説明

浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システム

【課題】処理対象物(例えば、塩素バイパスダスト)中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が変動する場合であっても、回収された浮鉱が、常に、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有し、かつ、回収された沈鉱が、回収対象物質を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含むものとなる浮遊選鉱処理方法を提供する。
【解決手段】直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽25、26、27を用い、該複数の浮遊選鉱処理槽25、26、27の各々において、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整する。浮遊選鉱処理槽25において、回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱を回収し、該浮鉱を非鉄精錬原料等として用いる。浮遊選鉱処理槽27において、回収対象物質を実質的に含まない沈鉱を回収し、該沈鉱をセメント原料等として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン抽気ダスト等の処理対象物から、鉛等の特定の回収対象物質を回収するための浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメントキルン抽気ダスト等のダストを処理対象物として、浮遊選鉱処理技術を用いて、鉛等の特定の回収対象物質を回収する技術が開発されている。
一例として、(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、液性をpH1〜4に調整し、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び硫化鉛を含むスラリーを得る硫化鉛生成工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーに捕収剤及び起泡剤を加えて、浮遊選鉱を行ない、硫化鉛を主成分とする浮鉱と、硫酸カルシウムを主成分とする沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法が、提案されている(特許文献1)。
【0003】
他の例として、(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫化剤を混合して、固体分である鉛硫化物を含むスラリーを得る鉛硫化物生成工程と、(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫酸を加えて、該スラリーのpHを1.5〜7.5に調整し、固体分である鉛硫化物及び硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーに捕収剤を加えて、スラリー中の鉛硫化物を疎水化させる鉛硫化物疎水化工程と、(D)工程(C)で得られたスラリーに浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法が、提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346512号公報
【特許文献2】特開2008−62169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浮遊選鉱処理において、処理対象物中の回収対象物質の含有率の変動が大きくない場合には、運転の初期に最適の運転条件を設定すれば、その後、運転条件を変更しなくても、回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱を常に得ることができる。
しかし、セメントキルン抽気ダストのように、原料の一部に廃棄物を用いて得られたダストを処理対象物とする場合には、廃棄物の種類が変わることによって、処理対象物中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が大きく変動することがある。
この場合、浮遊選鉱処理によって回収された浮鉱(例えば、鉛含有物)を非鉄精錬原料等として用いるためには、この浮鉱に含まれる不純物(例えば、カルシウム)が少ないことが望ましい。
しかし、回収された浮鉱の鉛含有物としての品位を優先して、常に浮上物の一部のみを回収するように浮遊選鉱機の運転条件を設定すると、処理対象物からの回収対象物質の回収率が低くなる。また、浮遊選鉱処理によって回収された沈鉱(例えば、カルシウム含有物)に含まれる回収対象物質(例えば、鉛)の量が多くなり、この沈鉱を例えばセメント原料等として利用することが困難となる。
【0006】
