説明

浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルム

【課題】優れた耐温水白化性を有する浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】アクリル系熱可塑性重合体(A)70.5〜94.5質量%と、重量平均粒子径が0.08〜0.18μmであるゴム含有重合体(B)5.5〜29.5質量%とを含有し、厚みが25〜300μmであり、及び80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以下である、浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムに関し、本発明は、より詳細には、各種基材とラミネート加工等により一体化する表面の保護層の形成に好適であって、意匠の発現に優れ、長期の温水に耐えうる浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムの透明性、柔軟性、加工性等の優れた特長を活かし、特定のアクリル樹脂フィルムを表面に積層することで、深み感のある外観を有する浴室内装材の被覆用フィルムが使用されている。
【0003】
また、該アクリル樹脂フィルムには、直接温水に接する面以外の面に印刷を施し、これを各種基材に積層させることによって、基材表面の意匠性を高めることができる。しかしながら、浴室内装材の被覆用のアクリル樹脂フィルムは、温水に接するため、優れた耐温水白化性が要求されてきた。このような要求に対してアクリル樹脂フィルム中に残存するカルシウム量を特定の範囲に制御する方法(例えば、特許文献1参照)、またはアクリル樹脂フィルム中の水溶性物質を200ppm以下とする方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法によって得られるアクリル樹脂フィルムでも、近年の更なる耐温水白化性の要求には、耐えうるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−191804号公報
【特許文献2】特開2003−277528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、より優れた耐温水白化性を有する浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1つの態様によると、アクリル系熱可塑性重合体(A)70.5〜94.5質量%と、重量平均粒子径が0.08〜0.18μmであるゴム含有重合体(B)5.5〜29.5質量%とを含有し、厚みが25〜300μmであり、及び80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以下である、浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
初期の透明性が良好であり、長期耐温水性が良好である本発明の浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムは、そのフィルム被覆された浴室内装材の意匠(色、デザイン等)の変化を抑制することができる。
【0009】
このような浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムは、特に温水に接する機会の多い浴室の内装壁材、浴槽蓋、台所、洗面所およびトイレ、加湿器、食器洗浄器等の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明するが、これは本発明の好ましい態様を説明するものであって、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではない。
以下に、本発明において好ましいアクリル樹脂フィルムについて説明する。
【0011】
<アクリル樹脂フィルム>
本発明のアクリル樹脂フィルムは、アクリル系熱可塑性重合体(A)70.5〜94.5質量%と、ゴム含有重合体(B)5.5〜29.5質量%を含有する。アクリル系熱可塑性重合体(A)の含有量が、70.5質量%以上の場合には、長期の耐温水白化性が良好であり、94.5質量%以下の場合には、製膜性が良好となる。
【0012】
<アクリル系熱可塑性重合体(A)>
アクリル系熱可塑性重合体(A)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの単位を50〜100質量%と、これと共重合可能な他のビニル単量体に由来する単位0〜50質量%(上記のアルキルメタクリレートと、共重合可能な他のビニル単量体との合計100質量%)と、からなるホモポリマーあるいはコポリマーである。
【0013】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレートが最も好ましい。
【0014】
アクリル系熱可塑性重合体(A)がコポリマーである場合、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等が挙げられる。
【0015】
上記のアルキルメタクリレート、アルキルアクリレート、及びこれら以外の単量体は、必要に応じてそれらを2種以上用いることができる。
【0016】
アクリル系熱可塑性重合体(A)は、熱変形温度が90℃以上であるのが好ましい。この熱変形温度が低いと、得られるフィルムの耐温水性が劣り、実用上好ましくない。この熱変形温度を有するアクリル系熱可塑性重合体は、単量体の種類やその割合、連鎖移動剤量などを適宜選定することによって得ることができる。共重合する他の単量体の種類にもよるが、単量体としては、メチルメタクリレートを92質量%以上用いることが好ましい。なお、「熱変形温度」はASTM D648に基づいて測定される値である。
【0017】
アクリル系熱可塑性重合体(A)は、先に述べた単量体成分を、通常公知の懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法等の方法により重合させることにより製造することができる。アクリル系熱可塑性重合体(A)0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定した還元粘度ηSP/Cが0.075リットル/g以下であることが好ましい。還元粘度ηSP/Cが0.075リットル/g以下であると、製膜性が良好となる。還元粘度を所定の範囲内にするには、具体的には、アクリル系熱可塑性重合体(A)を得るための単量体成分中に連鎖移動剤を使用するとよい。連鎖移動剤としては、従来より知られる各種のものが使用できるが、特にメルカプタン類が好ましい。連鎖移動剤の使用量としては、単量体の種類および組成により適宜決めれば良い。一般的に、連鎖移動剤を多く使用すると還元粘度の値は小さくなる。
