説明

浚渫用グラブバケット

【課題】浚渫用グラブバケットにおいて、簡単な構成で以って、シェルの先端軌跡を略一直線的とする。
【解決手段】上フレーム3とシェル8・8とを連結する連結機構9を、上フレーム3の上部とシェル8・8とを連結する屈折リンク30と、上フレーム3の下部とシェル8・8とを連結する連結アーム31とで構成する。連結アーム31の上端を上フレーム3に形成された上下に長い長穴で形成した軸受穴40と、該軸受穴40に係合するピン41とを介して上フレーム3に連結して、該軸受穴40内でピン41が上下方向に移動できるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、海底等に堆積した土砂やヘドロを浚渫する際に用いられる浚渫用グラブバケットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の浚渫用のグラブバケットの課題に、シェルの先端軌跡が円弧状となることに起因して、浚渫掘削跡が凹溝状となることがある。すなわち、シェルが円弧状の先端軌跡を描いて土砂やヘドロをすくい取るようになっていると、浚渫作業によりシェルの先端軌跡に応じた深い凹溝が海底に形成されることが避けられない。このように海底に凹溝が形成されると、海底を平坦にならす作業が別途必要となり、作業効率の低下を招く。
【0003】
このため、浚渫用のグラブバケットにおいては、シェルの先端軌跡を略一直線状とする工夫が従来から種々なされており、例えば特許文献1では、下部フレームに回転自在に装着された一対の油圧シリンダによりシェルを開閉操作させるとともに、下部フレームとシェルとをリンク手段により連結することにより、開閉動作時におけるシェルの先端軌跡を略一直線状としている。特許文献2では、下部フレームを上下動させる油圧シリンダの伸縮と、バケットの上下変位により、シェルの先端軌跡を一直線状としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3056020号公報(請求項1、段落番号0023、図1)
【特許文献2】特開2008−75441号公報(請求項1、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のグラブバケットでは、比較的に高価な油圧シリンダをシェルの開閉用のアクチュエータとしているため、グラブバケットの製造コストが増加することが避けられない。また、下部フレームとシェルとの間の連結機構として、複雑なリンク機構を採用しているため、この点でもグラブバケットの製造コストが増加することが避けられない。特許文献2に記載のグラブバケットにおいても同様であり、油圧シリンダをシェルの開閉用のアクチュエータとして採用したぶんだけ、グラブバケットの製造コストが増加することが避けられない。加えて、油圧シリンダの伸縮変位とバケットの上下変位の両者を厳密に制御することが必要であり、制御が極めて複雑である点にも不利がある。
【0006】
本発明は、以上のような従来のグラブバケットの抱える問題を解決するためになされたものであり、より簡単な構成で以ってシェルの先端軌跡を略一直線的にすることが可能な浚渫用グラブバケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る浚渫用グラブバケット1は、吊支ワイヤ2で吊支される上フレーム3と、滑車機構5を介して上フレーム3に吊支される下フレーム6と、前後方向に伸びるシェル軸7を介して下フレーム6に開閉自在に軸支される左右一対のシェル8・8と、上フレーム3とシェル8・8とを連結する連結機構9とを含む。滑車機構5は、上フレーム3に設けられた上シーブ14と、下フレーム6に設けられた下シーブ20と、上下シーブ14・20に掛け回される開閉ワイヤ4とを含み、該開閉ワイヤ4により下フレーム6を昇降操作することによってシェル8・8を開閉操作することができる。