このように、処理対象物中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が変動する場合に、回収された浮鉱が、回収対象物質(例えば、鉛)の高い含有率と高い回収率を常に有し、かつ、回収された沈鉱が、回収対象物質(例えば、鉛)を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含むことは、困難である。
本発明は、処理対象物(例えば、塩素バイパスダスト)中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が変動する場合であっても、回収された浮鉱が、常に、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有し、かつ、回収された沈鉱が、常に、回収対象物質を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含むものとなる浮遊選鉱処理方法及び浮遊選鉱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽を用い、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々において、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整すればよいことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[13]を提供するものである。
[1] 処理対象物(例えば、セメントキルン抽気ダスト)から特定の回収対象物質(例えば、鉛)を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理方法であって、直列に配設された複数(例えば、3つ)の浮遊選鉱処理槽を用い、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々において、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整することを特徴とする浮遊選鉱処理方法。
[2] 上記複数の浮遊選鉱処理槽のうち、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽においては、上記回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱を常に回収するために、最も下流側に位置する浮遊選鉱処理槽においては、上記回収対象物質を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含む沈鉱を常に回収するために、各々、上記処理対象物中の上記特定の回収対象物質の含有率の変化に応じて、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整する、前記[1]に記載の浮遊選鉱処理方法。
[3] 浮遊選鉱の前処理における薬剤(例えば、鉛硫化物を生成させるための硫化剤)の使用量によって、上記回収対象物質の含有率の変化を把握する、前記[2]に記載の浮遊選鉱処理方法。
[4] 最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽以外の浮遊選鉱処理槽で回収された浮鉱を含む浮上物を、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽よりも上流側の地点に返送する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[5] 上記浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するために、浮遊選鉱機として、スラリーの液面の高さを調整するための液面調整手段、及び、該スラリーの上方に位置する浮上物を回収するための回収手段を備えたものを用いる、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[6] 上記浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するために、浮遊選鉱機として、浮上物を掻き取って回収するための掻き取り羽根を有する掻き取り手段を備えたものを用い、かつ、上記掻き取り羽根の回転速度を調整する、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
【0008】