【0018】
アクリル系熱可塑性重合体(A)としては、たとえば、三菱レイヨン(株)製ダイヤナールBRシリーズ、三菱レイヨン(株)製アクリペットとして工業的に入手可能であるものが使用できる。
【0019】
<ゴム含有重合体(B)>
本発明で使用するゴム含有重合体(B)は、1つの態様において、アルキルアクリレートを50質量%以上含有する弾性重合体の存在下に、アルキルメタクリレートを50質量%以上含有する単量体又は単量体混合物を重合して得られる重合体である。
【0020】
また、ゴム含有重合体(B)中の弾性重合体の使用量は、70質量%以下が好ましい。弾性重合体の存在下に重合される単量体又は単量体混合物は、1段で重合されても、2段あるいは3段で重合されても良い。
【0021】
ゴム含有重合体(B)中の弾性重合体としては、アルキルアクリレート50質量%以上からなる直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはn−ブチルアクリレートである。これらは単独で、または二種以上を混合して使用することができる。中でも、n−ブチルアクリレートが好ましい。弾性重合体を構成する単量体の一部として、多官能性単量体を用いることが好ましい。多官能性単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。多官能性単量体の使用量は、全単量体中0.1〜10質量%が好ましい。
【0022】
好ましいゴム含有重合体(B)の具体例として、下記に示す重合体(I)、(II)、(III)を挙げることができる。
【0023】
尚、本発明において「ゴム含有重合体」とは、重合体を構成する単量体のホモポリマー又は単量体混合物のコポリマーのガラス転移温度(Tg)が25℃未満であるものを指す。Tgは、ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup、Interscience、1989)]に記載されている値を用いてFOXの式から算出することができる。
【0024】
本発明に用いるゴム含有重合体(B)の具体例としての重合体(I)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる単量体(I−A)を重合して得られたゴム重合体の存在下に、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも構成成分としてなる単量体(I−B)を重合して得られた重合体である。ここで、それぞれの単量体(I−A)、(I−B)を重合する際に、一括で重合することもできるし、2段階以上に分けて重合することもできる。
【0025】
また、本発明に用いるゴム含有重合体(B)の具体例としての重合体(II)は、(1)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる単量体(II−A)を重合して得られた重合体の存在下に、(2)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる、単量体(II−A)とは異なる組成の単量体を(II−B)を重合してゴム重合体を得、その存在下に、(3)炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも構成成分としてなる単量体(II−C)を重合して得られる重合体である。
【0026】
さらに、本発明に用いるゴム含有重合体(B)の具体例としての重合体(III)は、(1)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる単量体(III−A)を重合して重合体を得、その存在下に、(2)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる単量体(III−B)を重合してゴム重合体を得、その存在下に、(3)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも構成成分としてなる単量体(III−C)を重合し、さらに(4)炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも構成成分としてなる単量体(III−D)を重合して得られた重合体である。
【0027】
本発明に用いられるゴム含有重合体(B)において使用される、アルキルメタクリレート50質量部以上を含有する単量体又は単量体混合物の量は、アクリル樹脂フィルムの透明性の観点からゴム含有重合体(B)100質量部に対し、40質量部以上であることが好ましい。40質量部未満の場合、ゴム含有重合体(B)の分散性が低下し、得られるフィルムの透明性が低下する傾向にある。より好ましくは80質量部以上であり、上限はフィルムの製膜性、ラミネート性の観点から900質量部以下である。
【0028】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートは、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはn−ブチルアクリレートである。
【0029】
炭素数1〜4のアルキルメタクリレートは、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルメタクリレートである。
【0030】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数1〜4のアルキルメタクリレートとともに、必要に応じて、これと共重合可能なビニル単量体、多官能性単量体を使用することもできる。
【0031】