連結機構9は、上フレーム3の上部と左右のシェル8・8とを連結する左右一対の屈折リンク30と、上フレーム3の下部と左右のシェル8・8とを連結する連結アーム31とからなる。連結アーム31の上端は、上下に長い長穴で形成した軸受穴40と、該軸受穴40に係合するピン41とを介して上フレーム3に連結されており、連結アーム31の下端は各シェル8・8に転回軸42を介して連結されている。ピン41は、軸受穴40の下端内縁に受け止められる下端位置と、軸受穴40の下端内縁および上端内縁と非接触となる中途位置と、軸受穴40の上端内縁に受け止められる上端位置との間で変位できるように、上フレーム3で支持されている。左右のシェル8・8は、その対向面が下方に指向する全開姿勢と、対向面どうしが接触する全閉姿勢との間でシェル軸7まわりに揺動可能に構成されている。そして、シェル8・8が全開姿勢および全閉姿勢にあるとき、ピン41は軸受穴40内で下端位置に位置し、シェル8・8が全開姿勢と全閉姿勢との間にあるとき、ピン41が軸受穴40内で中途位置或いは上端位置に位置するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
屈折リンク30は、上フレーム3に上転回軸32を介して固定した第1アーム33と、シェル8に下転回軸34を介して固定した第2アーム35と、両アーム33・35の遊端どうしを屈折自在に連結する屈折ピン36とで構成されており、屈折リンク30の下転回軸34が、連結アーム31の転回軸42を兼ねている形態を採ることができる。
【0009】
上フレーム3の前後面に、下フレーム6の昇降移動を許すガイド溝16が設けられるとともに、該ガイド溝16の左右外縁に沿って、昇降移動時における下フレーム6の左右方向の遊動を規制するための規制体17が設けられている形態を採ることができる。
【0010】
前後縁および左右縁に沿う上フレーム3の上面四箇所に、吊支ワイヤ2が接続される吊環を支持するための吊持ブラケット10が設けられている形態を採ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明者等は、従来のグラブバケット100における、全開姿勢から全閉姿勢に至るシェルの先端軌跡(図7参照)を検討した結果、該先端軌跡は、以下の三つの段階に大別できるとの知見を得た。すなわち、シェル101・101の先端軌跡は、閉操作開始直後(開操作序盤)から閉操作中盤において、下フレーム102のシェル軸103の上昇よりもシェル101の先端軌跡の下降具合の方が大きく、従って、シェル101の先端軌跡が下がる第1段階(図8(a)〜(c)参照)と、該第1段階からさらにシェル101を閉状態に近づけたとき(閉操作中盤から終盤)、閉操作に伴うシェル101の先端軌跡の下降度合いとシェル軸103の上昇度合いとが略一致して、シェル101の先端軌跡が略一直線状となる第2段階(図8(c)〜(d))と、閉操作終盤においてシェル101が略全閉姿勢になったときに、閉操作に伴うシェル101の先端軌跡の下降度合いよりもシェル軸103の上昇度合いの方が大きくなり、シェル101の先端軌跡が上昇する第3段階(図8(d)〜(f))に大別できるとの知見を得た。
そのうえで、特に、先の第1段階と第3段階におけるシェル101の先端軌跡を制御することができれば、全開姿勢から全閉姿勢に至るシェル101の先端軌跡を略一直線状とすることができるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、本発明においては、滑車機構5を使って上フレーム3に対する下フレーム6の昇降操作を行う浚渫用グラブバケット1において、上フレーム3とシェル8・8とを連結する連結機構9を、上フレーム3の上部とシェル8・8とを連結する屈折リンク30と、上フレーム3の下部とシェル8・8とを連結する連結アーム31とで構成した。そして、連結アーム31の上端を上フレーム3に形成された上下に長い長穴で形成した軸受穴40と、該軸受穴40に係合するピン41とを介して上フレーム3に連結して、該軸受穴40内でピン41が上下方向に移動できるように構成した。
【0013】
以上のような構成からなる本発明に係るグラブバケットにおいては、図6(a)に示すように、下フレーム6が下方に位置し、シェル8・8が全開姿勢にある状態においては、シェル8・8の荷重を受けて、連結アーム31のピン41は軸受穴40の下端内縁に受け止められる下端位置にある。この状態から、滑車機構5により開閉ワイヤ4を巻き上げて下フレーム6を上昇させると(閉操作を開始すると)、シェル軸7が上昇し、図6(b)、(c)に示すように、シェル8・8は閉じていく。また、かかるシェル8・8の閉じ操作に伴って、連結アーム31の下端の転回軸42がグラブバケットの左右方向の中心に近付くとともに、連結アーム31の角度姿勢が立直姿勢に近付いて行く。このため、転回軸42を起点とする連結アーム31の突っ張り作用により、軸受穴40内でピン41は上昇移動されて、軸受穴40の下端内縁および上端内縁と非接触となる中途位置に移動する。
【0014】
