説明

浚渫システムおよび浚渫方法

【課題】壷掘りの浚渫を行なう際に、吸引する流体に含まれる土砂による輸送管の閉塞を防止しつつ、含泥率の高い浚渫を可能にする浚渫システムおよび浚渫方法を提供する。
【解決手段】吸引手段を備えた輸送管6を接続した吸引ヘッド2をワイヤ9を介して浮体8から吊下げて、吸引ヘッド2によって吸引した土砂Gを含む流体の流速Vを流速測定手段14により測定するとともに、吸引ヘッド2の接地圧を張力計11によるワイヤ9の張力データに基づいて測定し、水底の土砂Gについて予め把握した吸引ヘッド2の接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力された制御装置13がこの流速測定手段14および張力計11による測定データに基づいてウインチ10の駆動を制御して吸引ヘッド2の上下位置を調整することにより、輸送管6内の流速を限界流速以上にするとともに浚渫土砂量を調整して浚渫を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫システムおよび浚渫方法に関し、さらに詳しくは、壷掘りの浚渫を行なう際に、吸引する流体に含まれる土砂による輸送管の閉塞を防止しつつ、含泥率の高い浚渫を可能にする浚渫システムおよび浚渫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や湖沼などの堆積土砂等を水底から水上に揚送する浚渫方法や装置が種々提案されている。浚渫作業は一般に、大型の作業船や浚渫対象となる水域の周辺陸部に大型の浚渫設備を設置し、浚渫ポンプ自体や浚渫ポンプに接続された輸送管の吸引口を、その水底の土砂表面で移動させて行なっている。
【0003】
ところが、ダム湖などの広いスペースが確保できない狭隘な現場では、大型の船を用いたり、大型の装置を設置することが困難であった。ダム湖等での浚渫では、貯水量を増加させるために所定量の土砂を浚渫すればよく、浚渫した後の水底の仕上げ状態は問題とされない。したがって、吸引口を水底で移動させながら浚渫を行なう方法ではなく、定位置で吸引口を下方移動させて深く浚渫を行なう、いわゆる壷掘りの浚渫が適している。壷掘りの浚渫は、吸引口を水底で移動させる浚渫に比べて、吸引口を広範囲に移動させる必要がないため移動手段を小型化でき、ひいては装置全体を小型化することが可能となるためである。
【0004】
大規模な設備を用いることなく、浚渫を行なうことができる装置としては、水底に配置する吸引器にけん引ロープを接続し、このけん引ロープを地上から引っ張ることによって、吸引器を水底で任意の位置に移動させる装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この提案の浚渫装置は、吸引器が支軸を介してフロートに上下動可能に支持されて、水底に当接する構造になっている。このように単純に吸引器を水底に当接させているだけで、吸引器の接地圧は何ら考慮されていない。
【0005】
吸引器の接地圧は、浚渫土砂量(単位時間当たりに浚渫できる土砂量)に大きく影響する。吸引器の接地圧が過大であれば、吸引口が閉塞したり、吸引される流体の流速(流量)が低下して十分な浚渫土砂量を確保することができない。吸引器の接地圧が過小であれば、吸引される流体における土砂割合が低下して、十分な浚渫土砂量を確保することができない。したがって、吸引器の接地圧を考慮していないこのような浚渫装置では、浚渫土砂量を最大にするような含泥率の高い浚渫を行なうことが困難であった。
【0006】
また、この浚渫装置では、吸引されて吸引ホース内を流れる土砂を含む流体の流速が何ら考慮されていない。吸引ホース内での流体の流速は、土砂を含む流体を吸引ホース内で沈降させることなく送ることができる限界流速以上にする必要がある。流体の流速が限界流速よりも小さな場合には、吸引ホースの内部が土砂によって閉塞されて安定した吸引を行なうことができないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−295926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、壷掘りの浚渫を行なう際に、吸引する流体に含まれる土砂による輸送管の閉塞を防止しつつ、含泥率の高い浚渫を可能にする浚渫システムおよび浚渫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の浚渫システムは、吸引ヘッドと、この吸引ヘッドに接続する輸送管と、この輸送管に取付ける吸引手段と、前記吸引ヘッドをワイヤを介して吊下げる浮体と、このワイヤの繰出しおよび巻取りを行なうウインチと、前記輸送管の内部の流速を測定する流速測定手段と、前記吸引ヘッドの接地圧を測定する接地圧測定手段と、前記流速測定手段および前記接地圧測定手段による測定データが入力されるとともに、浚渫対象の水底の土砂について予め把握した