説明

浴室ユニットの床パン構造

【課題】沓摺高さを所定の高さ以下に収めつつ、床パンの裏面側の収納空間を確保し、更に、床パンの排水性を確保することができる浴室ユニットの床パン構造を提供する。
【解決手段】平面視略矩形をなす床パン1は、その外周を構成する四辺のうちの一辺の中程付近に排水トラップへと繋がる排水口13が形成されるとともに、排水口13に向かう水勾配を有する傾斜面185、186及び187が、外周から排水口13までの領域に、水勾配が変化するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽とともに設置面に並設され、裏面側に排水トラップが配置された洗い場床を構成する浴室ユニットの床パン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浴槽、床パン、壁パネル及び天井パネルなどの部品が工場において成型され、部品が現場に搬入された後、完成品として組み立てられる浴室ユニットが知られている。
【0003】
浴室ユニットは、現場で一枚一枚タイルを貼って仕上げていく在来浴室に比べて施工が簡単であって工期を短縮することができ、部品点数を抑えて施工費用を抑えることができることから、集合住宅及び戸建て住宅などで広く採用されている。
【0004】
浴室ユニットの構造について以下簡単に説明する。浴室ユニットは、図5及び図6に示すように、少なくとも、洗い場床パンを構成する床パン8と、床パン8に並設する浴槽804と、床パン8の裏面に吊設された排水トラップ810とを備えている。
【0005】
床パン8は、洗い場面800と、堰部801と、壁嵌込部802と、排水口803と、支持脚812とを備える。洗い場面800は、平面視略矩形をなしており、その外周を構成する四辺のうちの浴槽804側の一辺に堰部801が設けられている。洗い場面800は、堰部801を有する一辺以外の三辺に壁嵌込部802を備える。いずれかの壁嵌込部802には、浴室への出入口となるドア813が嵌め込まれる。設置面から壁嵌込部802までの高さが「沓摺高さ」となる。洗い場面800は、堰部801を有する一辺の中程付近に排水口803が設けられている。排水口803は、洗い場面800に吊設された排水トラップ810に繋がっている。また、洗い場面800は、裏面から延び出た支持脚812により設置面からの高さが調整される。
【0006】
浴槽804は、浴槽底部805と、浴槽壁部806と、フランジ807と、エプロン808と、排水筒809とを備える。浴槽804は、浴槽底部805から浴槽壁部806が立ち上がり、上面が開口し、この開口の縁から外方にフランジ807が張り出し、フランジ807の先端が垂下している。エプロン808は、上端部が浴槽804のフランジ807の垂下部分に嵌まり込み、下端部が床パン8の堰部801に嵌まり込むことにより固定されている。排水筒809は、浴槽底部805に形成され、槽内の排水を排水トラップ810へと流出させる。
【0007】
排水トラップ810は、本体下部に封水溜が形成され、この封水溜に連通するように、浴槽804の排水筒809及び排水主管811と接続する。排水トラップ810は、自らに流れ込んだ排水を排水主管811側に円滑に流すための勾配が設けられているため、ある程度の高さ寸法を必要としている。
【0008】
このような構成を備える浴室ユニットは、集合住宅で用いられる場合、設置面(建築床)から上階までの限定された空間のなかで可能な限り高い天井高を確保することができるよう、沓摺高さが低く抑えられた低床タイプが望まれている。また、低床タイプの浴室ユニットは、出入口の下縁と浴室前の脱衣室床との段差で躓くことがないよう、バリアフリーの目的からも望まれている。集合住宅で用いられる浴室ユニットは、沓摺高さが低ければ低いほど利用性が高まり有利となる。
【0009】
そこで、集合住宅で用いられる浴室ユニットは、床パン8の裏面側の排水トラップ810の収納空間と、高い天井高の確保とのバランスが求められた結果、沓摺高さが200mm以下に設定されるのが一般的となっている。
【0010】
ところで、沓摺高さは、床パン8の裏面側の排水トラップ811の寸法のみで決定されるものではない。沓摺高さは、床パン8の水上側に位置するため、排水トラップ810の収納空間を有する床パン8の水下側との高低差、即ち、床パン8の排水勾配S4との関係が重要となる。
【0011】