上述のように、従来のグラブバケットにおいては、閉操作序盤から閉操作中盤の第1段階ではシェル101・101の先端の下降度合が大きく円弧状の軌跡を描く。これに対して、本発明に係るグラブバケットにおいては、連結アーム31のピン41を上下に長い長穴状の軸受穴40内で移動可能に構成したので、下フレーム6の上昇に伴ってシェル軸7のみならず、ピン41も上昇移動させることができる。以上より、閉操作序盤から中盤におけるシェル8・8の先端の大きな下降度合いを、これらシェル軸7の上昇とピン41の上昇により吸収することができるので、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。
【0015】
図6(c)に示す状態から、さらに下フレーム6を上昇させると、ピン41は、軸受穴40の上端内縁と接触する上端位置に変位する(図6(d)(e)参照)。換言すれば、ピン41の軸受穴40内の上方限界が規制され、下フレーム6の上昇に伴って、シェル軸7のみが上昇する。かかる閉操作中盤から閉操作終了直前におけるシェル8・8の先端の下降具合は、シェル軸7の上昇により吸収されるため、シェル8・8の先端軌跡は略一直線状となる。
【0016】
閉操作終了直前となると、連結アーム31の角度姿勢が立直姿勢に近付くため、転回軸42を起点とする突っ張り作用が解けて、ピン41は軸受穴40内で上端位置から下端位置に下降移動する(図6(f)参照)。かかるピン41の下降移動により、シェル軸7の上昇に伴うシェル8・8の先端の上昇を吸収することができるため、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。すなわち、従来のグラブバケットにおいては不可避であった、閉操作終盤の第3段階におけるシェル8・8の先端の上昇を、本発明においては、ピン41が下降移動することで吸収して、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。
【0017】
以上のように、本発明においては、上フレーム3に上下に長い長穴状の軸受穴40を形成し、該軸受穴40内で、上フレーム3の下端とシェル8・8とを連結する連結アーム31のピン41を上下方向に移動可能に構成したので、従来においては、シェル8・8の先端軌跡を一直線状とすることが困難であった、閉操作序盤から中盤(第1段階)、および閉操作終盤(第3段階)におけるシェル8・8の先端軌跡を略一直線状にすることができる。これらにより、シェル8・8の全開姿勢から全閉姿勢に至るまでの閉操作全体における、下フレーム6の昇降移動に伴うシェル軸7の位置と、軸受穴40内におけるピン41の位置とで規定される、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状にすることができるので、従来の浚渫用グラブバケットでは不可避であった、シェル8・8の先端軌跡が円弧状となることに起因して、海底に凹溝が形成される不具合を確実に解消することができる。これにて、海底を平坦に浚渫することができるので、海底を平坦にならす作業が不要となり、浚渫作業をより作業効率良く行なうことができる。
【0018】
また、本発明に係るグラブバケット1においては、下フレーム6を降下させてシェル8・8を開閉操作するための滑車機構5からのトルクを、ピン41が軸受穴40内で遊動することで逃がすことができ、該トルクがシェル8・8に直接的に加わることが無い。このため、本発明によれば、シェル8・8の先端が海底面を大きく掘り下げることは無く、換言すれば、海底面に凹溝状の浚渫掘削跡ができることも無く、海底面をなぞるように浚渫を行って所定厚みの土砂やヘドロをすくい取ることができ、所謂「薄層浚渫」を確実に行うことができる点でも優れている。
【0019】
なお、本発明においては、上フレーム3の上端とシェル8・8とを屈折リンク30により連結したため、該屈折リンク30により、シェル8・8のシェル軸7まわりの揺動回転が阻害される不具合は生じない。
【0020】
