説明

浚渫船

【課題】浚渫作業を効率的に行い、ラダー先端のカッターの深度を高精度に計測可能な浚渫船を提供する。
【解決手段】ラダー3の基端部8に備えた傾斜計5と、ラダー3の揺動支点15の水面からの高さhを計測する計測手段6、すなわち、ラダー3の揺動支点付近に配置され、該ラダー3の揺動支点15との上下方向の距離hが、該ラダー3の揺動に対して変位せず水中に没水した位置に配置される水圧センサー7とを備えているので、浚渫作業を効率的に行い、ラダー先端のカッター4の深度Hを高精度に計測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底の掘削を行う浚渫船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、浚渫船は、図1に示すように、船尾に幅方向に間隔を置いて配置される一対のスパッド2、2を備えると共に、船首に上下方向に昇降自在のラダー3を備えている。また、ラダー3の先端部にカッター4が設けられている。そして、各スパッド2、2を水底に打ち込み、この打ち込んだスパッド2、2を中心として船本体10を左右にスイングさせることでラダー先端のカッター4を移動させ、船本体10に設けたポンプ(図示略)によりラダー3の先端側から土砂を吸い上げるものである。
【0003】
また、近年、浚渫船には運転監視システムが備えられており、該運転監視システムは、運転状況モニタリング、GPSを利用した船位測定、カッター軌跡のモニタ表示、潮位伝送及び無線LAN画像伝送等で構成されている。この運転監視システムにより高精度かつ高効率な操船が可能となっている。
そこで、上述したカッター軌跡のモニタ表示には、ラダー先端のカッターを深度測定する必要があるが、従来では、この一手段として、ラダーに、長手方向に間隔を置いて水圧センサーを2台備え、各水圧センサーの計測結果に基いてラダー先端のカッターの深度を計測していた。
【0004】
しかしながら、上述した水圧センサーによる計測方法では、水圧センサーが波による圧力も検出するために海象状況によってはラダーを実際に上下動させなくても表示画面上でカッター先端の深度が変化する状況が発生していた。また、水圧センサーの受圧面に突発的な衝撃が加わるとゼロ点が変わってしまい、再調整するために一旦ラダーを海上に上げて大気圧補正する必要があり作業効率を悪化させていた。さらに、2台の水圧センサーからの信号でカッターの深度を計算しているため、いずれか一方の水圧センサーが故障してしまうと深度表示が出来なくなってしまう。しかも、水圧センサーにトラブルが発生すると、浚渫作業を一旦中断してラダーを上昇させる必要があるため復旧作業が効率的では無かった。
【0005】
そこで、特許文献1には、ラダー先端のカッターの深度を算出する深度算出手段が開示されており、該深度算出手段は次のように構成される。すなわち、浚渫船のラダーシャーに縦設されるガイド部材に沿って上下移動可能な移動滑車が設けられ、この移動滑車の下方に吊設したウエートの下部にピアノ線等の被測定部材を連結し、この被測定部材の移動を移動測定手段により測定する。また、ワイヤーの基端を前記ラダーシャーに固定し、そのワイヤーを移動滑車に掛装して複数の案内部材により引き回して、該ワイヤーの先端を前記ラダーの中央側に連結している。これにより、ラダーが下方に回動すると、ワイヤーの移動により移動滑車が上方に移動し、この移動量を移動測定手段が検出することでカッターの深度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−159125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る深度算出手段では、ピアノ線等の移動量を計測することでカッターの深度を算出しているが、この深度算出手段では、ピアノ線の張りの程度、ワイヤーの伸び等の機械的な測定誤差や、船体の動揺または傾斜による測定結果の補正ができない可能性がある。一般に、カッターの深度は船体と相対的に算出されるので、船体の動揺または傾斜による測定結果を補正することが不可能である場合、直接的なAP管理(地上の所定位置を基準点とする深度管理)が不可能となる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、浚渫作業を効率的に行い、ラダー先端のカッターの深度を高精度に計測可能な浚渫船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、上下方向に揺動自在で先端部にカッターを有するラダーを備えた浚渫船であって、前記ラダーの基端部に備えた傾斜計と、前記ラダーの揺動支点の水面からの高さを計測する計測手段と、を備えることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、計測手段によりラダーの揺動支点の水面からの高さを計測すると共に、傾斜計によりラダーの傾斜角度を計測して、これらの計測結果によりラダー先端のカッターの深度を精度良く算出することができる。なお、傾斜計は防水構造が採用されているため、傾斜計に多少海水が飛散してもその計測機能に支障をきたすことはない。