共重合可能なビニル単量体としては、例えば、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その好ましい具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートが挙げられる。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。グラフト交叉剤とは、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリル、またはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはフマル酸のアクリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。グラフト交叉剤においては、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基、またはクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0033】
また、特に限定されないが、アルキルメタクリレート50質量%以上を含有する単量体又は単量体混合物の重合時に連鎖移動剤を使用し、得られる重合体の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独、または二種以上を混合して使用できる。連鎖移動剤の含有量は、上記単量体又は単量体混合物100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。より好ましくは0.2質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上である。
【0034】
<ゴム含有重合体(B)の製造方法>
ゴム含有重合体(B)の製造法としては逐次重合法が最も適した重合法である。製造は、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、それぞれの重合体の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0035】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系または、ノニオン系の界面活性剤が使用でき、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸;オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。このうち、特に昨今問題となっている内分泌かく乱化学物質からの生態系保全の点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0036】
上記界面活性剤の好ましい具体例としては、三洋化成工業社製のNC−718、東邦化学工業社製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王社製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407等が挙げられる。
【0037】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体を投入する方法、単量体中に界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体を投入する方法がゴム含有重合体(B)を得る方法としては好ましい。
【0038】
また、ゴム含有重合体(B)を構成する第一段目の重合体を与える単量体を、水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置;膜乳化装置等が挙げられる。
【0039】
また、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でもよく、特に水中に単量体の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0040】
重合開始剤としては、公知のものが使用できる。その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、または双方に添加する方法を採用できる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。この中でさらにレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0041】
ゴム含有重合体(B)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスからゴム含有重合体を回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体(B)を回収する方法としては特に限定されないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0042】
<ゴム含有重合体(B)の重量平均粒子径>
本発明に用いるゴム含有重合体(B)の重量平均粒子径は、0.08〜0.18μmである。浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムの耐温水性の観点から、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.15μm以下である。0.08μm以下では、アクリル樹脂フィルムの柔軟性が損なわれるおそれがある。なお、後述するとおり、ゴム含有重合体(B)の粒子径は動的光散乱法によって測定される。
【0043】
<ゴム含有重合体(B)の使用量>
本発明において、ゴム含有重合体(B)は、浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルムの耐温水性を損なわない範囲で使用することができる。フィルム製造工程、スリット工程、ラミネート性の観点から、ゴム含有重合体(B)は5.5質量%以上の量で含まれ、より好ましくは10質量%以上の量で含まれる。また、ゴム含有重合体(B)の量は29.5質量%以下である。ゴム含有重合体(B)の量が30質量%以上であると、長期の耐温水性は低下する傾向がある。
【0044】
<ゴム含有重合体(B)の回収方法>
ゴム含有重合体(B)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスからゴム含有重合体を回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体を回収する方法としては特に限定されないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられる。このような回収方法により、ゴム含有重合体は粉状で回収される。
【0045】