前記接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力される制御装置とを備え、前記制御装置が前記測定データに基づいて、前記ウインチの駆動を制御して前記吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、前記輸送管内の流速を限界流速以上にするとともに浚渫土砂量の調整を行なう構成にしたことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、例えば、前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量が最大量となる接地圧の0.9倍〜1.1倍の範囲になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する。或いは、前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量の最大量の80%以上が得られる接地圧になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整することもできる。前記接地圧測定手段を、前記ワイヤの張力を測定する張力計と前記制御装置とで構成することもできる。
【0011】
本発明の浚渫方法は、吸引ヘッドに、吸引手段を備えた輸送管を接続し、この吸引ヘッドを、ウインチによって繰出しおよび巻取りが行なわれるワイヤを介して浮体から吊下げて、水底の土砂を含む流体を前記吸引ヘッドによって吸引し、吸引した流体の流速を流速測定手段により測定するとともに、前記吸引ヘッドの接地圧を接地圧測定手段により測定し、浚渫対象の水底の土砂について予め把握した前記接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力された制御装置に、この流速測定手段および接地圧測定手段による測定データを入力して、この測定データに基づいて、前記制御装置が前記ウインチの駆動を制御して前記吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、前記輸送管内の流速を限界流速以上にするとともに浚渫土砂量を調整して浚渫を行なうことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、例えば、前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量が最大量となる接地圧の0.9倍〜1.1倍の範囲になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する。或いは、前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量の最大量の80%以上が得られる接地圧になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整することもできる。前記接地圧測定手段として、前記ワイヤの張力を測定する張力計と前記制御装置とを用いて、この張力計による測定データを前記制御装置に入力することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸引手段を備えた輸送管を接続した吸引ヘッドをワイヤを介して浮体から吊下げて、水底の土砂を含む流体を吸引ヘッドから吸引する壷掘りの浚渫を行なうに際して、吸引した流体の流速を流速測定手段により測定するとともに、吸引ヘッドの接地圧を接地圧測定手段により測定し、浚渫対象の水底の土砂について予め把握した接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力された制御装置に、この流速測定手段および接地圧測定手段による測定データを入力して、この測定データに基づいて、制御装置がウインチの駆動を制御して吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、吸引した土砂を含む流体を、輸送管内で沈降させることなく送ることができる限界流速以上の流速になるので、輸送管の内部を土砂で閉塞させることなく安定した吸引を行なうことができる。また、吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、吸引ヘッドの接地圧を適正にして、含泥率を向上させて浚渫土砂量を最大にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の浚渫システムを例示する全体概要図である。
【図2】図1の吸引ヘッドを拡大して示す正面図である。
【図3】図2の吸引ヘッドの内部を縦断面で例示する説明図である。
【図4】図1の吸引ヘッドの底面図である。
【図5】図3の吸引ヘッドを、ケーシングの上面が土砂に埋没するまで下方移動させた状態を例示する説明図である。