[7] 上記浮上物の回収量を測定するための手段として、回収した上記浮上物を流通させるための流路に設けた流量計を用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[8] 上記浮上物の回収量を測定するための手段として、回収した上記浮上物の質量を測定するための質量測定手段を用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[9] 上記浮上物の厚さを測定するための手段として、浮上物の上面の位置を測定するための測定手段を用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[10] 上記処理対象物がセメントキルン抽気ダストである、前記[1]〜[9]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[11] 上記回収対象物質が鉛である、前記[1]〜[10]のいずれかに記載の浮遊選鉱処理方法。
[12]処理対象物から特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理システムであって、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽を含み、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々が、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するための手段を有することを特徴とする浮遊選鉱処理システム。
[13] 最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽以外の浮遊選鉱処理槽で回収された浮鉱を含む浮上物を、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽よりも上流側の地点に返送するための浮上物返送手段を有する、前記[12]に記載の浮遊選鉱処理システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、処理対象物(例えば、セメントキルン抽気ダスト)中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が変動する場合であっても、回収された浮鉱が、常に、回収対象物質の高い含有率及び高い回収率を有し、かつ、回収された沈鉱が、常に、回収対象物質を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含むものとすることができる。
本発明で回収された浮鉱は、非鉄精錬原料等として用いることができる。本発明で回収された沈鉱は、セメント原料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の浮遊選鉱処理方法で用いる浮遊選鉱機の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の浮遊選鉱処理システムの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の浮遊選鉱処理方法は、処理対象物から特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための方法であり、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽を用い、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々において、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するものである。
本発明の処理対象物としては、セメントキルン抽気ダスト、焼却灰、焼却飛灰、溶融飛灰等が挙げられる。
セメントキルン抽気ダストとは、セメントキルンの排ガスの一部を抽気した高温の排ガスを冷却して得られる微粉末をいう。この微粉末は、例えば、抽気した高温の排ガス中の粗粉をサイクロンで捕集した後、サイクロン通過後の粗粉を含まない排ガスを冷却し、この冷却した排ガスをバグフィルター等の集塵機で捕集することによって得られる。この微粉末は、カルシウム、カリウム、鉛、塩素等を含むものである。このうち、鉛を分別して回収すれば、非鉄精錬原料等として用いることができる。また、カルシウムを分別して回収すれば、セメント原料等として用いることができる。本発明では、浮遊選鉱処理技術を用いているため、鉛を浮鉱として回収し、かつ、カルシウムを沈鉱として回収することができる。
処理対象物のスラリー化前の形態は、通常、ダスト(粉状物)である。
本発明の回収対象物質としては、鉛、銅、亜鉛等の重金属や、石膏、カーボン等が挙げられる。
【0012】
本明細書において、「浮鉱」とは、浮遊選鉱によって泡の表面に付着して浮上する、特定の回収対象物質を含む粒子を意味する。
「浮上物」とは、浮遊選鉱によって浮上する、泡の集合体を意味する。「浮上物」は、浮遊選鉱機の液槽内のスラリーの上方に形成される層状体である。「浮上物」は、泡を形成している液分、及び、浮鉱を含むものである。
「浮上物の厚さ」とは、浮遊選鉱機の液槽内のスラリーの上方に形成される浮上物(泡の集合体)の鉛直方向の厚さを意味する。
「沈鉱」とは、「浮鉱」以外の固体粒子を意味する。
「沈降残渣」とは、沈鉱の集合体を意味する。
「浮遊選鉱」とは、浮遊選鉱機を用いて、スラリー中の粒子を浮鉱と沈鉱に分離させる処理を意味し、スラリーを浮遊選鉱機に導入する前の疎水化等の前処理を含まない。