<紫外線吸収剤>
本発明のアクリル樹脂フィルムは、必要に応じて、紫外線吸収剤などの種々の添加剤を含んでよい。添加する紫外線吸収剤は特に制限されないが、本発明において使用可能な紫外線吸収剤の種類を列挙すれば、以下の通りである。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの化合物およびこれらの化合物を含有する組成物の市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の商品名:チヌビン234、チヌビン1577、アデカ(株)製の商品名:アデカスタブLA−31、アデカスタブLA−32、アデカスタブLA−46、BASF社製、Uvinul3035が挙げられる。
【0046】
紫外線吸収剤の分子量は、300以上のものが好ましく、より好ましくは400以上である。分子量が300以上の紫外線吸収剤を使用すると、押出し工程、製膜工程内を減圧する場合における紫外線吸収剤の揮発を抑制でき、また、このような揮発による製膜工程での各種ロールへの付着を防止できる。また、分子量が高い紫外線吸収剤ほど、一般に、アクリル樹脂フィルムからの長期的なブリードアウトが起こりにくく、長期にわたり外観を持続する点でも好ましい。
【0047】
アクリル樹脂フィルムに添加する紫外線吸収剤の量は、アクリル系熱可塑系重合体(A)とゴム含有重合体(B)の合計100質量部対して、好ましくは0〜2質量部である。より好ましくは0.2〜1.8質量部である。
【0048】
上記紫外線吸収剤の量が0.1質量部より少ない場合、アクリル樹脂フィルムによって保護された物品の耐候性が乏しく劣化が速い。一方、充分な耐候性を持たせるために、上記紫外線吸収剤の量が5重量部より多い場合、長期の耐温水性が低下し、また、製膜工程でのブリードによる外観の品位を損たり、ラミネート時のラミネートロールへの汚れが発生するという問題がある。
【0049】
<他の添加剤>
アクリル樹脂フィルムには、特に日光が直接当たる部材の保護の点では、必要に応じて、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤と併用してヒンダードアミン系ラジカル補足剤等の光安定剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらのヒンダードアミン系ラジカル補足剤を含有する組成物の市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の商品名:チマソーブ119FL、2020FDL、944FD、944LD、チヌビン123S、765、770、三共(株)製の商品名:サノールLS−770、LS−765、LS−292、アデカ(株)製の商品名:アデカスタブLA−57、LA−62、LA−67、LA−68等を挙げることができる。
また、カビによる意匠低下を防止するために抗菌剤、防カビ剤などを含むこともできる。
【0050】
<加工助剤>
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを成形する際に、製膜安定化の点から、加工助剤を添加することもできる。例えば、加工助剤としては、メチルメタクリレート50〜100質量%と、これと共重合可能な他のビニル系単量体0〜50質量%とを重合して得られ、その還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.2〜2L/gであるアクリル系重合体が挙げられる。好ましい還元粘度は0.2〜1.2L/gであり、特に好ましい還元粘度は0.2〜0.8L/gである。加工助剤は、三菱レイヨン(株)製メタブレンPとして商業的に入手可能である。
【0051】
加工助剤の配合量は、アクリル系熱可塑系重合体(A)とゴム含有重合体(B)の合計100質量部に対して0〜2.0質量部が好ましい。配合量が2.0質量部を超えると、アクリル樹脂フィルムの長期の耐温水性が低下する傾向にある。更に好ましい配合量は0.5〜1.5質量部である。
【0052】
<コンパウンド>
加工助剤などの配合剤の添加方法としては、本発明のアクリル樹脂フィルムを成形する際に、成形機にアクリル系熱可塑系重合体(A)とゴム含有重合体(B)とを含む組成物とともに配合物を供給する方法と、予めアクリル系熱可塑系重合体(A)に配合剤を添加した混合物と、ゴム含有重合体(B)とを各種混練機にて混練混合する方法がある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0053】
<アクリル樹脂フィルムの製造方法>
本発明のアクリル樹脂フィルムは、後述のとおり、樹脂成形品などと積層することで多層樹脂成形品として用いることができる。本発明の多層樹脂成形品の表層に用いるアクリル樹脂フィルムを製造する方法は、特に限定されるものではない。該製造方法としては、例えば、公知の溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられる。これらのうち、経済性の点でTダイ法が最も好ましい。
【0054】
浴室内装材、特に、内装壁材に積層するための本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、フィルム物性および加工性の点で25〜300μmであるのが好ましい。また、40〜150μmであると、適度な剛性となるため、ラミネート性、二次加工性等が良好となり、更に製膜性が安定してフィルムの製造が容易となる。
【0055】
<透明性及び耐温水白化性>
本発明のアクリル樹脂フィルムのJIS K 7136(ISO14782)に準拠して測定した曇価の値は3%以下であることが好ましい。曇価の値は、好ましくは1%以下である。
【0056】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムおいては、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以下であることが必要である。このようなフィルムを得るためには、アクリル系熱可塑性重合体(A)の種類、ゴム含有重合体(B)の粒径及び含有量、添加剤の種類及び配合量等をコントロールすることにより達成することができる。例えば、先述した通り、熱変形温度が低いアクリル系熱可塑性重合体を用いた場合、分子量が高い(還元粘度が大きい)アクリル系熱可塑性重合体を用いた場合、加工助剤の使用量が多い場合、ゴム含有重合体の粒子径が大きい場合、ゴム含有重合体の使用量が多い場合等に、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%を越える場合がある。