床パン8には、排水を排水口に流すための排水勾配S4が付けられている。排水勾配S4は、勾配がぬるい(傾斜が緩い)場合、排水性が悪くなり、床パンに残留する湯水の乾燥が遅くなり、非衛生的になりやすいが、床パンに立つ入浴者が自らの姿勢保持しやすい。これに対して、勾配が早い(傾斜が急な)場合、湯水の排水性が高くなり、床パンに残留する湯水の乾燥が早くなり、衛生的であるが、床パンに立つ入浴者が自らの姿勢を保持し難い。
【0012】
そこで、これらの条件がバランス良く達することができる勾配が求められた結果、床パンの排水勾配は、20/1000乃至30/1000程度の勾配が一般的となっている。即ち、図5及び図6に示す床パン8にあてはめると、排水勾配S4が20/1000乃至30/1000程度の勾配が一般的となっている。
【0013】
従って、沓摺高さは、排水勾配S4を緩勾配とするのみで、200mm以下に抑えることは困難である。そのため、排水トラップ810の高さ寸法如何によっては、沓摺高さが200mmを超えることになる場合がありうる。
【0014】
そこで、従来、床パンの排水口の周辺を部分的に洗い場の水上より高い位置まで隆起させ、この隆起の裏面側に生じた空間に、排水トラップを設置させることにより、排水トラップの高さ寸法如何によっても沓摺高さを200mm以下に抑えることができる床パン構造が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4506274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、以下に挙げる課題を解決することができず、浴槽の深さなどを無視した、ごく限られた理想化された状態でのみ採用することができるにすぎない。
【0017】
第一に、浴槽には、洋式、和式及び和洋折衷式の3種類があり、その中でも住宅用として広く採用されている和式及び和洋折衷式の浴槽は、入浴者が肩まで湯に浸かることができるように450mm以上の深さが必要となる。一方、床パンから浴槽のフランジ頂部までの「跨ぎ高さ」は、高齢者などが跨ぐ際の負担を考慮して450mm以下であることが好ましいとされている。そのため、跨ぎ高さを450mmとしつつ、浴槽の深さを450mm以上とした場合、跨ぎ前と跨ぎ後との高さ位置に差が生じるため、浴槽を跨ごうとする入浴者に過大な負担を掛けるおそれがある。
【0018】
そこで、浴槽の深さは、概ね、450mm乃至500mmの深さとなるように形成されるのが一般的である。即ち、図5及び図6に示す浴槽804にあてはめると、深さD3は、450mm乃至500mm程度であるのが一般的である。また、床パン800の水下から浴槽804のフランジ807の頂部までの跨ぎ高さD4は、450mm以下であるのが一般である。
【0019】
従って、特許文献1に記載された発明のように単に排水口の周辺を隆起させる構成のみでは、例えば、浴槽を跨ぐ際、浴槽周辺の隆起部分で踏ん張る一方の足と、浴槽底部に達した他方の足との高さが異なるため、入浴者に過大な負担を掛けることとなる。
【0020】
第二に、浴室ユニットの排水トラップは、一端が床パンの裏面に吊設され、他端が浴槽の排水フロートと連結して一体をなしている。そのため、排水トラップの取り付けを設置現場で行う場合、作業者の技能に応じて取付精度にばらつきが生じ、取付精度に低い部分から漏水して下階に多大な被害を与えるおそれがある。そこで、浴室ユニットは、排水トラップが床パン側と浴槽側とが一体となった形態で工場出荷されるのが一般的である。一体化された浴室ユニットは、浴槽側から床パン側に湯水が逆流することがないよう、浴槽側のフロートが床パン側の排水トラップより低い位置で構成されている。また、浴室ユニットの床パンは、裏面側にある排水トラップが50mm乃至100mm程度の高さで封水を溜めることができるよう、設置面からある程度の高さをもって設置されている。
【0021】
このように、床パンの裏面側には、排水トラップ以外の配管も収納されているが、特許文献1に記載された発明のように単に排水口周辺のみに収納空間を確保する構造では、これらの配管を収納することを解決することができない。