「浮遊選鉱処理」とは、浮遊選鉱、及び、スラリーを浮遊選鉱機に導入する前の疎水化等の前処理を含む。
【0013】
本発明においては、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽が用いられる。
浮遊選鉱処理槽の数は、好ましくは2〜5つ、より好ましくは3つである。該数が1つの場合、回収された浮鉱における回収対象物質(例えば、鉛)の回収率が低くなるばかりか、回収された沈鉱中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率も高くなる。該数が6つ以上の場合、浮遊選鉱処理槽を複数用いることによる鉛の回収率の増大等の効果の向上が頭打ちとなる一方、本発明の処理システムを設置するために大きな面積を要し、また、浮遊選鉱処理槽の費用が大きくなるなどの点で、経済的に不利である。
直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽は、以下、上流側から下流側に向かって、第1槽、第2槽、第3槽・・・と称することがある。
なお、「直列に配設された」とは、処理対象物を含むスラリーが、第1槽で浮遊選鉱された後に、第2槽に導かれて第2槽で浮遊選鉱され、その後、さらに第3槽に導かれて第3槽で浮遊選鉱されるというように、最も上流側に位置する第1槽から下流側の他の浮遊選鉱処理槽に向かって順次、浮遊選鉱を繰り返すことのできるように、複数の浮遊選鉱処理槽が配設されていることを意味する。
【0014】
次に、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さの調整方法について説明する。
該調整方法としては、具体的には、(a)処理対象物中の回収対象物質の含有率の変化に応じて、浮上物の回収量を調整する方法、(b)処理対象物中の回収対象物質の含有率の変化に応じて、浮上物の厚さを調整する方法、が挙げられる。(a)の方法と(b)の方法は、いずれか一方のみを行なってもよいし、あるいは両方を行なってもよい。
このうち、まず、(a)の方法について説明する。
処理対象物中の回収対象物質の含有率が増減した場合、浮遊選鉱で生じる浮鉱の量も増減する。例えば、処理対象物中の回収対象物質の含有率が大きくなると、浮遊選鉱機の液槽内の浮上物の厚さが大きくなり、この浮上物に含まれる回収対象物質の量も増大する。この場合、浮上物の回収量を一定にしたのでは、回収対象物質の回収率(処理対象物に含まれる回収対象物質からの回収割合)が低下してしまう。そこで、処理対象物中の回収対象物質の含有率の変化に応じて、浮上物の回収量を調整するものである。
なお、本明細書中、「浮上物の回収量」とは、浮遊選鉱機を連続的に運転している場合、単位時間当たりの回収量を意味する。
また、浮遊選鉱機を連続的に運転している場合、処理対象物の供給速度(単位時間当たりの供給量)は、通常、一定である。したがって、本明細書では、処理対象物の供給速度が一定であることを前提にして、本発明を説明する。
【0015】
浮上物の回収量を調整するための具体的な方法の一例を、図面に基づいて説明する。
図1中、浮遊選鉱機1は、本発明で用いる複数の浮遊選鉱機の中の最も上流側に位置する浮遊選鉱機(第1槽;図2中の符号25参照)であって、スラリーを収容するための液槽2と、液槽2内のスラリー4を撹拌するための撹拌翼5と、散気盤11と、浮上物3を掻き取るための掻き取り羽根8を有する掻き取り手段と、液槽2にスラリー及び空気を供給するための供給管6と、スラリー4の液面4aの高さを調整するための液面調整手段7を備えている。供給管6に加えて、スラリー4に空気を供給するための空気供給管(図示せず)をさらに設けることもできる。
液面調整手段7の例としては、図1に示すように、液槽2の側壁に開口部9を形成させるとともに、液槽2の側壁の外面に、鉛直方向に移動可能な板体(オーバーフロー堰)10を取り付け、この板体10を鉛直方向に移動させることによって、この板体10の上端を下端とする排水口を形成させるようにしたものが挙げられる。この排水口から排出されたスラリーは、下流側の次の浮遊選鉱機(第2槽;図2中の符号26参照)に導かれる。
なお、図1に示す浮遊選鉱機は、ファーレンワルド型浮選機である。
【0016】
図1に示す浮遊選鉱機において、処理対象物として、回収対象物質の含有率が高いものから該含有率が低いものに切り替えたとする。
この場合、回収対象物質を含む浮上物3の量が減少するので、回収対象物質の含有率が減少した分だけ、回収対象物質の回収量を減少させるためには、液面調整手段7によって、スラリー4の液面4aを下降させるか、あるいは、掻き取り羽根8の回転速度を小さくすればよい。なお、スラリー4の液面4aの下降と、掻き取り羽根8の回転速度の減少を同時に行なってもよい。
逆に、処理対象物として、回収対象物質の含有率が低いものから該含有率が高いものに切り替えた場合には、回収対象物質を含む浮上物3の量が増加するので、回収対象物質の含有率が増大した分だけ、回収対象物の回収量を増大させるために、液面調整手段7によって、スラリー4の液面4aを上昇させるか、あるいは、掻き取り羽根8の回転速度を増大させればよい。なお、スラリー4の液面4aの上昇と、掻き取り羽根8の回転速度の増大を同時に行なってもよい。
