説明

浮上成分を有する液体の攪拌方法及び移送方法

【課題】 各種排水は比重の異なる多くの成分を含み、特に比重が1以下の成分は排水表面を浮遊するため、ポンプ等では吸引できず濾過等の排水処理に支障を来たしていた。
【解決手段】 浮上成分26と沈降成分27、28を有する排水29を縦穴24を流下させて底面22や側壁23に衝突させることで渦流を生じさせ、浮上成分を排水内部に取り込んで、ポンプ等でも浮上成分を吸引でき、排水全体を移送することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮上成分を有する液体の攪拌方法及び移送方法に関し、より詳細には食品排水などの浮上成分を含む液体を簡便に攪拌又は混合して引き続く処理を容易に行えるようにするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホテル、料理店又は弁当惣菜工場などの厨房等から排出される排水には、調理や食器の洗浄に伴う食物屑や容器片の残滓等が含まれ、これらの残滓は濾過等により除去され法令で規制される値以下にした後、放流する必要がある。これは厨房からの排水以外の排水についても同様である。
これらの排水には比重の異なる各種残渣類が含まれ、比重が1を超える残渣は静止状態の排水中では沈降し、発泡樹脂製の容器片や野菜屑等の比重が1以下の残渣は排水表面に浮上している。排水処理には、攪拌、濾過及び薬剤添付等の各種工程があり、処理対象の排水を自由に各工程へ移送させることが必要である。
【0003】
これら排水の移送の場合、位置エネルギーを利用して、高所から低所へ移送することは容易であるが、低所から高所へ、あるいは同じ高さの異なった場所へ移送する場合にはポンプなどの動力が必要となる。しかし浮上成分を有する排水をポンプを使用して移送させるためには困難が伴うことが多い。
つまりポンプを使用して排水を汲み上げる場合、図3に示すように排水1に浮上成分2が浮遊していると、ポンプの吸水管3を排水1表面に接触させても、排水1表面のうち吸水管3内に存在する浮上成分2のみが吸引されるだけで、吸水管3より外側の浮上成分2を吸引することができない。従って排水1中の残渣のうち、比重が1を超える成分についてはポンプで吸引して他の場所へ移送することは簡単であるが、比重が1以下の浮上成分の移送を行うことができず、浮上成分が蓄積してしまう。この浮上成分は単一成分ではなく、複数の成分が絡み合っていることが多く、手作業で前記排水から浮上成分を除去することは長時間を要する上、作業員にとって不衛生であることから、このような浮上成分を含む排水処理が簡単にできる装置が長年要望されている。
【0004】
更に図4Aに示すように、浮上成分と沈降成分を有する排水4を攪拌タンク5内に収容し、攪拌翼6でタンク5内の排水4を攪拌すると、該攪拌翼6により生じる波動は八方に進行する。軽い沈降成分7Aと重い沈降成分7Bには攪拌翼6から直接あるいはタンク5の底面から反射した波動が到達して、底面に沈降しているこれらの成分が排水内を浮遊する。しかし浮上成分8には下方又は側方からの波動しか加わらないため、前記浮上成分8は排水4の表面に浮上したまま維持され、排水4中に沈むことがなく、排水4の表面に浮遊したままになる。従って図4Aに示すように、ポンプの吸水管9の先端を攪拌タンク5内に位置させて攪拌翼6を回転させながら排水4の汲み上げを行っても、図4Bに示すように前記沈降成分7A、7Bのみを含む排水がポンプ10により吸引されて上方の貯留タンク11に達し、浮上成分8は依然として攪拌タンク5内に留まっている。
【0005】
更に例えば図4Aに示すような排水を収容した攪拌タンクの底面に吸引口を設置し、この吸引口からポンプで吸引して、排水を汲み上げるという手法も可能である。しかしこの方法では、当初はポンプに対して大きな負荷が掛かる一方、タンク内の排水の量が減少するにつれてポンプに掛かる負荷が低下するため、ポンプに対する負荷変動が大きくなり過ぎ、継続的なポンプ使用を行うとことが困難になる。更にタンク内の排水の量が少なくなるほど、ポンプの空転が起き易くなり、ポンプが損傷し易くなる。
しかも浮上成分の移送という観点からは、浮上成分はその軽質性から、タンク内の底面に付着し易く、排水全量がポンプで汲み上げられた後も、タンク内に残る傾向がある。タンク底面を傾斜させてもさほど効果は上がらず、排水が傾斜面を流れる速度より浮上成分が傾斜面を移動する速度の方がかなり遅いため、浮上成分はタンク底面上に付着して残存し易くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように浮上成分を含む排水全体を、ポンプ等の動力源に過度の負担を掛けることなく、自在に移送することができれば排水処理の効率は飛躍的に向上する。従来はこの浮上成分を自在に移送できないため、適切な濾過操作等ができずに当初の排水中に残り易く、処理されずに放流されて、最終的に河川から海へ達し、環境汚染の大きな原因となっている。