【図6】別の吸引ヘッドを例示する正面図である。
【図7】本発明の浚渫方法の手順を例示するフロー図である。
【図8】吸引ヘッドの接地圧と輸送管内の流速との関係を例示するグラフ図である。
【図9】吸引ヘッドの接地圧と浚渫土砂量との関係を例示するグラフ図である。
【図10】吸引ヘッドの接地圧と浚渫土砂量との関係を例示する別のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の浚渫システムおよび浚渫方法並びに吸引ヘッドを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図4に例示するように、本発明の浚渫システム1は、吸引ヘッド2と、吸引ヘッド2に接続する輸送管6と、輸送管6に取付ける吸引手段7と、吸引ヘッド2をワイヤ9を介して吊下げる浮体8と、ウインチ10とを備えている。このウインチ10によりワイヤ9の繰出しおよび巻取りを行なう。輸送管6は、一端側が吸引ヘッド2に接続され、他端側を土砂捨て場等に配置するように延設されている。
【0017】
また、この浚渫システム1は、ワイヤ9の張力を測定する張力計11と、輸送管6の内部の流速を測定する流速測定手段14とを備えている。さらに、浮体8の上に制御装置13および深度計12を備えている。
【0018】
この実施形態では、張力計11および制御装置13が、吸引ヘッド2の接地圧を測定する接地圧測定手段として機能する。接地圧測定手段としては、その他に例えば、圧力センサを用いることができる。圧力センサを吸引ヘッド2の底面に取付けた場合には、吸引ヘッド2の接地圧が直接的に測定される。
【0019】
この吸引ヘッド2のケーシング3は、半球状の上ケーシング3aと下ケーシング3bとで構成され、互いを接合することで球状になっている。ケーシング3の外径は、例えば1.5m程度を中心にして1m〜4m程度であるが、この範囲に限定されるものではない。
【0020】
ケーシング3の底面の平面視の中央部には吸引口4が設けられている。この吸引口4は、多数の貫通孔4aを有する多孔状になっている。貫通孔4aの大きさは、例えば直径相当で10mm〜50mm程度である。すべての貫通孔4aは同じ大きさにすることもできるが、異なる大きさの貫通孔4aを混在させることもできる。貫通孔4aの数は、適宜決定されるが、例えば5〜100個程度である。
【0021】
このケーシング3の外表面には、吸引口4から上方に延びる複数本の溝5aが形成されている。この複数本の溝5aは、図4に例示するように吸引ヘッド2(ケーシング3)の平面視(底面視)で、吸引口4を中心にして均等な中心角度で放射状に配置されている。溝5aを設けることは任意であるが、後述するように、この溝5aにより円滑な浚渫が可能になる。
【0022】
溝5aは、ケーシング3の高さ方向中央付近、または、ケーシング3の最大外径となる位置まで延設することが好ましく、ケーシング3の上面まで延設することもできる。また、溝5aは、平面視(底面視)で非直線的に延設してもよく、例えば円弧状にした複数の溝5aを吸引口4を中心にして均等の中心角度で配置することもできる。
【0023】
溝5aの本数は、特に限定されないが、例えば3本〜24本程度であり、吸引口4を中心にして均等な中心角度で配置することが好ましく、溝5aの深さおよび幅は、例えば10mm〜50mm程度である。
【0024】
吸引手段7としては、サンドポンプやウォータジェットポンプを用いることができる。この実施形態では、吸引手段7を吸引ヘッド2の内部に設置しているが、設置位置はこれに限定されず、吸引ヘッド2の外部、例えば浮体8の上や陸上に設置して輸送管6に取付けるようにしてもよい。
【0025】
浮体8は、ウインチ10等を搭載し、吸引ヘッド2をワイヤ9を介して吊下げられる浮力があればよいので、例えば小型ボートやその相当物等を用いることができる。流速測定手段14は、輸送管6の内部を流れる流体の流速を測定できればよく、例えば電磁流速計、電磁流量計や超音波式流量計等を用いることができる。流量計は、測定した流速に輸送管6の横断面積を乗じて流量を算出するので、流速を把握するために用いることができる。
【0026】
制御装置13には、張力計11によるワイヤ9の張力の測定データ、深度計12による吸引ヘッド2の深度の測定データ、流速測定手段14による輸送管6の内部の流速の測定データが入力されるように構成されている。ワイヤ9の張力と吸引ヘッド2の接地圧との関係データも制御装置13に入力しておく。これにより、張力計11による張力の測定データを得ることによって吸引ヘッド2の接地圧を把握することができる。ワイヤ9の張力が小さくなるに連れて、吸引ヘッド2の接地圧は増大する傾向になる。
【0027】
この制御装置13によって、ウインチ10の駆動(運転および停止、回転速度、回転方向)が制御される。したがって、吸引ヘッド2の上下方向移動は制御装置13によって制御され、これによって吸引ヘッド2の水底の土砂Gに対する接地圧が調整される。制御装置13は、浮体8上に限らず、例えば陸上に配置することもできる。