しかも、請求項1の発明では、従来のように計測センサー等にトラブルが発生してもラダーを上昇させる必要がなく、浚渫作業を中断することなくトラブルに対応することができる。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記計測手段は、該ラダーの揺動支点との上下方向の距離が、該ラダーの揺動に対して変位せず水中に没水した位置に配置される水圧センサーで構成されることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、水圧センサーによって計測される該水圧センサー自身の水深と、予め入力された水圧センサーとラダーの揺動支点との上下方向の距離とから、水面からのラダーの揺動支点の高さが算出される。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記水圧センサーは、保護管で覆われることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、水圧センサーが受ける波の影響を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の浚渫船は、ラダーの基端部に備えた傾斜計と、ラダーの揺動支点の水面からの高さを計測する計測手段、すなわち、ラダーの揺動支点付近に配置され、該ラダーの揺動支点との上下方向の距離が、該ラダーの揺動に対して変位せず水中に没水した位置に配置される水圧センサーとを備えているので、傾斜計は波の影響を受けず、さらに、水圧センサーも波の影響を最小限に抑えているので、ラダー先端のカッターの深度を精度良く算出することができる。
また、本発明の浚渫船では、傾斜計及び水圧センサーがラダーの揺動支点付近に備えられているので、これら傾斜計及び水圧センサーにトラブルが発生しても、ラダーを上昇させて浚渫作業を中断することなくそのトラブルに対応することができ、浚渫作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る浚渫船を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る浚渫船の要部の拡大図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る浚渫船の主要構成部材の模式図である。
【図4】図4は、ラダー先端のカッターの水深の計算概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図4に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る浚渫船1は、図1に示すように、船尾に一対のスパッド2、2を備えると共に、船首に上下方向に揺動自在のラダー3を備えている。そして、各スパッド2、2を中心として船本体10を左右にスイングさせることでラダー先端のカッター4を移動させて水底を掘削し、船本体10に設けたポンプ(図示略)によりラダー3の先端側から土砂を吸い上げるようにしている。
また、上述したように、本浚渫船1は運転監視システムを備えており、該運転監視システムにはカッター軌跡のモニタ表示が構成されるため、ラダー先端のカッター4の深度を正確に計測する必要がある。なお、カッター軌跡のモニタ表示は、潮位測定データ及び浚渫深度(カッターの深度)からのデータにより掘削軌跡をリアルタイムにモニタ表示することで、正確な掘削状況を常時確認して確実な掘削を可能としている。
【0015】
そして、本発明の実施の形態に係る浚渫船1は、図2〜図4に示すように、ラダー3の基端部8に備えた傾斜計5と、ラダー3の揺動支点15(トラニオン)の水面からの高さhを計測する計測手段6とを備えている。
傾斜計5は、ラダー3の基端部8の上面で海水に水没しない位置に取り付けられている。該傾斜計5は、取付架台12を介してラダー3の基端部8の上面に取り付けられる。該傾斜計5は、ラダー3が延びる方向(X軸方向)に対して上下方向の傾斜角度θと、ラダー3が延びる方向と直交する方向(Y軸方向)に対して上下方向の傾斜角度とが計測可能であり、また、傾斜角度の計測範囲はX軸方向及びY軸方向共に±90°に設定されるが、実際には、ラダー3が延びる方向(X軸方向)に対して上下方向の傾斜角度θだけが計測される。また、傾斜計5は、防水構造が採用されており、耐水圧が上限0.3MPaに設定される。
