説明

浴室音響装置

【課題】可聴周波数帯域のうちでも低音域の再生を十分にし、また浴室床面下方に共鳴室を設けることで、可聴周波数帯域の低音域から高音域までの十分な大きさの音の再現ができる音響装置の提供を目的とする。
【解決手段】浴室に設置した防水パン2の下面に振動板6を配設し、共鳴室11を形成している。そして、該振動板6にコイルバネなどの振動伝達部材8を固定し、振動伝達部材8に振動出力用のアクチュエータ10を連結している。これにより、振動アクチュエータ10の振動は、振動伝達部材8を介して振動板6へ伝達され、振動伝達部材8の弾性作用により、振動周波数を可聴周波数帯域のうちでも低音の音域を効果的に増大させることができる。また振動の振幅を増加させることもできる。そして、更に共鳴室11において前記音が共鳴して拡大され、浴室使用者が十分に体感できる音の大きさとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動出力用アクチュエータとして超磁歪アクチュエータを用いた浴室の音響構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動出力用アクチュエータとしては、特許文献1及び特許文献2に超磁歪アクチュエータが開示されている。超磁歪材料は、磁界中で磁界方向に1500〜2000ppmもの大変位を生じ、その発生応力が大きく、応答速度も速く、低電圧で駆動することができるなどの利点があるため、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するアクチュエータとして近年注目されている。特許文献1及び特許文献2に記載された超磁歪アクチュエータは、超磁歪アクチュエータの振動を音声に変換し、スピーカとして利用するようにしたものである。ところが、これらの超磁歪アクチュエータを用いる技術にあっては、低音乃至中音域の再生が不十分であった。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に記載された技術の音域を改善する技術として、特許文献3及び特許文献4に記載された技術がある。
特許文献3に記載された技術は、振動板に圧電体を貼り付けて圧電振動子とし、ケースに取り付けた支柱又は支持枠などの振動伝達部材を介して前記圧電振動子を収容するようにしている。そして、圧電振動子を弾性部材を介して付勢したり、圧電振動子に錘を取り付けるようにしている。圧電体へ電圧を印加して振動させ、この振動を振動伝達部材を介してケースへ伝達することにより、ケースを振動させて音を発生させている。その場合に、前記弾性部材及び錘は、振動周波数を逓減させると共に、振動の振幅を増大させる働きがある。
【0004】
一方、特許文献4に記載された技術は、ケースに取り付けた振動伝達部材に圧電振動板の中央部を固定し、圧電振動板の外周縁に弾性部材を介して錘を取り付けている。圧電振動板の振動は、振動伝達部材を介してケースへ伝達され、その場合に、前記弾性部材及び錘により振動が増幅され、振動自体を体感し得るのに十分な大きさの振動を発生させるようにしている。なお、この場合の振動は、可聴周波数帯域における音声発生源としての振動とは異なる性質のものである。
【特許文献1】特開平10−145892号公報
【特許文献2】特開平11−266496号公報
【特許文献3】特開平7−213997号公報
【特許文献4】特開2000−233157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献3及び特許文献4に記載された圧電振動子の技術は、携帯電話に用いられる振動発生装置としての機能を重視するものであり、振動振幅の増幅効果は十分であるが、音声発生源としては不十分であった。すなわち、振動周波数を逓減させる効果はあっても、可聴周波数帯域のうちでも低音域の音を発生させた上で、可聴周波数帯域の全領域において満足できるだけの音の大きさを得ることはできなかった。
【0006】
本発明は特許文献1〜4の技術の前記問題点に鑑みこれを改良除去したものであって、可聴周波数帯域のうちでも低音域の再生を十分にし、また浴室床面下方に共鳴室を設けることで、可聴周波数帯域の低音域から高音域までの十分な大きさの音の再現ができる音響装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項1の手段は、浴室に設置した共鳴室と、共鳴室の一部を形成する振動板と、音声発生源となる振動出力用アクチュエータと、少なくとも一端を振動板に固定した振幅増幅用及び低音発生用の振動伝達部材とからなる浴室音響装置であって、前記振動出力用アクチュエータの出力振動を前記振動伝達部材を介して前記振動板へ伝達させることを特徴とする浴室音響装置である。
【0008】
本発明が採用した請求項2の手段は、前記振動伝達部材はバネ又は弦である請求項1に記載の浴室音響装置である。
【0009】
本発明が採用した請求項3の手段は、前記共鳴室を、洗場床下に配置した振動板と洗場床材との間に形成した請求項1又は2に記載の浴室音響装置である。
【0010】