【0028】
吸引ヘッド2は、図2に例示するような単純な円球状の他に、図6に例示するように、ケーシング3の底面と上面との間の胴部を円筒状にした楕円球状を例示することができる。ケーシング3は、球状に限らず円盤状や方形状などの種々の形状を採用することができるが、その底面の平面視の中央部が下方に突出する形状が好ましい。例えば、ケーシング3を多角錐状等にして、底面の中央部が下方に突出する形状にすることもできるが、なるべく下方に突出する曲面形状がよい。
【0029】
さらに、図6に例示した吸引ヘッド2は、ケーシング3の外表面に、この外表面に沿うように上下方向中間部から吸引口4の近傍に延びる複数本の水分供給パイプ5bを有している。水分供給パイプ5bはケーシング3の内部に設置された水分供給ポンプに接続されている。そして、水分供給ポンプから供給された水分Wが水分供給パイプ5bを通じて吸引口4の周辺のケーシング3の外表面に供給される。このように、水分供給パイプ5bと水分供給ポンプで構成される水分供給手段を設けることは任意であるが、後述するように、この水分供給手段により円滑な浚渫が可能になる。
【0030】
供給される水分Wの排出口となる水分供給パイプ5bの下端部の位置は、図4に例示した吸引ヘッド2(ケーシング3)の平面視(底面視)で、吸引口4を中心にして均等な中心角度の配置にすることが好ましい。水分供給パイプ5bの本数は、特に限定されないが、例えば3本〜24本程度である。
【0031】
その他の構成は、図2に例示する吸引ヘッド2と同じである。尚、本発明の吸引ヘッド2では、溝5aと水分供給手段(水分供給パイプ5b)の両方を設けることもできる。その際には、例えば、溝5aと水供給パイプ5bとをケーシング3の周方向に交互に配置する。
【0032】
本発明の浚渫方法の手順は以下のとおりである。図7には、この手順のフローの一例を示す。
【0033】
まず、浚渫対象の水底の土砂Gについて予備調査をして、限界流速VMを予め把握しておく。限界流速VMとは、土砂Gを含む流体を、輸送管6の内部で沈降させずに送ることができる最小流速である。即ち、吸引された土砂Gの流速Vが限界流速VM以上でなければ、輸送管6の内部が土砂Gによって閉塞することになる。そこで、予め把握した土砂Gの限界流速VMのデータを制御装置13に入力しておく。
【0034】
吸引した土砂Gを含む流体が輸送管6の内部を流れる際に、流体中の土砂Gの割合が増加する(含泥率が高くなる)と、輸送管6の内部の流速Vが遅くなり、流体中の土砂Gの割合が減少する(含泥率が低くなる)と、輸送管6の内部の流速Vが速くなる傾向を示す。そして、吸引ヘッド2の接地圧Pと輸送管6の内部の流速Vとの関係は、図8に例示するように、接地圧Pが増大するに連れて流速Vが低下する傾向となり、接地圧Pが過大になると吸引ができなくなり流速Vがゼロになる。換言すれば、張力計11により測定したワイヤ9の張力が小さくなるに連れて流速Vが低下する傾向になる。
【0035】
図8では、限界流速VMになる接地圧PがPMになっているので、流速Vを限界流速VM以上にするために接地圧PをPM以下にする。このように、吸引ヘッド2を上下位置を調整して接地圧P(含泥率)を変化させることによって、輸送管6の内部の流速Vを限界流速VM以上にする。
【0036】
尚、輸送管6の流量Qは、流速Vに輸送管6の断面積を乗じたものなので、限界流速VMを限界流量QMに置き換えて、流量Qを限界流量QM以上にすることは、流速Vを限界流速VM以上にすることと同じである。
【0037】
また、浚渫対象の水底の土砂Gについて予備調査をして、吸引ヘッド2の接地圧Pと浚渫土砂量Sとの関係を予め把握しておく。浚渫土砂量Sとは、吸引ヘッド2から吸引されて浚渫される単位時間当たりの土砂量(水分を除いた)である。この予め把握した吸引ヘッド2の接地圧Pと浚渫土砂量Sとの関係データを、制御装置13に入力しておく。
【0038】
接地圧Pと浚渫土砂量Sとの関係は、図9、図10に例示するように、特定の接地圧PXで浚渫土砂量Sがピーク(最大量SX)になる傾向がある。即ち、この特定の接地圧PX(以下、特定接地圧PXという)では、浚渫土砂量Sが最大になる。したがって、吸引ヘッド2の接地圧Pを、特定接地圧PXになる(近づける)ように調整することによって、含泥率の高い効率的な浚渫を行なうことができる。
【0039】
次いで、浮体8からワイヤ9を介して吊下げた吸引ヘッド2を、ウインチ10を駆動させてワイヤ9を繰出して下方移動させ、吸引ヘッド2を吊った状態(ワイヤ9に張力が生じている状態)で水底の土砂表面に接地させる。この状態で、吸引手段7による吸引力によって、吸引口4(多数の貫通孔4a)から土砂Gを含む流体を吸引する。
【0040】