なお、液面調整手段7によってスラリー4の液面4aを調整する場合、浮上物の回収手段としては、掻き取り羽根8を有する掻き取り手段以外の回収手段を用いることもできる。
【0017】
回収対象物質の含有率の変化は、例えば、浮遊選鉱の前処理における薬剤(例えば、硫化剤)の使用量によって把握することができる。例えば、処理対象物がセメントキルン抽気ダストであり、回収対象物質が鉛であって、かつ、鉛を鉛硫化物からなる浮鉱として回収する場合、水硫化ソーダ等の硫化剤の使用量によって、セメントキルン抽気ダスト中の鉛の含有率の変化を把握することができる。この場合、硫化剤の使用量は、スラリーの酸化還元電位を測定することによって制御することができる。
回収対象物質の含有率と浮上物の回収量との最適な関係については、予め試験運転を行なって把握しておくことができる。この場合、予め定められた最適な関係(例えば、回収対象物質の含有率を横軸とし、浮上物の回収量を縦軸とした関係曲線)を用いて、実際の運転における回収対象物質の含有率の変化に基づいて、浮上物の回収量を調整すればよい。
【0018】
次に、前記の(b)の方法について説明する。
例えば、処理対象物として、回収対象物質の含有率が低いものから該含有率が高いものに切り替えた場合、逆に、回収対象物質の含有率が高いものから該含有率が低いものに切り替えた場合、浮上物3の厚さが増減する。この場合、浮遊選鉱機1の運転条件を変えなければ、浮上物3の掻き取りが適正になされずに、所望の品位の回収対象物質を所望の回収率で得ることができない。浮上物3の厚さを適正に調整するためには、液面調整手段7によってスラリー4の液面4aを上下させるか、あるいは、掻き取り羽根8の回転速度を増減させればよい。なお、スラリー4の液面4aの上下と、掻き取り羽根8の回転速度の増減を同時に行なってもよい。
なお、浮上物3の厚さとは、浮上物3の上面と、スラリー4の液面4a(板体10の上端の高さ)との距離である。浮上物3の上面の高さは、超音波レベル計、マイクロ波レーダー式レベル計等を用いて測定することができる。
浮上物3の厚さの最適な大きさは、前記の(a)の方法と同様に、例えば、浮遊選鉱の前処理における薬剤(例えば、硫化剤)の使用量によって把握することができる。
【0019】
回収した浮上物の回収量を測定するための手段としては、例えば、回収した浮上物を流通させるための流路に設けた流量計や、回収した浮上物の単位時間当たりの質量を測定するための質量測定手段等を用いることができる。また、浮上物3の厚さによっても、回収した浮上物の回収量を概ね把握することができる。
これらの測定手段を用いて、回収した浮上物の回収量及び/又は厚さを確認しつつ、当該回収量及び/又は厚さが所望の値となるように、浮遊選鉱機の運転条件(例えば、スラリー4の液面4aの高さや、掻き取り羽根8の回転速度)を適宜、変えていけばよい。
本発明においては、浮上物の回収量及び/又は厚さを調整することによって、浮鉱を多く含む部分と沈鉱を多く含む部分とを最適な境界で線引きすることができる。
【0020】
最も上流側に位置する浮遊選鉱機(第1槽;図2中の符号25参照)よりも下流側の浮遊選鉱機(第2槽、第3槽;図2中の符号26、27参照)についても、上述の図1に示す第1槽と同様の構造を有するものを用いて、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整することができる。
例えば、最も上流側に位置する浮遊選鉱機と最も下流側に位置する浮遊選鉱機の間に位置する中間の浮遊選鉱機(図2中の符号26参照)においては、最も上流側に位置する浮遊選鉱機(第1槽)よりも浮上物の回収量を小さく設定しつつ、処理対象物中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率の増減に合わせて、浮上物の回収量を増減させればよい。
なお、この中間の浮遊選鉱機では、必要に応じて、疎水化剤を追加添加してもよい。また、中間の浮遊選鉱機では、回収対象物質の品位よりも除去を優先することが好ましい。
最も下流側に位置する浮遊選鉱機(図2中の符号27参照)においては、回収される沈鉱中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率が所望の値以下になるように、当該浮遊選鉱機以外の浮遊選鉱機(図2中の符号25、26参照)に比べて浮上物の回収量を大きく設定しつつ、処理対象物中の回収対象物質(例えば、鉛)の含有率の増減に合わせて、浮上物の回収量を増減させればよい。
【0021】
処理対象物としてセメントキルン抽気ダストを用い、回収対象物質として鉛を選択した場合における浮遊選鉱処理の方法の一例を説明する。
