、キュウリ、ゴーヤ、ズッキーニ、冬瓜などのウリ科果菜類;トウガラシ、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科果菜類;トウモロコシなどのイネ科果菜類;アスパラガス、タマネギ、ニンニク、ネギ、ラッキョウなどのユリ科茎菜類;ウドなどのウコギ科茎菜類;空心菜などのヒルガオ科茎菜類;ショウガなどのショウガ科茎菜類;タケノコなどのイネ科茎菜類;レンコンなどのハス科茎菜類;カブ、コールラビ、ザーサイ、大根などのアブラナ科根菜類;ゴボウなどのキク科根菜類;ニンジンなどのセリ科根菜類;アーティチョークなどのキク科花菜類;カリフラワー、ブロッコリーなどのアブラナ科花菜類;ミョウガなどのショウガ科花菜類;エダマメ、ササゲ、シカクマメ、大豆、ナタマメ、レンズマメなどのマメ科豆類;青菜、キャベツ、小松菜、山東菜、ターサイ、高菜、チンゲンサイ、野沢菜、白菜、ホウレンソウ、水菜、壬生菜などのアブラナ科葉菜類;セリ、セロリ、パセリなどのセリ科葉菜類;ニラなどのユリ科葉菜類;フキ、レタスなどのキク科葉菜類を挙げることができる。
【0024】
漬物のうち、いわゆる古漬は、塩に長時間漬けることにより好塩菌の働きに由来する旨味などが生じてくるが、浅漬ではかかる旨味は少ないといえる。そこで浅漬の製造では、塩以外も含む調味液を用いるのが一般的である。
【0025】
調味液は、浅漬の製造に用いられるものであれば特に制限されない。浅漬用調味液の配合成分としては、例えば、食塩や塩化ナトリウム;グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニンなどのアミノ酸;グアニル酸やイノシン酸などの核酸;砂糖、異性化液糖、水飴、オリゴ糖、ステビア、サッカリン、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトールなどの甘味料;クエン酸、乳酸、酢酸、酢酸ナトリウムなどのpH調整剤;醤油、魚醤、酸分解アミノ酸液、タンパク質加水分解物、動植物エキス、酵母エキス、みりんなどの調味料などを挙げることができる。
【0026】
なお、本発明に係る浅漬は野菜類と調味液からなるが、調味液が野菜類に浸透した状態であってもよいし、また、調味液が浸透した野菜類が調味液に浸漬している状態であってもよい。同様に、本発明に係る浅漬はナイシンを含むが、ナイシンは野菜類に浸透していたり或いは野菜類の表面に付着している状態であってもよいし、野菜類が浸漬されている調味液に含まれていてもよい。
【0027】
野菜類と調味液との割合は、適宜調整すればよい。例えば、野菜類が調味液に浸漬されている状態の場合、野菜類1.0質量部に対する調味液の割合を1.0質量部以上、2.0質量部以下程度とすることができる。
【0028】
本発明の浅漬は、ナイシンを含む。ナイシンは、乳酸菌であるLactococcus lactisにより産生される抗菌ペプチドの一種であり、34のアミノ酸残基からなり、異常アミノ酸を含み、−S−基による環状構造を有するという化学構造上の特徴を有する。ナイシンは特にグラム陽性細菌に対する抗菌活性が高い一方で、ペプチドであるため比較的分解され易く、安全性が高い。ナイシンにはナイシンAとナイシンZという変異体が知られているが、本発明では何れも用いることができる。本発明者らによりその実効性が実証されていることから、ナイシンAがより好適である。
【0029】
ナイシンの使用量は、野菜類の種類、調味液の配合、浅漬の保存状態などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、調味液に対して0.5mg/kg(20IU/mL)以上、30mg/kg(1200IU/mL)以下が好ましい。当該割合が0.5mg/kg以上であれば、浅漬の保存安定性をより確実に高めることができる。一方、当該割合が高すぎると浅漬の食味が低下するおそれがあるため、当該割合としては30mg/kg以下が好適である。当該割合としては、2.0mg/kg(80IU/mL)以上がより好ましく、3.0mg/kg(120IU/mL)以上がさらに好ましく、4.0mg/kg(160IU/mL)以上が特に好ましく、また、25mg/kg(1000IU/mL)以下がより好ましく、20mg/kg(800IU/mL)以下がさらに好ましい。なお、調味液に対する当該割合とは、より具体的には、調味液とナイシンの合計質量に対するナイシンの割合、また、さらにフェルラ酸を含む場合には調味液とナイシンとフェルラ酸の合計質量に対するナイシンの割合をいうものとする。
【0030】