この際に、流速測定手段14による土砂Gを含む流体の流速Vの測定データに基づいて、ウインチ10の駆動を制御して吸引ヘッド2を上下位置を調整して流速Vを限界流速VM以上にする。これにより、輸送管6の内部を土砂Gで閉塞させることなく安定した吸引を行なうことができる。
【0041】
さらに、張力計11による張力の測定データに基づいて、ウインチ10の駆動を制御して吸引ヘッド2を上下位置を調整して、浚渫土砂量Sが最大量SXになる(近づく)ようにする。具体的には、得られる浚渫土砂量Sが設定した範囲内になるように浚渫を行なう。
【0042】
例えば、図9に示すように、張力計11によるワイヤ9の張力の測定データに基づいて算出される吸引ヘッド2の接地圧Pが、予め把握した浚渫土砂量Sが最大量SXとなる接地圧PXの0.9倍〜1.1倍の範囲になるように、吸引ヘッド2の上下位置を調整する。図9では、特定接地圧PXの0.9倍の接地圧0.9PXでは浚渫土砂量がS1、特定接地圧PXの1.1倍の接地圧1.1PXでは浚渫土砂量SがS2になるので、特定接地圧PXの0.9倍〜1.1倍の範囲に接地圧Pを調整することで、得られる浚渫土砂量Sは、S2以上SX以下となる。
【0043】
或いは、図10に例示するように、張力計11によるワイヤ9の張力の測定データに基づいて算出される吸引ヘッド2の接地圧Pが、予め把握した浚渫土砂量Sが最大量SXの80%以上が得られる接地圧Pになるように、吸引ヘッド2の上下位置を調整する。図10では、浚渫土砂量Sの最大量SXの80%を得ることができる接地圧Pは、特定接地圧PXを挟んだP1およびP2になるので、接地圧PをP1以上P2以下に調整することで、得られる浚渫土砂量Sは、最大量SXの80%以上100%以下となる。
【0044】
浚渫する土砂Gの性状によって、接地圧Pと浚渫土砂量Sとの関係を示す曲線の形状(ピークの形状)が異なるので、土砂Gの性状に応じて、得ようとする浚渫土砂量Sの所定範囲を設定する。
【0045】
水底の土砂Gを吸引することにより、吸引口4に対向する水底の土砂表面の位置は下方移動するが、流速測定手段14による流速Vの測定データおよび張力計11による張力の測定データに基づいて、流速Vが限界流速VM以上で、かつ、浚渫土砂量Sが最大(所定範囲)になるように逐次、吸引ヘッド2の上下方向移動を制御する。
【0046】
このように流体の流速Vが限界流速VM以上で、かつ、張力計11による測定データに基づいて算出される吸引ヘッド2の接地圧Pが、特定接地圧PXに近づくようにすることで、輸送管6の内部を浚渫する土砂Gで閉塞させない範囲で含泥率を向上させて、浚渫土砂量Sを最大にすることが可能になる。
【0047】
上下移動させる吸引ヘッド2の深度は、深度計12により確認することができる。吸引が行なえなくなった時点、或いは、深度計12により測定された深度が、設定した深度に到達した時点で、その位置での浚渫を終了する。
【0048】
この実施形態では、ケーシング3の底面の中央部を下方に突出する形状にするとともに、この底面の中央部に多数の貫通孔4aを有する吸引口4を設けているので、水底の土砂表面が起伏のある形状の場合であっても、その水底の土砂表面に対応するようにケーシング3が傾き、吸引口4を水底の土砂表面に追従させて隣接させることができる。そのため、無駄な水分を吸引することなく、高い含泥率を確保することができる。
【0049】
吸引口4を多孔状にしているので、仮に、ある貫通孔4aに土砂Gが詰まっても他の貫通孔4aを通じて土砂Gの吸引が行なわれる。この他の貫通孔4aを通じての吸引による流動等によって、詰まっていた貫通孔4aの詰まりが解消され易くなるので、吸引口4の閉塞を防止することができる。
【0050】
水底の土砂Gを吸引口4から吸引する際には、適度な水分が必要であり、吸引口4の全範囲が土砂Gによって同時に塞がれた場合には吸引が困難になる。このような場合であっても、図2に例示した吸引ヘッド2は、ケーシング3の外表面に溝5aを有しているので、この溝5aを通じて吸引口4の近傍に水分が供給される。そのため、安定した吸引を確保することができる。
【0051】
また、図6に例示した吸引ヘッド2は、水分供給手段を有しているので、水分供給パイプ5bを通じて吸引口4の近傍に、積極的に水分Wを供給することができる。そのため、安定した吸引を確保することができる。
【0052】
図5に例示するように、吸引ヘッド2をケーシング3の上面が土砂Gに埋没するまで下方移動させて壷掘りの浚渫を行なう場合には、吸引ヘッド2の上面は、崩れてきた土砂Gによって覆われる。このような場合に、ウインチ10でワイヤ9を巻き取って吸引ヘッド2を上方移動させようとすると、ケーシング3の上面を覆う土砂Gが大きな抵抗になる。ところが、この吸引ヘッド2は、ケーシング3の上面の中央部が上方に突出する形状になっているので、吸引ヘッド2の上方移動に伴なって、上面を覆っていた土砂Gがケーシング3の表面に沿って移動して振り払われる。そのため、大きな抵抗が生じることなく、吸引ヘッド2を上方移動させることが可能になる。