浮遊選鉱処理方法の一例は、(A)セメントキルン抽気ダストと水を混合してスラリーを調製する工程と、(B)工程(A)で得られたスラリーに水硫化ソーダ等の硫化剤を加えて、固体分である鉛硫化物を含むスラリーを得る工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーに硫酸を加えて、pHを2〜7に調整し、硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る工程と、(D)工程(C)で得られたスラリーにザンセート等の疎水化剤を加えて、鉛硫化物を疎水化させる工程と、(E)工程(D)で得られたスラリーを、直列に配設された複数の浮遊選鉱機に導き、これらの浮遊選鉱機の中で順次、浮遊選鉱する工程と、(F)最も上流側の浮遊選鉱機以外の浮遊選鉱機で回収された浮上物を、最も上流側の浮遊選鉱機よりも上流側の地点(例えば、スラリー調製槽;図2の符号21参照)に返送する工程と、(G)最も上流側の浮遊選鉱機において、浮鉱を含む浮上物を、非鉄精錬原料として利用可能な鉛含有物として回収するとともに、最も下流側の浮遊選鉱機において、沈鉱をセメント原料として利用可能なカルシウム含有物として回収する工程、を含む。なお、この例におけるスラリーの固液比等の各種の条件は、従来知られているもの(例えば、前記の特許文献2に記載されているもの)と同じである。
この例では、工程(F)(返送工程)を含むため、最も上流側の浮遊選鉱機(第1槽)における掻き取り量の調整の精度が高くなくても、第1槽において、回収された浮上物の鉛の含有率が常に高くなり、かつ、鉛の回収率も常に高くなる。
この場合、最も上流側の浮遊選鉱機(第1槽;図2中の符号25参照)で回収された浮上物(浮鉱)の乾燥質量中の鉛の酸化物換算の割合(鉛の品位)は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは42質量%以上である。また、鉛の回収率は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは93質量%以上である。本発明によれば、鉛の高い品位及び高い回収率は、処理対象物中の回収対象物質の含有率が変化しても、常に好ましい数値範囲内に維持される。
最も下流側の浮遊選鉱機(図2中の符号27参照)で回収された沈降残渣(沈鉱)の乾燥質量中の鉛の酸化物換算の割合は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0022】
上述の浮遊選鉱処理方法の一例に対応する浮遊選鉱処理システムを、図2を参照して説明する。
図2中、本発明の浮遊選鉱処理システムは、セメントキルン抽気ダストと水を混合してスラリーを調製するためのスラリー調製槽21と、スラリー調製槽21で得られたスラリーに水硫化ソーダ等の硫化剤を加えて、固体分である鉛硫化物を含むスラリーを得るための硫化剤添加槽22と、硫化剤添加槽22で得られたスラリーに硫酸を加えて、pHを2〜7に調整し、硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得るための硫酸添加槽23と、硫酸添加槽23で得られたスラリーにザンセート等の疎水化剤を加えて、鉛硫化物を疎水化させるための疎水化剤添加槽24と、疎水化剤添加槽24で得られたスラリーを浮遊選鉱するための、直列に配設された浮遊選鉱機25、26、27と、浮遊選鉱機26、27からスラリー調製槽21に、回収された浮上物を返送するための浮上物返送手段(例えば、ポンプ付きの管路)を備えている。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の実施形態の変更が可能である。
[実施例1]
(1)処理対象物
処理対象物として、ダストA(Ca:20質量%、Pb:5.4質量%)、ダストB((Ca:31質量%、Pb:1.8質量%)の2種のセメントキルン抽気ダストを用いた。
【0024】
(2)浮遊選鉱処理
浮遊選鉱処理は、図2に示す処理システムを用いて以下のように行った。
スラリー調製槽21において、ダストAを固液比(ダスト:水の質量比)が1:10となるように水に懸濁させて、スラリーを調製した。
次に、得られたスラリーに対して、浮遊選鉱の前処理を行なった。具体的には、スラリーを硫化剤添加槽22に導き、ダストAに含まれる鉛の量に対応した水硫化ソーダ(NaSH)を加えて、スラリー中に鉛硫化物を生じさせた。次に、得られたスラリーを硫酸添加槽23に導き、硫酸を加えてpHを3に調整した。その後、得られたスラリーを疎水化剤添加槽24に導き、疎水化剤としてザンセートを加えて、鉛硫化物の粒子の表面を疎水化した。
次に、このスラリーを、200リットルの容量の液槽を有するファーレンワルド型浮遊選鉱機25(図1に示す構造を有するもの;第1槽)に、500リットル/hrの流速で導入した。浮遊選鉱機25の液槽2(図1中の符号参照)中の浮上物3の掻き取り量(回収量)は、オーバーフロー堰10の高さを調整することによって、60リットル/hr(毎時)に設定した。なお、掻き取り羽根の回転速度は20rpmであった。
【0025】