【0022】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、平面視略矩形をなす床パンは、その外周を構成する四辺のうちの一辺の中程付近に排水トラップへと繋がる排水口が形成され、排水口に向かう水勾配を有する傾斜面が、外周から排水口にかけて複数の領域に仕切られ、これらの領域の水勾配が変化するように形成されていることにより、沓摺高さを所定の高さ以下に収めつつ、床パンの裏面側の収納空間を確保し、更に、床パンの排水性を確保することができる浴室ユニットの床パン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る浴室ユニットの床パン構造は、浴槽とともに設置面に並設され、裏面側に排水トラップが配置された洗い場床を構成する床パンの構造であって、前記床パンは、平面視略矩形をなし、外周を構成する四辺のうちの一辺の中程付近に前記排水トラップに繋がる排水口が形成され、前記一辺以外の三辺それぞれの両端と前記排水口とを頂点とする平面視略三角形をなして前記排水口に向かう水勾配を有する傾斜面が形成され、前記傾斜面は、外周から前記排水口側に所定の幅を有する第一の領域がその内側の領域である第二の領域より急勾配となり、該第二の領域より内側であり且つ前記排水口付近に位置する第三の領域が前記第二の領域より急勾配であり且つ前記第一の領域より緩勾配となるように形成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、平面視略矩形の床パンに、三辺それぞれの両端と排水口とを頂点とする平面視略三角形をなす傾斜面が排水口に向かう水勾配を有して形成されることにより、床パン上に形成される複数の傾斜面が、異なる方向に水勾配をそれぞれ有するように組み合わされてなり、いずれの傾斜面に湯水が落下しようとも、これらの排水が確実に排水口に誘導される。
【0025】
また、各傾斜面が、外周から排水口にかけて複数の領域に仕切られ、これらの領域の水勾配が変化するように形成されていることにより、例えば、排水性を要する領域の水勾配を急勾配とし、それ以外の領域の水勾配を緩勾配とすることで床パン全体の水上側と水下側との高低差を極力抑えることができる。その結果、床パンの水上側となる沓摺高さを200mm以下に抑えつつ、床パンの水下側にある排水トラップの収納空間を確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、床パンの排水性を確保しつつ、床パンの水上側と水下側との高低差を極力抑えることができ、床パン水上側に位置する沓摺高さを所定の高さ以下に収めつつ、床パンの水下側に位置する排水トラップの収納空間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る浴室ユニットの床パン構造を示す平面図である。
【図2】図1の床パンに形成される床面構成突部などを示す平面図である。
【図3】図2の床面構成突起部の周辺を拡大した拡大図であり、(a)は床パンの外周付近を拡大した拡大図、(b)は排水口付近を拡大した拡大図である。
【図4】A−A方向に切断した図1の床パンと、これに連結する浴槽とを示す側面断面図である。
【図5】従来の浴室ユニットの床パン構造を示す平面図である。
【図6】B−B方向に切断した図5の床パンと、これに連結する浴槽とを示す側面断面図である。
【図7】図1の浴室ユニットの床パン構造との比較例を示す床パンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る浴室ユニットの床パン構造を本実施の形態を示す図面に基づいて以下説明する。浴室ユニットは、図4に示すように、少なくとも、洗い場床を構成する床パン1と、床パン1に並設する浴槽2と、床パン1の裏面に吊設された排水トラップ3とを備える。
【0029】
(床パン1について)
床パン1は、図1乃至図4に示すように、洗い場面10と、堰部11、壁嵌込部12及び排水口13と、洗い場面10の裏面から延び出た支持脚14とを備える。床パン1は、支持脚14が設置面に設置することにより、洗い場面10が設置面から一定の高さに位置するように設置されている。
【0030】
洗い場面10は、平面視略矩形をなす床パン1の本体をなし、その外周を構成する四辺のうち、浴槽2側の一辺に堰部11が設けられている。堰部11は、浴槽2との間を水密に閉塞するエプロン23の下端部を受け止めることができるよう洗い場面10から盛り上がっている。
【0031】