従って、熱変形温度が高いアクリル系熱可塑性重合体、分子量が低い(還元粘度が小さい)アクリル系熱可塑性重合体等を使用する、特定に粒径範囲のゴム含有重合体(B)を使用する等適宜コントロールして、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以下であるアクリル樹脂フィルムを得ることができる。
【0057】
<積層方法>
本発明のアクリル樹脂フィルムは、例えば、共押出Tダイ法、共押出ラミネーション法等の共押出法を利用し積層することができる。また、アクリル樹脂フィルムを、ドライラミネーション、熱ラミネーション、フィルムラミネーション法等の公知の方法を適宜利用することにより、成形樹脂に積層することができる。もちろん、これらの方法以外にも本発明に適用可能な方法であれば採用することができる。なかでも、装置が簡単で連続的に安定した品質の積層シートを容易に得ることができる共押出法、フィルムラミネーション法が好ましく、特にフィルムラミネーション法が好ましい。
【0058】
<積層樹脂>
本発明で使用する成形樹脂としては、種類は特に制限されず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。そのような成形樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン系共重合体)系樹脂、AS(アクリロニトリル/スチレン系共重合体)系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等の汎用の熱可塑性または熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。更に、ガラス繊維や無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ等)等の補強材、ゴム成分等の改質剤を添加した複合樹脂や各種変性樹脂を使用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。尚、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、参考例中の略号は以下のとおりである。
メチルメタクリレート MMA
メチルアクリレート MA
n−ブチルアクリレート n−BA
スチレン ST
アリルメタクリレート AMA
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート 1,3BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド t−BH
クメンハイドロパーオキサイド CHP
n−オクチルメルカプタン n−OM
アゾビスイソブチロニトリル AIBN
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム EDTA
乳化剤(1):モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム
商品名;フォスファノールRS−610NA、東邦化学(株)製]
また、実施例および比較例において調製したゴム含有重合体(B)の評価、アクリルフィルムの諸物性の測定は、以下の試験法により実施した。
【0060】
<評価・測定方法>
(1)ゴム含有重合体(B)の重量平均粒子径
乳化重合にて得られたゴム含有重合体(B)のポリマーラテックスを大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700を用い、動的光散乱法で測定して求めた。
【0061】
(2)ゴム含有重合体(B)のゲル含有率
秤量したゴム含有重合体(B)をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、この抽出処理液を遠心分離により分別した。次いで、得られた固形分を乾燥後、質量測定(抽出後質量)し、以下の式にて求めた。
ゲル含有率(%)=(抽出前質量(g)−抽出後質量(g))/抽出前質量(g)
【0062】
(3)アクリル樹脂フィルムの曇価(ヘーズ)測定
ヘーズコンピューター(スガ試験機(株) 製、型式:HGM−2DP)を用いて、JIS K7136(ISO 14782)に準じて、曇価を測定した。
【0063】
(4)アクリル系熱可塑性重合体(A)の熱変形温度の測定
熱変形温度(HDT):各ペレットを射出成形にてASTM D648に基づく熱変形温度測定試片に成形し、60℃で4時間アニール後、高荷重(1.8MPa)でASTM D648に従って測定した。
【0064】
(5)アクリル樹脂フィルムの耐温水性試験
アクリル樹脂フィルムそのままを80℃のイオン交換水に浸漬し、240時間後に温水から取り出して、フィルム表面に付着した水滴を取り除き、フィルムを25℃/50%RHに24時間保持したのち、JIS K7136(ISO 14782)に従って曇価を測定する。
【0065】
(6)製膜性
○:フィルム原料樹脂の溶融時に適度の伸びを生じ、製膜性が良好である。
△:フィルムの膜厚精度が劣り、フィルムの表面平滑性が悪い。
×:フィルムが脆く、フィルム製膜時にフィルム切れを発生する。
【0066】
(実施例1)
(1)<アクリル系熱可塑性重合体(A)の製造(a−1)>
<d)アクリル系熱可塑性重合体(a−1)の製造>
(i)分散安定剤であるアニオン系高分子化合物水溶液(A1)の製造
攪拌機を備えた重合装置に、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム58質量部、メタクリル酸カリウム水溶液(メタクリル酸カリウム分30質量%)31質量部、メタクリル酸メチル11質量部からなる単量体混合物と、脱イオン水900質量部とを加えて攪拌溶解させた。その後、窒素雰囲気下で混合物を攪拌しながら60℃まで昇温し、6時間攪拌しつつ60℃で保持させてアニオン系高分子化合物水溶液を得た。この際、温度が50℃に到達した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を添加し、更に別に計量したメタクリル酸メチル11質量部を75分間かけて、上記の反応系に連続的に滴下した。
上記した製造方法により得られたアニオン系高分子化合物水溶液を、(A1)とする。
【0067】
<(ii)分散安定剤であるアニオン系高分子化合物水溶液(A2)の製造>