更に池や湖沼、あるいは河川でも浮上成分は水質汚染の要因で、視覚的な面での美観を損ない易い。従って浮上成分を簡単に除去できれば環境保全上及び場合によっては観光資源保護の面から大きな意味を持つ。
又アルミニウムや亜鉛等の軽量の金属を所定形状の製品にダイカスト法により成形加工する場合にも、前記金属粉や、マシン油等の離型剤を含む排水が生じるが、前記金属粉を除去するための有効な手段がなく、そのまま放流されているのが現状である。
このような浮上成分を有する排水や湖水等から浮上成分を除去するためには、水面を浮遊している当該浮上成分を水中に取り込んで、ポンプ等により汲み上げて容易に移送できるようにする必要がある。
【0007】
従って本発明は、浮上成分を有する排水や湖水等の液体を攪拌翼を使用することなく、十分な攪拌状態に導き、浮上成分を水中に取り込むことができ、更に所望箇所まで移送する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、浮上成分を有する液体を、衝突面を有する凹状空間を流下させ、前記液体を衝突面に衝突させることにより攪拌することを特徴とする方法、及び攪拌した前記液体を凹状空間外へ移送することを特徴とする方法である。
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明では、浮上成分を有する液体を、地表等に形成した縦孔や斜孔等の凹状空間をその重力を利用して流下させ、底面などの衝突面に衝突させることにより、前記液体に強い衝撃を与える。これにより前記液体に渦状の乱れた状態が形成されて、比重の大小にかかわらず各成分にはほぼ同等の三次元的な外力が加わり、前記浮上成分は他の成分とともにこの渦巻き流に巻き込まれる。この渦流には、引き続いて流下してくる排水と衝突し、各成分は更に良好かつ十分に混合あるいは攪拌される。
【0010】
従ってこの凹状空間の底面付近では、底面に衝突した液体はほぼ均一に攪拌され、かつ前記浮上成分とそれ以外の成分が均一に混合された状態が形成される。この液体内にポンプの吸水管の先端を位置させて吸引すると、均一混合された浮上成分と他の成分が同時に汲み上げられる。
このように本発明では、浮上成分を有する液体の位置エネルギーあるいは重力を利用して、凹状空間に落とし込むことで、前記浮上成分を液体内部に取り込んでポンプ等の動力で他所への移送を容易に行うことを可能にする。
【0011】
対象とする液体は通常厨房内や、アルミウム及び亜鉛製等金属製品製造時等に生じる比重が1以下の成分を含有する排水であるが、他に浮上成分を有し該浮上成分を除去することが望ましい任意の用水、例えば池や湖沼の水や河川水等が含まれ、これらに限定されない。
更に前記液体を流下させる凹状空間の形状は、衝突面を有し該衝突面に前記液体が衝突して浮上成分が液体内部に取り込むことができる限り、特に限定されないが、次のような構成を有することが好ましい。
前記凹状空間の深さは、浮上成分が十分に液体内部に取り込まれる攪拌状態が形成されるように選定され、処理すべき液体の量や凹状空間の形状にも影響されるが、好ましくは50cm〜10m、より好ましくは1〜8m、更に好ましくは3〜6m、最も好ましくは5m前後である。この深さが50cm未満であると、位置エネルギーが不足して浮上成分が十分に液体内部に取り込まれないことがあり、10mを超えると、より以上の浮上成分取り込み効果が期待できず、液体汲み上げに必要な動力源のエネルギーのみが過度に消費されることになる。
【0012】
凹状空間の形状は、地表から地中に向かう縦穴状であることが最も望ましいが、これ以外にも地表から斜め方向に傾斜する斜穴でも良く、傾斜角は地表に対して30°以上90°未満が望ましい。更に均一径の穴以外に途中に段部を有したり徐々に径が縮小する不均一径の穴であっても良い。凹状空間は地表から地中に向かう穴の他に、パイプ状の成形体を地表面又は地表より高所に設置して形成しても良い。
前記凹状空間の衝突面が大面積の単一平面では前述した三次元的な外力が十分に液体に加わらないことがある。つまり凹状空間という字義通り、側壁又はそれに類する面を有することが望ましく、底面等の衝突面に衝突した液体が更に側壁に衝突することにより、更に確実に渦流が生じて浮上成分が液体内部に取り込まれる。従って縦穴や斜穴の径が大きすぎると衝突面に衝突した液体が渦流になりにくく、浮上成分取り込みの十分な効果が得られないことがある。