また、洗い場面10は、堰部11を有する一辺以外の三辺に壁嵌込部12を備えている。壁嵌込部12は、浴室の壁パネル15の下端を嵌め込むことができるよう凹みをなしている。浴室の壁パネル15のうちのいずれかの壁パネルには、浴室の出入口となるドア16が設けられている。設置面からドア16が取り付けられている壁嵌込部12までの高さは、「沓摺高さ」となり、デファクトスタンダードである200mm以下となるように設置されている。
【0032】
また、洗い場面10は、堰部11を有する一辺の中程付近に排水口13が設けられている。排水口13は、洗い場面10の裏面に吊設される排水トラップ3に繋がっている。洗い場面10は、設置面からの高さが、排水トラップ3の高さ寸法に基づいて設定される。
【0033】
(床パン1の傾斜面について)
洗い場面10は、図1に示すように、壁嵌込部12を有する三辺のそれぞれの両端と排水口13とを頂点とする平面視略三角形をなす傾斜面を複数備える。複数の傾斜面は、それぞれ異なる方向に傾斜するように組み合わされている。
【0034】
図1に示すように、第一の傾斜面185は、浴槽2側を上にした平面視で、左辺188の両端180及び181と排水口13とを頂点とする平面視略三角形をなし、排水口13に向かって水勾配を有している。
【0035】
また、第二の傾斜面186は、下辺189の両端181及び182と排水口13とを頂点とする平面視略三角形をなし、排水口13に向かって水勾配を有している。
【0036】
また、第三の傾斜面187は、右辺190の両端182及び183と排水口13とを頂点とする平面視略三角形をなし、排水口13に向かって水勾配を有している。
【0037】
また、第一の傾斜面185と第二の傾斜面186との間には、第一の谷状稜線191が形成されている。また、第二の傾斜面186と第三の傾斜面187との間には、第二の谷状稜線192が形成されている。
【0038】
(床パン1の領域について)
洗い場面10は、図1に示すように、外周から排水口13に向かって、排水性の異なる領域毎に仕切られている。
【0039】
第一の領域は、壁嵌込部12を備える三辺に沿って平面視略コの字状に形成され、その三辺(外周)から排水口13側に53mm程度の幅を有し、その幅方向に沿って排水勾配S1を有する。排水勾配S1は、後述するように洗い場面10の中で最も急勾配をなす一方、勾配の長さが最も短い。
【0040】
第二の領域は、第一の領域の内側に710mm程度の幅を有して形成され、第一の領域との間には、第三の谷状稜線193と第五の谷状稜線196とで挟まれた中間領域が存在する。また、第二の領域は、第一の領域に囲まれ且つ排水口13を囲むように形成され、第一の領域の排水勾配S1に連続する排水勾配S2を有する。排水勾配S2は、後述するように洗い場面10の中で最も緩勾配をなす一方、勾配の長さが最も長い。なお、第二の領域は、入浴者の洗い場となる一般的な領域となる。
【0041】
第三の領域は、第二の領域より内側であり且つ排水口13付近に200mm程度の幅を有して形成され、第二の領域との境界に山状稜線194が形成され、排水口13との境界に第四の谷状稜線195が形成されている。また、第三の領域は、第一の領域及び第二の領域に囲まれ且つ排水口13に隣接するように形成され、第一の領域の排水勾配S1及び第二の領域の排水勾配S2に連続する排水勾配S3を有する。排水勾配S3は、後述するように、排水勾配S2より急勾配であり且つ排水勾配S1より緩勾配である。また、排水勾配S2の長さは、排水勾配S2より短く且つ排水勾配S1より長い。なお、第三の領域は、主に第二の領域に落下した排水を排水口13へと導くための領域となる。
【0042】
(床パン1の表面処理について)
第一の領域、第二の領域及び第三の領域は、その表面処理の違いにより排水性が異なっている。
【0043】
第一の領域は、図2及び図3(a)に示すように、中間領域を含めた表面にサンドブラストなどの表面処理がなされるとともに、外周から第三の谷状稜線193までの間の表面に梨地の凹凸が形成されている。梨地の凹凸は、床パン1の成型時に同時に成型されることが好ましい。また、第一の領域には、ドア16を有する壁パネル15が取り付けられるため、後述するエンボスパターン部17が形成されていない。
【0044】