本発明の浅漬としては、さらにフェルラ酸を含むものが好ましい。フェルラ酸は4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸であり、植物の細胞壁の成分やその前駆体であると考えられており、その作用としては、抗酸化作用や酸化防止作用が知られている。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らによる実験的知見により、フェルラ酸をナイシンと組合わせることにより浅漬の保存安定性がより一層に向上し、特に雑菌の繁殖を顕著に抑制できることが明らかにされている。
【0031】
フェルラ酸の使用量は、野菜類の種類、調味液の配合、浅漬の保存状態などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、調味液に対して0.05g/kg以上、10g/kg以下が好ましい。当該割合が0.05g/kg以上であれば、ナイシンとの組合せにより浅漬の保存安定性をより一層顕著に高めることができる。一方、当該割合が高過ぎると浅漬の食味が低下するおそれがあるため、当該割合としては10g/kg以下が好適である。当該割合としては、0.2g/kg以上がより好ましく、0.5g/kg以上がさらに好ましく、また、8.0g/kg以下がより好ましく、5.0g/kg以下がさらに好ましい。なお、調味液に対する当該割合とは、より具体的には、調味液とナイシンとフェルラ酸の合計質量に対するフェルラ酸の割合をいうものとする。
【0032】
本発明に係る浅漬は、ナイシンを必須成分として添加し、好適にはさらにフェルラ酸を加えること以外、一般的な浅漬と同様に製造することができる。
【0033】
例えば、原料である野菜類を水洗いした後、適度な大きさに切断する。次に、切断された野菜類を一般的な条件で下漬けすることが好ましい。下漬処理により、ナイシンを含む調味液が野菜類に浸透し易くなる。具体的には、切断された野菜類を、5〜15%程度の食塩水に漬け、荷重を負荷する。野菜類に対する食塩水の使用量は0.2質量倍以上、1.0質量倍以下程度とすることができ、荷重は野菜類と食塩水の合計質量と同程度とすることができる。また、下漬の時間は、30分間以上、30時間以下程度とすればよい。
【0034】
下漬後、野菜類を水切りする、即ち使用した食塩水を除去し、得られた下漬野菜類を調味液に浸漬する。使用する調味液の量は、上述したとおり、野菜類に対して1.0質量部以上、2.0質量部以下程度とすればよい。下漬けされた野菜類では、その細胞膜の少なくとも一部が破壊されているため、調味液は速やかに浸透する。
【0035】
本発明では、調味液にナイシンを配合することにより、浅漬の保存安定性を顕著に向上させることができる。ナイシンの使用量は、上述したとおり、調味液に対して0.5mg/kg(20IU/mL)以上、30mg/kg(1200IU/mL)以下が好ましく、2.0mg/kg(80IU/mL)以上がより好ましく、3.0mg/kg(120IU/mL)以上がさらに好ましく、4.0mg/kg(160IU/mL)以上が特に好ましく、また、25mg/kg(1000IU/mL)以下がより好ましく、20mg/kg(800IU/mL)以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明では、ナイシンに加えてさらにフェルラ酸を配合することにより、浅漬の保存安定性をより一層向上させることができる。
【0037】
上記で得られた浅漬は、野菜類が調味液に浸漬された状態のまま小分け包装して製品としてもよいし、調味液を野菜類から除去して製品としてもよい。
【0038】
以上のとおり、本発明に係る浅漬は簡便に製造できるが、抗菌ペプチドであるナイシンが野菜類に浸透または付着しており、また、調味液にナイシンが含まれているので、保存安定性に優れているものである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
実施例1
(1) 浅漬の変敗菌の分離
白菜を適度に切断し、当該白菜100質量部に対して45質量部の10%食塩水を加え、これらと同質量の荷重を負荷することにより24時間下漬けした。次いで、下漬けされた白菜を水切りした。別途、水、食塩、アミノ酸調味液、核酸調味液、淡味醤油、酢酸、還元水飴からなる調味液を調製した。得られた下漬白菜(30g)に、上記浅漬調味液(40g)を加え、10℃で保管した。浅漬調味液を添加してから14日後、調味液(1mL)を採取し、滅菌済みのポリペプトン水溶液(9g/L)で107倍に希釈した後、MRS培地(BD社製)プレートに塗り広げた。30℃で48時間培養し、優勢菌3株(c−1〜c−3)を分離した。
【0041】
また、市販の浅漬製品5種を10℃で保存し、賞味期限からさらに10日後に調味液(1mL)を採取し、同様に各プレートから優勢菌15株(d−1〜y−3)を分離した。
【0042】
(2) 変敗菌の同定