また、特許文献1、2に示すように、シェルの開閉要素(アクチュエータ)を油圧シリンダとするグラブバケットでは、下フレームの位置を正確に制御して、シェルの先端軌跡を正確に制御することが可能であるが、これら特許文献1,2の形態では、油圧シリンダを採用した分だけコストが高く付き、グラブバケットの全体コストの上昇を招来する不利がある。これに対して、本発明によれば、シェル8・8の開閉要素として、油圧シリンダよりも低廉な滑車機構5を採用したので、グラブバケット1の製造コストの上昇を抑えることができる。加えて、従来のグラブバケットには無い、上フレーム3の下部とシェル8・8とを連結する連結アーム31を採用するとともに、連結アーム31と上フレーム3との連結機構として、上フレーム3に長穴状の軸受穴40を採用し、これらによりシェル8・8の先端軌跡を略一直線状に制御する簡単な構成であるから、製造コストを抑えながら、シェル8・8の先端軌跡の制御機能を備えるグラブバケット1を得ることができる点でも優れている。
【0021】
屈折リンク30の下転回軸34が、連結アーム31の転回軸42を兼ねていると、連結アーム31の転回軸42を下転回軸34とは別に設ける形態に比べて、部品点数の削減を図って、より安価にグラブバケット1を得ることができる。
【0022】
本発明に係るグラブバケット1においては、上フレーム3の上部とシェル8・8とを屈折リンク30で連結したため、該屈折リンク30を介して上フレーム3にシェル8・8の荷重は殆ど受け止められず、シェル8・8の荷重の多くは、下フレーム6および連結アーム31を介して上フレーム3に受け止められる。つまり、本発明においては、下フレーム6にも多くの荷重が掛かる。また、本発明においては、連結アーム31のピン41を軸受穴40内で移動可能に構成したため、上フレーム3に対して下フレーム6が左右方向に位置ずれすると、ピン41の軸受穴40内でのスムーズな移動が阻害されるおそれがある。そこで、本発明のように、上フレーム3の前後面に下フレーム6の昇降移動を許すガイド溝16を設けるとともに、該ガイド溝16の左右外縁に沿って、昇降移動時における下フレーム6の左右方向の遊動を規制するための規制体17を設けていると、多くの荷重を受ける下フレーム6を、規制体17に沿って位置ずれすることなく昇降操作させることができるので、軸受穴40内においてピン41をスムーズに移動させることができる。これにて、ピン41が軸受穴40内で不用意に停止することを防ぐことができるので、動作不良の発生を抑えて、信頼性に優れたグラブバケット1を得ることができる。
【0023】
前後縁および左右縁に沿う上フレーム3の上面四箇所に、吊支ワイヤ2が接続される吊環を支持するための吊持ブラケット10a〜10dが設けられていると、これら四つの吊持ブラケット10a〜10dから選択される、前後一対、或いは左右一対の二つの吊支ブラケット10の吊環に吊支ワイヤ2を接続することで、クレーンに対するグラブバケット1の吊姿勢を90度ずつ姿勢変位させることができる。従って、クレーンの姿勢を変位させることなく、グラブバケット1の吊姿勢を変更して、浚渫作業を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る浚渫用グラブバケットの正面図である。
【図2】本発明に係る浚渫用グラブバケットの要部の側面図である。
【図3】本発明に係る浚渫用グラブバケットの側面図である。
【図4】図1のA−A線断面図である。
【図5】本発明に係る浚渫用グラブバケットの動作を説明するための概略正面図である。
【図6】(a)〜(f)は、本発明に係る浚渫用グラブバケットの動作を説明するための概略正面図である。
【図7】従来の浚渫用グラブバケットの動作を説明するための概略正面図である。
【図8】(a)〜(f)は、従来の浚渫用グラブバケットの動作を説明するための概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1乃至図6に、本発明に係る浚渫用グラブバケットの実施形態を示す。図1および図3に示すように、グラブバケット1は、図示しない起重機船のクレーンから垂下される2本の吊支ワイヤ2で吊持される。グラブバケット1は、2本の吊支ワイヤ2が接続される上フレーム3と、上フレーム3で開閉ワイヤ4を含む滑車機構5を介して吊持される下フレーム6と、下フレーム6に設けたシェル軸7で開閉自在に支持される左右一対のシェル8・8と、上フレーム3と左右のシェル8・8とを連結する連結機構9などで構成される。吊支ワイヤ2および開閉ワイヤ4は、それぞれクレーンを介してウインチに接続されており、ウインチを巻き上げ、或いは巻き下げ操作することにより、グラブバケット1の昇降操作、およびシェル8・8の開閉操作を行うことができる。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図中に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0026】