【0053】
1つの位置で壷掘りの浚渫を行なった後は、浮体8(吸引ヘッド2)を水平移動させて別の位置で同様に壷掘りの浚渫を行なう。このように、目標の所定量の土砂Gを浚渫するまで同じ作業を繰り返し行なう。
【0054】
本発明の浚渫システムは、壷掘りの浚渫を行なう既述したような構成なので、吸引ヘッド2を水平移動させるための大掛かりな機構、装置が不要となり小型化が可能になる。そのため、浚渫システムを構成する機材を、例えばヘリコプターで搬送することができ、ダム湖などの現場に適用することが容易になる。
【符号の説明】
【0055】
1 浚渫システム
2 吸引ヘッド
3 ケーシング
3a 上ケーシング
3b 下ケーシング
4 吸引口
4a 貫通孔
5a 溝
5b 水分供給パイプ
6 輸送管
7 吸引手段
8 浮体
9 ワイヤ
10 ウインチ
11 張力計
12 深度計
13 制御装置
14 流速測定手段
G 土砂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ヘッドと、この吸引ヘッドに接続する輸送管と、この輸送管に取付ける吸引手段と、前記吸引ヘッドをワイヤを介して吊下げる浮体と、このワイヤの繰出しおよび巻取りを行なうウインチと、前記輸送管の内部の流速を測定する流速測定手段と、前記吸引ヘッドの接地圧を測定する接地圧測定手段と、前記流速測定手段および前記接地圧測定手段による測定データが入力されるとともに、浚渫対象の水底の土砂について予め把握した前記接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力される制御装置とを備え、前記制御装置が前記測定データに基づいて、前記ウインチの駆動を制御して前記吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、前記輸送管内の流速を限界流速以上にするとともに浚渫土砂量の調整を行なう構成にした浚渫システム。
【請求項2】
前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量が最大量となる接地圧の0.9倍〜1.1倍の範囲になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する請求項1に記載の浚渫システム。
【請求項3】
前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量の最大量の80%以上が得られる接地圧になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する請求項1に記載の浚渫システム。
【請求項4】
前記接地圧測定手段を、前記ワイヤの張力を測定する張力計と前記制御装置とで構成する請求項1〜3のいずれかに記載の浚渫システム。
【請求項5】
吸引ヘッドに、吸引手段を備えた輸送管を接続し、この吸引ヘッドを、ウインチによって繰出しおよび巻取りが行なわれるワイヤを介して浮体から吊下げて、水底の土砂を含む流体を前記吸引ヘッドによって吸引し、吸引した流体の流速を流速測定手段により測定するとともに、前記吸引ヘッドの接地圧を接地圧測定手段により測定し、浚渫対象の水底の土砂について予め把握した前記接地圧と浚渫土砂量との関係データおよび限界流速データが入力された制御装置に、この流速測定手段および接地圧測定手段による測定データを入力して、この測定データに基づいて、前記制御装置が前記ウインチの駆動を制御して前記吸引ヘッドの上下位置を調整することにより、前記輸送管内の流速を限界流速以上にするとともに浚渫土砂量を調整して浚渫を行なう浚渫方法。
【請求項6】
前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量が最大量となる接地圧の0.9倍〜1.1倍の範囲になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する請求項5に記載の浚渫方法。
【請求項7】
前記接地圧測定手段による測定データに基づいて算出される接地圧が、予め把握した前記浚渫土砂量の最大量の80%以上が得られる接地圧になるように前記吸引ヘッドの上下位置を調整する請求項5に記載の浚渫方法。
【請求項8】
前記接地圧測定手段として、前記ワイヤの張力を測定する張力計と前記制御装置とを用いて、この張力計による測定データを前記制御装置に入力する請求項5〜7のいずれかに記載の浚渫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−203146(P2010−203146A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49689(P2009−49689)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)