【0013】
しかしながらその逆に、前記縦穴や斜穴は液体を流下させるとともに、浮上成分を内部に取り込んだ液体をポンプ等で汲み上げる必要があるため、径が小さすぎると、液体の流下と液体の汲み上げが円滑に行えない可能性がある。従って前記縦穴や斜穴の径は好ましくは10cmから2m、より好ましくは20cmから1.5m、更に好ましくは30cmから1m、最も好ましくは50cmから80cmである。
これらの縦穴や斜穴は地表から掘削され、そのまま液体を流下させても良いが、通常は掘削された穴に同形状の例えばコンクリート製の内管を埋め込んで、液体が直接地中に接触しないようにすることが望ましい。
【0014】
前記凹状空間の衝突面に衝突させて浮上成分をその内部に取り込んだ液体は、ポンプ等の動力源で前記凹状空間から地表上の任意の箇所へ移送される。浮上成分をその内部に取り込んだ液体全体が移送できるため、遠近及び高低を問わない任意の場所に、従来のように浮上成分を元の場所に取り残すことなく移送できる。これにより、例えば排水中の浮上成分の濾過装置が、排水の当初位置より高い箇所に設置されている場合にも、ポンプを使用して容易に排水全体を濾過装置まで導いて浮上成分の濾過を行わせることができる。
更に濾過以外にも凝集剤添加、微細空気泡の吹込みによる不純物の浮上分離等の各種処理操作を実施する箇所へ容易に排水等を移送できる。
なお排水等に含まれる浮上成分や他の成分は比較的径が大きかったり、多数の微小成分の凝集体であったりすることがある。このような場合には、各成分をより小さく破砕したり、凝集体を分離して各微小成分に戻しておくことが望ましく、これを実行するためには、例えばポンプの吸水管の先端にカッターを取り付けておけば良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法は、浮上成分を有する液体を、衝突面を有する凹状空間を流下させ、前記液体を衝突面に衝突させることにより攪拌することを特徴とする方法であり、引き続き浮上成分を液体を凹状空間外へ移送できる。
浮上成分を有する液体を該液体の有する位置エネルギーを利用して凹状空間の衝突面に衝突させると、前記浮上成分が液体内部に取り込まれるため、ポンプ等により該浮上成分を含めた液体全体を高所へ汲み上げたり、離れた場所へ移送することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明に係る浮上成分を有する液体の攪拌方法、特に浮上成分を有する排水を攪拌し、攪拌された排水を他所に移送する方法の一実施形態例を添付図面に基づいて説明するが、これは本発明を限定するものではない。
図1A、B及び図2C、Dは、本実施形態例による浮上成分を有する排水の一連の攪拌及び移送工程を図示する概略縦断面図である。
【0017】
まず図1Aに示すように、地表21に深さ約5m、内径約70cmで底面22及び側壁23を有する縦穴24を掘り、この縦穴24の内壁面及び底面にコンクリート製の内管(図示略)を埋め込む。
箱型の排水貯留容器25に、浮上成分26と中比重沈降成分27及び高比重沈降成分28を有する排水29を収容する。この容器25を傾斜させ、容器内の排水29を含有成分とともに、容器壁をオーバーフローさせて前記縦穴24内を流下あるいは落下させる(図1B参照)。
【0018】
縦穴24内を流下し加速度により落下速度が増した排水は該縦穴24の底面22に衝突して高衝撃を受けて上方又は斜め上方に向けて方向を変え、一部が縦穴24の側壁23にも衝突する。これらの衝撃は、浮上成分26及び両沈降成分27、28にほぼ均等に伝達される。 更にこれらの上方に向かう排水には、引き続き縦穴24内を流下してくる排水と衝突し、各成分26、27及び28はより良好かつ十分に混合あるいは攪拌される。
前もってあるいはその後、吸引ポンプ30の吸水管先端32を縦穴24の上部から底面22近くまで挿入し、ポンプ30をオンにする(図2C参照)と、排水29が排水29中に均等分散した浮上成分26及び両沈降成分27、28とともに前記ポンプ30により地表21より高い位置に設置された定置タンク31内に導かれ、暫時経過後、沈降成分27及び28は底面上に沈降し、浮上成分26は表面に浮遊する(図2D)。
【0019】
図2Dでは、排水汲み上げにより縦穴24内の排水量が減少するよう描かれているが、これは汲み上げの要領を明確にするためで、通常は縦穴24からの排水29の汲み上げと同時に排水貯留容器25からの排水29の流下が継続され、底面や側壁に衝突した排水と流下する排水の向流的な衝突が起こり、浮上成分の排水内部への取り込みが継続的に生じている。
【0020】