本発明が採用した請求項4の手段は、前記共鳴室を、浴槽設置用の防水パンと、浴槽と、浴槽エプロンとで囲まれた空間で形成した請求項1又は2に記載の浴室音響装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明にあっては、浴室に設置した共鳴室に、該共鳴室の一部を形成する振動板を配設している。そして、該振動板にコイルバネ、ピアノ線などの振動伝達部材の少なくとも一端側を固定し、振動伝達部材に振動出力用のアクチュエータの出力振動を伝達させている。振動アクチュエータは、音声発生源となる振動を発生させるものであり、その周波数は高音の周波数帯域が強調され勝ちである。ところが、この振動アクチュエータを振動伝達部材に固定し、振動アクチュエータの出力振動を振動伝達部材を介して振動板へ伝達するようにすることにより、その周波数を可聴周波数帯域のうちでも低音の音域を効果的に増大させることができ、また振動の振幅を増加させることもできる。そして、更に共鳴室において前記音が共鳴して拡大され、浴室使用者が十分に音楽等を楽しめる程度の音質及び音量を備えた音を提供することが可能となる。
【0012】
請求項2の発明にあっては、振動伝達部材をバネ又は弦としている。バネとしてはコイルバネや板バネなどが振動アクチュエータの振動を伝達するのに適しており、また弦としては、ピアノ線やギターの弦のようにある程度の固さのある線状部材を張力をかけて張ったものが適している。
【0013】
請求項3の発明にあっては、前記共鳴室を、洗場床下に配置した振動板と洗場床材との間に形成し、振動出力用アクチュエータの出力振動を振幅増幅用及び低音発生用の振動伝達部材を介して共鳴室の振動板へ伝達するようにしている。このような構成の共鳴室は、洗場防水パンを利用することで容易に構成することが可能である。
【0014】
請求項4の発明にあっては、共鳴室を、浴槽設置用の防水パンと、浴槽と、浴槽エプロンとで囲まれた空間で形成するようにしている。浴槽施設の遊んでいる空間を有効に利用するようにしたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の構成を、図面に示す実施の形態に基づいて説明すると次の通りである。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る浴室全体の縦断面側面図である。同図に示す如く、この実施の形態の浴室は、据え置き型の浴槽1と、洗場防水パン2とを有し、浴槽1と洗場防水パン2との間にはエプロン3が配設されている。洗場防水パン2は、繊維強化合成樹脂(FRP)やステンレス鋼板などからなり、下面側には補強用のリブ4が縦横に突設されている。リブ4の下面側には、四角筒状の軽量形鋼などで成形されたフレーム5を介して振動板6が取り付けられている。振動板6は、木質、金属若しくは合成樹脂等の単一の素材から成形した単板、又はこれらの単板の少なくとも二枚を貼り合わせた積層板等が用いられ、耐水処理を必要に応じて施してある。
【0016】
また振動板6の下面側には、固定具7を介してコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8の一端側が固定されている。なお、図面ではコイルバネの場合を例示している。振動伝達部材8の他端側は、浴槽を支持する脚9に固定されており、振動伝達部材8の途中には超磁歪素子を用いた振動出力用アクチュエータ10の出力ロッド10Aが取り付けられている。振動伝達部材8は、図2に示すように、バネ定数の異なる二つのコイルバネ8A,8Bとすることもでき、この場合は二つのコイルバネ8A,8Bへ出力ロッド10Aの先端を連結すればよい。
【0017】
このように、洗場防水パン2の下面側に設けたリブ4にフレーム5を介して振動板6を取り付けることにより、洗場防水パン2と振動板6との間に共鳴室11を形成することが可能である。
【0018】
振動出力用アクチュエータ10へ音楽やニュース、ラジオ放送などの音情報を出力することにより、その音情報に応じた周波数の振動をする。ところが、この振動周波数は可聴周波数帯域のうちでも高音域の部分である。このような高音域の振動出力用アクチュエータ10の振動をコイルバネなどの振動伝達部材8へ伝達することにより、当該振動伝達部材により周波数の逓減が行われ、また振動の拡大が行われる。逓減された周波数は、可聴周波数帯域のうち、低音域のものとなる。そして、この振動伝達部材8の振動は、固定具7を介して振動板6へ伝達され、共鳴室11で共鳴する。共鳴は、共鳴室11を構成する振動板6及び洗場防水パン2などの振動系の固有振動数に近づくに連れて急激に振幅が増加するものであり、共鳴した音は洗場防水パン2上の入浴利用者にとって容易に体感することのできる大きさのものとなる。
【0019】
すなわち、振動出力用アクチュエータ10の振動をコイルバネなどの振動伝達部材8を介して振動板6へ伝達し、共鳴室11で共鳴させて浴室内へ伝達することにより、可聴周波数帯域の低音域の部分と、高音域の部分との全領域の音域の音を発音させてその振幅を拡大して行うことができる。
【0020】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る浴室の縦断面図である。同図に示す如く、この実施の形態にあっては、振動板6の下面側と建物躯体の床面Fとの間にコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8を配設し、その途中に振動出力用アクチュエータ10の出力ロッド10Aを取り付けている。なお、同図において、符号12は、床面Fへ振動伝達部材8の一端側を固定するための係止部材である。その他の構成並びにコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8と、共鳴室11の作用効果については、前記第1の実施の形態の場合と同じである。