攪拌機を備えた重合装置に、水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム分17.1質量%)68質量部、メタクリル酸メチル32質量部を加えてなる混合物を攪拌する。ケン化反応終了後、混合物の温度を80℃まで昇温し、4時間攪拌しつつ80℃で保持させてアニオン系高分子化合物水溶液を得た。この際、温度が72℃に到達した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を添加した。その後、攪拌機を備えた重合装置内に脱イオン水1000質量部を分割投入すると同時に、攪拌機を備えた容器にアニオン系高分子化合物水溶液を移液・回収した。上記した製造方法により得られたアニオン系高分子化合物水溶液を、(A2)とする。
【0068】
<(iii)懸濁重合方法>
攪拌機を備えた内容積10リットルのセパラブルフラスコに、脱イオン水6000mlを入れ、分散安定剤として上記(i)で得られたアニオン系高分子化合物水溶液(A1)4g、上記(ii)で得られたアニオン系高分子化合物水溶液(A2)1g、分散安定助剤として硫酸ナトリウム9gを加え攪拌・溶解させた。また、攪拌機を備えた別容器に用意した、MMA2940g、MA60gの単量体混合物に、重合開始剤としてAIBN3g、連鎖移動剤としてn−OM6.6g、離型剤としてS100A6gを加え、攪拌・溶解させた。この単量体混合物を前記攪拌機に備えた内容積10Lのセパラブルフラスコに投入し、窒素置換しながら攪拌機の回転数300rpmで15分間攪拌した。その後、80℃に加温して重合を開始させ、重合発熱ピーク終了後、95℃で60分間の熱処理を行い、重合を完結させた。
【0069】
この懸濁重合方法で得られた重合体含有水溶液を脱水、水洗、乾燥した後、粉体状のアクリル系熱可塑性重合体(a−1)を回収した。このアクリル系熱可塑性重合体(a−1)を0.1gクロロホルム100mlに溶解し、25℃で還元粘度を測定した結果、0.06リットル/gであった。また、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)は105℃であった。
【0070】
(2)<ゴム含有重合体(I)の調製>
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水310部を入れ、80℃に昇温した。そして、以下に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、以下に示す原料(ロ)を連続的に添加した後、さらに120分間重合を行い、ゴム重合体のラテックスを得た。
続いて、このラテックスに脱イオン水10部およびソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す原料(ハ)を100分間にわたって連続的に添加した後、さらに80℃で60分間保持して重合を完結させた。
【0071】
重合後に測定したゴム含有重合体(I)の平均粒子径は0.12μmであった。
得られた共重合体ラテックスに対し、酢酸カルシウムを用いて凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥してゴム含有重合体(I)を得た。
(イ)
炭酸ナトリウム 0.05部
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.6部
硫酸第一鉄 0.0002部
EDTA 0.0006部
乳化剤(1) 1.0部
【0072】
(ロ)
n−BA 81.0部
ST 19.0部
AMA 1.0部
t−BH 0.25部
【0073】
(ハ)
MMA 57.0部
MA 3.0部
n−OM 0.2部
t−BH 0.1部
乳化剤(1) 0.5部
ろ過は、濾材としてステンレススチール(SUS)製のメッシュを取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した。これを3%食塩水溶液に添加し、塩析脱水後、水洗、乾燥を行い粉体状のゴム含有重合体(I)を得た。
【0074】
(3)アクリル樹脂フィルムの製造:
ゴム含有重合体(I)10部に、アクリル樹脂としてアクリル系熱可塑性重合体(a−1)90部を加えた後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。次に、得られた混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。
【0075】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、この乾燥ペレットを、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)に供給して、350μm厚みのアクリルフィルムを作製した。その際の条件は、シリンダー温度200〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度95℃であった。
上記の方法で製造したアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後のヘーズついての評価結果を下記の表1に示す。
【0076】
(実施例2)
ゴム含有重合体(I)を16部とし、アクリル系熱可塑性重合体(a−1)を84部とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後のヘーズついての評価結果を下記の表1に示す。
【0077】
(実施例3)
(1)ゴム含有重合体(II)の調製
冷却器付き反応容器内にイオン交換水195部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部に以下に示す(イ)を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、以下に示す(ロ)からなる第1の単量体混合物(Tgは−13℃)を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させてゴム重合体を得た。
続いて、反応容器内に、(ハ)からなる第2の単量体混合物(Tgは−40℃)を90分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させて架橋弾性重合体を含むゴム重合体を得た。