図1および図3に示すように、上フレーム3の上面四箇所には、吊支ワイヤ2・2が接続される吊環を支持するための吊持ブラケット10a〜10dが設けられている。これら4つの吊持ブラケット10a〜10dのうちの前後一対の吊持ブラケット10a・10bは、上フレーム3の上面の前後縁に沿って設けられており、左右一対の吊持ブラケット10c・10dは、上フレーム3の上面の左右縁に沿って設けられている。図1および図3には、左右一対の吊持ブラケット10c・10dに吊環を固定するとともに、これら各吊環に吊支ワイヤ2を接続した形態を示す。このように、上フレーム3の上面の前後および左右に、計四つの吊持ブラケット10a〜10dが設けられていると、これら四つの吊持ブラケット10a〜10dから選択される、前後一対、或いは左右一対の二つの吊支ブラケット10の吊環に吊支ワイヤ2を接続することで、クレーンに対するグラブバケット1の吊姿勢を簡単且つ確実に90度ずつ姿勢変位させることができる。従って、クレーンの姿勢を変位させることなく、グラブバケット1の吊姿勢を変更して、浚渫作業を進めることができる。
【0027】
図1および図4に示すように、上フレーム3は、前後一対の前後フレーム11・12と、前後方向に伸びて前後フレーム11・12を接続する不図示のスペーサと、前後フレーム11・12の上端を接続する天板フレーム13とからなり、平面視で中央部に開口を有する四角枠状に形成されている。天板フレーム13の上面には、先の吊持ブラケット10が固定され、天板フレーム13の下面には、上シーブ14が固定されている。天板フレーム13には、開閉ワイヤ4の挿通を許す開口が形成されている。前後フレーム11・12のそれぞれは、二枚の板体15・15を不図示のスペーサを介して接続してなる二重板構造に形成されている。また、前後フレーム11・12のそれぞれには、下フレーム6の軸受ブラケット22の前後外方向への突出を許して、下フレーム6の昇降移動を許すガイド溝16が設けられている。また、前後フレーム11・12の外面には、昇降移動時における下フレーム6の左右方向の遊動を規制するための規制体17が設けられている。規制体17は上下方向に伸びるバーであり、ガイド溝16の左右それぞれの外縁に沿って前後フレーム11・12の外面に装着固定されている。
【0028】
上フレーム3の上端には、後述の屈折リンク30が接続されており、上フレーム3の下端には連結アーム31が接続されている。これら屈折リンク30および連結アーム31からなる連結機構9の詳細については後述する。
【0029】
図1乃至図4に示すように、下フレーム6は、下シーブ20が装着されるベースフレーム21と、ベースフレーム21から前後方向に伸びる、前後一対の軸受ブラケット22・22とからなる。ベースフレーム21の上面には下シーブ20が固定されており、かかる下シーブ20と、上フレーム3に設けられた上シーブ14と、上下シーブ14・20に掛け回された開閉ワイヤ4とにより、滑車機構5が構成される。そして、かかる開閉ワイヤ4を介して下フレーム6を昇降操作することにより、シェル8・8を開閉操作することができる。
【0030】
図2および図4に示すように、軸受ブラケット22・22は、上フレーム3の前後フレーム11・12に設けられたガイド溝16・16を介して、前後外方向に突出している。軸受ブラケット22のそれぞれには、前後方向に伸びるシェル軸7が装着されており、これらシェル軸7まわりに左右一対のシェル8・8が開閉自在に装着されている。
【0031】
各シェル8は、シェル本体24と、シェル本体24を下フレーム6に連結するための前後一対のシェルアーム25・25と、連結機構9を構成する屈折リンク30および連結アーム31の下端を、転回軸34・42を介して連結するための四本のアームブラケット26a〜26dとを備える。四つのアームブラケット26a〜26dのうちの前後両端のアームブラケット26a・26dは、シェル本体24の前後縁に設けられている。
【0032】
先に述べたように、上フレーム3の上部とシェル8との間は屈折リンク30により接続されており、上フレーム3の下部とシェル8との間は連結アーム31により接続されている。詳しくは、図3に示すように、上フレーム3の上部と左右それぞれのシェル8との間は、一本の屈折リンク30により接続されており、図2に示すように、上フレーム3の下部と左右それぞれのシェル8との間は、前後一対の連結アーム31・31により接続されている。
【0033】