次に本発明の浮上成分を有する液体の攪拌方法及び移送方法の実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
広島県福山市に所在する弁当仕出し業の株式会社サンフーズの敷地内に深さ5m、内径40cmの円柱状の縦穴を掘り、この縦穴の内面に厚さ約1cmのコンクリート製内壁を被覆形成した。
株式会社サンフーズの厨房から排出される弁当調理後の排水を、前記縦穴に隣接して設置した、底面に排水口を有する容量約3の貯留タンクに貯留した。貯留タンク内の排水には表面を浮遊する浮上成分と底面近くに沈降した沈降成分が含まれていた。
前記貯留タンクに近接してポンプを設置し、このポンプの吸水管の先端を、前記縦穴の深さ4m80cmの箇所に位置させた。
【0022】
前記貯留タンクに排水が約90%満たされた時点で前記排水口を開き、排水を縦穴内に流下させるとともに、ポンプに通電し、縦穴内の排水を汲み上げ、地上50cmに設置した定置タンクに導き、この定置タンクの約90%が満たされた時点で汲み上げを停止した。貯留タンク内の排水と定置タンク内の排水を目視で確認したところ、浮上成分と沈降設置量の割合はほぼ同じで、貯留タンク内の排水がほぼそのまま定置タンク内に移送されていた。
【比較例1】
【0023】
実施例1で使用した貯留タンク内の排水を攪拌翼を使用して攪拌しながらポンプで吸引して貯留タンク外に移送することを試みた。
貯留タンク(深さ約1m)内に吸水管先端が位置するようにポンプを設置し、直径約50cmの攪拌翼を回転させて排水を攪拌した。10分間攪拌を継続した後、更に攪拌翼を回転させながら、ポンプに通電して、貯留タンク内の排水をポンプを通して実施例1の定置タンク内に移送した。貯留タンクの底面には僅かな量の排水が残り、多くの浮上成分が残存し、沈降成分は除去されていた。定置タンク内の排水中の浮上成分の、貯留タンクに残った浮上成分に対する割合は10%未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1Aは図示の実施形態例における浮上成分を有する排水の一連の攪拌及び移送工程の第1段階を例示する概略縦断面図、図1Bは同じく第2段階を例示する概略縦断面図である。
【図2】図2Cは同じく第3段階を例示する概略縦断面図、図2Dは同じく第4段階を例示する概略縦断面図である。
【図3】排水表面を浮遊する浮上成分をポンプの吸水管で吸引する状態を示す概略縦断面図である。
【図4】図4Aは浮上成分を有する排水中にポンプの吸水管先端を位置させた状態を示す概略縦断面図、図4Bは図4Aの状態からポンプを駆動させて排水を上方のタンクに移送させた後の状態を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0025】
22 底面
23 側壁
24 縦穴
25 排水貯留容器
26 浮上成分
27、28 沈降成分
29 排水
30 吸引ポンプ
32 吸水管先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮上成分を有する液体を、衝突面を有する凹状空間を流下させ、前記液体を衝突面に衝突させることにより攪拌することを特徴とする方法。
【請求項2】
浮上成分を有する液体を、衝突面を有する凹状空間を流下させ、前記液体を衝突面に衝突させることにより攪拌して前記浮上成分を液体内に取り込んだ後、該液体を凹状空間外へ移送することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記液体が排水である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体が湖沼水又は河川水である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記凹状空間が地表に掘削された縦穴又は斜穴である請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
縦穴又は斜穴の径が10cmから2m、深さが50cmから10mである請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−55751(P2006−55751A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240350(P2004−240350)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(591119624)株式会社御池鐵工所 (86)
【出願人】(300001484)
【Fターム(参考)】