続いて、反応容器内に、(ニ)からなる第3の単量体混合物を30分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させて重合体を得た。
次いで、反応容器内に、(ホ)からなる第4の単量体混合物(Tg94℃)を130分かけて滴下した後、60分間反応を継続させて、ゴム重合体(II)のラテックスを得た。ここで、重合後測定した質量平均粒子径は0.09μmであった。
【0078】
(イ)
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.10部
硫酸第一鉄 0.0002部
EDTA 0.0006部
【0079】
(ロ)
MMA 2.3部
n−BA 2.13部
ST 0.37部
1,3−BD 0.2部
CHP 0.01部
乳化剤(1) 1.3部
【0080】
(ハ)
n−BA 24.54部
ST 4.26部
BD 1.2部
AMA 0.225部
【0081】
(ニ)
MMA 6部
n−BA 3.28部
ST 0.72部
AMA 0.15部
CHP 0.02部
【0082】
(ホ)
MMA 52.25部
n−BA 2.26部
ST 0.49部
n−OM 0.193部
t−BH 0.055部
【0083】
得られたゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスを、濾材にステンレススチール(SUS)製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(II)を得た。ゴム含有重合体(II)のゲル含有率は72%であった。
【0084】
ゴム含有重合体(II)を16部とし、アクリル系熱可塑性重合体(a−1)を84部とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0085】
(実施例4)
紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(株式会社アデカ製、アデカスタブLA−31RG)を表1に示す質量部を添加した以外は、実施例2と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0086】
(比較例1)
(1)ゴム含有重合体(III)の調製:
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器に脱イオン水320部を入れ、80℃に昇温し、以下に示す(イ)を添加し、撹拌を行いながら以下に示す原料(ロ)(重合体(III−A)の原料)の混合物の1/10を仕込み、15分間保持した。その後、残りの原料(ロ)を水に対する単量体混合物の増加率8%/時間で連続的に添加した。その後1時間保持して、重合体(III−A)のラテックスを得た。
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を加え、15分間保持し、窒素雰囲気下に80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ハ)を水に対する単量体混合物の増加率4%/時間で連続的に添加した。その後2時間保持して、ゴム重合体の重合を行うことにより、ゴム重合体のラテックスを得た。
このラテックスに、引き続いてソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を加え、15分間保持し、窒素雰囲気下に80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ニ)を水に対する単量体混合物の増加率10%/時間で連続的に添加した。その後1時間保持して、重合を行うことにより、ゴム含有重合体(III)のラテックスを得た。ゴム含有重合体(III)の平均粒子径は0.28μmであった。
このゴム含有重合体(III)のラテックスに対して、酢酸カルシウムを用いて凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過し、水洗後乾燥してゴム含有重合体(III)を得た。
【0087】
(イ)
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.4部
硫酸第一鉄 0.00004部
EDTA 0.00012部
【0088】
(ロ)
MMA 22.0部
n−BA 15.0部
ST 3.0部
AMA 0.4部
1,3BD 0.14部
t−BH 0.18部
乳化剤(1) 1.0部
【0089】
(ハ)
n−BA 49.5部
ST 10.5部
AMA 1.05部
1,3BD 0.15部
CHP 0.17部
乳化剤(1) 0.96部
【0090】
(ニ)
MMA 57.0部
MA 3.0部
n−OM 0.18部
t−BH 0.1部
【0091】
得られたゴム含有重合体(III)の重合体ラテックスを、濾材としてステンレススチール(SUS)製のメッシュ(平均目開き150μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3部を含有する水溶液中に投入して塩析させ、水洗し、分離回収後、乾燥して粉体状のゴム含有重合体(III)を得た。ゴム含有重合体(III)のゲル含有率は89%であった。
【0092】
(2)アクリル樹脂フィルムの製造:
次に、実施例1のゴム含有重合体(I)からゴム含有重合体(III)10部に変更した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0093】
(比較例2)
ゴム含有重合体(I)とアクリル系熱可塑性重合体(a−1)を表1に示す割合で配合した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0094】
(比較例3)
ゴム含有重合体(I)と下記に示すアクリル系熱可塑性重合体(a−2)を表1に示す割合で配合した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
得られたフィルムは、押出し製膜の際、フィルムの幅方向の厚みムラがあり、表面平滑性が劣った。このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0095】
<e)アクリル系熱可塑性重合体(a−2)の製造>