【0016】
計測手段6は水圧センサー7で構成されており、該水圧センサー7は、ラダー3の揺動支点15付近に備えられている。詳細には、水圧センサー7はラダー3の揺動に対して不動部分である船本体10から吊り下げられ水中に没水するように配置される。これにより、水圧センサー7とラダー3の揺動支点15との上下方向の距離hは、ラダー3が揺動しても変化することはない。
なお、水圧センサー7は鋼管等の保護管11で覆われ、該保護管11は船本体10から水中に没水するように吊り下げられて固定される。このように、水圧センサー7は保護管11により保護されているので、水圧センサー7の波からの影響を最小限に抑えることが可能になる。
なお、傾斜計5及び水圧センサー7は、ラダー3の基端部8の上面に備えられる制御盤13に電気的に接続され、該制御盤13は船上のパソコン(図示略)に電気的に接続される。
【0017】
次に、本発明の実施の形態に係る浚渫船1の作用、特に、ラダー先端のカッター4の水深を計測する方法を図4に基いて説明する(適宜図2及び3も参照)。
本浚渫船1が所定位置に到達して浚渫が開始されると、ラダー3がその揺動支点15を支点に下降されて、ラダー先端のカッター4が水底に到達する。すると、傾斜計5によりラダー3の傾斜角度θが計測されて、その計測結果が制御盤13を介してパソコンに送信される。また、ラダー3の揺動支点15付近に備えられた水圧センサー7により該水圧センサー7自身の水深hが計測され、その計測結果が制御盤13を介してパソコンに送信される。
そして、パソコンにて、予め入力された水圧センサー7とラダー3の揺動支点15との間の上下方向の距離h及び水圧センサー7の水深hからラダー3の揺動支点15の水面からの高さhが算出される。続いて、ラダー3の傾斜角度θ及び予め入力されたラダー3の全長Lからラダー3の揺動支点15とラダー先端のカッター4との間の上下方向の距離H’が算出される。続いて、ラダー3の揺動支点15の水面からの高さh、ラダー3の揺動支点15とラダー先端のカッター4との間の上下方向の距離H’及び潮位伝送装置から得られる水面のAP高さからラダー先端のカッター4のAP換算された深度Hが算出され、パソコンにモニタ表示される。
【0018】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る浚渫船1で、運転監視システムとして、ラダー3の基端部8に備えた傾斜計5と、ラダー3の揺動支点15の水面からの高さhを計測する計測手段6、すなわち、ラダー3の揺動支点15付近に配置され、該ラダー3の揺動支点15との上下方向の距離hが、該ラダー3の揺動に対して変位せず水中に没水した位置に配置される水圧センサー7とを備えており、傾斜計5は波の影響を受けず、さらに、水圧センサー7への波の影響も最小限に抑えているので、ラダー先端のカッター4の深度Hを精度良く算出することができる。
また、本発明の実施の形態に係る浚渫船1では、傾斜計5及び水圧センサー7がラダー3の揺動支点15付近に備えられているので、従来のように計測センサー等にトラブルが発生してもラダー3を上昇させる必要がなく、浚渫作業を中断することなく傾斜計5及び水圧センサー7のトラブルに対応することができる。
【符号の説明】
【0019】
1 浚渫船,3 ラダー,4 カッター,5 傾斜計,6 計測手段,7 水圧センサー,8 基端部,11 保護管,15 揺動支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に揺動自在で先端部にカッターを有するラダーを備えた浚渫船であって、
前記ラダーの基端部に備えた傾斜計と、
前記ラダーの揺動支点の水面からの高さを計測する計測手段と、
を備えることを特徴とする浚渫船。
【請求項2】
前記計測手段は、該ラダーの揺動支点との上下方向の距離が、該ラダーの揺動に対して変位せず水中に没水した位置に配置される水圧センサーで構成されることを特徴とする浚渫船。
【請求項3】
前記水圧センサーは、保護管で覆われることを特徴とする請求項1または2に記載の浚渫船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−219925(P2011−219925A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86910(P2010−86910)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(397055861)株式会社トマック (7)