上記で得られた変敗菌18株に対し、形態観察、グラム染色、カタラーゼ試験およびガス発生試験を行った。また、各変敗菌から常法に従って全DNAを分離し、細菌同定用プライマーセット(ベックス社製,Primer F 10FとPrimer R 800R)を用いてPCR反応を行い、電気泳動で増幅されたDNAを分離してゲルから抽出することによって、16S rRNAを得た。得られた各16S rRNAの塩基配列解析を、オペロンバイオテクノロジー社へ委託した。各16S rRNAの塩基配列から、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いることにより、各変敗菌の菌種を特定した。結果を表1に示す。なお、表1中、上記(1)に示すc−1〜c−3を除き、菌株のアルファベットは、使用した市販浅漬製品の製品名の頭文字を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(3) 変敗菌の確認
上記で特定された浅漬変敗菌18株のそれぞれにつき、浅漬変敗菌であることの確認試験を行った。先ず、白菜を適度に切断し、上記実施例1(1)と同様に浅漬を作製した。得られた浅漬白菜80g(固形分60g+液分20g)に対し、上記各浅漬変敗菌を1白金耳接種した。その後、10℃で保存し、実験開始から1日後、4日後および8日後における調味液のpHを測定した。
【0045】
その結果、いずれの場合にも、1日後にはpHが5.35〜5.55であったものが、4日後には4.21〜4.54、8日後には3.85〜4.20まで低下した。これは、各菌が本漬白菜中で生育した結果であると考えられる。
【0046】
(4) ナイシンAの効果の確認
上記で特定された各浅漬変敗菌をMRS培地(BD社製)に植菌し、30℃で24時間前培養した。次いで、加熱溶解したLactobacilli agar AOAC培地(DIFCO社製,5mL)に濃度1v/v%となるように菌を接種し、MRS寒天培地(BD社製)に重層した。
【0047】
別途、ナイシンA(SIGMA社製)を滅菌水に溶解し、1000IU/mLから0.49IU/mLまでの2倍希釈系列溶液を調製した。各菌プレート上に当該溶液(10μL)をスポットし、30℃で一晩培養した後、菌の生育の有無を観察し、最小発育阻止濃度(MIC)を求めた。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
上記結果のとおり、ナイシンAは、浅漬の変敗菌に対して有効性を示すことが実証された。より詳しくは、上記結果によれば、調味液1kgにナイシンAをわずか6.25mg添加すれば、浅漬変敗菌の増殖を抑制できることが分かった。
【0050】
実施例2
上記実施例1でのナイシンAの有効性試験は、固体培地プレート上でのものであったことから、液体培地中でも試験を行った。
【0051】
MRS液体培地(BD社製)に500IU/mLのナイシンAを添加混合した。別途、各浅漬変敗菌をMRS液体培地(BD社製)中、30℃で24時間前培養した後、当該液体培地をナイシンA添加培地へ1v/v%の割合で添加した。なお、菌添加直後における菌数は、約106CFU/mLであった。当該液体培地を10℃で静置し、5日後、6.5日後、8日後および11日後における濁りの有無を肉眼で確認した。結果を表3に示す。なお、表3中、「+」は濁りが認められたことを示し、「−」はそれ以外の場合を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
通常、浅漬製品の賞味期限は製造日から数日から一週間程度であるが、上記結果のとおり、本発明に係るナイシンを用いれば、変敗菌の生育を十分に抑制することができ、保存安定性に優れる浅漬が得られることが明らかとなった。
【0054】
なお、d−3の菌の場合は6.5日後に、p−2の菌の場合は8日後に液体培地の濁りが認められたが、その程度はわずかであった。
【0055】
実施例3
上記実施例1(1)で用いた浅漬用調味液(40g)にナイシンAを5mg/kg(200IU/mL)添加した。当該調味液を、上記実施例1(1)と同様に調製した下漬白菜(30g)に添加し、浅漬製品で一般的に用いられるプラスチック製小型容器に封入後、10℃で保管した。試験開始直後と、試験開始から2日後、5日後、7日後および9日後に調味液サンプルを得、pHを測定した。
【0056】
また、試験開始直後と、試験開始から2日後、5日後、7日後および9日後に浅漬白菜サンプルを得、成人男性1名に食べてもらい、官能試験を行った。なお、試験開始直後のサンプルと食味が変わらない場合またはかえって食味が改善されている場合を5点、到底食べられる状態ではないものを1点とし、5段階で評価を行った。
【0057】
さらに、比較のため、ナイシンAを用いない場合についても同様に試験を行った。pHの測定結果を図1に、官能試験の結果を図2に示す。
【0058】