実施例1で用いたd)のアクリル系熱可塑性重合体(a−1)の製造方法のうち、MMA2820g、MA180gに変更し、連鎖移動剤としてのn−OM3.0gにした以外は、同様の懸濁重合方法で実施した。このアクリル系熱可塑性重合体(a−2)を0.1g、クロロホルム100mlに溶解し、25℃で還元粘度を測定した結果、0.09リットル/gであった。また、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)は96℃であった。
【0096】
(比較例4)
ゴム含有重合体(I)と下記に示すアクリル系熱可塑性重合体(a−3)を表1に示す割合で配合した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0097】
<F)アクリル系熱可塑性重合体(a−3)の製造>
実施例1で用いたd)のアクリル系熱可塑性重合体(a−1)の製造方法のうち、MMA2700g、MA300gに変更した以外は、同様の懸濁重合方法で実施した。このアクリル系熱可塑性重合体(a−3)を0.1g、クロロホルム100mlに溶解し、25℃で還元粘度を測定した結果、0.06リットル/gであった。また、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)は89℃であった。
【0098】
(比較例5)
添加剤として高分子量のアクリル系熱可塑性重合体としてメタブレンP(三菱レイヨン社製)用い、表1に示す割合でコンパウンドした以外は、実施例4と同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0099】
(比較例6)
実施例4で用いた紫外線吸収剤(D−2)と抗酸化剤(D−3)としてイルガノックス1076(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製)を添加剤として用い、表1に示す割合でコンパウンドした以外は、同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0100】
(比較例7)
ゴム含有重合体(II)とアクリル系熱可塑性重合体(a−1)を表1に示す割合でコンパウンドした以外は、同様の方法でアクリル樹脂フィルムを得た。
上記の実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
このアクリル樹脂フィルムの耐温水性について、製膜性を含め、温水試験前後の曇価ついての評価結果を下記の表1に示す。
【0101】
比較例1のようにゴム粒子径が0.2μm以上あるゴム含有重合体を用いた場合、温水試験前のフィルムの曇価も実施例と比較し高く、ゴム含有重合体が占める割合が低くても温水性試験後の曇価が3%以上と高かった。このことは、浴室内装壁材の表皮に用いた場合、意匠を損ねる可能性があることがわかる。
【0102】
比較例2については、アクリル系熱可塑性重合体(A)とゴム含有重合体(B)の割合が本発明の要件を満たさず、比較例1と同様にアクリル樹脂フィルムの温水性試験後の曇価が3%以上と高く、比較例1と同様にアクリル樹脂フィルムの温水性試験後の曇価が3%以上と高く、浴室内装壁材の表皮に用いた場合、意匠を損ねる可能性があることがわかる。比較例3では、分子量が高い(還元粘度が高い)アクリル系熱可塑性重合体を用いたために、製膜性が悪く、また80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以上となっている。また、比較例4では、熱変形温度の低いアクリル系熱可塑性重合体を用いたために、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以上となっている。比較例5では、加工助剤を使用しているために、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以上となっている。比較例6では、紫外線吸収剤及び抗酸化剤を用いたために、80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以上となっている。
【0103】
比較例7のようにゴム重合体の添加量が少ない場合、製膜時に薄膜化する際、フィルムの端部から切れる頻度が多く、フィルムの生産性に問題があった。
これら比較例のアクリル樹脂フィルムを用いたアクリル樹脂フィルム積層体では、上述のような不具合を生じ、その工業的利用価値が低いものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上詳細に説明したように、本発明のアクリル樹脂フィルムは、初期の曇価が低く、長期の耐温水性に優れるため、本発明からなるアクリル樹脂フィルム、及び、これらからなる積層体は、品位を長時間維持することができる、特に浴室内装材、たとえば、浴室内装壁材の用途に適している。また、同等の外観を従来のクリア塗装により得る場合と比較して、塗装ムラによる意匠低下がなく、施工が簡便であり、低コストで製品を得ることが可能になる。
【0105】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系熱可塑性重合体(A)70.5〜94.5質量%と、重量平均粒子径が0.08〜0.18μmであるゴム含有重合体(B)5.5〜29.5質量%とを含有し、厚みが25〜300μmであり、及び80℃の温水に240時間浸漬した後の曇価が3%以下である、浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
ゴム含有重合体(B)が、ゴム含有重合体100質量部の存在下に、アルキルメタクリレート50質量%以上を含有する単量体又は単量体混合物40〜900質量部を重合して得られた重合体である、請求項1に記載の浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
アクリル系熱可塑性重合体(A)0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定した還元粘度ηSP/Cが0.075リットル/g以下で、かつ、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が90℃以上である、請求項1または2に記載の浴室内装材の被覆用アクリル樹脂フィルム。

【公開番号】特開2010−138279(P2010−138279A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315759(P2008−315759)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】