図1および図3に示すように、各屈折リンク30は、上フレーム3に前後一対の上転回軸32・32を介して固定した第1アーム33と、シェル8に下転回軸34を介して固定した第2アーム35と、両アーム33・35の遊端どうしを屈折自在に連結する前後一対の屈折ピン36・36とで構成されている。各上転回軸32は、上フレーム3の前後それぞれのフレーム11・12を構成する二枚の板体15・15の間に装着されている。図3に示すように、各第1アーム33は、上転回軸32・32まわりに揺動自在に構成されて上下方向に伸びる前後一対の縦ロッド33a・33aと、これら縦ロッド33a・33aを繋ぐように水平方向に伸びる上下二本の横ロッド33b・33cとで構成される。縦ロッド33a・33aの下端に設けられた屈折ピン36・36まわりに揺動自在に構成される第2アーム35は、水平方向に伸びる中空台形状のベース35aと、ベース35aの前後四箇所から下方に伸びて、下転回軸34(34a〜34d)を介してシェル8のアームブラケット26(26a〜26d)に連結される四本の連結ロッド37(37a〜37d)とで構成される。
【0034】
上フレーム3の下部と左右の各シェル8とを連結する二本の連結アーム31の上端は、上フレーム3に設けられた上下方向に長い長穴で形成した軸受穴40と、該軸受穴40に係合するピン41とを介して上フレーム3に連結されており、該軸受穴40内でピン41が上下方向に移動できるように構成されている。また、連結アーム31の下端は、シェル8に転回軸42を介して連結されている。図2に示すように、軸受穴40は、上フレーム3の前後フレーム11・12を構成する二枚の板体15のそれぞれに開設されている。ここでは、屈曲リンク30の前後中央部に位置する二つの下転回軸34b・34cが連結アーム31の転回軸42を兼ねている。
【0035】
以上のような構成からなる浚渫用グラブバケット1においては、浚渫作業位置の真上にグラブバケット1を移動させて、開閉ワイヤ4を巻き下げて、シェル8・8を全開姿勢とする(図6(a)参照)。さらに吊支ワイヤ2を巻き下げて、海中の浚渫作業位置までグラブバケット1を降下させる。次に、グラブバケット1を浚渫作業位置に停止させた状態で、開閉ワイヤ4を巻き上げることにより、シェル8・8を海底の堆積物をつかみ取りながら閉じ操作する。シェル8・8が堆積物をつかみ取ったのち、開閉ワイヤ4が緩むことがないように、吊支ワイヤ2および開閉ワイヤ4を同時に巻き上げてグラブバケット1を海上へと引き上げる。引き上げたグラブバケット1を運搬船上に移動し、開閉ワイヤ4を巻き下げてシェル8・8を開き操作し、つかみ取った堆積物を積載する。順次、浚渫位置を変更しながら、上記作業を繰り返すことによって浚渫作業を行なう。
【0036】
そのうえで、本実施形態に係る浚渫用グラブバケット1においては、全開姿勢から全閉姿勢に至るまでのシェル8・8の先端で規定される軌跡(先端軌跡)が、略一直線状となっている点が着目される。かかるシェル8・8の開閉動作について、図5および図6を参照して説明する。図6(a)に示すように、下フレーム6が下方に位置し、シェル8・8が全開姿勢にある状態においては、シェル8・8の荷重を受けて、連結アーム31のピン41は軸受穴40の下端内縁に受け止められる下端位置にある。この状態から、滑車機構5により開閉ワイヤ4を巻き上げて下フレーム6を上昇させると(閉操作を開始すると)、シェル軸7が上昇し、図6(b)、(c)に示すように、シェル8・8は閉じていく。また、かかるシェル8・8の閉じ操作に伴って、連結アーム31の下端の転回軸42がグラブバケット1の左右方向の中心に近付くとともに、連結アーム31の角度姿勢が立直姿勢に近付いて行く。このため、転回軸42を起点とする連結アーム31の突っ張り作用により、軸受穴40内でピン41は上昇移動される。このように、連結アーム31のピン41を上下に長い長穴状の軸受穴40内で移動可能に構成してあると、下フレーム6の上昇に伴ってシェル軸7のみならず、ピン41をも上昇移動させることができるので、閉操作序盤から中盤におけるシェル8・8の先端の大きな下降度合いを、これらシェル軸7の上昇とピン41の上昇により吸収することができ、従ってシェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。
【0037】