次に、浮遊選鉱機25(第1槽)の排水口から排出させたスラリーを、浮遊選鉱機25と同様の構造を有する浮遊選鉱機26(第2槽)に導入し、掻き取り羽根の回転速度を20rpmに定めたまま、オーバーフロー堰10の高さを調整することによって、浮上物3の掻き取り量を40リットル/hrに定めて、浮遊選鉱を行った。掻き取られた浮上物は、スラリー調製槽21に返送した。
次に、浮遊選鉱機26の排水口から排出させたスラリーを、浮遊選鉱機25と同様の構造を有する浮遊選鉱機27(第3槽)に導入し、掻き取り羽根の回転速度を20rpmに定めたまま、オーバーフロー堰10の高さを調整することによって、浮上物3の掻き取り量を100リットル/hrに定めて、浮遊選鉱を行った。掻き取られた浮上物は、スラリー調製槽21に返送した。
その後、浮遊選鉱機25(第1槽)で回収した浮上物中の浮鉱(乾燥物)の単位時間当たりの質量及び鉛の含有量を測定し、これらの測定値から、鉛の回収率、及び、回収した浮鉱の品位(鉛の含有率)を算出した。また、浮遊選鉱機27(第3槽)で回収した沈鉱(乾燥物)の単位時間当たりの質量及び鉛の含有量を測定し、これらの測定値から、回収した沈鉱中の鉛の含有率を算出した。結果を表1に示す。
次に、運転の途中でセメントキルン抽気ダストの種類を、ダストAからダストBに切り替えた。浮遊選鉱槽における浮上物3の掻き取り量を、硫化剤添加槽22で鉛の硫化に要した硫化剤の添加量より算出し、浮遊選鉱機25(第1槽)、浮遊選鉱機26(第2槽)、浮遊選鉱機27(第3槽)における浮上物の回収量が、各々、30リットル/hr、20リットル/hr、50リットル/hrになるように、オーバーフロー堰10の高さを調整した。
その後、浮遊選鉱機25(第1槽)で回収した浮上物中の浮鉱(乾燥物)について鉛の回収率及び鉛の含有率、及び、浮遊選鉱機27(第3槽)で回収した沈鉱(乾燥物)について鉛の含有率を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
浮遊選鉱機25、26、27において、オーバーフロー堰10の高さを変えずに、掻き取り羽根8の回転数を変えることによって、ダストAの処理時において、浮遊選鉱機25(第1槽)の浮上物3の厚さを50mmとし、かつ、浮遊選鉱機26(第2槽)、浮遊選鉱機27(第3槽)における浮上物3の掻き取り量を、各々、40リットル/hr、100リットル/hrに定めたこと、及び、ダストBの処理時において、浮遊選鉱機25(第1槽)の浮上物3の厚さを30mmとし、かつ、浮遊選鉱機26(第2槽)、浮遊選鉱機27(第3槽)における浮上物3の掻き取り量を、各々、20リットル/hr、50リットル/hrに定めたこと以外は実施例1と同様にして、実験した。
なお、実施例2では、浮上物3の下面の位置をオーバーフロー堰10の上端の高さ(一定の高さ)として定め、かつ、浮上物3の上面の位置を超音波レベル計によって求めることによって、浮上物3の厚さを算出した。
結果を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
浮遊選鉱機として、浮遊選鉱機25(第1槽)のみを用い、かつ、掻き取り羽根8の回転速度を20rpmに定めたまま、オーバーフロー堰10の高さを調整することによって、ダストAの処理時の浮上物3の掻き取り量を60リットル/hr、ダストBの処理時の浮上物3の掻き取り量を30リットル/hrに定めたこと以外は実施例1と同様にして、実験した。結果を表1に示す。
[比較例2]
ダストの種類をダストAからダストBに切り替えても、オーバーフロー堰10の高さを変化させなかったこと以外は実施例1と同様にして、実験した。
なお、比較例2では、実施例1と同様に、掻き取り羽根8の回転数も変化させていない。また、浮遊選鉱機25における浮上物3の掻き取り量は、ダストAの処理時に60リットル/hr、ダストBの処理時に50リットル/hrであった。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から、実施例1、2では、ダストの種類が変わっても、第1槽での鉛の回収率が95質量%以上、第1槽での浮鉱中の鉛の含有率が43質量%以上、第3槽での沈鉱中の鉛の含有率が0.4質量%以下に維持されていることがわかる。一方、比較例1では、浮遊選鉱処理槽として第1槽のみを用いているため、鉛の回収率が87質量%と低く、かつ、沈鉱中の鉛の含有率が1.0〜1.1質量%と高いことがわかる。また、比較例2では、ダストの種類の切り替え時に、オーバーフロー堰及び掻き取り羽根の回転数を変えなかったため、第1槽で回収された浮鉱中の鉛の含有率が44質量%から35質量%に大きく低下していることがわかる。
【符号の説明】
【0030】
1 浮遊選鉱機
2 液槽
3 浮上物
4 スラリー
4a スラリーの液面
5 撹拌翼
6 スラリー及び空気の供給管
7 液面調整手段
8 掻き取り羽根
9 開口部
10 板体(オーバーフロー堰)
11 散気盤
21 スラリー調製槽
22 硫化剤添加槽
23 硫酸添加槽
24 疎水化剤添加槽
25 浮遊選鉱機(第1槽)
26 浮遊選鉱機(第2槽)