通常、調味液を含む浅漬製品においては、白菜に由来する変敗菌の増殖に伴って調味液のpHが徐々に低下し、品質が劣化する。一方、ナイシンAを添加した場合、pHは高いまま維持されている。なお、試験開始から9日目において、ナイシンAを用いない場合のpHは4.68であるのに対して、ナイシンAを用いた場合は5.00である。
【0059】
また、浅漬サンプルの食味に関しては、図2のとおり、ナイシンAを用いない場合、5日目から徐々に悪化し始め、9日目には大幅に低下した。これは、変敗菌の増殖が活発になり、食味に悪影響を与えたことが原因であると考えられる。一方、ナイシンAを用いた場合には、試験開始から9日目であっても食味は十分に維持されている。
【0060】
以上の結果より、本発明に係る浅漬は、ナイシンの作用により保存安定性が顕著に改善されており、食味が維持されることが実証された。
【0061】
実施例4
調味液に表4の配合でナイシンA、フェルラ酸、乳酸を配合した以外は上記実施例1(1)と同様にして浅漬を調製した。
【0062】
【表4】

【0063】
得られた浅漬を、浅漬製品で一般的に用いられるプラスチック製小型容器に封入後、10℃で保管した。その後、経時的に調味液サンプルを採取し、pHを測定した。結果を図3に示す。
【0064】
図3のとおり、ナイシンを添加しない対照でも、6日目まではpHは下がらなかったが、それ以降は急激に低下した。これは、乳酸菌などが増殖した結果であると考えられる。また、ナイシンに加えて乳酸を添加した製剤例3では、20日を過ぎてもpHの変化こそそれ程認められないものの、当初からpHが低くなってしまっており、食味もかなり酸っぱいものになっていた。これは、乳酸の作用によるものと考えられる。
【0065】
一方、対照に対してナイシンのみを添加した製剤例1は、対照に比べ、10日目までpHの低下を抑制することができ、保存安定性の改善が認められた。
【0066】
かかる効果は、ナイシンに加えてフェルラ酸を添加した製剤例2でさらに顕著であり、25日目でもpHの低下は見られなかった。しかも、フェルラ酸は有機酸であるにも関わらず、調味液(ナイシンとフェルラ酸も含む)に対して約0.9g/kgという割合で添加してもpHを低下させなかったので、食味も変わらないといえる。
【0067】
以上のとおり、ナイシンにより食味を変化させることなく浅漬の保存安定性を改善することが可能になるが、さらにフェルラ酸を併用することにより、やはり食味を維持しつつも保存安定性をより一層顕著に改善できることが明らかとなった。
【0068】
実施例5
上記実施例4において、別途、直径9cmのシャーレに選択的乳酸菌用培地であるMRS培地を用意し、経時的に採取したサンプルを添加し、30℃で48時間培養した後、細菌数を求めた。結果を図4に示す。
【0069】
図4のとおり、ナイシンを添加しなかった場合、乳酸菌数は経時的に増加し、8日目でコンフルエントな状態に達した。それに対してナイシンを添加した場合には、9日まで乳酸菌の生育を抑制することができた。なお、図4の縦軸は対数で表示しているため、一目盛異なると菌数は10倍異なることになる。かかる効果はナイシンに加えてフェルラ酸を併用した場合に一層顕著であり、測定を実施した25日目まで乳酸菌の増加は見られなかった。
【0070】
この結果からも、乳酸菌の増加は浅漬製品のpHを低下させて食味を貶めるが、ナイシンにより浅漬の保存安定性を向上させて品質を維持することができ、また、かかる効果はフェルラ酸の併用により一層顕著なものとなることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜類および調味液からなり、ナイシンを含むことを特徴とする浅漬。
【請求項2】
さらにフェルラ酸を含む請求項1に記載の浅漬。
【請求項3】
調味液に対するナイシンの割合が2.0mg/kg以上である請求項1または2に記載の浅漬。
【請求項4】
調味液に対するフェルラ酸の割合が0.5g/kg以上である請求項2に記載の浅漬。
【請求項5】
ナイシンがナイシンAである請求項1〜4のいずれかに記載の浅漬。
【請求項6】
野菜類および調味液からなる浅漬にナイシンを添加することを特徴とする浅漬の保存安定性の向上方法。
【請求項7】
さらにフェルラ酸を添加する請求項6に記載の浅漬の保存安定性の向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−206053(P2011−206053A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53469(P2011−53469)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(399061916)東海漬物株式会社 (5)
【Fターム(参考)】