第二の領域及び第三の領域は、図2及び図3(a)に示すように、その表面に、排水性及び乾燥性を高めることが可能なエンボスパターン部17が形成されている。エンボスパターン部17は、格子状に形成された排水誘導凹部と、この排水誘導凹部に仕切られた床面構成突部とが連続的に形成されている。エンボスパターン部17は、排水誘導凹部が洗い場面10に落下した排水を排水口13に向けて円滑に誘導するともに、床面構成突部が排水誘導凹部に残存する排水を水の表面張力により引き上げ、これにより、誘導されずに洗い場面10に残存する排水の乾燥時間を早める(特開2010−37886号公報を参照)。
【0045】
また、第四の谷状稜線195から排水口13までの間の領域には、その表面に、サンドブラストなどの表面処理がなされ、梨地の凹凸が形成されている。梨地の凹凸は、床パン1の成型時に同時に成型されることが好ましい。
【0046】
(床パン1の排水勾配について)
床パン1の排水勾配S1、S2及びS3は、床パン10の水上側と水下側との高低差が、従来の一般的な床パンの高低差より抑えるように設定される。床パン10の水上側と水下側との高低差を抑えることにより、床パンの水上側に位置する沓摺高さを200mm以下とする場合であっても、床パンの水下側に位置する排水トラップ810の収納空間を十分確保することができる。
【0047】
また、床パン1の排水勾配S1、S2及びS3は、排水性が異なる、第一の領域、第二の領域及び第三の領域に応じて変化する。排水勾配S1及びS3は、排水性を要する領域を急勾配とし、排水勾配S2は、それ以外の領域を緩勾配としている。その結果、床パン1全体の水上側と水下側との高低差が極力抑えられる。
【0048】
まず、排水勾配S2は、第二の領域が従来の一般的な排水勾配(即ち、20/1000乃至30/1000)より緩勾配となるように設定される。第二の領域は、従来の一般的な排水勾配より緩勾配となっているが、領域全てに亘りエンボスパターン部17が形成されているので、排水の水路が途切れ難く、排水が排水口13に向かって誘導され易いので、緩勾配となっている。
【0049】
次に、排水勾配S1は、第一の領域が排水勾配S2及び排水勾配S3より急勾配となるように設定される。第一の領域には、ドア16を有する壁パネル15が取り付けられるため、エンボスパターン部17が形成されていないが、ドア16からの漏水を防ぐために排水を排水口13に確実に導く必要がある。そのため、第一の領域は、排水勾配S2及び排水勾配S3より急勾配となっている。
【0050】
排水勾配S3は、第三の領域が排水勾配S2より急勾配であり且つ排水勾配S1より緩勾配となるように設定される。第三の領域は、エンボスパターン部17が途切れる第四の谷状稜線195で水の表面張力が生じるため、排水勾配S2程度の緩勾配では排水が排水口13に到達せず、第四の谷状稜線195付近に残存し、乾燥が遅くなって入浴者に不快感を与えることとなる。そのため、第三の領域は、排水勾配S2より急勾配となっている。但し、第三の領域は、排水勾配S3の長さが排水勾配S1の長さより長いため、排水勾配S1より急勾配とすると、床パン1全体の高低差が大きくなるおそれがある。そのため、第三の領域は、排水勾配S1より緩勾配となっている。
【0051】
なお、上述の条件を満たすことを前提として、排水勾配S1は、30/1000乃至60/1000の勾配であることが好ましいが、より好ましくは45/1000乃至50/1000の勾配である。
また、排水勾配S2は、8/1000乃至10/1000の勾配であることが好ましい。また、排水勾配S2は、成型時の床パン1の反りや組立て時の誤差を考慮すると、特に、10/1000の勾配であることがより好ましい。
また、排水勾配S3は、15/1000乃至30/1000の勾配であることが好ましいが、より好ましくは15/1000乃至20/1000の勾配である。
これらの値は、本願発明者の鋭意努力により判明した。
【0052】
(浴槽2について)
浴槽2は、図4に示すように、浴槽底部20と、浴槽側壁21と、フランジ22と、エプロン23と、浴槽パン24と、排水筒25と、支持脚26とを備える。浴槽2は、本体がガラス繊維強化プラスチックで形成され、本体の浴槽底部20が平面視略矩形をなし、この底部20の四辺から浴槽側壁21が立ち上がり、上面が開口している。また、浴槽2は、上面開口の縁から外方にフランジ22が張り出し、フランジ22の先端が垂下している。
【0053】
エプロン23は、浴槽2側を見て略矩形をなす板状部材であり、浴槽1と同様、ガラス繊維強化プラスチックで形成されている。エプロン23は、上端部が浴槽2のフランジ22の垂下部分に嵌まり込むとともに、下端部が床パン1の堰部11に嵌まり込むことにより固定され、床パン1と浴槽2との間を水密に閉塞する。