【0021】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る浴室の縦断面図である。同図に示す如く、この実施の形態にあっては、共鳴室11の中の洗場防水パン2と振動板6との間にコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8を配設している。振動伝達部材8の途中には、振動出力用アクチュエータ6の出力ロッド10Aを取り付けている。その他の構成並びにコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8と、共鳴室11の作用効果については、前記第1の実施の形態の場合と同じである。
【0022】
図5は、本発明の第4の実施の形態に係る浴室の縦断面図である。同図に示す如く、この実施の形態にあっては、防水パン13が洗場設置面13Aと浴槽設置面13Bとを有しており、浴槽設置面13Bに載置型の浴槽14を設置している。そして、防水パン13の浴槽設置面13Bの下面側に、固定具7を介してコイルバネや板バネなどのバネ弾性部材又はピアノ線やギターの弦などからなる振動伝達部材8の一端側を固定し、他端側を浴槽14の支持脚9に固定している。また振動伝達部材8の途中に、超磁歪素子を用いた振動出力用アクチュエータ10の出力ロッド10Aを取り付けている。
更に、この実施の形態では、防水パン13の浴槽設置面13Bと、浴槽13と、浴槽エプロン15とで囲まれた領域を共鳴室16としている。
【0023】
次に、このように構成された浴室音響装置にあっては、振動出力用アクチュエータ10へ音楽やニュース、ラジオ放送などの音情報を出力すると、その音情報に応じた周波数の振動をする。振動出力用アクチュエータ10の振動は、コイルバネなどの振動伝達部材8へ伝達され、周波数の逓減と振幅の拡大が行われる。逓減された周波数は、可聴周波数帯域のうち、低音域のものとなる。そして、この振動伝達部材8の振動は、固定具7を介して防水パン13の浴槽設置面13Bへ伝達され、共鳴室16で共鳴する。共鳴は、共鳴室16を構成する浴槽設置面13B及び浴槽エプロン15などの振動系の固有振動数に近づくに連れて急激に振幅が増加するものであり、共鳴した音は洗場設置面13Aや浴槽14内にいる利用者にとって容易に体感することのできる大きさのものとなる。
【0024】
図6は、本発明の第5の実施の形態に係る浴室の縦断面図である。同図に示す如く、この実施の形態にあっては、図1に示す第1の実施の形態における共鳴室11の一部を導波管17を介して壁面パネル18の上部側に設けた開口19を通じて浴室20内へ連通させている。その他の構成については、前記第1の実施の形態の場合と同じである。これにより、防水パン2の下面側に設けた共鳴室11から洗場設置面を通じて浴室20内へ伝達される音と、共鳴室11から導波管17を介して開口19へ伝達され、浴室20内へ伝達される音とにより、臨場感のある立体的な音を体感させることが可能である。その他の基本的な作用効果については、前記第1の実施の形成の場合と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る浴室音響装置の縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る振動出力用アクチュエータと振動伝達部材との取付関係を示す概略正面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る浴室音響装置の縦断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る浴室音響装置の縦断面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る浴室音響装置の縦断面図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る浴室音響装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…浴槽、2…防水パン、3…浴槽エプロン、4…防水パンのリブ、5…フレーム、6…振動板、7…固定具、8…コイルバネなどの振動伝達部材、10…振動出力用アクチュエータ、11…共鳴室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室に設置した共鳴室と、共鳴室の一部を形成する振動板と、音声発生源となる振動出力用アクチュエータと、少なくとも一端を振動板に固定した振幅増幅用及び低音発生用の振動伝達部材とからなる浴室音響装置であって、前記振動出力用アクチュエータの出力振動を前記振動伝達部材を介して前記振動板へ伝達させることを特徴とする浴室音響装置。
【請求項2】
前記振動伝達部材はバネ又は弦である請求項1に記載の浴室音響装置。
【請求項3】
前記共鳴室を、洗場床下に配置した振動板と洗場床材との間に形成した請求項1又は2に記載の浴室音響装置。
【請求項4】
前記共鳴室を、浴槽設置用の防水パンと、浴槽と、浴槽エプロンとで囲まれた空間で形成した請求項1又は2に記載の浴室音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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