27 浮遊選鉱機(第3槽)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物から特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理方法であって、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽を用い、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々において、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整することを特徴とする浮遊選鉱処理方法。
【請求項2】
上記複数の浮遊選鉱処理槽のうち、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽においては、常に、上記回収対象物質を高い含有率で含む浮鉱を回収するために、最も下流側に位置する浮遊選鉱処理槽においては、常に、上記回収対象物質を実質的に含まないかもしくは非常に低い含有率で含む沈鉱を回収するために、各々、上記処理対象物中の上記特定の回収対象物質の含有率の変化に応じて、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整する、請求項1に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項3】
浮遊選鉱の前処理における薬剤の使用量によって、上記回収対象物質の含有率の変化を把握する、請求項2に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項4】
最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽以外の浮遊選鉱処理槽で回収された浮鉱を含む浮上物を、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽よりも上流側の地点に返送する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項5】
上記浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するために、浮遊選鉱機として、スラリーの液面の高さを調整するための液面調整手段、及び、該スラリーの上方に位置する浮上物を回収するための回収手段を備えたものを用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項6】
上記浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するために、浮遊選鉱機として、浮上物を掻き取って回収するための掻き取り羽根を有する掻き取り手段を備えたものを用い、かつ、上記掻き取り羽根の回転速度を調整する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項7】
上記浮上物の回収量を測定するための手段として、回収した上記浮上物を流通させるための流路に設けた流量計を用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項8】
上記浮上物の回収量を測定するための手段として、回収した上記浮上物の質量を測定するための質量測定手段を用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項9】
上記浮上物の厚さを測定するための手段として、浮上物の上面の位置を測定するための測定手段を用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項10】
上記処理対象物がセメントキルン抽気ダストである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項11】
上記回収対象物質が鉛である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の浮遊選鉱処理方法。
【請求項12】
処理対象物から特定の回収対象物質を浮鉱として回収するための浮遊選鉱処理システムであって、直列に配設された複数の浮遊選鉱処理槽を含み、該複数の浮遊選鉱処理槽の各々が、浮鉱を含む浮上物の回収量及び/又は厚さを調整するための手段を有することを特徴とする浮遊選鉱処理システム。
【請求項13】
最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽以外の浮遊選鉱処理槽で回収された浮鉱を含む浮上物を、最も上流側に位置する浮遊選鉱処理槽よりも上流側の地点に返送するための浮上物返送手段を有する請求項12に記載の浮遊選鉱処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−20086(P2011−20086A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169106(P2009−169106)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】