【0054】
浴槽パン24は、平面視略矩形をなす板状部材であり、板状部材の上面に浴槽2が載置される。また、浴槽パン24は、その裏面から延び出た支持脚26が設置面に設置することにより、設置面から所定の高さとなるように配置される。ここで所定の高さとは、図4に示すように、浴槽パン24に載置される浴槽2の浴槽底部20と、床パン1の水下である排水口13とが同じ高さ位置となることをいう。
【0055】
なお、浴槽2は、洗い場面10の排水口13周辺(水下側)からフランジ22の頂部までの跨ぎ高さD2が450mm以下となることが好ましい。また、浴槽2は、深さD1が跨ぎ高さD2と略同じであることが好ましい。その結果、跨ぎ前と跨ぎ後との高さ位置に差が無くなるため、跨ぐ際の負担が小さくなる。
【0056】
(排水トラップ3について)
排水トラップ3は、本体下部中央に所定高さの封水溜30が形成され、この封水溜30に連通するように、後述する浴槽パン24からの排水を集める排水筒25が接続されている。また、排水トラップ3は、封水溜30の上方側と連通するように排水口13が形成されている。また、排水トラップ3は、排水口13を介して洗い場面10を流れる排水が流れ込む場合、又は、排水筒25を介して浴槽2の排水が流れ込む場合、内部の水位が上昇し、排水主管31へと送水される。また、排水トラップ3は、浴槽2の排水筒25に設けられたフロートより高い位置に設けられ、浴槽2側から排水が逆流することがないようにされている。
【0057】
排水トラップ3は、床パン1の洗い場面10の裏面に吊設されている。排水トラップ3は、背景技術の欄に記載するように、小型化に限界が有り、一定の大きさを有する。そのため、洗い場面10は、設置面からの高さ位置が、排水トラップ3の高さ寸法に応じて設定され、併せて、沓摺高さについても設定される。従って、洗い場面10の低床化には、限界がある。そこで、洗い場面10の勾配を排水が流れる必要最小限の緩勾配とすることにより、床パン1の水上側と水下側との高低差を抑え、洗い場床の水上側の沓摺高さが200mm以下に設定する場合であっても、洗い場床の水下側の高さが極端に低くなることがなく、排水トラップ3の収納空間を確保することができる。言い換えれば、排水トラップ3の収納空間を確保すべく洗い場床の水下側の高さが多少高くなる場合であっても、洗い場床の水上側の高さが200mm以下に収まるようにできる。
【0058】
最後に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0059】
(実施例1)
実施例1は、上述した本発明に係る実施の形態の一例であり、洗い場面10の排水勾配について、排水勾配S1が47/1000の勾配であり、排水勾配S2が10/1000の勾配であり、排水勾配S3が18/1000の勾配となるように設定され、排水勾配S1の長さが53mmであり、排水勾配S2の長さが710mmであり、排水勾配S3の長さが200mmとなるように設定されることにより、床パン1全体の水上側と水下側との高低差が13mmとなるように設定されている。
【0060】
(比較例1)
比較例1は、背景技術の欄にて例示した従来の浴室ユニットの床パン構造であり、図5及び図6に示す床パン構造である。洗い場面800の排水勾配について、排水勾配S4が22/1000の勾配であり、排水勾配S4の長さが830mmとなるように設定されることにより、床パン8全体の水上側と水下側との高低差が18mmとなるように設定されている。
【0061】
(比較例2)
比較例2は、図7に示す床パン構造であり、上述した本発明に係る実施の形態のうち、第二の領域と第三の領域とが仕切られていない構造である。洗い場面900の排水勾配について、第一の領域に相当する領域の排水勾配S5が47/1000の勾配であり、第二の領域及び第三の領域に相当する領域の排水勾配S6が12/1000の勾配となるように設定され、排水勾配S5の長さが53mmであり、排水勾配S6の長さが910mmとなるように設定されることにより、床パン9全体の水上側と水下側との高低差が13mmとなるように設定されている。
【0062】
以下の説明では、実施例1と比較例1及び比較例2とを比較しつつ、「浴槽跨ぎの安全性」、「ユニットバス設置性」及び「床パン排水性」という切り口から相対評価を行い、その評価を以下の表1に纏める。
【0063】