図6(c)に示す状態から、さらに下フレーム6を上昇させると、ピン41は、軸受穴40の上端内縁と接触する上端位置に変位する(図6(d)参照)。換言すれば、ピン41の軸受穴40内の上方限界が規制され、下フレーム6の上昇に伴って、シェル軸7のみが上昇する。かかる閉操作中盤から閉操作終了直前におけるシェル8・8の先端の下降具合はシェル軸7の上昇により吸収されるため、シェル8・8の先端軌跡は略一直線状となる。
【0038】
閉操作終了直前となると、連結アーム31の角度姿勢が立直姿勢に近付くため、転回軸42を起点とする突っ張り作用が解けて、ピン41は軸受穴40内で上端位置から下端位置に下降移動する(図6(f)参照)。かかるピン41の下降移動により、シェル軸7の上昇に伴うシェル8・8の先端の上昇を吸収することができるため、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。すなわち、閉操作終盤におけるシェル8・8の先端の上昇を、ピン41が下降移動することで吸収して、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状とすることができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る浚渫用グラブバケットにおいては、上フレーム3に上下に長い長穴状の軸受穴40を形成し、該軸受穴40内で、上フレーム3の下端とシェル8・8とを連結する連結アーム31のピン41を上下方向に移動可能に構成したので、従来においては、シェル8・8の先端軌跡を一直線状とすることが困難であった、閉操作序盤から中盤(第1段階)、および閉操作終盤(第3段階)におけるシェル8・8の先端軌跡を略一直線状にすることができる(図5、6参照)。これらにより、シェル8・8の全開姿勢から全閉姿勢に至るまでの閉操作全体における、下フレーム6の昇降移動に伴うシェル軸7の位置と、軸受穴40内におけるピン41の位置とで規定される、シェル8・8の先端軌跡を略一直線状にすることができるので、従来の浚渫用グラブバケットでは不可避であった、シェル8・8の先端軌跡が円弧状となることに起因して、海底に凹溝が形成される不具合を確実に解消することができる。これにて、海底を平坦に浚渫することができるので、海底を平坦にならす作業が不要となり、浚渫作業をより作業効率良く行なうことができる。
【0040】
また、本実施形態に係る浚渫用グラブバケット1においては、下フレーム6を降下させてシェル8・8を開閉操作するための滑車機構5からのトルクを、ピン41が軸受穴40内で遊動することで逃がすことができ、該トルクがシェル8・8に直接的に加わることが無い。このため、本実施形態によれば、シェル8・8の先端が海底面を大きく掘り下げることは無く、換言すれば、海底面に凹溝状の浚渫掘削跡ができることも無く、海底面をなぞるように浚渫を行って所定厚みの土砂やヘドロをすくい取ることができ、所謂「薄層浚渫」を確実に行うことができる点でも優れている。
【0041】
また、本実施形態に係る発明によれば、シェル8・8の開閉要素として、油圧シリンダよりも低廉な滑車機構5を採用したので、グラブバケット1の製造コストの上昇を抑えることができる。加えて、上フレーム3の下部とシェル8・8とを連結する連結アーム31を採用するとともに、連結アーム31と上フレーム3との連結機構として、上フレーム3に長穴状の軸受穴40を採用し、これらによりシェル8・8の先端軌跡を略一直線状に制御する簡単な構成であるから、製造コストを抑えながら、シェル8・8の先端軌跡の制御機能を備えるグラブバケット1を得ることができる点でも優れている。
【0042】
屈折リンク30の下転回軸34が、連結アーム31の転回軸42を兼ねていると、連結アーム31の転回軸42を下転回軸34とは別に設ける形態に比べて、部品点数の削減を図って、より安価にグラブバケット1を得ることができる。
【0043】
上フレーム3の前後面に、下フレーム6の昇降移動を許すガイド溝16を設けるとともに、該ガイド溝16の左右外縁に沿って、昇降移動時における下フレーム6の左右方向の遊動を規制するための規制体17を設けていると、多くの荷重を受ける下フレーム6を、規制体17に沿って位置ずれすることなく昇降操作させることができるので、軸受穴40内においてピン41をスムーズに移動させることができる。これにて、ピン41が軸受穴40内で不用意に停止することを防ぐことができるので、動作不良の発生を抑えて、信頼性に優れたグラブバケット1を得ることができる。
【0044】
上フレーム3、下フレーム6等の構成は、上記実施形態に示したものに限られない。屈折リンク30を構成する第1、第2アーム等の構成は、上記実施形態に示したものに限られない。