【表1】

【0064】
以上のとおり、「浴槽跨ぎの安全性」については、全て「良好」という結果となった。
【0065】
次に、「ユニットバス設置性」について、実施例1及び比較例2は、水上/水下の高低差が13mmに設定されているため「良好」という結果である。これに対して、比較例1は、高低差が実施例1及び比較例2より大きいため、沓摺高さが200mmを超える結果となり、デファクトスタンダードである200mmの階上設置対応の建築物に対応することができず「不良」という結果となった。
【0066】
次に、「床パン排水性」について、実施例1は、排水勾配S2が従来の一般的な排水勾配より緩勾配であるが、排水勾配S1及び排水勾配S3が急勾配であるため「良好」という結果である。また、比較例1は、排水勾配S4が従来の一般的な勾配であるため「良好」という結果である。これに対して、比較例2は、排水勾配S6が従来の一般的な勾配より緩勾配であるため「不良」という結果となった。
【0067】
このように、「浴槽跨ぎの安全性」、「ユニットバス設置性」及び「床パン排水性」の全てについて「良好」の結果を有するのは、実施例1であることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
1 床パン
10 洗い場面
11 堰部
12 壁嵌込部
13 排水口
14 支持脚
15 壁パネル
16 ドア
17 エンボスパターン部
180〜184 頂点
185 第一の傾斜面
186 第二の傾斜面
187 第三の傾斜面
188〜190 辺
191 第一の谷状稜線
192 第二の谷状稜線
193 第三の谷状稜線
194 山状稜線
195 第四の谷状稜線
196 第五の谷状稜線
2 浴槽
20 浴槽底部
21 浴槽側壁
22 フランジ
23 エプロン
24 浴槽パン
25 排水筒
26 支持脚
3 排水トラップ
30 封水溜
31 排水主管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽とともに設置面に並設され、裏面側に排水トラップが配置された洗い場床を構成する床パンの構造であって、
前記床パンは、平面視略矩形をなし、外周を構成する四辺のうちの一辺の中程付近に前記排水トラップに繋がる排水口が形成され、前記一辺以外の三辺それぞれの両端と前記排水口とを頂点とする平面視略三角形をなして前記排水口に向かう水勾配を有する傾斜面が形成され、
前記傾斜面は、外周から前記排水口側に所定の幅を有する第一の領域がその内側の領域である第二の領域より急勾配となり、該第二の領域より内側であり且つ前記排水口付近に位置する第三の領域が前記第二の領域より急勾配であり且つ前記第一の領域より緩勾配となるように形成されていることを特徴とする浴室ユニットの床パン構造。
【請求項2】
前記第一の領域の水勾配が30/1000乃至60/1000の範囲であり、前記第二の領域の水勾配が8/1000乃至10/1000の範囲であり、第三の領域の水勾配が15/1000乃至30/1000の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の浴室ユニットの床パン構造。
【請求項3】
前記第一の領域の水勾配の長さが第二の領域の水勾配の長さより短く、第三の領域の水勾配の長さが第二の領域の水勾配の長さより短く且つ第一の領域の水勾配の長さより長くなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浴室ユニットの床パン構造。
【請求項4】
前記床パンは、設置面から外周までの沓摺高さが200mm以下となるように設置され、前記排水口周辺から前記浴槽のフランジ頂部までの跨ぎ高さが450mm以下となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の浴室ユニットの床パン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113031(P2013−113031A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261464(P2011−261464)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(501362906)積水ホームテクノ株式会社 (89)
【Fターム(参考)】