【符号の説明】
【0045】
1 グラブバケット
2 吊支ワイヤ
3 上フレーム
4 開閉ワイヤ
5 滑車機構
6 下フレーム
7 シェル軸
8 シェル
9 連結機構
10 吊持ブラケット
14 上シーブ
16 ガイド溝
17 規制体
20 下シーブ
30 屈折リンク
31 連結アーム
32 上転回軸
33 第1アーム
34 下転回軸
35 第2アーム
36 屈折ピン
40 軸受穴
41 ピン
42 転回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊支ワイヤ(2)で吊支される上フレーム(3)と、滑車機構(5)を介して上フレーム(3)に吊支される下フレーム(6)と、前後方向に伸びるシェル軸(7)を介して下フレーム(6)に開閉自在に軸支される左右一対のシェル(8・8)と、上フレーム(3)とシェル(8・8)とを連結する連結機構(9)とを含み、
前記滑車機構(5)が、上フレーム(3)に設けられた上シーブ(14)と、下フレーム(6)に設けられた下シーブ(20)と、上下シーブ(14・20)に掛け回される開閉ワイヤ(4)とを含み、該開閉ワイヤ(4)により下フレーム(6)を昇降操作することによってシェル(8・8)を開閉操作する浚渫用グラブバケットにおいて、
連結機構(9)は、上フレーム(3)の上部と左右のシェル(8・8)とを連結する左右一対の屈折リンク(30)と、上フレーム(3)の下部と左右のシェル(8・8)とを連結する連結アーム(31)とからなり、
連結アーム(31)の上端は、上下に長い長穴で形成した軸受穴(40)と、該軸受穴(40)に係合するピン(41)とを介して上フレーム(3)に連結されており、連結アーム(31)の下端は各シェル(8・8)に転回軸(42)を介して連結されており、
ピン(41)は、軸受穴(40)の下端内縁に受け止められる下端位置と、軸受穴(40)の下端内縁および上端内縁と非接触となる中途位置と、軸受穴(40)の上端内縁に受け止められる上端位置との間で変位できるように、上フレーム(3)で支持されており、
左右のシェル(8・8)は、その対向面が下方に指向する全開姿勢と、対向面どうしが接触する全閉姿勢との間でシェル軸(7)まわりに揺動可能に構成されており、
シェル(8・8)が全開姿勢および全閉姿勢にあるとき、ピン(41)は軸受穴(40)内で下端位置に位置し、シェル(8・8)が全開姿勢と全閉姿勢との間にあるとき、ピン(41)が軸受穴(40)内で中途位置或いは上端位置に位置するように構成されていることを特徴とする浚渫用グラブバケット。
【請求項2】
屈折リンク(30)は、上フレーム(3)に上転回軸(32)を介して固定した第1アーム(33)と、シェル(8)に下転回軸(34)を介して固定した第2アーム(35)と、両アーム(33・35)の遊端どうしを屈折自在に連結する屈折ピン(36)とで構成されており、
屈折リンク(30)の下転回軸(34)が、連結アーム(31)の転回軸(42)を兼ねている、請求項1記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項3】
上フレーム(3)の前後面に、下フレーム(6)の昇降移動を許すガイド溝(16)が設けられるとともに、該ガイド溝(16)の左右外縁に沿って、昇降移動時における下フレーム(6)の左右方向の遊動を規制するための規制体(17)が設けられている、請求項1又は2記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項4】
前後縁および左右縁に沿う上フレーム(3)の上面四箇所に、吊支ワイヤ(2)が接続される吊環を支持するための吊持ブラケット(10)が設けられている、請求項1乃至3のいずれかに記載の浚渫用グラブバケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246710(P2012−246710A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120706(P2011−120706)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【特許番号】特許第4958321号(P4958321)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(395023875)ミノツ鉄工株式会社 (6)